女性用の下着かぶり見せつけた男性 6/2逮捕、6/3釈放、6/23不起訴

女性用の下着かぶり見せつけた男性 6/2逮捕、6/3釈放。6/23不起訴

https://www.bengo4.com/c_18/n_18911/
●「人」に対しておこなわれることが要件になっている
──女性用の下着をかぶって路上に出ることは犯罪なのでしょうか。面識のない人にその姿を見せたことがダメなのでしょうか。

今回のケースは、千葉県の迷惑防止条例3条の2第3号(*)の「卑わいな言動」の疑いで検挙されたものと思われます。

「卑わいな言動」とは、当該行為の相手方が必ずしも気付いている必要はなく、公共の場所または公共の乗物において、当該行為を一般人の立場から見た場合に、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言動または動作(最高裁平成20年11月10日第三小法廷決定・刑集62巻10号2853頁)と定義されています。

条例では「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる」「人に対して」おこなわれることが要件になっています。

したがって、痴漢や盗撮と同じ程度に人に接近しておこなわれることが必要と思われるので、単に女性用の下着をかぶって路上を歩いただけでは「卑わいな言動」に該当しないと考えます。特定人に見せつけるとか、追い回すような行為が想定されていると思います。

https://www.chibanippo.co.jp/articles/1449619
路上で下着かぶり徘徊容疑 51歳逮捕「動画視聴増やすため」 市川署
2025年6月2日 18:50 | 有料記事
 千葉県警市川署は2日、女性用の下着を頭にかぶり路上で面識のない女性に見せたとして、県迷惑防止条例違反(卑わいな言動)の疑い

https://www.chibanippo.co.jp/articles/1459224
下着かぶり徘徊容疑の男性不起訴 千葉地検
2025.06.24 千葉日報 社会 (全316字) 
 千葉地検は23日、女性用の下着を頭にかぶり路上で面識のない女性に見せたとして県迷惑防止条例違反(卑わいな言動)の疑いで逮捕された動画配信者の男性(51)=松戸市=を不起訴処分とした。「事件に関する一切の事情を考慮した」としている。

 市川署によると、男性は市川市の路上で5月19日午後3時15分ごろ、女性に対し、白い体操着と赤いブルマーを着用して、女性用下着を頭にかぶった姿を見せた疑いで逮捕された。男性は容疑を認め「動画への視聴者を増やすためにやった」と話していた。

児童ポルノ製造罪(7条4項)の訴因に、訴因変更で、準強制わいせつ罪が追加された事例(大津地裁R5.10.26)

児童ポルノ製造罪(7条4項)の訴因に、訴因変更で、準強制わいせつ罪が追加された事例(大津地裁R5.10.26)
 軽い児童ポルノ罪だと思って、製造罪で捜査を受けて、自白して、検察官請求証拠に同意したら、準強制わいせつ罪に訴因変更されてしまったということですよね

 大分地裁h23.5.11は、強要罪で逮捕されて強制わいせつ罪で起訴された事例ですが、併合罪とされていました。

大分地判平成23年5月11日
強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
判   決
主   文
省略
理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第3 A子(当時14歳)に強いてわいせつな行為をしようと企て,平成○年×月12日午後3時53分頃から同月14日午前6時40分頃までの間,55回にわたり,前記被告人方において,被告人の携帯電話機ないしゲームサイト「G」のメール機能を利用して,同女の携帯電話機及び「G」上の同女が閲覧できるメール受信箱に「送らんとマジでB中にいけんように画像ばらまくよ」「B中学生の全員に画像送るから」「マンコを指でひろげたやつを撮れ」「乳首つまんだやつ撮れ」「まだ終わりやないよ」「胸なめよんやつ撮れ」「メールせんならゲームオーバー」「今日中に送らなかったら明日から家の外でれないね」「マンコの中がみえるように指でつまんでひろげろ」などと記載した電子メールを送信し,その頃,同女方において,同女をして,その電子メールを閲覧させて脅迫し,別表3記載のとおり,同月12日午後9時2分頃から同月14日午前6時50分頃までの間,21回にわたり,同女方において,同女をして乳房を露出させたり,陰部に指を挿入させるなどした姿態をとらせた上,その姿態を同女の携帯電話機で撮影させてその画像データを被告人の携帯電話機に電子メール添付ファイルとして送信させ,もって強いてわいせつな行為をした
第4 別表3記載のとおり,同年×月12日午後9時2分頃から同月14日午前6時50分頃までの間,21回にわたり,上記A子(当時14歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女をして,その乳房及び陰部を露出した姿態をとらせ,これを同女の携帯電話機付属のカメラ機能により静止画として撮影させて,その画像データを被告人の携帯電話機に電子メール添付ファイルとして送信させ,いずれもその頃,前記被告人方において,同画像データを被告人の携帯電話機のメモリー記録媒体内に記憶させて蔵置し,もって,衣類の全部又は一部を付けていない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである電磁的記録に係る記録媒体を製造した
ものである。

(判示第3,第4の事実に関する弁護人の主張に対する判断)
1 弁護人は,判示第3の強制わいせつ罪については,強要罪が成立するにすぎず,また,その強要罪と判示第4の児童ポルノ製造罪とは観念的競合として科刑上一罪の関係にある旨主張する。
 確かに,弁護人が指摘するように,携帯電話機を用いた児童ポルノ製造罪について,強要罪と併せて起訴され,これを観念的競合として科刑上一罪の関係にあるとしたと思われる下級審裁判例が複数存在している。
2 まず,本件で強制わいせつ罪が成立するかどうか検討する。
 本件の事案は,被告人がメールにより送信した脅迫,指示の回数が55回と多く,被害者からこれに応えてメールに添付してわいせつな映像を送付した回数も21回と多い点で,弁護人が指摘する下級審裁判例の事案と異なっているようにも思われる。
 すなわち,本件において,被害者が終わりにしようという趣旨のメールを被告人に送ってメールアドレスを変更した後,被告人は,ゲームサイトのメール機能を使って被害者を脅迫し,さらに,携帯電話機のメール機能を使って,「上脱いで撮れ」「パンツも脱いで撮れ」「下から撮れ」「マンコ指で開いてみせろ」「指で開けって」「開いて中がみえるやつな」「ちゃんと入れちょんのがわかるようにうつせ」「マンコを指でひろげたやつを撮れ」「指2本」「胸寄せて撮れ」「乳首つまんだやつ撮れ」「胸なめよんやつとれ」などと順次わいせつな内容の指示をしつつ,わいせつな内容の添付ファイルが届くと,これを確認しつつ,次の指示を出す形で,被告人の具体的な指示に従って被害者をしてわいせつな行為を次々とさせている。
 そうすると,本件では,被告人のわいせつな内容の具体的指示に基づいて,被害者が継続的にわいせつな行為を強いられており,わいせつ性や被害者の性的自由が侵害された程度が大きいと認められる。よって,本件を強制わいせつ罪として起訴した点が不当とまではいえず,本件では,強要罪にとどまらず,強制わいせつ罪が成立するといえる。
3 次に,罪数の点について検討する。
 本件においては,強要罪にとどまらず,強制わいせつ罪が成立するところ,強制わいせつ罪の核心部分は,被告人が被害者をメールで脅迫して,強いてわいせつな行為をさせた点である。これに対し,児童ポルノ製造罪の核心部分は,被告人の携帯電話機の記録媒体に児童ポルノを製造したことである。
 本件において,強制わいせつ行為と,児童ポルノ製造行為は,経緯としてはかなり重なる点があるけれども,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質,保護法益等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,両罪は観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあると考えられる。
4 前記弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
罰    条
第1,第2,第4 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項,1項,2条3項3号(それぞれ包括一罪)
第3       刑法176条前段(包括一罪)
刑種の選択
第1,第2,第4  いずれも懲役刑を選択
併合罪加重    刑法45条前段,47条本文,10条
         (最も重い第3の罪の刑に法定の加重)

観念的競合説は最近の傾向で
大阪 高裁 R3.7.14
大阪 高裁 R4.1.20
札幌 高裁 R5.1.19
札幌 高裁 R6.3.5

高松高裁r7.2.13でも製造罪と不同意わいせつ罪(176条3項)は観念的競合になっています。

令和7年2月13日
第3 法令適用の誤りの主張について
 1 原判示第1の事実について
   論旨は、原判示第1の所為のうち、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、その他の不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪及び児童ポルノ製造罪と併合罪の関係にあるにもかかわらず、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり、仮に併合罪関係にはないとしても、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、不同意わいせつを目的にその手段として行われたものであり、不同意わいせつ罪と牽連犯の関係にあるから、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
   そこで検討すると、原判示第1の不同意わいせつ罪は、当時30歳の被告人が、SNS上に性交相手を募集する内容の投稿をしていた当時14歳のAに対し、ダイレクトメッセージを送って自らがその相手となることを持ち掛けて待合せ場所を決めるなどした後、Aの陰茎を露出して写真を撮影してその画像を被告人に送ることを要求するメッセージを送信し、Aにこれを了承させ、その約3時間後に、Aに陰茎を露出させてそれを撮影させ、画像データを被告人に送信させたことにより行われたものである。このように原判示第1は、刑法176条3項のわいせつな行為としてAの行為を利用したものであるが、被告人は、前記のような状況にあったAに対し、自らの勃起した陰茎の写真を送るなどしながらAにも勃起した陰茎の写真を撮影して送信するよう求めるなどの性的意味合いの強い具体的な要求をし、すぐさまAに了承させ、Aに要求どおりの行為をさせており、このような事実関係の下において、本件の被告人のAに対する要求行為は、Aの性的自由の侵害を生じさせる客観的な危険性が認められるものであり、不同意わいせつ罪の実行行為に当たるとみることができる。
   そうすると、原判示第1の不同意わいせつ罪における実行行為に当たる、Aに対し陰茎を露出した姿態をとってその写真を撮影して送信することを要求した被告人の行為と、16歳未満の者に対する映像送信要求罪の実行行為に当たる要求行為は、同時に行われ、重なり合うものであり、それぞれにおける被告人の動態は社会的見解上1個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁、最高裁平成19年(あ)第619号同21年10月21日第一小法廷決定・刑集63巻8号1070頁参照)、原判示第1の16歳未満の者に対する映像送信要求罪と、不同意わいせつ罪及びこれと観念的競合の関係にある他の2罪は、刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるというべきである。原判決第1の事実について法令適用の誤りをいう論旨は理由がない。

判例ID】28313641
【裁判年月日等】令和5年10月26日/大津地方裁判所
【事件名】児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反(変更後の訴因:準強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反)、準強制性交等被告事件
【裁判官】谷口真紀 西脇真由子 山口美和
【出典】 D1-Law.com判例体系
第1〔訴因変更後の令和5年6月5日付け起訴状記載の公訴事実関係〕
  A(氏名は別紙記載のとおり。以下「A」という。当時13歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年7月22日頃から同年8月12日頃までの間、東京都内又はその周辺において、複数の架空人を装い、Aに対し、SNSアプリケーションを用いて多数のメッセージを送信して、Aの写真が人身売買の情報を掲載するインターネット上のサイトに掲載されており、Aが人身売買を逃れるには、架空人の要求に従う必要がある旨申し向け、Aにその旨誤信及び畏怖させ、その要求を拒絶することができない抗拒不能の状態にあることに乗じてAにわいせつな行為をしようと考え、同日、東京都内又はその周辺において、Aに対し、乳房及び性器を露出した姿態を撮影し、被告人が使用する携帯電話機に同静止画を送信するよう要求し、同日、滋賀県内のA方において、Aに乳房及び性器を露出させる姿態をとらせ、これをA使用の撮影機能付き携帯電話機で撮影させた上、同画像データ2点を、アプリケーションソフト「B」を使用して同携帯電話機から被告人が使用する携帯電話機に送信させ、その頃、同データ2点をそれぞれB株式会社が管理する日本国内設置の電磁的記録媒体であるサーバコンピューター内に記録して保存し、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をするとともに、衣服の全部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
(法令の適用)
罰条
 判示第1の所為のうち
  準強制わいせつの点 令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法178条1項、176条前段
  児童ポルノ製造の点 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号
・・・
科刑上一罪の処理
 判示第1の罪 刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、重い準強制わいせつ罪の刑で処断)

訴因変更前のr6.6.5起訴状
起訴状
下記被告事件につき公訴を提起する
  A(氏名は別紙記載のとおり。以下「A」という。当時13歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年同年8月12日 2回にわたり、
滋賀県内の児童において、Aに乳房及び性器を露出させる姿態をとらせ、
これをA使用の撮影機能付き携帯電話機で撮影させた上、
同画像データ2点を、アプリケーションソフト「line」を使用して同携帯電話機から被告人が使用する携帯電話機に送信させ、
その頃、同データ2点をそれぞれline株式会社が管理する日本国内設置の電磁的記録媒体であるサーバコンピューター内に記録して保存し、もって衣服の全部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造したものである
罪名罰条
児童ポルノ・児童買春法違反
同法7条4項 2条3項3号

訴因変更後の公訴事実
  A(氏名は別紙記載のとおり。以下「A」という。当時13歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年7月22日頃から同年8月12日頃までの間、東京都内又はその周辺において、複数の架空人を装い、Aに対し、SNSアプリケーションを用いて多数のメッセージを送信して、Aの写真が人身売買の情報を掲載するインターネット上のサイトに掲載されており、Aが人身売買を逃れるには、架空人の要求に従う必要がある旨申し向け、Aにその旨誤信及び畏怖させ、その要求を拒絶することができない抗拒不能の状態にあることに乗じてAにわいせつな行為をしようと考え、同日、東京都内又はその周辺において、Aに対し、乳房及び性器を露出した姿態を撮影し、被告人が使用する携帯電話機に同静止画を送信するよう要求し、同日、滋賀県内のA方において、Aに乳房及び性器を露出させる姿態をとらせ、これをA使用の撮影機能付き携帯電話機で撮影させた上、同画像データ2点を、アプリケーションソフト「B」を使用して同携帯電話機から被告人が使用する携帯電話機に送信させ、その頃、同データ2点をそれぞれB株式会社が管理する日本国内設置の電磁的記録媒体であるサーバコンピューター内に記録して保存し、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をするとともに、衣服の全部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造したものである

判例DBに罰条を書き忘れた判決を提供した事例(山形地裁r6.9.17)

判例DBに罰条を書き忘れた判決を提供した事例(山形地裁r6.9.17)

「被告人は、正当な理由がないのに、令和6年5月6日午前11時30分頃から同日午後零時30分頃までの間、前記女性用露天風呂において、ひそかに、同所の岩陰等に小型カメラ2台を設置し、そのうち1台の小型カメラでA(Aの氏名は別紙2のとおり。当時40歳)の胸部や陰部等を動画撮影した。」って事実認定されても、何法の何罪かわかんないから、理由不備だよな。迷惑条例違反でも行けそうじゃん。

山形地判令和6年9月17日D1-Law.com判例体系〔28323624〕
山形地方裁判所
令和6年(わ)第58号/令和6年(わ)第94号
山形地方裁判所
本籍 ●●●
住居 ●●●
無職

平成5年(以下略)生

 上記の者に対する性的姿態等撮影、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官倉地えりか及び私選弁護人峯田典明各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
主文
被告人を懲役2年に処する。
この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。

