児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「そういった意味では、もちろん議論はあり得ますが、5歳違う場合には、恐らく対等な関係性はおよそあり得ない、そう言えるからこそ、個別の関係性は一切考えなくて、年齢差の観点だけで処罰が正当化できるというふうに考えています。」

「そういった意味では、もちろん議論はあり得ますが、5歳違う場合には、恐らく対等な関係性はおよそあり得ない、そう言えるからこそ、個別の関係性は一切考えなくて、年齢差の観点だけで処罰が正当化できるというふうに考えています。」
 なぜ5歳差なのか、6歳差では絶対アウトなのか。

第一七七条(不同意性交等)
1 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

【逐条説明】刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でないと考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない
と考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8 。)
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そしてそのような場合における5歳以上年長の者の行為については正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない。

 城さんの改正でも、橋爪先生の説明をそのまま紹介しているだけです。

性犯罪規定の大転換~令和5年における刑法および刑事訴訟法の改正の解説~(前)昭和大学医学部教授(薬学博士) ・警察大学校講師元最高検察庁検事 城祐一郎捜査研究876号
ただ、同年代で恋愛関係などからわいせつな行為に及ぶこともあり得ることを考慮し、被害者が13歳以上であれば(つまり、被害者が12歳以下であれば今までと同様)、その年齢差が5歳以上ある場合のみ、暴行等の前述した手段についての要件が求められるということである。
この点については、次のような説明がなされている。
すなわち、性的行為の意味を理解する能力と、状況に応じて対処する能力の区別に着目し、「13歳以上16歳未満の児童は、性的行為の意味を理解することは一応可能であるとしても、相手との関係においては、状況に応じ適切に対処し、自らの意思決定を貫徹する能力が十分ではないという理解」に基づき、「およそ誰に対しても性的同意ができないとまでは言えない、しかし、相手との関係によっては、相手の言動の影響を受けやすく、また、状況に流されてしまい、十分に考えて適当な判断をすることが困難な場合があり得る」と考えられることから、「13歳以上16歳未満の性行為を全面的に禁止、処罰するのではなく、非対等な関係に基づく性行為に限って、児童が適切に対処することが困難であり、それゆえ有効な性的同意が肯定できないとして、処罰範囲を拡張することが可能」86)と考えたからである。
そこで、その基準として、年齢差という形式的な基準を採用し、「年齢差という専ら形式的な観点から処罰の限界付けが提案されるに至ったわけです。
すなわち、実質的には、非対等であり、児童の主体的、自律的な判断が困難な関係性に基づいた性行為を処罰したいところ、それを個別に認定することが困難であるがために、非対等性の判断基準として年齢差に着目するというふうな発想です。」、「この点に関して御注意いただきたい点は、年齢差の要件を満たした場合、当事者の関係性を問わず、全ての性行為が処罰対象になる点です。
したがって、この年齢差であれば対等な関係に従って主体的な判断ができる場合もあればできない場合もあるという程度の年齢差では不十分であって、あくまでも、これだけの年齢差があれば、およそ対等な関係性はあり得ず、有効に自由な意思決定をすることは全く考えられないといった年齢差を設定しなければ、年齢差という観点だけで行為者を罰することは正当化できません。
このような前提からは、改正法案の5歳という年齢差要件には、処罰すべきでないものを処罰対象に含めないという意味において、十分な合理性があると考えておりますo」87)と述べられており、5歳差という基準に合理性があるものと説明されている。
ただ、5歳差が非対等性の関係にあるとしても、3歳差、4歳差でも非対等性の関係にある場合もあるのであって、そのような場合を除外するのは、被害者の保護に欠けるのではないかとも疑問があり得るかもしれないであろう。
しかし、この点については、例えば、18歳の成人男性と、14歳の女子中学生との間の性行為に関して、「14歳、18歳に関係があれば、対等か否かではなくて、仮にですよ、仮に全国の中に、99%の関係は非対等であるとしましても、日本中に1%でも対等な関係が仮にあった場合、それを刑法を使って罰せるかという問題だと思うんです。
つまり、年齢差要件は、例外なく全部の性行為を罰します。
ということは、極論しますと、日本中に年齢差が3歳、4歳で対等な関係性が1件もないということが明らかにならなければ、3歳、4歳の年齢差だけで処罰をすることは困難だろうというふうに考えています。」、「そういった意味では、もちろん議論はあり得ますが、5歳違う場合には、恐らく対等な関係性はおよそあり得ない、そう言えるからこそ、個別の関係性は一切考えなくて、年齢差の観点だけで処罰が正当化できるというふうに考えています。」88)との説明が説得的であろう89)。
86) 衆議院法務委員会(令和5年5月16日)における橋爪隆参考人発言(同委員会議事録)87) 衆議院法務委員会(令和5年5月16日)における橋爪隆参考人発言(同委員会議事録)88) 衆議院法務委員会(令和5年5月16日)における橋爪隆参考人発言(同委員会議事録)89) ただ、この5歳差については、故意の内容となるため、相手方が自分より5歳以上若いという事実を認識していなければならず、検察官がその立証をしなければならないのは、従来からの13歳未満の者に対する強制わいせつにおける場合と同様である。
ただ、「行為者の故意が認められるためには、相手方の誕生日を具体的に認識していなくても、白分の年齢を基準として相手方が5歳以上年下であること、例えば18歳未満の者であれば、相手方が14歳になっていない者であること、これを未必的にでも認識していれば足りると解されます。」(第10回議事録34頁(浅沼幹事発言)) と説明されていることに留意しておくべきであろう。

第211回国会 衆議院 法務委員会 第16号 令和5年5月16日
006 橋爪隆
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121105206X01620230516/6
続きまして、二番に移りますが、いわゆる性交同意年齢の引上げについて意見を申し上げます。
 性交同意年齢とは、対象者の年齢だけを基準として、性的同意を無効とする制度です。もちろん児童の心身の発達には個人差がありますが、現行法は、少なくとも十三歳未満の者が有効な性的同意をすることはあり得ないという前提から、十三歳未満の者の性行為を一律に禁止し、処罰対象にしていると解されます。もっとも、十三歳以上十六歳未満の児童についても有効な同意がなし得るのか、むしろ、十六歳未満については有効な同意がなし得ないとして性交同意年齢を十六歳に引き上げるべきではないかということが問題とされています。
 この点に関して、法制審議会の議論では、性的行為の意味を理解する能力と、状況に応じて対処する能力の区別が重視されました。すなわち、十三歳以上十六歳未満の児童は、性的行為の意味を理解することは一応可能であるとしても、相手との関係においては、状況に応じ適切に対処し、自らの意思決定を貫徹する能力が十分ではないという理解が共有されました。つまり、およそ誰に対しても性的同意ができないとまでは言えない、しかし、相手との関係によっては、相手の言動の影響を受けやすく、また、状況に流されてしまい、十分に考えて適当な判断をすることが困難な場合があり得るということです。
 こういった理解からは、十三歳以上十六歳未満の性行為を全面的に禁止、処罰するのではなく、非対等な関係に基づく性行為に限って、児童が適切に対処することが困難であり、それゆえ有効な性的同意が肯定できないとして、処罰範囲を拡張することが可能です。十三歳以上十六歳未満の者に対しては、誰に対しても性的意思決定ができないわけではなく、相手との関係においては能力が十分に発揮できないという発想です。
 このように、非対等な関係性に基づいた性行為を罰すべきと解した場合、難しい問題は、非対等な関係性をどのような観点から法文上規定するかという点です。この点につきましては、実質的な判断をするか、形式的な判断をするか、それとも両者を併用するかという観点から、三つの選択肢があり得ました。
 すなわち、一番ですが、当事者の現実の関係性を個別具体的に評価した上で、対処能力が欠如するような非対等な関係性と言えるかを認定し、非対等な関係性が認定できる限度で処罰をするというふうな実質的な判断、これに対して、二番ですが、専ら年齢差という観点のみから処罰範囲を設定する形式的な要件、さらに、三番ですが、年齢差という形式的要件と現実的な関係性の実質的判断を共に要求する判断、これら三つの可能性があり得ました。
 本来、当事者が対等な関係を構築していたか、すなわち、お互いの意思を十分尊重し合う関係を有していたかということは、当事者ごとに個別に具体的に判断すべき問題でありますので、理想を言えば、一番あるいは三番の選択肢が適当であったのかもしれません。しかし、個別の関係性を実質的に判断することは、当然ながら判断のばらつきによる混乱が生じますし、また、当事者間の関係性や交際の状況について裁判で証明することは、被害者側に負担が生ずることも懸念されます。
 このような問題意識から、法制審の部会では、二番の方向、すなわち年齢差という専ら形式的な観点から処罰の限界づけが提案されるに至ったわけです。すなわち、実質的には、非対等であり、児童の主体的、自律的な判断が困難な関係性に基づいた性行為を処罰したいところ、それを個別に認定することが困難であるがために、非対等性の判断基準として年齢差に着目するというふうな発想です。
 この点に関して御注意いただきたい点は、年齢差の要件を満たした場合、当事者の関係性を問わず、全ての性行為が処罰対象になる点です。したがって、この年齢差であれば対等な関係に従って主体的な判断ができる場合もあればできない場合もあるという程度の年齢差では不十分であって、あくまでも、これだけの年齢差があれば、およそ対等な関係性はあり得ず、有効に自由な意思決定をすることは全く考えられないといった年齢差を設定しなければ、年齢差という観点だけで行為者を罰することは正当化できません。このような前提からは、改正法案の五歳という年齢差要件には、処罰すべきでないものを処罰対象に含めないという意味において、十分な合理性があると考えております。
 私の意見は以上でございます。御清聴、誠にありがとうございました。(拍手)
・・・
038 橋爪隆
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121105206X01620230516/38
○橋爪参考人 お答え申し上げます。
 確かに、議員おっしゃるとおり、十四歳の中学生から見れば、十七歳、十八歳はもう大人であって、容易には多分抵抗できないと思うんですね。
 ただ、ここで言いたいことは、十四歳、十八歳に関係があれば、対等か否かではなくて、仮にですよ、仮に全国の中に、九九%の関係は非対等であるとしましても、日本中に一%でも対等な関係が仮にあった場合、それを刑法を使って罰せるかという問題だと思うんです。
 つまり、年齢差要件は、例外なく全部の性行為を罰します。ということは、極論しますと、日本中に年齢差が三歳、四歳で対等な関係性が一件もないということが明らかにならなければ、三歳、四歳の年齢差だけで処罰をすることは困難だろうというふうに考えています。
 そういった意味では、もちろん議論はあり得ますが、五歳違う場合には、恐らく対等な関係性はおよそあり得ない、そう言えるからこそ、個別の関係性は一切考えなくて、年齢差の観点だけで処罰が正当化できるというふうに考えています。

・・・
047 橋爪隆
発言URLを表示
○橋爪参考人 お答え申し上げます。
 今回の改正法におきまして、構成要件の内容が具体化されております。そういった意味でも、願わくば氷山がもう溶けて解消することを期待しておりますが、多分、そのためには二つ大きなポイントがあると思うんですね。
 一つは、まずは、法律家全般に関する意識の改革です。
 つまり、やはり、私も含めてなんですが、法律の専門家ではあるんですけれども性被害の専門家ではないんです。ですから、被害者の方の心理状態というものを十分に把握できないんですね。そういった意味で、やはり今後、改正法の、同意しない意思の形成、表明、全うが困難かどうかを判断する際には、十分に被害者の心理や認識の問題について法律家が勉強した上で、そこをきちんと判断できるような取組といったものが必要だろうと。
 もう一点、やはり、意思に反する性行為は犯罪であるという意識を国民全般が共有した上で、被害を受けた方が自分の被害をちゅうちょなく申告できるような、そういった社会といったものをつくっていくということが性犯罪の対策においては重要であるというふうに考えております。

2023年改正の概要とその意義について佐藤陽子
法律時報 第95巻11号
(b) 改正の趣旨及び特徴
あらゆる性的行為から保護される年齢が13歳未満では低すぎるとの意見が審議会で大勢を占めたことから、このような引上げが行われた。
他方で、今回引上げられた領域である13歳以上16歳未満については、対等な関係である場合には行為者を処罰すべきでないとして、年齢差要件が付された。
本改正の特徴は、年齢の線引きとして審議会で支持を得ていた「義務教育年齢である16歳未満」が採用されたことであろう。審議会ではその実質的根拠として、16歳未満の心身の発達がなお十分ではないことや、学校で十分な性教育がなされていない(むしろ忌避されている) ことが指摘されている25)。
他方で、年齢差要件も特徴的であり、かかる要件は、同年代同士の行為を処罰しないためにとりわけ重要であると解された26)。
試案の段階でもっとも問題になったのは実質要件である「対処能力が不十分であることに乗じて」の採用の可否である27)。すなわち、年齢差がある場合でも真の恋愛関係など、不同意でない場合も想定されうるため、安全弁として実質要件が必要かが問題になった。この点、規定される年齢差は3歳差が適切である等の意見もあった中で、対等な関係となることがまず考えられない(パワーの差がある)程度の年齢差として5歳以上の年齢差が選択された28)以上、実質要件はつけるべきではないとの結論に至っている

26) 第3回議事録21頁以下、第6回議事録19頁以下などを参照。このような規定の形式は諸外国ではそう珍しくない(樋口=深町・前掲注20) IJEviii頁〔樋口亮介〕を参照)。
27) 第10回議事録26頁以下、第12回議事録20頁以下を参照。
28) 第9回議事録11頁〔小西聖子委員〕を参照。

29) 各都道府県の淫行処罰規定については、鎮目征樹「児童に対する性犯罪処罰規定の現状と課題について」刑ジヤ69号(2021年) 48頁以下で一覧することができる。
30) 法定刑を引下げるべきであるとの主張については、第10回議事録31頁〔金杉幹事〕などを参照。

https://news.yahoo.co.jp/articles/1cbf2a77b1e523f73b485661b1baaffcee1584c0
逮捕容疑は11月30日夜から12月1日朝にかけて、女子生徒が16歳未満で、自分より5年以上年下と知りながら、大阪市内のラブホテルで性行為をした疑い。
調べに「5年離れているとは知らなかった」と容疑を一部否認しているという。

