児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

中学校の教諭であった被告人が,担任クラスの女子生徒(当時13歳)に対し,暴行を加えて失神させた上,わいせつ,殺害目的でした住居侵入,わいせつ,生命身体加害略取,監禁致傷及び銃刀法違反の事案(前橋地裁r01.12.20)

 さっき閲覧したけど、ほとんど黒塗りだったよ。
 殺意が認定落ち。
 

住居侵入,わいせつ・生命身体加害略取,監禁致傷,殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
【事件番号】 前橋地方裁判所判決/
【判決日付】 令和元年12月20日

       主   文

 1 被告人を懲役8年に処する。
 2 未決勾留日数のうち100日をその刑に算入する。
 3 押収してあるスタンガン1台(令和元年押第12号符号1)を没収する。
 4 訴訟費用は被告人の負担とする。

       理   由

 【罪となるべき事実】
第1 被告人は,令和元年6月25日午後零時30分頃,■■■(当時13歳。以下「A」という。)に暴行を加えて失神させた上,自動車で連れ去ってわいせつな行為をした後に殺害する目的で,群馬県高崎市■■町■■番■■号■■■方(以下「A方」という。)玄関から侵入し,Aを床に引き倒してその腹部に馬乗りになり,その頚部等にスタンガン(主文掲記のもの。以下「本件スタンガン」という。)を数回押し付けて通電したが,Aが失神しなかったため,Aの背後からその頚部に右腕を巻き付けて絞め付けた上,仰向けに倒れたAの頚部にタオル(令和元年押第12号符号2。以下「本件タオル」という。)を巻き付けて絞め付けてAを失神させ,同日午後零時50分頃,失神したAを同所付近に停車中の自動車(以下「本件車両」という。)内に連れ込み,同所から本件車両を発進させて,同市■■町■■■番地■■付近路上(以下「本件路上」という。)まで走行させ,引き続き,同日午後4時35分頃までの間,同所において,Aを自己の支配下に置くとともにAが本件車両から脱出することを不能にさせ,もってわいせつ及び生命に対する加害の目的でAを略取してAを不法に監禁し,その際,Aに全治まで約3週間を要する頚部擦過傷,頚部熱傷,顔面皮下血腫及び結膜下出血の傷害を負わせた。
第2 被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後4時35分頃,本件路上付近に停車中の本件車両内において,刃体の長さ約17センチメートルの包丁1本(令和元年押第12号符号3)及び刃体の長さ約16センチメートルの包丁1本(同号符号4)を携帯した。
 【証拠の標目】
注)以下,括弧内の番号は証拠等関係カードにおける検察官の請求又は職権による取調べの各番号を示す。
事実全部について
・ 被告人の公判供述
・ 秘匿情報・呼称一覧表(職1)
・ 捜査報告書(甲27,29,31,32)
第1の事実について
・ 証人Bの公判供述
・ 捜査報告書(甲2(採用部分のみ),28,30,34)及び写真1枚(甲33)
・ スタンガン1台(主文掲記のもの)及びタオル1枚(令和元年押第12号符号2)
第2の事実について
・ 包丁2本(同号符号3及び4)
 【事実認定の補足説明】
1 争点
  検察官は,被告人は,「Aの背後からその頚部に右腕を巻き付けて絞め付けた上,仰向けに倒れたAの頚部にタオルを巻き付けて絞め付けて,Aを失神させた」行為(以下「本件実行行為」という。)において,殺意をもって,すなわち,Aが死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行った旨主張している。これに対し,被告人は,本件実行行為においてAに対する殺意はなかった旨供述し,弁護人も,被告人には殺意はなく,殺人未遂罪は成立しない旨主張している。
  このように,本件の争点は,本件実行行為における殺意の有無であるが,当裁判所は,健全な社会常識に照らして,本件実行行為がAが死ぬ危険性の高いものであったと評価するには合理的な疑いが残り,Aが死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行ったとはいえず,Aに対する殺意は認められないと判断した。以下,その理由について補足して説明する。
