児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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結婚詐欺とか、詐欺買春の事例は、不同意性交にはならないようだ(捜査研究)

結婚詐欺とか、詐欺買春の事例は、不同意性交にはならないようだ(捜査研究)
 法案の逐条説明の解説が出てきました。

https://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2023/08/26/083717
刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】
3各条の第2項
性的行為が行われるに当たって、その相手方に何らかの錯誤が生じている類型については、同意の前提となる事実の認識を欠くものの、当該行為を行うこと自体について外形的には同意が存在するという特殊性があり、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」にあったかどうかで犯罪の成否を区別することとした場合には、犯罪の成否をめぐる評価・判断のばらつきを生じさせることとなりかねないことから、第1項に含めるのではなく、別途規定することとするものである。
その上で、相手方に錯誤が生じている類型の中には、その錯誤があることによっておよそ自由意思決定が妨げられる性質のものと、そうでないものが混在するため、それらを区別せずに包括的な形で規定した場合には、強制わいせつ罪・強制性交等罪として処罰すべきとはいえないものが処罰対象に含まれることとなり、相当でない。
そこで、強制わいせつ罪及び強制性交等罪の保護法益である性的自由・性的自己決定権が侵害されたといえる場合、すなわち、自由意思決定が妨げられたと一般に評価できる錯誤のみが処罰対象となることを明確にする観点から、第2項においては、
○その誤信があれば、自由意思決定が妨げられたといえる類型、すなわち、
・行為がわいせつなものではないとの誤信がある場合(注6)
・行為をする者について人違いがある場合(注7)
を限定的に列挙し、
○「その他これらに類する行為により同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」又は「その他これらに類する事由によりその状態にあることに乗じて」との包括的要件を設けない
こととしている。
なお、第176条第2項及び第177条第2項の「行為」は、いずれも行為者が行い、又は行おうとしているわいせつな行為又は性交等、すなわち、実行行為を指すものである。
(注6)行為がわいせつなものでないとの誤信があった場合には、被害者は、「行為」には同意しているものの、それが「性的」なものであるとすれば、そのような「性的行為」には同意していないのであるから、その意味で「性的行為をするかどうか」についての自由意思決定があったとはいえず、その誤信を利用して性的行為を行った場合、一般に性的自由・性的自己決定権の侵害が存するといえる。
(注7)行為をする者について人違いがある場合には、被害者は、その相手方との性的行為には同意していないのであるから、その意味で「誰と性的行為をするか」についての自由意思決定があったとはいえず、その誤信を利用して性的行為を行った場合、一般に性的自由・性的自己決定権の侵害が存するといえる。

捜査研究No.876 (2023.9.5)
性犯罪規定の大転換~令和5年における刑法および刑事訴
訟法の改正の解説~(前)
昭和大学医学部教授(薬学博士) ・警察大学校講師
最高検察庁検事
城祐一郎

第4 刑法176条2項の構成要件
ここでは、行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
と規定している。
これは被害者を欺同してわいせつ行為を行う場合などについて規定したものである。
ここでは、犯行の手段として、「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じ」ることと規定されているが、ここでも柱書の部分と連携して読むことで、4通りの犯罪成立の場合が規定されていることが分かる。
それは、
①行為がわいせつなものではないとの誤信をさせることにより、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせて、わいせつな行為をした場合
②行為をする者について人違いをさせることにより、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせて、わいせつな行為をした場合
③被害者において行為がわいせつなものではないとの誤信をしていることで、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした場合
④被害者において行為をする者について人違いをしていることで、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした場合
の4つである。
これは今までの強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪が、その実行行為としての手段について、暴行、脅迫や、意識不明にするなどの手段、いわば強行的なものを対象としていたところ、この条文により、それらの手段にとどまらず、欺岡行為による場合や、欺岡に陥ってしまっている状態を利用する場合をも対象にしたものである。
そもそも、審議会では、偽計・欺岡を手段とする場合を一般的に不同意わいせつ罪等に含めることも検討されていたところ、「「偽計・欺岡」については、例えば、お金を払って性交をするという契約、約束で性交をしたのだけれども、お金を払うつもりがないのに、あるいはお金を払う能力がないのに、お金を払いますと言って性交等をしたという場合も、拒絶する意思を形成することが困難であるということはいえると思います。
そういう場合に、民事の債務不履行という問題でなく、それが犯罪になるということでよいのか。あるいは、「自分が社長である」、『お金を持っている』、あるいは『交際をする」、|結婚をする」と言うことも「偽計・欺岡による誤信」に当たり得るのではないか、抵抗する意思を形成することが困難ということがいえるのではないかという問題意識もあります。そういたしますと、処罰されるべきでない、当罰性がそれほど高いとはいえない行為が(中略)適切に除外されないのではないかという問題意識があります。」80)との指摘や、「「偽計・欺間による誤信」について、この『偽計・欺罔』には、様々な態様や程度のものがあり得まして、拒絶困難に直結するものも、拒絶困難とはいえないものもあり得るのではないかと思われます。」、「例えば、成人に対して婚姻意思を偽って性交した場合などのように、多くの人から見て処罰の対象とすべきでないものや、処罰の対象とすべきかどうかについて現時点では必ずしも意見が一致するとは限らないものも含まれ得るというようになるかと思います。」と指摘し、「その上で、純粋に欺岡や誤信としてどのようなものを捉えるべきかについてですけれども、強制性交等罪や強制わいせつ罪は、性的行為を行うかどうか、誰を相手として行うかについての自由な意思決定を保護法益としていると考えられますところ、誤信で問題となる類型のうち、例えば、被害者が行為を医療行為と誤信している場合のように、行為の性的な意味を誤信している場合については、性的行為を行うかどうかの意思決定をするそもそもの前提を欠くことになります。
また、被害者が行為の相手方について人違いをしている場合については、行為の実際の相手方と性的行為を行うかどうかについて被害者が正しく判断するそもそもの前提を欠くことになると思われます。
そうすると、これらの類型については、性的自由、性的自己決定に対する法益侵害があるということが明らかだと思われます。
加えて、これらの類型は、現行法の下でも抗拒不能として刑法178条により処罰の対象となると解されており、当罰性があるということには異論はないと思われるところです。
そこで、これらの類型については、要件に該当する場合には直ちに拒絶困難といえる類型として、他の列挙事由とは別に取り扱うというようなことも検討してよいのではないかと思われました。」81)との指摘から、このような形で独立した条文とされたものである。
つまり、「被害者が何らかの事情について誤信して性行為に及んだ場合については、常に同意を無効として性犯罪の成立を肯定するのではなく、例えば治療のために必要であるとだますなど、わいせつなものではないとの誤信、また、相手を夫と誤信するような人違いの場合に限って、性犯罪の成立を肯定しています。
ここでは、性行為を行う際の誤信、誤解といっても多様なものがあり得るところ、その中には性犯罪として罰すべきではないものも含まれていることから、性的意思決定をする上で重要な事実について誤信している場合に限って犯罪の成立が肯定されています」82)ということである。
その意味で、ここでは、性的行為をするに当たって錯誤が生じている場合のうち、その錯誤があることで、性的行為に対する自由な意思決定が妨げられたという場合を限定的に列挙したものである。

かすがい外し~住居侵入+強制わいせつ罪(176条後段)+姿態をとらせて製造罪で逮捕されて、強制わいせつ罪(176条後段)+姿態をとらせて製造罪で起訴されて有罪になった事例

かすがい外し~住居侵入+強制わいせつ罪(176条後段)+姿態をとらせて製造罪で逮捕されて、強制わいせつ罪(176条後段)+姿態をとらせて製造罪で起訴されて有罪になった事例
 オッサンがいきなり児童の寝室に現れてわいせつ行為と製造行為をやったみたいになってる。
 侵入罪を起訴すると、侵入罪と強制わいせつ罪(176条後段)は牽連犯になるとして、製造罪と侵入罪との罪数処理がよくわからないので、起訴しないことがある。かすがい現象になっているかもしれないので、弁護人は指摘して欲しいな。処断刑期が10年か13年かという重大問題です

女児にわいせつ行為の疑い
2018.03.30 朝刊 24頁 静岡版 (全255字) 
 ○○署は二十九日、住居侵入と強制わいせつ、児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで、容疑者を再逮捕した。
 逮捕容疑は昨年十月四日午後四時半ごろ、県東部に住む女子小学生宅の敷地内に侵入。女児が十三歳未満と知りながらわいせつな行為をしたり、携帯電話で女児の下半身を撮影したなどとされる。
中日新聞社

「性犯罪についての捜査資料から被害者の少女数人の体の画像をスマホで撮影」する行為は、児童ポルノ製造罪には当たらない。

 製造していることは間違いないわけですが、立法者解説では、所定の目的(提供・陳列)もなくただ複製行為するだけというのは製造罪に当たらないと説明されています。
 こっそり複製しているので「ひそかに製造罪(7条5項)」になるように読めますが、

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
7条5項
前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

 判例(最決r1.11.12)は、一次製造者(撮影者)が、複製(二次製造)した場合にのみひそかに製造罪になるとしています。この判例はそう読むのです。

判例番号】 L07410103
       児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持被告事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷決定/平成31年(あ)第506号
【判決日付】 令和元年11月12日
【判示事項】 ひそかに児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させて児童ポルノを製造する行為と同法7条5項の児童ポルノ製造罪の成否
【判決要旨】 ひそかに児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させて児童ポルノを製造する行為は,同法7条5項の児童ポルノ製造罪に当たる。
【参照条文】 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2-3
       児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7-2
       児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7-5
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集73巻5号125頁
       裁判所時報1735号2頁
       判例タイムズ1471号18頁
       判例時報2441号61頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 法学セミナー65巻6号110頁
       刑事法ジャーナル64号117頁
       ジュリスト1549号97頁
       ジュリスト1570号135頁
       論究ジュリスト35号226頁
       判例時報2467号157頁
       警察公論75巻11号193頁
       警察公論76巻4号84頁
       法曹時報73巻5号1007頁
       警察学論集74巻9号147頁

       主   文

 本件上告を棄却する。

       理   由
 弁護人奥村徹の上告趣意のうち,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条5項の規定について憲法21条1項違反をいう点は,児童ポルノ法7条5項が表現の自由に対する過度に広範な規制であるということはできないから,前提を欠き,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,ひそかに児童ポルノ法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させて児童ポルノを製造する行為は,同法7条5項の児童ポルノ製造罪に当たると解するのが相当である。
 これと同旨の原判断は正当として是認できる。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 木澤克之 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 山口 厚 裁判官 深山卓也)

判例タイムズ1471号18頁
 3 5項製造罪と同じように製造手段が限定されている児童ポルノ法7条4項の製造罪(児童に全裸姿態等をとらせ,これを記録媒体等に描写することにより児童ポルノを製造する罪。以下「4項製造罪」という。)においても,本件と同様,二次的製造行為について同罪が成立するか否かという問題があり,4項製造罪に関する立法関与者の解説では,複製は除外されるとの見解が示されていた(森山眞弓ほか編著『よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法』100頁,島戸純「『児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律』について」警察学論集57巻8号96頁)が,最高裁第三小法廷平成18年2月20日決定・刑集60巻2号216頁,判タ1206号93頁は,「法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録にかかる記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為は,法7条3項の児童ポルノ製造罪に当たる」として,3項(現4項)製造罪の成立を認める判断を示した。
 5項製造罪においても,4項製造罪と同様,複製の問題が生ずることが予想されたところ,立法関与者の解説を見ると,5項製造罪は,手段の限定がされているため,盗撮により製造された児童ポルノを後に複製する行為は,基本的に本条項の処罰対象ではないと考えられるが,少なくとも,撮影者本人による「製造」として予定される一連の行為までもが5項製造罪の対象から除外されるものではないと考えられるとの見解が示され,平成18年判例が紹介されている(坪井麻友美「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」法曹時報66巻11号57頁)。

https://news.livedoor.com/article/detail/24978984/
50代の検察事務官の男は性犯罪についての捜査資料から被害者の少女数人の体の画像をスマホで撮影し持っていた疑いが持たれている。
画像は男が現在とは違う部署で担当していた性犯罪の捜査資料にあったものとみられていて、調べに対し男は容疑を認めているという。

前科隠して採用された報道 DBS関係

前科隠して採用された報道
 記事検索でヒットするのはこれくらい。
 教員は、公務員の欠格になるが、不徹底だった。
 ベビーシッターとか塾講師は免許もなく、前科による欠格もないので、フリーパスだった。
 

2017年、教え子ら5人にわいせつ行為をした愛知県知立市の小学校臨時講師の男が、埼玉県の小学校教諭だった4年前にもわいせつ事案で逮捕され、処分歴を隠して再採用されていたことが発覚。読売新聞

最近でも今年6月、女子児童への強制わいせつ容疑で逮捕された福井県坂井市の小学校教諭の男は、15年前にも別の女児の胸を触り、自宅待機になっていたが、同市教委は把握していなかった。読売新聞

それは、2008年から埼玉県の臨時教員として県内6中学校で勤務していた男性だった。04年に勤務校の女子中学生と交際したとして、三重県教委が懲戒免職処分にした男性教員の名前と同じだったのだ。三重県教委からの回答で生年月日が一致した。本人に確認すると、過去の処分歴を認めたため、埼玉県教委は3月末にこの男性教員を懲戒免職処分にした。毎日新聞

強制わいせつの前歴隠し就職 強盗の高校教諭
1985.11.25 朝日新聞
教諭は58年3月、神奈川県で強制わいせつで逮捕され、懲役1年、執行猶予3年の判決を受けており、地方公務員法で、執行猶予期間が過ぎるまで地方公務員採用試験を受けることができないのに、これを隠して教員になっていたことがわかった。

中3との性的行為が、青少年条例違反で検挙されたり、不同意性交罪で逮捕されたり

 観念的競合になるんですかね。青少年条例は刑法の補完だから、刑法が適用される場合には、条例は引っ込むんじゃないでしょうか

 16歳未満と知りつつ、18歳未満と知りつつ、自分が5歳以上年上であることを知りつつ、と多段階で年齢認識が問われます。
 「16歳未満と知っていた」というのは、自白に頼ることが多いので、黙秘させるか、警察が信じるタナー法では15歳と16歳の裸体を見分けることはできないので、それを逆手にとって、「陰毛もありました」「ボインでした」とかと説明させることになるでしょう。

(不同意性交等)
第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
・・・
法務省の解説
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていないと考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8

https://www.fbs.co.jp/fbsnews/news96cb189pgtfrn8ct7y.html
未成年と知りながら女子中学生にみだらな行為をしたとして、福岡県久留米市の自称飲食店店長の男が逮捕されました。

福岡県青少年健全育成条例違反などの疑いで逮捕されたのは、住居不詳で、自称・飲食店店長の容疑者(23)です。

警察によりますと容疑者は、久留米市内のホテルで7日午前、未成年と知りながら、福岡県内に住む15歳の女子中学生とみだらな行為をした疑いです。

ことし6月、容疑者の店に女子中学生が、客として来たことで2人は知り合ったということです。

警察の調べに対し容疑者は「年齢は知らなかった」と話し、一部容疑を否認しています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2e1e544dee050a687ca9de333e31395c6e2793a2?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20230908&ctg=loc&bt=tw_up
中3女子と“みだらな行為” 不同意性交などの疑いで23歳男を逮捕 「年齢は知りませんでした」 福岡県
9/8(金) 11:24配信
TNCテレビ西日本
福岡県久留米市内のホテルで7日、女子中学生とみだらな行為をした疑いで、23歳の男が逮捕されました。

不同意性交などの容疑で逮捕されたのは、住所不詳で自称・飲食店店長の容疑者(23)です。
警察によりますと、容疑者は7日、久留米市内のホテルで被害者が16歳未満で、自分が5歳以上年上であることを知りながら、女子中学生とみだらな行為をした疑いです。
女子中学生の母親から相談を受け、行方を探していた警察が、ホテルの前で容疑者ら2人を発見し事情を聞いたところ事件が発覚。
女子中学生は、容疑者が働く居酒屋で知り合ったとみられています。
警察の調べに対し容疑者は、「年齢は知りませんでした」などと容疑を一部否認しており、警察で詳しく事情を聴いています。

「売春類似行為(神奈川県迷惑行為防止条例9条1項5号)」とは「男性が対償を受け、又は受ける約束で、不特定の男性と性交類似行為をすることをいう。

 売春防止法は、「性交」ですが、条例では「男性との性交類似行為」を規制しています。

売春防止法
第二条(定義)
 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。
第三条(売春の禁止)
 何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。

神奈川県迷惑行為防止条例
第 9 条 何人も、公共の場所において、不特定の者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(5) 売春類似行為をするため、客引きをし、又は客待ちをすること
・・・
神奈川県迷惑行為防止条例逐条解説(2014年月)
「売春類似行為」
男性が対償を受け、又は受ける約束で、不特定の男性と性交類似行為をすることをいう。
(14) 「客待ち」
相手方の申込みを待っている状態をいう。必ずしも一定の場所に止まっている必要はなく、たたずんで待っている場合はもちろん、うろついて相手方を物色している場合もこれに当たる。
周囲の状況ないし行為者の様子から、ゞその者が男娼行為をする意思があり、その相手方を求めている又はその相手方となる者を物色している者であることが、客観的に認められれば足りる。

news.yahoo.co.jp

日本版DBS制度では初犯対策も万全?

 DBSでは排除できない初犯の性犯罪を判例DBから挙げてみました。
https://okumuraosaka.hatenadiary.jp/archive/2023/09/05保育士・ベビーシッター・教員・コーチによるわいせつ事件では、前科前歴が指摘されていないこと - 児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)
 結構、件数も多くて刑期も長い事件が多いのですが、これはDBSでは排除できませんから、リスクは変わりません。
 

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/dad0dc91-2c00-482d-8c53-6d90d4cde6a5/8534e9a4/20230905_councils_kodomokanren-jujisha_dad0dc91_02.pdf
「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」
報告書(案)

もっとも、本件確認の仕組みの対象は飽くまで一定の性犯罪歴を有する者に限られることから、何ら性犯罪歴を有しない者がいわゆる初犯に及ぶことを防止し、こどもの安全の確保をより確実なものとするためには、そのための他の措置についても併せて取り組む必要がある。
この点、本会議において紹介された文部科学省警察庁及びこども家庭庁における各種取組のほか、本年7月には、性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議及びこどもの性的搾取等に係る対策に関する関係府省連絡会議の合同会議において「こども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージ」が取りまとめられ、こどもや若者の性被害防止対策の強化について、加害を防止する強化策、相談・被害申告をしやすくする強化策及び被害者支援の強化策という3つの柱に基づき具体的な施策の推進が掲げられたところであり、このほか、仮に保育所等において性的虐待があった場合に相談することができる窓口を明確にするなどといったことを含めて総合的に取り組んでいくことが必要である。

「再犯率」は,犯罪により検挙等された者が,その後の一定期間内に再び犯罪を行うことがどの程度あるのかを見る指標

再犯率」は,犯罪により検挙等された者が,その後の一定期間内に再び犯罪を行うことがどの程度あるのかを見る指標

https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/n63_2_5_1_1_4.html
犯罪白書h28
コラム 犯罪統計における「再犯」とは?-再犯率再犯者率の違い-
再犯は,一般に,一度罪を犯した者が再び罪を犯すことをいうが,犯罪統計においては,再犯に関連する指標が,その目的に応じて異なる意味・内容で用いられている。ここでは,誤解を招きやすい「再犯率」と「再犯者率」の違いについて説明した上で,「再犯率」の意味を正確に理解する上で重要なポイントについても考えてみたい。

まず,「再犯率」は,犯罪により検挙等された者が,その後の一定期間内に再び犯罪を行うことがどの程度あるのかを見る指標である。これに対し,「再犯者率」は,検挙等された者の中に,過去にも検挙等された者がどの程度いるのかを見る指標である。「再犯率」が,いわば将来に向かってのものであるのに対し,「再犯者率」は,過去に遡るものであると考えると分かりやすい。

次に,「再犯率」の意味を正確に理解するのに重要なポイントについて考えてみる。再犯率に関する調査では,調査の目的に応じて,<1>「何をもって(刑事手続のどの段階で)再犯とみなすのか」,<2>「どのような集団を対象に調べるのか」,<3>「いつからいつまでの期間を調べるのか」といった観点の違いがあるため,同じ「再犯率」という言葉が用いられていても,その意味するところや数値は異なってくる。<1>の再犯の定義については,例えば,出所後に新たに犯した罪により,再び検挙されること,再び有罪判決を受けること,再び刑事施設に収容されることなどがあり,どれを基準とするかにより「再犯率」の意味は異なってくるし,数値も変わってくる。また,罪名を問わず,再び罪を犯せば再犯とみなすのか,同一又は同種の罪名の繰り返しに限定するのかによっても,「再犯率」の数値は変わってくる。<2>の調査対象とする集団については,例えば,窃盗によって初めて検挙された者のみを対象とした場合と,窃盗によって2回以上受刑し,刑事施設を出所した者のみを対象とした場合とでは,調査対象の犯罪性向の強さが異なることから,「再犯率」も異なると予想される。そのため,「再犯率」という言葉を用いる場合には,どのような集団を対象にした数値であるのかを明らかにする必要がある。<3>の追跡期間については,期間をどれだけ長く設けるかによって「再犯率」の数値が増減する。また,罪名によって再犯までの期間には長短があることが指摘されているところ,罪名ごとに,出所後のどの時期に再犯が集中しているのかを詳細に検討することは,再犯防止に向けた対策を考える上でも有用である。