刑事法(性犯罪関係)部会第9回会議 議事録
第1 日 時 令和4年8月5日(金) 自 午前10時00分 至 午後 1時12分
第2 場 所 法務省大会議室
第3 議 題 1 第一の二(対象年齢の引上げ)について 2 その他
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第9回会議を開催いたします。
○井田部会長 本日は、御多忙のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。
本日は、今井委員、大賀委員、川出委員、北川委員、木村委員、田中委員、中川委員、吉崎委員、池田幹事、金杉幹事、くのぎ幹事、近藤幹事、井上関係官は、オンライン形式により出席されています。
また、中山幹事におかれては、所用のため欠席されています。
議事に入る前に、前回の会議以降、幹事の異動がありましたので、御紹介させていただきます。
市原志都氏が幹事を退任され、新たに近藤和久氏が幹事となられました。
初めて会議に御出席いただいた近藤幹事に自己紹介をお願いしたいと思います。
○近藤幹事 最高裁刑事局第二課の課長をしております近藤です。
よろしくお願いいたします。
○井田部会長 それでは、議事に入りたいと思います。
前回会議においては、今後の議論の進め方につきまして、事務当局にそれまでの当部会における議論を踏まえて諮問事項についての試案を作成してもらい、それに基づいて議論を行っていくということで、皆様の御了解を頂いたところですが、その後、事務当局から、試案を作成するに当たって、特に諮問事項「第一の二」の対象年齢の引上げについて、更に追加して議論する機会を設けて、委員・幹事の皆様の御意見を伺いたい旨の申出があったため、本日の会議では、「第一の二」についての御議論を行っていただくこととした次第です。
そこで、まず、事務当局から、本日の会議の趣旨について説明をお願いしたいと思います。
○吉田幹事 対象年齢を引き上げることについて、本日、更に追加して御議論をお願いすることとした趣旨等を御説明いたします。
前回の会議において、部会長から、これまでの当部会における議論を踏まえつつ、諮問事項についての試案を作成するようにとの御指示を頂いたことを受け、事務当局においては、試案の作成に向けた検討を行ってきました。
具体的には、これまで当部会において、対象年齢を引き上げる場合には、年齢が近い者同士で性的行為が行われた場合など一定の場合には処罰しないこととするべきであるとの御意見が多く述べられていたことから、そのような規定の在り方や理論的根拠についての検討を進めてきたところです。
もっとも、その過程において、例えば、若年者に対する性的行為について、実質的な要件で処罰するのではなく、対象年齢を引き上げて一律に処罰することとするのはなぜか、対象年齢を引き上げて処罰す
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]る根拠を、性的行為をするかどうかの判断能力を欠くことに求めることとした場合、対象年齢の者は、そのように判断能力を一律に欠く以上、年齢が近い者同士で性的行為が行われた場合などであっても、対象年齢の者の性的自由を侵害することとなるのに、なぜ処罰すべきでないことになるのか、他方、対象年齢の者の性的行為をするかどうかの判断能力は、性的行為の内容やそれが行われる状況などを問わず、常に欠けるといえるのか、処罰対象から除外し、あるいは限定するとすると、その根拠を踏まえ、具体的にどのような要件とすることが適当かなど、試案を作成する上で避けて通ることのできない理論的・法制的な検討課題がなお残されていると考えられたところであり、それらを解決して試案を作成するためには、更に深く掘り下げた議論を行っていただく必要があると思われました。
そこで、前回の会議ではこの項目について御議論いただく時間が十分でなかったように思われることも踏まえ、本日、改めて時間を設け、対象年齢を引き上げる理論的根拠、対象年齢を引き上げた場合に、一部を処罰対象から除外し又は処罰対象を限定することの要否及びその根拠などについて、取り分け、対象年齢を引き上げつつ処罰対象を除外・限定するとした場合に、これを整合的に理解できる理由や根拠について、皆様がどのようにお考えなのかを把握しておく必要があると考え、本日の御議論をお願いすることとした次第です。
○井田部会長 ただ今、事務当局から、本日の会議の趣旨について説明してもらいましたが、具体的にどのように議論を進めるかについて、事務当局から提案はありますか。
○浅沼幹事 本日の御議論の進め方について、事務当局から御提案をさせていただきます。
本日改めて御議論をお願いすることとした趣旨に鑑み、本日の御議論では、前回お配りした配布資料22を引き続き御覧いただきながら、「補足的検討課題」の「1 対象年齢を引き上げる理論的根拠」と「2 対象年齢を引き上げた場合に、一部を処罰対象から除外し又は処罰対象を限定することの要否及びその根拠」について、更に御議論いただければと考えています。
仮に、対象年齢を引き上げつつ処罰対象を除外・限定するとすると、「補足的検討課題」の「1」と「2」は、言わば表裏一体の課題であり、両者を整合的に理解できることが必要であると考えられます。
皆様には、あらかじめ、そのような観点から更に検討を要すると考えられる具体的な事項を問題意識としてお伝えしてありますが、それも踏まえ、「補足的検討課題」の「1」と「2」について、相互関係を意識しつつ、まとめて御意見を頂ければと思います。
そして、先ほど吉田から御説明したとおり、本日の御議論では、事務当局が試案を作成する上でなお残されている理論的・法制的な課題について、皆様のお考えをお聞きしたいと考えていることから、事務当局として皆様の御意見の趣旨を正確に理解するため、お一人が御意見を述べられましたら、その御意見に対して、まずは、その都度、事務当局から、御意見の趣旨などについて質問をさせていただき、その後、ほかの委員・幹事の皆様からもその御意見に対する御質問があれば、御質問をお願いすることとし、それらの質問とお答えが一通り終わったところで、ほかの方に御意見を述べていただくという進め方にすることが望ましいのではないかと考えております。
そのような質疑応答のやり取りが一通り終わった後に、最後に、御発言になりたいことがあれば、それを伺う機会を設けることとしてはいかがかと考えております。
○井田部会長 本日の議論の進め方について、事務当局から具体的な提案がございました。
私としても、本日の会議の趣旨に照らすと、今提案のあった進め方とするのが適当ではないかと考えますが、いかがでしょうか。
(一同異議なし)○井田部会長 ありがとうございます。
それでは、そのように進めさせていただきたいと思います。
委員・幹事の皆様には、積極的に、忌憚のない御意見を述べていただければと考えております。
本日は、途中、10分程度休憩を挟んで、諮問事項「第一の二」の検討課題につき、事務当局から提案があった形で議論を行っていきたいと思います。
それでは、御意見のある方は、挙手するなどした上で御発言をお願いします。
○齋藤委員 私自身は、性交同意年齢は16歳未満とするのがよいのではないかと思っておりまして、年齢差に関しては、3歳差、あるいは18歳以上の成人による16歳未満の者に対する性的行為は処罰すること、とするのがよいのではないかと考えています。
16歳未満の児童には、配布資料22の1ページ目の「性的行為をするかどうかに関する能力」の内容として挙げられている「①」から「③」までの能力のうち、「① 行為の性的な意味を認識する能力」がある程度身に付いている場合が多いとしても、「② 行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」は、まだ身に付いているとは言い難く、さらに、「③ 性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」も不足していると考えられます。
配布資料22の2ページ目の「B案」で処罰範囲を除外・限定をする要件について、「相手方の脆弱性に乗じていない」とする例が挙げられていますが、そのような能力の不足している年齢の若年者と性的行為をすること自体が、既に年齢が低いことによる脆弱性に乗じているので、別途、「乗じている」と書く必要はないと考えています。
16歳未満という年齢設定については、原則義務教育年齢であるということが大きく、例えば、労働基準法では、「満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで」は原則労働者として使用してはならないということが規定されているかと思います。
基本的に、16歳未満の子供というのは、自分の自由裁量で稼いだり、自活したりということができず、世界はとても狭く、選べる選択肢も少ない
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]状態だと思います。
社会をまだ余り知らずに、自分の知っている世界の範囲でしか判断できない状況で、自分の未来にその行為がどのように影響を及ぼすかとか、自分にどういう選択肢があるのかということを考えた上で、年長者、特に成年者からの働きかけに対処することは、困難ではないかと思いますし、論理的に考える力や物事を俯瞰して考える力というのも、発達途上ということになります。
もちろん、16歳以上の者であれば的確に判断・行動できるのかというと、難しい場合もあり、心理学では、そもそも年齢で区切るということを、余りしないのですが、仮に年齢で区切るとするならば、16歳未満だと思います。
子供たちにとっての1歳差、2歳差というのは非常に大きく、中学生が高校生に逆らうというのは非常に難しいことです。
中学校の先輩に逆らうことも難しいかもしれないと思いますが、1歳差は同じ学年のこともあるので、それほど対等性も阻害されないかと思います。
また、2歳差もそれほど対等性は阻害されないかとも思いますが、3歳差、特に、中学生と高校生という場合には、大人と子供ぐらいの差が生じるかと思います。
こうした理由や、私自身がこれまで接してきた様々な子供の性暴力被害の内容から考えても、16歳未満の者に対する性的行為を原則として処罰し、年齢差が3歳未満の場合を除外するとか、あるいは、18歳以上の成人が16歳未満の者に対して性的行為に及んだときは処罰するとか、そうした年齢差を設けるのが妥当ではないかと思っています。
これは子供の健全育成の保護ということではなく、年齢差のある状態で16歳未満の子供たちに性的行為をするということが、自由な意思決定を侵害する暴力であって、子供の心と体の健全な成長を著しく阻害する、深刻な行為だと考えています。
同年齢の子供たちについては、もし、16歳未満の同年齢程度の子供たちの間に、対等な関係で何の強制力も働いていない状態が存在し得るのであれば、自由な意思決定が阻害されないこともあるかもしれません。
ただし、同年齢であっても、クラスの中で人気のある男子生徒からの要求に逆らえずレイプをされたという中学生もいますし、一学年上の不良グループに呼び出されて、やはり逆らえずに集団レイプをされたという中学生もいますし、デートDVに付随するようなレイプ被害も存在します。
なので、低年齢であっても、強制力が働く場合ということはあり、相手の同意形成を妨げるような意図的な手段を用いて性交に及んだ場合などについては、適切に対処される必要があると考えています。
以前の会議では、年齢差要件を設けないという立場もお伝えしていました。
今でも、14歳同士、15歳同士の性的行為というのは、背景に様々な問題が潜んだSOSという側面がある場合があり、それが教育場面や福祉でキャッチされ、何らかの支援につながる必要があるとは考えています。
境界線や性的同意、対等なパートナーシップについて、教育の場面などで話し合っていけるといいなと思うのですが、これは、刑罰ということではなく、教育や支援の話ですので、以上のような内容を考えました。
○井田部会長 今の齋藤委員の御意見に対して、事務当局から質問はありますか。
○浅沼幹事 例外を設ける場合の年齢差につきまして、3歳差という御意見を頂きましたが、その根拠としては、同じ中学校に在籍する可能性があるからという趣旨であったかと思います。
それを考えたときに、同じ中学校に在籍し得る方というのは、誕生日の先後も考えますと、1年生と3年生でも3歳差という場合があり得ます。
そうしますと、処罰すべき場合としては、4歳差以上という年齢差になるような気もするのですが、その点はいかがでしょうか。
○齋藤委員 在籍する学校が変わる年齢差について、3歳差なのか、4歳差なのかは少し混乱して分からないのですが、少なくとも18歳以上の成人による16歳未満に対する性的行為は処罰するということを考えていただきたいと思います。
そうすると、被害者が15歳の場合を考えますと、年齢差要件は3歳差になるように思います。
○浅沼幹事 そうすると、例えば、被害者が13歳の場合、3歳差となると、処罰対象になる行為者は16歳以上ということになりますけれども、その点は、どういった整理になりますか。
○齋藤委員 性交同意年齢は16歳未満に適用されるということで、16歳は、性交同意年齢の適用されない年齢になってくるので、13歳と16歳の間の性的行為というのは同意が成立しない場合に当てはまるかなと思っています。
○吉田幹事 まず、前提としてですが、本日、このような形で質問をさせていただく形を採っているのは、先ほど申し上げたとおりの趣旨によるものでありまして、いわゆる性交同意年齢の引上げによって対処すべき事例が実際にあると認識した上での話でございます。
その認識を否定するつもりで質問するわけではないということは、御理解いただければと思います。
その認識を前提としつつも、ここで検討しているのは、刑事罰則の新設や改正ですので、理論的に説明がつくものである必要があり、その検討を進めていく過程で、解決すべき問題に直面したため、御質問をさせていただくということであります。
本日いろいろな御質問をさせていただきますけれども、そのように御理解いただきたいと思っております。
  齋藤委員にお尋ねしたいこととして、まず一点目は、先ほど、心理学では年齢を区切って考えることはないというお話がありましたけれども、そうしますと、16歳未満という年齢の設定などについては、心理学的な見地からというよりも、社会学、あるいは、委員のこれまでの御経験を踏まえた実態認識に基づくものと理解すればよろしいのか、という点を教えていただければと思います。
  二点目は、先ほど委員が経験されたケースに言及する中で、若年層の中でもレイプが起こっているというお話があったかと思うのですけれども、そこでおっしゃったレイプというのは、例えば、現行法でいう暴行・脅迫のような手段が伴っているものなのかどうか、それとも、そういう手段はなく、現行
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]法上処罰の対象にできるような外形的な行為が何もないままに行われた性的な行為を指しておられるのか、つまり、この性交同意年齢を引き上げることでしか対処できないケースを指しておられるのか、ということを教えていただければと思います。
○齋藤委員 最初の御質問なのですけれども、心理学は、やはりいろいろ個人差などを考慮しますので、年齢で明確に何かが区切られるということではありません。
例えば、脳の成長もおおむね25歳ぐらいまでに終わるとは言われますが、おおむねであって、25歳で一律に成長が終わるということではなく、人によっては24歳のこともあれば、28歳のこともあるということがあり、それは心理学だけではなくて、身体的な成長もそのとおりかと思います。
  ただ、人の心理というのは、脳や心理機能の発達だけではなく、社会的な環境に大きく左右されます。
社会学的というか、社会の在り方が影響するということです。
人の心理というものが社会の状況に左右されるのだということと、16歳前後の成長を含めた心理学の知見、つまり、16歳前後の成長の在り方と社会の有様とを考えて、そのような社会の有様が心に与える影響を考えると、16歳未満で区切るということがいいのではないか、というのが一点目の質問に対する答えです。
  もう一つ、若年層でのレイプ事案ですが、いろいろな例がありまして、もちろん集団レイプは暴行・脅迫が用いられている場合もありますし、デートDVの場合は、それ以前に身体的暴力が見られる場合もあります。
ただ、クラスの優越的な地位にある中学生から、クラスのいわゆる周辺的な地位にある中学生に対するレイプ事例というのは、程度の軽い脅しはあるのですけれども、それが現行法の暴行・脅迫に当てはまるかというと、そうではない場合も割とあるという印象があります。
  ただ、そのような事例も、今話し合っている刑法177条、178条の改正によって、処罰対象に含まれてくるのではと思います。
同年齢同士の力関係を利用した性暴力について、脅迫の文言はあるにせよ、それをどう判断するかが警察によって分かれて、逮捕されたり逮捕されなかったりすることがあるので、そうした状況は、今回の改正である程度改善されるのではないかと思っています。
○浅沼幹事 13歳以上16歳未満の者について、性的行為の内容や種別によって、判断能力に違いがあるのかどうかという点は、どうお考えになりますか。
○齋藤委員 例えば、子供同士が頬にキスをするとか、親が子供の頬に親愛の情を示すためにキスをするといった、日常的に行われる行為ならば判断ができるかと思うのですけれども、わいせつな行為になってくると、判断はできないのではないかと思います。
わいせつな行為については、連続性もありますし、どこで線を引くかということが難しいということもあるので、そこに差は設けなくてもいいと思っています。
○保坂幹事 一点だけお伺いしたいのですが、16歳未満に引き上げて処罰する理由について、配布資料22に三つ示されている能力のうちの「②」と「③」の能力が十分でないのだということをおっしゃいました。
  他方で、3歳差未満というのですかね、同年代、1歳差、2歳差の者同士の性的行為を処罰しない理由については、強制力が働かない場合もあるということでおっしゃったのですが、処罰する理由を、能力が十分でないとか能力が欠けているということに求める以上は、その処罰しない理由も、その能力から説明するのが一貫するのかなと思いましたので、その強制力というと、その行為者側の威力みたいなものの相関関係のようにも聞こえたものですから、私の理解が正しくないのかもしれませんが、この能力が欠けるという場合の「②」と「③」の能力については、相手方が、例えば同年代、1歳差、2歳差ぐらいであれば、能力が発揮できるというか、能力を有するというか、そういう理解なのでしょうか。
○齋藤委員 学校教育で性交の教育をしていないのに、「①」の能力があると考えていいのかという疑問もあるのですが、それは置いておきまして、今のお話なのですけれども、強制力が働いているうんぬんというのは同意の定義の中にありまして、強制的ではないこととか、基本的に対等であって、ノーと言うことの自由がきちんと保障されていることを同意というのですが、対等性がない場合には、相手からの働きかけに対処する能力が失われてしまうことになります。
○保坂幹事 そうすると、確認ですけれども、例えば、3歳年長が相手であると、この三つの能力のうちの「③」の対処する能力が欠けるというか発揮できないと見ると、こういうことなのでしょうか。
○齋藤委員 「②」の能力も身に付いているとは言い難いので、「③」の能力が不足していることによって、「②」の「行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」も脅かされるのではないかと思っています。
○井田部会長 委員・幹事の皆様から、齋藤委員の御意見に対する御質問があれば、是非お出しいただければと思います。
○今井委員 齋藤委員、大変貴重な御意見いただきまして、勉強になりました。
  私からの質問は、先ほど保坂幹事が言われたのと非常に似ているかと思うのですけれども、対象者を13歳以上16歳未満にするということと、対象者の能力を三つに分けて考えるということ、それから最後に、クラスの中の力のある者が弱い者に対して性的行為に及ぶというような類型を挙げられたのですけれども、私も、最初の二つ、対象者を13歳以上16歳未満にするということと対象者の能力という話が同じグループに整理される問題で、クラスの中の強い者が弱い者に対して性的行為に及ぶという話は、優越的地位という御発言もありましたけれども、また違う流れの要件だろうと思いました。
それを前提にお話を伺っていて、13歳以上16歳未満と形式的に切ることも、実質的には、意味認識能力はあるけれども、対処能力あるいは抵抗力が限定されることが、言わば外形的な事実から推認される
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]という趣旨で御発言されたように思います。
そうであるならば、そのような外形的事実の内実をもう少しはっきり示すような理解がここで得られたならば、それを要件に入れるという書きぶりもあるだろうと思います。
  その上で、対処能力や抵抗力というものが、実は犯罪の成否を決める、あるいは不同意性を基礎付けるという可能性もありますけれども、そういう意味であるならば、優越的地位とか脅迫といった要件によらず、「乗じて」ということまでいかなくても、例えば「その能力不足を知りつつ性交に及んだものは、強制性交とする。
」という書き方もあるかと思いました。
  繰り返しになりますけれども、そのように申し上げているのは、16歳未満と形式的に切っても、その中身は、当該被害者とされる人の能力不足が具体的にあったかどうかという判断になろうと思いますので、その点について検討するのは、齋藤委員の御提案を踏まえた有意義な議論ではないかと思ったところです。
○齋藤委員 「能力の不足を知りつつ」という書き方に関してですが、今回法律を改正する上での大事なこととして、何歳差以上離れている場合は、関係性として対等ではなくて、相手の自由な意思決定を阻害するのだということをきちんと書くことで、被害を受けた側にも、加害する側にも、そのことが明確になるのではないかと思っております。
  また、優越的地位に関してなのですが、例えば、子供を相手にした成人など、年齢が上の人からの性的なグルーミングなどは、性的グルーミングの方法を熟知していないと、それが性的グルーミングかどうか、子供が誘導されているかどうかということについて非常に判断が難しくなるので、能力不足があったかどうかといった文言を入れることで、個別に判断する余地が生まれると、今も起きている判断のぶれが、また生じることになるのではないかという懸念を抱いています。
○今井委員 御趣旨は理解しているつもりなのですけれども、能力を三つに整理したとしても、一人の個人においても発達の度合いにはばらつきがあると思います。
それから、形式的に決めた対象年齢以上の範囲に入っている人にとっても、例えば、三つの能力のうち、どれかが飛び抜けて発達しているけれども、どれかが欠落しているような方もいると思います。
したがいまして、まず年齢差という形式的な要件で被害者層を決めたとしても、過剰処罰に至らないためには、一定の実質的な考慮が必要でありまして、そのことは、齋藤委員の御提案でも排除されているわけではないと思いますので、御提案を更に詰めて検討していくときには、そういうことも考慮した方がいいのではないかということで、申し上げた次第です。
○齋藤委員 一点補足なのですが、16歳未満という年齢設定は、17歳、18歳でも性的行為に関して、対等ではない相手からの働きかけに適切に対処ができず被害に遭っている事例はかなり多く発生しているけれども、16歳未満のように能力や社会的な立ち位置から一律適切な対処ができないと考えるということではなく、個別の事情が存在する場合もあると考え、16歳未満という年齢設定がよいのではないかという考えに基づいたものでした。
○橋爪委員 二点質問させてください。
  まず、一点目ですけれども、法律家の観点からすると、性的な判断や決定ができる能力があるかないかという問題と、同意があるかないかの問題は、別の次元の問題として扱っている気がします。
つまり、能力があるかという問題が先にあって、能力があると認められる者について、さらに同意があるかを検討し、同意があると認められる場合には、性的行為が正当化できると考えていると思うのです。
そうしますと、現実に同意があるかないかという問題と切り分けて、対象者に性的な判断ができる能力があるかを検討する必要があることになります。
したがって、仮に関係が対等であって、有効な同意が認められるとしても、同意の有無を判断する前提として、そもそも有効な意思決定ができるかを判断する必要があると考えるのですけれども、齋藤委員の御理解とはこの辺りの整理がやや異なるようにも思われましたので、まずはこの点につきまして確認させてください。
  もう一点です。
齋藤委員の御意見の中で、若年者については個人差が大きいという御指摘がございました。
個人差が大きいということを重視するのであるならば、一律に、年齢差という観点から形式的に判断するよりは、むしろ個人の成熟差に応じた上で、言わば非対等といいますか、対象者の未成熟を濫用・利用するような性的行為を個別に判断し、処罰対象にした方が、齋藤委員の御提案の趣旨に合致するような印象を持ちましたが、その点につきましても、御意見をお願いいたします。
○齋藤委員 一点目の質問について、能力が生かされるかどうかというのは、相手からの働きかけや相手との関係性にもよるのではないかと思いますので、それを別個に考えるというのは、考え方の違いではないかと思います。
  基本的に16歳未満というのは、性交が自分に及ぼす影響を理解する能力や、相手からの働きかけにきちんと対処する能力は欠けているのだけれども、ただ、本当に何の強制力もない対等な14歳同士などの場合には、お互いに、イエスやノーを言うことが可能な場合もあるのではないかと思います。
  また、二点目の個人差が大きいということに関する指摘ですが、個人差が大きいというのは、16歳未満であっても判断できる場合があるということではなくて、17歳、18歳でも判断できない場合があるという意味での個人差の大きさについて話しておりまして、16歳未満は、やはり能力的に、そして社会的な位置付け的に、判断できない年齢なのではないかと考えています。
  未成熟さを利用する、濫用する性的行為を個別に判断する方が私の提案の趣旨に合致するのではというお話については、16歳未満というのは、個人差を考慮しても、その子供たちと性的行為をするこ
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]と自体が既に年齢が低いことによる脆弱性に乗じているので、「乗じている」とか「未成熟さを利用した」ということを書く必要はないのではないかと考えております。
○橋爪委員 今の齋藤委員の御説明を伺っておりますと、16歳未満の若年者には、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力が一律に存在しないわけではなくて、「②」と「③」の能力は、潜在的には存在し得るところ、相手が誰かによって、その能力を十全に発揮できる場合とできない場合があるという理解に立っておられると感じました。
16歳未満の若年者であっても、対等な関係において十分に判断する余裕があれば、「②」及び「③」の能力についても有効に発揮できるケースがあり得ると考えてもよろしいでしょうか。
○齋藤委員 16歳未満の子供たちにとって対等である人というのは非常に限られているので、例えば、年齢が同じで、本当に強制力が何も働いていないような関係性であるなど、とても限定される印象は持っております。
○井田部会長 私も関心があるのですけれども、3歳や、それよりもう少し年上の者との関係においては、絶対に対等な関係ということはあり得ないと考えていいのでしょうか。
3歳以上離れてしまうと、もう対等ということはおよそあり得ないのか、あるいは、個人差によっては、対等になる場合もあり得ると考えられるのか。
○齋藤委員 対象者が16歳未満の場合は、年上の者と対等な関係になることは、基本的にはあり得ないと思います。
年齢差を3歳とすることが適当かということはありますけれども、基本的には、対等な関係になることはあり得ないのではないかと思います。
○長谷川幹事 配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力の内容に踏み込んで御質問をしたいと思います。
まず、「② 行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」に関して、私は、「自己に及ぼす影響」の理解には、将来的にどういうことがあり得るかということの理解も含まれると思っており、例えば、将来的な妊娠や感染症のリスクがあるというような知識も入ってくると思っています。
妊娠について、自分の人生に与える影響という意味では、10代の妊娠には40代以上の妊娠に次ぐぐらいのリスクがあって、例えば、亡くなるリスクや、子供の低体重のリスクがありますが、若年者にはそのような知識が不十分なのです。
また、若年で出産することで、学業ができなくなったり、貧困に陥る可能性があるとかいったことも含めて、「自己に及ぼす影響」なのだと考えると、相手が同年齢で、対等に同意ができるような関係であっても、「②」の能力が発揮できるということにはつながらないと思います。
  次に、「③ 性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」ですけれども、性犯罪が、性的自由に対する法益侵害であり、有効な同意の存否が法益侵害の有無を基礎付けるという前提に立った上で、有効な同意ができるためには、「①」から「③」までの能力が必要であるといったときに、この「的確に対処する能力」とは、必ずしも強制的な働きかけに対して断れるかどうかということだけではなく、行為の性的な意味を認識したり、その行為が自分に及ぼす影響を理解したりした上で、どういう行動をするのかを決められるという能力を含んでいると考えるのが、法益侵害の観点から整理してきた場合の帰結のように思います。
そうすると、強制的要素だけではなくて、流されてしまうというようなことも含まれると考えると、同年齢だと、お互いに好きだとか、大事にしたいとかいった感情に、かえって流されてしまう場面もあると思うので、法的な引上げの根拠からすると、同年齢であれば「②」や「③」の能力が発揮されることもあるのではないかとか、対等な関係だから処罰しなくてよいということになるのだろうかという疑問があるのですが、いかがでしょうか。
○齋藤委員 まず、もちろん妊娠や感染症のリスクですとか、貧困になる可能性についての認識が不十分であるということはそのとおりだと思います。
どこの国だったか失念してしまいましたが、同年齢の若年者同士の性交渉について、それぞれがきちんと性教育を受けていて、それを理解した上で、さらに、対等な関係で、強制力がなく、対等なパートナーシップとは何かというのを認識できていたならば、合意があると考えてもいいとする国があった気がするのですけれども、基本的には、16歳未満同士でも対等な関係を認めることは非常に難しいと思っています。
ただ、仮に対等であることが成立し得るとしたら、同年齢同士はもしかしたら成立し得ることがあるかもしれないと思ったということです。
  私は、性交についてきちんとした認識がなく、きちんとした包括的な性教育を受けていない段階で性交を行うことに、積極的に賛成しているわけではないですけれども、性交すること自体を妨げたいわけではなくて、性的な意思決定がゆがめられているような、性的な意思決定を侵害されているような性交は、刑法できちんと処罰する必要があるのではないかと考えています。
そうしたときに、自由な性的な意思決定が侵害されているというのは、同年齢でも、流されるということもあるかもしれないですけれども、年齢差がある関係性というのは、明確に対等ではなくて、16歳未満の子供たちの自由な性的な意思決定を侵害するといえると思うので、対象年齢を16歳未満とした上で、例外として年齢差要件を設けるということを提案いたしました。
○長谷川幹事 先ほど私が言った、性的行為が自己に及ぼす影響を分からずに同意することは、有効な同意ではないのではないかという考えに対して、諸外国では、同年齢の若年者同士について、いろいろな条件があるけれども、理解をし合っていて、対等であり、強制ではなくて、パートナーシップも理解しているというものであれば、合意があると考える国があるとのことでした。
齋藤委員は、16歳未満同士であっても、対等である場合もあり得る可能性があるから、3歳未満の年齢差については不処罰にするという御意見と伺ったのですけれども、それが、性的同意に関する「①」から「③」までの能力の理
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]論的なところから帰結するかというと、諸外国のいろいろな条件というのは、「①」から「③」までの能力とは違う観点から設けられているように思うので、結局、例外として、一定の年齢差未満の場合は処罰しないようにすべきではないかという意見は、理論的な帰結というよりは、ほかの条文に該当するものは別として、立法の側とか国民の側とかが非難をしないという選択をして、そこは罰しないようにしようという刑事政策的な話のように思えました。
○小西委員 同年齢の場合のことをどう考えるかという点について発言したいと思いますが、その前に、心理学や精神医学は、発達にしても異常にしても、基本的には連続体として捉えるものです。
その内容については、もう皆様余り議論はないと思うのですけれども、法律の条文でどう捉えていくかというところが、今回問題になっていると思います。
  前提から聞いていただけると有り難いのですけれども、生物学的な問題、あるいは社会学的な問題として捉えても、性犯罪に関して、若年の子供に脆弱なところがあるということは共通の認識だと思いますので、そこが年齢引上げに関する出発点であるということは、間違いないと思います。
  私としては、性的行為をするかどうかに関する能力として、13歳未満までは、配布資料22に記載されている「①」、「②」、「③」の全部の能力が欠け、13歳から15歳までの人は「②」及び「③」の能力が欠けると考えていいのではないかと思うのですが、そういう発達に関する事柄をストレートに条文に表現するとなると、私は、実は、強制性交等の対象年齢の引上げではなくて、諮問事項「第一の三」の地位・関係性の利用を要件とする罪の新設の中にそういう脆弱性の視点も含めて考えた方がいいと、最初は思っていました。
こちらの方が子供をめぐる性犯罪の心理学的な実態に沿っていると思ったからです。
しかし、どうもそれは法的に実現するのが難しいらしいということを、お話を聞いていて思いまして、結局、年齢で捉えるというのは、実質的にとても脆弱な人たちを捉えていくために、形式的要件に置き換えるという形で、年齢という要件を出しているのだと考えて、年齢の引上げに賛成するようになりました。
  そういう観点から見ると、年齢で区切るというのは、一種の分かりやすくする代替策であって、例えば、16歳と15歳でどう違うかという質問は、心理学的・精神学的には非常にナンセンスな質問になってしまうのだけれども、代替策の中でどのように考えるかと思うと、やはりいろいろな濃さでそういう脆弱性なり社会的な問題なりがあるときに、どこかで区切るならば、そこから先は絶対に100%そういうことはあり得ないというところで区切るしかないのだろうというのは、法律としては納得するところです。
そのように考えますと、あえて分かりやすい指標としての年齢を挙げることで、大きな害を取り除こうということなので、0か100かで、被害そのものもきれいに分かれるものはないのだという前提に立ってやらないといけないのだと思います。
  では、そこで年齢ということをどう考えるかということなのですが、皆様の御発言にもありましたが、やはりパワーの差が明らかで、このパワーの差があれば、あるいはこの関係性であれば、平等ということはあり得ないという年齢で切るしかないのかなと思っています。
それは、被害を受けた人全員を救うことにならない可能性があるので、私としてはすごく残念だと思っているのですけれども、法律で実現するとすれば、それしかないのかなと思います。
  そう考えたら、例えば、13歳の子に、成人年齢である18歳の人が加害をするという場合には、ここには到底、対等な関係はあり得ないと考えていいと思います。
それは、加害者の能力から考えても、それから法的な扱いから考えても、当然そうなのではないかと思います。
そうすると、この場合の年齢差は、5歳差ということになりますが、例えば、それが15歳と20歳であっても、20歳もその年齢を境に、法的な成人としての扱いに差が認められる年齢です。
そこで切るというのも、比較的妥当な境界かと思います。
本当に全てが救えないということが残念であるのだけれども、やはり5歳差というのが、法的には、それ以上だったら関係性が平等であることはあり得ないということを保障するという点では、妥当なのかなと思うに至りました。
○井田部会長 小西委員の御意見に対して、事務当局としていかがですか。
○浅沼幹事 小西委員の御意見は、本来であれば、若年者に対する性的行為は、地位・関係性を利用する類型として整理する、あるいは実質的要件を設ける方が適切だろうけれども、明確に線を引くとすれば形式的要件を設けることになって、その場合の処罰対象から除外する年齢差は5歳差が妥当というものだと理解しました。
  今後の議論がどうなるかは分からないのですけれども、実質的要件を設けることができるのではないかという余地が仮に出てきた場合、委員としては、やはり実質的要件を支持されるのでしょうか。
それとも、いろいろお考えになった結果、実質的要件を設ける余地が出てきたとしても、明確に形式的要件で切った方がいいという結論にたどり着いていらっしゃるのか、教えていただければと思います。
○小西委員 まず、13歳未満というのは余りにも低すぎるという意見ですので、このままでいいとは思っていません。
たとえ地位・関係性を利用する類型の方で規定できたとしても、このままではよくないのではないかと思います。
ただ、実際に、例えば、15歳の子がSNSで誘い出されて、合意したと思ってセックスをしてしまうのだけれども、後で大変状況が悪くなるというようなケースはたくさんあるわけです。
そういうケースを考えるときには、やはり心理的に考えれば、それは地位・関係性や個人の脆弱性という、連続体で存在する要素の問題だろうと思うので、精神医学的に分析するのであればそちらの方が適切だと思っています。
ただ、それがなかなか法律に実現しないというか、法的には難しいことなのだとこれまでの議論から思ったということなので、理念的には実現できるのであれば、それで
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]もいいといえます。
○浅沼幹事 もう一点、先ほど齋藤委員にもお伺いしたのですけれども、対象年齢未満の者について、性的行為の種別や内容、例えば、強制わいせつに当たるような行為か強制性交等に当たるような行為かによって、判断する能力が変わってくるか、変わってこないかについては、どうお考えでしょうか。
○小西委員 変わらないと思っています。
基本的に、対象者を身体的に、それから心理的に侵害する性的行為の影響というのは、もちろんこれもスペクトラムですから、程度の差はありますけれども、それを言うなら、強制性交等の行為の中にも様々な行為があり、強制わいせつの中にも様々な行為があるわけです。
一つの言葉で区切れるわけではないので、本質的には一緒だというのが、私の意見です。
○吉田幹事 一点だけお伺いしたいのは、年齢差要件について、先ほど5歳という数字を出して御説明いただきましたけれども、13歳と18歳、14歳と19歳、15歳と20歳と、被害者になる側の年齢が1歳上がれば、相手側の年齢も1歳上がっていくという具合に、少しずつスライドする形になるわけです。
13歳と18歳の場合の5歳差が持つ意味と、このスライドしていったときの5歳差の持つ意味というのは、同じように捉えることができるのでしょうか。
心理学ではなかなか説明が難しいということかもしれないのですけれども、心理学以外に関する小西委員の御知見も含めて、御説明の仕方として何かあり得るのかを、もしお考えがあればお伺いしたいと思うのですけれども、いかがでしょうか。
○小西委員 基本的には、性的行為の当事者間の関係性において、パワーの差が明らかであるか否かというところが一つの判断基準だと思うので、本当に個別のケースでそうかといわれたら、心理学的には答えにくい問題ですけれども、全体として、5歳差がある場合に、パワーの差が全くないということはあり得ないということはいえると考えます。
○保坂幹事 一点だけ御質問したいのですけれども、先ほど齋藤委員に聞いたのと同じような質問ですけれども、御発言の中で、16歳未満まで引き上げることを前提とした場合の13歳から16歳未満までの間は、能力でいうと、配布資料22に記載されている「②」と「③」が欠ける、あるいは不十分だと。
その上で、パワーの差が明らかな場合に限って、処罰の対象にする。
つまり、5歳未満の年齢差の場合には、それが明らかとはいえないという、こういう御趣旨だと思うのですが、処罰する根拠が、能力が欠けているから自由な意思決定ができないのだということにあるとすると、その能力は、5歳差なら全部できるわけではないけれども、5歳差を超えるとおよそ能力が発揮できないというか、つまり、「②」と「③」の能力というのは、ある程度相手による相対性があることを前提とされているのかどうかを確認したいと思いました。
○小西委員 先ほどから議論になっていますけれども、被害者の能力に関する問題と、関係性に関する問題というのが、二つ一緒に入ってきているので、混乱しているような気がするのです。
  関係性という点では、今お話ししたように5歳差だと思います。
「②」や「③」の能力がそれに影響されるものなのかといいますと、「②」の能力は違うと思います。
「行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」というのをそのまま読むならば、これは、個人がどう理解するかということなので、相手との年齢差によって変わるものではないと思います。
  ただ、「③」の「性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」は、働きかけというのが相手方からある以上、例えば、相手が狡猾になればなるほど、的確に対処することが非常に難しくなってくるということはあるわけで、そこは影響があるといえると思います。
○井田部会長 委員・幹事の皆様から、今の小西委員のお考えに対して御質問がございましたらどうぞ。
○北川委員 小西委員、そして齋藤委員も心理学的見地からいろいろ御教示いただき、ありがとうございました。
齋藤委員と小西委員の御意見を聞いていて、改正の趣旨に違いがあるのかと思った点に関して、確認の趣旨で質問させていただきます。
  小西委員の御発言からしますと、むしろ今回の対象年齢の引上げの根拠というのは、被害者の脆弱性及びその脆弱性に対して関係性を濫用して行われる性犯罪の類型化が、地位・関係性の利用の拡大によって実現できないのであれば、対象年齢の引上げと年齢差要件によって代替しようということであると理解しました。
その意味では、必ずしも先ほど齋藤委員がおっしゃったように、飽くまで16歳未満は性的判断能力を欠くということを理由に引き上げるのではなくて、能力うんぬんだけでなく、むしろ刑事政策的な判断、13歳から15歳までの者を大人の性的搾取から守るという観点から引き上げるということのようにも受け取れて、引上げの法的根拠が、齋藤委員と小西委員の間で異なるのではないかという点を、質問させていただきます。
○小西委員 法律的な議論なので、非常に難しいのですけれども、例えば、法律にいろいろな心理学の知見を反映していくときに、どう反映するかということで、そこは多少、齋藤委員と違ったところもあったかとは思います。
齋藤委員のお話では、地位・関係性やパワーの問題、脆弱性の問題から、代替策として年齢差を設けるというお話ではなかったように思いますけれども、それでお答えになりますか。
私の意見は、本当に、これは駄目だというものはせめて守っていただきたいと、そういうことです。
○齋藤委員 16歳未満が性的判断能力を欠くというのは、16歳未満は年上からの働きかけについて適切に対処することが難しいからであり、多分本質的に、小西委員がおっしゃっていることと違いはないのですけれども、理論の組み立て方は違ったのではないかと思います。
○金杉幹事 先ほど齋藤委員に御質問し損ねたのですけれども、よろしいでしょうか。
三点御質問します。
  一点目は、例えば、15歳の高校1年生の男子が、同じアルバイト先にいる18歳の高校3年生の
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]女子と恋愛関係になって性行為に及んだような場合、齋藤委員の御意見としては、女性の側に強制性交等罪が成立するということでしょうか。
  二点目、三点目につきましては、事案を変えまして、例えば、15歳の男子と18歳の女性が、出会い系、マッチングアプリ等で1回だけ会ったという場合を想定したいのですが、この場合に、明確な暴行という形ではなくて、多少脅迫的な言辞でもって、15歳の男子の方から18歳の女性に働きかけて性交等を行ったときに、この15歳男子については、仮にそれが強制性交等罪に該当し得るような脅迫行為だったとして、強制性交等罪として処罰されるというお考えでしょうか。
もし処罰されるというお考えなのであれば、16歳未満の者については、三つの能力のうち、少なくとも配布資料22に記載されている「②」や「③」の、自分の行為が自己に及ぼす影響を理解する能力とか、そういう性的自己決定に関する判断能力が欠ける、若しくは不十分だというお考えに立つにもかかわらず、行為者である15歳の男子が処罰されると考える根拠は何なのか、というのが二点目の御質問です。
  三点目は、同じ事案で、脅迫的な言動によって、15歳の男子と結果的に性交等に及んでしまった18歳の女性の側に、強制性交等罪が成立するのかしないのか。
もししないとお考えなのであれば、その根拠は何かという、この大きく分けて三つについて、お尋ねできればと思います。
○齋藤委員 先ほど例で、私も性別に言及しましたが、よく男子がとか女子がというような御発言があるのですけれども、それ自体が、様々なジェンダーのバイアスが掛かっているように思うことがよくございます。
それは置いておきまして、15歳の高校1年生の男子が、アルバイト先にいる18歳の高校3年生の女子と恋愛関係になって性行為に及んだ場合であっても、もし3歳差で区切るのであれば、18歳の高校3年生の女子は、15歳の男子のまだ判断が未熟なところを利用したと考えられるので、強制性交等罪が成立するということになると思います。
小西委員の5歳差だと、ここは入らないということになるかと思います。
  また、15歳の男子と18歳の女子がマッチングアプリで1回だけ会った場合、明確な暴行・脅迫があって、働きかけて性交等を行った場合ということですが、「③」の能力は働きかけへの対処であって、この場合、15歳の男子から働きかけて暴行・脅迫を行っているのであれば、それは別の処罰になる必要があるのではないかと思います。
また、18歳の女性の側が、もちろん明確な暴行とか脅迫、あるいは、明確でないけれども暴行・脅迫を用いて15歳の男子に性交した場合は、18歳の女性が強制性交の加害者ということになるのではないかと思います。
○井田部会長 金杉幹事、いかがですか。
○金杉幹事 少しかみ合っていない点があったかと思いますが、大体お考えは分かりましたので結構です。
○井田部会長 ほかに、小西委員に対する御質問はございますか。
○橋爪委員 一点確認させてください。
  小西委員の御意見の趣旨は、本来は実質的な関係性の有無によって処罰を図るのが妥当であるところ、法律家の議論では、それを実現することが難しいため、実質的要件を形式的要件に置き換えるということだと理解いたしました。
そうしますと、仮に実質的要件でこのような関係性を規律して罰則を設けられるならば、その方が優れているという御趣旨でしょうか。
あるいは、実質的要件と形式的要件を併用する形で、それによって処罰範囲を画すれば、その方がいいということでしょうか。
○小西委員 関係性について実質的に規定できるかどうかということは、ここまでの地位・関係性を利用する類型の議論の中で、例えば教員はどうなのか、クラブのコーチはどうなのか、先輩はどうなのかといういろいろな問題を話し合ってきました。
その中で、私は、どうも地位・関係性を利用する類型では、私が知っている実際の被害者に有効な形での処罰はできないのではないかという気がしたので、そうであれば形式的要件にと思っているわけです。
形式的要件と思った時点で、例えば、同年齢間におけるいじめとしての性的行為などを対象としないことになってしまうので、とても心苦しいです。
  しかし、絶対にあり得ないことだけはせめて罰してほしいという考え方をとると、例えば、先ほどの5歳差であれば、20歳と15歳では当然パワーということを、パワーという言葉ではなくても、加害者が意識すべきところだと思います。
そういう形で安全策を採った結果として、今の意見になったということです。
法律をどう作るかは、正直、私の力の及ぶところではないのですけれども、例えば5歳差で提案した時点で、救えるケースが全部救えて、かつ、もうちょっと年齢差が近いけれども、救えるケースがあるのであれば、それは考えてもいいのかなと思います。
○橋爪委員 小西委員の御趣旨には本当に共感しております。
個人的な感想になってしまいますが、形式的要件一本で切る場合には、これだけ年齢が離れていれば、絶対にもうレイプ以外の関係はあり得ないという規定にならざるを得ないと思うのです。
そうすると、一定の年齢差があれば8割の場合は対等とはいえないとしても、2割でも対等な関係が認められる可能性が残る場合については、その年齢差を基準とした処罰規定を設けることができないということになります。
形式的要件一本で規定する場合は、およそ例外がない場合しか処罰ができないので、そこに収まってこない場合を切り捨てざるを得ないところが本当に難しいという印象を改めて強く持ちました。
○井田部会長 それでは、ほかにどなたか御意見のある方はいらっしゃいますか。
○佐伯委員 私は、前回改正の法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会では、性交同意年齢の引上げについて、児童福祉法や条例の罰則などの存在を理由に、消極的な意見を申し上げました。
しかし、今回の部会において、皆様の御意見・御議論を伺い、13歳以上であっても、一定の年齢以下の者については、
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]先ほどから御指摘がありますように、行為が自己に及ぼす影響を理解する能力、あるいは性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力が十分でないということから、そのような若年者を保護するために刑法に新たな規定を設けることに賛成したいと思うようになっています。
  その上で、どのような規定にするのが望ましいのかということについて、現在のところは、第1回会議の外国の法制度に関する配布資料6で紹介されました、ドイツ刑法182条3項のような規定、具体的には、同項は、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を行い、その際に、行為者に対する被害者の性的自己決定能力の欠如を利用した場合に処罰すると規定しておりますけれども、このような規定の仕方が、基本的には適切ではないかと思うに至っております。
  この規定のように、年齢差を、行為者と被害者の年齢で定めるのか、それとも、端的に年齢差として規定するのか、あるいは、その年齢や年齢差を何歳にするのか、先ほどから、3歳あるいは5歳というような御意見が出ておりますが、それらの点については、更に検討が必要だと思いますけれども、基本的に、年齢差と被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用の両方を要件とすることが、望ましいのではないかということです。
  まず、年齢差要件を設ける理由については、若年者の判断能力、特に対処能力は、相手や状況に左右されるものであって、一定の年齢差がある場合には、先ほど来、小西委員が御指摘になっておられますように、対処能力に欠けると考えることができること、そして、これも小西委員が御指摘になられた点ですけれども、法律の安定的な適用を確保するためには、被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用を徴表する要件を規定し、一定の場合は、原則として犯罪が成立するということを示すのが、望ましいと思われるからです。
  次に、年齢差要件とともに、利用要件を設ける、この点が、小西委員と意見を異にする点なのですけれども、その理由というのは、年齢差要件だけで処罰範囲を適切に画することができるかについて、私は危惧を感じるからです。
例えば、先ほども御指摘がありましたけれども、年少者が年長者に対して暴行・脅迫を用いて性交等を行ったという場合は、年長者は被害者ですので、処罰されるべきではないということについては、恐らく異論はないのではないかと思います。
そのような場合は、違法性阻却等で処罰範囲から除外できるのかもしれませんが、やはり構成要件の段階で除外することが望ましいと思います。
  さらに、一定の年齢差がある場合、飽くまで例えばですけれども、ドイツ刑法の規定のように、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を行った場合には一律に処罰する規定とすることについては、最高裁判例との関係も気になります。
御案内のように、最高裁昭和60年10月23日大法廷判決は、18歳未満の者との淫行を禁止・処罰する福岡県青少年保護育成条例について、婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等まで処罰の対象とすることは処罰の範囲が広きに失すると判示しています。
今回問題となっている一定の年齢未満、例えば、16歳未満の者との性的行為等の処罰について、この判例がそのまま当てはまるわけではありませんが、真摯な合意に基づく性的関係は処罰すべきではないというのが、この判例の基本的な考え方だとすると、私は、その考え方は尊重されるべきだと思います。
  一定の年齢差がある場合は、そのような真摯な合意に基づくものではないというのが通常でしょうし、その年齢差が更に大きくなれば、真摯な合意に基づくものとは到底いえないと判断されることになると思います。
しかし、一定の年齢差を少し超えただけで、常に真摯な合意に基づくものでないといえるのか、例えば、21歳の者と15歳の者との間には、真摯な合意に基づく性的関係はあり得ないと言い切ってよいのかについては、私はちゅうちょを覚えるところです。
  この最高裁判例が、法定刑が懲役2年以下又は10万円以下の罰金である条例の規定に関するものであるのに対して、現在議論されているのは、法定刑が、性交等の場合は5年以上の有期懲役の罪であることも、考慮に入れられるべきだろうと思います。
○井田部会長 事務当局から質問があればお願いします。
○浅沼幹事 既に委員の御発言の中で触れられているものと理解しておりますが、確認の意味で御質問いたします。
年齢差なりの形式的な要件と利用要件、つまり実質的な要件の組合せという御提案だったと思いますけれども、その両者の関係性について、どのようにお考えになりますか。
○佐伯委員 年齢差があることによって、対処能力の欠如が示されるということが第一点です。
それから小西委員が御指摘になった点と共通しますけれども、明確な基準があった方がいいということが二点目です。
小西委員は、5歳差があれば、パワーに差がないということはあり得ないとおっしゃいました。
確かに、力関係に差はあるのだろうとは思いますが、その差が、直ちに刑法で、例えば、性行為について懲役5年以上の刑罰を科すということをもたらすものなのかというと、パワーに差はあっても、そのような差に配慮しつつ、真摯に交際するということも、特に年齢差が少し超えているというような場合には、あり得るのではないかと思っております。
○浅沼幹事 実質的要件の軽重といいますか、表現が難しいのですけれども、年齢差を非常に大きく、例えば、10歳と定めて、それで残ってくる実質的要件で捉えられるべきものと、例えば、年齢差が3歳というような狭い場合に、残ってくる実質的要件で捉えられるべきものの重さの違いというか、年齢差要件と実質的要件の相関関係についてはどうお考えになりますか。
○佐伯委員 実質上変わってくると思います。
年齢差が大きくなればなるほど、その年齢差があれば、原則として処罰していいということになって、実質的要件である利用要件は余り働くことがない、本当に
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]例外的な場合に限られるということになると思いますし、年齢差が小さくなればなるほど、その年齢差だけで直ちに処罰を基礎付けることができなくて、より利用要件に実質的な役割が求められるということになるのではないかと思います。
○吉田幹事 今の点と関連して教えていただきたいのですが、今の御意見の趣旨は、年齢差という形式的な要件を設けることとした場合に、その年齢差の持つ意味が、その幅によって変わってくる、例えば、年齢差を10歳とか15歳と離しますと、基本的に対等な関係ではない、能力が発揮できないということになってきて、実質的要件で除くべき部分というのが、その分縮小するという関係に立つということであると思います。
そのときに、もちろん具体的な文言はまだこれから議論すべきことだろうとは思っておりますけれども、例えば、監護者性交等罪では「乗じて」という言葉が用いられていて、御案内のとおり、余り機能すべき領域が大きくない要件として設けられております。
そうしたことも踏まえ、例えば、実質的要件として、そういう「乗じて」というような言葉を用いることも視野に入ってくるのか、あるいは、それとは別の考慮があり得るのか、その辺りについて、現時点でのお考えがあれば、教えていただければと思います。
○佐伯委員 実質的要件として、「乗じて」という言葉を用いることも考えられると思います。
そこは正に、実質的要件にどのぐらい役割を持たせるかということにも関係するのですけれども、今、御指摘があったように、監護者性交等罪においては、「乗じて」という要件は非常に限定された機能しかないと理解されていますので、それよりはもう少し機能を持たせた文言として、ドイツ刑法で使われている「利用」という文言を御提案した次第です。
○保坂幹事 一点だけお伺いしたいのですけれども、年齢差のような形式的要件プラス、利用する、未熟さを利用するというような、利用要件というお話でございましたが、年齢差としてどれぐらいを設定するのかのところにも大きくよるのだと思いますけれども、その年齢差内にある者同士の中に、実質的要件を満たすような者はいないという設定なのか、それとも、いるだろうけれども、言わば同年代同士の場合には、利用があり得ないのか、あるいは利用したとしても、5年以上の懲役という法定刑で罰すべきでないというのか、同年代が処罰されない理由は、この要件との関係でどう理解すればいいのかというのを教えていただければと思いました。
○佐伯委員 対処能力も含めて、性的行為をするかどうかに関する三つの能力全てが0か100かではないと思うのですけれども、一定の年齢差がある場合には、類型的に対処能力が欠けると考えるということです。
そうすると、実質的には利用していて、可罰性がある場合も処罰から漏れてくるのではないかということについては、小西委員と同じ意見で、確かにそういう場合もあるかもしれないけれども、そのデメリットと、明確に処罰範囲を画するというメリットを勘案すると、メリットが上回るのではないかというのが、私の意見です。
○小西委員 佐伯委員の御意見は納得できるところもあるのですけれども、実質的には、多分、橋爪委員も佐伯委員も同じことをおっしゃっていて、要するに、年齢差要件だけでは処罰すべきでないものが処罰されてしまうケースもあるということをおっしゃっているのだと思います。
  ただ、私がどうして形式的要件にこだわっているかというと、「真摯な恋愛」とか、そういう心理学的な要素を含んだ言葉は、偏見がある社会の中ではきちんと使われない可能性が非常に高いからです。
今でも、多くのケースの中で、実際にはパワーのコントロールがあるにもかかわらず、そのことが明らかにならずに、例えば無罪になっているようなケースがあるわけです。
その中で、かなり心理学的な要件である、例えば、先ほどの「乗じて」のところに入ってくる文言が、余り規定されずに書かれてしまって、実質的には人の偏見に任せられるということになることに、私は非常に危惧を持っています。
だからこそ、代替の仕組みというか、本当に足りないところはあるのだけれども、形式的要件にこだわりたいと思っているということを、お話ししたいと思います。
○井田部会長 濫用されるおそれがない、救済すべき者が全て救済されるような文言というのはあり得ないのでしょうか。
○小西委員 今の真摯な恋愛は処罰すべきでないという点に納得された方もいるのかもしれませんけれども、そういうように見えながら、実際にはコントロールが非常になされているケースというのは、本当にあります。
そういうケースを発見するためには、その人が真摯であるかどうかということを、表面上、誰かが判定するわけですけれども、そういう判定では不十分だと思っています。
どのような言葉があるかというのは、今はお答えできません。
少し考えてみますけれども、ここまでの経過を踏まえて、到底無理だなと思ったので、この形式だけの要件を主張しているということです。
○井田部会長 ほかに、今の佐伯委員の御発言に対する御質問はございますか。
○齋藤委員 年齢差があっても、形式的要件のぎりぎりの年齢差で、相手のことを考えた真摯な関係性があって、同意を築く場合もあるのではないかというお話があったかと思うのですけれども、それは、16歳未満の若年者は性交が自分の心身にもたらす影響を十分に認識していない、ということを理解しているのに、16歳未満の若年者に対して性交を求めるということが、真摯な関係とか同意に基づく可能性があるということでよろしいのでしょうか。
○佐伯委員 道徳的にいえば、真摯に相手のことを思っているのであれば、16歳まで性的な関係を持つことを我慢すべきであるというのは、そのとおりかと思うのですけれども、刑罰、特に重い刑罰を科すということを考えた場合には、完全な配慮というものを刑法で求めるのは、やや行き過ぎではないかと思っております。

