鳥取県青少年条例の「生成AIその他の情報処理に関する技術を利用し、青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録及びその記録媒体」は、児童ポルノ法の「児童ポルノ」ではない。
国も法律の定義は
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
(定義)
第二条
1 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
とされています。
この2条3項
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
について、条例10条では
9 この章以下において「児童ポルノ等」とは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいい、生成AIその他の情報処理に関する技術を利用し、青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録及びその記録媒体を含む。
として拡張しようとするものです。
解釈ではなく拡張だと思います。
条例10条9項の「青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)」」も含めるというのは
東京地裁h28.3.15
児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には,実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき,そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については,同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべきである。
そして,このことは,当該CGが,実在の児童を直接見ながら描かれたのでなく,実在の児童を写した写真を基に描かれた場合であっても,それが同写真(写真撮影時には,架空の児童でなく被写体の児童が存在していることが前提である。)を忠実に描き,上記の意味において同写真と同一と判断できる場合についても,同様と解すべきである。
・・・・・
東京高裁h29.10.,24
しかし,必ずしも,被写体となった児童と全く同一の姿態,ポーズをとらなくても,当該児童を描写したといえる程度に,被写体とそれを基に描いた画像等が同一であると認められる場合には,その児童の権利侵害が生じ得るのであるから,処罰の対象とすることは,何ら法の趣旨に反するものではないというべきである
・・・・
最決r02.1.27
原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,被告人は,昭和57年から同59年にかけて初版本が出版された写真集に掲載された写真3点の画像データ(以下,上記写真3点又はそれらの画像データを「本件各写真」という。)を素材とし,画像編集ソフトを用いて,コンピュータグラフィックスである画像データ3点(以下「本件各CG」という。)を作成した上,不特定又は多数の者に提供する目的で,本件各CGを含むファイルをハードディスクに記憶,蔵置させているところ(以下,被告人の上記行為を「本件行為」という。),本件各写真は,実在する18歳未満の者が衣服を全く身に着けていない状態で寝転ぶなどしている姿態を撮影したものであり,本件各CGは,本件各写真に表現された児童の姿態を描写したものであったというのである。
上記事実関係によれば,被告人が本件各CGを含むファイルを記憶,蔵置させたハードディスクが児童ポルノであり,本件行為が児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪に当たるとした第1審判決を是認した原判断は正当である。
という判決文を参考にして起案されたと思われますが、この判決は、別途児童のヌード写真集があって、裸の写真があって、胸とか陰部とかも写真がある場合に、
実在の児童を写した写真を基に描かれた場合
で、
同写真を忠実に描いた場合
というわけですから、胸とか陰部も写真のまま描かれたものです。
国法は、条例のいうように「青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)」として、顔だけから、乳房陰部を想像で描いたものも含むという解釈ではありません。
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1378851/kaiseigozenbun.pdf
鳥取県青少年条例
第10条
9 この章以下において「児童ポルノ等」とは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいい、生成AIその他の情報処理に関する技術を利用し、青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録及びその記録媒体を含む。
・・・
(児童ポルノ等の提供の求めの禁止)
第18条の2 何人も、正当な理由がなく、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めてはならない。 (児童ポルノ等の作成、製造及び提供の禁止)
第18条の3 何人も、児童ポルノ等の作成又は製造(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる作成又は製造を含む。)をしてはならない。 2 何人も、SNSの利用その他の手段により児童ポルノ等の提供(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる提供を含む。)をしてはならない。
裁判年月日 平成28年 3月15日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(特わ)1027号
事件名 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 有罪(懲役1年及び罰金300万円、執行猶予3年(求刑 懲役2年及び罰金100万円)) 上訴等 控訴<破棄自判> 文献番号 2016WLJPCA03156003第3 本件16点の画像データが記録されたハードディスクが児童ポルノ法2条3項の「電磁的記録に係る記録媒体」として児童ポルノに当たり得るか否か(本件公訴事実第1),また,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」(本件公訴事実第2)に当たり得るか否か
1 本件CGが児童ポルノ法2条3項3号の要件該当性を満たすものか否かは後に検討するが,そもそも写真ではなく,本件16点の画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項の「児童ポルノ」に当たるか否か,また,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たるか否か,そして,それが,実在の児童を直接見ながら描かれたものではなく,写真を基に描かれたものであってもそれらに当たり得るか否かを検討する。
