弁護人がそう主張すると、これまで大阪高裁は、サーバー蔵置は、公然陳列罪であって、4項提供罪(不特定多数)ではないと判示していました。そんなの「弁護人独自の見解」だとまで言っていたのに、今日からは、4項提供罪(不特定多数)だそうです。
大阪高裁h24.6.1
(1)原判示第5事実の擬律及び罪数(控訴理由第1,第2,第5)について
ア原判示第5事実は,被告人が,被害児童に係る性交又は性交類似行為に係る姿態等を記録した動画データ43ファイルを,インターネットサイトのデータ保管先であるサーバーコンピュータに送信し,そのハードディスク内に記憶,蔵置させ,同サイトのダウンロード会員4名に対し,上記動画ファイルを販売してダウンロードさせたものであるところ,この行為は,不特定又は多数の者に対し,児童ポルノの内容をなす情報を記録した電磁的記録を利用し得べき状態に置いたものにほかならず,4項後段提供罪が成立する。
そして,4項後段提供罪は,不特定又は多数の者への提供行為が構成要件とされており,その構成要件上複数回の提供行為が行われることも当然に予定されていることからすると,上記4名に対する動画ファイルの提供は包括一罪となると解される。
イ弁護人は,インターネットに接続されたサーバーに動画ファイルを蔵置する行為は児童ポルノ公然陳列罪(児童買春,児童ポルノ等処罰法7条4項前段)に該当するものであって,4項後段提供罪には当たらないと主張する。
しかし,本件につき,サーバーコンビューター内のハードディスクを,電磁的記録に係る記録媒体(同法2条3項)としてとらえた場合には児童ポルノ公然陳列罪が成立するとしても,同公然陳列罪と4項後段提供罪とは,一方が成立することが他方の成立を妨げる関係にはなく,双方が成立する場合にはそれらが包括一罪の関係に立つに過ぎないものと解される。
そして,検察官においてそのような関係にある複数の罪が成立すると認める場合において,そのいずれか一方についてのみ公訴提起するか双方につき公訴提起するかは,検察官の訴追裁量に委ねられているところである。
本件では,検察官において,その訴追裁量権に基づき,4項後段提供罪についてのみ公訴の提起をしたものであるから,これにつき同罪の成立を認めて児童買春,児章ポルノ等処罰法7条4項後段を適用した一審判決の法令適用に誤りはない。
弁護人の主張は採用できない。
また,弁護人は,4項後段提供罪の既遂時期は,会員が自己のコンビュータ等に画像データを記録,蔵置した時点であって,そのような事実が摘示されていない本件では被告人の所為は未遂にとどまり,未遂罪の処罰規定がない同罪は成立しない旨主張するが,同罪が既遂に達するためには,電磁的記録等を棺手方において利用し得べき状態に置けば足り,一審判決の「当該データをダウンロードさせ」との判示は,本件動画データファイル4を同判示のダウンロード会員4名において利用し得べき状態に置いたことを過不足なく判示したものであるから,これに4項後段提供罪を適用した一審判決の法令適用に誤りはない。
弁護人の主張は採用できない。
ウ以上によれば,一審判決が,原判示第5事実につき児童ポルノ公然陳列罪でなく,包括して4項後段提供罪を適用したのは正当である。
大阪高裁H15.9.18*1
大阪高裁H21.9.2*2(京都地裁H21.5.21*3)
なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電子データを記録媒体に記憶させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧させた場合には,上記電子データが記憶・蔵置された記録媒体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして,児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,これを前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する行為の処罰を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明示したというものである。このような同法の改正の趣旨にかんがみれば,本件が児童ポルノ提供罪に当たらないことは明白である。
大阪高裁H23.3.23*4(神戸地裁H22.11.29*5)→上告中
1 法令適用の誤りの主張について
刑法175条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい(最高裁平成13年7月16日第三小法廷決定・刑集55巻5号317頁参照),児童ポルノ法7条4項前段の児童ポルノ公然陳列罪における「公然と陳列した」との要件についてもその文言に照らしてこれと同旨であると解するのが相当であるところ,本件は,児童ポルノを含むわいせつ図画の画像情報が記憶,蔵置された, わいせつ物であり児童ポルノに当たるハードディスクを内蔵したパソコンをインターネットに接続してファイル共有ソフトの共有機能を作動させ,不特定多数のインターネット利用者にこれらの画像が閲覧可能な状況を設定したというものであるから, わいせつ物陳列罪ないし児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明らかである。なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電磁的記録である画像情報を記録煤体に記憶,蔵置させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧可能な状態にした場合には,裁判実務上,上記画像情報が記憶,蔵置された記録煤体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,改正法では,そのような解釈を前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する等の行為の処罰規定を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明らかにしたもの,すなわち記録媒体自体の公然陳列等の行為が電磁的記録に係る記録煤体に係る罪, つまり有体物である児童ポルノに係る罪により従来通り処罰されることを明示したものと解される。このような同法の改正の趣旨・内容にかんがみれば,本件で児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明白である。以上と異なる弁護人の主張は,結局のところ,独自の見解に基づくものであって採用できない。