https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]井田部会長 真摯という言葉自体が、倫理的意味合いを持ってしまっているので、例えば、対等性の保障されている関係とか、ほかに良い言葉はないでしょうかね。
○金杉幹事 児童福祉法の淫行をさせる行為の中に、佐伯委員が御提案になったような規定で捕捉される行為と被るものがあり得ると思うのですが、児童福祉法違反の場合、懲役10年以下の法定刑ということになります。
そちらと強制性交等罪との整合性についてどのようにお考えか、例えば、佐伯委員の御提案のような規定ぶりで、もう少し法定刑を下げた形で規定するということは考えられると思うのですが、これを強制性交等罪と同程度の罪だとお考えになる根拠を、お聞かせいただければと思います。
○佐伯委員 青少年保護の観点からの規定を刑法に新たに設けるということであれば、より軽い法定刑ということが考えられると思うのですけれども、同意能力に欠けるということを理由として新たに規定を設ける場合には、絶対にというわけではないのですけれども、現在の13歳未満に対する性的行為を処罰する規定と同じような規定になるのではないかと思っております。
○今井委員 年齢差に加えまして、被害者の未熟さを利用して、というような形で実質的要件を設けるという御提案で、私も似たような発想を持っているのですけれども、その未熟さを利用してということの実態が、被害者側の能力の不足ということに関連してということになりますと、実質的には、対処能力等が相手方に十分にないことを知りつつ行為を行ったという場合に、非常に近づいてくるような気もいたします。
  佐伯委員も、規定ぶりは今後検討すべきということをおっしゃっていたので、今すべき質問ではないかもしれないのですけれども、「利用して」という要件を狭く捉えると監護者性交等罪にいう「乗じて」に近づきますし、あるいは被害者の置かれている状況を認識しつつ、という意味に捉えますと、能力の一部の欠落を認識して、ということに近づいてきて、金杉幹事が言われたような質問も出てくるのかなと思っていたところです。
ですので、被害者の対処能力の重要性を確認した上で、実質的要件をどう書くかによって法定刑も差異はあり得るのかなと思っていたのですが、現状での御意見があれば教えていただきたいと思います。
○佐伯委員 特に、年齢差をどうするかというところは、大きいのかなと感じております。
○長谷川幹事 三点質問をさせていただきたいと思います。
  先ほど昭和60年の最高裁判例について御紹介いただいて、判決理由の中で、18歳未満に対する淫行の処罰について、結婚を前提とするような真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等まで処罰対象とすると、処罰範囲が広汎になりすぎるという趣旨の判示部分を引用されたのですが、一点目は、女性の婚姻適齢が18歳に引き上げられたこととの関係で、今、この判決理由の判示はどのように整理されるのかということをお聞きしたいと思います。
それから、佐伯委員も、対象年齢を引き上げる根拠として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力に言及されつつ、真摯な恋愛、そういった一定程度本気の恋愛は処罰すべきではないのではないかという考えが背景にある御意見としてお聞きしたのですが、私は、先ほど言ったように、「②」の能力が不十分であることは、相手が誰であろうと、本気の恋愛であろうと、変わらないのではないかと思っておりまして、そこはどうお考えなのでしょうか。
それから、実質的要件について、これは、「乗じて」という言葉を使うのか、ほかの言葉を使うのか、まだ定まっていないところではあるのですけれども、こういった要件によって、年齢差があっても、一定の処罰すべきでないものを処罰対象から排除しようというお考えだと思うのですが、こういった要件があることによって、本来処罰すべきものが、行為者の認識や行為の立証の問題から処罰できなくなってしまう危険を多分にはらんでいるという点について、どうお考えなのかということを教えてください。
○佐伯委員 まず、最高裁判例が出たときと現在では、婚姻適齢が変わっているというのは、正に御指摘のとおりで、先ほども申し上げましたけれども、この最高裁判例が、そのまま直接、今議論している問題に当てはまるとは、私も思っておりません。
ただ、最高裁判例の基礎にある考え方からは、年齢差要件を設けても、その年齢差を少し超えるような場合に、常に処罰に値するといえるのかというと、やはり処罰すべきでない事例があるのではないかという発想に立つものです。
そして、これは先ほど御質問のあった立証の問題とも関連するのですけれども、刑罰を科すかどうかという問題ですので、少しでも処罰すべきでないものが入るおそれがあるのであれば、本来処罰すべきものが多少漏れたとしても、利用要件を設けることによって、言わば安全弁のようなものを残すべきではないかと思っている次第です。
○小島委員 この年齢差要件という形式的要件と実質的要件のハイブリッドを考える御意見だと思いますが,なぜ形式的要件と実質的要件のハイブリッドにするべきだと考えられたのか、ということを御質問させていただきたいと思います。
○佐伯委員 年齢差を何歳にするかということにもよるのですけれども、ある程度の年齢差が確保されれば、ほとんどの場合は処罰してもよい事例に当たるのだろうと、私も思っています。
ただ、それは、飽くまでほとんどの場合であって、やはり例外的に、たとえ年齢差を多少超えていても処罰すべきでないと多くの人が感じる事例もあるのではないかと思っており、そういう場合を処罰範囲から除外するためには、何らかの別の要件があることが望ましいのではないかというのが、私の意見です。
○山本委員 先ほどから繰り返しいろいろな方が質問しているのですけれども、対等に性的同意ができるということがどういうことか、という理解が共有されていないのではと思うので、説明をさせていただきます。

https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]  例えば、22歳と15歳の間でも、真摯な同意の下に性的な交流ができる可能性があり得るかもしれず、それが一定の年齢差を超えたら、真摯な合意があり得ないと言い切っていいのかということが、この年齢差に関する皆様の懸念というか、疑問になっているのかなと思います。
私は看護師で、性的被害の支援をしている立場なので、お互いに対等な関係で同意のある性交というためには、性的同意と性的コミュニケーション、性行為と妊娠、出産の過程を学び、きちんとコンドームの使用方法を守って、性感染症の防止も行い、異性間の性交だったら妊娠がありますから、女子に関しては毎月三、四千円分のピルを買える経済的な力も必要になります。
それらがあった上で、毎回、性的行為のときに同意をお互いにかわすことができるというのが、対等な性的同意であると考えています。
  その上で、例えば、ピルを年長者が買って年少者に与えるということになると、それは性的搾取に入ってくると思うのですけれども、一定の年齢差があっても、なお、それが性的搾取に入ってこないと考えるのは、どういうことなのかなということを、もう一回お伺いできればと思いました。
○佐伯委員 私の理解が不十分なのかもしれないのですが、もちろん、例えば、22歳と15歳であれば完全に対等とはいえないでしょうし、知識にも格差があると思います。
しかし、そういう力の格差や、知識の格差に配慮しながら、例えば、避妊をきちんとする、あるいは、そういう格差を補う努力、真摯という言葉が適切かは分かりませんが、私の考える真摯というのは、単なる主観の問題ではなくて、具体的にどういうことを行っているのかという客観的な問題だろうと思うのですけれども、様々な配慮を行って、性的な関係を持っているという場合に、これを、強制性交等罪や強制わいせつ罪と同じように処罰するというのは、私にはやや行き過ぎのように思えまして、やはりそういう場合を除外できる要件を設けておくのが適切ではないか、それを実務の運用に任せてしまうというのは適切ではないのではないかと思っております。
○山本委員 年齢差があり、すごく配慮ができるというのは、とてもよくできた人みたいなイメージがあります。
22歳の人がそこまでの配慮をできるのだろうかと思います。
  人間は、いろいろ自分の都合とか目的とかもありますし、特に若年でもありますから、そこまで本当に真摯に相手のことを思って、対等性を補完できるようなことが常時できるのかというのが、まず一つ疑問です。
もっと年長になっていけば、例えば30歳と50歳であれば、もう少し理解力とか思いやりとか配慮もできてくるのかなと思うのですけれども、それも人によりますし、若年者同士の場合に、そこまで年長者に期待できるのかというところは、非常に疑問だなと思ったというのが、私の感想です。
  それと、やはり年齢差は設けてほしいとは思います。
今の社会で、年齢差が持つパワーというのが、なかなか認識されていないと思います。
それは、被害を受ける人も認識できていないということもあるし、加害する側も、相手がいいと言ったからいいのではないかという考えで、その中で、性暴力も含めた多様な傷つきが生じ、そして、多大な心身に対する影響を後々にも与えているということがあるので、年齢に対する意識を議論して深めていただければと思いました。
○井田部会長 それでは、ここで10分ほど休憩を入れたいと思います。
午前11時50分に再開したいと思います。