2 児童ポルノ法は,18歳未満の者である「児童」に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み,あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ,児童買春,児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに,これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより,児童の権利を擁護することを目的としている(同法1条)。そして,同法7条は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を及ぼし続けるだけではなく,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えるため,児童ポルノを製造,提供するなどの行為を処罰するものである。こうした目的や趣旨に照らせば,「適用に当たっては,国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」(同法3条)ものの,同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物については,CGの画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たり得,また,同画像データは同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たり得るというべきである(なお,実在の児童を描写した絵であっても,同法2条3項柱書の「その他の物」として児童ポルノに当たり得るというべきである。)。そして,このような児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨に照らせば,同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい,実在しない児童の姿態は含まないものと解すべきであるが,被写体の全体的な構図,CGの作成経緯や動機,作成方法等を踏まえつつ,特に,被写体の顔立ちや,性器等(性器,肛門又は乳首),胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において,当該CGに記録された姿態が,一般人からみて,架空の児童の姿態ではなく,実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には,実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき,そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については,同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべきである。
そして,このことは,当該CGが,実在の児童を直接見ながら描かれたのでなく,実在の児童を写した写真を基に描かれた場合であっても,それが同写真(写真撮影時には,架空の児童でなく被写体の児童が存在していることが前提である。)を忠実に描き,上記の意味において同写真と同一と判断できる場合についても,同様と解すべきである。
この点,弁護人は,①児童ポルノ法の「製造」とは,実在する児童が被写体となって,実際にポーズをとらせて写真,その他の物に直接記録することをいい,機械的な複写の場合を除いては,実在の児童を被写体として直接描写するものでない限り,同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」に該当しない,②児童ポルノ法7条3項は,実在する児童が被写体となり,実際にポーズ等をとったものを描写することを予定しており,同条5項も,同条3項と同じく製造罪に関する条項であるが,両者で「製造」を区別するべき合理的な理由はなく,同条5項においても,実在する児童が被写体となって,実際に撮ったポーズを写真その他の物に直接記録することを意味すると主張する。
しかしながら,実在の児童の姿態を撮影した写真を基に描かれた場合であっても,出来上がった画像が,一般人からみて実在の児童の姿態を描写したものと認められ,それがさらに不特定多数の者に提供されるなどして拡散する危険がある限り,前記児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨からそれを規制する必要があることは,実在の児童の姿態を直接見て描写する場合と異なるものとは解されない。このことは,児童ポルノ法は,児童ポルノを「児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの」と定義しており(同法2条3項),実在する児童の姿態を直接見て描写したものであることを要件としていないことや,同法7条3項と異なり,同条4項に掲げる行為の目的が存在することを要件としている同条5項においては,「製造」についてその方法を具体的に定めておらず,その手段は限定されていないこととも整合すると解される。
前記弁護人の主張は採用できない。
裁判年月日 平成29年 1月24日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(う)872号
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 破棄自判・一部無罪、一部有罪(罰金30万円(求刑 懲役2年及び罰金100万円)) 上訴等 上告
文献番号 2017WLJPCA01246001ア 児童の実在性について
(ア) 所論は,原判決が,「一般人からみて,架空の児童の姿態ではなく,実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には,実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき」ると説示した点をとらえて,一般人が,実在の児童の姿態を忠実に描写したと認識しさえすれば,実在しない児童の姿態を描写した場合についても処罰の対象となる趣旨であるとして,この点を種々論難する。
そもそも,原判決は,前記のとおり,児童が実在することを要するとの前提に立った上,本件CGについて,被写体となった児童が実在するか否かを,各CGの元となった素材画像の写真の出典等について検討した上で判断し,実在性が認められたものについてのみ,児童ポルノに該当すると判断したのであるから,実在しない児童の姿態を描写した場合も処罰の対象となるという判断をしたとの所論は,前提を欠くものである。
