児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

不特定又は多数の者に児童ポルノ画像をダウンロードさせる行為は公然陳列罪であって4項提供罪だというのは弁護人独自の見解であって失当という判例(大阪高裁)と、不特定又は多数の者に児童ポルノ画像をダウンロードさせる行為は4項提供罪だという判例(札幌高裁)

 「弁護人独自の見解であって失当」と言われても弁護人は平気ですけど、札幌高裁は不快でしょう。


 大阪高裁は湯川さんが公然陳列説。運悪く2件ともこの部に掛かった。

阪高裁h23.3.23
第2  控訴理由に対する判断
 1  法令適用の誤りの主張について
 刑法175条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい(最高裁平成13年7月16日第三小法廷決定・刑集55巻5号317頁参照),児童ポルノ法7条4項前段の児童ポルノ公然陳列罪における「公然と陳列した」との要件についてもその文言に照らしてこれと同旨であると解するのが相当であるところ,本件は,児童ポルノを含むわいせつ図画の画像情報が記憶,蔵置された, わいせつ物であり児童ポルノに当たるハードディスクを内蔵したパソコンをインターネットに接続してファイル共有ソフトの共有機能を作動させ,不特定多数のインターネット利用者にこれらの画像が閲覧可能な状況を設定したというものであるから, わいせつ物陳列罪ないし児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明らかである。なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電磁的記録である画像情報を記録煤体に記憶,蔵置させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧可能な状態にした場合には,裁判実務上,上記画像情報が記憶,蔵置された記録煤体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,改正法では,そのような解釈を前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する等の行為の処罰規定を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明らかにしたもの,すなわち記録媒体自体の公然陳列等の行為が電磁的記録に係る記録煤体に係る罪, つまり有体物である児童ポルノに係る罪により従来通り処罰されることを明示したものと解される。このような同法の改正の趣旨・内容にかんがみれば,本件で児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明白である。以上と異なる弁護人の主張は,結局のところ,独自の見解に基づくものであって採用できない。
 以上のとおり, 一審判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。弁護人の主張は理由がない。
平成23年3月23日
 大阪高等裁判所第2刑事部
   裁判長裁判官  湯川哲嗣
      裁判官  武田義紱
      裁判官  岡崎忠之

阪高裁h21.9.2
第2控訴理由に対する判断
1法令適用の誤りの主張について
また,弁護人は,本件は,児童ポルノ公然陳列罪ではなく,児童ポルノ提供罪が成立する旨主張するが,本件が児童ポルノ公然陳列罪に該当することは,一審判決が「補足説明」の項で正当に説示するところである。
なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電子データを記録媒体に記憶させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧させた場合には,上記電子データが記憶・蔵置された記録媒体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして,児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,これを前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する行為の処罰を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明示したというものである。このような同法の改正の趣旨にかんがみれば,本件が児童ポルノ提供罪に当たらないことは明白であるo
以上のとおり,一審判決に法令の適用の誤りはない。弁護人の主張は,採用できない。

平成21年9月2日
 大阪高等裁判所第2刑事部
   裁判長裁判官  湯川哲嗣
      裁判官  榎本巧
      裁判官  武田義徳

 上告理由としてはこんな感じです。

9 判例違反〜ファイル共有を提供罪とする判例・裁判例
 最近はweb掲載行為等によるデータの拡散を提供罪とする裁判例ファイル共有ソフトで提供する目的で所持する行為を5項所持罪(不特定多数)とする裁判例もある。これが正解である。
金沢地裁小松支部H19.2.28*1
奈良地裁H20.10.15*2
奈良地裁H21.1.29*3
奈良地裁H20.7.10*4
奈良地裁H20.4.4*5

 札幌高裁H21.6.16*6*7がダウンロードさせる行為を4項提供罪(不特定多数)としている。

児童ポルノ提供罪の成立時期についての補足説明)
 弁護人は,本件における児童ポルノ提供罪は,不特定多数の第三者がアクセスできる状態においた時点で成立する旨主張するが,本件犯行態様をみると,購入者によりその代金が振込入金されたことを確認した被告人が,犯罪事実1の児童ポルノ動画ファイルのダウンロードに必要なIDとパスワードを購入者に電子メールで送信し,購入者は,そのIDとパスワードを使って,被告人のファイルサーバーから上記児童ポルノ動画ファイルをダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置させた上,ダウンロードした上記児童ポルノ動画ファイルを再生して画像を見るというものであるから,本件における提供というためには,購入者が購入した上記児童ポルノ動画ファイルを実際にダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置することを要するというべきであり,弁護人の主張は採用することができない。