2 殺意の意味
  殺意とは,積極的に相手を殺そうという場合(確定的殺意)のほかに,相手が死ぬかもしれないと分かっていて,あえて行為に及んだ場合(未必的殺意)も含んでいる。そして,「相手が死ぬ又は死ぬかもしれないと分かっていて,あえて行為に及んだ」かの判断においては,「人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行ったか」が判断のポイントになる。
3 認定事実
  関係証拠によれば,以下の事実を認定することができる。
  被告人は,被害者が通う中学校の担任教諭である。被告人は,本件当時,27歳の成人男性であり,身長は169.5センチメートル,体重は57.9キログラムであった。他方,Aは本件当時,13歳の女子生徒であり,身長は144センチメートル,体重は38.8キログラムであった。
  被告人は,令和元年6月25日(以下,同日の記載は省略する。)午後零時30分頃,A方玄関から侵入し,Aを床に引き倒してその腹部に馬乗りになり,その頚部等に本件スタンガンを数回押し付けて通電したが,Aは失神しなかった。
  被告人は,Aの頚部を絞め付けることでAを失神させようと考え,右腕で,Aの背後からその頚部を絞め付け,その後,近くのソファーの上にあった本件タオルを取り,それをAの頚部に巻き付けてさらにその頚部を絞めた。タオルでAの頚部を絞めている時は,Aは仰向けに倒れていたが,被告人は,本件タオルをAの頚部の前で一度交差させて巻き,両手で本件タオルの両端を左右に引き,その後,床に押し付けるようにしてAの頚部を絞め付けた。被告人は,Aの顔が膨れていき,目が半開きになり,口から泡を吹き,唇の色が青くなり,顔色が白くなったのを見て,Aが大声を出せなくなったと認識したが,Aが失神しているとは認識しなかった。
  その後,被告人は,一旦A方を出て,Aを連れ去るために用意した本件車両に戻り,本件車両をA方玄関近くに移動させた後,再びA方内に戻ったところ,Aの顔の血色が普通に戻って呼吸を繰り返していたのを見て,再び本件タオルでAの頚部を絞め付けた。その際,被告人は,本件タオルをAの頚部の前で1回結び,被告人がタオルの両端を引けばきつく絞まり,放せば緩むという状態にしていた。被告人は,再びAの顔が膨れ上がり,目が半開きになり,血色が悪くなり,鼻から泡を吹き,唇が青くなったのを認識したが,Aの結膜下出血及び失禁の症状は認識していなかった。Aは,本件実行行為の初めに被告人に右腕で頚部を絞められてから本件車両内で目を覚ますまで,失神していた(なお,Aには,遅くとも本件実行行為の終了時までの間に,結膜下出血,尿失禁の症状も生じていたが,これらの症状の正確な発生時期については証拠上明らかでない。)。
  被告人は,午後零時50分頃,失神したAをA方付近に停車中の本件車両内に連れ込み,同所から本件車両を発進させて,本件路上まで走行させた。本件路上に到着する直前,Aは意識を回復したが,その後,被告人は,午後4時35分頃に警察官に現行犯逮捕されるまでの間,Aの身体に危害を加えていない。
  Aは,全治まで約3週間を要する頚部擦過傷,頚部熱傷,顔面皮下血腫及び結膜下出血の傷害を負った。
4 評価
 (1)積極的事情
  ア 人の頚部を絞め付けるという行為自体が,人を殺害する典型的な行為であること
   前記認定事実のとおり,被告人は,腕や本件タオルでAの頚部を絞め付けたという事実が認められる。
   頚部は人体の枢要部であり,人の頚部をタオルで絞め付ける行為は,それ自体,一般的にみれば,窒息等によって人を死亡させる危険性の高い行為であるといえる。また,被告人とAの年齢差や体格差も併せ考慮すれば,その危険性はより高まるといえる。
   もっとも,頚部を腕やタオルで絞め付ける行為といっても,その態様や強度は様々であり,上記事実から,直ちに本件実行行為がAの死ぬ危険性が高い行為であると評価することはできない。
  イ Aが一般的な急性窒息にみられる症状を呈していたこと