さらに,原判決が上記のように説示した趣旨は,その実際の判断過程に即してみると,素材画像の被写体となった児童の実在性が認められた場合に,当該CGの画像等が,その実在する児童を描写したといえるかどうか,すなわち,被写体となった実在の児童とそれを基に作成されたCG画像等が,同一性を有するかどうかを判断するに当たって,一般人の認識という基準を用いたものと解される。このように,通常の判断能力をもつ一般人が,社会通念に照らして実在する児童と同一であると認識できる場合には,当該描写行為等が処罰の対象となることを認識できるから,このような基準を採用したからといって,刑罰法規の明確性を害するものではない。そうすると,原判決の前記説示は,いささか表現が不明確ではあるものの,その判断に誤りはない。所論は,原判決を正解しないものであって,採用の限りでない。
(イ) 所論は,「児童の姿態」とは,実在する児童が被写体となって,実際にとった姿態に限られると主張し,一般人がどう認識しようが,実在しない児童の姿態を処罰の対象とすることは法の趣旨を逸脱するものであると主張する。しかし,必ずしも,被写体となった児童と全く同一の姿態,ポーズをとらなくても,当該児童を描写したといえる程度に,被写体とそれを基に描いた画像等が同一であると認められる場合には,その児童の権利侵害が生じ得るのであるから,処罰の対象とすることは,何ら法の趣旨に反するものではないというべきである(児童ポルノ法の趣旨については,後に検討する。)。
なお,この点に関して,所論は,当審で取り調べたA4氏の意見書(当審弁1。以下「A4意見書」という。)を引用し,写真を参考にした絵画表現は,機械による複写とは異なり,独立した新たな創作物であるから,手描きの作品を機械による複製と同視することは,罪刑法定主義に反するとも主張する。そもそも,被告人の本件CGの作成方法については,原判決が認定するとおり,一から手描きで描いたものではなく,パソコンのソフトを利用して素材画像をなぞるなどして作成されたものであると認められ,純粋な手描きによる絵画とは異なるものであるが,この点を措くとしても,一般に,写真による複写の場合であっても,現在の技術を前提とすれば,データを容易に加工することが可能であり,他方,手描きによる場合であっても,被写体を忠実に描写することも可能であることからすれば,必ずしも,描写の方法いかんによって児童ポルノの製造に当たるか否かを区別する合理的な理由はないというべきである。描写の方法がいかなるものであれ,上記のとおり,実在する児童を描写したといえる程度に同一性の認められる画像や絵画が製造された場合には,その児童の権利侵害が生じ得るのであるから,そのような行為が児童ポルノ法による処罰対象となることは,同法の趣旨に照らしても明らかである。ちなみに,児童ポルノに絵画が含まれ得ることは,児童ポルノ法の立法段階においても前提とされていたことである。
所論は採用できない。
裁判年月日 令和 2年 1月27日 裁判所名 最高裁第一小法廷 裁判区分 決定
事件番号 平29(あ)242号
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 棄却 文献番号 2020WLJPCA01279001
要旨
◆児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)2条3項にいう「児童ポルノ」の意義
◆児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)7条5項の児童ポルノ製造罪の成立と児童ポルノに描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることの要否【判例タイムズ社(要旨)】
◆1.児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)2条3項にいう「児童ポルノ」の意義
◆2.児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)7条5項の児童ポルノ製造罪の成立と児童ポルノに描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることの要否
裁判経過
控訴審 平成29年 1月24日 東京高裁 判決 平28(う)872号 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
第一審 平成28年 3月15日 東京地裁 判決 平25(特わ)1027号 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
出典
刑集 74巻1号119頁
裁時 1740号3頁
裁判所ウェブサイト
判タ 1487号166頁
判時 2497号102頁
評釈
村田一広・曹時 74巻9号212頁
村田一広・ジュリ 1563号104頁
仲道祐樹・ジュリ臨増 1557号126頁(令2重判解)
鎮目征樹・論究ジュリ 38号234頁
松本麗・研修 870号13頁
前田雅英・WLJ判例コラム 194号(2020WLJCC006)
Westlaw Japan・新判例解説 1248号(2020WLJCC133)
永井善之・法セ増(新判例解説Watch) 27号177頁
岡野誠樹・法セ増(新判例解説Watch) 27号13頁
玉本将之・警察学論集 73巻7号180頁
横山亞希子・警察公論 75巻9号86頁
菊地一樹・刑事法ジャーナル 65号119頁
上田正基・神奈川法学 54巻3号43頁
参照条文
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項(平26法79改正前)
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条5項(平26法79改正前)
裁判年月日 令和 2年 1月27日 裁判所名 最高裁第一小法廷 裁判区分 決定
事件番号 平29(あ)242号
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 棄却 文献番号 2020WLJPCA01279001
主文本件上告を棄却する。
理由弁護人山口貴士ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論に鑑み,職権で判断する。
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの。以下「児童ポルノ法」という。)2条1項は,「児童」とは,18歳に満たない者をいうとしているところ,同条3項にいう「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって,同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい,実在しない児童の姿態を描写したものは含まないものと解すべきである。
原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,被告人は,昭和57年から同59年にかけて初版本が出版された写真集に掲載された写真3点の画像データ(以下,上記写真3点又はそれらの画像データを「本件各写真」という。)を素材とし,画像編集ソフトを用いて,コンピュータグラフィックスである画像データ3点(以下「本件各CG」という。)を作成した上,不特定又は多数の者に提供する目的で,本件各CGを含むファイルをハードディスクに記憶,蔵置させているところ(以下,被告人の上記行為を「本件行為」という。),本件各写真は,実在する18歳未満の者が衣服を全く身に着けていない状態で寝転ぶなどしている姿態を撮影したものであり,本件各CGは,本件各写真に表現された児童の姿態を描写したものであったというのである。