理由
理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人は、正当な理由がないのに
 1 別紙1記載のとおり、令和6年5月5日午前9時36分頃から同日午後5時25分頃までの間、(住所略)所在のB株式会社C温泉大露天風呂の女性用露天風呂南側山中において、ひそかに、同露天風呂で入浴ないし着替え中の氏名不詳の女性44名に対し、望遠レンズ付きデジタルカメラを向けて、同人らの胸部等を撮影し
 2 同日午後3時9分頃、前記女性用露天風呂南側山中において、ひそかに、同露天風呂で入浴中の18歳未満である氏名不詳の全裸の女児に対し、前記望遠レンズ付きデジタルカメラを向けて、同児童の胸部等を撮影して、その動画データを同カメラに挿入したSDカードに記録させて保存し、もってひそかに、人の性的な部位を撮影するとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
第2 被告人は、正当な理由がないのに、令和6年5月6日午前11時30分頃から同日午後零時30分頃までの間、前記女性用露天風呂において、ひそかに、同所の岩陰等に小型カメラ2台を設置し、そのうち1台の小型カメラでA(Aの氏名は別紙2のとおり。当時40歳)の胸部や陰部等を動画撮影した。
●●●
(量刑の理由)
 被告人は、山中から望遠レンズを装着したデジタルカメラを構え、女性用露天風呂を利用する女性客40名以上の性的姿態を撮影し(判示第1)、また、女性用露天風呂に小型カメラを設置し、録画状態にして、女性利用客の性的姿態を撮影した(判示第2)もので、撮影機材に周囲の景色に馴染むような装備ないし細工を施していることや、険しい山道であるにもかかわらず、これを厭わず撮影場所を探し当てるなどしていることにも照らすと、被告人の温泉を利用する女性客の性的姿態を撮影することへの強い執着心が表れている。被告人が述べるところによれば、令和4年11月から本件の女性用露天風呂で盗撮を繰り返してきたというのであり、常習性は明らかである。盗撮の対象となった女性客らの性的羞恥心を害することに思いを致すことなく、自己の性的欲求を満たすためという身勝手な動機から本件犯行に及んだ被告人に対しては厳しい非難が妥当する。盗撮されたことを知った判示第2の被害女性が厳しい処罰感情を有しているのも当然のこととして理解できる。
 被告人には平成28年に罰金に処せられた同種前科があることも併せると、本件の犯情は良くなく、被告人の行為責任は重いといわなければならない。
 もっとも、他方、被告人は、判示第2の犯行が発覚したと察するや、自ら警察に出頭して逮捕され、以後一貫して事実を認め、公判廷においても反省の言葉を述べている。判示第2の被害女性に対し、謝罪し、30万円を支払うことなどを内容とする示談を成立させるなど、慰謝の措置に努めており、この点も被告人の反省の態度を表すものとして、量刑に当たっては考慮されるべき事情である。また、被告人は、性依存症であることを自覚して、精神科を受診したり、自助グループに参加したりするようになっており、自らの問題点と向き合い、これを改善しようという意欲を行動で示している。被告人の父親による被告人の指導監督も期待できる。
 そこで、本件の犯情評価を基礎として、被告人の更生につながる事情を併せ考慮すると、被告人に対しては、主文の刑を科して刑事責任の重さを今一度銘記させた上で、今回に限り、その刑の執行を猶予して、社会内で自力更生を図る機会を与えることとするが、性依存症の性質に鑑みると、被告人の再犯を防止する見地からは、刑の執行を猶予する期間を法律上許される最長の5年間とするのが相当である。なお、検察官は、被告人の再犯可能性の高さを考慮すると被告人を保護観察に付するのが相当である旨の意見を述べるが、被告人が既に精神科の受診や自助グループへの参加を開始していることや被告人の実父が監督の意思を強く表明していることなどからすれば、公的機関による支援を必要とするとまではいえないことから、執行猶予期間を5年間と定めるにとどめ、保護観察を付することはしない。
(求刑 懲役2年)

刑事部

 (裁判官 佐々木公)

(別紙1)

更正決定 
判決書に明白な誤りがあるので、職権により次の通り決定する
   記
判決書中「罰条」の
 「児童ポルノ製造の点 
  児童ポルノ法7条5項 2項 2条3項3号」
のあとに
「判示第2の所為 性的姿態撮影罪2条1項1号イ」を加える
r6.10.2 裁判官 某

不同意わいせつ罪(176条3項)と児童ポルノ製造罪(4項)を観念的競合にした公訴事実に、訴因変更手続によって性的姿態撮影罪を追加した事例(控訴中)

 別罪を加える訴因変更があれば、公訴事実の同一性を争って、罪数処理をcheckします。


①起訴状

起 訴 状
被告人は
被害児童(当時12歳)が13歳未満の者であることを知りながら、令和7年6月16日午後8時55分頃、被告人方において、前記被害児童にその胸部及び陰部を露出する姿態をとらせ、これを被告人が使用する携帯電話機で撮影し、その画像データ1点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録して保存し、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をするとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し
たものである。
罪 名 及 び 罰 条
不同意わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反
    刑法176条3項、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2条3項3号

②訴因変更請求

訴因並びに罪名及び罰条変更請求書
 被告人に対する強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、不同意わいせつ被告事件につき、起訴状記載の訴因並びに罪名及び罰条を下記のとおり変更したく請求する。

1 公訴事実を次のとおり改める。
正当な理由がないのに、被害児童(当時12歳)が13歳未満の者であることを知りながら、令和7年6月16日午後8時55分頃、被告人方において、前記被害児童にその胸部及び陰部を露出する姿態をとらせ、これを被告人が使用する携帯電話機で撮影し、その画像データ1点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録して保存し、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をし、前記被害児童の性的姿態等を撮影するとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し
2 罪名及び罰条第2を次のとおり改める。
  不同意わいせつ、性的姿態等撮影、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反
    刑法176条3項、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項4号、1号イ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2条3項3号

③判決

罪となるべき事実
第3 正当な理由がないのに、前記A(当時12歳)が13歳未満の者せあることを知りながら、令和7年6月16日午後8時55分頃、被告人方において、前記Aにその胸部及び陰部を露出する姿態をとらせ、これを被告人が使用する携帯電話機で撮影し、その画像データ1点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録して保存し、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をし、前記Aの性的姿態等を撮影するとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し

法令の適用
  不同意わいせつの点   刑法176条3項、1項、令和5年法律第66号附則3条
  性的姿態等の撮影の点  性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項4号、1号イ、令和5年法律第67号附則2条
  児童ポルノ製造の点   児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号
判示第4ないし第6の各行為のうち

科刑上の一罪の処理
判示第3の罪について
              刑法54条1項前段、10条(最も重い不同意わいせつの罪の刑で処断)


 そして不同意わいせつ罪(176条3項)と性的姿態撮影罪、不同意わいせつ罪(176条3項)と4項製造罪(姿態をとらせて製造罪)。不同意わいせつ罪(176条3項)と4項製造罪が、観念的競合となることが確認されました。

東京高等裁判所第11刑事部
令和7年6月18日宣告

5
(2)判断:
・・・
また、原判示第3の事実は、児童の性器等に触るなどの身体にじかに接するわいせつな行為をするとともに、当該行為に係る児童の姿態を撮影して記録・保存するという態様ではなく、Aに胸部及び陰部を露出した姿態をとらせて、これを撮影して記録・保存したというものである。
このような事案において、被告人のした行為を社会的見解上一個のものと評価し、不同意わいせつ罪と4項製造罪とがいわゆる観念的競合として科刑上一罪の関係にあるとした原判決の判断が誤っているとはいえない。
よって、訴因の不特定をいう論旨は、いずれもその前提を欠いており、不法な公訴受理には当たらない。
・・・

8不告不理の主張について
(1)論旨:原判示第3について
当初の公訴事実は、不同意わいせつ及び児童ポルノ製造罪に当たる事実を訴因とするものであったところ、検察官は、これに性的姿態等撮影罪の訴因及び罰条を追加する訴因等変更請求をなし、原審裁判所はこれを許可した。
しかし、不同意わいせつ罪と性的姿態等撮影罪とは、撮影の点が重なるものの、陰部'胸部を露出する姿態をとらせる点は、前者の実行行為であるが後者の実行行為ではないため重ならないし、両罪に触れる行為が通常伴う関係にあるともいえず、保護法益や性質も相当異なることなどから、併合罪の関係にある。
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(以下「性的姿態撮影処罰法」という。)2条3項が設けられた趣旨からしても、そのように解すべきである。
また、4項製造罪と性的姿態等撮影罪とは、撮影の点が重なるものの、性的姿態等撮影罪は媒体への記録行為や複製行為に及ばないため、重なりは一部であるし、両罪に触れる行為が通常伴う関係にあるともいえず、保護法益や性質も相当異なることなどから、やはり併合罪の関係にある。
そうすると、上記訴因等変更請求に係る公訴事実は当初の公訴事実との同一性を欠くから、その許可は違法無効である。
それゆえ、性的姿態等撮影罪について
判断した原判決は、審判の請求を受けない事件について
判決をしたものであり、刑訴法378条3号の破棄事由がある。
(2)判断:不同意わいせつ罪や4項製造罪と性的姿態等撮影罪とで保護法益が異なることは、それぞれの罪が成立する根拠となっても、いわゆる観念的競合となり得ない理由にはならない。
原判示第3の事実について、その行為の態様は5(2)第2段落のとおりであり、このような事案において、被告人のした行為を社会的見解上一個のものと評価し、不同意わいせつ罪及び4項製造罪と性的姿態等撮影罪がいわゆる観念的競合として科刑上一罪の関係にあるとした原判決の判断が誤っているとはいえない。
なお、そのような判断が性的姿態撮影処罰法2条3項の規定によって妨げられるともいえない。
よって、当初の訴因と訴因等変更請求に係る訴因とで公訴事実の同一性を欠くとして訴因等変更許可の違法をいう論旨は、その前提を欠いており、刑訴法378条3号には当たらない。

撮影送信させる不同意わいせつ(強制わいせつ)事件の実刑事案の罪数・前科

撮影送信させる不同意わいせつ(強制わいせつ)事件の実刑事案の罪数・前科

 伝統的な強制わいせつ罪の量刑相場からすれば、触ってないような態様だと2~3件は執行猶予になるはずですが、5件とか6件になるとわからないので調査中です。

裁判所 地裁高裁 支部 判決日 実刑 罪数 前科の記載
東京 地裁   H18.3.24 実刑 04罪 同種前科
岡山 地裁   H29.7.25 実刑 11罪
横浜 地裁   H28.11.10 実刑 04罪 同種前科
長崎 地裁   R1.9.17 実刑 02罪 同種前科
東京 地裁   R4.3.10 実刑 22罪
札幌 地裁 小樽 R4.3.2 実刑 02罪
大津 地裁   R5.10.26 実刑 02罪
大津 地裁   R6.3.4 実刑 02罪 異種前科
京都 地裁   R3.2.3 実刑 03罪
大阪 高裁   R3.7.4 実刑 03罪
京都 地裁   R3.7.28 実刑 02罪 同種前科
大阪 高裁   R4.1.20 実刑 02罪 同種前科
札幌 地裁   R4.9.14 実刑 01罪 同種前科
札幌 高裁   R5.1.19 実刑 01罪 同種前科
旭川 地裁 稚内 R5.11.10 実刑 02罪 同種前科
札幌 高裁   R6.3.5 実刑 02罪 同種前科
さいたま 地裁 熊谷 R6.5.14 実刑 03罪

https://www.kobe-np.co.jp/news/jiken/202506/0019104953.shtml
複数の未成年の女性に性的な画像や動画を撮影、送信させたとして、兵庫県警少年課と加古川署は13日、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)などの疑いで、同県赤穂市の大学生の男(21)を送検し、捜査を終えた。起訴済み5件を含む6件の被害を裏付けたとしている。
 送検容疑は2023年3月~24年12月、交流サイト(SNS)で知り合った当時10~14歳の女性に「胸とか見せれる?」などとメッセージを送って胸部などの画像や動画計23点を撮影させて送信させ、自身のスマートフォンに保存した疑い。調べに「自分の欲求を満たすためにやった」といずれの容疑も認めている。
 同署によると、男のスマホには被害者が特定できない物も含めると、動画約500点と画像約2千点、約50人分の性的な映像が保存されていたという。

奈良公園のパンチラ画像がわいせつ電磁的記録になると解説している弁護士

奈良公園のパンチラ画像がわいせつ電磁的記録公然陳列罪になると解説している弁護士

 現時点では、パンツをはいている限りパンチラ画像はわいせつ図画にはならない。ミニスカート姿の人がしゃがむとパンツが見えるのはそういう服装であるために普通であって、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」ではないので、児童ポルノにもなりにくい

https://www.bengo4.com/c_1009/n_18922/
——公園で女性のスカートの中を撮影し、動画を投稿した場合、どのような罪に問われますか。
つぎに、このような動画をネットに投稿していることから、わいせつ電磁的記録媒体陳列罪(刑法175条1項)が成立し、2年以下の拘禁刑か250万円以下の罰金もしくは科料、または拘禁刑と罰金の併科刑となります。
・・・・・・・・・・
投稿されたわいせつ画像や動画をめぐって、YouTubeなどのプラットフォームにおける不適切な管理の刑事責任が近年議論されています。
たとえば、プラットフォーム側において他人が送信した児童ポルノ画像をサーバ上に記憶・蔵置させたまま削除せず放置した事件について、不作為による児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めた裁判例などもあります(東京高裁平成16年6月23日)。
今回の奈良公園の事件では、児童ポルノではなくスカートの中の盗撮なので、厳密にはこの裁判例とは事情が異なりますが、理論的にはプラットフォーム側にも不作為によるわいせつ電磁的記録媒体陳列罪の成立が認められる可能性はあります。

 リベンジポルノ罪とか名誉毀損罪とかが検討されたが難しいので、そこでr5に性的影像記録公然陳列罪や提供罪を作ったという経緯になる。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
第三条(性的影像記録提供等)
 性的影像記録(前条第一項各号に掲げる行為若しくは第六条第一項の行為により生成された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)その他の記録又は当該記録の全部若しくは一部(対象性的姿態等(前条第一項第四号に掲げる行為により生成された電磁的記録その他の記録又は第五条第一項第四号に掲げる行為により同項第一号に規定する影像送信をされた影像を記録する行為により生成された電磁的記録その他の記録にあっては、性的姿態等)の影像が記録された部分に限る。)を複写したものをいう。以下同じ。)を提供した者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
2性的影像記録を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第四条(性的影像記録保管)
 前条の行為をする目的で、性的影像記録を保管した者は、二年以下の拘禁刑又は二百万円以下の罰金に処する。



この部分もFAQで、被疑者側からは「特定できなければ起訴できない」なんて希望的観測が多いところですが、自然人であることが証明できれば、「氏名不詳の被害者」として起訴されています

——撮影された被害者が誰か特定されていないことで、刑事処分にどのような影響が考えられますか。
迷惑防止条例や性的姿態撮影等処罰法違反は非親告罪なので、被害者による刑事告訴は不要です。
理論的には被害者がわからなくても、写真や動画、目撃者の証言などがあることで、行為当時に被害者が存在しており、盗撮の被害を受けた事実が立証できれば、起訴して有罪判決が言い渡される可能性も考えられます。
しかしながら、検察官は起訴するかどうかを判断する要素として、被害者側の処罰感情も重視します。
被害者不明では、処罰感情があるかどうかも確認できないということになります。
また裁判所からは事実関係をできるだけ細かく特定するように求められますから(刑事訴訟法256条3項)、被害者がどこの誰か不明であり、現在もどこにいるのか不明ということですと、検察官としてはなかなか起訴にしくいのではないかと思います。

高額の対価を示して裸画像を撮影送信させた場合、不同意わいせつ(2項)にならない理由

高額の対価を示して裸画像を撮影送信させた場合、不同意わいせつ(2項)にならない理由
 欺されたのか、大金に目がくらんだのかはわかりませんが、時々こういう事案はあって、警察に「欺された」と被害届がでることがあるようですが、警察検察は、不同意わいせつ罪(176条)には消極的です。