いずれにせよ,現実には,刑事手続の各段階で収集されるデータには制約があるため,入手することができた各種資料の範囲内において再犯状況を探るほかない。犯罪白書では「再犯率」の一つの指標として「2年以内再入率」や「5年以内再入率」を用いており(詳細は本章第3節参照),これらは,ある年の刑事施設出所者のうち,出所後の一定期間内に,新たな罪を犯して刑事施設に再入所した者がどの程度いるかを把握するものである。

再犯率」や「再犯者率」は,どちらも再犯の実態を把握する上で重要な概念であるものの,その意味するところは異なり,その数値を読み解く上では正確な理解が求められる。このように,再犯に関連する指標を用いる際には,その定義や計算方法について的確に把握しておくことが欠かせない。

法務総合研究所研究部室髙橋哲「再入率の分析と今後の課題」法律のひろば 第70巻1号
再犯をめぐる指標について
再犯は、一般に、一度罪を犯した者が再び罪を犯すことをいうが、犯罪統計では、再犯に関連する指標が、その目的に応じて異なる意味・内容で用いられている。再犯防止に向けた対策を考える上で
は、再犯に関する様々な指標を眺めながら現状をつぶさに分析する必要があるが、その前提として、指標の定義やそれを解釈する上での留意点が共有されていないと建設的な議論となりにくいように思われる。そこで、平成28年版白書では、新たにコラム(白書210頁参照)を設 け、混同されやすい「再犯率」と「再犯者率」の違いや、「再犯率」を計算したり解釈したりする際の様々な観点を紹介していることから、本稿でも、具体的な数値の紹介の前に簡潔に触れておく。
まず、「再犯率」は、犯罪により検挙等された者が、その後の一定期間内に再び犯罪を行うことがどの程度あるのかを見る指標である。これに対し、「再犯者率」は、検挙等された者の中に、過去にも検挙等された者がどの程度いるのかを見る指標である。「再犯率」が、いわば将来に向かってのものであるのに対し、「再犯者率」は、過去に遡るものであると考えると分かりやすい。

児童ポルノ提供1件の事案で、編集行為を主張して懲役1年6月を求刑した事例(静岡地裁r5.2.17)

 2項提供罪だと思いますが、1件だと普通は罰金です。
 編集行為は目的製造罪(4項)で、提供罪とは併合罪の関係にあるので、編集行為を処罰したいのであれば、製造罪も起訴しておく必要があります。

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
2児童ポルノを提供した者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
静岡地判令和5年2月17日D1-Law.com判例体系〔28310966〕
判決文
■28310966
静岡地方裁判所
令和05年02月17日
 上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官風間康宏及び弁護人増田健二(国選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
主文
1 被告人を懲役1年に処する。
2 未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
3 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

理由
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、令和元年12月6日頃、茨城県B市内又はその周辺において、Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、Cに対し、A(氏名は別表記載のとおり。撮影当時の年齢は16歳)の入浴中の全裸の姿態等が記録された動画データ1点を記録したUSBメモリ1個を提供し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを提供した。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)省略
(量刑の理由)
 本件は、被告人が、知人に児童ポルノを提供した事案である。
 本件児童ポルノは、前記知人から提供を受けた児童の入浴中の姿態を記録した動画に、児童の氏名や制服姿の写真など児童の特定に繋がる情報や児童を辱める性的な文言を挿入するなどの編集を施したものを保存した記録媒体であり、その内容は、児童の心身を傷つけ、その健全な育成に悪影響を及ぼす悪質なものである。また、動画データとして保存された児童ポルノの性質上、提供先から児童ポルノが拡散し、更に児童の権利が侵害される危険性を内包している点も見過ごすことはできない。被告人は、前記知人との交友を続けるために、提供された盗撮動画に前記編集を施し、本件児童ポルノを提供することを拒めなかったというが、被告人が述べる経緯や動機に酌むべき事情はなく、その意思決定は厳しい非難に値する。
 ところで、検察官は、被告人が、児童を明確に特定した上で、その性的羞恥心を著しく侵害し、その人格を貶める編集を施した動画を第三者に交付した点で、本件は類似事案とは明らかに態様を異にし、同種事案の中でも極めて悪質な部類に属する旨主張する。検察官は、本件児童ポルノの内容の悪質さに加え、被告人がその悪質さを作出する編集行為に及んだ点を犯情において重視し、これを前提に、同種事案の中では重い懲役1年6月の求刑をしたものと解される。しかし、本件は、あくまでも児童ポルノの提供1件からなる事案であるところ、被告人が前記編集行為に及んだ点を犯情において重視し、同種事案の中でより重く処罰することは、被告人が児童ポルノの製造に当たり得る行為に及んだ点を実質的に処罰する趣旨で量刑上考慮するものであり、首肯できない。検察官の求刑は重いといわざるを得ない。本件の法定刑及び被告人の前科関係を踏まえた事案の軽重並びに刑の公平性を考慮すると、主文程度の刑の執行を猶予することが相当である。そのほか被告人が事実を認めたことなど被告人のために酌むべき一般情状も考慮した。
(求刑 懲役1年6月)
刑事第1部
 (裁判官 鈴木悠)

保育士・ベビーシッター・教員・コーチによるわいせつ事件では、前科前歴が指摘されていないこと

d1-law 横浜地裁   H28.7.20 懲役26年     ベビーシッター (量刑の事情)
 量刑上最も重い犯罪である殺人罪についてみると,その犯行態様は,体重が100kgを超える被告人が,2歳児であるIの鼻口部を少なくとも3分から5分間にわたって手で塞ぎ続けるなどというものであって,両者の体格差は歴然としており,現場が逃げ場のない密室内であったことにも照らして,抵抗は不可能に近く,凶器を使用していなくても,生命に対する危険性の高いものであったといえる。しかも,かなり強い力で数分間にわたって塞ぎ続けるという態様から,突発的に生じた犯行であるとはいえ,強固な殺意に基づくものと認められる。以上によれば,本件犯行態様は同種事案と比較してやや悪質といえる。そして,Iが僅か2歳の幼さで将来を奪われたことは誠に痛ましいというほかなく,結果が極めて重大であることはいうまでもない。Iらの母親は,自身も被告人にだまされてIらを誘拐され,その末に大切な子の死に接することとなったのであり,その悲しみは察するに余りあり,この点も被害結果として考慮すべき事情といえる。
 本件殺人の動機は不明であるものの,その経緯についてみると,被告人は,わいせつな行為をするためにIらを誘拐し,自らの意思でIらを自己の支配下に置いた上,その目的どおりにIに対してわいせつな行為に及んだのみならず,最終的にはIを殺害するに至ったのであり,正に犯罪の上に犯罪を重ねたのであって,非常に強い非難に値する。
 次に,わいせつ誘拐の態様は,まず代役を確保してから実行に着手するなど計画的である上,別人を装ってIらの母親に接触し,預ける相手が被告人ではないように偽装するなど非常に巧妙である。また,Iに対する強制わいせつの態様も,痛々しいもので悪質である。そればかりか,被告人は,Iと一緒に誘拐したHに対する保護責任者遺棄致傷の罪をも重ねており,自分で空腹を満たすことができない生後9か月の乳児が泣いているにもかかわらず,約12時間という長時間放置しておくことは危険というほかない。実際にHの生命に重大な危険を及ぼすおそれのある低血糖症等に陥らせているのであって,救急搬送されたHがその日のうちに回復したことを考慮しても,結果を軽視することはできず,強く非難されるべきである。
 また,一連の強制わいせつ致傷,強制わいせつ,児童ポルノ製造事件は,ベビーシッターの立場を悪用し,親の信頼を裏切った上,抵抗できない多数の乳幼児らに対し,常習的に行っていたという点で非常に悪質というほかない。その態様は,ひもやガムテープを用いてわいせつな行為を行うなど陰湿であり,それにより被害児童が受けた苦痛はもとより,今後心身の成長に与える影響も懸念されるのであって,犯情として相当悪いというべきである。
 以上によれば,本件は殺人罪1件を中心とする事案の中で非常に重い部類に属するというべきであるが,殺人には計画性がなく,殺人を想定して誘拐したものでもないことなどからすると,最も重い部類に属するとまではいえない。
 その他の事情についても検討すると,被告人は,不合理な弁解をして真摯に事実と向き合っておらず,反省の情は乏しいといえる。加えて,L医師は,被告人が小児性愛障害を有すると指摘し,その治療は被告人がこれを否定している状況下ではより困難が予想される旨述べていることなどからすれば,小児に対する性犯罪に限っては再犯のおそれを否定できない。
 他方,被告人の父親の支援を受けて,強制わいせつ致傷等の被害者F,強制わいせつ等の被害者B及びA,E並びにGに対して被害弁償が一部なされていることは,被告人の有利に考慮すべき事情ではあるが,考慮する程度には限度がある。また,被告人が今後子供に関わる仕事はしない旨供述していることや,被告人の両親がそれぞれ被告人の更生に協力する旨述べていることは被告人の改善更生を期待させる事情として,僅かではあるが有利に考慮した。
 以上の事情を総合考慮すれば,検察官の無期懲役の求刑は重すぎるといわざるを得ないのであり,主文掲記の量刑をしたものである。
 (求刑―無期懲役及びスマートフォン等の没収)
 (裁判長裁判官 片山隆夫 裁判官 大森直子 裁判官 西沢諒)
d1-law 東京地裁   R4.8.30 ###     ベビーシッター (量刑の理由)
 本件は、保育士の資格を有し、児童養護施設職員やシッター、児童キャンプのボランティアスタッフという立場にあった被告人が、その立場を利用して、各犯行当時5歳から11歳の被害者20名に対し、被害者の陰茎を被告人の口に入れたり、被告人の陰茎を被害者の口に入れたりして口腔性交し、性具を用いて又は就寝中で抵抗できない被害者に対してその陰茎を弄ぶなどした強制性交等22件及び強制わいせつ14件、並びにその様子をスマートフォンで動画撮影して電磁的記録媒体に保存した児童ポルノ製造20件からなる事案である。
 一連の上記犯行は、いずれも、被害者らを指導し、信頼される立場を利用し、被害者らの性的知識の未熟さに付け込んだ悪質なものであり、約4年4か月にわたり同種犯行を繰り返していて、常習性も顕著に認められる。一部の被害者は、本件被害の意味を認識し、多大な肉体的及び精神的苦痛を現に味わっているところ、幼少で被害の意味を十分に理解していない者を含め、今後の被害者らの健全な成育への悪影響も強く懸念される。しかるに、被害者らに対する慰謝の措置はとられておらず、保護者らが厳罰を望むのも当然である。
 以上によれば、本件は、同種事案の中でも、被害者の人数及び犯行の件数が際立って多い上、犯行態様も悪質であって、特に犯情の重い事案である。同種事案の量刑傾向を踏まえると、被告人が、反省、謝罪の弁を述べていること、性依存症の治療に取り組み、再犯防止に努める旨誓約していること、姉や元雇用主が被告人を支援する意向を示していること、被告人には前科がないことなどの酌むべき事情を十分考慮しても、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑 懲役25年、主文同旨の没収)

刑事第1部

 (裁判長裁判官 古玉正紀 裁判官 水越壮夫 裁判官 竹内瑞希
d1-law 東京地裁   R2.10.30 3年   執行猶予 ベビーシッター (量刑の理由)
 被告人は、派遣されたシッターとして、被害児童と緊密な関係にあることを奇貨として、いまだ幼い被害児童に対して、身体の中で最もプライベートな部分である陰部を直接触るというわいせつな行為に及んだものである。犯行態様は、卑劣かつ巧妙で、被害児童の保護者の信頼を裏切り、シッター業全般の信頼性をも揺るがしかねない悪質なものである。被害児童は、現時点において既に被告人に対する嫌悪感を明らかにしており、今後成長するに伴って更なる悪影響がないか懸念されるところであり、被害結果は重大である。被害児童の父母は、その意見陳述において、本件被害による家族への影響を述べるとともに、被害児童に対する心配の気持ちを切実に述べており、示談成立後も被告人に対する適正な処罰を望んでいることも当然である。シッター業務を始めて、児童と1対1の関係になったことなどから、女児に対し性的な興味を抱くようになり、本件各犯行に及んだという動機や経緯に酌むべき点はない。
 そうすると、計画性までは認められないとしても、被告人の刑事責任は相当に重い。
 他方、示談金250万円を支払った上、被害児童の両親との間で、被告人の厳罰は望まない旨の文言を含む示談が成立していること、被告人の母が情状証人として出廷し、今後親として最大限の協力をしていく旨述べていること、被告人が各事実を認めて、反省文を書き、子供に関わる仕事はしない旨述べ、保釈中に性障害について専門医療機関のアセスメントを受け、今後は、専門医療機関で治療を受けることを約束するなどして、反省する態度や更生の意欲を具体的に示していること、被告人には前科前歴はないことなど被告人のために酌むべき事情も認められる。
 以上の事情を総合考慮して、被告人に対しては、主文掲記の刑を科した上、今回は、社会内での更生を図ることとするが、本件事案の性質・内容及び被告人の更生環境等に鑑みて、被告人の更生及び再犯防止の観点から、保護観察を付して刑の執行を猶予することが相当であると判断した。
(求刑 懲役3年)
d1-law 静岡地裁 沼津 R5.2.3 5年 6月   保育士 (量刑の理由)
1 本件は、保育士である被告人が、勤務先保育園の2歳から5歳の女子園児18名に対して、約1か月の間に、着衣を脱がせて陰部や臀部等を露出させ、うち8名についてはそれらを直接指で触った上、その様子を動画撮影して児童ポルノを製造したという事案である。
2 被告人は、被害児童らが通う保育園の保育士という本来被害児童らを保護するべき立場にあったにもかかわらず、その立場を悪用し、安全であるべき保育園内において、被告人の行為の意味を理解できず、抵抗や逃れる術のない幼い被害児童らに対して、自己の性的欲求の赴くままわいせつ行為と児童ポルノ製造を繰り返したものであって、卑劣極まりない犯行であり、常習性も顕著である。わいせつ行為の程度についても、被害児童らの陰部等を露出させて撮影した上、それらに直接触れるという行為も多数含まれることからすれば、軽いとは評価できない。そうすると、暴行脅迫を用いていないことを踏まえても、本件の犯行態様の悪質性は非常に高いというべきである。
3 被害結果をみるに、被害児童らの年齢に鑑みれば、現時点では被害の意味を正しく理解できていないと考えられるが、将来の被害児童らの健全な成長に悪影響を与える可能性が懸念されることからすれば、被害結果は大きいというべきである(この点につき、被害児童らが低年齢であることをもって、精神的苦痛が小さく、ひいては被害結果が小さい旨をいう弁護人の主張は採用できない。)。そして、本件では、そのような被害を被った被害児童の数は18名と、この種事案としても著しく多数に上っているのであるから、本件の重大性は明らかである。被害児童らの保護者らが一様に被告人の厳罰を望むのも至極当然である。
  なお、弁護人は、被告人が撮影した被害児童らの画像が外部に流出していない点を有利な事情として主張するが、上記のような被害結果の重大性を大きく減じるような事情とは認められない。
4 幼児を自己の性的欲求のはけ口としたという本件の犯行動機は、身勝手というほかないのであって酌量の余地はなく、被告人の意思決定は厳しく非難されるべきである。
  なお、弁護人は、被告人が小児性愛という生来的な性質を有すること、被告人の勤務先が保育園という性的対象となる女児が多く性的誘惑の多い環境であったことから、被告人に対する非難可能性は小さい旨主張する。しかしながら、被告人が自認するところによっても、被告人は自身の性的嗜好を相応に認識した上で、あわよくば園児によってその性的嗜好を満たそうという意図を内心に秘めて、保育士の資格を取得したというのであり、実際にも令和4年6月6日に本件保育園で勤務を開始した翌日には早くも本件犯行に着手している。また、犯行の態様も、他の職員がいない機会を捉え、防犯カメラの位置を把握し、その視界外を犯行場所に選ぶなどして巧妙に犯行を繰り返し、犯行終盤には、犯行に及んだ女児と犯行未了の女児を名簿で管理した上で、犯行未了の女児を狙っている。このような経緯及び犯行態様によれば、背景に被告人の小児性愛という問題があったことを踏まえても、被告人は、本件において、自身の性的嗜好の充足という目的に向けて、一貫して合理的、合目的的に自身の行動をコントロールしていたと認められる。また、職場環境の問題をいう点も、上記経緯に照らせば、被告人は、自身の性的嗜好を満たすべく意図的に女児と接することのできる職業、職場を選び、進んで身を置いたことは明らかである。そうすると、弁護人の主張を踏まえても、被告人に対する非難を有意に減少させるような事情があるとは認められない。
5 以上によれば、本件の犯情は非常に悪質であり、被告人の刑事責任は誠に重いというべきである。そうすると、被告人が事実関係を認めた上で反省の言葉を述べ、保釈後に小児性愛について通院を開始し、相応に濃密な治療プログラムを受けるなど被告人なりの再犯防止の努力を始めていること、情状証人として出廷した被告人の父親が監督を誓約していること、被告人に前科はないことその他弁護人が指摘する被告人に有利な一般情状を考慮しても、刑の執行を猶予するのが相当でないことはもとより、刑期の点でも相当長期間の服役は免れないと判断した。
(求刑・懲役6年)

