児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「県内の同児童方において,同児童に姿態をとらせ,これを同児童が使用する撮影機能付きタブレット端末により動画撮影させた上,」なんていう理由不備の実刑判決(秋田地裁r01.7.10)

秋田県内の同児童方において,同児童に姿態をとらせ,これを同児童が使用する撮影機能付きタブレット端末により動画撮影させた上,」なんていう理由不備の実刑判決(秋田地裁r01.7.10)

 どういう姿態をとらせたのかが全く記載されていません。
 「姿態をとらせを記載しなければならない」という東京高裁判決を覚えていたんでしょうが、理由不備です。

第1 秋田県内の同児童方において,同児童に姿態をとらせ,

もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノ

第3の2 同児童に姿態をとらせ,

もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノ

【文献番号】25564123

秋田地方裁判所平成31年(わ)第27号,平成31年(わ)第48号,平成31年(わ)第60号
令和元年7月10日刑事部判決

       判   決(要旨)

 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,児童福祉法違反,強制性交等被告事件について,当裁判所は,検察官加部剛志及び国選弁護人高橋重剛各出席の上審理し,次のとおり判決する。



       理   由

(罪となるべき事実の要旨)
 被告人は,
第1 被害者Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,平成30年11月2日午後10時19分頃,秋田県内の同児童方において,同児童に姿態をとらせ,これを同児童が使用する撮影機能付きタブレット端末により動画撮影させた上,その頃,同動画データ1点を同タブレット端末からアプリケーションソフト「LINE」を利用して被告人が使用するスマートフォンに送信させて,a株式会社が管理する日本国内設置の電磁的記録媒体であるサーバコンピュータ内に記憶蔵置させ,もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(平成31年3月19日付け起訴状記載の公訴事実)
第2 被害者Cが13歳未満であることを知りながら,同人と性交等をしようと考え,平成30年12月28日,秋田県内の被告人方において,前記被害者Cに対し,口腔性交をした。(平成31年4月26日付け起訴状記載の公訴事実)
第3 運動クラブのコーチとして,被害者らの指導等をしていた者であるが,被害者Bが18歳に満たない児童であることを知りながら,
1 同クラブのコーチとしての立場を利用し,平成31年1月14日午前8時2分頃から同日午前8時16分頃までの間,前記被告人方において,自己を相手方として,性交類似行為をさせ,もって児童に淫行をさせる行為をした。(平成31年4月8日付け起訴状記載の公訴事実第1)
2 前記日時場所において,同児童に姿態をとらせ,これを被告人が使用するカメラ機能付きスマートフォンで動画撮影し,その動画データを同スマートフォン内に内蔵された記録装置に記録して保存し,もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(平成31年4月8日付け起訴状記載の公訴事実第2)
(証拠の標目)《略》
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為について
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項3号
判示第2の所為について
刑法177条後段
判示第3の1の所為について
児童福祉法60条1項,34条1項6号
判示第3の2の所為について
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項1号,3号
刑種の選択
判示第1,第3の1,第3の2について
各懲役刑を選択
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第2の罪の刑に法定加重)
酌量減軽
刑法66条,71条,68条3号
未決勾留日数の算入
刑法21条(50日を算入)
訴訟費用の不負担
刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 被告人は,13歳未満の被害者Cに対し,口腔性交をし(判示第2),18歳に満たない児童である被害者Bに対し、自己を相手方として,性交類似行為をさせて淫行をさせる行為をし(判示第3の1),その際の姿態等を撮影して児童ポルノを製造した(判示第3の2)ほか,18歳に満たない児童である被害者Aの姿態に関して児童ポルノを製造した(判示第1)。その犯行態様は,運動クラブのコーチとしての立場を悪用し,被害児童らが被告人を信頼していたことやその性的知識の未熟さにつけこんだもので,被害児童らの意思に反して無理矢理行ったものとまではいえないことを踏まえても,巧妙かつ卑劣で悪質である。判示第2,第3の1の被害児童らの性的自由の侵害の程度は小さいものではなく,判示第1,第3の2の児童ポルノ製造の点も看過できず,結果は軽いものではないのであって,本件各犯行が被害児童らの健全な成長や人格形成に及ぼす影響も懸念されるところである。また,保護者らの精神的苦痛には大きなものがあり,それらの処罰感情がいずれも厳しいのも至極当然である。被告人は,被害児童らに性的なことを教えてあげるために本件各犯行に及んだなどとも供述するが,児童の健全な育成を図るべき立場にありながら,結局は自己の性欲を満たすため本件各犯行に及んだものと認められ,その動機,経緯に酌量の余地はなく,その規範意識は鈍麻しているといわざるを得ない。以上によれば,被告人の刑事責任は相当に重く,本件が刑の執行を猶予すべき事案であるとはいえず,実刑に処するのが相当な事案である。
 その上で,被告人が各事実を認め,被害児童ら側に拒否されているものの,慰謝の措置を講ずる意向を示すなど反省の態度を示していること,被告人に前科がないこと,被告人の母親が,当公判廷において,被告人の更生に助力する意向を示していること,被告人の雇用主が,被告人を今後とも雇用する意向を示していることなどの情状を最大限考慮すれば,被告人に対しては,酌量減軽の上,主文のとおりの刑に処するのが相当であると判断した。 
 よって,主文のとおり判決する。
(検察官の求刑意見:懲役6年,弁護人の科刑意見:執行猶予)
令和元年7月11日
秋田地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 杉山正明 裁判官 板東純 裁判官 藤枝健太