第一七六条(不同意わいせつ)
 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

 法務省の説明によれば、17歳が対価の約束をしている場合だと、裸を撮影送信するという行為の意味は理解していたと思われ、対価をもらえるという誤信があるとしても、「行為がわいせつなものではないとの誤信」がないので、不同意わいせつ罪(176条2項)は成立しないとされています。

法務省逐条説明
3 各条の第2項
性的行為が行われるに当たって、その相手方に何らかの錯誤が生じている類型については、同意の前提となる事実の認識を欠くものの、当該行為を行うこと自体について外形的には同意が存在するという特殊性があり、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」にあったかどうかで犯罪の成否を区別することとした場合には、犯罪の成否をめぐる評価・判断のばらつきを生じさせることとなりかねないことから、第1項に含めるのではなく、別途規定することとするものである。
その上で、相手方に錯誤が生じている類型の中には、その錯誤があることによっておよそ自由意思決定が妨げられる性質のものと、そうでないものが混在するため、それらを区別せずに包括的な形で規定した場合には、強制わいせつ罪・強制性交等罪として処罰すべきとはいえないものが処罰対象に含まれることとなり、相当でない。
そこで、強制わいせつ罪及び強制性交等罪の保護法益である性的自由・性的自己決定権が侵害されたといえる場合、すなわち、自由意思決定が妨げられたと一般に評価できる錯誤のみが処罰対象となることを明確にする観点から、第2項においては、
○その誤信があれば、自由意思決定が妨げられたといえる類型、すなわち、
・行為がわいせつなものではないとの誤信がある場合(注6)
・行為をする者について人違いがある場合(注7)
を限定的に列挙し、
○「その他これらに類する行為により同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」又は「その他これらに類する事由によりその状態にあることに乗じて」との包括的要件を設けない
こととしている。
なお第176条第2項及び第177条第2項の行為はいずれも行為者が行い又は行おうとしているわいせつな行為又は性交等、すなわち、実行行為を指すものである。
(注6)行為がわいせつなものでないとの誤信があった場合には、被害者は「行為」には、同意しているものの、それが「性的」なものであるとすれば、そのような「性的行為」には同意していないのであるから、その意味で「性的行為をするかどうか」についての自由意思決定があったとはいえず、その誤信を利用して性的行為を行った場合、一般に性的自由・性的自己決定権の侵害が存するといえる。
(注7)行為をする者について人違いがある場合には、被害者は、その相手方との性的行為には同意していないのであるから、その意味で「誰と性的行為をするか」についての自由意思決定があったとはいえず、その誤信を利用して性的行為を行った場合、一般に性的自由・性的自己決定権の侵害が存するといえる。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025060200884&g=soc
女子高生に「200万円払う」 裸の写真送らせた疑い、男再逮捕―警視庁
時事通信 社会部2025年06月03日07時34分配信
 SNSで知り合った女子高校生(17)に「写真、動画送れば200万円」と伝え、裸の画像などを送らせたとして、警視庁世田谷署は2日までに、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)容疑で、容疑者を再逮捕した。「好みの女性の裸を見たかった」と容疑を認めている。
 再逮捕容疑は昨年10月5~8日、女子高生の下半身などを写した画像21枚と動画4本を送信させ、保存した疑い。
 同署によると、容疑者は昨年9月にインスタグラムで女子高生と知り合い、「写真50枚、動画35本の1セットで200万円以上払う」とメッセージを送信。画像などを送らせたが、現金は支払わなかった。
 女子高生から相談を受けた世田谷署が5月に容疑者宅を捜索。同容疑者が当時、部屋にいた別の女子高生とわいせつな行為をしたと認めたことなどから、同法違反容疑で逮捕した。
 押収したスマートフォンの解析で、再逮捕容疑の画像などが見つかった。

大阪高裁r3.7.14(高等裁判所刑事裁判速報集(令3)号403頁)は送信させ保存した行為をわいせつ行為とするものではない

阪高裁r3.7.14(高等裁判所刑事裁判速報集(令3)号403頁)は送信させ保存した行為をわいせつ行為とするものではない
 最近この大阪高裁判決を引用して、「送信させ・保存し」も猥褻行為だという検察官がいるんですが、間違っていますよ。
 大阪高裁事件の、強制わいせつ罪(176条後段)の訴因は「陰部、乳房等を露出した姿態をとらせ、これを同人が使用する前記タブレット端末で撮影させ、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をし」ということで、起訴されたのは撮影行為までです。高裁判決でも送信・保存まではわいせつ行為とされてないという判断になっています。

判例ID】 28302776
【裁判年月日等】 令和3年7月14日/大阪高等裁判所/第6刑事部/判決/令和3年(う)287号
【事件名】 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【裁判結果】 控訴棄却
【参照法令】 刑法 176条
【出典】 高等裁判所刑事裁判速報集(令3)号403頁
【重要度】 1
28302776
大阪高等裁判所
令和3年(う)第287号
令和03年07月14日
控訴申立人 被告人

判決要旨
第1 事案の概要
 1 罪となるべき事実(要旨)
  被告人は、被害者が13歳未満であることを知りながら、〈1〉遠隔地にいた同人に対し、ダイレクトメッセージ機能を使用して、その陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、その頃、被害者にそのような姿態をとらせていわゆる自撮りをさせた上、〈2〉その画像データをダイレクトメッセージ機能を使用して被告人のスマートフォンに送信させて、アプリケーションソフト運営法人が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させた。
 2 訴訟経過
  検察官は、〈1〉行為(本件行為)を強制わいせつ罪、〈1〉及び〈2〉行為を児童ポルノ製造罪として、別個の訴因で(併合罪として)起訴した。
  弁護人は、本件行為につき、被害者に裸体を自撮りさせただけでは、遠隔地にいる被告人が見ることはできず、性的侵襲は弱いので、「わいせつな行為」に該当しないか、該当するとしても強制わいせつ未遂罪が成立するにとどまる旨主張したが、原判決は、本件行為につき強制わいせつ罪の成立を認め、罪数につき、児童ポルノ製造罪と観念的競合の関係にあると判断した。
  これに対し、被告人が控訴し、原審同様強制わいせつ罪の成立を争ったが、控訴審判決はこれを排斥し、控訴を棄却した。
第2 控訴審判示
 1 刑法176条の「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、当該行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを具体的事実関係に基づいて判断するのが相当である(最大判平29・11・29・刑集71巻9号467ページ参照。)。
 2 これを踏まえて検討すると、本件行為は、当時9歳の女子児童である被害者に対してその陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、被害者にそのような姿態をとらせてそれを撮影させたというものであり、撮影させた部位のうち、陰部(性器自体は写っていないものの、その周辺部である。)は性的要素が強く、乳房も性を象徴する典型的な部位である。また、衣服を脱がせる行為(又は衣服を着けない姿態をとらせる行為)は、裸になることを受忍させてその身体を性的な対象として行為者の利用できる状態に置くものであって、単独でも「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであるし、続いてそうした衣服を着けない姿態を撮影する行為も、自ら性的な対象として利用できる状態に置かせた裸体を、さらに記録化することによってまさに性的な対象として利用するものであり、それによって性的侵害性が強まるといえるから、「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものといえる。
  本件では、被告人は遠隔地から被害者に指示しているから、直接被害者の姿態を目にしていないという点で、面前で行う場合と比べて被害者の性的自由を侵害する程度が小さいとはいえるものの、被害者に陰部等を露出した姿態をとらせ、これを撮影させた行為は、被害者に一定の性的行為を行わせ、かつ、その内容を第三者が知り得る状態に置く行為であり、被害者の身体を性的に利用する行為といえる。本件は、行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できないものの、一定の性的性質を備えていて、「わいせつな行為」に当たり得るものというべきである。なお、本件行為には被害者に撮影させた画像データを被告人に送信させたことや被告人が受信した画像データを閲覧したことは含まれていないが、被害者に陰部等を露出させた姿態をとらせてそれを撮影させたことによって、被告人を含む他人がその画像を見ることがあり得る状態に置かれており、性的侵害性は大きいといえるし、被告人は被害者に対して撮影した画像データを被告人に送信することも要求して撮影させており、被害者がこの要求に従って画像データを送信して被告人がこれを見ることになる具体的な危険性も認められるから、撮影させた画像データを被告人に送信させたこと等が含まれていないことが、「わいせつな行為」該当性を否定する事情とはならない。
 3 さらに、本件の具体的状況等についてみると、被告人は当時53歳の中年男性、被害者は当時9歳(小学3年生)であり、動画配信アプリケーションを通じて知り合い、ダイレクトメッセージ機能を使用してやり取りをしていた関係にすぎず、直接の面識はなく、本件行為は、被告人と被害者が性行為をしているかのようなメッセージのやり取りをしている状況においてなされたものである(例えば、被告人は、被害者に対し、陰部等を露出した姿態の画像データを送信させた直後に、「マンジル、白いの出てくるからね」「おちんちんを、なめてごらん」「ぬれたおちんちんをまんこにこするね」というメッセージを、乳房等を露出した姿態の画像データを送信させた直後に「もみながらなめるね」「おちんちんもこすってるぞ」といったメッセージを送信している。)。また、被告人にはかねてから年少の女児を対象とする性的嗜好があった。このような本件行為が行われた際の具体的状況等をも考慮すると、本件行為は性的な意味合いが相当強いものといえるから、「わいせつな行為」に当たるといえる。
 4 原判決は、被害者への身体的接触がなく、被告人が撮影時に被害者にとらせた姿態を見ていないという本件行為の特徴を指摘して本件行為そのものが持つ性的性質は不明確であるともいえるとした上で、撮影の対象となった部位が性を象徴する典型的な部位等であること、被告人と被害者の関係性や各属性、本件に至る経緯や本件の前後に被告人が送信したメッセージの内容、被告人が自己の性欲を満たす目的を有していたことなどを考慮すると、撮影時に被告人が被害者の姿態を見ていなかったことを踏まえても、本件行為の性的な意味合いの程度は相当に強いといえるから、「わいせつな行為」に当たると判断した。原判決は、身体的接触がなく、被害者の姿態を直接見ていない本件行為に「わいせつな行為」該当性を認め得るほど強い性的意味合いがあることについて、本件行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度それ自体を判定し、それに着目した説明が十分なされているか疑問があるが、おおむね前述したところと同趣旨の判断をしているものと解され、その結論に誤りはない。
第6刑事部
参考事項
1 前記最高裁判決で示された判断基準を、本件のような非接触型・非対面型わいせつ事案に当てはめて強制わいせつ罪の成立を認めた高裁判決はまれであり、その詳細な理由付けを含め、先例としての価値は大きい。
2 前記最高裁判決が「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分踏まえる」としたことの趣旨につき、同判例解説(214ページ)では、次のような判断の順序を示したものと説明されている。すなわち、
 (1) 行為そのものに、性的性質が有り、かつ、その性的性質の程度が強いために、直ちに「わいせつな行為」に該当すると判断できる行為か
 (2) 行為そのものに備わる性的性質が無いか、あっても極めて希薄であるために、およそ刑法176条による非難に値する程度に達しえないものとして、直ちに「わいせつな行為」に該当しないと判断できる行為か
 をまず判断し、次に、
 (3) 行為そのものが持つ性的性質が不明確であるために、行為の外形だけでは「わいせつな行為」該当性の判断がつかない類型においては、行為そのものが持つ性的性質の程度を踏まえた上で、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮する
というものである。
  また、前記最高裁判決のいう「当該行為が行われた際の具体的状況等」として考慮すべき判断要素として、前記判例解説(218ページ以下)では、以下の事情が挙げられている。
 (1) 行為者と被害者の関係性
 (2) 行為者及び被害者の各属性等(それぞれの性別・年齢・性的指向・文化的背景〔コミュニケーション手段に関する習慣等〕・宗教的背景等)
 (3) 行為に及ぶまでの経緯、行為者及び被害者の各言動、行為が行われた時間、場所、周囲の状況等
 (4) 行為に及んだ目的を含む行為者の主観的事情(外部的徴表として現れているもの)
  本控訴審判決は、同判例解説と同様の視点で当てはめがなされている。
3 訴因には「わいせつな行為」の概略しか記載しないが、行為の行われた具体的状況等をも加味して「わいせつな行為」該当性を評価すべき事案においては、「わいせつな行為」であることを基礎づける具体的事実を冒頭陳述で指摘する必要があるとともに、論告で、その具体的事実の評価について丁寧に論じる必要がある(前記判例解説226ページ参照)。
4 非接触型のわいせつ行為(例えば、脅迫により畏怖した被害者に自慰行為をさせて自撮りさせ、その画像を遠隔地にいる被告人に送信させる事案)を強要罪で起訴する例が見られることについて、(被告人に画像を送信しなくても)強制わいせつ罪が成立するのではないかとの指摘がなされていた(橋爪隆「非接触型のわいせつ行為について」研修860号)が、本件はこれを肯定した高裁判決として参考になる。

 起訴状をみると、強制わいせつ罪(176条後段)の訴因は「陰部、乳房等を露出した姿態をとらせ、これを同人が使用する前記タブレット端末で撮影させ、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をし」ということで、起訴されたのは撮影行為までです。

起 訴 状
令和2年8月27日
公 訴 事 実
 被告人は、甲(当時9歳)が13歳未満であることを知りながら
第1 同人にわいせつな行為をしようと考え、令和2年3月5日午前9時54分頃から同日午前10時14分頃までの間、被告人方において、前記甲に対し、被告人が使用するスマートフォンから前記甲が使用するタブレット端末に、アプリケーションソフト「」にダイレクトメッセージ機能を使用して、陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影し、被告人が使用するスマートフォンに送信するよう要求し、その頃、2回にわたり、内の前記甲方において、同人に、陰部、乳房等を露出した姿態をとらせ、これを同人が使用する前記タブレット端末で撮影させ、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をし
第2 前記日時頃、前記甲方において、前記第1記載のとおり同人に陰部、乳房等を露出した姿態をとらせ、これを同人が使用する前記タブレット端末で撮影させた上、同画像データ2点を、前記「」のダイレクトメッセージ機能を使用して、同タブレット端末から被告人が使用する前記スマートフォンに送信させ、その頃、同画像データ2点を、場所不詳に設置された「」社が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させ、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し
たものである。
罪 名 及 び 罰 条
第1 強制わいせつ 刑法176条後段
第2 児童買春・児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反       同法7条4項、2条3項3号

 訴因変更があったが、製造罪についてのみ。

訴因変更請求書r3.1.18
被告人に対する強制わいせつ,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件につき,令和2年8月27日付け起訴状記載の公訴事実第2の訴因を下記のとおり変更したく請求する。

同日付け起訴状記載の公訴事実第2のうち, 1行目から10行目を次のとおり変更する。
「前記日時頃,前記被告人方において,前記 に被告人が使用するスマートフォンから前記甲が使用するタブレット端末に,アプリケーションソフト「」のダイレクトメッセージ機能を使用して,陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影し,被告人が使用するスマートフォンに送信するよう要求し,その頃,前記甲方において,前記第1記載のとおり, 同人に陰部,乳房等を露出した姿態をとらせ, これを同人が使用する前記タブレット端末で撮影させた上,同画像データ2点を,前記「」のダイレクトメッセージ機能を使用して,同タブレット端末から被告人が使用する前記スマートフォンに送信させ,その頃, 同画像データ2点を,場所不詳に設置された「」社が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させ, もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し」
以 上