刑事部

 (裁判官 室橋秀紀)
d1-law 松江地裁   R5.3.22 4年     保育士 (量刑の理由)
 本件は、当時、幼稚園教諭であった被告人が、その園児や卒園児である女児6名に対し、延べ12回にわたって、下着の上から陰部を撫でるなどした強制わいせつ12件、及びこの6名を含む11名の女児に対し、常習としてその着用する下着等を36回にわたり撮影した島根県迷惑行為防止条例違反の事案である。
 本件により、被害児やその保護者に多大な嫌悪感、不安感を与えたもので、被害児の保護者らの処罰感情にも厳しいものがある。被害児の多くは、現時点では自分のされたことの意味を理解していないかもしれないが、今後の成長につれ、その意味を真に理解する時期が来ると、今以上に辛い思いをさせ、その健全な成長に悪影響を及ぼすことすら懸念される。
 また、こういった犯行を繰り返したことで、本件幼稚園だけではなく幼稚園全体に対する信頼をも失墜させかねない面があることも見過ごせない。
 もとより、自己の性的欲求を満たすという犯行動機等に酌量の余地など微塵も認められない。
 被告人は、自身が幼い女児を性的な対象としてみている自覚がありながらあえて幼稚園教諭となり、本件幼稚園に就職してからは園児らが自身を慕い、信頼していることに乗じ、教諭の立場を悪用して本件幼稚園内や通園バス内等において本件のような犯行を重ねていたというのであるから、その犯行は卑劣かつ大胆で悪質というほかなく、被告人自身の性癖に根差すこの種の犯行の常習性も顕著であるといわなければならない。
 総じて、本件犯情は悪質というほかない。
 そうすると、強制わいせつの態様がいずれも下着の上から陰部やその付近を触るといったものであること、一部の被害児の保護者に対し、相応の弁償金を払い、受け取ってもらっていること、これまでに前科もなく、事実関係をすべて認めて謝罪の弁を述べ、今後は加害者向けの心理治療プログラムを受け続ける意向を示し、反省の態度を示していること等の事情を考慮しても、本件については主文の実刑が相当である。
(求刑-懲役6年)
d1-law 大分地裁   R5.2.20 3年 6月   保育教諭 (量刑の理由)
 被告人は、保育教諭として勤務する傍ら、同僚の目を盗み、性欲の赴くまま、就寝中で無抵抗の園児の陰部を露出させた上で陰部を手指で弄んだり(判示第1)、撮影したり(判示第2)するなどのわいせつ行為に及び、また、園児が行為の性的意味を理解していないことに乗じてその下着姿を撮影したもので(判示第3)、卑劣で身勝手な犯行というほかないし、性的好奇心を満たすため児童ポルノの製造(判示第2)や所持(判示第4)に及んでもおり、児童を性的に搾取することに対する抵抗感がみじんも感じられない。
 わいせつ行為を受けた園児ら(判示第1、第2)は就寝中で被害に遭ったことを認識していないとしても、将来何かの機会に被害を認識した際に受けるであろう衝撃の大きさは、被告人に懐いていたことも相まって計り知れない(下着を撮影された園児〔判示第3〕については就寝中でもない。)。被告人のことを信頼して大切な子供を預けていた保護者らが、裏切られたというやり場のない怒り、悲しみ、苦しみを抱き峻烈な処罰感情を有するのも当然である。
 そして、本件各犯行は、平成31年から令和4年にわたり、保育教諭の職責を果たすどころかその立場を悪用してなされたもので、常習性も明らかであって、保育の制度や現場に対する安心感を強く損なうものとして、厳しい非難に値するというべきである。
 弁護人が指摘するように、本件よりも程度や態様が悪質と評価されるわいせつ行為が存在することや、本件の児童ポルノに関連するデータ等が拡散されたわけではないことは否定されないし、被告人も園児の性器内への侵襲行為は行わないなど被告人なりの線引きをしていたようではあるが、既に一線を大きく超えた上での相対評価の話であって、上記非難の程度が減じられるものでもない。
 そうすると、被告人の刑事責任は重く、被告人に前科前歴がないこと、情状証人として父親が出廷し被告人の今後の更生支援を行う旨誓約していること、被告人が事実を認め、謝罪文の作成も含め反省や後悔の態度を示していることなど有利に斟酌し得る事情を踏まえても、主文の実刑は免れない。
(求刑 懲役4年6月)
d1-law 岡山地裁 倉敷 R3.1.22 1年 6月 執行猶予 学童保育施設支援員 (量刑の理由)
 本件わいせつ行為は、抵抗困難な状況の被害者に対し、相応の時間にわたって、被告人の着衣の上からその陰茎部分に触れ続けさせたものであり、その態様はかなりよくない。被害者は本件犯行により相応の精神的衝撃を受けたと見られる上、それにより将来への悪影響が懸念されることも看過できない。被告人は、判示施設の支援員としての職務に当たり、女子児童への距離が近すぎるなどとの指導を受けてきたというのに、同施設利用者に対する本件犯行に至ったもので、被告人のこの種の行動に対する規範意識の在り様には疑問がある。
 本件の犯情はよくなく、被告人の刑事責任を軽く見ることはできない。
 しかし、被告人は、弁護人を介して、被害者側との示談を成立させ、被害者の保護者は、被告人への厳しい処罰は望まない旨の意思を示した。そして、被告人は、その認識の範囲内においては事実関係を認め、謝罪と反省の言葉を口にした上、今後は児童への福祉や教育の現場から離れて稼働するとの意思を示し、被告人の父は、当公判廷に出廷し、同人の認識に基づいて被告人を監督していく旨誓約した。加えて、被告人に前科はない。
 以上によれば、被告人に科すべき懲役刑については、その執行を猶予する情状があるものと判断した。
d1-law 横浜地裁   R3.9.6 ###     保育士 (量刑の理由)
1 犯情について
(1) まず、本件の量刑判断の中核となる判示第1~第5の各強制わいせつについて検討する。
  被告人は、保育士として、平成26年1月から平成27年3月までの間はW保育園に、平成30年から令和元年11月までの間はY保育園に勤務していたものであるが、判示各強制わいせつは、被告人が、平成26年8月から平成31年4月までの間に、W保育園の園児である被害者A(当時4歳又は5歳)に対し6件、卒園後の被害者A(当時6歳)に対し2件、Y保育園の園児である被害者B(当時3歳)に対し2件、同保育園の園児である被害者C(当時3歳)に対し1件と、約4年8か月の間に合計11件もの強制わいせつに及んだものである。
  幼い園児等を狙って多数回繰り返された常習的な犯行である上、犯行態様も、現行刑法では口腔性交に該当する口淫や被害者の陰部に自己の陰茎を押し当てるなど性交と紙一重のものなど、強制わいせつの行為態様の中でほぼ上限と見得る強度のわいせつ行為が含まれてもいることから、悪質性は甚だしいというほかない。ことに、被告人は、一部の犯罪事実を除いて、前記のとおり保育園の保育士という立場にあり、園児を保護すべき職責を担っていたにも関わらず、従前から密接な関係にある園児等が被告人を信頼していることに乗じ、当時勤務していた保育園内という園児の安全が保障されるはずの場所において、抵抗力の乏しい幼児に対し強制わいせつに及ぶなど卑劣さは際立っており、加えて、わいせつ行為の際に犯行状況を撮影してもいるから悪質性は一層顕著であって、厳しい非難を免れない。
  年少の被害者らが本件各強制わいせつによって受けた精神的肉体的被害も重大であって、今後、犯行の意味を理解した際に受けるであろう精神的苦痛にも深刻なものがあると思われる。このことからも犯行結果の重大さが裏付けられている。
  被告人は、被害者らに恋慕の情を抱いて将来の結婚相手と考え、早くから性行為に慣れさせるためわいせつ行為に及んだ旨を供述する。その内容自体甚だ不自然不合理なものというほかないが、この供述を前提にしても、犯行動機は、結局は身勝手なわいせつ目的によるものであって、当然ながら酌量の余地などない。
  以上によれば、判示各強制わいせつにかかる犯情は甚だしく悪いというほかなく、被害者の保護者らが被告人に対する厳罰を求めるのも至極当然である。
(2) さらに、判示第6(未成年者略取)については、オンラインゲームで知り合った当時9歳の被害者をその手足をガムテープで巻いて段ボール箱に押し込むなどして自動車で連れ去り約2日間にわたって支配下に置き、被害者及びその両親に多大な精神的苦痛を与えたものであるから、計画性はなく、被告人は最終的には被害者を帰宅させようと考えていた等の弁護人の指摘を踏まえて検討しても、犯情は決して良くないのであって、両親の処罰感情が厳しいのも十分理解できる。
  また、判示第7(児童ポルノである電磁的記録媒体を内蔵したパソコン所持)についても、被害者Aに対する強制わいせつ事件の際に撮影した動画データを自慰の際に視聴するため所持していたものであるから、やはり犯情は悪い。
(3) そして、関係証拠によれば、以上の各犯行、特に判示各強制わいせつ及び判示第7については、被告人の幼児に対する異様な執着、特異な性的嗜好を背景とする根深い犯罪傾向に基づいて敢行されたものであることがうかがわれ、この点からも犯情の悪さが一層裏付けられている(なお、検察官が園児らに対する多数のわいせつ行為や願望が記載されたと主張する「系譜」と題する書面(甲95)について検討すると、関連性や証拠収集の適法性等の点を含めて証拠能力に問題はないから、証拠排除を求める弁護人の主張は理由がないが、他方で、検察官の論告における各指摘を十分に踏まえて検討しても、被告人が供述するように妄想や創作的要素を相当程度混在させて作成されたとの疑いは排斥しきれず、結局、上記「系譜」から検察官が指摘する被告人の性的嗜好や性癖、性的願望等を直ちに推認できるとまではいい難い。)。
  なお、被告人は、園児らに対する判示各強制わいせつにとどまらず、これとは異なる態様の女児に対する犯罪(判示第6)に及ぶに至るなど犯罪傾向の拡大も懸念される。
(4) 以上によれば、被告人の刑事責任は誠に重大といわなければならない。
2 一般情状について
  被告人は、当初、年少者に対するわいせつ行為を処罰することへの疑問、強制わいせつ行為に及んだ理由に関する独自の見解等を述べており、自らが犯した判示各犯行に真に向き合っているのか疑問もないではないが、相当長期間にわたり身柄を拘束されて反省の機会を与えられ、公判期日においては、判示の各事実自体については認めて被告人なりの反省の言葉を述べた上、今後、専門のクリニックに継続的に通院し小児性愛に関する治療を受け、二度と今回のような犯罪に及ばない旨を述べてもいるから、その限度では斟酌すべき事情があると見ることが可能である。
  また、被告人は、判示強制わいせつの被害者2名(A、B)に対して合計300万円の(弁15、16)、判示未成年者略取の被害者Dに対して300万円の各被害弁償をしており(弁14)、各犯行の罪質に照らして考慮できる程度は限られているとはいえ、量刑上無視できない額の被害弁償がされたことは間違いないのであって、それ以外の被害者Cにも被害弁償の申入れをするなど被害弁償に努めている点を含めて、被告人のために一定程度斟酌すべき事情があるといえる。
  以上に加えて、被告人には本件の量刑上考慮すべき前科がないこと、被告人の実母が情状証人として出廷し、母親としての責任を痛感し今後の指導監督を行う旨述べていることなど、被告人のために考慮し得る一般情状も認められる。
3 結論
  以上の一般情状は認められるとはいえ、既に指摘したとおり、本件の刑事責任が誠に重大であることに照らせば、被告人については主文の懲役刑は免れないと判断した。
(求刑・懲役15年、主文同旨の没収)

第2刑事部

 (裁判官 青沼潔)

(別紙1) (省略)

(別紙2)
westlaw 津地裁   R4.11.4 3年     教諭 (量刑の理由)
 本件は、小学校低学年の児童2名に対して、それぞれパンツの中に手を入れ、手指で陰部を弄んだという強制わいせつ事件であり、そのうちの1件は被告人が被害児童の担任であった当時の犯行である。陰部を直接手指で弄ぶという態様は悪質で、被害児童らの性的な知識が未熟であることにつけ込む卑劣な犯行であり、その手口等からして常習性がうかがわれる。被害児童らは、本来、信頼してよいはずの学校の先生に性的自由を大きく侵害されており、その精神的苦痛の大きさは計り知れない。実際に、Aは、事件のことを思い出すこと等から転校を余儀なくされ、Cは、被害の意味が徐々に分かってきて、学校に通えなくなっている。被害者らの成長に深刻な影響を与えたことが強く懸念される状況にあり、各被害児童の保護者が被告人の厳罰を求めるのは当然である。
 以上に加え、被告人は被害児童らに何ら慰謝の措置をとらず、反省の態度がみられないことに照らせば、被告人に前科前歴がないことなどの被告人に有利な事情を最大限考慮しても、執行猶予を選択する余地はなく、主文の実刑が相当であると判断した。
 (検察官岡安広生、藤田琴花、私選弁護人(主任)出口聡一郎、松本浩幸各出席)
 (求刑―懲役6年)
 令和4年11月7日
 長崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 潮海二郎 裁判官 芹澤俊明 裁判官 吉澤孝)
 
westlaw 前橋地裁 太田 R5.2.7 3年   執行猶予 塾講師 (量刑の理由)
 本件は、被告人が、自らが経営するプログラミング教室の生徒であった僅か10歳の被害者の陰茎を触るなどした強制わいせつの事案である。被告人は、男子児童に性的なことも教えてあげたいという気持ちなどから、被害者の心情を顧みずに本件犯行に及んでおり、その動機は身勝手極まりない。被告人は、自らの塾講師としての立場を利用して、指導すべき対象の塾生に対して本件犯行を敢行しており、その手口は卑劣である。犯行態様は、被害者のズボンと下着を脱がせ、被害者の陰茎を直接手で触ったり、陰茎に電動マッサージ機を当てるなどしたものであって悪質である。被害者は、事件後、被害現場付近に近づくことに嫌悪感を示し、被告人に対する恐怖を口にするなど、肉体的な苦痛を被ったのみならず、その精神的苦痛は大きく、将来のある被害者の成長過程に影響を与えることが懸念され、被害者の実母が被告人の厳重処罰を望むのも当然である。これらの事情を考慮すると、被告人の刑事責任は重い。
 一方、被告人の犯行は、前記のとおり、非難の程度は大きいものではあるが、被害者に強度の暴行や脅迫は加えてはおらず、本件犯行の態様や結果、同種事案の量刑傾向を踏まえると、本件が刑の執行を猶予することが許されない事案であるとまではいえない。そして、被告人が本件犯行を認めて反省の弁を述べていること、被告人の母が当公判廷において被告人の身元引受けを誓約していること、被告人に前科前歴がないことなど、被告人のために酌むべき事情が認められる。そこで、被告人に対しては、主文の刑に処した上で、猶予期間を最長の5年間としてその執行を猶予するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役3年)
 前橋地方裁判所太田支部
 (裁判官 竹村友里)
westlaw 長崎   R4.11.4 3年   一部無罪 教諭 (量刑の理由)
 本件は、小学校低学年の児童2名に対して、それぞれパンツの中に手を入れ、手指で陰部を弄んだという強制わいせつ事件であり、そのうちの1件は被告人が被害児童の担任であった当時の犯行である。陰部を直接手指で弄ぶという態様は悪質で、被害児童らの性的な知識が未熟であることにつけ込む卑劣な犯行であり、その手口等からして常習性がうかがわれる。被害児童らは、本来、信頼してよいはずの学校の先生に性的自由を大きく侵害されており、その精神的苦痛の大きさは計り知れない。実際に、Aは、事件のことを思い出すこと等から転校を余儀なくされ、Cは、被害の意味が徐々に分かってきて、学校に通えなくなっている。被害者らの成長に深刻な影響を与えたことが強く懸念される状況にあり、各被害児童の保護者が被告人の厳罰を求めるのは当然である。
 以上に加え、被告人は被害児童らに何ら慰謝の措置をとらず、反省の態度がみられないことに照らせば、被告人に前科前歴がないことなどの被告人に有利な事情を最大限考慮しても、執行猶予を選択する余地はなく、主文の実刑が相当であると判断した。
 (検察官岡安広生、藤田琴花、私選弁護人(主任)出口聡一郎、松本浩幸各出席)
 (求刑―懲役6年)
 令和4年11月7日
 長崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 潮海二郎 裁判官 芹澤俊明 裁判官 吉澤孝)
 
westlaw 宮崎 延岡 R4.2.25 3年   執行猶予 教諭  (量刑の理由)
 本件は,教師である被告人が,その生徒である被害児童に対し,自己の陰茎を露出して見せつけ,近付けるなどし,強制わいせつに及んだ事案である。
 被告人は,スリルを味わいたい,被害者の反応を楽しみたいといった身勝手な理由で,前記のとおり,被害児童がその場から離れることが心理的に困難な状況を利用し,長時間にわたって,自己の陰茎を執拗に見せつけ,近付けるなどの行為をした。本件犯行は,被害児童の人格を一顧だにしない,非常に悪質な犯行である。被告人が陰茎を被害児童に接触させていない点を踏まえても,被害児童の性的自由が侵害された程度は決して小さくない。しかも,被告人は,自認しているだけでも約6か月間にわたって被害児童に対して同様の行為を繰り返したというのであり,被害児童は,被告人によって口止めされ,被害を申告することもできずに,長期間にわたる被害を受け続けた。そればかりか,被害児童は,本件行為に耐えかねて被害を申告したのに,被告人が捜査段階で犯行を否認したばかりか,被害児童が自分を陥れようとしていると供述するなど被害児童に責任転嫁する態度を取ったこともあって更なる苦痛を強いられた。本件及びその前後の経緯によって被害児童が被った精神的打撃は重大である。被告人は,本来,教師として被害児童を指導・庇護すべき立場にありながら,あろうことかその立場を悪用して本件犯行に及んでおり,強い非難に値する。以上の事情からすれば,本件の犯情は,陰茎を接触させていない点を踏まえても,強制わいせつ事案の中で軽い部類に属するとはいえず,実刑の可能性も排斥されないということができる。
 さらに,一般情状を検討するに,被告人は,自業自得とはいえ懲戒免職処分を受けるなど一定の社会的制裁を受けている。また,現段階までに60万円の被害弁償を申し出ており,引き続き,被害回復に向けた努力をする意向を示している。そして,被告人は,公判において犯行を自白し,反省及び謝罪の弁を述べていること,被告人の妻が今後の監督を約束していること,前科がないことなど被告人に有利に斟酌すべき事情が認められる。これらの事情を考慮すると,被告人に対しては,直ちに実刑に処すよりも,社会内において,改めて被害児童に与えた被害の大きさと向き合い,最大限,被害弁償の措置を尽くさせることで,その更生を図ることが相当であると判断した。
 そこで,主文の懲役刑に処し,その刑事責任を明らかにした上,今回に限り,その執行を猶予することとし,主文のとおり判決する。
 (検察官小嶋陽介,国選弁護人成合陶平 各出席)
 (求刑 懲役3年)
 宮崎地方裁判所延岡支部
 (裁判長裁判官 大淵茂樹 裁判官 中出暁子 裁判官 高木航)
 
westlaw 福井   R3.7.2 2年 4月   保育士 【量刑の理由】
 被告人は,保育士という幼児の養護及び教育を責務とする立場にありながら,その立場を利用し,まだ幼くその行為の意味を理解できず抵抗しない担当クラスの幼児2名に対し,合計3回にわたりわいせつな行為をした。このような被害者との関係性,被害者の属性,被害人数及び件数を踏まえれば,本件は極めて卑劣で悪質な犯行であるというべきである。
 将来被害者らが,被告人にされた行為の意味を理解し又は知った時のショックは計り知れず,健全な成育への悪影響も懸念される。被害者らの家族が峻烈な処罰感情を有しているのも当然のことである。
 一方,本件各犯行の態様は,暴行や脅迫を伴うものではないという点では穏当といえ,被害者らが実際の恐怖心を感じたとは認められない。しかしながら,暴行や脅迫をその要件としない刑法176条後段の罪において,この点を過度に被告人に有利に評価することはできない。
 以上の点に加え,本件各わいせつ行為をスマートフォンで撮影した児童ポルノ製造の罪3件も併せ考えれば,被告人の行為責任は相応に重く,被告人に前科前歴がないことなどを踏まえても刑の執行を猶予できる事案ではない。
 被告人はまだ若く,真摯に反省し,自己の性的嗜好と向き合い,2度と同様の犯行をしないよう,ワークブックの実践やカウンセリングへの通院をしている。さらに,今後は保育士として就労することはせず子供に近寄らない旨を誓約し,母親も監督を誓約している。本件は,再犯可能性が高い犯罪類型には当たるものの,以上の点からすれば,被告人の更生には一定の期待が持てる。しかしながら,前記のとおり,行為責任の観点から実刑はやむを得ないから,これらの点は刑期の面で十分に考慮することとする。その他,Aとの間で,宥恕の意思が示されているわけではないものの示談が成立していること,余罪被害者2名との間でも示談が成立していること,本件は広く報道され,一定の社会的制裁を受けていることなども考慮した上で,主文のとおりの刑を科す。
 (求刑 懲役3年6月,主文同旨の没収)
 福井地方裁判所刑事部
 (裁判官 日巻功一朗)
 
westlaw 熊本   R3.5.20 3年     教諭 (量刑の理由)
 本件は,小学校の教諭であった被告人が,同小学校に通う当時9歳又は10歳の女子児童に対して,学校内で,自己を相手とする性交類似行為をした児童福祉法違反(判示第1)と,わいせつな行為をした強制わいせつ(判示第2)の事案である。
 判示第1の犯行について見ると,被告人は,複数回にわたり,着衣の中に手を差し入れてその膣内に自己の手指を挿入するなどしており,被害者の性的自由に対する侵害の程度が大きい行為に及んでいる。また,判示第2の犯行では,当時理科室には他の児童もいたというのに,被告人は,大胆にも,被害者の着衣の中に手を差し入れて,直接その両胸を複数回撫で,さらには,下着の上からその下腹部を撫でるなどして,執拗にわいせつな行為をしている。このように,被告人は,学校の教諭という立場を利用して卑劣で悪質な犯行を重ねており,その意思決定は強い非難に値する。
 被害者は,本来信頼してよいはずの学校の先生から,肉体的・精神的苦痛を伴う性的な被害を受けたのであって,未だ幼い被害者の心身に与えた悪影響は大きく,今後の健全な成長への影響も懸念されることからすれば,被害者の両親が被告人の厳罰を望むのは当然である。
 以上に指摘した本件犯情の悪さからすれば,被告人が各犯行を認めていることや,被害者に対して謝罪の言葉を述べていることのほか,前科が見当たらないこと,被告人の弟が更生への協力を申し出ていること,被告人において,約100万円を供託し,供託金取戻請求権を放棄していること,本件により懲戒免職処分を受けたこと等の事情を最大限考慮しても,本件が刑の執行を猶予するのが相当な事案であるとは認められない。被告人は,主文の実刑を免れない。
 (求刑―懲役4年)
 熊本地方裁判所刑事部
 (裁判官 山口智子
 
westlaw 高知   R3.4.13 1年 6月   教諭 (量刑の理由)
 本件は教諭として中学校に勤務し,部活動の顧問として指導していた部員の1人である被害者に強いてわいせつな行為をしたという事案である。その犯行態様は2晩にわたって畏怖困惑して全く抵抗できない状態の被害者に判示のとおりのわいせつ行為を行うという執拗かつ悪質なものであり,本件は成人男性としての分別はもとより教諭や部活動の顧問としての良識をも欠くこと甚だしい事案である。14歳の中学生である被害者が被った精神的打撃は大きく,被害者は現時点でも心身の不調を訴え,殆ど登校することも出来ない様子であり,被告人を信頼して我が子を合宿に参加させた両親は多大な衝撃を受けており,激しい憤りを表明している。被害者やその両親が被告人の厳重処罰を求めるのも当然である。
 以上の検討結果によれば,本件はこの種事犯の中でも相応の当罰性を有しており,相当程度の慰謝の措置が取られない限り,実刑は免れない事案である。この点に関し,被告人は被害者に150万円を一括して支払う旨の被害弁償の提示をしたが,被害者側に受領を拒否された状況であり,現時点において相当程度の慰謝の措置が取られたとは認め難く,実刑は免れない。もっとも,刑期については,以上の諸事情に加え,被告人が前科・前歴を有しておらず,一応反省の態度を示していることなどをも考慮し,主文の程度とするのが相当と判断した。
 (求刑・懲役2年6月)
 高知地方裁判所刑事部
 (裁判官 吉井広幸)
 