   前記認定事実のとおり,本件実行行為により,顔色が青くなり,泡を吹くなどの症状をAが呈していたという事実が認められる。
   一般的に見れば,上記各症状は,人の身体の生理機能に何らかの異常が生じていることを示しているものであるから,本件実行行為は,人を死亡させる危険性がある行為といえる。
 (2)消極的事情
  ア 本件実行行為の医学的評価
   まず,Aの症状等から分かる本件実行行為の医学的評価について検討する。
   法医学の専門家であるB医師は,①Aにみられた顔面の紫赤色の変色,まぶたの裏の出血,意識消失,尿失禁,Aが口から泡を吹き,顔面全体が膨れ上がり,唇が真っ青になり,顔が真っ白になったという症状は,絞頚,扼頚又は急性窒息にみられる症状と矛盾せず,これらの症状がみられたことから,Aの急性窒息が,少なくとも第2期と呼ばれる時期に至っていたこと(検察官は,本件のAの急性窒息が,無呼吸期である第3期に至っていた可能性を主張するが,B医師は,あくまでその可能性を証言したに過ぎないから,その証言から第3期であると認定することはできない。また,被告人がAの頚部を絞め付け続けていた時間についても,B医師の証言する急性窒息の症状と絞め付け(窒息)の継続時間の関係に関する内容は,絞め付け(窒息)が中断なく継続する場合を前提としたものであり,本件実行行為の絞頚,扼頚行為が,途中に中断を含む断続的なものであることで前提を異にすることから,Aにみられた上記症状を考慮しても,その具体的な時間を認定することはできない。),②救命救急センターにおけるいっ頚症例の中で,上記第2期を含む救急隊現場到着時に心肺停止でなかった症例49例のうち,死亡例は3例(いずれも70歳以上の患者であり,70歳未満の死亡例はない。)であったというデータを示す文献があること,③この文献のデータを踏まえると,頚部を絞め付け続け,第2期又は第3期と呼ばれる症状を呈するに至った場合,救急救命を試みても死亡する例がみられ始め,死亡する危険性は窒息の時間が長くなるほど高まることなどを証言している(以下「B証言」という。)。B証言は,証人の職業・経歴等や証言内容の合理性からして,その信用性を疑うべき事情もないことから,信用できる。
   B証言によれば,本件実行行為によって13歳のAが第2期(呼吸困難期及び痙攣期)と呼ばれる症状に至ったとしても,医学的には,Aが死亡する危険性が高いとは評価できない。
  イ 本件実行行為の態様
   次に,本件実行行為の態様についてみると,①被告人は,本件スタンガンによりAを失神させることができなかったために,まずは腕,次に本件タオルというように,頚部を絞め付ける手段を順次変更していること,②Aの頚部への本件タオルの巻き付け方は,いわゆる玉結びのように結び目が固まり動かなくなるようなものではなく,前記認定事実のとおり,本件タオルの両端を1回交差させただけか,1回結ぶだけで,被告人が本件タオルを引く力の加減によりAの頚部を絞める強さを変えられるものであったこと,③被告人はAの顔色の変化等の症状を観察しながら本件実行行為を行っていたこと,④Aに顔色の変化等の症状がみられた際,少なくとも2度にわたり,被告人は頚部を絞め付けることを止めていること,⑤被告人がAに対してその呼吸を回復させるような措置を特段取っていないにもかかわらず,Aは結果として失神するにとどまり,自発的に意識を回復していることが認められる。
   これらの事実によれば,被告人は,Aを失神させるために,必要以上の危害をAに加えないように,絞め付け行為の時間や強度を調整しながら本件実行行為を行っていたと評価できる。
   加えて,上記アの本件実行行為の医学的評価も踏まえれば,本件実行行為は,被告人の主観にとどまらず,客観的にも,Aの死亡する確率が急激に高まるような急性窒息の症状を呈するより前の時点で頚部を絞め付ける行為を止めるものであったと認められ,本件実行行為が有していたAが死ぬ危険性の程度が高かったとまではいえない。
   なお,検察官は,本件実行行為において,被告人は混乱した心理状態にあったことから,死なないようにAの呼吸を確認していたとは考えられない旨主張する。