それら(公訴事実第2と第3)を、1審判決判示第3で観念的競合としていますが、わいせつ行為の範囲は変わっていません。

京都地裁令和3年2月3日
令和2年(わ)第810号,第873号 強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
理    由
(罪となるべき事実)
第3 被告人は,■■■■■(当時9歳,以下「A」ともいう。)が13歳未満であることを知りながら,Aにわいせつな行為をしようと考え,令和2年3月5日午前9時54分頃から同日午前10時14分頃までの間,愛媛県今治市波方町養老甲836番地1所在の被告人方において,Aに対し,被告人が使用するスマートフォンからAが使用するタブレット端末に,アプリケーションソフト「Twitter」のダイレクトメッセージ機能を使用して,陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影し,被告人が使用するスマートフォンに送信するよう要求し,その頃,2回にわたり,京都府内のA方において,Aに,陰部,乳房等を露出した姿態をとらせ,これをAが使用する前記タブレット端末で撮影させた上,同画像データ2点を,前記「Twitter」のダイレクトメッセージ機能を使用して,同タブレット端末から被告人が使用する前記スマートフォンに送信させ,その頃,同画像データ2点を,場所不詳に設置された「Twitter,Inc.」社が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させ,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をするとともに,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。(訴因変更後の令和2年8月27日付け起訴状記載の公訴事実)
(法令の適用)
1 罰  条
 判示第3の行為のうち
  強制わいせつの点  刑法176条後段
  児童ポルノ製造の点 包括して児童ポルノ法7条4項,2項,2条3項3号
2 科刑上一罪の処理
 判示第3について 刑法54条1項前段,10条(1罪として重い強制わいせつ罪の刑で処断)

3 刑種の選択
 判示第2別表2番号1,同番号2,同番号3ないし6,同番号7,同番号8ないし10,同番号11ないし14並びに同番号15及び16の各罪
   いずれも懲役刑
4 併合罪加重      刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第1別表1番号6の罪の刑に加重)
5 未決勾留日数の算入  刑法21条
6 没収
 主文記載のスマートフォン本体1台(黒色手帳型カバー付)について
   刑法19条1項2号,2項本文(判示第1別表1番号6の犯行の用に供した物で被告人以外の者に属しない)
7 訴訟費用の不負担   刑事訴訟法181条1項ただし書
(判示第3の事実に関する争点に対する判断)
第1 強制わいせつ罪及び児童ポルノ製造罪の成否
 1 弁護人の主張等
 弁護人は,判示第3の事実について,事実関係は争わないが,①被告人の行為は,Aに要求して,他人が見ていない状況でA自身に陰部,乳房等を露出した姿態をとらせて撮影させたというものにすぎず,強制わいせつ罪の保護法益である性的自由の侵害の程度が極めて小さいといえるから,刑法176条後段の「わいせつな行為」に該当せず,強制わいせつ罪は成立しない,②判示の画像データ2点を判示のサーバコンピュータ内に記憶蔵置させたのはAであり,被告人の行為は介在していないから,児童ポルノ製造罪は成立しない旨主張するから,当裁判所が前記両罪がいずれも成立すると判断した理由を説明する。
 2 強制わいせつ罪の成否
 被告人は,判示第3のとおり,Aに要求し,2回にわたり,A方において,Aに,陰部,乳房等を露出した姿態をとらせ,これを撮影させているところ,被告人とAとの間には物理的(身体的)な接触がなく,しかも,被告人がその撮影時にAの前記姿態を見ていなかったことなどからすると,被告人の行為そのものが持つ性的性質は不明確であるともいえる。
 もっとも,本件において主な撮影対象となったのはAの露出した状態の陰部及び乳房という性器あるいは性を象徴する典型的な部位である上,その撮影にかかる判示の画像データ2点は被告人が使用するスマートフォンに送信されて判示のサーバコンピュータ内に記憶蔵置されているのであって,かかる事情は被告人の行為の性的意味合いをかなり大きく強めるものといえる。また,被告人は,動画配信アプリケーションを通じて年少の女児であるA(当時9歳)と知り合うと,自らを高校生と偽り,判示の「Twitter」のダイレクトメッセージ機能を使用するなどしてAとの間でやり取りをしていたにすぎず,Aとは直接の面識がなかったほか,かねてから年少の女児を対象とする性的傾向があったものであり,かかる被告人とAの関係性や各属性等も被告人の行為の性的意味合いをかなり強める事情といえる。そして,被告人は,前記ダイレクトメッセージ機能を使用して,Aに対し,頻繁に露骨な性的な内容を含むメッセージを送信して本件に及んでいるほか,本件前後にも露骨な性的な内容を含むメッセージを送信しており(例えば,Aに対し,陰部等の画像データを送信させた直後に「おちんちんを,なめてごらん」「ぬれたおちんちんをまんこにこするね」というメッセージを,乳房等の画像データを送信させた直後に「もみながらなめるね」「おちんちんもこすってるぞ」というメッセージをそれぞれ送信している。),かかる本件に至るまでの経緯や本件前後の被告人の言動等も被告人の行為の性的意味合いを相当に強める事情といえる。以上に加えて,被告人の行為は未成年者(とりわけ13歳未満の年少者)保護の見地からも当罰性が強いといえること,被告人が自己の性欲を満たす目的を有していたことなどにも照らすと,被告人が前記撮影時にAの前記姿態を見ていなかったことを踏まえても,被告人の行為は,性的な意味があり,その意味合いの程度は相当に強いといえるから,刑法176条後段の「わいせつな行為」に当たり,被告人については,強制わいせつ罪が成立するものと認められる(なお,前記の撮影行為自体はA自身が行っているものの,Aが当時9歳の年少者であったこと,被告人が,前記のとおり,Aに対して頻繁に露骨な性的な内容を含むメッセージを送信していたこと,前記の撮影行為が単純な内容動作であることなどに照らすと,Aは,前記の撮影行為の性的な意味を十分に理解していたとはいい難く,また,被告人の前記要求を拒否するのは難しかったといわざるを得ないから,被告人については,年少者であるAを利用して自己の犯罪行為を行ったものとして強制わいせつ罪の間接正犯が成立するものと認められる。)。
 これに対し,弁護人は,近時の裁判例では,被害者を脅迫して被害者自身に陰部等を露出した姿態をとらせて撮影等させた行為は強要罪として処断されるにとどまっており,判示第3について強制わいせつ罪が成立するとすることは,他の同種事案との均衡を著しく失し,憲法14条に抵触する旨主張する。しかしながら,弁護人が引用する裁判例(捜査報告書〔甲55〕の番号10ないし12)は,いずれも検察官が強要罪(同未遂罪)として公訴を提起したものであり,このような場合,公訴の提起を受けた裁判所は,訴因である強要罪(同未遂罪)の成否のみを審判の対象とすべきであり,それとは別に強制わいせつ罪(同未遂罪)の成否といった訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきものではないから,前記裁判例が,強制わいせつ罪(同未遂罪)の成否について立ち入ることなく,検察官が起訴状の罪名で特定した強要罪(同未遂罪)の成否についてのみ認定・判断したことは当然というべきである。弁護人の主張は採用できない。
 3 児童ポルノ製造罪の成否
 前記2と同様に,前記の撮影行為に加えて,判示の画像データ2点を判示のサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させる行為自体はA自身が行っているものの,Aは,これらの行為の性的な意味を十分に理解していたとはいい難<,また,被告人の前記要求を拒否するのは難しかったといわざるを得ないから,被告人については,少なくとも年少者であるAを利用して自己の犯罪行為を行ったものとして児童ポルノ製造罪の間接正犯が成立するものと認められる。
第2 強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係
 検察官は,判示第3の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係は併合罪である旨主張する。
 しかしながら,判示第3において,強制わいせつ罪の実行行為は,Aに要求し,2回にわたり,Aに,陰部,乳房等を露出した姿態をとらせて撮影させるというもの,児童ポルノ製造罪の実行行為は,Aに要求し,Aに前記姿態をとらせて撮影させた上,その画像データ2点を判示のサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させるというものであり,強制わいせつ罪の実行行為には児童ポルノ製造罪の実行行為ではない行為が含まれておらず,強制わいせつ罪の実行行為が児童ポルノ製造罪の実行行為の一部とほぼ完全に重なり合っているといえる。また,強制わいせつ罪の実行行為の本質的な部分は撮影行為,児童ポルノ製造罪の実行行為の本質的な部分は撮影(製造)行為であるといえ,前記両行為は,行為の性質が異質なものとまではいえず,単一の意思決定に基づくものともいい得る。この点,判示第3は,検察官が引用する最高裁平成21年10月21日第一小法廷決定(刑集63巻8号1070頁)(捜査報告書〔甲55〕の番号9)や弁護人が引用する東京高裁平成30年7月25日判決(報告書〔弁3〕の別紙2),あるいは東京高裁平成24年11月1日判決(高刑集65巻2号18頁)等とは事案の内容・性質を異にするといえる。
 そうすると,前記両行為は,自然的観察のもとで社会的見解上1個のものと評価できるから,前記両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるというべきである(なお,検察官が指摘する前記両罪の保護法益の相違については,前記両罪が包括一罪にならないことの根拠とはなり得るが,前記判断を左右するものではない。)。
(量刑の理由)
 令和3年2月3日
  京都地方裁判所第1刑事部
          裁判官 入子光臣

阪高裁令和3年7月4日宣告裁判所書記官
令和3年(う)第287号
判決
上記の者に対する強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反被告事件について,令和3年2月3日k地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官太田玲子出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中90日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹(主任)作成の控訴趣意書及び弁護人園田寿作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,論旨は,不告不理の原則違反,理由不備・理由齪嬬,法令適用の誤り,量刑不当である。
そこで記録を調査し,当審での事実取調べの結果をも併せて検討する(なお,以下の説示では,基本的に原判決と同様の呼称,略称を用いる。)。
第1 原判決の認定事実
原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,被告人が,
(1)当時10歳の女子児童Bが13歳未満であることを知りながら,平成30年5月12日頃から同年8月27日頃までの間,7回にわたり,甲市内に駐車中の自動車内において,Bに対し,その陰部及び乳首を指で触るなどした上,これをそれぞれ被告人が使用するスマートフォンで動画撮影し,もって13歳未満の者に対してわいせつな行為をし(原判示第1,強制わいせつ。以下「第1事実」という。),
(2)Bが18歳に満たない児童であることを知りながら,同年5月12日頃から同年8月27日頃までの間,16回にわたり,前記(1)記載の場所において,Bに,被告人がBの陰部及び乳首を指で触るなどの姿態をとらせ,これをそれぞれ前記(1)記載のスマートフォンで動画撮影し(動画撮影行為は(1)と同一のものである。),その動画データ16点を同スマートフォンの内蔵記録装置に記録させて保存し,もって児童ポルノを製造し(原判示第2,児童ポルノ製造。以下「第2事実」という。),
(3)当時9歳の女子児童Aが13歳未満であることを知りながら,Aにわいせつな行為をしようと考え,令和2年3月5日,甲市所在の被告人方において,Aに対し,被告人が使用するスマートフォンからAが使用するタブレット端末に,アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して,陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影し,前記スマートフオンに送信するよう要求し,その頃,2回にわたり,k府内のA方において,Aに,陰部,乳房等を露出した姿態をとらせ,これを前記タブレット端末で撮影させた上,同画像データ2点を前記ダイレクトメッセージ機能を使用して同タブレット端末から前記スマートフォンに送信させてこれを前記アプリケーションソフトを運営・管理する法人が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させ,もって13歳未満の者に対してわいせつな行為をするとともに,児童ポルノを製造した(原判示第3強制わいせつ及び児童ポルノ製造。以下「第3事実」という。),というものである。
2なお,前記(3)は,Aに対し,前記ダイレクトメッセージ機能を使用して,その陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し,Aにそのような姿態をとらせてそれを撮影させたという強制わいせつの事実(令和2年8月27日付け起訴状記載の公訴事実第1)と,同要求をし,Aにそのような姿態をとらせてそれを撮影させた上,その画像データ2点を被告人のスマートフォンに送信させて前記サーバコンピュータ内に記憶・蔵置させたとい星う児童ポルノ製造の事実(同公訴事実第2・原審第3回公判期日において令和3年1月18日付け訴因変更請求書のとおり訴因変更許可決定)として別個の訴因で起訴され,検察官は併合罪の関係にあると主張したが,原判決が観念的競合の関係にあると判断したものである。
第2 当裁判所の判断
1 第3事実の不告不理原則違反の論旨について
所論は,第3事実について,強制わいせつの訴因にはAが撮影した画像データを被告人のスマートフォンに送信し,同画像データがサーバコンヒ°ユータ内に記憶・蔵置された事実が含まれていないのに,原判決がこれらの事実を含めて強制わいせつと認定した点は,不告不理の原則違反(訴因逸脱認定)であると主張する。
しかし,原判決が前記画像データの送信,記憶・蔵置の事実をも刑法176条後段にいう「わいせつな行為」と評価されるべき行為に含めているとは認められない。
原判決の「罪となるべき事実」の記載は,観念的競合として1個の行為と評価されるAに対する強制わいせつとAに係る児童ポルノ製造の事実をまとめて記載したものと読むことは十分可能である。
そして,前記第1の2のとおり,原審は,別個の訴因として起訴された前記強制わいせつ及び児童ポルノ製造を観念的競合の関係にあると解したという経緯があり,また,原判決は,その(判示第3の事実に関する争点に対する判断)中の「第2強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係」(9頁)において,「強制わいせつ罪の実行行為は,Aに要求し,2回にわたり,Aに陰部,乳房等を露出した姿態をとらせて撮影させるというもの」と明示しており,訴因外の事実である前記画像データの送信,記憶・蔵置の事実をも「わいせつな行為」と評価されるべき行為に含めているとうかがわせる記載は見当たらない。
そうすると,原判決が,前記画像データの送信,記憶・蔵置の事実を「わいせつな行為」と評価されるべき行為に含めているとはいえず,訴因逸脱認定などということはできない。
2第1事実及び第3事実の理由不備・法令適用の誤りの論旨について
所論は,原判決は刑法176条にいう「わいせつな行為」について定義を示せていないから,理由不備があり,また,同条は罪刑法定主義に反していて文面上無効であるにもかかわらず,原判決は第1事実及び第3事実について同条を適用したのであるから,法令適用の誤りがあると主張する。
しかし,法規には通常ある程度の解釈の余地が含まれるものである。
そして,「わいせつな行為」という言葉は一般的な社会通念に照らせばある程度の具体的なイメージを持つことができ,また,あえて別の言葉で定義付けすること自体困難である上,定義付けしても,それで,いわゆる規範的要件である「わいせつな行為」への該当性判断が直ちに容易になるとも思われない。
「わいせつな行為」に該当するか否かを安定的に判断するには,後記3(1)のとおり,どのような考慮要素をどのような判断基準で判断していくべきなのかという判断の仕方こそが重要であるといえ,定義付けが必須とはいえない。
刑法176条の「わいせつな行為」について定義を示せていないから原判決には理由不備があるとか,同条は罪刑法定主義に反していて文面上無効であるなどというのは,独自の見解であって採用の限りではなく,第1事実及び第3事実について理由不備や法令適用の誤りがあるとはいえない。
3第3事実の法令適用の誤り(「わいせつな行為」該当性)の論旨について
(1)

所論は,被告人が,Aに対し,アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して,その陰部及び乳房を露出した姿態をとって撮影してその画像データを被告人のスマートフォンに送信するよう要求し,Aにそのような姿態をとらせて撮影させたという本件行為は,遠隔地にいるAに裸体を撮影させたにとどまり,性的侵襲は弱く,性的意味合いは皆無か,極めて薄いから,「わいせつな行為」に該当しない,本件行為(被告人がAから同画像を受信し,閲覧した事実は含まれない。)だけでは被告人は性的興奮を得ていないから,「わいせつな行為」に該当せず,該当するとしても,強制わいせつ未遂罪が成立するにとどまると主張する。
しかし,まず,刑法176条の「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,当該行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを具体的事実関係に基づいて判断するのが相当である(最高裁平成29年11月29日大法廷判決・刑集71巻9号467頁参照。)。
これを踏まえて検討すると,本件行為は,当時9歳の女子児童であるAに対してその陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し,Aにそのような姿態をとらせてそれを撮影させたというものであり,撮影させた部位のうち,陰部(性器自体は写っていないものの,その周辺部である。)は性的要素が強く,乳房も性を象徴する典型的な部位である。
また,衣服を脱がせる行為(又は衣服を着けない姿態をとらせる行為)は,裸になることを受忍させてその身体を性的な対象として行為者の利用できる状態に置くものであって,単独でも「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであるし,続いてそうした衣服を着けない姿態を撮影する行為も,自ら性的な対象として利用できる状態に置かせた裸体を,さらに記録化することによってまさに性的な対象として利用するものであり,それによって性的侵害性が強まるといえるから,「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものといえる。