 また、わいせつ図画の場合は公然陳列罪、児童ポルノの場合は4項提供罪であるとして明確に区別しており、弁護人の主張と一致する。

 判例違反を主張するにあたり、札幌の事件をさらに分析する。
 まず、札幌地裁は下記の通り、ダウンロードさせる方法による児童ポルノ4項提供罪と、わいせつ物の販売目的所持・児童ポルノ5項所持罪を認定した。

札幌地裁判決
(犯罪事実)
 被告人は,インターネット上に開設したホームページを利用して,不特定又は多数のインターネット利用者を対象として児童ポルノ及びわいせつ図画を販売して提供しようど企て,
1 別紙一覧表記載のとおり,平成年月日から同年月日までの間,前後3回にわたり,被告人方において,不特定の者である北海道警察本部生活安全部生活経済課内のaほか2名に対し,被告人方のコンピューターのファイルサーバーに蔵置させた児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録である児童ポルノ動画ファイルを電気通信回線であるインターネットを通じて同ファイルサーバーから前記大導寺らをして同人らのコンピューターにダウンロードさせ,もって,電気通信回線を通じて児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を不特定の者に提供し,
2 同年月日,前記被告人方において,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録である児童ポルノ動画ファイル及び男女の性交場面等を露骨に撮影記録したわいせつ図画である動画ファイルを記憶・蔵置させたファイルサーバー2台及びハードディスク3台を,これらの動画ファイルを不特定又は多数の者に提供かつ販売する目的で所持した。

 これについて札幌高裁は、破棄自判して、原判示第1について4項提供罪だと判示している。

札幌高裁H21.6.16
(法令の適用)
罰     条
  判示1の各児童ポルノ提供及び判示2の児童ポルノ提供目的所持の点
      包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項後段、同条5項前段

刑種の選択
    懲役刑及び罰金刑とを併科

 これは、児童ポルノ画像をサーバーからダウンロードさせるのは、4項提供罪だという判例である。

 さらに原判示第2の所持については

札幌高裁
 諭旨に対する判断に先立ち,職権で原審記録を調査して検討するに,原判決には次のような法令の解釈適用の誤りがある。
 すなわち,本件訴因変更後の公訴事実中,わいせつ図画販売目的所持罪に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,インターネット上に開設したホームページを利用して,不特定又は多数のインターネット利用者を対象として」「わいせつ図画を販売」「しようと企て,」「男女の性交場面等を露骨に撮影記録したわいせつ図画である動画ファイルを記憶・蔵置させたファイルサーバー2台及びハードディスク3台を,これらの動画ファイルを不特定又は多数の者に」「販売する目的で所持した。」というものであるが,同罪の「販売目的」の対象となる「わいせつな文書,図画その他の物」(刑法175条前段)とは有体物であって,単なる電子データそのものや「電磁的記録その他の記録」(法7条1項参照)はこれに含まれないと解されるから,有体物ではない「動画ファイル」を販売する目的でファイルサーバー等を所持したとの上記公訴事実自体がわいせつ図画販売目的所持罪を構成しないというべきである。(なお,関係証拠を検討しても,被告人が,わいせつな画像データを記憶,蔵置させたファイルサーバー及びハードディスクを所持し,このわいせつな画像データをインターネット等の電気通信回線を通じて第三者にダウンロードさせてその対償を得ていたことは認められるが,このファイルサーバー及びハードディスク自体を販売したり,わいせつな画像データをCDやDVDなどの有体物に記憶させてこれを販売したりする目的を有していたことを認めるに足りる証拠は存在しない。) したがって,上記公訴事実と同一の事実を「犯罪事実」の項の2において認定し,刑法175条後段を適用してわいせつ図画販売目的所持罪の成立を認めた原判決は,同罪に関する法令の解釈適用を誤っており,この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないところ,原判決は,「犯罪事実」の項の2の事実について,わいせつ図画販売目的所持罪と児童ポルノ提供目的所持罪が成立して両罪は観念的競合であるとし,さらに,同項の1と2の事実を包括一罪として1個の刑を科しているので,原判決は結局その全部について破棄を免れない。