             (休     憩)
○井田部会長 会議を再開いたします。
  引き続き「第一の二」の対象年齢の引上げについて御議論を頂きたいと思います。
  御意見のある方は、挙手するなどした上で、御発言をお願いしたいと思います。
○山本委員 私は、対象年齢を16歳未満に引き上げて、3歳差の年齢差要件を設けた方がよいのではないかという、齋藤委員の御提案に賛成します。
まず、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力について、専門家によってもいろいろ意見の違いはあるかと思うのですけれども、私の考えを述べさせていただきます。
  まず、女子で月経が開始される年齢は大体10歳から12歳ぐらい、体格がいい人なら10歳から11歳ぐらいです。
男子が精通する年齢は13歳ぐらいです。
その頃から第二次性徴が始まり、性的な発達に伴い、マスターベーションとかも行われるようになり、いろいろな性にまつわる周辺情報を確認しながら、「① 行為の性的な意味を認識する能力」が段階的に備わっていくのではないかと考えます。
個体差もあると思いますけれども、それが大体13歳ぐらいから16歳ぐらいなのではと思います。
「② 行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」というのは、本当に教育の影響が大きいと思います。
日本でなかなか包括的な性教育が行われていない中で、単に性交するということだけではなくて、性感染症、妊娠、出産、その後の人生に与える影響、また、自分が恋愛関係と思っていたものが実はグルーミングで、後に性暴力だったということに気付くとか、そういうことになってくると、かなり高い認識と知識と理解力を要しますので、なかなかこれも難しいのかなとも思うのですけれども、そのような自己に及ぼす影響を理解する能力も、段階的に備わっていくことは、心身の性的な発達と社会性の発達とともに可能であると考えます。
  「③ 性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」については、カナダでは、同意能力、つまり、性的な行為についての判断能力は16歳までに身に付くが、支配的な力に抵抗する能力が身に付くのは18歳で成人と同じレベルとされていて、2歳の年齢差を設けているということ
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]が、刑事法ジャーナル第45号に記載されていました。
カナダとは社会や文化の違いや包括的な性教育の有無など、日本とは違う点もありますが、このような法制度も参考になると思います。
カナダの例は、支配的な力に抵抗する能力ということなので、より強い、強度な関係性がある人とか、あと年齢差が大きい人とか、そういう人に抵抗する能力であると思います。
「③」の「相手方からの働きかけに的確に対処する能力」というのは、同意のある性交か、ない性交か、対等性があるのか、ないのかということを認識して、ない場合は、その場から去り、適切な信頼できる相手に相談し、その支援を求めることができるという能力なのかなと思うと、16歳の者には、そのように対処する能力が一定程度備わっていくと考えてもよいのではないかと思います。
  年齢差要件について、なぜ3歳差なのかといいますと、やはり今、成人年齢が18歳で、成人になるといろいろな権利を持つようになったり、権利を行使することができるようになる。
そういうことの認識の差が、10代に与える影響は大きいのではないかなと思います。
そうであるならば、16歳未満で対象年齢を区切り、15歳との関係で、18歳は大人としての権利を持ち、それならば、そういう脆弱性のある人に対して、そのことを認識した行動を取るべきであるということかと思います。
○井田部会長 事務当局から何か質問はありますか。
○浅沼幹事 今、年齢差要件を3歳差とすることの御説明として、成人年齢の18歳と15歳を比べて3歳という御提案を頂きました。
一方、先ほど小西委員からは、18歳というところは一緒なのですけれども、それを13歳と比べて5歳差という御提案を頂きました。
要は、その幅の捉え方なのですけれども、小西委員の発想は、どちらかといえば、年齢差内のところに、本当は対等ではないものがあったとしても、刑罰という観点から広めに幅をとったらどうかという、線引きとしてはそういうお考えだったと理解しているのですけれども、山本委員は、その点はどうお考えになりますか。
○山本委員 年齢差ということのパワーをどのように認識していくのかということと、処罰するものと処罰しないものの範囲ということだと思うのですけれども、18歳と13歳の間の性的行為が処罰するものの範囲に入るのは、もちろん当然のことだと思います。
18歳と15歳というのも、私としては、その年齢差が与えるパワーを考えると、社会人の経験があるような人、あるいは大学生かもしれませんけれども、そういう年齢の人が中学生に対して、その判断の未熟さとか脆弱性を利用すること自体があってはならないことだと思うので、3歳差以上は処罰していいのではないかと思っています。
○保坂幹事 皆さんに同じような質問をしているわけですけれども、16歳未満に引き上げるということの理由として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力、それぞれお考えがあるかもしれませんが、その三つの能力がまだ備わっていないという点で、16歳未満との性交を処罰するのだとした上で、3歳の年齢差というのを要件にするとした場合に、同年代というのか、1、2歳差の人との性的行為については、「②」や「③」の能力との関係では、その能力はある、あるいは発揮できるという理解なのか、それとはまた別の理由で、1、2歳差は処罰から除外するという趣旨なのか、そこをまず一点教えていただけますでしょうか。
○山本委員 そこの法的な理屈の理解が私にとっては非常に難しいのですけれども、多分、「性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」というものが16歳で備わるとした場合には、15歳と15歳では、お互いに対処できないような状態で性的行為が行われているのだと思います。
そうだとすれば、ほかの要素が対等であるのならば、それは一方的な関係ではないだろうと思います。
要するに、能力が低い人同士なので影響を与え合うような形ではないのではないかと考えます。
  少し話がずれるかもしれませんけれども、年齢差による支配やパワーがどうして問題なのかということは、年齢差があることで、一方的に、下の立場の人が嫌だと言えないことを読み取らなかったりとか、嫌だと言えないことを無視して性的行為をするということにつながり、それが、性暴力の被害の中核的な要素である無力感とか、自分は意思を無視される人間として扱われない存在なのだという感覚とつながっていくのではないかと思います。
そうしますと、やはり、まだ発達が未熟な人たち同士で性的行為を行う場合には、一方的ではないので、そこは処罰から除外されるのではないのかなと思います。
○保坂幹事 それに追加して、関連してなのですけれども、3歳差未満同士、1、2歳差同士ですかね、その中に、先ほどおっしゃったようなパワーを使うというような、要するに、1歳、2歳上の人が年齢の上下を利用するという場合も、実態としてはあり得るかと思うのですが、そこは、年齢差を設けると処罰されないことになるのですが、それはやはり、年齢差を設けないと罰してはいけないものが入るから、安全策を採っているという、そういうことなのでしょうか。
そのバランスで3歳というのが出てきているような感覚ですか。
○山本委員 その年齢差を設ける必要性は、やはり明確であるからということだと思います。
  そのぐらいの年齢差があれば、そこにはパワーが少ない、特に16歳未満のまだ性的な発達が未成熟な人の性的自由意思を侵害する要素があるということだと思います。
  一方、年齢差の範囲内であっても、その脆弱な要素の利用以外の暴行・脅迫があったりとか、不利益の憂慮をさせたりとか、そういった性的な加害もあります。
  それこそ性的いじめもありますし、おびき出したりとか、いろいろなことがありますけれども、そういう場合はまた別に刑法177条本体で処罰することができるのではないかと考えています。
○井田部会長 委員・幹事の皆様、山本委員に対する御質問はございますか。
○橋爪委員 二点質問させてください。
  まず一点目ですが、山本委員の御意見を伺っておりまして、恐らく、対等な関係ではなくて、一方
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]がパワーを行使するような性的行為は、自由で任意な行為とはいえないから、性犯罪を構成するという御趣旨かと理解しました。
このような観点を重視しますと、以前から気になっているのですが、対象年齢を16歳未満に限定する必然性がないような気もいたします。
例えば、18歳と28歳でも対等ではなく、当然、ここにはパワーの行使があるでしょうし、30歳と20歳でも同様かもしれません。
つまり、対象年齢を16歳未満に限定しなくても、非対等でパワーの関係がある性的行為については、より広い範囲で想定できるようにも思います。
このような意味で、なぜ、非対等な性的行為全てが処罰されていないのに、16歳未満に限って非対等でパワーを行使する性的行為が全て犯罪を構成するのかについて、御意見をお聞かせいただけますと幸いです。
  もう一点なのですけれども、成人年齢の引下げについて言及がございました。
18歳が成人である以上、責任を負うのだという観点からの御意見だったかと存じます。
そうしますと、仮定の話で恐縮なのですけれども、本年3月末までであれば、話は違ってくるのでしょうか。
つまり、成人年齢が20歳であれば、その場合には、年齢要件も異なって解する必要があるのでしょうか。
さらに、本年4月以降につきましても、やはり18歳や19歳は未成熟であって、特に民法の契約においては、十分に保護すべきという議論があるように理解しています。
また、少年法につきましても、御案内のとおり、少年法の適用年齢それ自体は引き下げられておりません。
このように18歳や19歳はなお未成熟であり、十分に責任を負えるわけではないという考え方もなおあり得るようにも思われます。
この点についても御意見をお願いいたします。
○山本委員 まず一つ目の、対象年齢を18歳未満に引き上げてもいいのではないかということは、カナダやアメリカのカリフォルニア州とかは18歳未満と伺っていますので、そのように引き上げるということも考えられるのではないかとは思います。
  ただ、今回の議論を聞いていると、この年齢差に対する認識の相違がかなりあり、理解を一致させるのが、非常に難しいのではないかということも思います。
  あと、性的な発達と性的な同意、そして性暴力・性犯罪ということを考えると、人間は成長するとともに第二次性徴段階に至り、性的な成熟を経て、性的行為をするようになるわけです。
高校生で性的行為をしている人は、実はそれほど多くないということでもあるのですけれども、性的な行為を、対等な関係で同意を持ってしていくことは、そこに包括的な性教育があり性感染症と妊娠の予防などが行えるのであれば自然な発達過程の範囲です。
しかし、なかなかまだそれができていないという現状があり、最低限中学生は守ってほしいというのが、私の認識です。
だから、対象年齢は16歳未満ということになります。
社会が性暴力について、そして、人間の性的発達と性的な同意というものがどれほど尊重されるべきであるのかということについて、もっと認識・理解するようになれば、対象年齢を18歳未満に引き上げる議論も進むのではないかなと思います。
性的発達過程にある人は、脆弱性があり侵害されやすいので考慮する必要があるというのが私の考えです。
  成人年齢に関しては、橋爪委員のおっしゃるように、やはり後からの理屈付けというか、成人だからみたいなところもあるかとは思います。
ただ、発達を考えると、男子だったら10センチずつぐらい毎年身長が伸びていき、一般的には18歳くらいの年齢で身体的な成長に至るというところがあり、性的行為に関しても、それぞれパワーを持つようになると思うのです。
性的発達とともに、自分も被害を受けるのだけれども、加害もできるようになっていくような状況があります。
そのときに、それを全く処罰しないでいいのかということに関しては、そうではないと思います。
年齢によって、やはり取るべき責任というのはあるのではないのかなということを考えています。
○井田部会長 山本委員に対する質問はこのぐらいということで、ほかの方いかがですか。
○小島委員 私は、形式的要件だけで切っていくべきではないかと考えています。
  実質的未熟さを個別具体的に問うことにしないと、不都合があるのではないかという御意見がありますが、性交同意年齢というのは、基本的には年齢だけで自己決定能力が低いといえるということを前提に考えていくべきだと思います。
13歳未満から16歳未満に引き上げるのは、法的には同じ構造の法律を作るということだと考えています。
  対象年齢を16歳未満に引き上げた場合に、実質的未熟さというのを個別具体的に問うということになりますと、個別具体的な判断をしないというのが、これまでの性交同意年齢の考え方だと思いますので、実質的要件を入れていくとなりますと、16歳未満と引き上げた意味がほとんどなくなるのではないかと思います。
16歳未満という形式的要件を作るメリットというのが失われていくと考えております。
  そこで、実質的要件というのは入れるべきではないと考えております。
刑法179条との関係で議論されていますけれども、刑法179条については、「現に監護する者である」として、主体を限定しているわけです。
ほぼ行為態様、これで充足しているということで、法の運用としては、「乗じて」に意味を持たせていないということだと思います。
16歳未満の者への性交について、「乗じて」という文言を主体の限定なく入れてしまいますと、例外が広がりすぎるおそれがあると思います。
未熟さに乗じるとか、年の上下関係に乗じると入れてしまいますと、どういう場合に要件を充足するのか、非常に不明確になってくるということで、問題があると思います。
  それから、実質的要件を入れることの実際上の問題として、結局、未熟さということになると、性的経歴を聞くことになると思います。
性的に未熟だったのかどうかということで、そこの部分が問題になり、そうすると、これまで被害者が、裁判とか警察で、いろいろ性的経歴を聞かれていたことによる
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]苦痛というのが、また繰り返されることになってしまうのではないかと思います。
  繰り返しになりますけれども、性交同意年齢というのは、実質的未熟さとか、そういうものを個別具体的に問う必要がない、問わないという前提で出来上がっていると思います。
未熟さや年の上下関係に乗じてということを、個別事案に沿って、実質的・積極的に認定することが、実質的要件を入れると必要になってきますけれども、そのような形で性交同意年齢を上げるということには反対です。
  個別事案で、実質的・積極的に認定しないまま処罰できるということに、この13歳未満の対象年齢を16歳未満に引き上げる意義があると思いますので、ここに、未熟さに乗じてだとか、そういう形での実質的要件を入れることについては問題があると思います。
○井田部会長 処罰対象の除外についての御意見はいかがですか。
○小島委員 例えば、年齢の低い者同士でも、本当に相手を求めるということはあると思いますので、そういう場合については例外がある場合もあるかもしれません。
先ほどから問題になっていますように、未熟さに乗じてだとか、年の上下関係に乗じてとか、そういう明確性を欠くような例外規定を設けることには反対です。
  中学生同士とか、そういう年齢が近い者での、真摯なというか、心の通い合いというのも一切駄目というのは、やりすぎだと思います。
○井田部会長 事務当局から質問はございますか。
○浅沼幹事 まず、確認ですが、対象年齢を引き上げる根拠として、これまでの御議論では、配布資料22に記載しております「①」、「②」、「③」といった能力との関係で、16歳未満には「②」ないし「③」がないという御意見が多かったわけですけれども、小島委員としてはそのようにお考えなのか、それとも違うのでしょうか。
○小島委員 要件としては、そういう部分もあると思います。
それから、政策的要素もあると思います。
一定年齢の子供たちについては、子供の保護が必要だという要素もあると思います。
ただ、基本的には、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの三つの能力を判断能力として考えると、これが16歳未満に引き上げた場合の重罰を根拠とする理由だと思います。
ただそれだけではないということですね。
○浅沼幹事 では、その上で、先ほど例外のところで、中学生同士の行為であれば処罰しなくてもいいのではないかというような御趣旨の御発言があったのですけれども、そこは、具体的にはどういったものを想定されていて、今、委員もお話しいただいたような判断能力との関係では、どのようにお考えになっているのでしょうか。
○小島委員 判断能力との関係ということではなくて、基本的に、中学生同士の場合には,青少年であっても、本当に相手を求めるということはあると思うので、その部分については除外しなければいけないと思います。
その例外については、子の保護を考えて、政策的判断から、そこまで処罰する必要はないという理由です。
○吉田幹事 今の御意見を前提としたときに、処罰対象から除かれるべき場合としては、同年代同士の行為というのがまず一つ挙がってくるのでしょうか。
○小島委員 年の近い者の行為ということです。
年の近い者同士ですと、ある程度対処ができるということがあるのではないかなと考えております。
○吉田幹事 これまで出ている三つの能力という観点からしますと、例えば、行為の性的な意味を認識する、あるいは行為の影響を理解するという能力は、相手方が誰であるかによって差が生じるような類いのものではないような気もいたしまして、そういう観点からすると、同年代同士で性的行為が行われた場合、お互いに相手は能力を欠いているということになるので、お互いに法益侵害行為をすることになるわけですけれども、その上で、なお処罰から外す刑事政策的な理由というのは、どのような内容のものになるのでしょうか。
○小島委員 先ほど申し上げましたように、例外というのは極めて限定的に解してもらいたいと思います。
近い年齢の者同士で、本当に相手を求めるということが全くないわけではないと思いますので、刑事事件の裁判所が、そこまで刑罰の範囲に入れるべきではない、そういう場合が例外的にあるのではないかという趣旨です。
  それから、相手という御質問がありましたけれども、これは、対象年齢の者については、どのような相手方であるかや、どのような状況であるか、脆弱性の有無を問わず、常に判断能力を欠くといえるのかという御質問と伺ってよろしいでしょうか。
  もし、この御質問に答えるとするのであれば、脆弱性を問題にするのなら、裁判所とか捜査機関に丸投げしないで、ある程度その脆弱性についてはきちんとした類型化を図って、明確にしていかなければいけないのではないかと思います。
  問いに合わせて答えるとすると、基本的には実質的要件を入れるのは反対なのですけれども、もしどうしても入れるのであれば、今、御提案になっているような「未熟さに乗じて」というような文言では、どういう場合に当たるのか不明確なので、かなり吟味して、どういう場合なのかという実質的理由と類型化の中身を相当詰めていただかないと、結局、対象年齢を16歳未満に上げたけれども、未熟さに乗じてという要件に当たるのか分からなくなってしまうことを危惧します。
○吉田幹事 先ほど、「未熟さに乗じて」というような要件を設けた場合の問題についての言及があったわけですけれども、小島委員は、恐らく、「16歳未満の者に対し、その未熟さに乗じて性交等をした
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]者は」というような構成要件をイメージしておられるのかなと感じました。
今日の議論でも、その点については、幾つかの選択肢が示されていて、例えば、行為者と対象者の年齢差という形式的な要件、その年齢差をどうするかという点については、幾つかの数字が提案されて、なお意見が複数あるように思われますけれども、そういう形式的な要件とする案がありました。
それから、そういう形式的な要件に加えて、ドイツ刑法で使われている能力の欠如を利用してというような、実質的な要件をプラスする案というものも示されているところであります。
どういう形で規定するにしても、元々の処罰根拠との関係で整理する必要はあり、処罰根拠として能力の欠如ということをいうのであれば、処罰の例外を考えるに当たっても、その能力の問題がどう整理されるのかということを考えないといけないのではないかと思って、御質問させていただいているわけですけれども、その辺りの例外を設ける理由についてはいかがでしょうか。
○小島委員 例外を設ける場合は、明確にしなくてはいけないと思っています。
例外を限定的にすると処罰範囲が広がってしまうのではないかという御意見があると思うのですけれども、そこは、子の保護をどこまで考えるのかという政策判断になると思います。
何歳にするのかということは議論しなければいけないと思いますけれども、明確な形で、何歳ならばどうなるのかという、誰でも分かる形で明確な要件を設けるべきであり、そこに、実質判断を入れるべきではないと思います。
もちろん形式的要件のみとすると不都合が当然出てくる場合があると思いますが、そこはある程度割り切ってやっていったらどうだろうかというのが私の意見です。
ただ、強制性交等に当たるような場合については、もちろんそれはそれで処罰すべきだという前提です。
いろいろ御意見はあるかもしれないけれども、例外は明確にしていった方が、捜査機関にも、それから、学校の先生にも説明しやすいのではないかと思います。
○吉田幹事 今おっしゃった割り切ってということが、処罰すべきでないものを処罰範囲に取り込んでも仕方がないという趣旨だとすると、やはり問題が出てくると思われますので、そこが恐らく委員の皆様の悩みどころなのかなと感じてまいりました。
  この対象年齢の引上げの問題は、16歳未満の者について、多少個人差があったり、あるいは状況いかんによって能力の発揮のされ方が違うということを前提としつつも、年齢という形式的な基準で処罰範囲を切り取ろうとすることに伴う問題にどう対処するかというのが、最大の問題なのだろうと思っておりまして、実質的に考えると処罰範囲から除かないといけないケースが含まれるかもしれないという点について、更に年齢差という形式的なもので対応しようとすると、なお救い切れないもの、除外し切れないものが出てくるのではないかという悩みから、実質的要件あるいは形式的要件と実質的要件のハイブリッドというような御意見が出てきたのかなと思っております。
この形式的要件と実質的要件のハイブリッドという発想、御意見について、もしお考えがあればお伺いできればと思います。
○小島委員 佐伯委員の御意見のように、ハイブリッドにして実質的要件も入れるという選択肢はあり得ると思うのですけれども、形式的要件で決めていかないと、結局、子供たちが被害者になったときに、その実質が問われていくわけです。
それはやはり、被害者側としては避けたい。
どうだったのとか、あなたは未熟だったの、未熟ではないのとか、性的経験はどのぐらいあったのかとか、捜査機関でもそういうことを聞かれてしまうので、そういう法律を作っていいのでしょうかという感覚です。
  16歳未満の被害者は、同意とか不同意とかを問わずに、保護するべきだと思います。
  そこに実質的要件を入れてしまうと、形式的にそこまで上げて保護しようということについて、ブレーキになってしまうのではないかと思います。
被害者である子供が、性的な事柄について、いろいろなことを聞かれることになってしまうのではないか、それでは、16歳未満まで思い切って上げた被害者側の気持ちというのに合わないのではないか、ということでございます。
○保坂幹事 今日の議論で、例外というか処罰から除外するやり方として、年齢差要件で5歳という案と、3歳という案がございまして、小島委員は、何歳ということをおっしゃらないので、何歳とおっしゃりたくないのかもしれませんが、非常に近い年齢というのを、議論の中で何をイメージされているのかが分からないので、ちょっとかみ合わないところがあるなと思いまして、先ほどの発言の中で、1歳差とか同年齢とか、非常に近いというのは、同い年か1歳上ぐらいという、そのような趣旨でおっしゃっているのかどうか。
同い年か1歳上以外の、例えば2歳上、3歳上、4歳上、5歳上の場合には、実質的に処罰から除外してはならないという理由は何があるのかということを、教えていただければと思います。
○小島委員 年齢を何歳にするかというのは、私の方では今詰まっていません。
もう少し検討してみたいと思いますが、中学生同士は除外するべきだと思います。
○井田部会長 委員・幹事の方、御意見・御質問はございますか。
○佐伯委員 小島委員の御懸念について、未熟さを利用するというような実質的要件を設けた場合に、どのぐらい未熟なのかということで、性的経験などが裁判で争われるというようなことがあってはならないというのは、私も全くそのとおりだと思います。
何歳にするかはともかく、一定の年齢以下の者は能力がないと法律で規定すれば、それはもう能力がないとみなされているわけで、それ以上に本当に未熟なのかどうかというようなことを裁判で審議するということは、私も全く考えておりません。
  私が問題にしているのは、そういう未熟さを前提とした上で、年齢差があれば、常にそれを利用したといえるのか、処罰に値するといえるのかということです。
年齢差を補うような関係性というのも、例外的ではあると思いますけれども、あり得るのではないかということで、専ら考えているのは、被害者の未熟さではなくて、行為者との関係性を念頭に置いた御提案でございます。

https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]橋爪委員 念のため確認したいのですけれども、小島委員の御意見は、恐らく、実質的要件は判断基準が明確でなく、現場で混乱を生ずるおそれもあり、また、被害者に負担も掛かるだろうから、形式的に、言わば割り切って年齢要件で一律に判断すべきということだと理解いたしました。
  そこでいう、割り切るということなのですけれども、当然個人には個体差がありますし、関係性も多様です。
そうしますと、一定の年齢差がある当事者間の性的行為であっても、もちろん議論があり得るところですが、処罰すべき性的行為もあれば、処罰すべきでない性的行為もあると思います。
そのときに、小島委員が割り切って一律に考えるとおっしゃる趣旨なのですが、それは、処罰すべき行為が処罰されないことがあり得るけれども、それはやむを得ないというお考えなのか、逆に、本来罰すべきでない行為が規制対象に含まれても、それはやむを得ないというお考えなのか、確認させていただけますと幸いです。
○小島委員 年齢で切ってしまうと、罰すべき行為が除外されるということはあり得ると思います。
それは、取りあえずやむを得ないけれども、そういう行為については、刑法177条、178条で、今回処罰範囲を広げて、新しい法律ができるわけですから、そこで拾ってもらうということになるのではないかと思います。
  つまり、形式的要件でやるわけだから、そこは16歳未満に引き上げて、例外を設けないことの方が大事だと思っているということです。
○小西委員 私の意見は、先ほど申しましたように、せっかく形式的要件にするなら、そうするべきだというところなのですけれども、今の橋爪委員のお話に関連して、私がどのようなイメージで考えているか先にお話しします。
罰する、罰しないという次元と、実際に加害行為があった、行為がなかったという次元を考えたときに実際の一つ一つの出来事は二次元に分布します。
なるべく多くの罰すべき人を罰する、そこの象限を大きくして、罰すべきでない人を罰しないという象限の中に入る実際の例は0にすると考えると、連続体の中で考えるのであれば、罰されるべき人が罰されないということと、罰すべきでない人を罰しないということ、すなわちその象限の二つの基準をどこに置くかという問題だと思うのです。
そうだとすれば、やはり、この問題が今まで法的に扱われてこなかったために、たくさんの被害者を出しているという問題、10代の被害者は非常に多いわけですが、その人たちに対する性的行為が刑法で処罰対象になってこないという問題を変えるためには、今必ず基準を変える必要があって、それが形式的な基準なのだと思います。
そうだとすると、形式的な基準はなるべく大きくした方がいい。
  しかし、佐伯委員がおっしゃるように、それでも起こる例外が救えないと困るというのは、議論としては分かるところで、では、なるべく形式的な基準を大きくしながら、最終的に残る少数の処罰すべきでない例外をどうやって省くかということをおっしゃっているのだと理解しました。
そうだとしたら、具体的にどういう文言にすればいいと思っていらっしゃるのかを聞きたいと思います。
○佐伯委員 それは非常に難しくて、こういう場合、こういう場合、こういう場合というように書くのは難しいので、そこは、「乗じて」とか、あるいは「利用して」という文言にした上で、その趣旨はこういう意味であると説明するということでいくしかないのかなと思っております。
  また、今回、対象年齢を13歳未満から引き上げるというときに、実質的要件が入ると意味がなくなってしまうのではないかという御懸念もあるかと思いますが、それについても、改正した上で、実際の運用を見るということも考えられるのではないかと思っております。
  お答えとしては、なかなかうまい言葉はないというのが答えです。
○井田部会長 非常に大ざっぱに言うと、年齢差が2歳や3歳ぐらいだと、やはり相当重みのある実質的要件を加えないと怖い。
他方で、小西委員がおっしゃるように、5歳差だと、実質的要件がなくてもいいか、あるいは本当に薄い実質的要件だけを安全弁として残すかとか、そういう選択肢になるのではないかというのが御質問の趣旨だとお聞きしたのですが、そういう理解でよろしいですか。
○小西委員 そういう理解をしました。
  そうだとしたら、その薄い要件で、今、まだ社会に無理解があるところに、この法律を出すとき、そういう薄いことだけを扱っているのだということをはっきりさせるためには、どういう条文がいいのかというのが、お伺いしたいところです。
○井田部会長 ほかに御意見のある委員・幹事の方はいらっしゃいますか。
○長谷川幹事 私の意見は、従前から変わらず、例外は設けないという考え方です。
この議論の流れで、それが維持されていくかというところはあるのですが、やはり被害者側の立場としては、例外を設けることにちゅうちょがあるということは、この会議の中でも言っておかないといけないかと思って、意見を述べさせていただきます。
  まず、対象年齢を引き上げる根拠が配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力であるということは、共通認識だと思います。
この議論は、現行法上13歳以上の者についてはその者に対する性的行為は同意があれば他の条文で犯罪となる場合は別として犯罪にならないという意味で同意に法的意味を持たせているところ、それでよいのか、ということが出発点で、対象者の同意に法的意味を持たすことができるには、「①」から「③」までの能力が必要で、これらを全部、又は部分的に欠く者の同意に法的意味を持たすことはできないという帰結が共有されていると認識しています。
  そこで、例外を年齢差等で設けるかどうかということについて考えますと、先ほども述べましたように、「①」や「②」の能力は、相手方や状況によって変わりませんので、年齢が近い者同士であっても、「①」や「②」の能力が不十分ならば、その同意に意味を持たせることはできない、「①」や
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]「②」の能力が欠ける、又は不足する以上は、理論的なことを考えると処罰すべきで、例外は設けるべきでないということになると思います。
  その上で、例外の議論がされていますので、そこについて言及をすると、法的根拠の話からすれば、例外を設けるというのは、一定の年齢の者については処罰を差し控えようという刑事政策的な理由にならざるを得ないと思っています。
法益侵害があるけれども、刑事政策的な理由で一定程度処罰を差し控えようということであれば、その差し控える範囲は最小限にすべきだと思っていますので、5歳差では広すぎるだろうと思います。
被害者支援の関係者でも議論をしたのですが、もし処罰を差し控えるとしても、せいぜい同年齢同士や同じ学年にある者同士の場合であろうという意見がありました。
いろいろな事件を見ていましても、学校という社会の中で先輩には従うものだとか、そういう文化が醸成されていることに鑑みると、やはり一学年違いというのは、なかなか大きいのではないかという考えです。
  一定程度、政策的な理由で例外を設けるとして、形式的な要件のほかに実質的な要件を加えるかどうかという点についても、意見を述べたいと思います。
  そもそも、刑事政策的に処罰を差し控えましょうということなので、形式的な要件で十分だと考えています。
実質的要件を入れるべきではないという点については、先ほど小島委員からもお話があったように、実質的要件を入れると、その曖昧さゆえに、対象年齢を引き上げた意味が失われる危険性があると考えるからです。
未成熟だとか、そういった抽象的な要件になることと、未成熟を利用してとか認識してとすると、行為者の認識が問題となるのですが、未成熟などの、ここで問題となる要件というのは非常に評価的なもので、何を認識していれば行為者が未成熟を利用したとか、乗じたと評価できるのかというのが曖昧ですし、内心的なものを立証しなければいけないということになると、結局立証不可能というか、そもそも類型的に立証が不可能なことを要件とすることによって、その要件が満たされる可能性が少なくなり、処罰の範囲が不当に狭くなることになってしまって、そもそもの出発点から外れるのではないかと思います。
  それから、前回会議で、刑事責任能力についてどう考えるかということをお話ししたのですけれども、私の理解が誤っていたところがあったので、修正を含めてお話をしたいと思います。
  前回会議のときには、刑事責任年齢14歳というのは是非弁別能力の問題で、それと性的同意で問題となっている能力とは質が違うし方向性も違うので、これとの整合性を考える必要はないということを述べたと思います。
それはそれで当てはまるのですが、もう一つ、刑事責任能力との関係で言わなければいけないのは、元々刑事責任年齢が14歳となっているのは、14歳未満の者であれば、いわゆる刑事責任能力、つまり、是非弁別能力及び行為制御能力が欠けるからとされているというよりは、14歳未満の者に対しては、その特有の精神状況と可塑性に鑑み、刑事処罰という形で対処すべきではないという判断があるからです。
処罰の感銘力的な点に関する14歳未満の子供たちの精神的な特徴とともに、この年齢の子供たちには可塑性があるということから、14歳までは刑事処罰しないという刑事政策的な趣旨で、この14歳という年齢が決められているということが、コンメンタールや刑法総則の教科書などにも書かれています。
そうすると、この性交同意年齢を考えるに当たって、刑事責任能力との整合性を図ることは、理論的には必要ないということになりますので、前回会議で御説明した内容よりも、本日の説明の方が、刑事責任年齢14歳というところに合わせる必要性があるのではないかという疑問に対しては、答えになると思います。
○井田部会長 事務当局から、質問はありますか。
○浅沼幹事 二点お伺いいたします。
  長谷川幹事の御意見は、対象年齢を16歳未満に引き上げた上で例外は作るべきではないという前提で、ただ、例外を設ける御意見がいろいろ出ているので、仮に言うとすると、刑事政策的な観点から、非常に少ない年齢差にするべきであるということだと理解しました。
  その御意見の前提となる、例外を作るべきではないというところなのですけれども、そこについて、実態面からすると、現状として、やはり14歳や15歳の者たちが性的行為を行っているということは、実際あるわけです。
そこを例外なく全て処罰対象としていくということの、ある意味弊害といいますか、いわゆる家裁送致にはなりますので、その点はどうお考えになっているのかというのが、まず一点目の質問です。
○長谷川幹事 前にも述べたと思うのですが、14歳や15歳で性的行為を行っている子供たちの背景には、家庭に問題を抱えていたりする者も多いので、そういった子供たちを家庭裁判所に送致するということを、マイナス面として捉えるだけではなく、そこで適切な関与がなされて、家庭裁判所の判断で保護処分が不要だということであれば、保護処分はなしということになりますし、必要であれば、保護処分なり逆送なりになったりするわけですから、家庭裁判所の適切な関与にそこを委ねるということを考えています。
○浅沼幹事 今の点に関して、確かに家庭に問題がある者などもいるとは思うのですけれども、一方で、対象年齢の引上げは、強制わいせつ罪も含めてということだと思いますので、キスなどの行為を、特に家庭に問題がないような者同士がしているという場合でも、やはり処罰対象とし、家裁送致するのが適当だということになるのでしょうか。
○長谷川幹事 例示にキスを挙げられたのは、キスならば大したことないではないかというような考えを前提とすると思われますが、性的な行為というのは連続性があるものなので、キスだったらどうなの
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]か、性交だったらどうなのかで区別しきれるものではないと考えています。
ただ、14歳同士というところの議論は、同年齢同士、同学年同士ぐらいは、刑事政策的に例外を設けるのはあり得るかなという、それも仕方がないかなということは考えていますので、その答えで代えさせていただいてよろしいでしょうか。
○浅沼幹事 もう一点だけ、あらかじめお聞きしようと思っていた二点目ですけれども、長谷川幹事の例外なしというお考えですと、14歳同士や15歳同士といった、配布資料22に記載されている能力の少なくとも一部についての能力がない者同士の性的行為について、両者ともに処罰対象となり、家庭裁判所に送られるという理屈になりますけれども、そのような判断能力に欠ける者を処罰対象とすることに関しては、適切だというお考えになるのですか。
○長谷川幹事 判断能力がないというのは、性的同意能力のお話だと思うのですけれども、性的同意能力というのは、自分が性的行為をするかどうかを考える能力で、相手に対して、するべきか、するべきではないかということとは違います。
自分への影響とか、そういう話ですので、刑事責任年齢の文脈で家庭裁判所に送られることになるのは、理論的におかしいことではないと思いますし、その上で、その子たちの性的な行為をどう処分するのかということは、家庭裁判所が考えることになると思います。
○保坂幹事 一点お伺いしたいのですが、対象となる年齢を引き上げる理由として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力が欠けるのだということを前提として、かつ、処罰からおよそ除外しないのだとすると、16歳未満は、どんな場合でも全て「①」から「③」までの能力はないのだと言い切ることになるかと思うのですが、これは、「③」の能力、状況に応じて対処する能力というのを考えたときに、状況や相手にかかわらず対処する能力がないという方が、むしろ変な感じがするわけですが、対処する能力というのは、状況や相手に応じて対処する能力であって、それが、誰かれ構わずないと言い切るのかという、そういう質問なのですけれども。
○長谷川幹事 配布資料22に記載されている「③」の「働きかけに的確に対処する能力」の捉え方だと思います。
今の議論では、性的行為をするかどうかの判断能力を三段階に分析しているのですが、性的な意味が分かって、自分に与える影響を理解をした上で対処するというのは、性的行為をするかどうかだけではなくて、どういう性的行為をするかということも含めての対処だと思います。
性的行為をするかどうかの同意の対象にどのような性的行為をするか、どのような方法で行うかは入ってくると思います。
  「③」の能力について、年齢が上の者から言われて断ることができるかどうかということが、この能力の問題として出てきていますけれども、その子の同意に意味を持たせることができるのかというところからひもときますと、「的確に対処する能力」というところには、例えば、性的行為をするとしても、避妊はしてくださいということをきちんと言えるだとか、恋愛で流されそうになって、お互いに大好きで、何かそういう性的行為をしたいのだけれども、それでも、すべきでないと考えているときに断れるだろうかとかいうことも含まれており、「②」の能力があって、性的行為が自己に及ぼす影響を理解できたとしても、流されてしまうのでは、やはり対処する能力に欠けるということになると思います。
なので、皆様がおっしゃっているのは、年齢が近ければ強制的要素がないから、対処能力も変わってくるだろうというお考えだと思うのですが、年齢が近ければ近いで、流されたりとか、別の的確に対処をできない要因も出てきたりするわけで、やはり状況に応じて、的確な対処が違ってくるわけですので、対処する能力があったりなかったりということではないと考えます。
○保坂幹事 もう一点なのですけれども、実質的要件に関して、16歳未満で年齢差に加えて実質的要件とした場合の問題点として、未成熟を利用とか、未熟さを利用とか、あるいは未熟さに乗じということになると、その未熟さだとか未成熟かどうかというところで、認定が不安定になるのではないかと、こういう御趣旨の御発言があったと理解したのですけれども、監護者性交も、監護者であることによる影響力に乗じてという要件になっていて、その影響力というのは、監護者と被監護者の関係があれば、通常はあるだろうという前提に立っているわけで、いちいち影響力がどの程度あったのか、どのような影響力だったのかということが、別に審理されるものではないと理解されているのだと思うのです。
そうすると、16歳未満については、判断能力がないのだということが法的に言えるのであれば、それは、すなわち、未熟だったり未成熟だったりするわけで、先ほどの佐伯委員がおっしゃったのもそういう趣旨だと理解したのですが、その行為者の側が、未熟さ、あるいは未成熟であることを利用していない場合もあるだろうという、その場合を除外するということだとすると、その未成熟さとか未熟さ自体が、何か問題になるわけではないのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。
○長谷川幹事 16歳未満に対する行為は原則処罰され、それの例外として、年齢差内にある場合は除き、未熟さを利用していない場合も除くという場合、「未熟さを利用したかどうか」の判断の対象は何になるのでしょうか。
○保坂幹事 先ほどの佐伯委員がおっしゃった意見というのは、形式的要件としての年齢差に加えて、実質的要件を満たす場合に可罰的にするということですので、その場合の形式的要件が、年齢差があって、かつ、16歳未満というのは判断能力がないのだということが決まっていれば、加えてそれを前提として利用したかどうかだけが問題であって、その未成熟さだとか未熟さ自体が、何か争いの対象になるわけではないという理解も可能ではないか。
なぜかというと、監護者であることによる影響力というのが、その影響力がいちいち争われていないだろうと思われることからすると、要は、利用したと言えるかどうかという、あるいは乗じたと言えるかどうかということの問題かなと理解をしたのですけれど
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]も、その点の質問です。
○長谷川幹事 先ほど小島委員がおっしゃったのと同じお答えになるのですけれども、監護者性交等罪の場合は、どういう関係性の人かが決まっていて、そうであれば影響力があるということが想定されているわけです。
監護関係にあれば、もう乗じたと言えるだろうということで運用されているのですが、対象年齢に実質的要件を入れると、行為者の範囲が定まっていないので、本人の未熟さを含めた実質的な判断になってしまう危険があるのではないかというのが、私の意見です。
だから、そういった危険のない、すごくしっかりした文言でできれば、もしかしたら懸念はないのかもしれないですけれども、まだ懸念を感じているということです。
具体的な文言も出ていませんし、やはり、実質的な、評価的な要素については、慎重に考えざるを得ないと思っています。
○井田部会長 委員・幹事の先生方、何か御質問はございますか。
○佐伯委員 私の意見ですけれども、16歳未満の者について、「行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」、あるいは「的確に対処する能力」が欠けているという判断をする以上は、自分に及ぼす影響を理解できないのと同様に、相手に及ぼす影響もやはり理解できないということになるのではないかと思います。
したがって、年齢差要件を設けるかどうかにかかわらず、16歳未満の者について能力がないという判断をするならば、行為の主体から16歳未満の者は除く必要があるように思います。
  なお、そのように考えると、強制性交等についても処罰できなくなるのではないかという疑問が生じるかもしれませんが、暴行・脅迫を用いて相手と性交等をする行為が、相手の性的な自由を侵害するということは、16歳未満であっても当然理解できると思います。
暴行・脅迫的な要素がなくても侵害性があるということを理解する能力があるということと、暴行・脅迫を用いた場合に侵害性があるということを理解する能力があるということとは違いますので、私のように考えたからといって、16歳未満の者について強制性交等罪で処罰できなくなるということはないと考えております。
○井田部会長 ほかに御意見・御質問はございますか。
○宮田委員 今までの議論を伺っていると、強制性交等と同じ懲役5年以上の法定刑とすることを前提に議論されてきたかと思います。
  先ほどの佐伯委員の御意見の中に、最高裁判例は、青少年保護育成条例違反の非常に軽い処罰のものであっても、慎重な判断をしているという御指摘がありました。
重い罪ならばなおさら慎重さが必要です。
  現在の強制性交等罪は、する行為だけではなく、させる行為も処罰の対象としています。
先ほど金杉幹事が例として述べたような、15歳の少年と18歳の女性がアルバイト先で知り合って、それで性交したとき、これも犯罪かという質問に対して、それは犯罪ですという齋藤委員のお答えがありましたが、仮に犯罪とするにしても、果たしてそれを懲役5年以上で処罰するのが妥当なのかという問題は残ると思います。
  また、真摯な恋愛だけを除外すれば足りるとも思えません。
このような例は非常に不適当かもしれませんけれども、中学校を卒業して、15歳で就職した男子が、職場で先輩から、お前はよく働くようになったな、御褒美だといって、本当は20歳でなければ飲めない酒を飲まされることは、しばしば見られるところです。
また、同じように、お前も大人になったのだからと、性風俗に連れて行かれる例もないわけではありません。
  そうすると、そうやって連れて行った先輩たちは強制性交等罪の教唆や共謀共同正犯で、まだ中学校を卒業したばかりの15歳だと分かって相手をした女性は、強制性交等罪になってしまうのでしょうか。
  もちろん、今言ったような例が、大人の行為として適当かといえば、そうではないでしょう。
性をお金で買うことを、15歳の子に教えてはいけないとはいえると思います。
しかしながら、15歳の男子が嫌がることなく、積極的にそのような所に行ったときに、関与した大人たちが刑法の強制性交等罪として処罰の対象になることが、果たして妥当なのでしょうか。
児童福祉法あるいは青少年保護育成条例であれば、罰金刑もあります。
  今までの議論を聞いていると、妊娠、出産、あるいは望まぬ妊娠をしてしまったときの掻把なども含めて、非常にリスキーな立場にある女性が被害者であることを前提とした議論が中心だったように思います。
もちろん男性が性的侵襲を受ける被害もあり、被害は甚大です。
しかし、若い男性の参加意思の下で性交をさせる行為についてまで、強制性交等罪の条文が適用になるという前提の下で、議論が続いていていいのか疑問に思います。
  少なくとも16歳未満の者が積極的に性交に参加した場合について、処罰の例外規定を設けることは必要だと思いますし、もしも例外にしないのであれば、刑罰について、このような場合についてまで、懲役5年以上という重い刑罰で対処することは問題だと思います。
  毎回、刑罰についての検討なく議論をしていることを、非常にむなしいと考えています。
○山本委員 この次は条文案が出てくると思いますので、お伝えしておきたいと思います。
私も、形式的要件で、処罰の例外については年齢差を設けて区切るのがいいのではないかと思います。
これに更に実質的要件を設けた場合、この実質的要件が何になるかが分からないので、どのような形で出てくるのかということに対して不安があるのと、それがどのように運用されるのかは、この部会で決まらないと、現場の判断にばらつきが生じて、とても混乱すると思います。
  あと、二つだけ伝えておきたいのですが、やはり16歳未満の人が対等性のある真の同意のある性
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]的行為をできるのかといえば、包括的な性教育がなく、若年者がコンドームやピルを常時入手する手段がない、諸外国では無料で配っているところもありますけれども、そういう環境整備がない時点で、安全に、お互いに配慮した性的行為ができるのかというのは、非常に疑問があります。
脆弱性のある子供や20代の若年者たちがどれだけ搾取されているのかという被害実態を鑑みて、子供や若年者を保護する議論と若年者の性的自由、性的自己決定権をどう守るかという議論が両立するように、法整備をしてほしいということを望みます。
  未来を担う子供たちは、社会にとって最も価値がある、しかし、最も脆弱な存在です。
今まで話されているように、低年齢であるほど、様々な能力が未発達で脆弱になり、そこに年齢差を利用して、大人の性的な略奪者や、18歳や19歳の者でも、SNSなどを通して年下の子供たちにアクセスをして、性的加害や搾取を行うということが、今の社会で頻繁に起こっているし、これからますます起こっていくのではないかと思います。
被害を受けた子供たちは、直ちに身体的・心理的に傷害を負い、成長後も良好な人間関係を築けず、虐待の再生産すら行われる可能性もあることを考えて、子供の保護と、その人たちの自由な意思決定が守られるような条文を作ってもらえればと思います。
○橋爪委員 先ほど議論のありました、処罰の例外について、これを形式的要件で定めるか、実質的要件で定めるかという点について、簡単に意見を申し上げます。
  この問題は、形式的要件の内容によって、かなり結論が変わってくるように思います。
つまり、形式的要件だけで十分な処罰の限定が図れるならば、実質的要件を更に重ねて限定する必然性は乏しいように思います。
例えば、極論になりますが、10歳とか8歳とか、大幅な年齢差を設けるならば、形式的要件だけで十分であって、あえて実質的要件を設ける必要はないという理解もあり得るところです。
  他方、仮に、例えば、2歳や3歳のように、小さい幅の年齢差要件を設ける場合には、高校1年生と高校3年生の間の性行為のように、少なくとも懲役5年以上の法定刑で罰すべきではない性行為までが含まれますので、年齢差や関係性を濫用する性行為といえるかという観点から、実質的要件を更に重ねて、処罰範囲を限定することが必要になってくると思います。
このような意味で、十分な幅を設けた形式的要件一本でいくのか、小さい幅の形式的要件に加えて実質的要件を併用するのかという観点から検討することが、今後の議論において有益であるように思います。
  もう一点申し上げますが、先ほどの宮田委員の問題意識ともある意味通じるところがあるのかもしれませんが、例えば、年少者の圧倒的なイニシアチブで、年長者がやむなく性交に応ずるケースがあり得ます。
例えば、15歳の少年が、19歳の少年に対して執拗に性交を迫った結果、初めは嫌がっていた19歳の方もやむなく、困惑しつつも最終的には性交に応ずるケースが考えられます。
  もちろん、こういった場合についても、19歳の者は応じるべきではないということが出発点になると思うのですが、仮にやむなく応じた場合に、全て例外なく強制性交等罪で処罰すべきかということが、更に検討課題になるように思います。
すなわち、何らかの形で関係性を利用する行為がある場合に限って処罰をするのか、それともおよそ一定の年齢差があれば、年長者からの何らかの働きかけやイニシアチブがない場合でも常に犯罪を構成するのかという観点からも、更に検討する必要があるように考えます。
○井田部会長 よろしいでしょうか。
本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。
  本日は、事務当局が試案を作成するに当たっての理論的・法制的な課題、具体的には、対象年齢を引き上げる根拠はどこに求めるべきか、対象年齢を引き上げた場合、一律に処罰することとするのか、あるいは実質的要件を設けて処罰することにするのか、あるいは形式的要件と実質的要件を併用するハイブリッド方式とするのか、さらに、対象年齢を引き上げつつ、処罰対象を除外・限定するときには、いかにそれを整合的に理解すればよいのか、そして、処罰対象を除外・限定することとした場合に、その根拠を踏まえて、具体的にどういう要件とすることが適当か、年齢差で考えるか、実質的要件で考えるか、それらを併用するか、こういった点について掘り下げた議論を行い、委員・幹事の皆様から様々な御意見を頂いたところであります。
いずれの御意見も、事務当局による試案の作成、さらには、当部会における今後の検討と意見の集約に大いに資するものであり、本日このような議論の機会を設けたことは、大変有益かつ有意義であったと考えております。
  今後の進め方ですけれども、事務当局に、本日の議論の内容も踏まえた上で、諮問事項についての試案を作成してもらうこととし、次回以降は、それに基づいて議論を行うこととしたいと思います。
  そのような形で、次回以降進めるということでよろしいでしょうか。
             (一同異議なし)○井田部会長 ありがとうございます。
それでは、そのようにさせていただきます。
  次回の予定については、事務当局の準備の状況を踏まえつつ、なるべく早く日程を確定させ、事務当局を通じて皆様にお知らせすることとさせていただきます。
  本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。
  本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとしたいと思いますが、そのような取扱いでよろしいでしょうか。
             (一同異議なし)○井田部会長 ありがとうございます。
そのようにさせていただきたいと思います。
  本日は、これにて閉会といたします