本件では,被告人は遠隔地からAに指示しているから,直接Aの姿態を目にしていないという点で,面前で行う場合と比べてAの性的自由を侵害する程度が小さいとはいえるものの,Aに陰部等を露出した姿態をとらせ,これを撮影させた行為は,Aに一定の性的行為を行わせ,かつ,その内容を第三者が知り得る状態に置く行為であり,Aの身体を性的に利用する行為といえる。
本件は,行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できないものの,一定の性的性質を備えていて,「わいせつな行為」に当たり得るものというべきである。
なお,本件行為にはAに撮影させた画像データを被告人に送信させたことや被告人が受信した画像データを閲覧したことは含まれていないが,Aに陰部等を露出させた姿態をとらせてそれを撮影させたことによって,被告人を含む他人がその画像を見ることがあり得る状態に置かれており,性的侵害性は大きいといえるし,被告人はAに対して撮影した画像データを被告人に送信することも要求して撮影させており,Aがこの要求に従って画像データを送信して被告人がこれを見ることになる具体的な危険性も認められるから,撮影させた画像データを被告人に送信させたこと等が含まれていないことが,「わいせつな行為」該当性を否定する事情とはならない。
さらに,本件の具体的状況等についてみると,被告人は当時53歳の中年男性,Aは当時9歳(小学3年生)であり,‘動画配信アプリケーシヨンを通じて知り合い,ダイレクトメッセージ機能を使用してやり取りをしていた関係にすぎず,直接の面識はなく,本件行為は,被告人とAが性行為をしているかのようなメッセージのやり取りをしている状況においてなされたものである(例えば,被告人は,Aに対し,陰部等を露出した姿態の画像データを送信させた直後に,「マンジル,白いの出てくるからね」「おちんちんを,なめてごらん」「ぬれたおちんちんをまんこにこするね」というメッセージを,乳房等を露出した姿態の画像データを送信させた直後に「もみながらなめるね」「おちんちんもこすってるぞ」といったメッセージを送信している。)。
また,被告人にはかねてから年少の女児を対象とする性的嗜好があった。
このような本件行為が行われた際の具体的状況等をも考慮すると,本件行為は性的な意味合いが相当強いものといえるから,「わいせつな行為」に当たるといえる。

原判決は,Aへの身体的接触がなく,被告人が撮影時にAにとらせた姿態を見ていないという本件行為の特徴を指摘して本件行為そのものが持つ性的性質は不明確であるともいえるとした上で,撮影の対象となった部位が性を象徴する典型的な部位等であること,被告人とAの関係性や各属性,本件に至る経緯や本件の前後に被告人が送信したメッセージの内容,被告人が自己の性欲を満たす目的を有して』.いたことなどを考盧すると,撮影時に被告人がAの姿態を見ていなかったことを踏まえても,本件行為の性的な意味合いの程度は相当に強いといえるから,「わいせつな行為」に当たると判断した。
原判決は,身体的接触がなく,Aの姿態を直接見ていない本件行為に「わいせつな行為」該当性を認め得るほど強い性的意味合いがあることについて,本件行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度それ自体を判定し,それに着目した説明が十分なされているか疑問があるが,おおむね前述したところと同趣旨の判断をしているものと解され,その結論に誤りはない。
(2)
所論は,画像送信要求行為(必ずしも明らかでないが,年少者にその裸体等を撮影した上で送信するよう要求する行為を指すものと解する。)について,大阪府青少年健全育成条例が改定されて規制されるなど,独立の犯罪化の動きがあることは,画像送信要求行為を「わいせつな行為」と評価することが困難であるという現時点での社会的評価の表れであり,一つの立法事実であると考えられるなどとも主張する。
しかし,所論が指摘する大阪府青少年健全育成条例は,青少年に係る児童ポルノの提供を求めることを禁止し,その違反のうち,当該青少年に拒まれたにもかかわらず,提供を求めた場合と,威迫等の方法により提供を求めた場合に限って罰則(罰金)を設けたものであり(同条例42条の2,56条3号),例えば,青少年に現に自己の裸体等を撮影させることは要件とされていないし,より未熟な13歳未満の青少年との関係でも,当該青少年に拒まれたという事情や威迫等の方法により提供を求めたという事情がなければ処罰の対象とはならないのであり,スマートフォン等を使用して裸体等を撮影して送信するよう要求し(被害者が14歳以上の場合は暴行・脅迫を手段として),現に被害者に裸体等を撮影させる行為を強制わいせつ罪として罰することとは,刑罰の対象となる行為や目的,刑の重さの点で大きく異なる。
そうすると,青少年に自己に係る児童ポルノの提供を求める行為について条例で罰則を設ける動きがあることは,本件行為が「わいせつな行為」に当たるという解釈を妨げる事情とはいえない。
4 第1事実及び第2事実の法令適用の誤り(罪数),の論旨について
所論は,第1事実の各強制わいせつ罪及び第2事実の各児童ポルノ製造罪(児童ポルノ法7条4項のもの。以下同じ。)の関係について,同一機会の犯行に係る強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪は,重なり合うものであり,社会的見解上1個の行為と評価すべきであるから,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるのに,同法45条前段の併合罪の関係にあるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあると主張する。
しかし,本件のように児童の陰部等を触るなどのわいせつな行為をするとともに,その行為等を撮影して児童ポルノを製造した場合,わいせつな行為と児童ポルノを製造した行為とは,かなりの部分で重なり合っていることもあるが,通常伴う関係にあるとはいえない上,強制わいせつ罪では児童の陰部を触るなどのわいせつな行為を行ったという側面から犯罪とされているのに対し,児童ポルノ製造罪ではそのような児童の姿態を撮影して記録・保存する行為を行ったという側面から犯罪とされているのであって,それぞれの行為は社会的評価としても別個のものといえる。
原判決は,これと同様の理由で,第1事実の各強制わいせつ罪と,それと同一機会における第2事実の各児童ポルノ製造罪をいずれも併合罪の関係にあるとしたものと解され,原判決の法令適用に誤りはなく,論旨は理由がない。
5 理由齟齬の論旨について
所論は,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の関係について,原判決が,第1及び第2事実の両罪を併合罪の関係にあるとしながら,第3事実の両罪を観念的競合とした点に理由齟齬があると主張する。
しかし,原判決は,第1及び第2事実の両罪と,第3事実の両罪とでは,強制わいせつ行為の内容・性質が大きく異なることなどを理由に,両罪の関係について異なる判断をしたものと解されるから,理由に齪鋸があるとはいえない。
6量刑不当の論旨について
令和3年7月14日
大阪高等裁判所第6刑事部

高額の対償を供与すると欺して性交等しても不同意性交罪(177条2項)は適用されないし、欺して裸画像を撮影送信させても、不同意わいせつ罪(176条2項)は適用されない。

高額の対償を供与すると欺して性交等しても不同意性交罪(2項)は適用されないし、欺して裸画層を撮影送信させても、不同意わいせつ罪(2項)は適用されない。

 欺した場合は、176条2項とか177条2項が検討されるわけですが、お金を払うと欺した場合には適用されません。

第一七六条(不同意わいせつ)
2行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

第一七七条(不同意性交等)
2行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。

 性行為にあたっては、いろいろ不実の事実が告げられるじゃないですか。「独身だ」「俺は金持ちだ」「結婚しよう」「金払う」「避妊する」とか。
 それは「相手方の職業、資力や婚姻関係の有無という属性に関する誤信があるにすぎないことから、いずれも、「行為をする者について人述い」している場合には該当しない。
このように、改正後の刑法第176条第2項及び第177条第2項において、行為の相手方の社会的地位等といった属性について誤信があるにすぎない場合を処罰の対象としていないのは、このような誤信は、言わば、性的行為をする動機に関する誤信であり、現時点において、そのような誤信があることのみをもって処罰対象とすべきであるとまでは必ずしもいえないと考えられることによるものである。」とされています。


 欺した児童買春については、高裁判例があって、性行為については真摯な承諾がある・有効な対償供与約束があるという認定になっています。

名古屋高等裁判所金沢支部平成14年3月28日(公刊物未掲載)
第1 控訴趣意中,事実の誤認の論旨(控訴理由第19)について
 所論は,原判決は,原判示第2,第3の1及び第4の各児童買春行為について,対償の供与の約束をしたことを認定したが,証拠によれば,被告人にはこのような高額な対償を支払う意思はなく,詐言であったことが明らかであるとし,このような場合には児童買春処罰法2粂2項にいう代償の供与の約束をしたことには当たらないから,同法4条の児童買春罪(以下,単に「児童買春罪」という。)は成立しないという。
 しかしながら,児童買春は,児童買春の相手方となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであることから規制の対象とされたものであるところ,対償の供与の約束が客観的に認められ,これにより性交等がされた場合にあっては,たとえ被告人ないしはその共犯者において現実にこれを供与する具体的な意思がなかったとしても,児童の心身に与える有害性や社会の風潮に及ぼす影響という点に変わりはない。しかも,規定の文言も「その供与の約束」とされていて被告人らの具体的意思如何によってその成否が左右されるものとして定められたものとは認め難い。対償の供与の約束が客観的に認められれば,「その供与の約束」という要件を満たすものというべきである。関係証拠によれば,原判示第2,第3の1及び第4のいずれにおいてもそのような「対償の供与の約束」があったと認められる。所論は採用できない(なお,所論は,形式的な「対償の供与の約束」でよいというのであれば,準強姦罪で問うべき事案が児童買春罪で処理されるおそれがあるとも主張するが,準強姦罪は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて姦淫した」ことが要件とされているのに対し,児童買春罪では対償を供与することによって性交等する関係にあることが必要であって,両者は明らかにその構成要件を異にするから,所論を採用することはできない。)。
第2 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の論旨(控訴理由第4及び第23)について
1 所論は,原判示第2ないし第4の各行為は,被害者らの真摯な承諾なく抗拒不能の状態でされたもので,強姦,準強姦,強制わいせつ,準強制わいせつ罪に当たるとし,いずれについても被害者らの告訴はなく,親告罪たる強姦罪等の一部起訴は許されないから,本件起訴は違法であって訴訟手続の法令違反があるという(控訴理由第23)。
 しかしながら,児童買春罪や児童買春処罰法7条2項の児童ポルノ製造罪(以下,単に「児童ポルノ製造罪」という。)は親告罪ではなく,しかも強姦罪等とは構成要件を異にしていて,児童買春罪等が強姦罪等と不可分の一体をなすとはいえず,原判示第2ないし第4が強姦罪等の一部起訴であるとはいえないから,告訴欠如の如何を論ずるまでもなく(最高裁昭和28年12月16日大法廷判決・刑集7巻12号2550貢参照),所論は失当である。なお,被告人の捜査段階及び原審公判の供述,共犯者の捜査段階の供述並びに被害者らの各供述によると,被告人らが被害者らに対して,畏怖させるような脅迫言辞を申し向けたことは認められない上,被害者らが性交等に及ぶ際あるいはその後の被告人らとのやりとりをみると,被害者らが恐怖心もあって買春に応じたと述べる部分もあるものの,他方で,買春行為の後,明日は行かないから,1日目の分だけお金を払って欲しい旨の電子メールを被告人に送信したり(原判示第2),これだけ恥ずかしい思いをしたのだからお金はもらって当然と思い,振込みでなく現金で欲しい旨申し出,受取りのため被告人が説明した場所に赴いたり(同第3の1),2度にわたって性交等に応じ,しかも2度目の際被告人に名刺を要求してこれを受け取り,記載してあった電話番号に電話をかけたり(同第4)していることなどが認められ,これら言動からすると,所論指摘の点を踏まえても,被害者らは対償の供与の約束により買春行為に応じたものと認めるのが相当であり,各被害者が抗拒不能の状況にあったということはできない。

法務省刑事局付梶美紗「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要(1)

(エ) 「行為がわいせつなものではないとの誤信」及び「行為をする者について人違い」(改正後の刑法第176条第2項及び第177条第2項)の意義
「行為がわいせつなものではないとの誤信」とは、現に行われようとしている行為(実行行為)が、わいせつなものではないとの錯誤があることを意味するものであり、例えば、
○真実はわいせつな行為であるのに、医療行為であると誤信している場合
などがこれに該当する。
「行為をする者について人違い」とは、行為者の同一性について錯誤があることを意味するものであり、例えば、
○真実は夫とは別の人物であるのに、暗闇の中で、行為者を夫と勘違いした場合などがこれに該当する。
これに対し、行為者の同一性は正しく認識した上で、その属性に関する誤信をしているにすぎない場合には、「人違い」には該当しない(注10)

(注10) 例えば、
○真実は無職であるのに金持ちの社長であると偽られ、そのように誤信した場合
○真実は既婚者であるのに、未婚者であると偽られ、そのように誤信した場合
については、相手方の職業、資力や婚姻関係の有無という属性に関する誤信があるにすぎないことから、いずれも、「行為をする者について人述い」している場合には該当しない。
このように、改正後の刑法第176条第2項及び第177条第2項において、行為の相手方の社会的地位等といった属性について誤信があるにすぎない場合を処罰の対象としていないのは、このような誤信は、言わば、性的行為をする動機に関する誤信であり、現時点において、そのような誤信があることのみをもって処罰対象とすべきであるとまでは必ずしもいえないと考えられることによるものである。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025060200884&g=soc
再逮捕容疑は昨年10月5~8日、女子高生の下半身などを写した画像21枚と動画4本を送信させ、保存した疑い。
 同署によると、容疑者は昨年9月にインスタグラムで女子高生と知り合い、「写真50枚、動画35本の1セットで200万円以上払う」とメッセージを送信。画像などを送らせたが、現金は支払わなかった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/eea10a77908eddd1f662df12e2a262152eb4646b
17歳の女子高校生に「2500万円渡すから会おうよ」などと約束して自宅に誘い出し、みだらな行為をした疑いがもたれています。
 警視庁によりますと容疑者は少女とSNSで知り合い、裸の写真を送らせるなどしていたほか、約束した金銭は支払っていませんでした。

鳥取県青少年健全育成条例の「生成AIその他の情報処理に関する技術を利用し、青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録及びその記録媒体」は、児童ポルノ法の「児童ポルノ」ではない。

鳥取県青少年条例の「生成AIその他の情報処理に関する技術を利用し、青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録及びその記録媒体」は、児童ポルノ法の「児童ポルノ」ではない。

 国も法律の定義は

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
(定義)
第二条 
1 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

とされています。
 この2条3項

3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

について、条例10条では

9 この章以下において「児童ポルノ等」とは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいい、生成AIその他の情報処理に関する技術を利用し、青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録及びその記録媒体を含む。

