香川県の青少年条例の「猥せつ」というのは、刑法176条の定義を借用して、「いたずらに性欲を刺激したり、露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に性的差恥心や嫌悪の情を起こさせたりする行為をいう。」とされていて、定義に性的意図が盛り込まれていますから、従前は、起訴状にも判決にも「単に自己の性的欲望を満たす目的」というのは記載していませんでした。法文にもそういう要件はありません。
淫行についての大法廷S60.10.23の趣旨からすると、わいせつ行為についても「単に自己の性的欲望を満たす目的」が要件になりそうなところですが、判決文に言及がなく、強制わいせつ罪について性的意図不要とした大法廷h29.11.29の趣旨からすれば相手方目線であれば、青少年条例についても性的意図不要ともいえそうです。
併行して進んでいた香川県青少年条例違反事件(猥せつ行為・高橋貞幹裁判官)では、弁護人からの指摘で、弁論再開して訴因変更されて「単に自己の性的欲望を満たす目的で」が追加され、判決でも認定されました。被告人控訴。
香川県青少年保護育成条例の解説
(淫行又は隈せつ行為等の禁止)
第16条
1何人も、青少年に対し、淫行又は猥せつの行為をしてはならない。
2何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、またはこれを見せてはならない。
【要旨】
本条は、青少年に淫行(みだらな行為)やわいせつの行為を行ったり、教えたり、見せたりする行為を禁止する規定である。
【解説】
第1項関係
(1) 本項は、青少年に対する淫行やわいせつの行為が、心身ともに未成熟な青少年にとって、精神的にも痛手を受けやすく、いったん被害に遭うとその回復が困難であることなど、青少年の健全育成に非常に有害であるという観点から、青少年に対するこれらの行為を禁止するものである。
(2) 「何人も」については、前条第2項関係解説参照
(3) 「淫行」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて不純とされる性行為をいい、結婚を前提としない、単に欲望を満たすためにのみ行う性行為はこれに当たる。
(4) 「猥せつの行為」とは、いたずらに性欲を刺激したり、露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に性的差恥心や嫌悪の情を起こさせたりする行為をいう。
■28282687
高松地方裁判所
令和2年(わ)第108号/令和2年(わ)第135号
令和02年08月06日
被告人
本籍 (省略)
住居 千葉県(以下略)
職業 無職
Y
昭和53年(以下略)生
上記の者に対する香川県青少年保護育成条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官新甚康平及び弁護人小早川達彦(私選・主任)、同坪井智之(私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。第3(令和2年4月24日付け起訴状記載の公訴事実第1ないし第3)
被告人は、●●●(当時15歳。以下「C」という。)が18歳に満たない青少年ないし児童であることを知りながら
1 令和元年11月22日午後4時19分頃から同日午後6時33分頃までの間、前記被告人方において、単に自己の性的欲望を満たす目的で、Cに対し、その乳首を舐めるなどし、もって青少年に対し、猥せつの行為をし
2 令和2年2月8日午後3時4分頃から同日午後6時10分頃までの間、前記被告人方において、単に自己の性的欲望を満たす目的で、Cに対し、その乳首や陰部を舐め、同人の膣内に性的玩具を挿入するなどし、もって青少年に対し、猥せつの行為をし
(法令の適用)
罰条
判示第1の1、第2の別表番号1ないし3、第3の1及び2の各所為
いずれも香川県青少年保護育成条例22条、16条1項
判示第1の2、第3の3の各所為
いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項(判示第1の2につき、同法2条3項1号ないし3号、判示第3の3につき、同法2条3項1号及び3号)
刑種の選択 いずれも懲役刑選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(罪及び犯情の最も重い判示第1の2の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予 刑法25条1項
保護観察 刑法25条の2第1項前段
(量刑の理由)
刑事部
(裁判官 高橋貞幹)