westlaw 千葉   R3.3.6 3年 6月   教諭 (量刑の理由)
 本件は,小学校の講師であった被告人が,自らが担任を務めるクラスの女子児童3名に対し,手で直接陰部を触るなどの行為に及んだ強制わいせつの事案である。
 本件各犯行は,担任という立場を利用し,当時小学校1年生である各被害者がクラス担任として長時間行動を共にし被告人に全面的な信頼を寄せていたことにつけ込んで敢行された卑劣で悪質なものである。犯行態様は,授業中,休憩時間や給食の時間に,外側から内部の様子を確認することのできない倉庫内に各被害者を連れ込み,下着などを脱がせた上,陰部を直接手で触るというものであって,いずれも短時間ではあったが,各被害者の性的自由を害する程度も小さくない。各被害者は,全面的な信頼を寄せていた担任から性的被害を受けたのであって,各被害者が今後成長していく過程で本件被害のことを思い出すことなどにより,大きな精神的苦痛を及ぼしかねず,それぞれの健全な成長に悪影響を及ぼすことも懸念される。各被害者の保護者が被告人の厳罰を望むのは当然のことである。上記のとおりクラスの担任という立場を悪用した悪質な犯行を3回も繰り返したということも考慮すると,被告人の刑責は重いというべきである。
 以上に加え,被告人が,各犯行を否認し,一切の反省の態度が認められず,各犯行について格別被告人に酌むべき事情はないところ,同種事犯の量刑傾向も踏まえて検討すると,被告人にこれまで前科前歴がないなどの被告人にとって酌むべき事情を考慮しても,主文掲記の実刑に処するのが相当であると判断した。
 (求刑:懲役5年)
 千葉地方裁判所刑事第5部
 (裁判長裁判官 小池健治 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 髙橋真歩)
westlaw 千葉 松戸 R3.3.1 6年     保育士 (量刑の理由)
 本件は,保育園に勤務する保育士がそこに通う児童3名に対して強制性交等1件及び強制わいせつ2件に及んだ事案である。
 被告人は,保育士として児童や保護者から全面的に信頼を付与される立場にありながら,被害児童らが被告人を慕っていたことを悪用して本件を重ねており,被害児童らの尊厳を踏みにじる悪質なものである。他の職員の目を盗み,保護者への発覚を防ぐため被害児童らに口止めをしている点も卑劣といえる。被害児童らは,安心して過ごせるはずの場所で信頼する被告人から手淫等のわいせつ行為や口腔性交を受けたもので,被害児童及びその保護者らの精神的な痛手は大きく,被害児童らの健全な成長に悪影響を及ぼすことも懸念される。被告人は,被害児童や保護者らの心情を顧みることなく,自己の性的欲求を満たすため,本件に及んでおり,その動機は身勝手極まりないものである。通院先から忠告されていたのにこれを無視して本件施設に勤務するなどしたその経緯からも,性犯罪に対する被告人の性向の根深さがうかがわれる。
 このように,本件事案の客観的な重さの程度や被告人の法益軽視の自己本位的な意思決定及びこれに付随する犯罪性向は強い責任非難に値し,同種事案の量刑傾向にも照らすと,本件は同種事案の中でも比較的重い部類に属し,後記一般情状を十分に考慮しても,刑の全部執行猶予が相当でないことはもとより,酌量減軽すべき事案でもないことが明らかである。
 そこで,一般情状をみると,被害児童の保護者らや保育園関係者の処罰感情が厳しいのは当然である一方,被告人において,事実を認め反省の弁を述べていること,Bに対して200万円の被害弁償を済ませ,C及びAとの関係では各100万円の被害弁償を行う準備をして弁護人に預託していること,再度性犯罪防止プログラムを受講する意向を示すなど更生の意欲がみられること,実父が今後の監督を申し出ていること,前科前歴がないこと等,被告人にとって有利な事情も認められる。
 そこで,以上の犯情及び一般情状を併せ考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役7年)
 千葉地方裁判所松戸支部刑事部
 (裁判長裁判官 本間敏広 裁判官 新崎長俊 裁判官 本田真理子)
 
 
westlaw 福井   R3.2.26 3年   保護観察 教諭 (量刑の事情)
 本件各犯行は,いずれも下着を脱がせて直接その陰部を触るというもので,被害児童に強い屈辱感や羞恥心を生じさせる悪質な態様である。個別に被害児童らを呼び出して,二人きりになる機会を作出するなど,計画的でもある。手段として暴力や脅迫的言辞を伴うものではないが,教師という立場の小学生に対する圧倒的優位に乗じた犯行という点で,その悪質性に遜色はない。そして,被害児童らは,その人格を軽視した犯行にさらされ,それぞれ現に嫌悪感を抱いている上,成長に伴って傷つきを深めることも強く懸念される。
 なお,被告人は,性器に関する教育を施す意図があった旨供述するが,このような意図を標榜すること自体から,本件が常習的犯行の一環であったことをうかがえる。そして,このような意図からは被害児童の性器を触る必要までは生じ得ないこと,被告人が学校側に一切を相談・報告していないこと,被害児童に対して口止めをしていたこと等に照らせば,本件各犯行は,専ら被告人の性的欲求が発露したものであって,教育の意図というのは,被告人が犯行を正当化するために身勝手にもそう思い込もうとしたに過ぎないものと見るべきである。
 以上によれば被告人の刑事責任は重く,同種事案の量刑の動向に鑑みると,実刑を検討して然るべき事案といえる。
 しかしながら他方,被害の回復とは到底評価できないものの,判示のうち2件については宥恕文言を含む示談が成立し,残る1件に関しても示談に向けた努力はされているようにうかがわれる。また,被告人は,当然ながら失職しており,法廷で自己の過ちについては認めた上,医療的なケアを受けたり今後は児童に関わらない職に就くなどして再犯防止に努める姿勢を示している。同居の両親もそれぞれの立場から被告人を監督・支援することを約している。このように,若年で前科のない被告人を直ちに実刑に処するにはやや躊躇を覚える事情も見受けられるところである。
 そこで,被告人に対しては,最長期の執行猶予を付し,その間,保護観察所による専門的指導を受けさせることによって更生と再犯防止を期すのを相当と認め,主文の刑を量定した。
 (求刑 懲役4年)
 福井地方裁判所刑事部
 (裁判官 西谷大吾)
westlaw 大阪   R2.12.9 2年     保育士 (量刑の理由)
 保育園職員であった被告人が,同保育園において,同園の5歳児の被害者2名に対し,同人らがプール遊び後全裸でいた際,胸や陰部付近を触ったり,胸をもんだりするなどしており,本件は,幼くわいせつ行為の意味も理解しておらず全く抵抗しない被害者らに対し,保育園職員としての立場を利用して行われた犯行であって,被告人の行ったわいせつ行為が短時間にとどまることを踏まえても,卑劣で悪質な犯行である。被害者らは,毎日通っていた保育園で,親しい職員であった被告人から,突然,胸や陰部を直接触られるといった被害を受けており,本件各犯行が被害者らの今後の健全な育成に悪影響を与えることが強く懸念され,各被害者の母親が被告人に対し厳重な処罰を求めるのも至極当然のことである。他方,被告人は,被害者らに対し何らの慰謝の措置も講じていない。
 また,被告人は,わずか1か月の間に園児に対するわいせつ行為を2回も行っている上,目撃者の面前で堂々と犯行に及んでおり,この種事犯に対する抵抗感が相当に低下しているといわざるを得ず,その意思決定は強く非難される。
 以上に照らすと,被告人の刑事責任は相応に重いというべきである。
 そして,被告人が本件各犯行を否認し,反省の態度がみられないこと,前科前歴がないことなどの事情も考慮すると,主文の刑が相当である。
 (求刑 懲役3年6月)
 令和2年12月10日
 大阪地方裁判所第8刑事部
 (裁判長裁判官 松本圭史 裁判官 後藤有己 裁判官 加納紅実)
 
 
 〈以下省略〉
 
westlaw 高松   R2.10.8 2年 6月 保護観察 保育士 量刑の理由)
 強制わいせつの点については,幼児の養護及び教育を責務とする保育士の立場にありながら,その立場を悪用し,被害を申告しないであろう園児を見定めた上で,他の保育士の目が届かない状況を利用して犯行に及んでおり,その卑劣さ,悪質さは強い非難に値する。Aの両親が,Aが,将来,自身の受けた行為の意味内容を理解した際に受けるであろう精神的苦痛や悪影響を懸念し,心を痛め,被告人に対し重い処罰を求めるのも当然である。また,本件犯行が保育制度や保育現場への信頼を傷つけた点も軽視できない。そして,未成熟の女児を性的対象とする被告人の傾向や他人の心情を顧みることのできない姿勢は,児童ポルノ製造の点からも明らかである。
 もっとも,本件は,強制わいせつ及び児童ポルノ製造それぞれ1回の行為が処罰の対象となっているにとどまり,各行為の態様や結果,同種事案の量刑傾向を踏まえると,直ちに実刑を選択するほかない事案であるとまではいえない。加えて,被告人には前科がなく,被告人は本件各犯行を認めた上で今後は自身の性癖等の問題と向き合うためにカウンセリングを継続したい旨述べるとともに被害弁償の申入れをするなどして被告人なりに反省の態度を示し,被告人の父親も公判廷において家族で被告人の監督を行っていくことを誓っている。
 以上を踏まえ,被告人に対しては,今回に限り,その刑の執行を猶予することとしたが,被告人の刑事責任の重さや被告人の抱える問題の内容・性質及び当公判廷における被告人の供述内容等を踏まえると,被告人本人による更生に向けた取組や被告人の家族によるサポートに多くを期待することは相当でないというべきであるから,猶予の期間中,被告人を保護観察に付し,性犯罪者処遇プログラムの受講を始めとする保護観察所による継続的な指導により社会内更生の実効性を確保することとした。
 (検察官の求刑―懲役2年6月)
 高松地方裁判所刑事部
 (裁判官 坂井唯弥)
 
 
westlaw 静岡地裁 濱松 R2.7.10 1年 6月 執行猶予 教諭 【量刑の理由】
 被告人は,家族と同居する当時14歳の被害者とソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を通じて知り会い,性交をする目的で自宅に来るように誘惑し,自己が運転する車両に乗車させて誘拐するとともに,当時の自宅に連れ込み,わいせつな行為をした上で,避妊具を着けずに性交をした。被告人は,午後4時頃に被害者を誘拐した後,自宅に宿泊させるなどしており,被害者を自己の支配下に置いた時間は短いとはいえない。そして,一連の犯行は,面識のない男性の家に泊まろうなどという被害者の判断能力の未熟さに付け込んだものであり,被害者の健全な育成を阻害し,かつその身体の安全を害する悪質なものといえる。被害者の父は,被害者が誘拐された日の午後6時過ぎに行方不明者届を提出しているが,被害者が保護されたのはその約19時間後であり,被害者の父母は,その間に多大な不安を抱くなど大きな精神的苦痛を被っている。
 被告人は,被害者と連絡をとり始めた当初より,被害者との性交に向けたメッセージを送っており,強固なわいせつ目的が認められる。被告人は,当時,現役の高校教諭であり,SNSに関係する未成年の性被害の危険性等を把握する機会は十分あったと考えられ,実際にも,生徒に対し,SNSで知り合った面識のない人に気を付けるよう指導したことがあった旨述べている。にもかかわらず,私生活においてはそのような知識及び経験を何ら顧みることなく,中学生であると認識した上で被害者を誘い出し,性交をするに至った。なお,被害者は,被告人と一緒に行動する際,兄と連絡している素振りを見せており,このことから,被告人が,被害者の外泊自体についてはその家族が承知していたと錯誤していた可能性が否定できないが,少なくとも,性交をする目的がある成人男性宅への外泊について被害者の家族が承知するはずもないことについては,当然被告人も認識していたと認めるのが相当であり,かかる錯誤を被告人にとって有利な事情として大きく考慮することはできない。そうすると,犯行の動機や経緯には相応の非難が向けられるべきである。
 以上の事情を総合的にみれば,本件の犯情から見た責任については,軽いものとはいえないが,前述した未熟な判断能力が前提ではあるものの,被害者が被告人のわいせつ目的を承知した上で積極的にその支配下に入ったことなどの被告人に有利な事情も認められるところである。
 その他,被告人が,前科前歴を有さないこと,本件が原因でその職を失う予定であること,被害者側への謝罪を試みたほか,反省の弁を述べた上で,今後は,兄に自己のスマートフォンを確認してもらうなどして,再犯防止に努める旨述べていること,被告人の父が当公判廷に出廷し,家族で被告人を監督する旨述べていることなどの被告人のために酌むべき事情も考慮し,被告人に対しては,主文の刑を科した上で,今回に限り,その刑の執行を猶予することが相当であると判断した。
 (検察官の求刑―懲役1年6月,弁護人の科刑意見―執行猶予)
 静岡地方裁判所浜松支部刑事部
 (裁判長裁判官 山田直之 裁判官 笹邉綾子 裁判官 宮田裕平)
westlaw 名古屋   R2.2.27 2年   執行猶予 学童保育施設の代表者兼指導員 (量刑の理由)
 本件は,学童保育施設の代表者兼指導員を務める被告人が,同施設に通う当時10歳の被害者(女児)に対し,わいせつ行為を行った事案である。
 互いに全裸の状態になった上で,被害者の胸や陰部を直接触り,被害者の陰部に被告人の陰茎を当てるなどしたものであり,客観的なわいせつ性の程度は強く,悪質な犯行である。本件犯行が,未だ幼い被害者の心身に与えた悪影響は大きく,今後の健全な成長への影響も懸念されるところである。指導員として被害者を指導し,庇護すべき立場にあった被告人が本件犯行に及んだことは,強い非難を免れず,保護者の処罰感情が厳しいのも当然である。
 以上によれば,被告人の刑事責任は相応に重いといわざるを得ない。他方で,本件前後の事情に照らせば,上位の立場にある成人が自己の監督下にある年少者を一方的な性的欲求のはけ口とした事案とは一線を画するものであること,被告人に前科がないことや同種事案の量刑も踏まえると,被告人に対しては,主文の刑を定めた上で,その執行を猶予するのが相当である。
 (検察官谷田隼也,西村恵三子,弁護人平野曜二出席)
 (求刑 懲役3年)
 令和2年3月3日
 名古屋地方裁判所刑事第6部
 (裁判長裁判官 田邊三保子 裁判官 岩田澄江 裁判官 小山大輔)
 
westlaw 前橋地裁 高崎 R2.2.26 5年     教諭  (量刑の理由)
 本件は,教諭であった被告人が,勤務先の学校で,生徒2名に対し,わいせつ行為をするなどした事案である。被告人は,教諭という立場を利用し,被害者らの信頼や幼さにつけ込んで犯行に及んだ点で悪質であり,通学先の学校内で被害に遭った被害者ら,特に繰り返し被害に遭ったBに与えた影響を考えると,生じた結果は大きい。被告人は同種行為を繰り返しており,この種の行為について規範意識が欠けていたといえる。犯情は悪く,被害者らの保護者が厳しい感情を有していることも理解できる。
 他方,被告人は事実を認め,被害者らとその家族に対する謝罪の弁を述べており,現在の雇主及び姉は被告人の更生に協力すると述べている。また,被告人は,第14の事実につき,賠償金100万円を支払っていること(ただし,当該時点では,被告人がBに対する他の行為を明らかにしていなかったことに照らすと,評価するにも限度がある。),弁護人に,賠償金として,Bとの関係で200万円を,Aとの関係で122万円を預託していることが認められる。
 そこで,以上の諸事情を考慮して,主文のとおりの量刑をした。
 (求刑 懲役8年)
 前橋地方裁判所高崎支部
 (裁判官 地引広)
 
 
westlaw 静岡地裁 濱松 R2.2.21 3年   執行猶予 教諭 【量刑の理由】
 判示第1の各犯行は,被告人が,自己が担任する学級の児童である当時7歳ないし8歳の各被害者に対し,その着衣の中に手を差し入れて太ももを触った強制わいせつの事案である。その態様は,他の強制わいせつの事案に比べれば,比較的軽微であるといえるものの,精神的に未成熟な年少者を狙い,自身の担任の教師として全面的な信頼を受け児童を預けられた立場を利用し,他の児童らがいる教室内で授業中等に白昼堂々敢行した犯行であって,卑劣かつ悪質というべきである。
 各被害者は,本来信頼を寄せるべき担任である被告人から本来安心して過ごせる場所であるはずの教室の中でわいせつ行為を受けたものであり,当時の各被害者の年齢等も踏まえれば,各被害者の精神的な被害は相応に大きいものであるというべきであるし,各被害者の健全な成長に悪影響を及ぼすことも懸念される。特にAは,被告人に触られるのを嫌だと感じて自ら被害申告に至ったものであり,被害の間,大きな精神的負担を感じていたものとうかがわれるし,被害申告後はしばらくの間学校を休まざるを得なくなるという不利益も受けたものである。
 また,被告人は,判示第2の児童ポルノの単純所持も行っている。
 加えて,被告人は,本件各犯行をいずれも否認し,不合理な弁解に終始しており,また,判示第1の3のCに対する犯行については,被告人による児童への性的被害についての訴えが出ていることを知った以降のものであって,反省の態度は見られない。
 もっとも,前記のとおり,各強制わいせつ行為の態様が比較的軽微であること,本件児童ポルノの入手時期が十数年前であるとうかがわれることのほか,前科前歴を一切有さないことなどの被告人のために酌むべき事情も考慮し,被告人に対しては,主文の刑を科した上で,今回に限り,その刑の執行を猶予することが相当であると判断した。
 (求刑―懲役3年)
westlaw 宮崎   R2.2.3 5年     指導者 量刑の理由)
 本件における暴行の程度は,同種事案との比較において強度とはいえないが,被告人は,Aがパニック状態に陥り,強く抵抗できないことに付け込み,Aの陰部などを執拗に触ったり舐めたりした末に,性交と口腔性交の両方に及んだものであり,Aの性的自由を侵害した程度は相当強い。そもそも,Aが,深夜,人気のない公園で被告人と二人きりになる状況を許したのは,被告人を教師として信頼していたからにほかならない。被告人がAを家に送ろうとした時点から強制性交等に及ぼうと考えていたとは認められないものの,被告人が,教え子であるAの信頼を利用して犯行に及んだことは否定し難く,本件は,その点でも悪質といえる。本件犯行よってAが受けた精神的打撃は,被害の性質相応に相当深刻なものである。
 以上のような犯罪事実に関する事情を中心に据えた上で,刑の公平性の観点から,強制性交等罪の量刑傾向を参考に検討すると,本件は,みるべき前科のない者が,凶器を用いずに,単独で強制性交等をしたという類型の事案の中では重い部類に属するとまではいえないが,軽い部類に属するものではなく,当然に酌量減軽をすべき事案とは考えられない。
 前科以外の一般情状についてみても,被告人は,教育者・妻帯者として元教え子であるAと性交渉を持ったことについては反省の弁を述べているものの,あくまで合意の上であったという弁解に終始し,現在に至るまで,Aの意に反して性交等をしたことについての謝罪はしておらず,その他の被害回復の措置も講じていない。本件後に被告人が勤務先の高校を諭旨免職処分となったことなど,記録に現れた一切の事情を検討しても,酌量減軽を相当とするような事情は見出し難く,被告人に対しては,法定刑の下限である主文の刑に処するのが相当と判断した。
 (求刑 懲役6年)
 宮崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 福島恵子 裁判官 下山洋司 裁判官 渡邊智弘)
 