   しかし,被告人は,本件実行行為時にAが呈していた顔色の変化等の上記各症状を具体的に記憶し供述していること,被告人は,まず腕で絞め付けた後,本件タオルを使い,その後一旦絞め付けを止めてA方を出て本件車両を寄せ,再びAの頚部を本件タオルで絞め付け直すというように,Aを失神させるという目的に向かって手段を順次変更しつつ行動していること,本件タオルの巻き付け方が強度の調整が可能なものであること,Aが結果として失神するにとどまっていることなどの事情から,被告人がAの呼吸の様子を確認していた事実が認められる。
   したがって,検察官の上記主張は採用できない。
  ウ 被告人の犯行計画や準備状況
   関係証拠によれば,被告人の犯行計画は,A方においてAを失神させることでAを略取した後,本件車両内に監禁したAに対しわいせつ行為を行った後,Aを殺害し自らも死ぬというものであったことが認められる(以下「本件犯行計画」という。)。
   被告人が,本件犯行の数日前に,一度に大量のアダルトグッズ等を購入し,本件犯行時に本件車両に積んでいたほか,ダンボール数箱の食料や複数の飲料水のペットボトルを本件車両に積むなどの準備をしていたことは,本件犯行計画を裏付けるものであり,被告人も,警察等に発見されるまで,できるだけ長い時間,Aと一緒にいたかった,Aを殺害する時期や方法は具体的には決めていなかった旨供述している。
   このように,Aを殺害するという被告人の計画は,本件実行行為時には未だ具体化されていなかっただけでなく,わいせつ行為をしたいという被告人の犯行計画は,常識に照らせば,Aを生きたまま連れ去ることができなければ実現しないものであり,被告人が本件実行行為の時点でAに対する殺意があるとすれば,本件犯行計画や上記の準備状況と矛盾するといわざるを得ない。そうすると,本件犯行計画や準備状況は,本件実行行為が人が死ぬ危険性が高いものでなかったことを補強する事情であるといえる。
  エ 凶器の使用状況
   前記認定事実のとおり,被告人は,A方内に包丁2本を持ち込んでいるものの,本件実行行為においては,A方内で偶然入手した本件タオル以外の凶器を用いなかったことが認められる。
   被告人が,包丁などのよりAの生命を奪う危険性のある凶器を用いることが容易な状況であったにもかかわらず,これを用いなかった事実は,被告人がAの身体に対して強い危害を加える意図を有していなかったことを意味し,本件実行行為が人が死ぬ危険性が高いものでなかったことを補強する事情であるといえる。
  オ 本件実行行為後の事情
   前記認定事実のとおり,被告人は,AをA方から連れ去った後は,Aの生命や身体に危害を加える行動に出ていないことが認められる。
   仮に被告人にAに対する殺意が本件実行行為時にあったとすれば,その後,本件車両内というAの身体に危害を加えることは容易な状況において,Aに対する暴行に実際に及んでいないことは,本件実行行為が人が死ぬ危険性が高いものでなかったことを補強する事情であるといえる。
 (3)総合判断
   確かに,一般的にみれば,人の頚部をタオルで絞め付ける行為は,それ自体,窒息等によって人を死亡させる危険性の高い行為であるといえ,また,被告人とAの年齢差や体格差も併せ考慮すれば,その危険性はより高まるといえる。
   しかしながら,頚部を腕やタオルで絞め付ける行為といっても,その態様や強度は様々であり,具体的な事情に即して考える必要がある。
   本件実行行為によって,Aには,顔面の紫赤色の変色,まぶたの裏の出血,意識消失,尿失禁,口から泡を吹く,顔面全体が膨れ上がる,唇が真っ青になる,顔が真っ白になるという症状が認められる。これらの症状からは,Aの急性窒息が少なくとも第2期と呼ばれる時期に至っていることが認められるが,B証言によれば,本件実行行為によって13歳のAが第2期(呼吸困難期及び痙攣期)にみられる症状を呈していたとしても,医学的には,Aが死亡する危険性が高いとは評価できない。また,見た目から分かる症状の主観的評価において,医学の専門家ではない被告人を含む通常人にとっては危険性の評価に幅があり得るから,上記症状が直ちにAが死ぬ危険性の認識につながるものではない。