として拡張しようとするものです。
 解釈ではなく拡張だと思います。

 条例10条9項の「青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)」」も含めるというのは

東京地裁h28.3.15
児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には,実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき,そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については,同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべきである。
 そして,このことは,当該CGが,実在の児童を直接見ながら描かれたのでなく,実在の児童を写した写真を基に描かれた場合であっても,それが同写真(写真撮影時には,架空の児童でなく被写体の児童が存在していることが前提である。)を忠実に描き,上記の意味において同写真と同一と判断できる場合についても,同様と解すべきである。
・・・・・
東京高裁h29.10.,24
しかし,必ずしも,被写体となった児童と全く同一の姿態,ポーズをとらなくても,当該児童を描写したといえる程度に,被写体とそれを基に描いた画像等が同一であると認められる場合には,その児童の権利侵害が生じ得るのであるから,処罰の対象とすることは,何ら法の趣旨に反するものではないというべきである
・・・・
最決r02.1.27
原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,被告人は,昭和57年から同59年にかけて初版本が出版された写真集に掲載された写真3点の画像データ(以下,上記写真3点又はそれらの画像データを「本件各写真」という。)を素材とし,画像編集ソフトを用いて,コンピュータグラフィックスである画像データ3点(以下「本件各CG」という。)を作成した上,不特定又は多数の者に提供する目的で,本件各CGを含むファイルをハードディスクに記憶,蔵置させているところ(以下,被告人の上記行為を「本件行為」という。),本件各写真は,実在する18歳未満の者が衣服を全く身に着けていない状態で寝転ぶなどしている姿態を撮影したものであり,本件各CGは,本件各写真に表現された児童の姿態を描写したものであったというのである。
 上記事実関係によれば,被告人が本件各CGを含むファイルを記憶,蔵置させたハードディスクが児童ポルノであり,本件行為が児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪に当たるとした第1審判決を是認した原判断は正当である。

という判決文を参考にして起案されたと思われますが、この判決は、別途児童のヌード写真集があって、裸の写真があって、胸とか陰部とかも写真がある場合に、
  実在の児童を写した写真を基に描かれた場合
で、
  同写真を忠実に描いた場合
というわけですから、胸とか陰部も写真のまま描かれたものです。
国法は、条例のいうように「青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)」として、顔だけから、乳房陰部を想像で描いたものも含むという解釈ではありません。

https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1378851/kaiseigozenbun.pdf
鳥取県青少年条例
第10条
9 この章以下において「児童ポルノ等」とは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいい、生成AIその他の情報処理に関する技術を利用し、青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録及びその記録媒体を含む。
・・・
児童ポルノ等の提供の求めの禁止)
第18条の2 何人も、正当な理由がなく、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めてはならない。 (児童ポルノ等の作成、製造及び提供の禁止)
第18条の3 何人も、児童ポルノ等の作成又は製造(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる作成又は製造を含む。)をしてはならない。 2 何人も、SNSの利用その他の手段により児童ポルノ等の提供(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる提供を含む。)をしてはならない。

裁判年月日  平成28年 3月15日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(特わ)1027号
事件名  児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果  有罪(懲役1年及び罰金300万円、執行猶予3年(求刑 懲役2年及び罰金100万円))  上訴等  控訴<破棄自判>  文献番号  2016WLJPCA03156003

第3  本件16点の画像データが記録されたハードディスクが児童ポルノ法2条3項の「電磁的記録に係る記録媒体」として児童ポルノに当たり得るか否か(本件公訴事実第1),また,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」(本件公訴事実第2)に当たり得るか否か
 1  本件CGが児童ポルノ法2条3項3号の要件該当性を満たすものか否かは後に検討するが,そもそも写真ではなく,本件16点の画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項の「児童ポルノ」に当たるか否か,また,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たるか否か,そして,それが,実在の児童を直接見ながら描かれたものではなく,写真を基に描かれたものであってもそれらに当たり得るか否かを検討する。
 2  児童ポルノ法は,18歳未満の者である「児童」に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み,あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ,児童買春,児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに,これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより,児童の権利を擁護することを目的としている(同法1条)。そして,同法7条は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を及ぼし続けるだけではなく,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えるため,児童ポルノを製造,提供するなどの行為を処罰するものである。こうした目的や趣旨に照らせば,「適用に当たっては,国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」(同法3条)ものの,同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物については,CGの画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たり得,また,同画像データは同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たり得るというべきである(なお,実在の児童を描写した絵であっても,同法2条3項柱書の「その他の物」として児童ポルノに当たり得るというべきである。)。そして,このような児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨に照らせば,同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい,実在しない児童の姿態は含まないものと解すべきであるが,被写体の全体的な構図,CGの作成経緯や動機,作成方法等を踏まえつつ,特に,被写体の顔立ちや,性器等(性器,肛門又は乳首),胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において,当該CGに記録された姿態が,一般人からみて,架空の児童の姿態ではなく,実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には,実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき,そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については,同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべきである。
 そして,このことは,当該CGが,実在の児童を直接見ながら描かれたのでなく,実在の児童を写した写真を基に描かれた場合であっても,それが同写真(写真撮影時には,架空の児童でなく被写体の児童が存在していることが前提である。)を忠実に描き,上記の意味において同写真と同一と判断できる場合についても,同様と解すべきである。
 この点,弁護人は,①児童ポルノ法の「製造」とは,実在する児童が被写体となって,実際にポーズをとらせて写真,その他の物に直接記録することをいい,機械的な複写の場合を除いては,実在の児童を被写体として直接描写するものでない限り,同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」に該当しない,②児童ポルノ法7条3項は,実在する児童が被写体となり,実際にポーズ等をとったものを描写することを予定しており,同条5項も,同条3項と同じく製造罪に関する条項であるが,両者で「製造」を区別するべき合理的な理由はなく,同条5項においても,実在する児童が被写体となって,実際に撮ったポーズを写真その他の物に直接記録することを意味すると主張する。
 しかしながら,実在の児童の姿態を撮影した写真を基に描かれた場合であっても,出来上がった画像が,一般人からみて実在の児童の姿態を描写したものと認められ,それがさらに不特定多数の者に提供されるなどして拡散する危険がある限り,前記児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨からそれを規制する必要があることは,実在の児童の姿態を直接見て描写する場合と異なるものとは解されない。このことは,児童ポルノ法は,児童ポルノを「児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの」と定義しており(同法2条3項),実在する児童の姿態を直接見て描写したものであることを要件としていないことや,同法7条3項と異なり,同条4項に掲げる行為の目的が存在することを要件としている同条5項においては,「製造」についてその方法を具体的に定めておらず,その手段は限定されていないこととも整合すると解される。
 前記弁護人の主張は採用できない。

裁判年月日  平成29年 1月24日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(う)872号
事件名  児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果  破棄自判・一部無罪、一部有罪(罰金30万円(求刑 懲役2年及び罰金100万円))  上訴等  上告 
文献番号  2017WLJPCA01246001

   ア  児童の実在性について
 (ア) 所論は,原判決が,「一般人からみて,架空の児童の姿態ではなく,実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には,実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき」ると説示した点をとらえて,一般人が,実在の児童の姿態を忠実に描写したと認識しさえすれば,実在しない児童の姿態を描写した場合についても処罰の対象となる趣旨であるとして,この点を種々論難する。
 そもそも,原判決は,前記のとおり,児童が実在することを要するとの前提に立った上,本件CGについて,被写体となった児童が実在するか否かを,各CGの元となった素材画像の写真の出典等について検討した上で判断し,実在性が認められたものについてのみ,児童ポルノに該当すると判断したのであるから,実在しない児童の姿態を描写した場合も処罰の対象となるという判断をしたとの所論は,前提を欠くものである。
 さらに,原判決が上記のように説示した趣旨は,その実際の判断過程に即してみると,素材画像の被写体となった児童の実在性が認められた場合に,当該CGの画像等が,その実在する児童を描写したといえるかどうか,すなわち,被写体となった実在の児童とそれを基に作成されたCG画像等が,同一性を有するかどうかを判断するに当たって,一般人の認識という基準を用いたものと解される。このように,通常の判断能力をもつ一般人が,社会通念に照らして実在する児童と同一であると認識できる場合には,当該描写行為等が処罰の対象となることを認識できるから,このような基準を採用したからといって,刑罰法規の明確性を害するものではない。そうすると,原判決の前記説示は,いささか表現が不明確ではあるものの,その判断に誤りはない。所論は,原判決を正解しないものであって,採用の限りでない。
 (イ) 所論は,「児童の姿態」とは,実在する児童が被写体となって,実際にとった姿態に限られると主張し,一般人がどう認識しようが,実在しない児童の姿態を処罰の対象とすることは法の趣旨を逸脱するものであると主張する。しかし,必ずしも,被写体となった児童と全く同一の姿態,ポーズをとらなくても,当該児童を描写したといえる程度に,被写体とそれを基に描いた画像等が同一であると認められる場合には,その児童の権利侵害が生じ得るのであるから,処罰の対象とすることは,何ら法の趣旨に反するものではないというべきである(児童ポルノ法の趣旨については,後に検討する。)。
 なお,この点に関して,所論は,当審で取り調べたA4氏の意見書(当審弁1。以下「A4意見書」という。)を引用し,写真を参考にした絵画表現は,機械による複写とは異なり,独立した新たな創作物であるから,手描きの作品を機械による複製と同視することは,罪刑法定主義に反するとも主張する。そもそも,被告人の本件CGの作成方法については,原判決が認定するとおり,一から手描きで描いたものではなく,パソコンのソフトを利用して素材画像をなぞるなどして作成されたものであると認められ,純粋な手描きによる絵画とは異なるものであるが,この点を措くとしても,一般に,写真による複写の場合であっても,現在の技術を前提とすれば,データを容易に加工することが可能であり,他方,手描きによる場合であっても,被写体を忠実に描写することも可能であることからすれば,必ずしも,描写の方法いかんによって児童ポルノの製造に当たるか否かを区別する合理的な理由はないというべきである。描写の方法がいかなるものであれ,上記のとおり,実在する児童を描写したといえる程度に同一性の認められる画像や絵画が製造された場合には,その児童の権利侵害が生じ得るのであるから,そのような行為が児童ポルノ法による処罰対象となることは,同法の趣旨に照らしても明らかである。ちなみに,児童ポルノに絵画が含まれ得ることは,児童ポルノ法の立法段階においても前提とされていたことである。
 所論は採用できない。

裁判年月日  令和 2年 1月27日  裁判所名  最高裁第一小法廷  裁判区分  決定
事件番号  平29(あ)242号
事件名  児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果  棄却  文献番号  2020WLJPCA01279001


要旨
◆児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)2条3項にいう「児童ポルノ」の意義
◆児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)7条5項の児童ポルノ製造罪の成立と児童ポルノに描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることの要否

判例タイムズ社(要旨)】
◆1.児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)2条3項にいう「児童ポルノ」の意義
◆2.児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)7条5項の児童ポルノ製造罪の成立と児童ポルノに描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることの要否

 
裁判経過
控訴審 平成29年 1月24日 東京高裁 判決 平28(う)872号 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
第一審 平成28年 3月15日 東京地裁 判決 平25(特わ)1027号 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件

 
出典
刑集 74巻1号119頁
裁時 1740号3頁
裁判所ウェブサイト
判タ 1487号166頁 
判時 2497号102頁
 
評釈
村田一広・曹時 74巻9号212頁 
村田一広・ジュリ 1563号104頁 
仲道祐樹・ジュリ臨増 1557号126頁(令2重判解) 
鎮目征樹・論究ジュリ 38号234頁 
松本麗・研修 870号13頁
前田雅英・WLJ判例コラム 194号(2020WLJCC006)   
Westlaw Japan・新判例解説 1248号(2020WLJCC133)   
永井善之・法セ増(新判例解説Watch) 27号177頁
岡野誠樹・法セ増(新判例解説Watch) 27号13頁
玉本将之・警察学論集 73巻7号180頁
横山亞希子・警察公論 75巻9号86頁
菊地一樹・刑事法ジャーナル 65号119頁
上田正基・神奈川法学 54巻3号43頁
 
参照条文
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項(平26法79改正前)
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条5項(平26法79改正前)
 



裁判年月日  令和 2年 1月27日  裁判所名  最高裁第一小法廷  裁判区分  決定
事件番号  平29(あ)242号
事件名  児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果  棄却  文献番号  2020WLJPCA01279001


 
主文

 本件上告を棄却する。
 

 
理由

 弁護人山口貴士ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論に鑑み,職権で判断する。
 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの。以下「児童ポルノ法」という。)2条1項は,「児童」とは,18歳に満たない者をいうとしているところ,同条3項にいう「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって,同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい,実在しない児童の姿態を描写したものは含まないものと解すべきである。
 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,被告人は,昭和57年から同59年にかけて初版本が出版された写真集に掲載された写真3点の画像データ(以下,上記写真3点又はそれらの画像データを「本件各写真」という。)を素材とし,画像編集ソフトを用いて,コンピュータグラフィックスである画像データ3点(以下「本件各CG」という。)を作成した上,不特定又は多数の者に提供する目的で,本件各CGを含むファイルをハードディスクに記憶,蔵置させているところ(以下,被告人の上記行為を「本件行為」という。),本件各写真は,実在する18歳未満の者が衣服を全く身に着けていない状態で寝転ぶなどしている姿態を撮影したものであり,本件各CGは,本件各写真に表現された児童の姿態を描写したものであったというのである。
 上記事実関係によれば,被告人が本件各CGを含むファイルを記憶,蔵置させたハードディスクが児童ポルノであり,本件行為が児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪に当たるとした第1審判決を是認した原判断は正当である。
 所論は,児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪が成立するためには,児童ポルノの製造時において,当該児童ポルノに描写されている人物が18歳未満の実在の者であることを要する旨をいう。しかしながら,同項の児童ポルノ製造罪が成立するためには,同条4項に掲げる行為の目的で,同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した物を製造すれば足り,当該物に描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しないというべきである。所論は理由がない。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官山口厚の補足意見がある。
 裁判官山口厚の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見に全面的に賛同するものであるが,補足して意見を述べておきたい。
 児童ポルノ法2条3項に定める児童ポルノであるためには,視覚により認識することができる方法で描写されたものが,実在する児童の同項各号所定の姿態であれば足りる。児童ポルノ法7条が規制する児童ポルノの製造行為は,児童の心身に有害な影響を与えるものとして処罰の対象とされているものであるが,実在する児童の性的な姿態を記録化すること自体が性的搾取であるのみならず,このように記録化された性的な姿態が他人の目にさらされることによって,更なる性的搾取が生じ得ることとなる。児童ポルノ製造罪は,このような性的搾取の対象とされないという利益の侵害を処罰の直接の根拠としており,上記利益は,描写された児童本人が児童である間にだけ認められるものではなく,本人がたとえ18歳になったとしても,引き続き,同等の保護に値するものである。児童ポルノ法は,このような利益を現実に侵害する児童ポルノの製造行為を処罰の対象とすること等を通じて,児童の権利の擁護を図ろうとするものである。
 (裁判長裁判官 深山卓也 裁判官 池上政幸 裁判官 小池裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口厚)
 

https://www3.nhk.or.jp/lnews/tottori/20250602/4040020472.html
ことし4月に施行された鳥取県の改正・青少年健全育成条例では、県内の子どもの顔写真をAIの技術でわいせつな画像や動画に加工したものを「児童ポルノ」と規定し、作成や他人への提供を禁止しています。

県では条例の違反者に対する罰則として刑事罰を導入できるか検討していましたが、検察庁はこれに否定的な見解を伝えたということです。

これを受けて鳥取県は、刑事罰の導入を断念したうえで、行政罰を盛り込んだ条例の改正案を2日、県で開かれた会議で示しました。

それによりますと違反者には5万円以下の過料を科すとしています。

そのうえで、画像や動画の廃棄や削除を命じることにしていて、これに従わない場合は、追加で5万円以下の過料を科すほか、違反者の氏名を公表するということです。

平井知事は「子どもたちの人生が傷つけられないことに価値をおきたい。県として責任を持って取り組む意志を条例で明確化したい」と述べました。

追記 2025/06/13
検察協議の経緯を見ると、
鳥取県は罰金30万円の罰則を付けたかったようですが、検察庁が反対したので、見送られています。

令和7年6月議会上程案
児童ポルノ等の作成、製造及び提供の禁止)
第18条の3 何人も、児童ポルノ等の作成又は製造(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる作成又は製造を含む。)をしてはならない。
児童ポルノ等の提供の求めの禁止)
第18条の2 何人も、正当な理由がなく、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいう。)の提供を求めてはならない。2 何人も、SNSの利用その他の手段により児童ポルノ等の提供(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる提供を含む。)をしてはならない。