(犯罪事実)
 原判決の「犯罪事実」の項の冒頭事実中「及びわいせつ図画」及び「販売して」を,同項の2.の事実中「及び男女の性交場面等を露骨に撮影記録したわいせつ図画である動画ファイル」及び「かつ販売」をそれぞれ削除するほかは,原判決の記載と同一である。  

として、ダウンロードさせる目的でのサーバーの所持について、わいせつについては、販売目的所持罪を否定して、児童ポルノについてのみ、5項所持罪を認めた。これは、児童ポルノをダウンロードさせる行為が4項提供罪であることを前提としているから、この点においても、児童ポルノ画像をサーバーからダウンロードさせるのは、4項提供罪だという判例である。

 この判決は検察庁内では周知されている。

石英生「自宅のパソコンのファイルサーバ一等に蔵置させたわいせつ図画である児童ポルノの画像ファイルをインターネットを通じて有償販売して提供するとともに同目的の下,前記ファイルサーバー等を所持した事案につき,刑法175条後段のわいせつ物販売目的所持罪の成立を否定した事案(札幌高判平2l. 6. 16刊行物未登載)研修737号 P127


山崎耕史「インターネットを通じて不特定又は多数の者に有償で提供(販売)する目的で児童ポルノ動画ファイル及びわいせつ動画ファイルを自宅のパソコンのファイルサーバ一等に記憶・蔵置させた事案につき,児童ポルノ提供目的所持罪の成立を認めながらわいせつ図画販売目的所持罪の成立を否定した事例」研修741号p21

10 原判決
 しかるに、原判決は

 被告人は,平成年月日から同年月日までの間,の被告人方において,児童を相手方とする性交に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,男女の性器等を露骨に撮影したわいせつ図画である画像情報及び男女の性器等を露骨に撮影したわいせつ図画である画像情報がハードディスク内に記録されたパーソナルコンピュータをインターネットに接続してファイル共有ソフト「eMule」「winny」「share」の共有機能を作動させ,

という行為について

 1  法令適用の誤りの主張について
 刑法175条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい(最高裁平成13年7月16日第三小法廷決定・刑集55巻5号317頁参照),児童ポルノ法7条4項前段の児童ポルノ公然陳列罪における「公然と陳列した」との要件についてもその文言に照らしてこれと同旨であると解するのが相当であるところ,本件は,児童ポルノを含むわいせつ図画の画像情報が記憶,蔵置された, わいせつ物であり児童ポルノに当たるハードディスクを内蔵したパソコンをインターネットに接続してファイル共有ソフトの共有機能を作動させ,不特定多数のインターネット利用者にこれらの画像が閲覧可能な状況を設定したというものであるから, わいせつ物陳列罪ないし児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明らかである。なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電磁的記録である画像情報を記録煤体に記憶,蔵置させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧可能な状態にした場合には,裁判実務上,上記画像情報が記憶,蔵置された記録煤体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,改正法では,そのような解釈を前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する等の行為の処罰規定を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明らかにしたもの,すなわち記録媒体自体の公然陳列等の行為が電磁的記録に係る記録煤体に係る罪, つまり有体物である児童ポルノに係る罪により従来通り処罰されることを明示したものと解される。このような同法の改正の趣旨・内容にかんがみれば,本件で児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明白である。以上と異なる弁護人の主張は,結局のところ,独自の見解に基づくものであって採用できない。

として公然陳列罪を適用した。

 しかし、すでに説明したように、公然陳列罪は成立せず、4項提供罪(不特定多数)のみが成立することが明らかであり、原判決においてファイル交換ソフトでの放流行為を児童ポルノ公然陳列罪として擬律した点に誤りがある。
 立法趣旨には「同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する等の行為の処罰規定を新設する」などという提供の方法を電子メールに限定する趣旨はみじんもなく、原判決の方が「独自の見解に基づくものであって」失当である。