   本件実行行為の態様をみると,被告人は,本件スタンガンによりAを失神させることができなかったために,まずは腕,次に本件タオルというように,頚部を絞め付ける手段を順次変更している。そして,Aの頚部への本件タオルの巻き付け方は,本件タオルの両端を1回交差させただけか,1回結ぶだけで,被告人が本件タオルを引く力の加減によりAの頚部が絞まる強さが変わるものであった。しかも,被告人はAの顔色の変化等の症状を観察しながら本件実行行為を行い,Aに顔色の変化等の症状がみられた際,少なくとも2度にわたり,被告人は頚部を絞め付けることを止め,被告人がAに対してその呼吸を回復させるような措置を特段取っていないにもかかわらず,Aは結果として失神するにとどまり,自発的に意識を回復していることが認められる。
   これらの事実によれば,被告人は,Aを失神させるために,必要以上の危害をAに加えないように,絞め付け行為の時間や強度を調整しながら本件実行行為を行っていたと評価できる。
   したがって,本件実行行為は,人が死ぬ危険性の高い行為ではあるとはいえない。
   被告人の犯行計画や準備状況,凶器の使用状況,本件実行行為後の事情は,いずれも,本件実行行為が人が死ぬ危険性が高いものでなかったことを補強する事情であるといえる。
   そうすると,本件実行行為によってAの死に至る客観的な危険性が高いと認定するには,合理的な疑いが残ると言わざるを得ない。
5 結論
  以上のとおり,本件実行行為がAの死ぬ危険性の高い行為であったというには合理的な疑いが残り,Aが死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行ったとはいえず,本件実行行為時に,被告人のAに対する殺意があったとは認められない。
  したがって,本件において殺人未遂罪は成立せず,Aの傷害は,監禁致傷罪の範囲で評価される。
 【法令の適用】
1 主刑
 (1)罰条
  判示第1の行為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,わいせつ・生命身体加害略取の点は同法225条に,監禁致傷の点は同法221条(刑法10条により刑法220条及び204条各所定の刑を比較し,重い傷害罪について定めた懲役刑(ただし,短期は監禁罪の刑のそれによる。)により処断する。)に,判示第2の行為は銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条にそれぞれ該当する。
 (2)科刑上一罪の処理
  判示第1の行為のうち,わいせつ・生命身体加害略取及び監禁致傷は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,住居侵入とこれらの罪との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として最も重い監禁致傷罪の刑(ただし,短期はわいせつ・生命身体加害略取罪の刑のそれによる。)で処断する。
 (3)刑種の選択
  後記【量刑の理由】により判示第2の罪については懲役刑を選択する。
 (4)併合罪の処理
  以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をする。
 (5)宣告刑の決定
  以上の法律上可能な刑期の範囲内(1年以上17年以下の懲役)から,後記【量刑の理由】により,被告人を主文の刑に処する。
2 未決勾留日数算入
  刑法21条を適用して未決勾留日数のうち主文2の日数を主文1の刑に算入する。
3 没収
  押収してあるスタンガン1台(主文掲記のもの)は,判示第1の罪の用に供したもので,被告人が所有するものであるから,刑法19条1項2号,2項本文によりこれを没収する。
4 訴訟費用の負担
  訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
 【量刑の理由】
1 本件は,中学校の教諭であった被告人が,担任しているクラスの女子生徒に対し,単独でかつ凶器を使用して行った,住居侵入,わいせつ・生命身体加害略取,監禁致傷1件及び包丁2本を携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反1件の事案である。