第26条 略
2~4 略
5 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、30 万円以下の罰金に処する。
(1)~(3) 略
(4) 第18条の2及び第18条の3の規定に違反したとき

第202500049485号
令和7年5月15日
鳥取地方検察庁検事正 様
鳥取県総務部長
罰則規定を含む条例の一部改正について(協議)
このことについて鳥取県青少年健全育成条例(昭和55年鳥取県条例第34号)を一部改正したいと考えています。
ついては、別添資料を送付しますので、令和7年5月22日(木)までに御意見をお聞かせください。

鳥地検企発第53号  
令和7年5月28日  
鳥取県総務部長 殿
鳥取地方検察庁検事正 福居幸一   
罰則規定を含む条例の一部改正について(回答)
 本月15日付け第202500049485号をもって協議依頼のあった「罰則規定を含む条例の一部改正について」について、下記のとおり回答します。

 本件条例第26条第5項第4号は、明確性及び現行法との適合性につき疑義がある同第18条の3の規定に違反した者を罰則の対象とするものであることから、適用することは困難であると思料する

令和7年6月議会上程案
児童ポルノ等の作成、製造及び提供の禁止)
第18条の3 何人も、児童ポルノ等の作成又は製造(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる作成又は製造を含む。)をしてはならない。
児童ポルノ等の提供の求めの禁止)
第18条の2 何人も、正当な理由がなく、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいう。)の提供を求めてはならない。
2 何人も、SNSの利用その他の手段により児童ポルノ等の提供(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる提供を含む。)をしてはならない。

第26条 略
2~4 略
5 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、30 万円以下の罰金に処する。
(1)~(3) 略
(4) 第18条の2及び第18条の3の規定に違反したとき

不同意性交致傷で求刑9年宣告10年(東京地裁r6.7.24)

不同意性交致傷で求刑9年宣告10年(東京地裁r6.7.24)


 DBで検索した痕跡がありますが、「本件犯行は同種事案(路上類型、性交の点未遂、凶器等あり、傷害の程度2週間以内、被害者の年齢13歳以上)の中でも重い部類に属すると評価するのが相当な事案であり、特に上記のとおりの被告人に対する責任非難の大きさに照らすと、検察官の求刑はやや軽いと言わざるを得ない。」で、9年じゃなく10年が出てくるんですかねえ




判年月日  令和 6年 7月24日  裁判所名  東京地裁 
事件番号  令6(合わ)74号
事件名 
文献番号  2024WLJPCA07246002
出典Westlaw Japan
上記の者に対する不同意性交等致傷被告事件について、当裁判所は、検察官小沼智及び同小方もも並びに国選弁護人W1(主任)及び同W2各出席の上審理し、次のとおり判決する。  
主文
 被告人を懲役10年に処する。
 未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は、通行中の女性を同意しない意思を全うすることが困難な状態にさせて性交等をしようと考え、令和6年2月26日午後8時15分頃、東京都墨田区〈以下省略〉先○○緑地土手上の路上において、別紙記載のA(当時15歳)に対し、いきなりその背後から抱き付き、その口を手で塞いで同人を同土手の斜面に押し倒した上、「殺すぞ。」などと言ってその首元にカッターナイフを突き付け、頭部付近を殴るなどの暴行、脅迫を加えたことにより同意しない意思を全うすることが困難な状態にさせ、同所において、同人の胸を着衣の上から手でもみ、同人と性交等をしようとしたが、通行人の存在に気付いてその場から逃走したため、その目的を遂げず、その際、前記暴行により、同人に全治まで約2週間を要する頭部打撲割創等の傷害を負わせた。
 (累犯前科)
 被告人は、平成28年12月26日山形地方裁判所強姦罪により懲役6年に処せられ、令和4年10月15日その刑の執行を受け終わったものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書(職1)によって認める。
 (法令の適用)
 (量刑の理由)
 被告人は、強姦未遂と強姦の同種前科2犯を有するところ、直近の刑の執行終了後僅か1年4か月余りで本件犯行に及んだばかりか、これまでの経験を踏まえてゴム手袋等を準備して犯行に臨んでいる。2度の服役での学びを反省と更生の機会にするどころか、出所後ほどなくして、若い女性と無理やり性交するという欲求を満たすべく犯行の手口をエスカレートさせていったという本件の経緯は、同種事案の中でも悪質性が際立っている点といえ、被告人については強い非難が妥当する。犯行態様も、被害者の後を付けて周囲に人気がなくなるのを待って本件犯行に及び、逃れようと激しく抵抗する被害者を所持していたカッターナイフで殴打したり押さえつけたりするなどというものであり、被告人の強い犯意もうかがえる。気丈に抵抗し続けた本件の被害者だからこそ、着衣の上から胸をもまれるわいせつ被害にとどまったものの、性交被害にまで至る現実的な危険性が認められる態様である。そうすると、性交の点が未遂にとどまり、傷害結果そのものが比較的軽いことを踏まえても、本件は、被害者の性的自由や身体の安全を大きな危険に晒し、恐怖等の多大な精神的苦痛を与えて高校生になる前の被害者の人生を一変させる重大な犯行というべきである。実際に、被害者やその母は心情の意見陳述において自らの置かれた苦しい立場や心境を述べており、当然ながら被告人の厳罰を求めている。
 以上にみた犯情からすると、本件犯行は同種事案(路上類型、性交の点未遂、凶器等あり、傷害の程度2週間以内、被害者の年齢13歳以上)の中でも重い部類に属すると評価するのが相当な事案であり、特に上記のとおりの被告人に対する責任非難の大きさに照らすと、検察官の求刑はやや軽いと言わざるを得ない。
 そうすると、被告人が犯行を認めて被害者に対する謝罪や反省の弁を述べていること、更生支援計画に従う旨約束していることなど被告人に有利な一般情状を考慮に入れ、検察官の求刑も踏まえて慎重に検討しても、本件犯行に対する責任としては判示の期間の実刑が相当であると判断した。
 よって、主文のとおり判決する。
 (求刑―懲役9年、弁護人科刑意見―懲役6年)
 令和6年7月26日
 東京地方裁判所刑事第15部
 (裁判長裁判官 香川徹也 裁判官 四宮知彦 裁判官 橋詰沙羅)

小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の各犯行につき、懲役4年を求刑された事案において保護観察付き執行猶予になった事例(横浜地裁R5.12.6)

小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の各犯行につき、懲役4年を求刑された事案において保護観察付き執行猶予になった事例(横浜地裁R5.12.6)
 盗撮の被害児童数は100人近いと思いますが、それは盗撮1回1罪になっています。
 私的な精神鑑定をやって、心神耗弱を主張したのが、量刑理由に効いています。

【文献番号】25596585
横浜地方裁判所令和4年(わ)第687号、令和4年(わ)第1028号
令和5年12月6日第1刑事部判決
       判   決

職業 会社員 a 昭和59年○○月○○日生
 上記の者に対する強制わいせつ、建造物侵入、栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、窃盗被告事件について、当裁判所は、検察官地引彩乃並びに弁護人小松圭介(主任)、奥村徹及び彦坂幸伸出席の上審理し、次のとおり判決する。
       主   文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
その猶予の期間中保護観察に付する。
訴訟費用は被告人の負担とする。


       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1 別紙記載の小学校において、下記の同校の女子生徒が18歳に満たない児童であることを知りながら、
1 平成31年4月17日午前9時頃から同日午前11時25分頃までの間に、ひそかに、同校保健室内に小型カメラを設置して健康診断のため露出した女子生徒71名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同日午後11時47分頃から同日午後11時50分頃までの間に、同市α区β××××番地××の当時の被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するノートパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
2 令和2年10月6日午前10時15分頃から同日午前11時25分頃までの間に、ひそかに、同校なかよしルーム内に小型カメラを設置して着替えのため露出した女子生徒6名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同月7日午前零時27分頃から同日午前零時28分頃までの間、前記被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
3 同月13日午前8時30分頃から同日午前11時35分頃までの間に、ひそかに、同校教室内に小型カメラを設置して着替えのために露出した女子生徒3名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、令和3年7月30日午後8時56分頃から同日午後8時58分頃までの間、前記被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
4 同年4月22日午前9時頃から同日午前11時25分頃までの間に,ひそかに、同校保健室内に小型カメラ2台を設置して健康診断のため露出した女子生徒23名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラ2台にそれぞれ装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同年7月30日午後9時6分頃、前記被告人方において、前記各マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
5 令和3年10月28日午前9時頃から同日午前10時20分頃までの間に、ひそかに、同校保健室内に小型カメラを設置して内科検診のため露出した女子生徒48名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同日午後9時59分頃から同日午後10時頃までの間、前記被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するノートパソコンの内蔵記録装置に記録して保存し、
もってひそかに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造し
第2 別紙記載のC(当時11歳)が13歳未満の者であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、同年9月22日午前10時40分頃から同日午後0時10分頃までの間に、同校2階図工準備室において、同人に対し、背後から同人の両脇を両手で抱えて持ち上げた際、着衣の上から両手で同人の両胸をもみ、もって13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をし
第3 同年10月7日午前9時18分頃、同校6年2組教室内において、別紙記載のA及びB所有のパンツ2枚(時価合計約300円相当)を窃取し
第4 女児の裸体を盗撮する目的で、同月31日午後6時頃から同日午後6時50分頃までの間に、株式会社b代表取締役cが看守する栃木県日光市γ××××番地同旅館別館d荘女性用大浴場脱衣室内に侵入した上、みだりに、その頃、同所において、同脱衣室内に動画撮影状態にした小型カメラ2台を設置し、もって公衆が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態の他人の身体を撮影する目的で、写真機等を設置し
たものである。
法令の適用
第1の1ないし5
いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条5項、同条2項、2条3項3号
第2
令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条後段
第3
各被害品ごとに刑法235条
第4
建造物侵入の点 刑法130条前段
カメラの設置の点 栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例9条1項、3条2項
科刑上一罪の処理
第3 刑法54条1項前段、10条(犯情の軽重を決することができないので、一罪として窃盗の刑で処断)
第4 刑法54条1項後段、10条(重い建造物侵入の刑で処断)
刑種の選択
第1の1ないし5、第3、第4
いずれも懲役刑
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い第2の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項本文
(弁護人の主張に対する判断)
4〔3〕心神耗弱の主張について
(1)弁護人は、被告人がADHD、パラフィリア(小児性愛障害、窃視障害)に罹患し、行動制御能力が著しく減弱した状態で本件各犯行に及んだから、心神耗弱であると主張する。
(2)被告人を診察したi医師(以下「i医師」という。)は、被告人はADHD、パラフィリア(小児性愛障害、窃視障害)に罹患しており、ADHDは、不注意と集中力の障害と、多動性、衝動性が主な症状であって、パラフィリアはこの衝動性のコントロールと関連があるところ、被告人の場合は、不注意と集中力の障害が主であるものの、仕事の忙しさ等のストレスで衝動性が亢進されたことが本件各犯行に影響したなどと証言している。
(3)i医師は、精神科医として十分な知識と経験を有しており、被告人が、ADHDやパラフィリアに罹患し治療を行うことが好ましい状態にあることが認められる。
 もっとも、i医師は、被告人の精神障害の本件各犯行への影響ではなく、病名を診断することを依頼され、これを主眼に診察し、本件各犯行の内容は詳細に聴取していないとし、ADHDによる衝動性が本件各犯行にどの程度影響したかなどまでは証言していない。
 そもそも、i医師の証言によっても、被告人のADHDの症状は不注意と集中力の障害が主である上、本件各犯行態様をみても、被告人は女子児童に性的興味を抱いていたものの、判示第2の強制わいせつでは、図工準備室にCと二人きりになったタイミングで、自然な流れを装って高い場所を見る必要があるなどとCを抱きかかえ判示の犯行に及び、他の教師に声を掛けられると図工準備室にいた理由をごまかすなどしてその後は犯行を継続せず、判示第3の窃盗、判示第1及び第4の盗撮でも、女子児童が着替え等で裸になったり下着を教室内に置いておくという、学校内で頻繁に起こる状況の中から、各犯行が可能なタイミングを見計らって犯行に及んでいるのである。
 以上からすると、被告人がADHDやパラフィリアに罹患しており、その影響が否定できないとしても、本件各犯行への影響は大きくなく、完全責任能力の状態であったと認められる。
(量刑の理由)
 本件は、小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の事件である。
 強制わいせつの事件についてみると、被告人は、授業中に画材を探す被害者と図工準備室で二人きりとなり、自然な流れを装って後ろから抱きかかえて両胸を揉み、また、窃盗や盗撮の事件についても、授業等のスケジュールを踏まえ、教室等への出入りが不自然とならないタイミングを見計らって行ったもので、いずれの犯行も教師という立場に乗じて行ったものである。服の上からとはいえ胸を揉まれたり、パンツを持ち出されたり、着替え等を盗撮されたという被害内容自体をみても、被害児童の受けた精神的苦痛やその影響が懸念されるが、ましてや、児童を保護する立場にある教師による犯行であることを考慮すると、その影響は一層懸念される。
 したがって、被告人の責任は重いといわざるを得ないが、被告人が反省の弁を述べ、既に児童に関わる仕事からは離れていること、前科のないこと、被告人の罹患するADHDの本件各犯行への影響について否定まではできず、被告人が治療を受け続けると述べていることなどを考慮し、最長の執行猶予期間とその間の保護観察を付した上で、執行猶予付きの判決をすることとした。
(求刑 懲役4年)
令和5年12月20日
横浜地方裁判所第1刑事部
裁判官 小泉満理子

被害者8歳・9歳の場合は、監護者性交・監護者わいせつか?

