Aに対して300万円,Bに対して70万円,Cに対して150万円をそれぞれ支払い,各被害者との間で示談ないし合意が成立している。
令和 2年 9月10日
神戸地裁姫路支部
強制わいせつ,強制わいせつ致傷被告事件
上記の者に対する強制わいせつ,強制わいせつ致傷被告事件について,当裁判所は,検察官赤塚里美,井上拓弥,国選弁護人竹内彰(主任),同横山彬出席の上審理し,次のとおり判決する。主文
被告人を懲役3年に処する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
理由(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 (令和元年11月29日付け起訴状記載の公訴事実)
徒歩で通行中の別紙記載1の者(当時19歳。以下「A」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,平成29年11月22日午後11時40分頃,別紙記載2の路上において,同人に対し,いきなりその背後から抱きつく暴行を加えた上,その着衣の中に手を入れて,乳房及び臀部を直接わしづかみにし,もって強いてわいせつな行為をするとともに,民家の塀をつかんで抵抗する同人の背後から抱きついたまま,後方に引っ張る暴行を加え,その際,同暴行により,同人に全治約1週間を要する左前腕部擦過傷の傷害を負わせ,
第2 (令和元年9月27日付け起訴状記載の公訴事実)
徒歩で通行中の別紙記載3の者(当時25歳。以下「B」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,令和元年7月26日午後10時5分頃,別紙記載4の通路において,同人に対し,いきなりその背後から同人を抱え込み,その場に仰向けに転倒した同人の顔面をめくり上げた同人のカーディガンで覆うとともに,手でその前頸部を圧迫するなどの暴行を加えた上,同人の乳房を半袖シャツの上から及び直接揉み,さらに同人の陰部をズボンの上から弄ぶなどし,もって強いてわいせつな行為をし,
第3 (令和元年10月25日付け起訴状記載の公訴事実)
徒歩で通行中の別紙記載5の者(当時32歳。以下「C」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,令和元年8月15日午前零時5分頃,別紙記載6の路上において,同人に対し,いきなりその背後から抱きつく暴行を加えた上,所持していた手提げ鞄をその頭部にかぶせようとし,その場に座り込んだ同人を立ち上がらせ,同人の両乳房をTシャツの上からわしづかみにし,もって強いてわいせつな行為をし,その際,前記暴行により,同人に加療約1週間を要する両膝蓋部擦過創等の傷害を負わせた。
(証拠の標目)―括弧内は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の標目番号
判示事実全部について
被告人の当公判廷における供述
判示第1の事実について
Aの検察官調書抄本(甲36)及び警察官調書抄本(甲34)
統合捜査報告書(甲31,33)
判示第2の事実について
Bの検察官調書抄本(甲39)
統合捜査報告書(甲37,38)
判示第3の事実について
Cの検察官調書抄本(甲44)
統合捜査報告書(甲40,42)
(法令の適用)
被告人の判示第1及び第3の各所為はいずれも刑法181条1項(176条前段)に,判示第2の所為は同法176条前段にそれぞれ該当するところ,判示第1及び第3の各罪について所定刑中有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 被告人は,夜間,人通りの少ない路上で,本件各犯行に及んだ。犯行態様は,いずれも,凶器こそ用いていないものの,被害者らの抵抗を排し,逃げようとする被害者を追跡するなどしてわいせつ行為に及んだものであり,執拗で悪質である。また,判示第2の事件と同第3の事件は,わずか1か月足らずのうちに連続的に行われたものである。そして,Aに対する犯行時,同人から抵抗されて指をかまれたことから,Bに対する犯行時には被害者の顔付近に手を持っていくことを避け,Cに対する犯行時には所持していた鞄を同人の頭部に被せて目隠ししようとするなど手口も巧妙化してきている点は強い非難に値する。また,突然見ず知らずの者に襲われた被害者らが被った精神的苦痛は大きく,被害結果は重大である。A及びCは,当公判廷において,現在も本件犯行に起因する恐怖心を抱え,今後も,その恐怖が続いていくであろう不安を述べている。被害者らが被告人に対し厳しい処罰を求めるのも誠に当然のことである。
被告人は,自らの女性に対する歪んだ認知の元,自己のストレス及び性欲を発散させる目的で,本件各犯行に及んだと述べており,犯行に至る経緯において酌むべき事情はない。
2 一方,被告人の犯行は,前記のとおり,非難の程度は大きいものではあるが,同種犯罪の中で比較すると,犯行の悪質さや危険性が際立っているとまではいえず,傷害結果の程度も重いものとまではいえない。そうすると,同種事案との均衡も踏まえて検討するならば,本件が,刑の執行を猶予することが許されない事案であるとまではいえない。
そこで,その他の事情を検討すると,被告人は,Aに対して300万円,Bに対して70万円,Cに対して150万円をそれぞれ支払い,各被害者との間で示談ないし合意が成立している。いずれの被害者も被告人を許していないものの,金銭面では相当程度の被害回復の措置がとられているといえる。また,被告人の更生にとって十分とまではいえないが,被告人は,保釈された後,自ら再犯防止のための専門機関に通所して第三者から犯行に至った内面的な問題を分析してもらい,これに従い内省及び改善を試みているところである。これらの点に加えて,被告人が本件各公訴事実を認めていること,前科前歴がないこと,被告人の母が監督を誓約していることなども踏まえると,被告人に対しては,その刑の執行を猶予するのが相当である。そして,被告人の更生を確実なものとするため,その刑期及び猶予期間についてはいずれも法律上最も長期とするとともに,被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,公的機関の指導監督の下,性犯罪者処遇プログラム等を通じて再犯防止に向けた改善更生に努力させることが相当である。
以上の次第であり,主文のとおり,刑を定めた。
(求刑―懲役6年,弁護人の科刑意見―執行猶予付き判決)
神戸地方裁判所姫路支部刑事部
(裁判長裁判官 渡部五郎 裁判官 伊藤太一 裁判官 井廻直美)