上記事実関係によれば,被告人が本件各CGを含むファイルを記憶,蔵置させたハードディスクが児童ポルノであり,本件行為が児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪に当たるとした第1審判決を是認した原判断は正当である。
所論は,児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪が成立するためには,児童ポルノの製造時において,当該児童ポルノに描写されている人物が18歳未満の実在の者であることを要する旨をいう。しかしながら,同項の児童ポルノ製造罪が成立するためには,同条4項に掲げる行為の目的で,同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した物を製造すれば足り,当該物に描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しないというべきである。所論は理由がない。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官山口厚の補足意見がある。
裁判官山口厚の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に全面的に賛同するものであるが,補足して意見を述べておきたい。
児童ポルノ法2条3項に定める児童ポルノであるためには,視覚により認識することができる方法で描写されたものが,実在する児童の同項各号所定の姿態であれば足りる。児童ポルノ法7条が規制する児童ポルノの製造行為は,児童の心身に有害な影響を与えるものとして処罰の対象とされているものであるが,実在する児童の性的な姿態を記録化すること自体が性的搾取であるのみならず,このように記録化された性的な姿態が他人の目にさらされることによって,更なる性的搾取が生じ得ることとなる。児童ポルノ製造罪は,このような性的搾取の対象とされないという利益の侵害を処罰の直接の根拠としており,上記利益は,描写された児童本人が児童である間にだけ認められるものではなく,本人がたとえ18歳になったとしても,引き続き,同等の保護に値するものである。児童ポルノ法は,このような利益を現実に侵害する児童ポルノの製造行為を処罰の対象とすること等を通じて,児童の権利の擁護を図ろうとするものである。
(裁判長裁判官 深山卓也 裁判官 池上政幸 裁判官 小池裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口厚)
https://www3.nhk.or.jp/lnews/tottori/20250602/4040020472.html
ことし4月に施行された鳥取県の改正・青少年健全育成条例では、県内の子どもの顔写真をAIの技術でわいせつな画像や動画に加工したものを「児童ポルノ」と規定し、作成や他人への提供を禁止しています。県では条例の違反者に対する罰則として刑事罰を導入できるか検討していましたが、検察庁はこれに否定的な見解を伝えたということです。
これを受けて鳥取県は、刑事罰の導入を断念したうえで、行政罰を盛り込んだ条例の改正案を2日、県で開かれた会議で示しました。
それによりますと違反者には5万円以下の過料を科すとしています。
そのうえで、画像や動画の廃棄や削除を命じることにしていて、これに従わない場合は、追加で5万円以下の過料を科すほか、違反者の氏名を公表するということです。
平井知事は「子どもたちの人生が傷つけられないことに価値をおきたい。県として責任を持って取り組む意志を条例で明確化したい」と述べました。
追記 2025/06/13
検察協議の経緯を見ると、
鳥取県は罰金30万円の罰則を付けたかったようですが、検察庁が反対したので、見送られています。
令和7年6月議会上程案
(児童ポルノ等の作成、製造及び提供の禁止)
第18条の3 何人も、児童ポルノ等の作成又は製造(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる作成又は製造を含む。)をしてはならない。
(児童ポルノ等の提供の求めの禁止)
第18条の2 何人も、正当な理由がなく、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいう。)の提供を求めてはならない。2 何人も、SNSの利用その他の手段により児童ポルノ等の提供(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる提供を含む。)をしてはならない。第26条 略
2~4 略
5 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、30 万円以下の罰金に処する。
(1)~(3) 略
(4) 第18条の2及び第18条の3の規定に違反したとき
第202500049485号
令和7年5月15日
鳥取地方検察庁検事正 様
鳥取県総務部長
罰則規定を含む条例の一部改正について(協議)
このことについて鳥取県青少年健全育成条例(昭和55年鳥取県条例第34号)を一部改正したいと考えています。
ついては、別添資料を送付しますので、令和7年5月22日(木)までに御意見をお聞かせください。
鳥地検企発第53号
令和7年5月28日
鳥取県総務部長 殿
鳥取地方検察庁検事正 福居幸一
罰則規定を含む条例の一部改正について(回答)
本月15日付け第202500049485号をもって協議依頼のあった「罰則規定を含む条例の一部改正について」について、下記のとおり回答します。
記
本件条例第26条第5項第4号は、明確性及び現行法との適合性につき疑義がある同第18条の3の規定に違反した者を罰則の対象とするものであることから、適用することは困難であると思料する
令和7年6月議会上程案
(児童ポルノ等の作成、製造及び提供の禁止)
第18条の3 何人も、児童ポルノ等の作成又は製造(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる作成又は製造を含む。)をしてはならない。
(児童ポルノ等の提供の求めの禁止)
第18条の2 何人も、正当な理由がなく、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいう。)の提供を求めてはならない。
2 何人も、SNSの利用その他の手段により児童ポルノ等の提供(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる提供を含む。)をしてはならない。第26条 略
2~4 略
5 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、30 万円以下の罰金に処する。
(1)~(3) 略
(4) 第18条の2及び第18条の3の規定に違反したとき