 起訴段階では、おそらく不同意性交罪(177条3項)・不同意わいせつ罪(176条3項)が適用されると思います。立証が楽だからです。
 なお、監護者わいせつ・不同意わいせつと児童ポルノ製造罪とは観念的競合という裁判例があります。

法務省大臣官房審議官加藤俊治「性犯罪に対処するための刑法改正の概要」ひろばH29.8
(4)本罪と他罪との罪数関係については、法制審議会あるいは国会における審議の過程において必ずしも詳細な議論がなされていないところであるが、私見においては、監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪は、準強制わいせつ罪及び準強制性交等罪が存在することを前提に、既存の罰則では処罰できない事案に対応するために設けられたものであるから、準強制わいせつ罪又は準強制性交等罪が成立する場合には、重ねて監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪は成立しない(いわゆる補充関係にある)ものと考えている。

https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E5%85%83%E4%BA%A4%E9%9A%9B%E7%9B%B8%E6%89%8B%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%AB%E6%80%A7%E7%9A%84%E3%81%AA%E8%A1%8C%E7%82%BA%E3%82%92%E3%81%97%E3%81%A6%E6%92%AE%E5%BD%B1%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%8B-%E7%9B%A3%E8%AD%B7%E8%80%85%E6%80%A7%E4%BA%A4%E7%BD%AA%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%81%AE%E7%96%91%E3%81%84%E3%81%A7%E7%94%B7%E9%80%AE%E6%8D%95/ar-AA1Fjper?ocid=BingNewsVerp
元交際相手の子どもに性的な行為をしたとして、兵庫県高砂市の38歳の男と、元交際相手の30代の女が逮捕されていたことが23日、分かりました。

監護者性交と監護者わいせつ、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕されたのは、高砂市の会社員の男(38)と、男と去年まで交際していた30代の女の2人です。

2人は交際解消後の今年4月、男の自宅で女の娘(9)と息子(8)に性的な行為やわいせつな行為をし、それらの様子を一部、撮影していた疑いが持たれています。

監護者性交罪と監護者わいせつ罪は、親など18歳未満の子供を監護する立場にある者が、影響力を使って子供に性的な行為やわいせつな行為をすることを罰するものです。

警察によりますと、女は、男との交際を解消したあとも、子どもと一緒に男の自宅を訪れていたとみられます。警察の調べに対し、男は監護者性交罪と監護者わいせつ罪の内容を理解していなかったという趣旨の話をし、女は容疑を認めているということです

不同意わいせつ・強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪とを観念的競合にする裁判例94選

撮影行為はわいせつ行為なので、児童ポルノ製造行為と不同意わいせつ行為は完全にダブル関係にあるのですが、罪質が違うとか言って併合罪にされることが多かったわけですが、刑法改正で性的姿態撮影罪ができてから、一気に観念的競合に傾きました。

高松高裁r7.2.13
第3 法令適用の誤りの主張について
 1 原判示第1の事実について
   論旨は、原判示第1の所為のうち、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、その他の不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪及び児童ポルノ製造罪と併合罪の関係にあるにもかかわらず、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり、仮に併合罪関係にはないとしても、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、不同意わいせつを目的にその手段として行われたものであり、不同意わいせつ罪と牽連犯の関係にあるから、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
   そこで検討すると、原判示第1の不同意わいせつ罪は、当時30歳の被告人が、SNS上に性交相手を募集する内容の投稿をしていた当時14歳のAに対し、ダイレクトメッセージを送って自らがその相手となることを持ち掛けて待合せ場所を決めるなどした後、Aの陰茎を露出して写真を撮影してその画像を被告人に送ることを要求するメッセージを送信し、Aにこれを了承させ、その約3時間後に、Aに陰茎を露出させてそれを撮影させ、画像データを被告人に送信させたことにより行われたものである。このように原判示第1は、刑法176条3項のわいせつな行為としてAの行為を利用したものであるが、被告人は、前記のような状況にあったAに対し、自らの勃起した陰茎の写真を送るなどしながらAにも勃起した陰茎の写真を撮影して送信するよう求めるなどの性的意味合いの強い具体的な要求をし、すぐさまAに了承させ、Aに要求どおりの行為をさせており、このような事実関係の下において、本件の被告人のAに対する要求行為は、Aの性的自由の侵害を生じさせる客観的な危険性が認められるものであり、不同意わいせつ罪の実行行為に当たるとみることができる。
   そうすると、原判示第1の不同意わいせつ罪における実行行為に当たる、Aに対し陰茎を露出した姿態をとってその写真を撮影して送信することを要求した被告人の行為と、16歳未満の者に対する映像送信要求罪の実行行為に当たる要求行為は、同時に行われ、重なり合うものであり、それぞれにおける被告人の動態は社会的見解上1個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁、最高裁平成19年(あ)第619号同21年10月21日第一小法廷決定・刑集63巻8号1070頁参照)、原判示第1の16歳未満の者に対する映像送信要求罪と、不同意わいせつ罪及びこれと観念的競合の関係にある他の2罪は、刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるというべきである。原判決第1の事実について法令適用の誤りをいう論旨は理由がない。

 しかし、児童淫行罪と製造罪を併合罪にした最決H21.10.21の解説では、「両行為の性質」も考慮して併合罪になるとされているので、判例が安易に観念的競合説になるとは思えません。

判例タイムズ1326号134頁 最高裁判所第1小法廷 平成19年(あ)第619号 児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件 平成21年10月21日
匿名解説
4 刑法54条1項前段の観念的競合の要件である「一個の行為」に関しては,最大判昭49.5.29刑集28巻4号114頁,判タ309号234頁が,「一個の行為とは,法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう」としているが,具体的な当てはめについては,必ずしも容易でなかった面もあったように思われる。数個の罪名に触れる行為が完全に重なっていれば,これを「一個の行為」と解すベきことについては異論はないであろうし,行為の重なり合いが「一個の行為」性の判断において重要な要素であることも間違いないと思われる。しかし,上記大法廷判決に関しても,行為の重なり合いは「一個の行為」であるための必須の要件とは解されていなかったと指摘されていたのであり(本吉邦夫・昭49最判解説(刑)113頁,金築誠志・昭58最判解説(刑)322頁等参照),同判例における酒酔い運転と業務上過失致死のように,継続犯とその一時点で成立する他の罪については,行為に重なり合いがあるともいえるものの,「一個の行為」ではないとされるのが通常である。また,最一小判昭58.9.29刑集37巻7号1110頁,判タ509号88頁においては,覚せい剤取締法上の輸入罪と関税法上の無許可輸入罪について,それぞれの実行行為は重ならないと考えられるのに,「一個の行為」であることを認めている(同様の関係は,戸別訪問の罪とその機会に行われた各種違法選挙運動の罪が観念的競合とされていることについても存在するとの指摘もある。)。
  本件で問題となった3項製造罪については,「姿態をとらせ」の要件の意義をどう理解するかによって,同罪と児童淫行罪等との行為の重なり合いの判断も異なってくる可能性もあるが,本決定は,「被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの」としており,行為の重なり合いがあること自体は認めている(本決定が「姿態をとらせ」を構成要件として規定された行為ととらえていることは明らかである。)。その上で,
「両行為が通常伴う関係にあるといえないこと」や,
「両行為の性質等」
を挙げて,結論として両罪は併合罪であるとの判断をしており,「一個の行為」であるかの判断における考慮要素として,興味深い判示であるように思われる。実際に生じ得る事例を考えてみても,前記最三小決平成18年によれば複製行為についても3項製造罪を構成し得ることになるから,児童淫行罪等と児童ポルノ製造罪のそれぞれを構成する行為の同時性が甚だしく欠けることがあり,一事不再理効の及ぶ範囲等を考えても,併合罪説の方が妥当な結論を導くことができるように思われる。



1 名古屋 地裁 一宮 H17.10.13
2 東京 地裁 H18.3.24
3 東京 地裁 H19.2.1
4 東京 地裁 H19.6.21
5 横浜 地裁 H19.8.3
6 長野 地裁 H19.10.30
7 札幌 地裁 H19.11.7
8 東京 地裁 H19.12.3
9 高松 地裁 H19.12.10
10 山口 地裁 H20.1.22
11 福島 地裁 白河 H20.10.15
12 那覇 地裁 H20.10.27
13 金沢 地裁 H20.12.12
14 金沢 地裁 H21.1.20
15 那覇 地裁 H21.1.28
16 山口 地裁 H21.2.4
17 佐賀 地裁 唐津 H21.2.12
18 仙台 高裁 H21.3.3
19 那覇 地裁 沖縄 H21.5.20
20 千葉 地裁 H21.9.9
21 札幌 地裁 H21.9.18
22 名古屋 高裁 H22.3.4
23 松山 地裁 H22.3.30
24 那覇 地裁 沖縄 H22.5.13
25 さいたま 地裁 川越 H22.5.31
26 横浜 地裁 H22.7.30
27 福岡 地裁 飯塚 H22.8.5
28 高松 高裁 H22.9.7
29 高知 地裁 H22.9.14
30 水戸 地裁 H22.10.6
31 さいたま 地裁 越谷 H22.11.24
32 松山 地裁 大洲 H22.11.26
33 名古屋 地裁 H23.1.7
34 広島 地裁 H23.1.19
35 広島 高裁 H23.5.26
36 高松 地裁 H23.7.11
37 広島 高裁 H23.12.21
38 秋田 地裁 H23.12.26
39 横浜 地裁 川崎 H24.1.19
40 福岡 地裁 H24.3.2
41 横浜 地裁 H24.7.23
42 福岡 地裁 H24.11.9
43 松山 地裁 H25.3.6
44 横浜 地裁 H25.4.30
45 大阪 高裁 H25.6.21
46 横浜 地裁 H25.6.27
47 福島 地裁 いわき H26.1.15
48 松山 地裁 H26.1.22
49 福岡 地裁 H26.5.12
50 神戸 地裁 尼崎 H26.7.29
51 神戸 地裁 尼崎 H26.7.30
52 横浜 地裁 H26.9.1
53 津 地裁 H26.10.14
54 名古屋 地裁 H27.2.3
55 岡山 地裁 H27.2.16
56 長野 地裁 飯田 H27.6.19
57 横浜 地裁 H27.7.15
58 広島 地裁 福山 H27.10.14
59 千葉 地裁 松戸 H28.1.13
60 高松 地裁 H28.6.2
61 横浜 地裁 H28.7.20
62 名古屋 地裁 岡崎 H28.12.20
63 東京 地裁 H29.7.14
64 名古屋 地裁 一宮 H29.12.5
65 東京 高裁 H30.1.30
66 高松 高裁 H30.6.7
67 広島 地裁 H30.7.19
68 広島 地裁 H30.8.10
69 さいたま 地裁 R2.1.22
70 福岡 地裁 R2.3.3
71 大阪 地裁 堺 R2.6.19
72 京都 地裁 R3.2.3
73 福岡 地裁 R3.5.19
74 千葉 地裁 R3.5.28 監護者わいせつ
75 神戸 地裁 尼崎 R3.7.5
76 大阪 高裁 R3.7.14
77 大阪 高裁 R4.1.20
78 東京 地裁 R4.8.30
79 札幌 地裁 R4.9.14
80 札幌 高裁 R5.1.19
81 静岡 地裁 沼津 R5.2.3
82 大分 地裁 R5.2.20
83 奈良 地裁 葛城 R5.3.13
84 さいたま 地裁 川越 R5.3.20
86 大津 地裁 R5.10.26
87 名古屋 地裁 R5.12.7
88 名古屋 地裁 岡崎 R6.1.30 監護者わいせつ
89 水戸 地裁 土浦 R6.5.1
90 水戸 地裁 土浦 R6.7.4
91 札幌 地裁 R6.8.1
92 松山 地裁 R6.9.24
93 岡山 地裁 R6.9.25
94 高松 高裁 R7.2.13

児童に裸の画像を送らせた場合の罪数処理

カンネンキョウ、ケンレンハン、

松山地裁R6.9.24*1
 判示第1の所為  
不同意わいせつの点 刑法176条3項、1項(令和5年法律第66号附則3条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
16歳未満の者に対する映像送信要求の点 刑法182条3項2号(令和5年法律第66号附則3条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
性的姿態等撮影の点 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項4号(1号イ)(同法附則2条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
          
児童ポルノ製造の点 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項(2条3項3号)
科刑上一罪の処理
  判示第1    刑法54条1項前段、10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから、1罪として最も重い不同意わいせつ罪の刑で処断)

東京地裁r6.10.5*2の判示第4の7
 第4の7の罪
  刑法54条1項前段、10条(16歳未満の者に対する映像送信要求と不同意わいせつと性的姿態等撮影と児童ポルノ製造は、1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから、1罪として最も重い不同意わいせつ罪の刑で処断する。)

さいたま地裁熊谷支部R6.5.14*3
科刑上一罪の処理
判示第2 刑法54条1項前段後段10条(映像送信要求と不同意わいせつは手段結果の関係があり、不同意わいせつと性的姿態撮影罪は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、結局、以上を1罪として最も重い不同意わいせつの刑で処断)

岡山地裁R6.9.25*4
法令適用
1 刑法182条3項2号 r5法律66号附則3条、
176条3項 1項
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律違反2条1項4号 1号ロ 令和5年法律66号附則3条
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反 7条4項 2項 第2条3項3号
2 刑法54条1項前段 10条 (観念的競合説)
3 刑法45条前段 47条本文 10条
4 刑法25条1項
5 刑訴法181条1項但書

高松高裁R07.2.13
第3 法令適用の誤りの主張について
 1 原判示第1の事実について
   論旨は、原判示第1の所為のうち、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、その他の不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪及び児童ポルノ製造罪と併合罪の関係にあるにもかかわらず、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり、仮に併合罪関係にはないとしても、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、不同意わいせつを目的にその手段として行われたものであり、不同意わいせつ罪と牽連犯の関係にあるから、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
   そこで検討すると、原判示第1の不同意わいせつ罪は、当時30歳の被告人が、SNS上に性交相手を募集する内容の投稿をしていた当時14歳のAに対し、ダイレクトメッセージを送って自らがその相手となることを持ち掛けて待合せ場所を決めるなどした後、Aの陰茎を露出して写真を撮影してその画像を被告人に送ることを要求するメッセージを送信し、Aにこれを了承させ、その約3時間後に、Aに陰茎を露出させてそれを撮影させ、画像データを被告人に送信させたことにより行われたものである。このように原判示第1は、刑法176条3項のわいせつな行為としてAの行為を利用したものであるが、被告人は、前記のような状況にあったAに対し、自らの勃起した陰茎の写真を送るなどしながらAにも勃起した陰茎の写真を撮影して送信するよう求めるなどの性的意味合いの強い具体的な要求をし、すぐさまAに了承させ、Aに要求どおりの行為をさせており、このような事実関係の下において、本件の被告人のAに対する要求行為は、Aの性的自由の侵害を生じさせる客観的な危険性が認められるものであり、不同意わいせつ罪の実行行為に当たるとみることができる。
   そうすると、原判示第1の不同意わいせつ罪における実行行為に当たる、Aに対し陰茎を露出した姿態をとってその写真を撮影して送信することを要求した被告人の行為と、16歳未満の者に対する映像送信要求罪の実行行為に当たる要求行為は、同時に行われ、重なり合うものであり、それぞれにおける被告人の動態は社会的見解上1個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁、最高裁平成19年(あ)第619号同21年10月21日第一小法廷決定・刑集63巻8号1070頁参照)、原判示第1の16歳未満の者に対する映像送信要求罪と、不同意わいせつ罪及びこれと観念的競合の関係にある他の2罪は、刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるというべきである。原判決第1の事実について法令適用の誤りをいう論旨は理由がない。

神戸地裁r07.3.12
科刑上一罪の処理
犯罪事実第1の各罪 刑法54条1項前段、後段、10条(映像送信要求、不同意わいせつ及び性的姿態等撮影は、 1個の行為が3個の罪名に触れる場合であり、不同意わいせつと児童ポルノ製造との間には手段結果の関係があるので、結局以上を1罪として最も重い不同意わいせつ罪の刑で処断)

津地裁r6.3.4*5
罰条
 判示第2
  16歳未満の者に対する映像送信要求の点
  刑法182条3項2号、令和5年法律第66号附則3条
  不同意わいせつの点
  刑法176条3項、1項、令和5年法律第66号附則3条
科刑上一罪の処理
 判示第2 刑法54条1項後段、10条(1罪として重い不同意わいせつ罪の刑で処断)

東京地裁r6.11.29
科刑上一罪の処理  
判示第2について、刑法54条1項前段、後段、10条(不同意わいせつ、性的姿態等撮影及び児童ポルノ製造は、1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合であり、16歳未満の者に対する映像送信要求と、不同意わいせつ、性的姿態等撮影及び児童ポルノ製造は、手段結果の関係があるので、結局以上を一罪として最も重い不同意わいせつ罪の刑で処断)
なお、弁護人は、被害者に、性的姿態を撮影した画像データを被告人の使用する携帯電話機に送信させる行為が、わいせつ行為には当たらないことを前提に、判示第2の各罪は併合罪の関係に立つ旨主張するが、同行為もわいせつ行為に当たることは、(争点に対する判断)4において説示したとおりである。そうすると、本件の不同意わいせつ、性的姿態等撮影及び児童ポルノの製造には重なり合いが認められ、これらは、社会的見解上1個の行為といえるから、観念的競合の関係に立ち、これらの手段として行われた16歳未満の者に対する映像送信要求とは、牽連犯の関係に立つというべきである。