westlaw 福岡 小倉 R2.1.17 7年     指導者 (量刑理由)
 本件は,被告人が指導する中国武術教室の生徒であった13歳未満の被害者3名に対し,その武術教室での指導中に行った強制わいせつ合計21件,さらに前記被害者の内2名に対してその様子を動画撮影して保存したという児童ポルノ製造合計14件の各事案である。
 被害者3名は,いずれも5歳から9歳と幼く,被害者らにとって,指導者であり60歳台の成人男性である被告人に逆らうことなど考え難いところ,被告人は,教室を見学する保護者もいる中,その教室での指導の最中に,中国武術の指導と称して隣室に被害者各1名のみを呼び出して判示のわいせつ行為に及んだ。指導者という自らの立場を悪用し,保護者らの信頼に乗じて,幼い被害者らを意のままにした犯行は卑劣極まりない。特に,被害者Aに対するわいせつ行為は,約8か月間に18回にわたって繰り返されており,わいせつ行為の態様も,あらかじめ準備した様々な性玩具等を用いて陰部や肛門を直接弄ぶほか,乳首や陰部等をなめたり被告人の陰茎を陰部や顔に直接押し当てるなどのわいせつ性の高い犯行であって極めて悪質である。被害者が複数に及んでいること,指導を装って性欲の赴くままわいせつの限りを尽くしていることに鑑みると,被告人のこの種犯行の常習性は顕著である。
 被害者Cは,本件後に被害申告したものの,その後も精神の不調等が認められ,被害者A及びBは,その幼さから被告人の行為の意味も理解できない中で判示の被害に遭い,被害者Aは理由も告げずに教室をやめたいと言い出す等,両親にも相談できないでいる状況がうかがわれ,いずれも今後の心身の成長への悪影響が強く懸念されるところである。
 被害者らの家族は,被害に気付かず,教室に通わせていたことなどから自らを責め,被害者らの今後のケアに心を痛めているのであって,本件が被害者ら家族に与えた影響も深刻である。本件の結果は重く,被害者ら家族が被告人に対する厳しい処罰を求めるのも当然である。
 そうすると,被告人の刑事責任は重大であり,相当長期間の実刑は免れない。
 他方,被告人が事実を認めた上で,被害者らに対して被害弁償する意向を示しており,被告人なりに自らの抱える問題点に気づきつつあることがうかがわれること,妻が被告人を監督し被害弁償に協力する旨証言したこと,被害者Cとの間で120万円が支払われて示談が成立したことなどの被告人のために酌むべき事情が認められる。
 そこで,以上の事情を総合考慮し,主文の刑が相当であると判断した。
 (求刑・懲役8年)
 福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
 (裁判官 向井亜紀子)
westlaw 前橋地裁   R1.12.20 8年     教諭 刑の理由】
 1 本件は,中学校の教諭であった被告人が,担任しているクラスの女子生徒に対し,単独でかつ凶器を使用して行った,住居侵入,わいせつ・生命身体加害略取,監禁致傷1件及び包丁2本を携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反1件の事案である。
 2 被告人に対する刑の大枠を決める本件の重要な犯情について検討する。
 まず,本件の事案の軽重について検討する。
 本件犯行の準備状況等についてみると,被告人は,被害者の担任教諭であったことから,被害者の住居や家族の状況にとどまらず,本件当日に被害者が1人で自宅にいる時間帯等を把握し,これらの情報を利用して本件犯行に及んでいる。また,被告人は,被害者を連れ去ってわいせつな行為をした後に被害者を殺害する目的で,スタンガン,包丁及び大量のアダルトグッズなどを用意した上,自動車内で被害者に対してわいせつな行為をする場所をあらかじめ下見をしたり,自動車内が外部から見えないように車内に黒いカーテンを設置したりするなど,かなり周到な準備をしている。このように,本件犯行は,非常に計画性の高いものである。
 本件犯行の態様についてみると,被告人は,被害者を略取する際に,スタンガンを使用したが,被害者を失神させることができなかったため,被害者の背後からその頚部に右腕を巻き付けて絞め付け,さらに,被害者の頚部を2回にわたってタオルで絞め付けて失神させている。このように,本件犯行の態様は,被害者の生命を奪う危険性が高いものであったとまではいえないものの,相当に強度なものであったといえる。
 以上によれば,被告人が,被害者を監禁していた際にわいせつ行為や暴行に及んでいなかったこと,被害者が負った傷害の程度も全治約3週間と比較的軽傷にとどまったこと,比較的早期に警察官に保護されたことから,監禁の時間も4時間弱と比較的短時間なものにとどまっていることを考慮しても,本件犯行は,被害者の行動の自由や身体の安全を侵害する危険性が高い事案であると評価できる。
 次に,本件犯行を決意した被告人に対する非難の程度を検討する。
 被告人は,担任教諭を務めていたクラスにおいて,在籍する女子生徒たちから無視されるなど学級運営が円滑にいかず,そのような悩みを被害者やその友人である女子生徒に相談していたが,その後,被害者らからも距離を置かれるようになった。このような状況に至り,被告人は,自らを追い詰めた社会全般に対して恨みを抱くとともに自暴自棄になり,好意を抱いていた被害者にわいせつな行為をした上で,被害者と一緒に死のうと考え,全く落ち度がないどころか,生徒という立場でありながら担任教諭である被告人のために相談に乗ってくれていた被害者に対する本件犯行を決意している。このような経緯及び動機は,極めて身勝手かつ自己中心的なものといえる。そうすると,被告人が上司等から学級運営等について具体的な支援を受けることができず,心療内科に通院するなど精神的に追い詰められていたことを踏まえても,厳しい非難を免れない。
 以上の本件の重要な犯情によれば,本件は,同種事案の中では,相当重い部類に位置づけられるものであり,被告人に対して,その刑の執行猶予を付するのは相当ではなく,相当期間の実刑をもって臨むべき事案であるといえる。
 3 被告人の刑を調整する一般情状について検討する。
 被害者は,本来,信頼できるはずの担任教諭から暴行を受けて略取,監禁されたものであり,被害者及びその両親が受けた精神的な苦痛は計り知れず,被害者及びその両親が,被告人からの謝罪や被害弁償を拒否し,被告人には二度と社会に出てきて欲しくないとする心情は十分に理解できる。本件は,中学校の教諭であった被告人が担任しているクラスの女子生徒に対して行った犯行であり,社会に大きな影響を与えた。
 他方,被告人がこれまで前科前歴なく真面目に生活していたことは,被告人の更生の可能性に関する事情として評価できる。
 4 そこで,刑の公平性の観点から同種事案における量刑傾向を踏まえ,以上の本件の重要な犯情及び一般情状を考慮して,被告人に対しては,主文の刑を言い渡すのが相当と判断した。
 (検察官の求刑意見 懲役15年)
 (弁護人の量刑意見 保護観察付き執行猶予)
 令和元年12月26日
 前橋地方裁判所刑事第2部
 (裁判長裁判官 國井恒志 裁判官 中野哲美 裁判官 谷山暢宏)
 
westlaw 福岡 小倉 R1.12.3 9年     児童指導員 (量刑の理由)
 本件は,児童養護施設の児童指導員であった被告人が,同施設に入所していた被害児童Aに対して強制わいせつ,児童淫行,被害児童Bに対して児童淫行,児童ポルノの製造,被害児童Cに対して強制性交等,児童淫行,被害児童Dに対して児童淫行をそれぞれ行ったという事案である。
 被告人は,本件養護施設に入所する児童の指導監督等を行い,児童の健全な育成に努めるべき立場であり,また,家庭の事情等で幼い頃から本件養護施設に入所していた被害児童らから慕われていた面があったにもかかわらず,そのような立場や状況を悪用し,自らの性欲のはけ口として,被害児童らを意のままに従わせ,本件各犯行に及んだものであり,動機経緯に酌むべき点はない。
 本件各犯行の態様は,いずれも被害児童に対し,自己の陰茎を被害児童に口淫又はなめさせたり,被害児童の陰茎を口淫又はなめたりするなどし,1名については動画の撮影までしたというもので,非常に卑劣かつ悪質というほかない。本件各犯行以前から同様の行為を繰り返していたというもので,常習性も明らかである。
 被害児童らは,本来安心して暮らせる場所の施設で,自分を慈しみ守ってくれるはずの職員である被告人からこのような被害を受けたものであり,被害児童らの受けた性的被害結果はもとより,精神的苦痛も相当に大きく,被害児童らの将来に悪影響を及ぼすことが強く懸念される。また,児童養護施設の職員が入所児童に繰り返しわいせつな行為に及んだという本件各犯行が社会に与えた不安も無視できない。
 以上によれば,被告人の刑事責任は重大であり,相当長期間の実刑は免れない。
 他方,被告人は,事実をすべて認め,被告人なりに反省の弁を述べていること,一部の被害児童との間で示談が成立していること,被告人に前科前歴がないこと,被告人の父が出廷し,被告人の社会復帰後の監督や更生支援をする旨述べていることなど,被告人のために酌むべき事情も併せ考慮して,主文のとおり刑を量定した。
 (量刑意見 検察官:懲役9年,弁護人:執行猶予付き判決)
 福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部
 (裁判長裁判官 鈴嶋晋一 裁判官 松村一成 裁判官 君塚知弥子)
 
westlaw 青森 弘前 R1.11.26 6年     教諭 (量刑の理由)
 本件は,被告人が当時勤務していた小学校に通学する当時11歳の児童に対し,5回にわたり性交等をし(判示第1,第3ないし第6),そのうち2回の状況を動画撮影して児童ポルノを製造した(判示第2,第7)事案である。
 被告人は,小学校教諭として児童の教育をつかさどる立場にありながら,その立場を悪用し,被害者の性的知識の不十分さや判断力の未熟さにつけ込み,12日間のうちに5回にわたり,性交等に及びその一部の状況をビデオカメラやスマートフォンで動画撮影して記録したものであって,極めて卑劣で,被害者の性的自由を大きく侵害した,悪質な態様である。
 被告人は,被害者を一人の大人の女性として見ていたなどと供述するが,前記の犯行態様に加え,被害者と学校外で会う約束をすると女性の性的部位を殊更に強調する下着などを用意していたこと,ホテルのほか砂浜や小学校内で避妊措置を講じることなく性交等に及んだこと等からすれば,被害者の人格を顧みずに,自己の性欲の赴くままに被害者を自己の性的欲求を満たす対象としたものというべきであり,自己本位な意思決定に基づく本件各犯行は強い非難に値する。
 当時11歳と成長過程にあった被害者の受けた苦痛は大きく,今後の健全な成長や人格形成に深刻な悪影響を及ぼすことも懸念され,現に被害者は,体調不良を生じ,精神科への通院等もしている。このような重大な被害を被った被害者とその家族が,示談が成立してもなお被告人に対し厳しい処罰感情を有するのも当然である。
 以上の犯情を総合すると,本件は,13歳未満の者に対する強制性交等罪を中心とする事案の中では重い部類に属する。弁護人は,執行猶予を求めるが,被告人が被害者に対し400万円を支払い,示談が成立したこと等被告人に有利に考慮できる事情を踏まえても,本件は,酌量減軽をすべき事案とはいえず,被告人に対し,長期間の実刑を科すべきである。
 そして,上記示談のほか,被告人に前科がないこと,父親や友人が公判出廷して被告人の更生に向けた支援を約束していること,被告人が,被害者の心情を顧みない言動をとるなど未だ内省は十分とはいえないものの,事実を認めて謝罪を述べるなど反省の態度を示していることなど被告人に有利に考慮できる一般情状事実を踏まえ,主文の量刑を定めた。
 (求刑 懲役7年6月)
 (検察官髙橋和貴,私選弁護人葛西聡各出席)
 青森地方裁判所弘前支部
 (裁判長裁判官 伊東智和 裁判官 能登谷宣仁 裁判官 大友真紀子)
 
westlaw 金沢   R1.11.12 1年 6月   教諭 (量刑の理由)
 被告人は,Aの担任教師であり,同人から悩みごとの相談を受けており,また,Bの所属する部活動顧問かつ授業(英語)担当教師であり,同人の中学校在籍中から進路等の相談を受け,高等学校進学後も悩みごとの相談を受けていた。被告人は,このような立場を利用し,言うことを聞いてもらい満足感を得たいなどと考え,いずれも校内の場所で,A,B両名に口淫などをさせ,判示第1,第3の各犯行に及んだ。児童の健全な成長を図るべき立場の教師が,生徒である児童の未熟さに付け込み,その影響力を及ぼして性交類似行為の相手方をさせたものであり,卑劣で悪質な犯行というべきである。思い通りにして欲望を満たすという身勝手な動機にも酌量の余地はない(被告人は,犯行の背景に,仕事上のストレスからくる精神的不安定があった旨述べるけれども,他の適切な方法で解消を図るべきであり,生徒を対象に本件犯罪行為に及ぶことが許されないのは明らかであって,これをもって非難が弱まるとはいえない。)。そして,Aに対しては上記行為の様子を動画撮影して児童ポルノ製造(判示第2)にも及んでおり,非難は強まる。被害者両名は当時ともに15歳であり,その将来に与える悪影響が深く懸念される。
 これらからすれば,被告人の本件犯罪行為の責任は重い。そうすると,他方で,被害者らの被害の回復に向けた交渉状況(Aの父に50万円を支払い,Bの両親との間で200万円を分割して支払う内容で示談を成立させ,50万円支払済みであること),被告人が各犯行を認め,謝罪するなど,反省の態度を示していること,同居の母が出廷し,指導監督を約束していること,前科前歴がないこと,懲戒免職等の社会的制裁を受けたことなど,酌むことのできる一般情状はあるが,これらを考慮しても,刑の執行猶予は相当ではなく,主文の刑を科すのが相当と判断した。
 (求刑 懲役2年)
 (検察官上甲眞央,私選弁護人村井充〔主任〕,同中村雅代各出席)
 金沢地方裁判所刑事部
 (裁判官 千葉康一)
 
 
 〈以下省略〉
 
 
westlaw 那覇 沖縄 R1.7.8 2年 6月 執行猶予 陸上クラブの指導者 (量刑の理由)
 本件は,当時自身が立ち上げた陸上クラブの指導者であった被告人が,同クラブに所属していた女子2名ほか1名(被害児童ら)に対し,もっぱら自身の性欲を満たす目的でみだらな性行為をし,更に,うち2名にその乳房を露出させる姿態をとらせてスマートフォンで撮影,送信させた静止画を自身のスマートフォンの内蔵記録装置に保存して児童ポルノを製造した,という沖縄県青少年保護育成条例違反及び児童ポルノ等処罰法違反各3件の事案である。
 被告人は,被害児童らに口淫させたり,性交したりしており,そのみだらな性行為のわいせつ性は強度であるし,わずか3か月弱の間に立て続けに本件各犯行に及んでいるのであることからすれば,犯行態様は悪質であるといえる。
 また,被告人は,本件各犯行の前に,当時結婚を考えていた交際相手と別れ,その寂しさを抱えていたところ,被害児童らが優しい言葉をかけてくれたことから,次第に被害児童らに恋愛感情を抱くようになり,本件各犯行に及んだと供述するが,本件各犯行の態様や被告人と被害児童らとの関係性にかんがみると,被告人は,被害児童らの判断能力が未熟であり,同人らが被告人に対して好意やあこがれを抱いていることをいいことに,自身の寂しさや性欲を満たすため,被害児童らの心情やその健全な育成を顧みることなく,卑劣な犯行に及んだというほかない。このような動機,経緯に酌量すべきところは全くなく,被告人の行為は強い非難に値する。
 被害児童らは,自身がもっぱら被告人の性欲を満たす目的で性行為等をさせられたことを知って大きなショックを受けており,その健全な育成に与える影響を看過することはできない。また,A及びCの保護者は,被告人を信頼して大切なわが子を委ねたにもかかわらず,本件のような性被害を受けるに至ったことから,被告人に対して激しい怒りを抱いている。被害児童らや前記保護者が被告人に対する厳しい処罰を求めるのは当然である。
 以上の事情を踏まえると,被告人の刑事責任は重い。
 他方,被告人は,被害児童らに性行為等をさせるに当たり,暴行,脅迫等の手段は用いていない。また,被告人が製造した児童ポルノを第三者に拡散する意図を有していたとは認められず,実際にこれが拡散されたといった事情もうかがわれない。その他,被告人が事実を認め,被害児童らに対して謝罪の言葉を述べるとともに,今後は,スポーツと関連しない仕事に就くなどして被害児童らに接触することがないようにする旨述べていること,被告人の母が被告人の監督・指導を誓約していること,被告人に前科前歴はないことなどの事情を考慮し,被告人を主文のとおりの刑に処した上で,今回に限り,その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
 (求刑:懲役2年6月)
 令和元年7月9日
 那覇地方裁判所沖縄支部
 (裁判官 安重育巧美)
westlaw 那覇   R1.6.28 4年 6月   スポーツチームの監督 (量刑の理由)
 被告人は,約7か月の間に,スポーツチームの当時13歳又は15歳であった所属選手4名に対し,監督という立場を悪用して,5回にわたり,膣内に指を挿入するなどのわいせつ性の高い行為を繰り返している。被害者らがいずれも被告人の厳罰を求めているのは,被害者らが受けた被害の大きさを表している。犯情は悪質であり,被告人の刑事責任は重い。前科前歴がないことや若年であることなどの,被告人の更生を期待させ得る事情を考慮しても,被告人に対しては,主文のとおりの刑を科すことが相当である。
 (検察官の求刑:懲役7年)
 那覇地方裁判所刑事第1部
 (裁判長裁判官 佐々木公 裁判官 脇田未菜子 裁判官 松野豊)
 
westlaw 名古屋 岡崎 R1.6.3 9年     保育士 (量刑の理由)
 本件各犯行は,被告人が,こども園の保育士という立場にありながら,被害者である園児らが被告人に懐いていることに乗じて,その歪んだともいえる性欲を満たすため,性的行為の意味すら理解していない被害者らに対して行った極めて卑劣な行為であるところ,一連の犯行が,中断した時期を挟んで4年間余りの期間にわたって行われている上,犯行態様をみても,自己の陰茎を被害者の陰部に押しつけたり,被害者らの口にくわえさせたり,被害者らの陰部をなめたりするなどの強度のわいせつ行為に及んでいる点で,その犯情は相当に悪質というほかはない。
 幼児に対する性的被害に関する研究を行っている専門家は本件のような性的被害が被害者らの今後の健全な生育に悪影響を及ぼす高い可能性を指摘していることを踏まえると,本件各犯行が被害者らの今後の成長に与える悪影響も強く懸念されるところであり,保育士として信頼していた被告人により自分の子どもが被害を受けたことを知った各被害者の親の処罰感情も極めて厳しい。
 以上によれば,被告人の刑事責任は相当に重く,本件が刑の執行を猶予するのが相当な事案とは到底認め難く,被告人に対しては長期の実刑をもって臨むことが相当である。
 他方,被告人は,被害者らに対して総額2300万円●●●の金銭弁償を行い,うち●●●との間では民事的示談も成立させた上で,本件各犯行につき事実関係を全て認め,反省の情を示していること,被告人の妻が今後の監督を約束しているほか,被告人が社会復帰後において精神科医師による治療等を受けることが予定されていることで,被告人の今後の更生に結び付く事情もうかがえること,被告人にこれまで前科前歴がないことなどの事情も認められるので,これらの被告人のために酌むべき事情も考慮して量定した。
 よって,主文のとおり判決する。
 (検察官●●●弁護人●●●各出席)
 (求刑 懲役12年)
 名古屋地方裁判所岡崎支部刑事部
 (裁判官 鵜飼祐充)
 
 
westlaw 千葉   H31.3.28 3年     コーチ 量刑の理由)
 本件は,スイミングクラブのコーチが,同クラブの生徒の性的部位を撮影して児童ポルノを製造したり,上記生徒らに性交類似行為をさせたりした事案である。
 被告人は,同クラブのコーチとして上記生徒らを指導していた立場を利用して,同人らが被告人の顔色を窺ってやらなくてもいいことでもやることを認識しながら,同クラブ内で,被害者Aにその乳首等を露出させてこれらを撮影したり,上記生徒らに自己の陰茎を手淫や口淫させたりしており,恫喝や厳しい叱責を伴うものではないものの,犯行態様は卑劣で,悪質である。
 これに対し,弁護人は,そもそも被告人は絶対的な権力を持っていたわけではなく,上記生徒らを小さいころから指導し,濃密な人間関係が作られていくなかで,成長した同人らに行き過ぎた行為をしてしまっただけで,コーチとしての立場の利用の程度は低く,悪質な事案ではない旨主張する。
 しかしながら,被告人は,選手コースへの会員の選抜を含むスイミング事業の運営,業務管理等のほぼ全てを一任されており,怒っているときには選手コース全体に対して無視するような態度を取ることが多かったというのであるから,上記生徒らからみれば反論できないほど強い影響力を有していたといえる。確かに,残っているLINEのやり取りの中には,同人らが,被告人を慕っていることが窺われるものや,合宿を積極的に希望するものがある。しかしながら,被告人は被害者Bと互いにわいせつな報告を消そうと話し合っていたことからすれば,残っているやり取りだけから被告人と上記生徒らの関係等を即断すべきではない。仮に同人らから性的行為を誘われたとしても,被告人は,良識ある大人として,またスポーツ指導者として,上記生徒らに対し,性的な衝動を抑えつつ,心身の健やかな成長及び発達並びにその自立を図るように指導すべきであって,同人らの言動を過度に斟酌するのは相当でない。
 被告人は,前記Aに対し,同人が中学2年生の終わり頃か中学3年生の春頃から,月に1回くらい口淫させるなどしていた。また,前記Bに対しては,同人が中学2年生の5月か6月頃から中学3年生の9月頃までの間,1週間に一,二回くらいの頻度でわいせつ行為をしていたというのであり,本件各犯行はそのような常習的犯行の一環であった。
 上記生徒らはまだ若年であり,誰にも打ち明けることができないまま長期間にわたり性的被害に遭っていたことからすれば,本件各犯行が同人らの心身の健全な発達に与えた悪影響は重大である。それにもかかわらず,未だ慰謝料が支払われていないことなどからすれば,同人らやその親が厳罰を希望するのは当然である。
 被告人は,上記生徒らとは歳が離れていて,恋愛感情がないことを分かっていながら,自己の性欲を満たすために本件各犯行に及んでおり,犯行動機は身勝手である。
 上記のとおり常習性が高いことや,当公判廷で,上記生徒らを守るためと称して,犯行状況等について曖昧な供述に終始していたこと,適切な監督者がいないことなどからすれば,再犯の可能性が大きいといえる。
 他方で,被告人には前科前歴がなく,本件各犯行を認めて反省文を作成し,二度と犯罪行為を繰り返さない旨約束していること,既に勤務先を解雇されており,社会復帰したら子供と関わらない仕事に就くつもりであることなどといった事情もまた認められる。
 以上の諸般の情状を総合考慮すると,被告人の刑事責任は重く,被告人に有利な情状を最大限考慮したとしても,その責任を全うさせ,再犯を可及的に防止するためには,被告人を相当期間刑事矯正施設に収容の上,矯正教育を施す必要があり,両親の生活を支える必要性等の点を考慮しても執行猶予を付するのは相当でない。
 したがって,主文のとおり判決する。
 (求刑 懲役4年の実刑
 千葉地方裁判所刑事第1部
 (裁判官 中村海山)
 
