小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の各犯行につき、懲役4年を求刑された事案において保護観察付き執行猶予になった事例(横浜地裁R5.12.6)

小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の各犯行につき、懲役4年を求刑された事案において保護観察付き執行猶予になった事例(横浜地裁R5.12.6)
 盗撮の被害児童数は100人近いと思いますが、それは盗撮1回1罪になっています。
 私的な精神鑑定をやって、心神耗弱を主張したのが、量刑理由に効いています。

【文献番号】25596585
横浜地方裁判所令和4年(わ)第687号、令和4年(わ)第1028号
令和5年12月6日第1刑事部判決
       判   決

職業 会社員 a 昭和59年○○月○○日生
 上記の者に対する強制わいせつ、建造物侵入、栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、窃盗被告事件について、当裁判所は、検察官地引彩乃並びに弁護人小松圭介(主任)、奥村徹及び彦坂幸伸出席の上審理し、次のとおり判決する。
       主   文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
その猶予の期間中保護観察に付する。
訴訟費用は被告人の負担とする。


       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1 別紙記載の小学校において、下記の同校の女子生徒が18歳に満たない児童であることを知りながら、
1 平成31年4月17日午前9時頃から同日午前11時25分頃までの間に、ひそかに、同校保健室内に小型カメラを設置して健康診断のため露出した女子生徒71名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同日午後11時47分頃から同日午後11時50分頃までの間に、同市α区β××××番地××の当時の被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するノートパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
2 令和2年10月6日午前10時15分頃から同日午前11時25分頃までの間に、ひそかに、同校なかよしルーム内に小型カメラを設置して着替えのため露出した女子生徒6名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同月7日午前零時27分頃から同日午前零時28分頃までの間、前記被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
3 同月13日午前8時30分頃から同日午前11時35分頃までの間に、ひそかに、同校教室内に小型カメラを設置して着替えのために露出した女子生徒3名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、令和3年7月30日午後8時56分頃から同日午後8時58分頃までの間、前記被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
4 同年4月22日午前9時頃から同日午前11時25分頃までの間に,ひそかに、同校保健室内に小型カメラ2台を設置して健康診断のため露出した女子生徒23名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラ2台にそれぞれ装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同年7月30日午後9時6分頃、前記被告人方において、前記各マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
5 令和3年10月28日午前9時頃から同日午前10時20分頃までの間に、ひそかに、同校保健室内に小型カメラを設置して内科検診のため露出した女子生徒48名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同日午後9時59分頃から同日午後10時頃までの間、前記被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するノートパソコンの内蔵記録装置に記録して保存し、
もってひそかに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造し
第2 別紙記載のC(当時11歳)が13歳未満の者であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、同年9月22日午前10時40分頃から同日午後0時10分頃までの間に、同校2階図工準備室において、同人に対し、背後から同人の両脇を両手で抱えて持ち上げた際、着衣の上から両手で同人の両胸をもみ、もって13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をし
第3 同年10月7日午前9時18分頃、同校6年2組教室内において、別紙記載のA及びB所有のパンツ2枚(時価合計約300円相当)を窃取し
第4 女児の裸体を盗撮する目的で、同月31日午後6時頃から同日午後6時50分頃までの間に、株式会社b代表取締役cが看守する栃木県日光市γ××××番地同旅館別館d荘女性用大浴場脱衣室内に侵入した上、みだりに、その頃、同所において、同脱衣室内に動画撮影状態にした小型カメラ2台を設置し、もって公衆が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態の他人の身体を撮影する目的で、写真機等を設置し
たものである。
法令の適用
第1の1ないし5
いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条5項、同条2項、2条3項3号
第2
令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条後段
第3
各被害品ごとに刑法235条
第4
建造物侵入の点 刑法130条前段
カメラの設置の点 栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例9条1項、3条2項
科刑上一罪の処理
第3 刑法54条1項前段、10条(犯情の軽重を決することができないので、一罪として窃盗の刑で処断)
第4 刑法54条1項後段、10条(重い建造物侵入の刑で処断)
刑種の選択
第1の1ないし5、第3、第4
いずれも懲役刑
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い第2の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項本文
(弁護人の主張に対する判断)
4〔3〕心神耗弱の主張について
(1)弁護人は、被告人がADHD、パラフィリア(小児性愛障害、窃視障害)に罹患し、行動制御能力が著しく減弱した状態で本件各犯行に及んだから、心神耗弱であると主張する。
(2)被告人を診察したi医師(以下「i医師」という。)は、被告人はADHD、パラフィリア(小児性愛障害、窃視障害)に罹患しており、ADHDは、不注意と集中力の障害と、多動性、衝動性が主な症状であって、パラフィリアはこの衝動性のコントロールと関連があるところ、被告人の場合は、不注意と集中力の障害が主であるものの、仕事の忙しさ等のストレスで衝動性が亢進されたことが本件各犯行に影響したなどと証言している。
(3)i医師は、精神科医として十分な知識と経験を有しており、被告人が、ADHDやパラフィリアに罹患し治療を行うことが好ましい状態にあることが認められる。
 もっとも、i医師は、被告人の精神障害の本件各犯行への影響ではなく、病名を診断することを依頼され、これを主眼に診察し、本件各犯行の内容は詳細に聴取していないとし、ADHDによる衝動性が本件各犯行にどの程度影響したかなどまでは証言していない。
 そもそも、i医師の証言によっても、被告人のADHDの症状は不注意と集中力の障害が主である上、本件各犯行態様をみても、被告人は女子児童に性的興味を抱いていたものの、判示第2の強制わいせつでは、図工準備室にCと二人きりになったタイミングで、自然な流れを装って高い場所を見る必要があるなどとCを抱きかかえ判示の犯行に及び、他の教師に声を掛けられると図工準備室にいた理由をごまかすなどしてその後は犯行を継続せず、判示第3の窃盗、判示第1及び第4の盗撮でも、女子児童が着替え等で裸になったり下着を教室内に置いておくという、学校内で頻繁に起こる状況の中から、各犯行が可能なタイミングを見計らって犯行に及んでいるのである。
 以上からすると、被告人がADHDやパラフィリアに罹患しており、その影響が否定できないとしても、本件各犯行への影響は大きくなく、完全責任能力の状態であったと認められる。
(量刑の理由)
 本件は、小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の事件である。
 強制わいせつの事件についてみると、被告人は、授業中に画材を探す被害者と図工準備室で二人きりとなり、自然な流れを装って後ろから抱きかかえて両胸を揉み、また、窃盗や盗撮の事件についても、授業等のスケジュールを踏まえ、教室等への出入りが不自然とならないタイミングを見計らって行ったもので、いずれの犯行も教師という立場に乗じて行ったものである。服の上からとはいえ胸を揉まれたり、パンツを持ち出されたり、着替え等を盗撮されたという被害内容自体をみても、被害児童の受けた精神的苦痛やその影響が懸念されるが、ましてや、児童を保護する立場にある教師による犯行であることを考慮すると、その影響は一層懸念される。
 したがって、被告人の責任は重いといわざるを得ないが、被告人が反省の弁を述べ、既に児童に関わる仕事からは離れていること、前科のないこと、被告人の罹患するADHDの本件各犯行への影響について否定まではできず、被告人が治療を受け続けると述べていることなどを考慮し、最長の執行猶予期間とその間の保護観察を付した上で、執行猶予付きの判決をすることとした。
(求刑 懲役4年)
令和5年12月20日
横浜地方裁判所第1刑事部
裁判官 小泉満理子