わいせつ目的で誘拐した児童につき「就寝中のAの胸部が露出した姿態を被告人が使用する撮影機能付携帯電話機で撮影し」た行為を、ひそかに製造罪とし、誘拐罪と併合罪とした事例(横浜地裁r5.3.20)

 自ら乳房露出していない限りは、ひそかに製造罪ではなく姿態をとらせて製造罪です。
 撮影はわいせつ行為なので、わいせつ誘拐罪とは牽連犯ですよね。
 


横浜地裁令和 5年 3月20日
事件名 わいせつ誘拐(変更後の訴因 わいせつ誘拐、神奈川県青少年保護育成条例違反)、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2023WLJPCA03206013
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は
 第1 ソーシャルネットワーキングサービスであるツイッターを介して知り合ったA(当時15歳)が家出願望を有することに乗じて、わいせつな行為をする目的で、同人を誘拐しようと考え、令和4年7月28日午後0時54分頃から同月29日午前10時17分頃までの間、神奈川県内又はその周辺において、自己の携帯電話機を使用し、前記ツイッターのダイレクトメッセージ機能を利用して、Aに対し、「こんにちは 同じ横浜です」「今日は決まった?」「おいで ぎゅ~」「制服家出?不味くね」「着替ひっす」「可愛い」「傷、愛してやる」等のメッセージを送信し、同人に自己の下に来るように誘惑し、Aにその旨決意させ、同日午前10時23分頃、横浜市内のドラッグストアにおいて、同人と合流した上、同人を被告人方に連れ込み、その頃から同年8月12日午後2時52分頃までの間、Aを同所に寝泊まりさせるなどして自己の支配下に置き、もってわいせつの目的でAを誘拐した上、同月5日頃、被告人方において、Aが満18歳に達しない青少年であることを知りながら、同人の陰部を舐め、その陰部に自己の陰茎を直接押し付け、さらに、Aに自己の陰茎を口淫させるなどし、もって青少年に対し、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゅう恥けん悪の情を起こさせるわいせつな行為をした
 第2 A(当時15歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、同月9日午後10時6分頃から同月10日午後6時53分頃までの間に、被告人方において、ひそかに、就寝中のAの胸部が露出した姿態を被告人が使用する撮影機能付携帯電話機で撮影し、その画像データ3点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録して保存し、もってひそかに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した
 
(法令の適用)
 罰条
 判示第1の行為
 わいせつ誘拐の点 刑法225条
 青少年に対するわいせつ行為の点 神奈川県青少年保護育成条例53条1項、31条1項
 判示第2の行為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
 科刑上一罪の処理(判示第1につき) 刑法54条1項後段、10条(わいせつ誘拐と青少年に対するわいせつ行為との間には手段結果の関係があるので、1罪として重いわいせつ誘拐罪の刑で処断)
 刑種の選択(判示第2の罪) 懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書

福祉犯を犯した医師・歯科医師の行政処分の厳罰化

児童ポルノ単純所持には影響なし
児童買春は倍くらいになっています。

罰金刑確定してからでは手が打てません。

製造罪とかで捜査受けて、捜査弁護の結果、単純所持に落ちると、戒告になったりします。起訴猶予になると、行政処分はありません。

>>
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34428.html

児童買春等を行った医師・歯科医師行政処分の量定の見直しについて
 児童買春等を行った医師・歯科医師行政処分の量定について、昨今の社会情勢も踏まえて次回の分科会から従前よりも処分を重くすることで合意した。

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罪名 司法処分 行政処分 司法処分 行政処分
公然わいせつ 10万円 3月 H31.2.14 R5.2.8
迷惑条例卑わい 30万円 3月 H30.12.17 R5.2.8
迷惑条例盗撮 30万円 3月 H30.4.11 R5.2.8
単純所持 20万円 戒告 H30.6.6 R5.2.8
単純所持 30万円 戒告 H30.9.27 R5.2.8
単純所持 30万円 戒告 H30.7.2 R5.2.8
単純所持 30万円 戒告 H30.6.21 R5.2.8
単純所持 30万円 戒告 H30.3.8 R5.2.8
児童買春 30万円 3月 H30.8.6 R5.2.8
児童買春 50万円 3月 H30.5.18 R5.2.8
迷惑条例盗撮 30万円 3月 H31.3.22 R5.7.26
単純所持 30万円 戒告 H31.3.18 R5.7.26
単純所持 30万円 戒告 H30.12.19 R5.7.26
単純所持 30万円 戒告 H31.1.17 R5.7.26
         
単純所持 30万円 戒告 R1.6.5 R5.11.22
単純所持 30万円 戒告 H31.4.15 R5.11.22
児童買春1 50万 6月 H31.3.15 R5.11.22
児童買春2 70万 6月 R1.5.29 R5.11.22
児童買春2製造2 70万円 8月 R1.9.13 R5.11.22
児童買春2 50万円・30万円 1年 H31.2.1 R5.11.22
青少年条例違反・製造 80万円 1年4ヶ月 H31.3.13 R5.11.22
公然わいせつ 10万円 3月 R1.8.27 R5.11.22
迷惑条例盗撮 20万円 3月 R1.9.10 R5.11.22

 

性的同意能力三分説(176条3項、177条3項)

 こういう思想によるものです。裁判官も知らないと思うので、機会があれば「知ってたか?」って聞いてみます。
 13~15歳の不同意性交罪・不同意わいせつ罪については、被害者の承諾能力の程度によっては、量刑に影響がありうるでしょう。
 16~17歳の青少年淫行罪については、承諾能力は完全(権利侵害はない)という主張に使えそうです。

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】令和五年二月法務省
各条の第3項
(1) 総説
自由意思決定を有効にすることができるための能力の内実は、
○ 行為の性的な意味を認識する能力(以下「意味認識能力」という。)
○ 相手方からの影響にかかわらず、性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処する能力(以下「性的理解・対処能力」という。)
と整理することができる。
その上で、これらの能力は、年齢とともに心身が成長し、社会的な経験を積み重ねることによって向上していくものと考えられるところ、子供の発達段階に関する調査・研究や若年者を対象とした意識調査の結果等を踏まえると、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は、早くとも16歳であると考えられる。
すなわち、16歳未満の者は、これらの能力の全部又は一部が十分でなく、有効に自由意思決定をする能力が十分に備わっているとはいえないため、有効に自由意思決定をすることが困難な場合があり、そのような場合には、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じ得ると考えられる。
第3項は、そのような場合における性的行為を処罰することとするものである。
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない
と考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8)。
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○ 13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合
を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そして、そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない

 深町論文に説明があります。

深町晋也「性交同意年齢の引上げを巡る諸問題」法律時報2023年10月号(95巻11号)77頁
第6回会議において、性的同意能力を
①行為の性的な意味を認識する能力、
②行為が自己に及ぼす影響を理解する能力、及び
③性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力
という3つの能力に分析して検討する見解が主張されたことである(以下、この見解を「能力三分説」とする)16)。
同会議においては、この見解に依拠しつつ、①及び②のみでは性交同意年齢の引上げに同年代間の者同士の性交等についての例外を設ける理由を説明しがたい一方、③の能力を考慮することでそれが可能になる、との意見が主張された17)。
更に、第8回会議においては、能力三分説を前提に性交同意年齢の引上げが論じられるようになり18)、
13歳未満の者であれば①の能力を一律に欠くと言えても13歳以上の者についてはそうとは言い難いのに対して、②及び③の能力まで含めて十分に備わる年齢については、13歳よりは上であると言い得るとの見解が主張された19)。
なお、第12回会議においては、能力三分説を主唱する立場から、②の能力に関して、被害者に生じる
妊娠や性感染症のリスクといった短期的影響のみならず、その後の精神的な負荷といった長期的影響をも含めて理解する能力であるとされ、②の能力と③の能力とは不可分のものだとする見解が主張された20)。
以上の議論をまとめると、部会において示された能力三分説は、従来明確に区別されていなかった①~③の能力を区別しつつ、特に(②の理解能力及び③の対処能力を強調することで、一方では性交同意年齢の引上げを正当化しつつ、他方では、(年齢が引き上げられた範囲において)行為者と被害者との年齢差が5歳以上であれば両者の対等性が否定されて(②及び)③の能力が一律に否定されるという形で年齢差要件をも正当化するという機能を有するものと言えよう。
3 性交同意年齢を巡る議論の検討
(1) 比較法的観点からの分析22)
能力三分説は、日本においてこれまで明確な形で議論対象とされたことは殆どないものの、ドイツにおける被害者(本稿との関係では未成年者)の同意能力を巡る議論にほぼ対応するものと言って良い。
未成年者の同意能力に関するドイツの学説は、未成熟さを有する未成年者という人的グループに属する者が、その未成熟さにより法益処分に関して認識若しくは判断できず、又は認識・判断に従って行動を制御することができない場合には、同意能力を認めることができないとする点で概ね一致している。このうち、認識・判断・制御の各能力は、前述の⑪~③に対応するものと言える23)。また、①~③の各能力を判断する際に考慮される事情は、ドイツにおいて認識・判断・制御能力の有無を判断する際に考慮される事情と相当程度重なっている。
①については「行為の性的な意味」が問題となっているが、こうした意味が問題とされるのは、当該行為が性的自由・性的自己決定権を侵害する行為だからである。ドイツにおいては、いかなる保護法益を処分するのかに関する認識能力が問題とされており、①で問題とされているのはそうした保護法益に関連する認識能力と言える。
///////////

16) 法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第6回会議(令和4 [2022]年3月29日)議事録24頁〔佐藤〔陽〕幹事〕
○佐藤(陽)幹事 先ほど小島委員と北川委員から年齢を引き上げる理論的根拠に関する御意見が述べられたかと思いますので、私の方からも、これについて幾つか述べさせていただければと思います。
現在の刑法176条後段及び177条後段に関する年齢を、例えば対象年齢と呼ぶとしますけれども、この対象年齢の引上げに関して理論的根拠を検討しようと思った場合には、まず、現行法の対象年齢の趣旨を整理する必要があるのではないかと思います。刑法176条前段及び177条前段の保護法益を、通説的に、性的自由、性的自己決定権であると解し、かつ、近年は児童の健全育成を併せて考慮に入れる見解もありますけれども、一応後段も同じ保護法益で自己決定権を保護しているのだということを前提に考えますと、強制わいせつ罪や強制性交等罪については、次のような説明ができるのではないかと思います。
つまり、13歳以上の者は、基本的には自由な意思決定をすることができるはずなのだけれども、何らかの理由で、それは内在的な理由だったり外在的な理由だったりするわけですが、それが困難な状況にあるときに、わいせつな行為又は性交等をされると法益が侵害されるのに対して、13歳未満の場合には、その年齢ゆえに一般に自由な意思決定をすることが困難だとみなされているため、それらの行為がなされると、すぐに、一律、法益が侵害されるという説明です。
確かに、13歳未満の者であっても、あるいは13歳以上の者であっても、人間は個性がありますから、それぞれ意思決定能力に差はあると思うのですけれども、ここでは、人が年齢を重ねるにつれて精神的に成熟していって、一定年齢以上になると有効な自由な意思決定をするための能力が備わるのだということを前提にして、刑事政策的に、その年齢が一律13歳に定められたと考えることができるのだと思われます。
この「13歳」という年齢を引き上げるとした場合の考え方としては、このような通説的な保護法益に基づく処罰根拠の説明をやめて、新たな処罰根拠に基づく説明を取り入れる方法、例えば、先ほど北川委員もおっしゃいましたけれども、健全育成の視点を取り入れた形で説明するというのが、一つあり得ると思います。ただ、この場合には、北川委員もおっしゃっていたとおり、今まで健全育成を保護する規定の場合には、いろいろな制約をした上で「10年以下の有期懲役」となっていたものが、いきなりそういう制約を取り払って、「5年以上の有期懲役」という重い処罰になることになりますので、この点で少し飛躍があるように思われます。そうだとすると、極力、これまでと同じように、性的自由や性的自己決定権という保護法益が侵害されるのだということを前提に説明をした方がいいのではないかと思います。
そこで、性的自己決定権を根拠にして年齢を引き上げることができるかについて考えますと、自由な意思決定をするのに必要な能力は、論理的に何歳だと定まるものではなくて、社会情勢も踏まえて刑事政策的に決するものだと思われますから、どのような能力が必要とされるべきかという、能力の内実を改めて整理し直した上で、一般に何歳に達すればその能力が備わると言えるかという観点から、検討することができるのではないかと思います。
では、その能力の内実は何かというのを更に考えますと、まず、性的な事項に関する認識や理解がなければ自由な意思決定をする前提を欠くのだという観点から、これまでの議論の中で指摘されているとおり、行為の性的な意味を認識する能力や行為が自己に及ぼす影響を理解する能力といったものがその内実になると思われます。
また、例えば、性的行為に向けた相手方からの働き掛けに対処することができなければ、相手方からの影響力の作用を適切に排除しながら自分で決定するということが難しくなると考えますので、性的行為に向けた相手方からの働き掛けに的確に対処する能力といったようなものもその内実として考えられるのではないかと、現在考えているところです。
そういった能力の内実を手掛かりにして、改めて年齢は何歳だろうかと考えていく作業を進めるというのが、一つの手段として有効ではないかと思うところです。では、一体何歳なのかと言われると、皆様の御意見を聴きたいと思っているところですので、よろしくお願いします。
・・

(19) 前掲・第8回会議議事録37頁以下〔佐藤〔拓〕幹事〕。
○佐藤(拓)幹事 対象年齢を引き上げる理論的根拠については、これまでの議論において、現行法上、13歳未満の者に対して性交等をすれば強制性交等罪を構成するとされているという根拠を、配布資料22に記載されているとおり、「性的行為をするかどうかに関する能力を欠くため、性的自由・性的自己決定権を侵害する」ことに求めた上で、その能力の内実を整理し直し、それを踏まえて検討するという視点が示されたと理解しております。そして、その能力の内実として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの三つの能力が検討対象となっていると考えております。このような検討の方向性は、現行法との関係でも、整合的な説明が可能ではないかと考えられます。能力の捉え方についても、これまでの議論において、異論はなかったように思われます。
そこで、このような考え方に沿って検討してみますと、
13歳未満の者は、おおむね小生の年次に当たり、一般的に性的な知識は乏しいと考えられますことから、「①」の能力を欠いていると見ることができる一方で、
13歳になると、中学生の年次に入ることから、恐らく「①」の能力を一律に欠くと評価することは困難ではないかと思われます。これに対して、「②」及び「③」の能力は、「①」の能力が備わったからといって直ちに備わるものではないと考えられ、これらを含めて三つの能力が全て十分に備わる年齢は、13歳よりは上だということができるのではないかと思われます。仮にこのような考え方が、実態としても裏付けられるのであれば、それを根拠として対象年齢を引き上げることは、理論的にあり得るように思われます。
これに対して、若年者の「健全な育成を害する」ことを根拠として対象年齢を引き上げることについては、更に検討すべき課題があるように思われます。すなわち、仮に、現行法上13歳未満の者に対して性交等をすれば強制性交等罪を構成するとされている根拠として、「健全な育成を害する」ことが含まれていると考える場合には、現在でも、これを考慮した上で、13歳未満が対象年齢として定められていることとなりますが、「健全な育成を害する」ことがなぜ対象年齢を引き上げる根拠になるのかを説明する必要が出てくるように思われます。他方、仮に、現行法上、「健全な育成を害する」ことは考慮されていないと考える場合には、なぜ新たにこれを加えることとするのかについて、その根拠とともに説明をする必要が生じてくるように思われます。
もっとも、いずれにしても、「健全な育成を害する」ことのみを根拠として5年以上の懲役という重い違法性を根拠付けることは困難であり、配布資料22は正にそのとおりの形になっていますけれども、対象年齢を引き上げる場合には、性的行為をするかどうかに関する自由な意思決定をするために必要な能力の不足という観点から説明するほかないのではないかと考えております。
・・・
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会
第8回会議配布資料22
補足的検討課題②
(第1-2 刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢を引き上げること)
〔補足的検討課題〕
1 客体となる者の年齢(以下「対象年齢」という)を引き上げる理論的根拠。
○現行法上、対象年齢の者に対して性交等をすれば、強制性交等罪を構成して処罰するとされている理由をどのように考えるか。
・性的行為をするかどうかに関する能力を欠くため、性的自由・性的自己決定権を侵害する
・健全な育成を害する
○現行法上の処罰理由を踏まえ、対象年齢を引き上げる理論的根拠は何か。
・性的行為をするかどうかに関する能力として、
①行為の性的な意味を認識する能力
②行為が自己に及ぼす影響を理解する能力
③性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力を要し、これらの能力を一律に欠く年齢を対象年齢とする