 

教員・保育士・シッターによるわいせつ事案の量刑理由

 判例DBから令和の事件の量刑理由が抽出しました。

 教員・保育士・シッターによるわいせつ事案の量刑理由をみても、前科の指摘はありません。

  日本版DBSでは初犯のわいせつ事件に対応できないことを示そうと思ったんですが、件数が多すぎて集計できません。

 

 

横浜地裁   H28.7.20 懲役26年     ベビーシッター (量刑の事情)
 量刑上最も重い犯罪である殺人罪についてみると,その犯行態様は,体重が100kgを超える被告人が,2歳児であるIの鼻口部を少なくとも3分から5分間にわたって手で塞ぎ続けるなどというものであって,両者の体格差は歴然としており,現場が逃げ場のない密室内であったことにも照らして,抵抗は不可能に近く,凶器を使用していなくても,生命に対する危険性の高いものであったといえる。しかも,かなり強い力で数分間にわたって塞ぎ続けるという態様から,突発的に生じた犯行であるとはいえ,強固な殺意に基づくものと認められる。以上によれば,本件犯行態様は同種事案と比較してやや悪質といえる。そして,Iが僅か2歳の幼さで将来を奪われたことは誠に痛ましいというほかなく,結果が極めて重大であることはいうまでもない。Iらの母親は,自身も被告人にだまされてIらを誘拐され,その末に大切な子の死に接することとなったのであり,その悲しみは察するに余りあり,この点も被害結果として考慮すべき事情といえる。
 本件殺人の動機は不明であるものの,その経緯についてみると,被告人は,わいせつな行為をするためにIらを誘拐し,自らの意思でIらを自己の支配下に置いた上,その目的どおりにIに対してわいせつな行為に及んだのみならず,最終的にはIを殺害するに至ったのであり,正に犯罪の上に犯罪を重ねたのであって,非常に強い非難に値する。
 次に,わいせつ誘拐の態様は,まず代役を確保してから実行に着手するなど計画的である上,別人を装ってIらの母親に接触し,預ける相手が被告人ではないように偽装するなど非常に巧妙である。また,Iに対する強制わいせつの態様も,痛々しいもので悪質である。そればかりか,被告人は,Iと一緒に誘拐したHに対する保護責任者遺棄致傷の罪をも重ねており,自分で空腹を満たすことができない生後9か月の乳児が泣いているにもかかわらず,約12時間という長時間放置しておくことは危険というほかない。実際にHの生命に重大な危険を及ぼすおそれのある低血糖症等に陥らせているのであって,救急搬送されたHがその日のうちに回復したことを考慮しても,結果を軽視することはできず,強く非難されるべきである。
 また,一連の強制わいせつ致傷,強制わいせつ,児童ポルノ製造事件は,ベビーシッターの立場を悪用し,親の信頼を裏切った上,抵抗できない多数の乳幼児らに対し,常習的に行っていたという点で非常に悪質というほかない。その態様は,ひもやガムテープを用いてわいせつな行為を行うなど陰湿であり,それにより被害児童が受けた苦痛はもとより,今後心身の成長に与える影響も懸念されるのであって,犯情として相当悪いというべきである。
 以上によれば,本件は殺人罪1件を中心とする事案の中で非常に重い部類に属するというべきであるが,殺人には計画性がなく,殺人を想定して誘拐したものでもないことなどからすると,最も重い部類に属するとまではいえない。
 その他の事情についても検討すると,被告人は,不合理な弁解をして真摯に事実と向き合っておらず,反省の情は乏しいといえる。加えて,L医師は,被告人が小児性愛障害を有すると指摘し,その治療は被告人がこれを否定している状況下ではより困難が予想される旨述べていることなどからすれば,小児に対する性犯罪に限っては再犯のおそれを否定できない。
 他方,被告人の父親の支援を受けて,強制わいせつ致傷等の被害者F,強制わいせつ等の被害者B及びA,E並びにGに対して被害弁償が一部なされていることは,被告人の有利に考慮すべき事情ではあるが,考慮する程度には限度がある。また,被告人が今後子供に関わる仕事はしない旨供述していることや,被告人の両親がそれぞれ被告人の更生に協力する旨述べていることは被告人の改善更生を期待させる事情として,僅かではあるが有利に考慮した。
 以上の事情を総合考慮すれば,検察官の無期懲役の求刑は重すぎるといわざるを得ないのであり,主文掲記の量刑をしたものである。
 (求刑―無期懲役及びスマートフォン等の没収)
 (裁判長裁判官 片山隆夫 裁判官 大森直子 裁判官 西沢諒)
東京地裁   R4.8.30 20年     ベビーシッター (量刑の理由)
 本件は、保育士の資格を有し、児童養護施設職員やシッター、児童キャンプのボランティアスタッフという立場にあった被告人が、その立場を利用して、各犯行当時5歳から11歳の被害者20名に対し、被害者の陰茎を被告人の口に入れたり、被告人の陰茎を被害者の口に入れたりして口腔性交し、性具を用いて又は就寝中で抵抗できない被害者に対してその陰茎を弄ぶなどした強制性交等22件及び強制わいせつ14件、並びにその様子をスマートフォンで動画撮影して電磁的記録媒体に保存した児童ポルノ製造20件からなる事案である。
 一連の上記犯行は、いずれも、被害者らを指導し、信頼される立場を利用し、被害者らの性的知識の未熟さに付け込んだ悪質なものであり、約4年4か月にわたり同種犯行を繰り返していて、常習性も顕著に認められる。一部の被害者は、本件被害の意味を認識し、多大な肉体的及び精神的苦痛を現に味わっているところ、幼少で被害の意味を十分に理解していない者を含め、今後の被害者らの健全な成育への悪影響も強く懸念される。しかるに、被害者らに対する慰謝の措置はとられておらず、保護者らが厳罰を望むのも当然である。
 以上によれば、本件は、同種事案の中でも、被害者の人数及び犯行の件数が際立って多い上、犯行態様も悪質であって、特に犯情の重い事案である。同種事案の量刑傾向を踏まえると、被告人が、反省、謝罪の弁を述べていること、性依存症の治療に取り組み、再犯防止に努める旨誓約していること、姉や元雇用主が被告人を支援する意向を示していること、被告人には前科がないことなどの酌むべき事情を十分考慮しても、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑 懲役25年、主文同旨の没収)

刑事第1部

 (裁判長裁判官 古玉正紀 裁判官 水越壮夫 裁判官 竹内瑞希
東京地裁   R2.10.30 3年   執行猶予 ベビーシッター (量刑の理由)
 被告人は、派遣されたシッターとして、被害児童と緊密な関係にあることを奇貨として、いまだ幼い被害児童に対して、身体の中で最もプライベートな部分である陰部を直接触るというわいせつな行為に及んだものである。犯行態様は、卑劣かつ巧妙で、被害児童の保護者の信頼を裏切り、シッター業全般の信頼性をも揺るがしかねない悪質なものである。被害児童は、現時点において既に被告人に対する嫌悪感を明らかにしており、今後成長するに伴って更なる悪影響がないか懸念されるところであり、被害結果は重大である。被害児童の父母は、その意見陳述において、本件被害による家族への影響を述べるとともに、被害児童に対する心配の気持ちを切実に述べており、示談成立後も被告人に対する適正な処罰を望んでいることも当然である。シッター業務を始めて、児童と1対1の関係になったことなどから、女児に対し性的な興味を抱くようになり、本件各犯行に及んだという動機や経緯に酌むべき点はない。
 そうすると、計画性までは認められないとしても、被告人の刑事責任は相当に重い。
 他方、示談金250万円を支払った上、被害児童の両親との間で、被告人の厳罰は望まない旨の文言を含む示談が成立していること、被告人の母が情状証人として出廷し、今後親として最大限の協力をしていく旨述べていること、被告人が各事実を認めて、反省文を書き、子供に関わる仕事はしない旨述べ、保釈中に性障害について専門医療機関のアセスメントを受け、今後は、専門医療機関で治療を受けることを約束するなどして、反省する態度や更生の意欲を具体的に示していること、被告人には前科前歴はないことなど被告人のために酌むべき事情も認められる。
 以上の事情を総合考慮して、被告人に対しては、主文掲記の刑を科した上、今回は、社会内での更生を図ることとするが、本件事案の性質・内容及び被告人の更生環境等に鑑みて、被告人の更生及び再犯防止の観点から、保護観察を付して刑の執行を猶予することが相当であると判断した。
(求刑 懲役3年)
静岡地裁 沼津 R5.2.3 5年 6月   保育士 (量刑の理由)
1 本件は、保育士である被告人が、勤務先保育園の2歳から5歳の女子園児18名に対して、約1か月の間に、着衣を脱がせて陰部や臀部等を露出させ、うち8名についてはそれらを直接指で触った上、その様子を動画撮影して児童ポルノを製造したという事案である。
2 被告人は、被害児童らが通う保育園の保育士という本来被害児童らを保護するべき立場にあったにもかかわらず、その立場を悪用し、安全であるべき保育園内において、被告人の行為の意味を理解できず、抵抗や逃れる術のない幼い被害児童らに対して、自己の性的欲求の赴くままわいせつ行為と児童ポルノ製造を繰り返したものであって、卑劣極まりない犯行であり、常習性も顕著である。わいせつ行為の程度についても、被害児童らの陰部等を露出させて撮影した上、それらに直接触れるという行為も多数含まれることからすれば、軽いとは評価できない。そうすると、暴行脅迫を用いていないことを踏まえても、本件の犯行態様の悪質性は非常に高いというべきである。
3 被害結果をみるに、被害児童らの年齢に鑑みれば、現時点では被害の意味を正しく理解できていないと考えられるが、将来の被害児童らの健全な成長に悪影響を与える可能性が懸念されることからすれば、被害結果は大きいというべきである(この点につき、被害児童らが低年齢であることをもって、精神的苦痛が小さく、ひいては被害結果が小さい旨をいう弁護人の主張は採用できない。)。そして、本件では、そのような被害を被った被害児童の数は18名と、この種事案としても著しく多数に上っているのであるから、本件の重大性は明らかである。被害児童らの保護者らが一様に被告人の厳罰を望むのも至極当然である。
  なお、弁護人は、被告人が撮影した被害児童らの画像が外部に流出していない点を有利な事情として主張するが、上記のような被害結果の重大性を大きく減じるような事情とは認められない。
4 幼児を自己の性的欲求のはけ口としたという本件の犯行動機は、身勝手というほかないのであって酌量の余地はなく、被告人の意思決定は厳しく非難されるべきである。
  なお、弁護人は、被告人が小児性愛という生来的な性質を有すること、被告人の勤務先が保育園という性的対象となる女児が多く性的誘惑の多い環境であったことから、被告人に対する非難可能性は小さい旨主張する。しかしながら、被告人が自認するところによっても、被告人は自身の性的嗜好を相応に認識した上で、あわよくば園児によってその性的嗜好を満たそうという意図を内心に秘めて、保育士の資格を取得したというのであり、実際にも令和4年6月6日に本件保育園で勤務を開始した翌日には早くも本件犯行に着手している。また、犯行の態様も、他の職員がいない機会を捉え、防犯カメラの位置を把握し、その視界外を犯行場所に選ぶなどして巧妙に犯行を繰り返し、犯行終盤には、犯行に及んだ女児と犯行未了の女児を名簿で管理した上で、犯行未了の女児を狙っている。このような経緯及び犯行態様によれば、背景に被告人の小児性愛という問題があったことを踏まえても、被告人は、本件において、自身の性的嗜好の充足という目的に向けて、一貫して合理的、合目的的に自身の行動をコントロールしていたと認められる。また、職場環境の問題をいう点も、上記経緯に照らせば、被告人は、自身の性的嗜好を満たすべく意図的に女児と接することのできる職業、職場を選び、進んで身を置いたことは明らかである。そうすると、弁護人の主張を踏まえても、被告人に対する非難を有意に減少させるような事情があるとは認められない。
5 以上によれば、本件の犯情は非常に悪質であり、被告人の刑事責任は誠に重いというべきである。そうすると、被告人が事実関係を認めた上で反省の言葉を述べ、保釈後に小児性愛について通院を開始し、相応に濃密な治療プログラムを受けるなど被告人なりの再犯防止の努力を始めていること、情状証人として出廷した被告人の父親が監督を誓約していること、被告人に前科はないことその他弁護人が指摘する被告人に有利な一般情状を考慮しても、刑の執行を猶予するのが相当でないことはもとより、刑期の点でも相当長期間の服役は免れないと判断した。
(求刑・懲役6年)

刑事部

 (裁判官 室橋秀紀)
松江地裁   R5.3.22 4年     保育士 (量刑の理由)
 本件は、当時、幼稚園教諭であった被告人が、その園児や卒園児である女児6名に対し、延べ12回にわたって、下着の上から陰部を撫でるなどした強制わいせつ12件、及びこの6名を含む11名の女児に対し、常習としてその着用する下着等を36回にわたり撮影した島根県迷惑行為防止条例違反の事案である。
 本件により、被害児やその保護者に多大な嫌悪感、不安感を与えたもので、被害児の保護者らの処罰感情にも厳しいものがある。被害児の多くは、現時点では自分のされたことの意味を理解していないかもしれないが、今後の成長につれ、その意味を真に理解する時期が来ると、今以上に辛い思いをさせ、その健全な成長に悪影響を及ぼすことすら懸念される。
 また、こういった犯行を繰り返したことで、本件幼稚園だけではなく幼稚園全体に対する信頼をも失墜させかねない面があることも見過ごせない。
 もとより、自己の性的欲求を満たすという犯行動機等に酌量の余地など微塵も認められない。
 被告人は、自身が幼い女児を性的な対象としてみている自覚がありながらあえて幼稚園教諭となり、本件幼稚園に就職してからは園児らが自身を慕い、信頼していることに乗じ、教諭の立場を悪用して本件幼稚園内や通園バス内等において本件のような犯行を重ねていたというのであるから、その犯行は卑劣かつ大胆で悪質というほかなく、被告人自身の性癖に根差すこの種の犯行の常習性も顕著であるといわなければならない。
 総じて、本件犯情は悪質というほかない。
 そうすると、強制わいせつの態様がいずれも下着の上から陰部やその付近を触るといったものであること、一部の被害児の保護者に対し、相応の弁償金を払い、受け取ってもらっていること、これまでに前科もなく、事実関係をすべて認めて謝罪の弁を述べ、今後は加害者向けの心理治療プログラムを受け続ける意向を示し、反省の態度を示していること等の事情を考慮しても、本件については主文の実刑が相当である。
(求刑-懲役6年)
大分地裁   R5.2.20 3年 6月   保育教諭 (量刑の理由)
 被告人は、保育教諭として勤務する傍ら、同僚の目を盗み、性欲の赴くまま、就寝中で無抵抗の園児の陰部を露出させた上で陰部を手指で弄んだり(判示第1)、撮影したり(判示第2)するなどのわいせつ行為に及び、また、園児が行為の性的意味を理解していないことに乗じてその下着姿を撮影したもので(判示第3)、卑劣で身勝手な犯行というほかないし、性的好奇心を満たすため児童ポルノの製造(判示第2)や所持(判示第4)に及んでもおり、児童を性的に搾取することに対する抵抗感がみじんも感じられない。
 わいせつ行為を受けた園児ら(判示第1、第2)は就寝中で被害に遭ったことを認識していないとしても、将来何かの機会に被害を認識した際に受けるであろう衝撃の大きさは、被告人に懐いていたことも相まって計り知れない(下着を撮影された園児〔判示第3〕については就寝中でもない。)。被告人のことを信頼して大切な子供を預けていた保護者らが、裏切られたというやり場のない怒り、悲しみ、苦しみを抱き峻烈な処罰感情を有するのも当然である。
 そして、本件各犯行は、平成31年から令和4年にわたり、保育教諭の職責を果たすどころかその立場を悪用してなされたもので、常習性も明らかであって、保育の制度や現場に対する安心感を強く損なうものとして、厳しい非難に値するというべきである。
 弁護人が指摘するように、本件よりも程度や態様が悪質と評価されるわいせつ行為が存在することや、本件の児童ポルノに関連するデータ等が拡散されたわけではないことは否定されないし、被告人も園児の性器内への侵襲行為は行わないなど被告人なりの線引きをしていたようではあるが、既に一線を大きく超えた上での相対評価の話であって、上記非難の程度が減じられるものでもない。
 そうすると、被告人の刑事責任は重く、被告人に前科前歴がないこと、情状証人として父親が出廷し被告人の今後の更生支援を行う旨誓約していること、被告人が事実を認め、謝罪文の作成も含め反省や後悔の態度を示していることなど有利に斟酌し得る事情を踏まえても、主文の実刑は免れない。
(求刑 懲役4年6月)
岡山地裁 倉敷 R3.1.22 1年 6月 執行猶予 学童保育施設支援員 (量刑の理由)
 本件わいせつ行為は、抵抗困難な状況の被害者に対し、相応の時間にわたって、被告人の着衣の上からその陰茎部分に触れ続けさせたものであり、その態様はかなりよくない。被害者は本件犯行により相応の精神的衝撃を受けたと見られる上、それにより将来への悪影響が懸念されることも看過できない。被告人は、判示施設の支援員としての職務に当たり、女子児童への距離が近すぎるなどとの指導を受けてきたというのに、同施設利用者に対する本件犯行に至ったもので、被告人のこの種の行動に対する規範意識の在り様には疑問がある。
 本件の犯情はよくなく、被告人の刑事責任を軽く見ることはできない。
 しかし、被告人は、弁護人を介して、被害者側との示談を成立させ、被害者の保護者は、被告人への厳しい処罰は望まない旨の意思を示した。そして、被告人は、その認識の範囲内においては事実関係を認め、謝罪と反省の言葉を口にした上、今後は児童への福祉や教育の現場から離れて稼働するとの意思を示し、被告人の父は、当公判廷に出廷し、同人の認識に基づいて被告人を監督していく旨誓約した。加えて、被告人に前科はない。
 以上によれば、被告人に科すべき懲役刑については、その執行を猶予する情状があるものと判断した。
横浜地裁   R3.9.6 10年     保育士 (量刑の理由)
1 犯情について
(1) まず、本件の量刑判断の中核となる判示第1~第5の各強制わいせつについて検討する。
  被告人は、保育士として、平成26年1月から平成27年3月までの間はW保育園に、平成30年から令和元年11月までの間はY保育園に勤務していたものであるが、判示各強制わいせつは、被告人が、平成26年8月から平成31年4月までの間に、W保育園の園児である被害者A(当時4歳又は5歳)に対し6件、卒園後の被害者A(当時6歳)に対し2件、Y保育園の園児である被害者B(当時3歳)に対し2件、同保育園の園児である被害者C(当時3歳)に対し1件と、約4年8か月の間に合計11件もの強制わいせつに及んだものである。
  幼い園児等を狙って多数回繰り返された常習的な犯行である上、犯行態様も、現行刑法では口腔性交に該当する口淫や被害者の陰部に自己の陰茎を押し当てるなど性交と紙一重のものなど、強制わいせつの行為態様の中でほぼ上限と見得る強度のわいせつ行為が含まれてもいることから、悪質性は甚だしいというほかない。ことに、被告人は、一部の犯罪事実を除いて、前記のとおり保育園の保育士という立場にあり、園児を保護すべき職責を担っていたにも関わらず、従前から密接な関係にある園児等が被告人を信頼していることに乗じ、当時勤務していた保育園内という園児の安全が保障されるはずの場所において、抵抗力の乏しい幼児に対し強制わいせつに及ぶなど卑劣さは際立っており、加えて、わいせつ行為の際に犯行状況を撮影してもいるから悪質性は一層顕著であって、厳しい非難を免れない。
  年少の被害者らが本件各強制わいせつによって受けた精神的肉体的被害も重大であって、今後、犯行の意味を理解した際に受けるであろう精神的苦痛にも深刻なものがあると思われる。このことからも犯行結果の重大さが裏付けられている。
  被告人は、被害者らに恋慕の情を抱いて将来の結婚相手と考え、早くから性行為に慣れさせるためわいせつ行為に及んだ旨を供述する。その内容自体甚だ不自然不合理なものというほかないが、この供述を前提にしても、犯行動機は、結局は身勝手なわいせつ目的によるものであって、当然ながら酌量の余地などない。
  以上によれば、判示各強制わいせつにかかる犯情は甚だしく悪いというほかなく、被害者の保護者らが被告人に対する厳罰を求めるのも至極当然である。
(2) さらに、判示第6(未成年者略取)については、オンラインゲームで知り合った当時9歳の被害者をその手足をガムテープで巻いて段ボール箱に押し込むなどして自動車で連れ去り約2日間にわたって支配下に置き、被害者及びその両親に多大な精神的苦痛を与えたものであるから、計画性はなく、被告人は最終的には被害者を帰宅させようと考えていた等の弁護人の指摘を踏まえて検討しても、犯情は決して良くないのであって、両親の処罰感情が厳しいのも十分理解できる。
  また、判示第7(児童ポルノである電磁的記録媒体を内蔵したパソコン所持)についても、被害者Aに対する強制わいせつ事件の際に撮影した動画データを自慰の際に視聴するため所持していたものであるから、やはり犯情は悪い。
(3) そして、関係証拠によれば、以上の各犯行、特に判示各強制わいせつ及び判示第7については、被告人の幼児に対する異様な執着、特異な性的嗜好を背景とする根深い犯罪傾向に基づいて敢行されたものであることがうかがわれ、この点からも犯情の悪さが一層裏付けられている(なお、検察官が園児らに対する多数のわいせつ行為や願望が記載されたと主張する「系譜」と題する書面(甲95)について検討すると、関連性や証拠収集の適法性等の点を含めて証拠能力に問題はないから、証拠排除を求める弁護人の主張は理由がないが、他方で、検察官の論告における各指摘を十分に踏まえて検討しても、被告人が供述するように妄想や創作的要素を相当程度混在させて作成されたとの疑いは排斥しきれず、結局、上記「系譜」から検察官が指摘する被告人の性的嗜好や性癖、性的願望等を直ちに推認できるとまではいい難い。)。
  なお、被告人は、園児らに対する判示各強制わいせつにとどまらず、これとは異なる態様の女児に対する犯罪(判示第6)に及ぶに至るなど犯罪傾向の拡大も懸念される。
(4) 以上によれば、被告人の刑事責任は誠に重大といわなければならない。
2 一般情状について
  被告人は、当初、年少者に対するわいせつ行為を処罰することへの疑問、強制わいせつ行為に及んだ理由に関する独自の見解等を述べており、自らが犯した判示各犯行に真に向き合っているのか疑問もないではないが、相当長期間にわたり身柄を拘束されて反省の機会を与えられ、公判期日においては、判示の各事実自体については認めて被告人なりの反省の言葉を述べた上、今後、専門のクリニックに継続的に通院し小児性愛に関する治療を受け、二度と今回のような犯罪に及ばない旨を述べてもいるから、その限度では斟酌すべき事情があると見ることが可能である。
  また、被告人は、判示強制わいせつの被害者2名(A、B)に対して合計300万円の(弁15、16)、判示未成年者略取の被害者Dに対して300万円の各被害弁償をしており(弁14)、各犯行の罪質に照らして考慮できる程度は限られているとはいえ、量刑上無視できない額の被害弁償がされたことは間違いないのであって、それ以外の被害者Cにも被害弁償の申入れをするなど被害弁償に努めている点を含めて、被告人のために一定程度斟酌すべき事情があるといえる。
  以上に加えて、被告人には本件の量刑上考慮すべき前科がないこと、被告人の実母が情状証人として出廷し、母親としての責任を痛感し今後の指導監督を行う旨述べていることなど、被告人のために考慮し得る一般情状も認められる。
3 結論
  以上の一般情状は認められるとはいえ、既に指摘したとおり、本件の刑事責任が誠に重大であることに照らせば、被告人については主文の懲役刑は免れないと判断した。
(求刑・懲役15年、主文同旨の没収)