2 被告人に対する刑の大枠を決める本件の重要な犯情について検討する。
  まず,本件の事案の軽重について検討する。
  本件犯行の準備状況等についてみると,被告人は,被害者の担任教諭であったことから,被害者の住居や家族の状況にとどまらず,本件当日に被害者が1人で自宅にいる時間帯等を把握し,これらの情報を利用して本件犯行に及んでいる。また,被告人は,被害者を連れ去ってわいせつな行為をした後に被害者を殺害する目的で,スタンガン,包丁及び大量のアダルトグッズなどを用意した上,自動車内で被害者に対してわいせつな行為をする場所をあらかじめ下見をしたり,自動車内が外部から見えないように車内に黒いカーテンを設置したりするなど,かなり周到な準備をしている。このように,本件犯行は,非常に計画性の高いものである。
  本件犯行の態様についてみると,被告人は,被害者を略取する際に,スタンガンを使用したが,被害者を失神させることができなかったため,被害者の背後からその頚部に右腕を巻き付けて絞め付け,さらに,被害者の頚部を2回にわたってタオルで絞め付けて失神させている。このように,本件犯行の態様は,被害者の生命を奪う危険性が高いものであったとまではいえないものの,相当に強度なものであったといえる。
  以上によれば,被告人が,被害者を監禁していた際にわいせつ行為や暴行に及んでいなかったこと,被害者が負った傷害の程度も全治約3週間と比較的軽傷にとどまったこと,比較的早期に警察官に保護されたことから,監禁の時間も4時間弱と比較的短時間なものにとどまっていることを考慮しても,本件犯行は,被害者の行動の自由や身体の安全を侵害する危険性が高い事案であると評価できる。
  次に,本件犯行を決意した被告人に対する非難の程度を検討する。
  被告人は,担任教諭を務めていたクラスにおいて,在籍する女子生徒たちから無視されるなど学級運営が円滑にいかず,そのような悩みを被害者やその友人である女子生徒に相談していたが,その後,被害者らからも距離を置かれるようになった。このような状況に至り,被告人は,自らを追い詰めた社会全般に対して恨みを抱くとともに自暴自棄になり,好意を抱いていた被害者にわいせつな行為をした上で,被害者と一緒に死のうと考え,全く落ち度がないどころか,生徒という立場でありながら担任教諭である被告人のために相談に乗ってくれていた被害者に対する本件犯行を決意している。このような経緯及び動機は,極めて身勝手かつ自己中心的なものといえる。そうすると,被告人が上司等から学級運営等について具体的な支援を受けることができず,心療内科に通院するなど精神的に追い詰められていたことを踏まえても,厳しい非難を免れない。
  以上の本件の重要な犯情によれば,本件は,同種事案の中では,相当重い部類に位置づけられるものであり,被告人に対して,その刑の執行猶予を付するのは相当ではなく,相当期間の実刑をもって臨むべき事案であるといえる。
3 被告人の刑を調整する一般情状について検討する。
  被害者は,本来,信頼できるはずの担任教諭から暴行を受けて略取,監禁されたものであり,被害者及びその両親が受けた精神的な苦痛は計り知れず,被害者及びその両親が,被告人からの謝罪や被害弁償を拒否し,被告人には二度と社会に出てきて欲しくないとする心情は十分に理解できる。本件は,中学校の教諭であった被告人が担任しているクラスの女子生徒に対して行った犯行であり,社会に大きな影響を与えた。
  他方,被告人がこれまで前科前歴なく真面目に生活していたことは,被告人の更生の可能性に関する事情として評価できる。
4 そこで,刑の公平性の観点から同種事案における量刑傾向を踏まえ,以上の本件の重要な犯情及び一般情状を考慮して,被告人に対しては,主文の刑を言い渡すのが相当と判断した。
(検察官の求刑意見 懲役15年)
(弁護人の量刑意見 保護観察付き執行猶予)
  令和元年12月26日
    前橋地方裁判所刑事第2部
        裁判長裁判官  國井恒志
           裁判官  中野哲美
           裁判官  谷山暢宏