わいせつ目的面会要求罪の趣旨は、グルーミング行為を性犯罪の前段階で止める趣旨であるのだけれど、同罪の検挙事例は、結果的にわいせつ行為が行われた事案であること

 わいせつ目的が否認されることがないように、不同意性交罪・不同意わいせつ罪が既遂になっているのとか、児童買春罪もあるのとかを選んで検挙しているようです。しかも性犯罪とは科刑上一罪。


(十六歳未満の者に対する面会要求等)
第百八十二条
1 わいせつの目的で、十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。
二 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。
三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。
2 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該十六歳未満の者と面会をした者は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。

法務省逐条説明
○第182条(16歳未満の者に対する面会要求等)
【説明】
1 趣旨
近時、若年者に対する性犯罪を未然に防止する必要性が高まっているところ、若年者が性被害に遭うまでの過程においては、行為者から様々な働きかけが行われるが、一般に、若年者は、精神的に未成熟で、判断がゆがみやすく、また、人の真意を見抜くことが難しいところ、とりわけ、16歳未満の者は、性的行為に関して自由意思決定を行う能力を十分に備えていないことから、より性被害に遭う危険性が高いという実態がある。
このような特性や性被害の実態を踏まえると、その性的自由・性的自己決定権の保護を十全なものとするためには、性犯罪の実行の着手前の行為を処罰することが必要であると考えられる。
そこで、性被害を未然に防止し、性的自由・性的自己決定権の保護を徹底するため性犯罪の実行の着手前の段階であっても性被害に遭う危険性のない状態すなわち、性被害に遭わない環境にある状態(以下「性的保護状態」という)。を侵害する危険を生じさせたり、これを現に侵害する行為を処罰対象とする規定を設けることとする
注1)本条第1項・第2項の罪に当たる面会要求行為及び面会行為が行われた後に、強制わいせつ罪又は強制性交等罪に当たる行為が行われた場合、
〇本条第1項・第2項の罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益とする強制わいせつ罪又は強制性交等罪の予備罪としてではなく、16歳未満の者が性被害に遭う危険性のない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にある状態という性的保護状態を保護法益とする趣旨で設けるものであることから、本条第1項・第2項の罪と強制わいせつ罪又は強制性交等罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、本条第1項・第2項の罪と強制わいせつ罪又は強制性交等罪は、罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることから、具体的に行為者がそのような関係において両罪を実行した場合には、牽連犯になると考えられる。

https://www.nnn.co.jp/articles/-/170695
トップ 地域ニュース 速報 【事件】16歳未満と知りながら面会要求、不同意性交 容疑で男逮捕 
【事件】16歳未満と知りながら面会要求、不同意性交 容疑で男逮捕 
2023年11月01日
 鳥取署は1日、16歳未満と知りながら面会し、わいせつな行為をしたなどとしてわいせつ目的面会要求と不同意性交等の疑いで、鳥取市、解体作業員の男(22)を逮捕した。逮捕容疑は10月10日午後8時半ごろ、交流サイト(SNS)で知り合った10代女性を市内の駐車場に誘い出して面会し、市内の宿泊施設で性交した疑い。

https://nordot.app/1099641268600865493?c=768367547562557440
広島中央署は21日、広島市安佐南区の無職男(32)をわいせつ目的面会要求と不同意性交の疑いで逮捕した。
 逮捕容疑は8月7~10日までの間、16歳未満の女子に対し、交流サイト(SNS)で「お会いしませんか」「会ったら交通費渡しますよ」などとメッセージを送って面会を要求した上、同10日に中区内のホテルで乱暴した疑い。
 同署によると、女子と保護者からの相談で発覚し、女子のスマートフォンの履歴などから男が浮上した。男は「年齢は知らなかったが、その他は間違いありません」と供述しているという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4d7a390f007e22b92fe6967292f7d9688b1e3de6
逮捕容疑は、県内に住む女子中学生(14)が交流サイト(SNS)上に書き込んだ援助交際を募る投稿にメッセージを送信。金を払う約束をして面会を要求し、9月15日に奈良市内のホテルで1万5千円を渡して女子中学生と性交したとしている。容疑者は「18歳と言っていた記憶がある」と供述している。

 朝日新聞は「取り締まりの対象は女性で、性別が男性の男娼は該当しない。」って言うけど、「売春」の定義上、男性が「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交する」と売春になり禁止されています。同性どうしだと性交にならないので、「売春」から外れます。

 朝日新聞は「取り締まりの対象は女性で、性別が男性の男娼は該当しない。」って言うけど、「売春」の定義上、男性が「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交する」と売春になり禁止されています。同性どうしだと性交にならないので、「売春」から外れます。

売春防止法
第一条(目的)
 この法律は、売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによつて、売春の防止を図ることを目的とする。
第二条(定義)
 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。
第三条(売春の禁止)
 何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。

 神奈川県では「売春類似行為」として迷惑条例で規制しているというのですが、定義がありません。条例解説を見ると、男・男の性交類似行為のみを規制していて、男女間の性交類似行為や女・女の性交類似行為は規制していないことがわかります。

神奈川県迷惑行為防止条例
第9条 何人も、公共の場所において、不特定の者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(5) 売春類似行為をするため、客引きをし、又は客待ちをすること。

神奈川県迷惑行為防止条例逐条解説(2014年6月)
13) 「売春類似行為」
男性が対償を受け、又は受ける約束で、不特定の男性と性交類似行為をすることをいう
(14) 「客待ち」
相手方の申込みを待っている状態をいう。必ずしも一定の場所に止まっている必要はなく、たたずんで待っている場合はもちろん、うろついて相手方を物色している場合もこれに当たる。‐
周囲の状況ないし行為者の様子から、ゞその者が男娼行為をする意思があり、その相手方を求めている又はその相手方となる者を物色している者であることが、客観的に認められれば足りる。

夜の街に立つ外国人男娼、検挙増 コロナ対策緩和、観光ビザで来日 横浜・若葉町地区/神奈川県朝日新聞社
2023.11.19  ■売防法の適用外
 売春は、売春防止法により禁じられ、売春目的の勧誘については、6カ月以下の懲役か1万円以下の罰金が科せられる。ただ、取り締まりの対象は女性で、性別が男性の男娼は該当しない。県警は、法定刑が売春防止法よりも軽い県条例違反で男娼による客引き行為を取り締まっている。「法律が追いついていない現状がある」(捜査関係者)。

 捜査関係者によると、若葉町と周辺では少なくとも20年以上前から男娼は存在していた。繁華街に近く、ホテルが複数あり、ネットや雑誌で男娼が取り上げられ、男娼目当てに県内外から訪れる客が少なくない。県警がホテルから出てきた男性客に参考人として聴取したところ、お金を払って売春類似行為をしたことを認めたという。
 【写真説明】
 県警が男娼を摘発した場所の近くで、短いスカート姿で路上に立ち続ける人(中央)。男性が近寄り、短く言葉を交わす様子が何度かみられた=17日夜、横浜市中区(写真の一部を加工しています)

男湯・男子脱衣場の男子生徒の裸は、一般人基準で「性欲を興奮させ又は刺激するもの」か


 男湯の女児画像の3号ポルノ該当性について判例があります
 男湯で興奮している人を見かけることはなく、一般人基準だと、普通は興奮しないわけですが、

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」P201
Q49
第7条第3項で、他人に提供する目的がないのに児童ポルノを製造する行為を処罰することにすると、親が自己の子どもの入浴、水遊びの情景を写真撮影する等の行為についても処罰の対象になるのではないですか。

このような情景を撮影した写真に関しては、現行法第2条第3項第3号に該当するか否かが問題とされるのかもしれませんが、同号については、その要件として「性欲を興奮させ又は刺激する」との要件がついており、子どもの入浴、水遊びの情景を見て通常、一般人は性欲を興奮させ、刺激するというところまで至らないと思いますので、このような写真は児童ポルノに当たらず、その撮影行為についても改正後の第7条第3項の犯罪が成立しない場合が多いのではないかと思われます。
・・・
Q38 第2条第3項第2号・第3号には「性欲を興奮させ又は刺激する」とありますが、だれの性欲を興奮させ又は刺激するのでしょうか。また、この要件に該当するか否かは、だれが判断するのでしょうか。
大多数の者に対して、児童の(特に低年齢児童の)裸体は性欲を興奮させ又は刺激するとは考えられないという考えもありますが、どうでしょうか。
一部の少数者の性欲を興奮させ又は刺激するものも児童ポルノとして処制の対象になりますか。

「性欲を興奮させ又は刺激する」 とは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激することをいうものと解しています。
これに該当するか否かの判断は、犯罪構成要件に該当するか否かの判断ですので、最終的な判断は刑事事件において裁判所がするものとなります。
児童の裸体が一般人の性欲を興奮させ又は刺激するかどうかについては、性的に未熟な女児の陰部等を描写した写真が刑法のわいせつに当たるとした判例があり、必ずしも年少者の裸体が一般人の性欲を興奮させ又は刺激することがないとはいえないと考えております。
なお、一部の少数者の性欲を興奮させ又は刺激するものは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものでない|恨り、児童ポルノには当たりません。

阪高裁平成24年7月12日
2 控訴趣意中,その余の法令適用の誤りの主張について
 論旨は,(1)本件各画像は,児童の裸が撮影されているが,一般人を基準とすると「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから,児童ポルノ法7条2項の製造罪(以下「2項製造罪」という。)は成立しないのに,原判決は原判示罪となるべき事実に同法7条2項,1項,2条3項3号を適用しており,また,(2)本件は,公衆浴場内での4件の2項製造罪であって,常習的に撮影,提供がされていたのであるから,それらは包括一罪となり,また,被害児童が特定されているのは1件だけであり,3件は被害児童が特定されておらず,結局被害児童は1名としか認定できないから,その意味でも包括一罪とすべきであるのに,原判決は,併合罪として処理しており,以上の各点で,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。
 したがって,原判決が原判示各事実に児童ポルノ法7条2項,1項,2条3項3号を適用したのは正当である。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231121/k10014264851000.html
警察によりますと、ことし9月、学校行事で訪れた宿泊施設の大浴場で、十数人の男子生徒の着替えや入浴の様子をスマートフォンで撮影したなどとして、児童ポルノ禁止法違反などの疑いがもたれています。

リモート強制わいせつ事件の「わいせつ」とされる範囲と、児童ポルノ製造罪との罪数処理

高裁判例レベルでは、
  わいせつは、「撮影させ」までで、「送信させ」は含まない
  児童ポルノ製造罪とは観念的競合になる
となるはずです。

 

 

        わいせつとされた範囲 児童ポルノ罪が起訴された場合の罪数処理
東京 地裁   H18.3.24 撮影送信させ受信して 観念的競合
大分 地裁   H23.5.11 撮影送信させ 併合罪
東京 地裁   H27.12.15 撮影送信させ 併合罪
高松 地裁   H28.6.2 撮影送信させ 併合罪
横浜 地裁   H28.11.10 撮影送信させ  
松山 地裁 西条 H29.1.16 撮影送信させ  
高松 地裁 丸亀 H29.5.2 撮影させ  
岡山 地裁   H29.7.25 撮影送信させ 併合罪
札幌 地裁   H29.8.15 撮影させ 併合罪
札幌 地裁   H30.3.8 撮影させ 併合罪
東京 地裁   H31.1.31 撮影させ 併合罪
長崎 地裁   R1.9.17 ビデオ通話機能を通じて、同人に胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、同人にそれをさせた上、その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、もって強いてわいせつな行為をした。  
高松 地裁 丸亀 R2.9.18 撮影させ 併合罪
熊本 地裁   R3.1.13 撮影させ 併合罪
京都 地裁   R3.1.21 撮影させ 併合罪
京都 地裁   R3.2.3 撮影させ 併合罪
大阪 高裁   R3.7.14 撮影させ 観念的競合
京都 地裁   R3.7.28 撮影させ 併合罪
大阪 高裁   R4.1.20 撮影させ 観念的競合
札幌 地裁 小樽 R4.3.2 自慰行為等+撮影させ  
東京 地裁   R4.3.10 撮影させ 併合罪
京都 地裁   R4.6.10 同人に陰部露出させる姿態とらせてスマホで撮影させもって、13歳未満の物に対して、わいせつな行為をした 併合罪
東京 地裁   R4.8.19 自慰行為をさせた上、その様子を同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、さらに、その画像等のデータを被告人が使用する携帯電話機に送信させ、 成人
京都 地裁   R4.9.13 同人に陰部露出させる姿態とらせてこれを同人が使用するタブレット端末で撮影させ、
もってr、13未満の者に対してわいせつ行為をし
併合罪
札幌 地裁   R4.9.14 撮影させ 観念的競合
釧路 地裁   R5.1.6 送信させ  
札幌 高裁   R5.1.19 撮影させ 観念的競合
大津 地裁   R5.3.1 陰茎を手淫させるとともに、その状況をスマホの動画撮影機能で撮影させた上、その動画を被告人が使用するスマホに送信させ、 併合罪
地裁   R5.8.18 静止画を送信するよう要求し、同年7月24日頃から同年8月10日午前8時13分頃までの間、同県内のA方等において、同人に前記要求に応じた姿態をとらせ、81回にわたり、これを同人に撮影機能付き携帯電話機で撮影させて、その頃、被告人が使用する携帯電話機に同静止画を送信させ
 もって、Aの抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした。
 
旭川 地裁 稚内 R5.11.10 ズボンを脱いで。」、「ちゃんと見えるように足を開いた写真を撮って。」などと申し向け、Bがその旨誤信して抗拒不能の状態にあることに乗じ、その頃、B方において、同人に陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせ、その姿態をスマートフォンで撮影させ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした  

 

 

 

稚内支部令和5年11月10日宣告  準強制わいせつ被告事件
(弁護人の主張に対する判断)
第1 弁護人の主張
  弁護人は、事実関係は争わないが、以下のように主張している。
1 判示第1事実について
  判示第1事実に係る公訴事実の要旨は、判示第1のとおり被告人がBに申し向け、Bが抗拒不能の状態にあることに乗じ、同人に陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせ、その姿態をスマートフォンで撮影させ、同撮影画像を被告人に見せるよう要求し、同日午後1時分頃から同日午後1時分頃までの間、B方において、Bに陰部及び乳房等を露出した写真を写真共有アプリケーションソフト「」にアップロードさせ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたというものである。
  弁護人は、①Bに陰部及び乳房等を露出させる姿態をスマートフォンで撮影させた行為は刑法(令和5年法律第66号による改正前のもの。以下同じ。)176条前段の「わいせつな行為」に当たらないから被告人は無罪である、②仮に当たるとしても、前記姿態を撮影した写真を写真共有アプリケーションソフトにアップロードさせる行為は「わいせつな行為」には含まれない旨を主張する。
第2 当裁判所の判断
 当裁判所は、①BにBの姿態をスマートフォンで撮影させた行為は「わいせつな行為」に当たる、②Bに写真を写真共有アプリケーションソフトにアップロードさせる行為は「わいせつな行為」には当たらない、③Aに陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせた行為は、その姿態を撮影させた行為を含むものといえるが、①同様、「わいせつな行為」に当たると判断し、判示第1事実及び第2事実について判示のとおり認定した上、被告人にはいずれについても準強制わいせつ罪が成立すると判断した。以下、その理由を説明する。
1 弁護人の主張①について
(1) 判示第1事実に関しては、女児であるBと面識のない当時63歳の男性の被告人が、健康センターの者であるという虚偽の事実を述べ、さらに、性病の診察という虚偽の目的を騙り、Bの陰部や乳房という、性器そのものや性的意味合いを有する部位を、Bに指示して衣類を脱がせて露出させ、撮影させていることが認められる。
  被告人の行為は、Bに、Bの衣類を脱がせて陰部等を露出させ撮影させた行為という限度で捉えたとしても、Bの身体を性的対象として利用することが可能となる状態を作出した上で、B以外の者が、Bのその姿態を認識可能な状態を作出するものといえ、その行為自体性的性質を有していると評価できることに加え、被告人の行為時の前記のような具体的な事情を踏まえると、被告人の行為は、Bに陰部や乳房を露出させ性的な姿態をとらせ、その姿態を撮影させることのみを目的としていたことは明らかであり、まさにBの身体を性的対象として利用しようとするものであるといえ、その行為が性的意味合いを強く有することは明らかである。
  被告人は、遠隔地から電話によりBに指示をしており、Bの身体に直接接触する等しておらず、また、Bが陰部等を露出しその撮影をしている際に、その状況を直接視認していたものでもないことからすれば、被害者の性的自由の侵害の程度は、それらの事情がある事案と比較すれば、低い部類に属するとはいえるものの、性的性質が否定されるものではない。
  そして、本件は、準強制わいせつ罪の事案であるところ、Bに、診察行為であると誤信させて性的な姿態をとらせ、その姿態を撮影させることは、まさに、被害者を心理的抗拒不能の状態にしてその性的自由を侵害するものであり、準強制わいせつ罪としての当罰性を有するものといえる。
  したがって、被告人の行為は、刑法176条前段の「わいせつな行為」に当たると認められる。
(2) 弁護人は、被害者に性的な姿態を撮影させ送信させる行為は、これまで、その大半が、強要罪として起訴され、裁判所において強要罪として処罰されていること等からすると、上記のような行為は、社会通念上、「わいせつな行為」に当たらないものと評価されている旨を主張する。
  しかし、裁判所は、検察官が訴因を強要罪と設定した場合には強要罪の成否を審判対象とするに過ぎず、そのような訴因設定を踏まえ、同罪により処罰したに過ぎないといえることや、検察官が訴因を強要罪とするか強制わいせつ罪とするかは、当該訴因に係る事実が「わいせつな行為」に該当するか否かという一点のみならず、諸事情を考慮し選択するものであるとも考えられることからすると、弁護人の主張を踏まえても、本件の被告人の行為が「わいせつな行為」に当たるという評価が否定されるものではなく、その主張は採用できない。‘
(3) また、弁護人は、犯人が被害者の面前にいない状態でした行為が「わいせつな行為」に当たるというためには、規範的にみて犯人が被害者の面前にいるといえなければならないところ、本件では、被告人がBに陰部及び乳房等を露出させる姿態をスマートフォンで撮影するよう要求する行為とBがその姿態を撮影した行為との間には時間的間隔があり、規範的にみて被告人がBの面前にいるとはいえないから、被告人の行為は「わいせつな行為」に当たらないと主張しているものと解される。
  しかし、証拠によれば、Bは、被告人と通話をしながら、被告人の要求に応じ、陰部及び乳房等を露出させる姿態を撮影したことが認められるから、本件では被告人の要求行為とBの撮影行為の間に時間的間隔があるものではない。
  また、犯人が被害者の面前にいない状態で、被害者に要求しわいせつ行為をさせることは、被害者の身体を性的対象として利用することが可能となる状態を作出する等する点において犯人の面前における行為と変わりはなく、被害者の性的自由を侵害する行為であるといえるから、被害者の面前にいない状態であることから「わいせつな行為」に該当することが否定されるものではなく、その主張は採用できない。
2 弁護人の主張②について
 前記1のとおり、BにBの姿態をスマートフォンで撮影させた行為は、それのみで「わいせつな行為」に当たるものであり、撮影行為にとどまらず、写真を写真共有アプリケーションソフトにアップロードさせる行為は、準強制わいせつ罪の成立に当たり必要不可欠な行為とまではいえないから、それ自体はわいせつな行為には当たらない。
 したがって、罪となるべき事実としては、BにBの姿態をスマートフォンで撮影させた行為までを認定すれば足りることから、判示のとおり認定した。

 

被告人がAに写真を撮影させて送信させた行為は、一連一体の行為として、性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもので、Aの性的自由を侵害する行為であるといえる。津地裁r5.8.18

被告人がAに写真を撮影させて送信させた行為は、一連一体の行為として、性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもので、Aの性的自由を侵害する行為であるといえる。津地裁r5.8.18
 東京高裁とか岡山支部によれば「送信させ」はわいせつ行為ではありません。

津地方裁判所令和05年08月18日準強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件送信型

津地判令和5年8月18日D1-Law.com判例体系〔28313043〕
判決文
■28313043
津地方裁判所令和05年08月18日
検察官 瀧沢万由花
検察官 阪本英晃
弁護人 若林直樹(国選)

主文
理由
(犯罪事実)
 被告人は、
第1 B市●●●において●●●との屋号で美術教室を営むものであるが、同教室の生徒であった●●●(当時17歳。以下「A」という)が、かねてより被告人から希望の美術大学に合格するためには同人の指示に従わなければならない旨申し向けられ、その旨誤信して抗拒不能の状態であったのに乗じ、Aにわいせつな行為をしようと考え、
 1 令和4年7月1日、前記美術教室内において、Aに対し、美術指導の一環と称し、「感じて描いた方がいい」などと申し向け、Aをして被告人から美術指導を受けられるものと誤信させ、Aの背後から両手を両脇に差し入れ、そのまま着衣の上から両乳房をなでまわしたりもんだりし
 2 別表記載のとおり、令和4年7月24日頃から同年8月9日頃までの間に、三重県及びその周辺において、同人に対し、直接口頭で又は被告人の使用する携帯電話機のアプリケーションソフト「C」を使用し、Aの使用する携帯電話機に「明日から恥ずかしいポーズは全裸で撮りなさい」などと記載したメッセージを送信し、その頃、Aに了知させ、陰部、乳房等を露出した姿態を自ら静止画として撮影し、被告人が使用する携帯電話機に同静止画を送信するよう要求し、同年7月24日頃から同年8月10日午前8時13分頃までの間、同県内のA方等において、同人に前記要求に応じた姿態をとらせ、81回にわたり、これを同人に撮影機能付き携帯電話機で撮影させて、その頃、被告人が使用する携帯電話機に同静止画を送信させ
 もって、Aの抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした。
第2 Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、前記のとおり送信させた前記静止画を、その頃、日本国内において、被告人が使用する携帯電話機で受信させ、さらに、令和4年8月24日午前9時47分頃、同国内において、いずれかの方法で、同静止画合計81点を電磁的記録媒体であるUSBメモリに記録させて保存し、もって衣服の全部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。
(証拠)
(事実認定の補足説明)
 1 弁護人の主張は次のとおりであり、被告人は無罪という。
 (1) 第1の1、2につき、Aは抗拒不能の状態ではなかった。
 (2) 第1の1のわいせつな行為はしていない。
 (3) 第1の2別表番号1、2の文言(旨)を言い又は送信していない。
 (4) 第1の2、第2の別表番号1から6までの静止画のうち7枚は、陰部、乳房等が一部しか写っておらず、あるいは不鮮明であるから、それらの写真を撮影させ送信させた行為はわいせつな行為に当たらず、それらの写真は児童ポルノに当たらない。
 (5) 第1の2、第2につき、行為そのものが持つ性的性質が不明確である上、芸術指導の目的で行ったことを踏まえると、第1の2の行為はわいせつな行為に当たらない。第2の行為は、前記事情に加え、静止画データの流出防止のために行ったことも踏まえると、正当業務行為であり違法性が阻却される。
 2 次の事実は関係証拠によって明らかである。
 (1) 被告人は本件当時B市内で美術教室を営んでいた。A(本件当時17歳)は令和3年11月頃から被告人の経営する美術教室に通い、美術大学受験のため被告人の指導を受けていた。
 (2) 被告人は、令和4年6月18日(以下は令和4年の日付をいう)、Aに「誓約書 一、指導方針はおまかせします。一、指導方法に従います。一、指導をすべてのことに優先させます。一、このことは私の意思で行いますので、一切文句は言いません。」と記載した書面を作成させた。
 (3) 被告人は、7月24日、Aをして、全裸、陰部、乳房の静止画(以下「写真」という)10枚を撮影させて送信させた。
 (4) 被告人は、8月6日、Aをして、全裸、陰部、肛門の写真24枚を撮影させて送信させた。
 (5) 被告人は、8月7日から10日までの間、第1の2別表番号3から6までのとおり、C(携帯電話機のアプリケーションソフト)でAに指示して、陰部、肛門、全裸(陰部、乳房等を露出した状況)、陰部、乳房等を露出して自慰行為する状況の写真47枚を撮影させて送信させた。
 (6) 8月24日午前9時47分頃、前記(3)から(5)までのとおりAに送信させて受信した写真合計81点を、USBメモリに記録させて保存した。
 3 Aは被害の経緯、状況等について次のとおり供述する。
 (1) Aはかねて被告人から「このままではどの大学にも行けない」などと言われていたところ、6月18日頃、「希望する大学に行きたいならもっと指導を厳しくする」として、被告人に言われるままに、前記2(2)の誓約書を書いた。被告人はAに毎日の課題として、行動を逐一報告することなどのほか、Aの下着の写真を撮って送ることを要求した。被告人は「下着のしわや汚れを観察するとデッサンの観察力をつけられる。下着の形や柄のデザインも勉強になる」などとも説明した。被告人は、誓約書を書かせた後も、Aに対し、何度か、「指示に従わないなら指導をやめてもいいんやで」などと言った。
 (2) Aは、被告人の要求に従い、6月下旬頃から7月上旬頃まで自分の下着の写真、6月下旬頃から8月上旬頃まで自分の下着姿の写真を撮影し、Cで被告人に送信した。さらに、被告人は、同年7月初め頃から、Aが忘れ物等をしたことの「罰」、「自分をさらけ出す練習」等として、Aの全裸姿の写真、陰部、肛門、乳房等を露出させた写真、更には自慰行為をする写真を撮影して被告人に送信するよう要求した。Aは前記2(3)から(5)までのとおり、被告人の要求に従ってそのような写真を撮影して被告人に送信した。
 (3) Aは被告人の要求に疑問を感じたが、被告人の指導に従うとの誓約書を作成したし、希望する美術大学に合格するためには被告人の指導を受けなければならず、そのためには被告人の要求に逆らうことはできないと思い込み、嫌だったがやむなく要求に従っていた。
 (4) 7月24日、美術教室の帰り際に、被告人から、「全裸で自分の見てもらいたい部位を写して送りなさい」と言われたことから、自分の全裸あるいは陰部、乳房を露出させた写真を撮影して被告人に送信した(第1の2別表番号1の事実)。
 (5) 8月6日、美術教室が休みで午前8時頃まで寝ていたところ、被告人から、Cのチャット機能で、「休みだからといって8時まで寝ているのはだらしない奴隷だ」(「反省文を書きなさい」と言われ、返事が遅かったとして)「下腹部に『奴隷』と書いた写真を送りなさい」と言われ、それをすぐ実行できないと、全裸の写真を撮るよう要求され、全裸で色々なポーズを撮った写真を、更に「陰部の写真を送れ」、「できるだけ広げて撮るように」と言われ、陰部や肛門の写真を、それぞれ撮影して被告人に送信した(第1の2別表番号2の事実)。
 (6) 7月1日、午後1時頃、美術教室で被告人と二人だけで居合わせ、Aが椅子に座ってデッサンをしていたところ、被告人が「感じて描いた方がいい」などと言い、後ろからAの両脇に両手を差し入れてくすぐった後、両手を胸の方に移動させ、両手のひらでベスト又はカッターシャツの上から両胸をなでまわしたり、中央に寄せたり、持ち上げたり、軽くもんだりした。すごく嫌な気持ちになったが、頭が真っ白になり理解できず、抵抗できなかった(第1の1の事実)。
 4 A供述の信用性
 (1)ア(ア) 前記2(3)から(5)までのとおり、被告人がAに撮影させ送信させて保管した写真には、Aの全裸姿、乳房、陰部、肛門を露出させた姿、自慰行為をする姿が撮影されている。それらは一見して性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害する内容のものといえる。
 (イ) Aは、被告人の要求に応じて前記のような写真を自ら撮影し、その画像データを被告人に送信したのであるが、このような行為をあえてした理由について、前記3(3)のとおり具体的に納得できる説明をしている。A供述は前記2の事実と整合し、一見不自然、不可解なAの行動をよく説明し得るものである。前記3(4)から(6)までの供述内容も、具体的で、前記2の事実に照らし不自然、不合理でない(なお、前記3(6)の供述経過[二、三回目の取調べで初めて供述した。警察官から「他に何かされたか」と聞かれ、色々な性的被害の例を示されて、前記3(6)の被害を思い出して供述したという]も不自然とはいえない)。
 イ Aの母親供述にある本件発覚、被害申告の経緯(Aは、8月上旬頃、泣きながら、母親に対し、「何をするにも逐一行動を報告するように命令される。下着の写真を送れと言われる。恥ずかしいポーズをとって自分の体とか送った」などと話した。母親は、Aが「大きなことにしたくない。塾に行っている子にも迷惑がかかる。私も悪いんじゃないの」などと言って渋るのを説得し、9月3日警察に相談に行った旨。甲10)に照らしても自然である。
 ウ Aがありもしないうその話をして被告人を陥れる理由も見出し難い。
 (2)ア 他方、被告人供述は次のようなものである。
 Aに対し、美術の指導として、「服のコーディネートの写真や見てもらいたい写真を送りなさい。小さな変化を観察し、美しさを発見しなさい。身体を描く練習をしなさい。見えない所は写真を撮って描きなさい」などと指導したところ、Aは下着、下着姿、全裸の写真、更には乳房、陰部、肛門を露出させた写真、自慰行為をする写真を撮影して送信してきた。Aが続けてできることはそのようなことだけだったので、被告人はそれに合わせて第1の2別表番号3から6までの指示をした。乳房、陰部、肛門を露出させた写真は、Aが「恥ずかしくて絵が描けない」というので、被告人がAは何が恥ずかしいのかを理解するため、自慰行為をする写真は、Aが「気持ちいいとか感じるという感覚が分からない」というので、Aにそのような感覚を知ってもらうためのものだった。
 イ しかしながら、被告人供述は前記2(5)の指示の内容(被告人が写真の内容を具体的に指示して送信するよう要求している)と整合しない。前記2(3)から(5)までの写真の内容(前記4(1)ア(ア)のようなもの)に照らしても、Aがこれらを自ら進んで撮影して被告人に送信したというのは不自然、不合理である。被告人供述は信用できない。
 (3) A供述に反する被告人供述を踏まえても、A供述は十分信用できる。
 5 A供述によれば、Aは本件当時前記3(3)のような状況にあり、被告人に対し反抗することが心理的に著しく困難な状態、すなわち、抗拒不能の状態にあったと認められる。また、A供述(前記3(4)から(6)まで)にあるとおり、被告人が第1の1のわいせつな行為をしたこと、第1の2別表番号1、2の文言(旨)を言い又は送信したことが認められる。
 6 弁護人がその写真を撮影させ送信させた行為はわいせつな行為に当たらず、その写真は児童ポルノに当たらない(陰部、乳房等が一部しか写っていない。あるいは不鮮明である)という写真7枚(〈1〉甲32資料1写真番号15・甲33資料1写真番号6、〈2〉甲32資料1写真番号19・甲33資料1写真番号8、〈3〉甲32資料1写真番号77・甲33資料2写真番号12、〈4〉甲32資料1写真番号79・甲33資料2写真番号13、〈5〉甲32資料1写真番号81・甲33資料2写真番号14、〈6〉甲32資料1写真番号93・甲33資料2写真番号20、〈7〉甲32資料1写真番号97・甲33資料2写真番号22)は、いずれも陰部、肛門の全部又は一部が明白にそれと分かる程度に鮮明に撮影されている。それらの写真を撮影させ送信させた行為はわいせつな行為に当たり、それらの写真は児童ポルノに当たると認められる。
 7(1)ア 被告人は抗拒不能の状態にあったAに要求し、その意思に反して、Aの全裸姿、乳房、陰部、肛門を露出させた姿、自慰行為をする姿の写真を撮影させた上、それらを被告人の携帯電話機に送信させ(それによって、被告人がそれらの写真を見ることができるだけでなく、被告人が管理・処分[第三者への拡散も含む]できる状態に置いたことになる)、更にUSBメモリに保存した。
 イ 被告人は、前記4(2)アのとおり芸術指導のためだったというけれども、被告人供述によっても、前記アの行為が芸術指導としてどのような意味のあることなのか、合理的に理解することはできない。被告人供述はそれ自体として不自然、不合理であり、採用できない。被告人は性的な欲望や興味を満たすために前記アの行為をしたと認めるほかない(なお、仮に芸術指導として何らかの意味があるとしても、被告人が抗拒不能の状態のAに要求し、その意思に反してさせた行為は、Aの性的羞恥心を著しく害し、性的自由を侵害することが客観的に明らかで、社会常識に照らし到底容認できないと考えられる)。
 (2) 以上のような、被告人がAに写真を撮影させて送信させた行為が持つ性的性質の有無及び程度に、その行為が行われた具体的状況、被告人の主観的事情も併せ考慮すれば、被告人がAに写真を撮影させて送信させた行為は、一連一体の行為として、性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもので、Aの性的自由を侵害する行為であるといえる。
 第1の2の行為はわいせつな行為に当たり、第2の行為は正当業務行為に当たらないと認められる。
 8 第1の1、2のとおり準強制わいせつ罪、第2のとおり児童ポルノ製造罪が成立する。
(法令の適用)
 罰条 第1の1、2 いずれも令和5年法律第66号による改正前の刑法178条1項、176条前段(第1の1、2別表番号1から6までは包括1罪)
  第2 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号
 刑種の選択 第2 懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(重い第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(刑を決めるに当たり特に考慮した事情)
刑事部