第2刑事部

 (裁判官 青沼潔)

(別紙1) (省略)

(別紙2)
津地裁   R4.11.4 3年     教諭 (量刑の理由)
 本件は、小学校低学年の児童2名に対して、それぞれパンツの中に手を入れ、手指で陰部を弄んだという強制わいせつ事件であり、そのうちの1件は被告人が被害児童の担任であった当時の犯行である。陰部を直接手指で弄ぶという態様は悪質で、被害児童らの性的な知識が未熟であることにつけ込む卑劣な犯行であり、その手口等からして常習性がうかがわれる。被害児童らは、本来、信頼してよいはずの学校の先生に性的自由を大きく侵害されており、その精神的苦痛の大きさは計り知れない。実際に、Aは、事件のことを思い出すこと等から転校を余儀なくされ、Cは、被害の意味が徐々に分かってきて、学校に通えなくなっている。被害者らの成長に深刻な影響を与えたことが強く懸念される状況にあり、各被害児童の保護者が被告人の厳罰を求めるのは当然である。
 以上に加え、被告人は被害児童らに何ら慰謝の措置をとらず、反省の態度がみられないことに照らせば、被告人に前科前歴がないことなどの被告人に有利な事情を最大限考慮しても、執行猶予を選択する余地はなく、主文の実刑が相当であると判断した。
 (検察官岡安広生、藤田琴花、私選弁護人(主任)出口聡一郎、松本浩幸各出席)
 (求刑―懲役6年)
 令和4年11月7日
 長崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 潮海二郎 裁判官 芹澤俊明 裁判官 吉澤孝)
 
前橋地裁 太田 R5.2.7 3年   執行猶予 塾講師 (量刑の理由)
 本件は、被告人が、自らが経営するプログラミング教室の生徒であった僅か10歳の被害者の陰茎を触るなどした強制わいせつの事案である。被告人は、男子児童に性的なことも教えてあげたいという気持ちなどから、被害者の心情を顧みずに本件犯行に及んでおり、その動機は身勝手極まりない。被告人は、自らの塾講師としての立場を利用して、指導すべき対象の塾生に対して本件犯行を敢行しており、その手口は卑劣である。犯行態様は、被害者のズボンと下着を脱がせ、被害者の陰茎を直接手で触ったり、陰茎に電動マッサージ機を当てるなどしたものであって悪質である。被害者は、事件後、被害現場付近に近づくことに嫌悪感を示し、被告人に対する恐怖を口にするなど、肉体的な苦痛を被ったのみならず、その精神的苦痛は大きく、将来のある被害者の成長過程に影響を与えることが懸念され、被害者の実母が被告人の厳重処罰を望むのも当然である。これらの事情を考慮すると、被告人の刑事責任は重い。
 一方、被告人の犯行は、前記のとおり、非難の程度は大きいものではあるが、被害者に強度の暴行や脅迫は加えてはおらず、本件犯行の態様や結果、同種事案の量刑傾向を踏まえると、本件が刑の執行を猶予することが許されない事案であるとまではいえない。そして、被告人が本件犯行を認めて反省の弁を述べていること、被告人の母が当公判廷において被告人の身元引受けを誓約していること、被告人に前科前歴がないことなど、被告人のために酌むべき事情が認められる。そこで、被告人に対しては、主文の刑に処した上で、猶予期間を最長の5年間としてその執行を猶予するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役3年)
 前橋地方裁判所太田支部
 (裁判官 竹村友里)
長崎   R4.11.4 3年   一部無罪 教諭 (量刑の理由)
 本件は、小学校低学年の児童2名に対して、それぞれパンツの中に手を入れ、手指で陰部を弄んだという強制わいせつ事件であり、そのうちの1件は被告人が被害児童の担任であった当時の犯行である。陰部を直接手指で弄ぶという態様は悪質で、被害児童らの性的な知識が未熟であることにつけ込む卑劣な犯行であり、その手口等からして常習性がうかがわれる。被害児童らは、本来、信頼してよいはずの学校の先生に性的自由を大きく侵害されており、その精神的苦痛の大きさは計り知れない。実際に、Aは、事件のことを思い出すこと等から転校を余儀なくされ、Cは、被害の意味が徐々に分かってきて、学校に通えなくなっている。被害者らの成長に深刻な影響を与えたことが強く懸念される状況にあり、各被害児童の保護者が被告人の厳罰を求めるのは当然である。
 以上に加え、被告人は被害児童らに何ら慰謝の措置をとらず、反省の態度がみられないことに照らせば、被告人に前科前歴がないことなどの被告人に有利な事情を最大限考慮しても、執行猶予を選択する余地はなく、主文の実刑が相当であると判断した。
 (検察官岡安広生、藤田琴花、私選弁護人(主任)出口聡一郎、松本浩幸各出席)
 (求刑―懲役6年)
 令和4年11月7日
 長崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 潮海二郎 裁判官 芹澤俊明 裁判官 吉澤孝)
 
宮崎 延岡 R4.2.25 3年   執行猶予 教諭  (量刑の理由)
 本件は,教師である被告人が,その生徒である被害児童に対し,自己の陰茎を露出して見せつけ,近付けるなどし,強制わいせつに及んだ事案である。
 被告人は,スリルを味わいたい,被害者の反応を楽しみたいといった身勝手な理由で,前記のとおり,被害児童がその場から離れることが心理的に困難な状況を利用し,長時間にわたって,自己の陰茎を執拗に見せつけ,近付けるなどの行為をした。本件犯行は,被害児童の人格を一顧だにしない,非常に悪質な犯行である。被告人が陰茎を被害児童に接触させていない点を踏まえても,被害児童の性的自由が侵害された程度は決して小さくない。しかも,被告人は,自認しているだけでも約6か月間にわたって被害児童に対して同様の行為を繰り返したというのであり,被害児童は,被告人によって口止めされ,被害を申告することもできずに,長期間にわたる被害を受け続けた。そればかりか,被害児童は,本件行為に耐えかねて被害を申告したのに,被告人が捜査段階で犯行を否認したばかりか,被害児童が自分を陥れようとしていると供述するなど被害児童に責任転嫁する態度を取ったこともあって更なる苦痛を強いられた。本件及びその前後の経緯によって被害児童が被った精神的打撃は重大である。被告人は,本来,教師として被害児童を指導・庇護すべき立場にありながら,あろうことかその立場を悪用して本件犯行に及んでおり,強い非難に値する。以上の事情からすれば,本件の犯情は,陰茎を接触させていない点を踏まえても,強制わいせつ事案の中で軽い部類に属するとはいえず,実刑の可能性も排斥されないということができる。
 さらに,一般情状を検討するに,被告人は,自業自得とはいえ懲戒免職処分を受けるなど一定の社会的制裁を受けている。また,現段階までに60万円の被害弁償を申し出ており,引き続き,被害回復に向けた努力をする意向を示している。そして,被告人は,公判において犯行を自白し,反省及び謝罪の弁を述べていること,被告人の妻が今後の監督を約束していること,前科がないことなど被告人に有利に斟酌すべき事情が認められる。これらの事情を考慮すると,被告人に対しては,直ちに実刑に処すよりも,社会内において,改めて被害児童に与えた被害の大きさと向き合い,最大限,被害弁償の措置を尽くさせることで,その更生を図ることが相当であると判断した。
 そこで,主文の懲役刑に処し,その刑事責任を明らかにした上,今回に限り,その執行を猶予することとし,主文のとおり判決する。
 (検察官小嶋陽介,国選弁護人成合陶平 各出席)
 (求刑 懲役3年)
 宮崎地方裁判所延岡支部
 (裁判長裁判官 大淵茂樹 裁判官 中出暁子 裁判官 高木航)
 
福井   R3.7.2 2年 4月   保育士 【量刑の理由】
 被告人は,保育士という幼児の養護及び教育を責務とする立場にありながら,その立場を利用し,まだ幼くその行為の意味を理解できず抵抗しない担当クラスの幼児2名に対し,合計3回にわたりわいせつな行為をした。このような被害者との関係性,被害者の属性,被害人数及び件数を踏まえれば,本件は極めて卑劣で悪質な犯行であるというべきである。
 将来被害者らが,被告人にされた行為の意味を理解し又は知った時のショックは計り知れず,健全な成育への悪影響も懸念される。被害者らの家族が峻烈な処罰感情を有しているのも当然のことである。
 一方,本件各犯行の態様は,暴行や脅迫を伴うものではないという点では穏当といえ,被害者らが実際の恐怖心を感じたとは認められない。しかしながら,暴行や脅迫をその要件としない刑法176条後段の罪において,この点を過度に被告人に有利に評価することはできない。
 以上の点に加え,本件各わいせつ行為をスマートフォンで撮影した児童ポルノ製造の罪3件も併せ考えれば,被告人の行為責任は相応に重く,被告人に前科前歴がないことなどを踏まえても刑の執行を猶予できる事案ではない。
 被告人はまだ若く,真摯に反省し,自己の性的嗜好と向き合い,2度と同様の犯行をしないよう,ワークブックの実践やカウンセリングへの通院をしている。さらに,今後は保育士として就労することはせず子供に近寄らない旨を誓約し,母親も監督を誓約している。本件は,再犯可能性が高い犯罪類型には当たるものの,以上の点からすれば,被告人の更生には一定の期待が持てる。しかしながら,前記のとおり,行為責任の観点から実刑はやむを得ないから,これらの点は刑期の面で十分に考慮することとする。その他,Aとの間で,宥恕の意思が示されているわけではないものの示談が成立していること,余罪被害者2名との間でも示談が成立していること,本件は広く報道され,一定の社会的制裁を受けていることなども考慮した上で,主文のとおりの刑を科す。
 (求刑 懲役3年6月,主文同旨の没収)
 福井地方裁判所刑事部
 (裁判官 日巻功一朗)
 
熊本   R3.5.20 3年     教諭 (量刑の理由)
 本件は,小学校の教諭であった被告人が,同小学校に通う当時9歳又は10歳の女子児童に対して,学校内で,自己を相手とする性交類似行為をした児童福祉法違反(判示第1)と,わいせつな行為をした強制わいせつ(判示第2)の事案である。
 判示第1の犯行について見ると,被告人は,複数回にわたり,着衣の中に手を差し入れてその膣内に自己の手指を挿入するなどしており,被害者の性的自由に対する侵害の程度が大きい行為に及んでいる。また,判示第2の犯行では,当時理科室には他の児童もいたというのに,被告人は,大胆にも,被害者の着衣の中に手を差し入れて,直接その両胸を複数回撫で,さらには,下着の上からその下腹部を撫でるなどして,執拗にわいせつな行為をしている。このように,被告人は,学校の教諭という立場を利用して卑劣で悪質な犯行を重ねており,その意思決定は強い非難に値する。
 被害者は,本来信頼してよいはずの学校の先生から,肉体的・精神的苦痛を伴う性的な被害を受けたのであって,未だ幼い被害者の心身に与えた悪影響は大きく,今後の健全な成長への影響も懸念されることからすれば,被害者の両親が被告人の厳罰を望むのは当然である。
 以上に指摘した本件犯情の悪さからすれば,被告人が各犯行を認めていることや,被害者に対して謝罪の言葉を述べていることのほか,前科が見当たらないこと,被告人の弟が更生への協力を申し出ていること,被告人において,約100万円を供託し,供託金取戻請求権を放棄していること,本件により懲戒免職処分を受けたこと等の事情を最大限考慮しても,本件が刑の執行を猶予するのが相当な事案であるとは認められない。被告人は,主文の実刑を免れない。
 (求刑―懲役4年)
 熊本地方裁判所刑事部
 (裁判官 山口智子
 
高知   R3.4.13 1年 6月   教諭 (量刑の理由)
 本件は教諭として中学校に勤務し,部活動の顧問として指導していた部員の1人である被害者に強いてわいせつな行為をしたという事案である。その犯行態様は2晩にわたって畏怖困惑して全く抵抗できない状態の被害者に判示のとおりのわいせつ行為を行うという執拗かつ悪質なものであり,本件は成人男性としての分別はもとより教諭や部活動の顧問としての良識をも欠くこと甚だしい事案である。14歳の中学生である被害者が被った精神的打撃は大きく,被害者は現時点でも心身の不調を訴え,殆ど登校することも出来ない様子であり,被告人を信頼して我が子を合宿に参加させた両親は多大な衝撃を受けており,激しい憤りを表明している。被害者やその両親が被告人の厳重処罰を求めるのも当然である。
 以上の検討結果によれば,本件はこの種事犯の中でも相応の当罰性を有しており,相当程度の慰謝の措置が取られない限り,実刑は免れない事案である。この点に関し,被告人は被害者に150万円を一括して支払う旨の被害弁償の提示をしたが,被害者側に受領を拒否された状況であり,現時点において相当程度の慰謝の措置が取られたとは認め難く,実刑は免れない。もっとも,刑期については,以上の諸事情に加え,被告人が前科・前歴を有しておらず,一応反省の態度を示していることなどをも考慮し,主文の程度とするのが相当と判断した。
 (求刑・懲役2年6月)
 高知地方裁判所刑事部
 (裁判官 吉井広幸)
 
千葉   R3.3.6 3年 6月   教諭 (量刑の理由)
 本件は,小学校の講師であった被告人が,自らが担任を務めるクラスの女子児童3名に対し,手で直接陰部を触るなどの行為に及んだ強制わいせつの事案である。
 本件各犯行は,担任という立場を利用し,当時小学校1年生である各被害者がクラス担任として長時間行動を共にし被告人に全面的な信頼を寄せていたことにつけ込んで敢行された卑劣で悪質なものである。犯行態様は,授業中,休憩時間や給食の時間に,外側から内部の様子を確認することのできない倉庫内に各被害者を連れ込み,下着などを脱がせた上,陰部を直接手で触るというものであって,いずれも短時間ではあったが,各被害者の性的自由を害する程度も小さくない。各被害者は,全面的な信頼を寄せていた担任から性的被害を受けたのであって,各被害者が今後成長していく過程で本件被害のことを思い出すことなどにより,大きな精神的苦痛を及ぼしかねず,それぞれの健全な成長に悪影響を及ぼすことも懸念される。各被害者の保護者が被告人の厳罰を望むのは当然のことである。上記のとおりクラスの担任という立場を悪用した悪質な犯行を3回も繰り返したということも考慮すると,被告人の刑責は重いというべきである。
 以上に加え,被告人が,各犯行を否認し,一切の反省の態度が認められず,各犯行について格別被告人に酌むべき事情はないところ,同種事犯の量刑傾向も踏まえて検討すると,被告人にこれまで前科前歴がないなどの被告人にとって酌むべき事情を考慮しても,主文掲記の実刑に処するのが相当であると判断した。
 (求刑:懲役5年)
 千葉地方裁判所刑事第5部
 (裁判長裁判官 小池健治 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 髙橋真歩)
千葉 松戸 R3.3.1 6年     保育士 (量刑の理由)
 本件は,保育園に勤務する保育士がそこに通う児童3名に対して強制性交等1件及び強制わいせつ2件に及んだ事案である。
 被告人は,保育士として児童や保護者から全面的に信頼を付与される立場にありながら,被害児童らが被告人を慕っていたことを悪用して本件を重ねており,被害児童らの尊厳を踏みにじる悪質なものである。他の職員の目を盗み,保護者への発覚を防ぐため被害児童らに口止めをしている点も卑劣といえる。被害児童らは,安心して過ごせるはずの場所で信頼する被告人から手淫等のわいせつ行為や口腔性交を受けたもので,被害児童及びその保護者らの精神的な痛手は大きく,被害児童らの健全な成長に悪影響を及ぼすことも懸念される。被告人は,被害児童や保護者らの心情を顧みることなく,自己の性的欲求を満たすため,本件に及んでおり,その動機は身勝手極まりないものである。通院先から忠告されていたのにこれを無視して本件施設に勤務するなどしたその経緯からも,性犯罪に対する被告人の性向の根深さがうかがわれる。
 このように,本件事案の客観的な重さの程度や被告人の法益軽視の自己本位的な意思決定及びこれに付随する犯罪性向は強い責任非難に値し,同種事案の量刑傾向にも照らすと,本件は同種事案の中でも比較的重い部類に属し,後記一般情状を十分に考慮しても,刑の全部執行猶予が相当でないことはもとより,酌量減軽すべき事案でもないことが明らかである。
 そこで,一般情状をみると,被害児童の保護者らや保育園関係者の処罰感情が厳しいのは当然である一方,被告人において,事実を認め反省の弁を述べていること,Bに対して200万円の被害弁償を済ませ,C及びAとの関係では各100万円の被害弁償を行う準備をして弁護人に預託していること,再度性犯罪防止プログラムを受講する意向を示すなど更生の意欲がみられること,実父が今後の監督を申し出ていること,前科前歴がないこと等,被告人にとって有利な事情も認められる。
 そこで,以上の犯情及び一般情状を併せ考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役7年)
 千葉地方裁判所松戸支部刑事部
 (裁判長裁判官 本間敏広 裁判官 新崎長俊 裁判官 本田真理子)
 