 (裁判官 出口博章)

「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、(177条1項)

「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、(177条1項)

城元検事も「8号については従来の強制わいせつ罪等には含まれていなかったとの評価もあり得よう。」とされています。

第百七十七条
1前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
第百七十六条
1次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
八経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

法務省逐条説明
ク第8号(経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること)
第8号は、
○行為者自身が、被害者に対して、自己の言動によって、行為者との性的行為に応じなければ、行為者の経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力によって、自らやその親族等に、身体上、精神上又は経済上の不利益が及ぶのではないかとの不安を抱かせる行為
○被害者が、行為者の言動によらずにそのような不安を抱いている場合を原因行為・原因事由として定めるものである。

捜査研究No.876
性犯罪規定の大転換
~令和5年における刑法および刑事訴訟法の改正の解説~(前)
城祐一郎
8 刑法176条1項8号の構成要件
次に、同項8号の構成要件について検討する。ここでは、犯行の手段として、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」と規定されているが、ここでも柱耆の部分と連携して読むことで、4通りの犯罪成立の場合が規定されていることが分かる。それは、
①経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させることにより、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせて、わいせつな行為をした場合
②被害者が経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮していることで、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした場合
③経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させる行為に類する行為により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせて、わいせつな行為をした場合
④被害者が経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮していることに類する事由があることで、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした場合
の4つである。
これらは、これまでの刑法では規定されていなかった類型である。これは、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること」などによって、被害者側の同意しない状態でのわいせつ行為を処罰の対象とするものであるが、例えば、上司から出張中のホテルで明日の打合せがあると呼び出されて性行為をされたという事例などもあり、これがなかなか現在の類型で捕捉されていないという問題があるということから、優越的な地位を利用して、従わざるを得ない状況での被害についても、捕捉する規定が必要であるとの意見67)などに基づいて制定されたものである。このような類型が設けられるべき理由としては、「地位・関係性を濫用し
67) 第3回議事録33頁(山本委員発言)
た上で、自由な意思決定の機会を奪って行われる性行為は、意思に反する性行為であり、これを処罰することは当然です。」、「行為者と被害者の間の関係性や具体的な働き掛けの内容、影響の程度等を個別に判断した上で、性犯罪の成否を検討する必要があると考えるべきで」68)あるとされ、つまるところ、優越的地位における服従心の利用や、性的行為は行われないという信頼による無防備な状態への付けこみが禁じられるべきである69)との考え方によるものである。
ここでいう「地位」に関して、「経済的関係」としては、債権者と債務者、雇用主と従業員、重要な取引先と取引関係のある者などが挙げられるであろ
うし、また、「「社会的関係』としては、例えば、祖父母と孫、おじ・おばとおい・めい、兄弟姉妹といった家族関係、あるいは上司と部下、先輩と後輩、教師と学生、コーチと教え子、介護施設職員と入通所者といった社会生活上の人間関係が広く含まれる」70)と考えられている。
また、この要件に関して、「不利益の憂慮については、あまり限定的に捉える必要はない」ことに留意しておく必要がある。というのは、「ここでは、客観的に憂慮すべき不利益があったかどうかは重要ではなく、あくまでも、被害者本人の主観面において不利益を憂慮・懸念すべき事情があれば、これに該当すると考えて」よいからである。「例えば、一種の洗脳として行為者に完全に心酔しており、およそ命令に従わざるを得ないような精神状態にあり、したがって、もし命令に背いた場合には、相手から見放されてしまうおそれがあり、それ自体が不利益であるというケースもあると思うのです。このように、具体的な経済的不利益に還元できなくても、およそ命令に従わなければ精神的にダメージを受けるというケースについても、『不利益の憂慮」に該当するケースがあると思われますので、実はこの要件に該当し得る範囲はかなり広くなる」71)と考えられるからである。
そこで、例えば、この「不利益の憂慮」に関して、これは降格されるとか、辞めさせられるとか、被害者としてはそのような不利益を憂慮したという場合が当てはまるのはもちろんであるが、では、それ以外の、例えば、昇進をさせるとか給料を上げるなどということを言われ、それを断った場合のような利益誘導型の提案が、当てはまるのかという問題に対し、「具体的な事実関係によるとは思いますが、利益を供与できる立場・地位にある場合、言わ
第6回議事録34~35頁(橋爪委員発言)
第3回議事録33頁(小島委員発言)
第10回議事録9頁(浅沼幹事発言)
第8回会議録35頁(橋爪委員発言)
捜査研究No.876 (M2ヌ9.5)
ばその裏返しのようなものとして、不利益を与えることができる立場・地位にもあるということが性々にしてあり得ます。そのような事実関係の下で、利益を提供することを示しているということは、裏返せば、応じないと不利益が及ぶかもしれないということにもなり得ますので、そういう観点から被害者の方が不利益を憂慮したということであれば」72)、この要件に該当すると説明されている。ただ、この場合、注意しておかなければならないのは、「利益を期待して性的行為に応じたことを処罰対象とし得るという趣旨ではなくて、利益を供与するという申出があったことを、被害者側がそれによって不利益を想起して憂慮する、そのような状況があると処罰対象になるという趣旨」73)であるということである。
・・・
10刑法176条1項の罪についての検察官による立証事項
上述してきた各号の構成要件について、検察官としてはどのような事実についての立証が求められるのであろうか。
この点について、客観的な構成要件としては、
①本項各号に掲げられている行為があること、そして、柱耆の部分の関係で、
②それによって被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」になったこと75)、そして、
③当該状態の下でわいせつな行為が行われたこと、
この3つが客観的な要件として、まず必要になる76)。
次に、主観的な要件としては、故意として、上記の各事実についての認識が必要になってくると考えられる。その場合、例えば、柱耆にある困難な状態というような、その評価にわたる部分、規範的な要件の部分については、これまでの判例の考え方によれば、評価そのものの認識までは必要ではなく、その評価を基礎付ける事実についての認識があれば足りると考えられる77)。
そして、この考え方を前提として、捜査機関においては必要な証拠を収集し、立証していくことになる。例えば、1号の構成要件に関していえば、まず、①の要件として、暴行あるいは脅迫に該当する行為があったことを立証できるかどうかを考える際、行為者が被害者に対して何らかの有形力の行使をしていれば、それを暴行と捉えることができるかが検討されることになる。
次に、②の要件として、柱書にある同意しない意思の形成等が困難な状態になったかどうかという点を検討することになる。この点については、行為の場所や時間帯、その状況、行為者と被害者との体格差など諸般の事情を考慮して、この困難な状態になったといえるかどうかを検討することになる78)。
さらに、③の要件として、わいせつな行為があったかどうかについても必要な証拠によって立証していくことになる。
その上で、主観面である故意についても、上記の客観的な事実について被告人が認識をしていたといえるかどうかについて、自白だけでなく客観的な間接事実などからその認識が立証できるかということを精査していくことになるものと考えられるところである79)。
75) この要件に関して、そのような状態に至った原因として、被害者の属性、例えば、まだ大学生で社会経験がないとか、知的障害があるとかいう属性についても立証対象になる場合があるのは当然である(第13回議事録17頁(吉田幹事発言))。
76) 第13回議事録13頁(吉田幹事発言)
77) 第13回議事録13頁(吉田幹事発言)
78) 第13回議事録14頁(吉田幹事発言)
79) 第13回議事録14頁(吉田幹事発言)

https://news.yahoo.co.jp/articles/53ac4a407b0036273d96e5275aab053501b0bc77
県警捜査1課によると、容疑者は9月30日午後10時半~午後11時40分ごろ、広島市中区の宿泊施設で、出会い系アプリで知り合った20代の女性に「実は警察官なんだよ。売春を担当する部署にいる。これは犯罪になる」などと言い、抵抗できない状況にして性的暴行を加えた上、「始末書」と題した書面を作成させた疑いがある。2人はこの日、初めて会ったという。
 また、10月2日午後6時半ごろに女性の自宅近くで待ち伏せ、女性から電話番号を聞き出した疑いもある。翌3日に女性から「個人情報を教えてしまった」と相談を受けた県警が、捜査していた。
容疑者は女性と会った際、背広の下に警察の制服を着用して女性に見せたといい、警察官であることを信用させようとしたとみられるという。県警は、容疑者が脅迫や社会的な地位にもとづく影響力を使って女性の抵抗を困難にしていたとみて、不同意性交罪にあたると判断した。

「膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの」

「膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの」
 「法制審議会の発言」というのは法案・法律にどう影響してるのかわかりにくいですよね。

法務省逐条説明
(3) 膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入する行為であってわいせつなものを強制性交等罪として処罰する趣旨(第177条第1項)
膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物(以下、まとめて「異物」という。)を挿入する行為は、現行法上、強制わいせつ罪(刑法第176条)による処罰の対象とされているが、そのような行為については、近時の心理学的・精神医学的知見等を踏まえると、
○一般的に他人にその内側に入り込まれたくない身体的部位の内側に入り込む行為であって、性的な意味合いが強いものであり、これを強制されると、被害者は、性交、肛門性交及び口腔性交を強制された場合と同様の重大な精神的ダメージを負うものであって、性交、肛門性交及び口腔性交に匹敵する当罰性を有する行為であると考えられることから、これを性交等と同等に取り扱い、刑法第177条の罪として処罰することとするものである。
その上で、膣又は肛門に異物を挿入する行為であっても、例えば、医療行為のように、行為の状況等も考慮すると性的性質がなく、わいせつな行為とはいえないものが含まれ得ることから、そのような例外的な場合を除く趣旨で、「わいせつなもの」に限定することとしている。

捜査研究No.877
性犯罪規定の大転換~令和5年における刑法および刑事訴訟法の改正の解説~(後)
城祐一
2陰茎以外の挿入についての犯罪の成否。
ここでは、従来の性交等に加えて、「膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの」を新たに加えたことから、膣や肛門に陰茎ではなくて、指などの身体の一部又は性的な玩具等の物を挿入する行為をも対象にしている。
この点は、平成29年の改正の際には除外されていたのであるが、今回新たに加えられることとなったものである。。
この点について、「被害者からすれば、自分の体に挿入されたことが被害です。挿入されたものが性器でも物でも、同意なく身体に性的侵襲がされることに苦痛があります。男性器に限らず、舌や手指などの身体の一部、性具やその他の物を、膣・肛門に入れたら、強制性交等罪とすることを望みます。」")との意見が出され、また、「侵襲の大きさとしては、物が挿入された場合であっても、陰茎が挿入された場合と異ならないと私は考えています。
実際の事件において、暗いところでの被害、目隠しをされての被害、それから、何が挿入されているのか分からない被害というのはあって、物と陰茎のどちらが挿入されたかが、被害後に本人に明らかとなったからといって、それによって侵襲の程度が大きく異なるのかというところがあります」91)などの意見、さらには、「私は、膣とか肛門の中に身体の一部や物を入れる行為は、強制性交等罪と同じように考えていいのではないかと思います。膣とか肛門に身体の一部や物を挿入されるということは、強制性交等罪と同じような身体への侵襲性があると思っており、被害が大きいと思うので、強制性交等罪と同様に処罰していいと思います。」92)などの意見に応じたものである。
そのため、例えば、被害者の膣や肛門を舐める行為は、「挿入」ではないため、強制わいせつ罪になり、舌を挿入した場合には、本条の不同意性交罪が成立することになる。
ちなみに、ここでは、「身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物」とされていることから、その形状や性質による限定はなされていないことに留意しておく必要がある。
そのため、後に溶けることになる坐薬などを挿入した場合であっても、本件犯行が成立することになるまた、挿入する対象部位は、膣と肛門と限定されていることから、口に身体の一部や物を挿入する行為は本罪の対象とされていない93)。
さらに、ここでは、「挿入する行為であってわいせつなもの」という限定が付せられているが、これは「医療行為や介護の際に、他人の性器・肛門に指を入れるようなことがあり得ますので、性的性質に欠ける行為が構成要件の中に紛れ込まないように、挿入行為の中でもわいせつなものといった形で限定を掛けておくことが必要であると思います。」94)との意見に基づくものである。

(90)第4回議事録2頁(山本委員発言)。

○山本委員 意見としては、被害者側からまず申し述べたいと思います。
被害者からすれば、まず、自分の体に挿入されたことが被害です。
挿入されたものが性器でも物でも、同意なく身体に性的侵襲がされることに苦痛があります。
男性器に限らず、舌や手指などの身体の一部、性具やその他の物を、膣・肛門に入れたら、強制性交等罪とすることを望みます。
例えば、電車内の痴漢被害において、指1本で法定刑の下限が懲役5年の強制性交等罪になるのかと言われますけれども、自分が電車に乗って通勤・通学の途中で、ほかにもたくさんの人がいる中で、見知らぬ人から下着に手を突っ込まれたらどういう気持ちになるのかを想像してみてほしいと思います。
驚きや不快感で凍り付きますし、ましてや、どこの誰とも知らない、その前に何を触っているかも分からない加害者の指が、自分の膣や肛門に入れられることは、被害者にとってあり得ないことです。
挿入されたものが何であっても、強制性交等罪として扱ってほしいと思います。
また、身体の一部を挿入させられる被害についてですが、加害者の口腔・膣・肛門に被害者の男性器を挿入させた場合は、現在でも強制性交等罪です。
これは、加害者の身体に包み込まれる、覆われるという形での性的侵襲と理解されていたと思います。
覆われるものについて表現するに際してお願いしたいのは、男性器に限られることのない表現にしてほしいと思います。
膣に舌を挿入させる被害において、舌が覆われたという意味で性的侵襲として扱ってほしいと思うからです。
また、性同一性障害の方の性別適合手術の中には、ホルモン療法や手術療法を行い、陰茎を形成する手術もあります。
形状によっては、男性器として認められないとも言われていて、苦痛であるとおっしゃっていました。
今回、Broken Rainbow-japanから、性別や性的指向、性の在り方に捉われない法的評価への要望が出ております。
多様な性の在り方を踏まえた御議論をお願いします。
物を挿入させられる場合についてですが、物を手に、あるいは肘とか足の間に持たされたりして、挿入させられる行為もあります。
同意のない性的行為をさせられている意味では性暴力ですが、被害者の身体の一部に挿入される、又は被害者の身体の一部が加害者の身体に覆われるといった被害ではないので、強制性交等罪には当たらないのではないかと理解しています。
このように議論を進める中で、性犯罪に関する刑事法検討会では、男性器を膣・肛門に挿入し、又は挿入させる以外の被害については、強制性交等罪と強制わいせつ罪との間に中間類型を設けるべきだという議論もありました。
しかし、先ほどから申し上げているとおり、性具や手指などを用いたセックスが、その人たちにとって自然な性の在り方である方たちもいます。
中間類型とすることで、男性器を挿入することだけが性交であり、レイプであるということになり、それは差別ではないかと思うので、反対します。
同列に扱ってほしいと思います。
また、中間類型とした場合、捜査機関では必ず何を挿入されたのか、それが男性器であることがどうして分かったのかを聞かれることになると思います。
自分の身体に挿入されたことまでは分かっても、何が挿入されたかまでは、身体下部のことであり、見ることも怖いし、具体的には分からないということもあります。
医療機関での被害者診察においても、何かが膣や肛門に挿入されたとは言えても、その特定までは難しいこともあります。
侵襲されたことに変わりはないのに、それが何かによって罪が変わるのは、被害者にとっては理不尽で承服し難いことですので、中間類型を設けることには反対したいと思います。

(91)第4回議事録9頁(長谷川委員発言)。

○長谷川幹事 医療行為などを適切に処罰から除けるようにすべきという趣旨であるとすれば、正当行為でも除けるのではないかというのが、今の感覚的な考えです。
この点については、改めて詰めて考えたいと思います。
それから、物について、性具とか座薬とか、いろいろな物の性質の話が出たのですけれども、被害者側、すなわち、挿入される側からして、今言ったような種別がそれほど大きな意味を持つのかということについては、私も疑問に思っているということを、一言申し上げたいと思います。
宮田委員は、強制性交等罪と強制わいせつ罪の二つを一つの罪にして、その中で、挿入行為があるものも、そうでないものも対処したらどうか、そのような考え方もあるのではないかという御意見だったと思うのですが、構成要件とそれに対する法定刑というのは、その行為の重さ、違法性の強さを示すという意味もありますので、法定刑の幅を広くして、その中で全部対処できるからいいということにはならないと思っています。
挿入を伴う行為と、そうではないわいせつな行為とでは、小西委員がおっしゃられているように、被害者に与える精神的苦痛に違いがあるということですので、やはり、これは分けるべきではないかと思います。
そして、侵襲の大きさとしては、物が挿入された場合であっても、陰茎が挿入された場合と異ならないと私は考えています。
実際の事件において、暗いところでの被害、目隠しをされての被害、それから、何が挿入されているのか分からない被害というのはあって、物と陰茎のどちらが挿入されたかが、被害後に本人に明らかとなったからといって、それによって侵襲の程度が大きく異なるのかというところがありますので、やはり、物が挿入された場合についても、陰茎が挿入された場合と同程度の侵襲性があると見て、現行の強制性交等罪の対象とすべきではないかと考えています。

(93)第4回議事録11頁(小島委員発言)。

○小島委員 電車の中の痴漢行為について、金杉幹事がおっしゃった件について確認なのですけれども、一般的に、痴漢というのは、言葉のイメージとしては、着衣の上から触ったりするというイメージなのですが、金杉幹事がお出しになった事例というのは、電車の中で、例えば、膣とか肛門に指を入れられた場合という例なのでしょうか。
○金杉幹事 はい、おっしゃるとおりです。
○小島委員 そうすると、電車の中で、膣とか肛門にいきなり指を入れられた場合について、今の強制性交等罪と同様の被害とは言えないという御主張ですね。
私は、膣とか肛門の中に身体の一部や物を入れる行為は、強制性交等罪と同じように考えていいのではないかと思います。
膣とか肛門に身体の一部や物を挿入されるということは、強制性交等罪と同じような身体への侵襲性があると思っており、被害が大きいと思うので、強制性交等罪と同様に処罰していいと思います。
電車の中で、皆の面前で被害に遭った場合は、苦痛が大きいと思います。


○齋藤委員 男性器を挿入された方にとって、指を挿入された被害と同じだと言われることは苦痛だという御意見もあったかと思うのですけれども、私が言っているのは、性暴力に関して、社会の捉え方自体が今までとても軽くて、性交という言葉を使っていたからかどうかは分かりませんけれども、異物の挿入であるとか、体の一部の挿入というのが大変軽視されてきたと思いますし、今のいろいろな委員・幹事の御発言を聞いていても、やはりすごく軽視されているのだという感覚を抱いております。


そうではなくて、それがすごく苦痛を与える行為なのだ、そもそも大変苦痛を与える行為だったのだということの認識を持っていただきたいと思っていますし、行為規範に関して、小西委員もおっしゃっていましたが、そもそも電車の中で膣に指を入れる行為は少なくないのですけれども、それが行為規範として軽いと思われていること自体がすごく問題ではないかと考えております。
○山本委員 一つは、医療者が医療行為と偽って性加害をするという状況を、きちんと捉えてほしいということがあります。
もちろん、正当な業務として行っている人がほとんどですけれども、そうでない場合に、なかなか訴えづらく、司法の中で適切に取り扱ってもらっていないという現状があります。
あと、私の理解であるので、少し解釈と合わないのかもしれないのですけれども、わいせつと言われることに関しては違和感があります。
それも、先ほどから齋藤委員が言われているように、性交というイメージにも引きずられているのかとも思うのですけれども、被害者にとっては、性的暴行という侵襲であって、性的な暴力であり、そういうわいせつな行為ということとは、余り関係がないような気がするのですね。
身体の一部又は物を挿入する行為を更に限定すべきというお話も出ましたけれども、それも、性交というイメージに引きずられていて、被害者にとって被害の本質は侵襲であり、セックスではないということを、余り理解していただけていないのかなとも思っています。
また、繰り返し、法定刑の下限が5年の懲役であることは重いと言われていますけれども、強盗罪の法定刑の下限が5年の懲役で、強制性交等罪の法定刑の下限が5年で、物や男性器以外の指や身体とかの挿入とかを強制性交等罪の対象とすると法定刑の下限が変わってくるとか変わってこないといった議論がされていますけれども、私たちにとっては、性的な侵襲であるということ自体で同じ被害と捉えますので、法定刑の下限が5年の懲役であることが重いということは全くないと思っています。
○小島委員 性交という言葉を使っていることが、やはり問題なのではないかと思います。
性交ではなくて、性的挿入とか、議題にありましたわいせつな挿入行為とか、そういうもっとぴったりな文言を、強制性交等罪の実態に合わせて考えていくことが必要ではないかと思います。

93) 第4回議事録3頁(小島委員発言)では、「膣・肛門への挿入は、身体の一部やいわゆる性具などの物の挿入も、強制性交等罪として処罰するということでよいのではないかと考えております。他方、口については、性器とは言えないので、口腔に挿入するものは性器に限るということで考えております。ですから、指や性具などの口腔への挿入は、強制性交等罪には当たらないと考えております。」と述べられている。同議事録6頁(佐藤陽子幹事発言)も同旨。

○小島委員
強制わいせつ罪の対象とされている行為の一部を、強制性交等罪の対象となる行為に格上げするということにつきましては、挿入される場所が、膣なのか、肛門なのか、口なのか、それから、挿入するものが、陰茎なのか、身体の一部なのか、性具などの物なのか、この3掛ける3の組合せがございます。現行法は、陰茎を膣・肛門・口腔に挿入する行為を強制性交等罪の対象となる行為としていますが、これと同等の当罰性があり、強制わいせつ罪から格上げする行為は何かということが、本件で問題になっております。
私は、挿入するものと挿入される場所のいずれか一方がいわゆる性器である場合について、強制性交等罪として処罰したらどうかと思います。身体への侵襲性という意味で、同等だと考えるべきだと思います。2017年改正では、口腔への挿入について問題になりましたが、陰茎、すなわち、性器の挿入であることから、強制性交等罪の対象とされました。そして、LGBTの方の性交を考えると、肛門については性器と言い得るのではないかと考えており、そうすると、膣・肛門への挿入は、身体の一部やいわゆる性具などの物の挿入も、強制性交等罪として処罰するということでよいのではないかと考えております。他方、口については、性器とは言えないので、口腔に挿入するものは性器に限るということで考えております。ですから、指や性具などの口腔への挿入は、強制性交等罪には当たらないと考えております。
法定刑は、いずれも強制性交等罪と同様に5年以上の懲役とすることを前提としており、先ほど山本委員が言われたように、中間的な類型を設けることについては反対いたします。
一方で、挿入させる行為については、挿入する行為とは身体の侵襲性に違いがあると考えると、現行法で処罰している性器を膣・肛門・口腔に挿入させる行為に加えて、膣・肛門に舌を入れさせる行為についてのみ、強制性交等罪に格上げしたらどうかと思います。舌を挿入させる行為というのは、指等の他の身体の一部を挿入させる行為と異なって、粘膜が接触するという意味で、身体の侵襲性が大きいからです。舌を挿入させる行為の法定刑は、挿入する行為と同様に、5年以上の懲役とすることを前提とします。この点は、感覚的な違いもあるのではないかと思っています。
膣・肛門に指を挿入させる行為は、限界事例かと思っております。

○佐藤(陽)幹事
性犯罪に関する刑事法検討会の議論と本日の委員の先生方の御意見を踏まえますと、仮に条文を新設するであれば、気を付けておかなければならないことが幾つかあると思いましたので、実際に条文を作る場合に、どのようなものが考えられるかといった形でまとめさせていただきたいと思います。
一点目は、性犯罪に関する刑事法検討会の議論で出ていたものなのですが、医療行為や介護の際に、他人の性器・肛門に指を入れるようなことがあり得ますので、性的性質に欠ける行為が構成要件の中に紛れ込まないように、挿入行為の中でもわいせつなものといった形で限定を掛けておくことが必要であると思います。
二点目として、行為者が被害者に挿入する行為と被害者に挿入させる行為とは、分けて規定することが必要であろうかと思います。つまり、先ほど、山本委員がおっしゃっていたことですけれども、例えば、行為者が被害者を脅迫して、自己の性器に性具を挿入させる行為は、被害者の性器に性具を挿入する行為と比較した場合、性的接触を強いられる侵害の程度が原則的に軽いと考えられることに留意しておかなければならないと思います。
小島委員がおっしゃっていた、舌を挿入させる行為をどうするかについては、別途検討する必要があると思っていますが、性器をなめる行為はどうするのかとか、なめさせる行為はどうするのかといった形で、たくさんの問題に派生してしまうようであれば、少なくとも今回の改正においては、挿入する行為だけに限るといった選択もあろうかと思うところでございます。
三点目として、挿入する行為の中でも、性器・肛門に身体の一部や物を挿入する行為には、性交等と同じぐらいの侵害性があるという点は、性犯罪に関する刑事法検討会においても、また、本日の議論においても、ある程度のコンセンサスの得られた御意見だと思われるのですが、口腔に身体の一部や物を挿入する行為については、なおそこまでのコンセンサスは得られていないと思っておりまして、その点に留意して条文を作っていく必要があろうかと思います。
私も、性犯罪に関する刑事法検討会では、口腔への物等の挿入も強制性交等と同じぐらい重いものがあると言いましたけれども、逆に言うと、そうではないものが多くあることも認識しておりまして、少なくとも口腔への物等の挿入については、強制性交等と全く同じ法定刑で規定するというのは、少し難しいと思っているところです。
以上の三点が留意点だと思っていまして、これらを前提にしますと、性交等を強いられたときに匹敵するような侵害を生じさせる行為としては、基本的に性器又は肛門に身体の一部又は物を挿入する行為であって、かつ、わいせつなものというようなことになろうかと思います。
ただ、身体の一部又は物を挿入する行為の中にも、重大なものから軽微なものまであるということは、多々指摘されているところでして、そのような反対の御意見を全く無視するわけにはいかないとも思っています。取り分け、物には様々な形状・性質のものがありますので、仮に身体の一部又は物を挿入する行為を性交等と同じ法定刑で規定しようと思った場合には、例えば、わいせつ目的で座薬を入れたとか、そういう場合が入らないように、何か更に絞る文言、思い付きですけれども、例えば、挿入する対象を手指といった身体の一部又は性具やそれに類似する物に限るなどして、ある程度の限定を付するか、あるいは対象となるものは絞らずに、法定刑の下限を下げる形で対応するという方法もあろうかと思います。法定刑の下限を下げる場合も、法定刑の上限は強制性交等罪と同じですので、重い類型は重く処罰ができ、場合によっては紛れ込む可能性のある軽い類型については軽く処罰ができるといった形になろうかと思います。
先ほど、齋藤委員が、心理的な傷に区別をつけることはできない、負担に区別をつけることはできないとおっしゃっており、それはそのとおりだと思うのですけれども、法定刑を定めるときは、行為態様も併せて考慮するというのが一般的かと思われますので、やはり行為態様の違いといったものも考慮に入れておく必要があろうかと思います。特に、前回の改正で、口腔性交や肛門性交が性交と並んで処罰されるようになったときに、量刑水準も同水準になったという研究がございます。今回の改正の際にも、仮に身体の一部又は物を挿入する行為を性交等と同じ法定刑で規定しようと考える場合には、それらの行為の量刑も、性交等と同水準になる可能性があることを考慮に入れて、どうすべきかというのを判断すべきと思っているところでございます。

(94) 第4回議事録6頁(佐藤陽子幹事発言)、第10回議事録35頁(浅沼幹事発言

○浅沼幹事 「試案」の趣旨として御説明いたしますけれども、処罰対象となる膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為は、現行法において強制わいせつ罪の「わいせつな行為」に該当するものであることが前提でありますが、膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為であっても、例えば、医療行為のように、行為の状況等も考慮すると性的性質がなく、わいせつな行為とはいえないものが含まれ得るため、そのような例外的な場合を構成要件の段階で処罰対象から除外するという趣旨で、この「わいせつなもの」ということを記載しております。

13歳未満との児童買春罪について(メモ)

こういう事案の児童買春罪の成否。
小学6年女子児童を買春した疑い 31歳の男を逮捕 SNSで知り合ったか(MBSニュース) - Yahoo!ニュース


https://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/20170309/1488703107
https://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2022/02/15/174233


 最近の刑法改正では児童側の性的同意能力が分析的に検討されているので、児童買春罪にも影響ありそうです。「13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。」というのであれば、対償供与約束能力もないのではないか。

法務省逐条説明
各条の第3項
(1)総説
自由意思決定を有効にすることができるための能力の内実は、

○行為の性的な意味を認識する能力(以下「意味認識能力」という。)
○相手方からの影響にかかわらず、性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処する能力(以下「性的理解・対処能力」という。)
と整理することができる。
その上で、これらの能力は、年齢とともに心身が成長し、社会的な経験を積み重ねることによって向上していくものと考えられるところ、子供の発達段階に関する調査・研究や若年者を対象とした意識調査の結果等を踏まえると、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は、早くとも16歳であると考えられる。
すなわち、16歳未満の者は、これらの能力の全部又は一部が十分でなく、有効に自由意思決定をする能力が十分に備わっているとはいえないため、有効に自由意思決定をすることが困難な場合があり、そのような場合には、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じ得ると考えられる。
第3項は、そのような場合における性的行為を処罰することとするものである。
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、
また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない
と考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8)。
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合
を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そして、そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない。

捜査研究876号
第5 刑法176条3項の構成要件
ここでは、性交同意年齢の問題を取り上げている。性交同意年齢とは、対象者の年齢だけを基準として性的同意を無効とする制度83)である。
従来の刑法176条後段は、13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。と規定し、13歳未満、つまり、12歳以下の者(おおむね小学生)であれば、有効な性的同意をすることはあり得ないという前提から、男性、女性を問わず、暴行等の手段を用いず、単に、わいせつな行為をしただけで、強制わいせつ罪が成立するとしていた。
したがって、12歳と13歳という年齢について、前者であれば無条件に強制わいせつ罪が成立したのに対し、後者であれば、暴行等により反抗が著しく困難になっていたかということが構成要件上求められるという大きな違いが生じていたのに対し、今回の改正で、その年齢を引き上げることにしたものである。具体的には、たとえ13歳以上であっても、16歳未満であれば、有効な性的合意がなされ得るとは考えられないとし、そのため、改正法では、16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。) も、第1項と同様とする。と規定している。
これは、先の13歳未満が16歳未満とされ、3歳分年齢が引き上げられたということである。その理由としては、「判断能力の未熟な青少年を法的に保護するとか、青少年の健全な育成を図るとか、年少者は年上の者に服従してしまいがちだとか、判断能力の浅薄さに付け込まれやすいということがあると思います。それから、何といっても、児童虐待の防止ということがあると思います。」84)などの事由が挙げられている。また、「性的行為をするかどうかに関する自由な意思決定をするために必要な能力の不足という観点から説明する」85)という見解も示されている。

83) つまり、「性交同意年齢というのは、実質的未熟さとか、そういうものを個別具体的に問う必要がない、問わないという前提で出来上がっている」(第9回議事録25頁(小島委員発言)) ものである。
84) 第6回議事録20頁 (小島委員発言)
85) 第8回議事録38頁(佐藤琢磨幹事発言)

83) つまり、「性交同意年齢というのは、実質的未熟さとか、そういうものを個別具体的に問う必要がない、問わないという前提で出来上がっている」(第9回議事録25頁(小島委員発言)) ものである。
84) 第6回議事録20頁 (小島委員発言)
○小島委員 私は、13歳未満とする現行法を16歳未満まで引き上げるという案に賛成いたします。その根拠と、処罰から除外する根拠について申し上げます。
B案というのは、16歳未満の者に対する性交は当罰性があるということを前提にして、政策的配慮をして、13歳以上16歳未満を一定の場合に処罰から解放するという案だと思います。16歳未満に引き上げる根拠について、判断能力の未熟な青少年を法的に保護するとか、青少年の健全な育成を図るとか、年少者は年上の者に服従してしまいがちだとか、判断能力の浅薄さに付け込まれやすいということがあると思います。それから、何といっても、児童虐待の防止ということがあると思います。児童の性的保護を社会の共有ルールにするのだということで、そういう意味では強いメッセージ性があるものだと思います。児童に対する性的搾取、児童に対する性的道具化の防止ということがあると思います。
基本構造ですが、13歳未満について一律処罰するというルールと、16歳未満について一律処罰するという基本構造は全く同じで、これまでの13歳未満についての一律処罰ルールを16歳未満まで引き上げるということだと考えております。いずれも、児童保護のため、対象者の個々の判断能力には立ち入らないというルールを基本にしております。13歳以上16歳未満は、では何で処罰から除外するのだということですけれども、年齢の近い者同士で、健全育成についてその危険があるとはいえないということ、強制の生じやすさというのが年齢差から起きるということ、判断能力の低さの不当利用も年齢が近いと起きにくいということだと思います。16歳未満で除外規定を設けないと、行為者もその相手方も、14歳以上であれば犯罪が成立してしまいます。
子供たちにNPOの関係で性教育をしている方に聴いたのですけれども、家庭に問題のある子供も、それであればこそ、相手を真剣に求めるということはあるとのことです。中学生同士については除外するべきである、そういう子供たちを両方犯罪にするというのはいかがかと思います。例えば、「僕たちは犯罪になるのか」と聞かれたときに、この線までは犯罪になるけれども、この線は犯罪ではないというような形で明確なルールが必要だと思うので、限定・除外要件については、行為者の年齢要件というのが明確ではないかと思います。年齢差要件だと、先ほど山本委員がおっしゃったように、設定するのが難しく、行為者の年齢要件を挙げるのが明確だと思います。ただし、16歳未満とした場合、初回の年齢が16歳未満なら処罰しないとしておかないと、15歳で付き合っていて、片方が16歳になった途端に駄目というのは妥当ではないので、初回の年齢要件というのも、入れた方がよいと思います。中学生同士は当然、除外するとして、中高生同士をどうするかというのは決断の問題で、私としては、今のところ、除外するのは中学生同士という感じを持っております。
刑法177条前段の強制性交等罪との関係なのですけれども、例えば、13歳の被害者に15歳の加害者が暴行を用いて性交をしたような場合は、刑法177条、178条の新規立法で個別対応するということになります。この点が分からないではないかということであれば、確認規定を入れて、「ただし、他の性犯罪の成立は妨げない」としておけばいいのではないかと思います

85) 第8回議事録38頁(佐藤琢磨幹事発言)
○佐藤(拓)幹事
対象年齢を引き上げる理論的根拠については、これまでの議論において、現行法上、13歳未満の者に対して性交等をすれば強制性交等罪を構成するとされているという根拠を、配布資料22に記載されているとおり、「性的行為をするかどうかに関する能力を欠くため、性的自由・性的自己決定権を侵害する」ことに求めた上で、その能力の内実を整理し直し、それを踏まえて検討するという視点が示されたと理解しております。そして、その能力の内実として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの三つの能力が検討対象となっていると考えております。このような検討の方向性は、現行法との関係でも、整合的な説明が可能ではないかと考えられます。能力の捉え方についても、これまでの議論において、異論はなかったように思われます。
そこで、このような考え方に沿って検討してみますと、13歳未満の者は、おおむね小学生の年次に当たり、一般的に性的な知識は乏しいと考えられますことから、「①」の能力を欠いていると見ることができる一方で、13歳になると、中学生の年次に入ることから、恐らく「①」の能力を一律に欠くと評価することは困難ではないかと思われます。これに対して、「②」及び「③」の能力は、「①」の能力が備わったからといって直ちに備わるものではないと考えられ、これらを含めて三つの能力が全て十分に備わる年齢は、13歳よりは上だということができるのではないかと思われます。仮にこのような考え方が、実態としても裏付けられるのであれば、それを根拠として対象年齢を引き上げることは、理論的にあり得るように思われます。
これに対して、若年者の「健全な育成を害する」ことを根拠として対象年齢を引き上げることについては、更に検討すべき課題があるように思われます。すなわち、仮に、現行法上13歳未満の者に対して性交等をすれば強制性交等罪を構成するとされている根拠として、「健全な育成を害する」ことが含まれていると考える場合には、現在でも、これを考慮した上で、13歳未満が対象年齢として定められていることとなりますが、「健全な育成を害する」ことがなぜ対象年齢を引き上げる根拠になるのかを説明する必要が出てくるように思われます。他方、仮に、現行法上、「健全な育成を害する」ことは考慮されていないと考える場合には、なぜ新たにこれを加えることとするのかについて、その根拠とともに説明をする必要が生じてくるように思われます。
もっとも、いずれにしても、「健全な育成を害する」ことのみを根拠として5年以上の懲役という重い違法性を根拠付けることは困難であり、配布資料22は正にそのとおりの形になっていますけれども、対象年齢を引き上げる場合には、性的行為をするかどうかに関する自由な意思決定をするために必要な能力の不足という観点から説明するほかないのではないかと考えております。

法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会
第8回会議配布資料22
補足的検討課題②
(第1-2 刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢を引き上げること)
〔補足的検討課題〕
1 客体となる者の年齢(以下「対象年齢」という)を引き上げる理論的根拠。
○現行法上、対象年齢の者に対して性交等をすれば、強制性交等罪を構成して処罰するとされている理由をどのように考えるか。
・性的行為をするかどうかに関する能力を欠くため、性的自由・性的自己決定権を侵害する
・健全な育成を害する
○現行法上の処罰理由を踏まえ、対象年齢を引き上げる理論的根拠は何か。
・性的行為をするかどうかに関する能力として、
①行為の性的な意味を認識する能力
②行為が自己に及ぼす影響を理解する能力
③性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力を要し、これらの能力を一律に欠く年齢を対象年齢とする
・健全な育成を害する年齢を対象年齢とする

法務省刑事局付梶美紗「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要(1)捜査研究877号
イいわゆる性交同意年齢の引上げ
改正前の刑法第176条後段・第177条後段においては、13歳未満の者に対して性的行為をすること自体が処罰対象とされていた。
これは、強制わいせつ罪・強制性交等罪が、性的自由・性的自己決定権を保護法益としており、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる能力がない場合には、暴行を受けるなどの意思決定に影響を及ぼすような状況がなかったとしても、性的行為をすること自体によって保護法益が侵害されると考えられるところ、13歳未満の者は、行為の性的な意味を認識する能力が欠け、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる能力がないとされたためであると考えられる。
もっとも、性的行為に関して有効に自由な意思決定をするための能力の内実としては、
○行為の性的な意味を認識する能力だけでなく、
○行為の相手方との関係において、行為が自己に及ぼす影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手方に対処する能力が必要であると考えられる。
その上で、これらの能力は、年齢とともに心身が成長し、社会的な経験を積み重ねることによって向上していくものと考えられ、心理学的・精神医学的知見を踏まえると、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は、早くとも16歳であると考えられる。
すなわち、
○13歳未満の者については、前者の能力が備わっておらず、有効に自由な意思決定をする前提となる能力が一律に欠ける
○13歳以上16歳未満の者については、前者の能力が一律に欠けるわけではないものの、後者の能力が十分でなく、相手方との関係が対等でなければ、有効に自由な意思決定ができる前提となる能力に欠けると考えられる。
そこで、改正法においては、
○16歳未満の者については、性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力が十分備わっているとはいえないことから、その者に対して性的行為をすること自体で処罰されることとなる年齢を「13歳未満」から「16歳未満」に引き上げつつ、
○13歳以上16歳未満の者に対する性的行為については、相手方との間に対等な関係がおよそあり得ず、有効に自由な意思決定をする前提となる能力に欠ける場合に限って処罰する観点から、当該13歳以上16歳未満の者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者を処罰対象とすることとされた(改正後の刑法第176条第3項及び第177条第3項)。

監護者と共謀して監護者でない者がわいせつ行為・性交した場合の、監護者わいせつ罪・監護者性交罪の成否について

 母親が知人と娘を性交等させるパターン
 大津地裁(監護者わいせつ)松江地裁(監護者性交)を観測しています。

松江の判決がDBに載りました。
被告人aは、非身分者なので、監護者性交罪の構成要件自体が実現されていないから、監護者性交罪は成立しないと主張すべきでしょうね。

lex/db
松江地方裁判所
令和5年9月27日刑事部判決
第2(令和5年2月28日付け公訴事実)
 被告人Aは、長女であるB(当時16歳)と同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、同人を現に監護する者、被告人a(以下「被告人a」という。)は、被告人Aの交際相手であるが、被告人両名は、共謀の上、Bが18歳未満の者であることを知りながら、被告人aがBと性交をすることを企て、令和5年1月2日から同月4日までの間に、前記被告人A方において、同人がBを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、被告人aがBと性交をした。 

(法令適用の補足説明)
 判示第2の事実に関し、関係証拠に照らせば、被告人aは、Bの監護者ではないものの、監護者(実母)である被告人Aに対し、被告人aとの性交に応じさせるためのBの説得等を要求するなどし、それに応じた被告人AがBの説得等を行うなどしたことにより、被告人Aと共謀の上でBとの性交を実現した事実経過が認められる。このように、本件事案は、被告人aが、客観的に、被告人AがBを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてBと性交をしたもので、前記働きかけに当たって監護者の影響力を認識してこれを利用する意思であったことも明らかであるから、被告人aについて、前記のとおり、刑法65条1項を適用した。

松原芳博「身分犯の共犯をめぐる諸問題」研修第904号
Ⅳ非身分者の行為に対する身分者の関与
報道によれば、令和5年9月27日、松江地裁は、交際相手Yの10歳代の娘Aと性交した男Xに監護者性交等罪(令和5年改正前の刑法179条2項)で有罪を言い渡したとのことである。Xは、Aの監護者には当たらないが、Aの監護者であるYに対してAとの性交を要求し、YがAにその要求を伝え、Xと性交するよう説得したことから、刑法65条を適用してYとの監護者性交等罪の共同正犯とされたもののようである(注27)。
同罪における監護者たる地位は、構成的身分であり違法身分であることから刑法65条1項の適用領域に属する事情であるところ、本件では、性交等の主体であるXが非身分者であることから、非身分者の実行行為に身分者が関与した形になっている点が問題となる(注28)。
これに対して、身分者による非身分者の行為への関与という問題は、狭義の共犯においてのみ生じるものであって、主従の関係のない共同正犯では生じえないという見方もあろう。しかし、刑法65条1項の身分は一般に構成要件該当行為(実行行為)との関係において意味を有すると考えられるところ、共謀共同正犯において実行行為者が非身分者の場合には、身分者との間に共謀があっても、身分と実行行為との間の有意な結び付きを欠くため、当該犯罪の基本的構成要件(当該犯罪の予定する不法類型)を充足していないことがありうるように思われる。
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監護者性交等罪についても、刑法179条2項の文言ならびに立法過程で想定されていたと考えられる事例からみて、性交等の相手が監護者であることの影響力により同意が不任意となる状況を類型化したものであって、監護者自身が性交等を行うことを予定した犯罪類型(監護者と被監護者との性交等を構成要件的結果とする犯罪類型)であると解すべきではないだろうか。本罪の成立には監護者としての影響力が及んでいる状態で性交等を行えば足り、影響力を及ぼすための具体的行為を要しないと解されている(注32)のも、性交等の相手方が監護者であることを前提とするものといえる(注33)。性交等の相手が監護者であることを要しないとすると、監護者が被監護者に売春をさせたような事例でも、監護者と客との間に共同正犯の関係が認められる限りで本罪の成立を肯定することになるであろうが、そのような事例は本罪の予定するところではないように思われる。
(注32)立案担当者の解説として、松田哲也=今井將人「刑法の一部を改正する法律について」法曹時報69巻11号(2017年) 251-252頁参照。
(注33)仮に性交等の相手が監護者でない事例を本罪に含むと解した場合、そのような事例においては監護者による具体的な影響力の行使の立証が必要となろう。しかし、本罪は類型的に有効な同意が欠ける場合を想定するものであるから、具体的な影響力の行使が問題となる場合には、具体的状況下における同意の不存在ないし不任意性に注目する不同意性交等罪(本件当時であれば準強制性交等罪)の成否を検討すべきではないだろうか。

松川哲也,今井将人「刑法の一部を改正する法律について」法曹時報69巻11号
(ウ) 身分犯
本罪の主体は, 18歳未満の者を監護する者という一定の身分を有する者に限られており, 本罪は身分犯である。
そのため、身分のない共犯者が身分のある者に加功した場合, すなわち,例えば, 18歳未満の者を現に監護する親とその知人とが共謀の上, 18歳未満の者を現に監護する親であることによる影響力があることに乗じて,両者がそれぞれ実行行為に及んだ場合はもとより,いずれかが18歳未満の者に対しわいせつな行為に及んだ場合であっても,刑法第65条第1項が適用され,監護者わいせつ罪の共同正犯が成立し得る。
行為
(ア) 本罪の行為は,現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をすることである。
18歳未満の者を現に監督し, 保護している者が,依存・被依存ないし保護・被保護の関係により生ずる監護者であることによる影響力を及ぼしている状態で, 監護者に依存し, 保護されている被監護者に対して行われたわいせつな行為は,精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の被監護者が自由な意思決定をすることができない状態の下で行われたわいせつな行為であることから,被監護者の性的自由ないし性的自己決定権を害するものであるといえる。
他方,監護者が18歳未満の者にわいせつな行為を行った場合であっても,当該行為時において監護者がその影響力を及ぼしている状態であると認められない場合には,当該わいせつな行為が18歳未満の者の性的自由ないし性的自己決定権を害するものであるとまではいえない。
そこで,本罪では,監護者が18歳未満の被監護者にわいせつな行為を行っただけでなく, 18歳未満の者に対する 「現に監護する者であることによる影響力」 が一般的に存在し,かつ,当該行為時においてもその影響力を及ぼしている状態でわいせつな行為を行うことを要することとし, 「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」 わいせつな行為をしたことが要件とされたものである。
(イ)「現に監護する者であることによる影響力」の意義
本罪における 「影響力」とは, 人の意思決定に何らかの作用を及ぼし得る力をいう。
「現に監護する者であることによる影響力」とは,監護者が,被監護者の生活全般にわたって, 衣食住などの経済的な観点や生活上の指導・監督などの精神的な観点から,現に被監護者を監督し, 保護することにより生ずる影響力である。
したがって,本罪の 「現に監護する者であることによる影響力」には, 特定のわいせつな行為を行おうとする場面における, その諸否等の意思決定に直接影響を与えるものだけではなく, 被監護者がわいせつな行為に関する意思決定を行う前提となる人格,倫理観,価値観等の形成過程を含め, 一般的かつ継続的に被監護者の意思決定に作用を及ぼし得る力が含まれる。
(ウ)「乗じて」の意義
「(現に監護する者であることによる影響力があること)に乗じて」とは, 「現に監護する者であることによる影響力」 が一般的に存在し,かつ,当該行為時においてもその影響力を及ぼしている状態でわいせつな行為をすることをいう。
「乗じて」といえるために, わいせつな行為に及ぶ特定の場面において, 影響力を利用するための具体的な行為を行うことは必要なく, 影響力を及ぼしている状態でわいせつな行為を行ったことで足りると考えられる。
すなわち, 「現に監護する者であることによる影響力」 には, 特定のわいせつな行為を行おうとする場面における, その諾否等の意思決定に直接影響を与えるものだけではなく,被監護者がわいせつな行為に関する意思決定を行う前提となる人格, 倫理観、価値観等の形成過程を含め,一般的かつ継続的に被監護者の意思決定に作用を及ぼし得る力が含まれるところ, 18歳未満の者を現に監護している者は,通常,当該18歳未満の者に対し, このような影響力を及ぼしている状態にあるといえ, わいせつな行為を行う特定の場面において, 監護者がこの影響力を利用する具体的な行為を行っていない場合であっても,このような一般的かつ継続的な影響力を及ぼしている状態であることから、被監護者にとっては、その影響力を離れて自由な意思決定ができない状態にあるのが通常である。
(注8)
そして, 18歳未満の者を現に監督し, 保護している者が,このような影響力を及ぼしている状態で、 当該18歳未満の被監護者に対してわいせつな行為を行えば,それ自体, 当該影響力により被監護者が自由な意思決定をすることができない状態に乗じてわいせつな行
為を行っていることに他ならない。
よって, 「乗じて」といえるために, わいせつな行為に及ぶ特定の場面において, 影響力を利用するための具体的な行為を行うことは必要ないと考えられる。
(注9)
もっとも,このような影響力が一般的に存在していても、具体的なわいせつな行為が,監護者の影響力と無関係に行われたと認められるような場合には,当該行為時においては,監護者がその影響力を及ぼしている状態でわいせつな行為を行ったとはいえず, 影響力があることに 「乗じて」 行ったとは認められない。

「自殺願望や希死念慮等のある女性であればたやすく性交等に応じてもらえるなどと考え、」「 誘拐して同人と性交等しようと考え」というわいせつ目的誘拐罪と、青少年条例違反(淫行)は牽連犯だが、誘拐罪と児童ポルノ姿態をとらせて製造罪とは併合罪とした事例(横浜地方裁判所令和5年8月29日)

「自殺願望や希死念慮等のある女性であればたやすく性交等に応じてもらえるなどと考え、」「 誘拐して同人と性交等しようと考え」というわいせつ目的誘拐罪と、青少年条例違反(淫行)は牽連犯だが、誘拐罪と児童ポルノ姿態をとらせて製造罪とは併合罪とした事例(横浜地方裁判所令和5年8月29日)

 わいせつ誘拐罪の「わいせつ」は、刑法176条のわいせつよりも広い概念で、売春させる目的なども含みます。
 青少年条例の関係でも、裸体撮影行為はわいせつ行為です。
 山口地裁h21.2.4は、わいせつ誘拐と製造罪を牽連犯とします。
 東京高裁r5.10.12は、侵入と製造罪について、犯人の主観面で目的手段の結果であることを重視して牽連犯を認めています。

横浜地方裁判所令和5年8月29日
【罪となるべき事実】
第1 A事件
(第1の犯行に至る経緯)
 被告人は、令和4年9月19日、自殺願望や希死念慮等のある女性であればたやすく性交等に応じてもらえるなどと考え、ソーシャルネットワーキングサービス「Twitter」上に「死にたい。」、「監禁してください。」などと投稿していたAに対し、「本気ですか。」などとメッセージを送信するなどし、同人と知り合った。
1(訴因変更後の令和4年11月7日付起訴状記載の公訴事実第1に係るもの)
 被告人は、A(当時13歳)を誘拐して同人と性交等しようと考え、令和4年9月19日から同月20日までの間、東京都内、埼玉県内又はその周辺において、同人に対し、自己のスマートフォンを使用して、「俺のものになろうか。」、「私の家においでよ。」などとメッセージを送信するなどして自己の下に来るように誘惑し、Aにその旨決意させ、同月20日午後5時頃、東京都千代田区α×丁目×番×号βビルディング前路上において、同人と合流し、同人をさいたま市γ区δ×丁目××番地×εビル×××号室被告人方に連れ込み、その頃から同月23日までの間、Aを同所に寝泊まりさせるなどして自己の支配下におき、もってわいせつの目的で人を誘拐した上、Aが18歳未満の青少年であることを知りながら、同月21日午後7時30分頃から同日午後8時15分頃までの間に、前記被告人方において、専ら自己の性欲を満たす目的で、Aと性交し、もって青少年に対し、淫らな性行為をした。
2(令和4年11月16日付追起訴状記載の公訴事実に係るもの)
 被告人は、A(当時13歳)が18歳未満の児童であることを知りながら、令和4年9月21日午後7時44分頃から同日午後8時3分頃までの間に、前記被告人方において、Aが被告人の陰茎を口淫する姿態及びAに被告人と性交する姿態をとらせ、これらを被告人が使用する動画撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、その動画データ2点をb株式会社が管理するオンラインストレージサービスである「c」に使用されるサーバコンピュータに送信して記録させて保存し、もって児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。

【法令の適用】
罰条
判示第1の1の所為
わいせつ誘拐の点 刑法225条
条例違反の点 埼玉県青少年健全育成条例28条、19条1項
判示第1の2の所為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項1号
判示第1の3の所為 刑法202条前段
判示第2の所為 刑法224条
科刑上の一罪の処理
判示第1の1 刑法54条1項後段、10条(1罪として重いわいせつ誘拐罪の刑で処断)