 
福井   R3.2.26 3年   保護観察 教諭 (量刑の事情)
 本件各犯行は,いずれも下着を脱がせて直接その陰部を触るというもので,被害児童に強い屈辱感や羞恥心を生じさせる悪質な態様である。個別に被害児童らを呼び出して,二人きりになる機会を作出するなど,計画的でもある。手段として暴力や脅迫的言辞を伴うものではないが,教師という立場の小学生に対する圧倒的優位に乗じた犯行という点で,その悪質性に遜色はない。そして,被害児童らは,その人格を軽視した犯行にさらされ,それぞれ現に嫌悪感を抱いている上,成長に伴って傷つきを深めることも強く懸念される。
 なお,被告人は,性器に関する教育を施す意図があった旨供述するが,このような意図を標榜すること自体から,本件が常習的犯行の一環であったことをうかがえる。そして,このような意図からは被害児童の性器を触る必要までは生じ得ないこと,被告人が学校側に一切を相談・報告していないこと,被害児童に対して口止めをしていたこと等に照らせば,本件各犯行は,専ら被告人の性的欲求が発露したものであって,教育の意図というのは,被告人が犯行を正当化するために身勝手にもそう思い込もうとしたに過ぎないものと見るべきである。
 以上によれば被告人の刑事責任は重く,同種事案の量刑の動向に鑑みると,実刑を検討して然るべき事案といえる。
 しかしながら他方,被害の回復とは到底評価できないものの,判示のうち2件については宥恕文言を含む示談が成立し,残る1件に関しても示談に向けた努力はされているようにうかがわれる。また,被告人は,当然ながら失職しており,法廷で自己の過ちについては認めた上,医療的なケアを受けたり今後は児童に関わらない職に就くなどして再犯防止に努める姿勢を示している。同居の両親もそれぞれの立場から被告人を監督・支援することを約している。このように,若年で前科のない被告人を直ちに実刑に処するにはやや躊躇を覚える事情も見受けられるところである。
 そこで,被告人に対しては,最長期の執行猶予を付し,その間,保護観察所による専門的指導を受けさせることによって更生と再犯防止を期すのを相当と認め,主文の刑を量定した。
 (求刑 懲役4年)
 福井地方裁判所刑事部
 (裁判官 西谷大吾)
大阪   R2.12.9 2年     保育士 (量刑の理由)
 保育園職員であった被告人が,同保育園において,同園の5歳児の被害者2名に対し,同人らがプール遊び後全裸でいた際,胸や陰部付近を触ったり,胸をもんだりするなどしており,本件は,幼くわいせつ行為の意味も理解しておらず全く抵抗しない被害者らに対し,保育園職員としての立場を利用して行われた犯行であって,被告人の行ったわいせつ行為が短時間にとどまることを踏まえても,卑劣で悪質な犯行である。被害者らは,毎日通っていた保育園で,親しい職員であった被告人から,突然,胸や陰部を直接触られるといった被害を受けており,本件各犯行が被害者らの今後の健全な育成に悪影響を与えることが強く懸念され,各被害者の母親が被告人に対し厳重な処罰を求めるのも至極当然のことである。他方,被告人は,被害者らに対し何らの慰謝の措置も講じていない。
 また,被告人は,わずか1か月の間に園児に対するわいせつ行為を2回も行っている上,目撃者の面前で堂々と犯行に及んでおり,この種事犯に対する抵抗感が相当に低下しているといわざるを得ず,その意思決定は強く非難される。
 以上に照らすと,被告人の刑事責任は相応に重いというべきである。
 そして,被告人が本件各犯行を否認し,反省の態度がみられないこと,前科前歴がないことなどの事情も考慮すると,主文の刑が相当である。
 (求刑 懲役3年6月)
 令和2年12月10日
 大阪地方裁判所第8刑事部
 (裁判長裁判官 松本圭史 裁判官 後藤有己 裁判官 加納紅実)
 
 
 〈以下省略〉
 

援助交際の機会の強制性交の無罪判決(大津地裁R5.2.3)

 被害者の調書だけですね。

強盗・強制性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制性交等、強姦被告事件
津地方裁判所判決令和5年2月3日
【判示事項】 1 適応障害のため公判廷に出廷できないとされた被害者の検察官調書が刑訴法321条1項2号前段の書面に該当するとされた事例
       2 上記調書の信用性が否定された事例
【参照条文】 刑事訴訟法321-1
       刑事訴訟法318
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
【一部無罪の理由】
第1 E事件の公訴事実の概要等
 令和3年10月1日付け起訴状記載の公訴事実(以下「E事件の公訴事実」という。)は、「被告人は、E(当時21歳)と強制的に性交をしようと考え、令和元年12月5日、滋賀県長浜市(以下略)K2東側駐車場に停車させた自動車内において、Eに対し、「ごめんな、俺、実はヤクザやねん。」「君らみたいなお金をもらってパパ活とか援交する子がいると、ヤクザが営業している風俗店の売上げが落ちるから、やめさせなアカン。」「お金はあげんけど、今から俺とやってもらう。」「動画も撮らせてもらう。」「個人情報を全部書いてもらう。」などと言って脅迫してその反抗を抑圧し、強制的にEと性交をした。」というものである。
 この公訴事実を立証する主たる証拠は、Eの検察官に対する供述調書抄本(甲A57、以下「E調書」という。)である。当裁判所は、E調書につき、刑事訴訟法321条1項2号前段により採用した上で、E調書の信用性を直ちに認めることは困難であり、被告人が、E事件の公訴事実記載の行為に及んだと認めるには、合理的な疑いが残ると判断した。以下、その理由を説明する。
第2 E調書の証拠能力
 1 弁護人は、E調書は、同条1項2号前段の要件を満たさず証拠能力がないから、証拠排除すべきである旨主張する。
 2 当裁判所は、証人尋問を採用後、その日程調整の過程で、検察官が、Eが証人尋問の出廷を拒み、Eを診察した医師が、Eが適応障害であり、証人出廷期日をEに伝えると適応障害の症状が悪化する旨の意見を述べていることなどを理由にあげ、E調書につき、同条1項2号前段に該当する書面として取調べを請求したのに対し、Eを診察したL2医師の証人尋問、検察官作成の捜査報告書(甲A89)の取調べの結果を踏まえ、同条1項2号前段によりE調書を採用した。
 捜査報告書(甲A89)によれば、Eは、検察官らからの証人出廷の依頼に対し、強い不安感を抱き、吐き気や手の震え等の身体症状を呈するほど精神状態が悪化し、そのことなどを理由に出廷に応じず、何度も警察官らの連絡を拒むなどして、出廷を拒絶する態度を示していた。そして、警察の紹介によりEを診察した精神科医である証人L2の公判供述によれば、Eは裁判に出廷して被害事実を思い出して話すことをストレス因とする適応障害であると診断し、無理をして出廷させると症状が重くなり、場合によっては、日常生活を送ることができなくなる可能性があるというのである。
 そうすると、Eは、精神の故障により、裁判所に出廷し、公判期日等において供述することができないものと認められ、Eの適応障害の主たる原因である出廷して被害事実を思い出すという状況は、証人尋問の方法や時間の経過によって解決できる見込みのないものであるから、同条1項2号前段の供述不能に該当すると認められる。弁護人は、供述できるような外的状況を作り出して確認することを要する旨主張するが、前記のような経過からすれば、Eが任意に証人として出頭することは期待できないし、出頭を拒む正当な理由があり、召喚した上で勾引するなど強制的手段をとるのも相当ではなく、弁護人の主張は採用できない。
第3 E調書の信用性
 1 E調書の概要
 E調書において、令和元年12月、ツイッターのダイレクトメッセージを送ってきた犯人から、2万円か3万円かをもらって性交等する約束で会うことになった旨、犯人の運転する車に乗り、犯人は、周囲が真っ暗の空き地に車を止め、E事件の公訴事実記載の文言を告げた旨、Eは犯人から渡された紙に個人情報を書いた旨、犯人に指示されて後部座席に移動し、服を脱いでと言われて指示に従い、その後、陰部に指を入れられたり、性交されたりした上、撮影された旨、Eの実家近くで解放された旨のEの供述が録取されている。
 2 E調書の信用性
 検察官は、E調書が具体的かつ詳細であり、その内容に不自然な点は見当たらないこと、当時の心境を交えながら供述されており、迫真性に富むものであること、被告人のアプリ内に保存された客観的な証拠と合致していること、虚偽供述をした可能性は皆無であることなどをあげて、E調書が信用できる旨主張する。そして、実際、E調書では、なぜ当初の約束になかった撮影をしての性交に至ったのかといった経緯についても、当時の心境を交えて具体的に供述されており、性交に至る経緯について格別不自然、不合理な点があるわけではない。
 しかしながら、E事件では、Eと被告人が会って性交したことや、被告人がやくざなどと言って脅したこと自体は争いがないのであるから、その点の内容が具体的であったり、迫真性があったりすることや、客観証拠と合致していることは、信用性を支える重要な要素とはいえ、決め手となるわけではない。
 また、E調書は、事件発生から1年10か月近く経過して作成されたものであるため、信用性判断のためには、事件発生から調書作成時点まで記憶を正確に保持できていたのかが重要であることに加え、Eは周囲の期待に何とか応えようとする性格で、本件の捜査に当たった捜査関係者に協力しようとする姿勢が非常に強いと指摘されていること(前記L2医師の公判供述)からしても、捜査機関による誘導等の有無については特に慎重な吟味が必要である。それにもかかわらず、E調書では、他の前記7事件と同様に警察の捜査によって被害者に接触したことが契機なのかといった被害申告の経緯や、捜査機関による記憶喚起の有無・程度やその過程等が示されておらず、信用性を吟味するための前提がない。加えて、E調書では、一連の被害の再現状況の説明において「順番が少し違っているかもしれない」とあるが、どの部分についてなのかが明確でなく、出来事の順序が争点となっている本件ではこの点に関する吟味は不可欠である。以上の点は、本来、他の前記7事件でなされたように証人尋問、とりわけ反対尋問を経て検証され吟味されるものであるところ、これがないままにE調書が信用できるとの確信を抱くことができない。被告人の供述が信用できないからといって、E調書の信用性が高まるというものでもない。
 3 結論
 そうすると、被告人がE事件の公訴事実記載の行為に及んだとのE調書の信用性に疑問が残り、本件においては、E調書以外にはこれを立証する証拠は存在しないのであるから、被告人がE事件の公訴事実記載の行為に及んだことについては、合理的な疑いが残るというべきである。
 よって、E事件の公訴事実については犯罪の証明がなく、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の判決の言渡しをしなければならない事由があるから、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律79条により、部分判決でその旨の言渡しをすることとする。

やっぱり「本改正により規定を明確化することによって、これまで現行法の下でも十分な当罰性が認められるにもかかわらず、性犯罪に直面した被害者の心理や行動に関する理解が十分に深まっていなかったことともあいまって、実務上、起訴や有罪の認定をちゅうちょすることがあり得た事案が処罰されやすくなるという意味においては、実際に処罰される事案が多くなる可能性がある」という改正だったな

やっぱり「本改正により規定を明確化することによって、これまで現行法の下でも十分な当罰性が認められるにもかかわらず、性犯罪に直面した被害者の心理や行動に関する理解が十分に深まっていなかったことともあいまって、実務上、起訴や有罪の認定をちゅうちょすることがあり得た事案が処罰されやすくなるという意味においては、実際に処罰される事案が多くなる可能性がある」という改正だったな


刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】令和五年二月法務省
○第176条(不同意わいせつ)及び第177条(不同意性交等)【説明】
1趣旨及び概要
現行の刑法第176条から第178条までの罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益としており、これらの罪の本質は、性的行為を行うかどうか及び誰を相手方として行うかについての自由な意思決定(以下「自由意思決定」という。)が困難な状態でなされた性的行為を処罰することにある。
現在の実務は、「暴行又は脅迫を用いて」や「心神喪失」・「抗拒不能」といった要件に該当するかどうかの判断の中で、自由意思決定が困難な状態でなされた性的行為といえるかどうかを判断していると考えられるが、成立範囲が限定的に解されてしまう余地があるとの指摘等がなされていることを踏まえると、
○現行の刑法第176条から第178条までの罪の本質的な要素である「自由意思決定が困難な状態でなされた性的行為かどうか」という点を「暴行又は脅迫を用いて」や「心神喪失」・「抗拒不能」という要件の中に読み込むのではなく、より分かりやすい文言を用いて整理して規定することとすることが必要かつ相当であると考えられる。
具体的には、まず、
○自由意思決定が困難な状態でなされたという本質的な要素を条文上明確にするため、これを示す要件として、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」又は「その状態にあることに乗じて」と規定する
こととする。
その上で、現行法の下において積み重ねられた処罰範囲を前提として、当該状態にあることの要件該当性の判断を容易にし、安定的な運用を確保する観点から、○当該状態の原因行為又は原因事由をより具体的に例示列挙する(注1・2)こととする。
以上の構成をとることに加えて、現行の刑法第176条から第178条までの罪は、その本質が共通することなどから、
○強制わいせつ罪(同法第176条前段)と準強制わいせつ罪(同法第178条第1項)
○強制性交等罪(同法第177条前段)と準強制性交等罪(同法第178条第2項)をそれぞれ統合して再構成することとする。
これに伴い、「強制わいせつ」、「強制性交等」との見出しについても、性的行為に同意していないにもかかわらず、その意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態で行われた性的行為を処罰するものであることを表すものとして、「不同意わいせつ」、「不同意性交等」に改めることとしている。
(注1)「暴行又は脅迫」や「心神喪失」・「抗拒不能」を認定した裁判例のほか、性犯罪被害者の心理等に関する心理学的・精神医学的知見を踏まえると、現時点において想定される原因行為・原因事由としては、第176条第1項各号に掲げる行為・事由又はこれらに類する行為・事由で必要かつ十分である。
そこで、これらを列挙するとともに、これとは別に第176条第2項及び第177条第2項の誤信(行為がわいせつなものでないとの誤信及び行為をする者についての誤信)を掲げることにより、性的自由・性的自己決定権の侵害を生じさせる性的行為の類型を全て列挙することとしている。
(注2)このような構成とすることにより、「抗拒不能」等の原因行為又は原因事由が定められていない現行の刑法第178条に比して、法文の文言上は処罰の要件が限定されることとなるものの、安定的な運用を確保するため、判断にばらつきが生じない規定ぶりとする必要があり、そのためには、原因行為又は原因事由に当たり得るものとそうでないものが明確となる規定ぶりとする必要がある。
他方、本改正により規定を明確化することによって、これまで現行法の下でも十分な当罰性が認められるにもかかわらず、性犯罪に直面した被害者の心理や行動に関する理解が十分に深まっていなかったことともあいまって、実務上、起訴や有罪の認定をちゅうちょすることがあり得た事案が処罰されやすくなるという意味においては、実際に処罰される事案が多くなる可能性があり、このことは、刑事司法に対する国民の信頼を確保することに資するものと考えている。

強制わいせつ罪と性的姿態等影像送信とは観念的競合

 画像が関係する罪は、児童ポルノ罪の解釈に影響されます。

 なお、解説では「影像送信行為の被害者が児童である場合には、当該影像送信行為の対象となった影像を記録する行為について、ひそかに児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する罪(児童買春等処罰法第7条第5項)が成立し得るところ」というのは、児童から生中継で送信させて、オッサンが録画する場合をいうと思いますが、それは姿態をとらせて製造罪であって、ひそかに製造罪ではありません。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案【逐条説明】令和五年二月法務省


○第5条(性的姿態等影像送信)
【説明】
1趣旨
本条は、性的な姿態の影像の影像送信行為(例えば、インターネット上のライブストリーミングによる配信行為)が不特定又は多数の者に対してなされた場合には、性的な姿態が不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じさせる危険が現実化し、不特定又は多数の者に対する性的影像記録の提供行為や公然陳列行為と同様の法益侵害を生じることから、これを処罰するものである(注1)。
また、影像送信の対象となった影像を更に不特定又は多数の者に対して転送する行為がなされた場合にも、同様の法益侵害が生じることから、情を知って、不特定又は多数の者に対して、本条第1項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像を影像送信する行為も処罰することとしている。
2処罰対象行為
性的姿態等撮影罪(第2条)においては、処罰対象行為として、
○ひそかに撮影する行為
○刑法第176条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて撮影する行為
○人に一定の誤信をさせ、又は一定の誤信があることに乗じて撮影する行為(注2)
○16歳未満の者の性的姿態等を撮影する行為
を掲げているところ、これと同様の態様・方法等で送信対象となる性的な姿態の影像を捕捉して、その影像送信をする行為がなされれば、保護法益の侵害が生じると考えられる。
そこで、本条第1項においては、性的姿態等撮影罪と同様の態様・方法等の要件を設けることとしている。
3第3項
本項は、性的姿態等影像送信罪に当たる影像送信行為が行われ、当該影像送信行為が強制わいせつ罪等にも該当する場合について、第2条第3項と同趣旨の確認規定を設けるものである(注3)。
4法定刑
性的姿態等影像送信罪は、性的な姿態の影像を不特定又は多数の者に向けて送るという点で、不特定又は多数の者に対する提供行為と共通する面を有し、法益侵害の程度も同等であると考えられることから、その法定刑も、不特定又は多数の者に対する性的影像記録提供罪と同じ「5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科」としている。
(注1)本条第1項は、「対象性的姿態等の影像(性的影像記録に係るものを除く。・・・)の影像送信」としているところ、影像を電気通信回線で送る行為のうち、性的影像記録を送る行為(例えば、ひそかに性的な姿態を撮影した動画の電磁的記録を再生するなどして影像を送る行為)については、性的影像記録提供罪又は性的影像記録公然陳列罪が成立し得ることから、これと区別する趣旨で、「性的影像記録に係るものを除く。」こととしている。
(注2)本条第1項第3号にいう「行為」は、影像送信行為(実行行為)を意味する。
(注3)罪数関係については、個別の事案ごとに、具体的な事実関係も踏まえて判断されるべき事柄であるが、一般論としては、性的姿態等影像送信罪に当たる影像送信行為が行われ、当該影像送信行為が強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪にも該当する場合、
○性的姿態等影像送信罪は、性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での被害者の性的自由・性的自己決定権を保護法益として設けるものであり、また、侵害の態様も性的な姿態の影像を不特定又は多数の者に送信するというものであることからすると、性的な行為を行うかどうかの自由が問題となる強制わいせつ罪・監護者わいせつ罪との法益侵害の同一性があるとはいえない
ことから、強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪と性的姿態等影像送信罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、社会的見解上の行為が一個であれば、観念的競合(一個でなければ併合罪)となる。
○第6条(性的姿態等影像記録)
【説明】
1趣旨
本条は、影像送信行為によって影像送信をされた影像を記録する行為がなされれば、視覚的情報が記録されて固定化され、性的姿態等撮影罪と同様に、自己の性的な姿態が他の機会に他人に見られる危険が生じ、ひいては、不特定又は多数の者に見られるという重大な事態が生じる危険があることから、これを処罰するものである(注1)。
また、性的姿態等撮影罪と同様、性的姿態等影像記録罪についても、その未遂を処罰することとしている(注2)。
2法定刑
性的姿態等影像記録罪の法定刑については、
○記録行為は、影像送信をされた影像を記録して固定化し、新たに被害者の性的な姿態の影像の記録を生じさせるものであり、その法益侵害の程度は、性的姿態等撮影罪と同等のものと考えられること
○影像送信行為の被害者が児童である場合には、当該影像送信行為の対象となった影像を記録する行為について、ひそかに児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する罪(児童買春等処罰法第7条第5項)が成立し得るところ、その法定刑が「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」であることとのバランスを考える必要があること
から、性的姿態等撮影罪と同じ「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」としている。
(注1)性的姿態等影像記録罪は、記録行為の対象を、「前条第一項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像」としており、不特定又は多数の者に対して影像送信をされた影像に限定しておらず、特定かつ少数の者に対して行われた影像送信行為(性的姿態等影像送信罪自体は成立しないもの)により送られた影像を記録する行為を含めて処罰対象とする趣旨である。
(注2)例えば、行為者が影像送信をした影像について、受信者が、機材を準備するなどした上で、情を知って、記録する行為に及んだものの、操作ミス等により記録に失敗した場合が考えられる