児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

警察公論65巻7号<始めてみようサイバー捜査>児童ポルノの掲示板投稿事案(その1)/大塚尚

 画像は受け手に行ってるのにそんなこと言ってるから拡散が止まらない。
 4項提供罪(不特定多数)にして、受け手も対向犯で将来の取得罪で検挙できるようにしておかないと。

p37
河村警部:
 では.ここでいったん手を休めて.法律面の検討をしておこう。本件は何罪になるかな。
S 巡査:
児童ポルノの公然陳列罪(児童買春・児童ポルノ法7条4項)です
 河村警部:
そのとおり。掲示板に画像を投稿する行為は.インターネットに接続されたウェプサーパ(コンピュータ)の記憶媒体上に.児童ポルノの画像データを記憶蔵間させて.不特定多数の者がその画像を認識できる状態を設定することになるから.児童ポルノの公然陳列罪となる。
S 巡査:
 同じ7条4項には児童ポルノの提供罪もありますね。
河村警部:
 画像ファイルを自分のPCから相手のPCに送信するのが典型的な提供行為だが,掲示板に貼り付けて閲覧可能状態にしておく行為を「提供」と言えるかには疑問がある。
しかも.提供行為を立証するには.実際に提供を受けた者を探し出してくる必要がある。
 これに対して.公然陳列の場合は.不特定多数の者が認識可能な状態にしたことさえ立証すれば足りるから.立証の手間が少ない。
ネット上に誰でも閲覧できる形で児童ポルノを掲載したような場合は.公然陳列でいくのが通常だ。

 なお、那覇支部によれば、4項提供罪(不特定多数)」の既遂時期は「必ずしも相手方が現に受領することまでは必要がない」というのだから、公然陳列罪と同じである。

高裁那覇支部h17.3.1
5控訴趣意中刑の廃止の主張について
所論は要するに,児童ポルノを販売することは,平成16年法律第106号による改正後の児童買春法(以下「新法」という。)7条1項,2項,4項及び5項の「提供」には該当せず,かつ,新法には経過規定もないから,平成16年法律第106号による改正前の児童買春法(以下「旧法」という。)7条1項,2条3項3号の児童ポルノ販売罪には刑の廃止があったというべきであり,本件の被告人の所為のうち児童ポルノを販売した点については免訴の言渡しをすべきであるところ(刑事訴訟法337条2号),児童ポルノ販売の点についても有罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというにある。
しかし,新法7条1項,2項,4項及び5項の「提供」とは,特定かつ少数の者に対する当該児童ポルノ等を相手方に利用しうべき状態に置く一切の行為をいい,有償・無償を問わず,必ずしも相手方が現に受領することまでは必要がないものであり,一方,旧法7条1項の「販売」とは,不特定又は多数の者に対する有償の譲渡をいうから,旧法の「販売」は,新法7条4項の「不特定若しくは多数の者に提供」したことをこ含まれるのであって,旧法の「販売」の文言が新法において削除されたからといって,旧法において処罰の対象とされていた「販売」の行為が不可罰となったものでないことは明らかである。
以上によれば被告人の判示所為中児童ポルノを販売した点は,行為時においては旧法7条1項,2条3項3号に,裁判時においては新法7条4項,2条3項3号に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条により,軽い行為時法によることとなるのであって,被告人の判示所為中児童ポルノを販売した点について旧法7条1項,2条3項3号を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。

 さらに、大阪・京都方面では、ファイル共有の場合は、4項提供罪は成立しない。

京都地裁h21.5.21
1 弁護人は,被告人がパーソナルコンビュータのハードディスク内に記録された児童ポルノに該当する画像情報をファイル共有ソフトの共有機能に組み込み,インターネットに接続した状態で同機能を作動させた行為は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。) 7条 4項の公然陳列罪にあたらず,同項の提供罪に該当すると主張するので,以下,検討する。
2 刑法 175条にいうわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいう(最高裁平成 11年(あ)第 1221号同 13年 7月 16日第三小法廷決定・刑集 55巻5号317頁参照)が,児童ポルノ法 7条4項にいう児童ポルノを「公然と陳列した」もこれと同義に解するのが相当である。
 被告人がパーソナルコンピュータのハードディスク内に記録された児童ポルノに該当する画像情報をファイル共有ソフト「Share」の共有機能に組み込み,インターネットに接続した状態で同機能を作動させた行為は,児童ポルノを不特定又は多数の者が認識できる状態に置いたということができるから,児童ポルノ法7条4項にいう児童ポルノを「公然と陳列した」ということができる。
3 弁護人は,児童ポルノ法 7条4項の「陳列」は相手方から再拡散することはないことを予定しているが,本件では閲覧者からさらに拡散するおそれがあるから同項の「陳列」には当たらないと主張する。しかし,相手方から再拡散される場合には「陳列」に当たらないと解する根拠は見当たらないから,弁護人の主張は採用することができない。
 その他弁護人が縷々主張する点も,独自の見解であって採用することができない。

阪高裁h21.9.2
また,弁護人は,本件は,児童ポルノ公然陳列罪ではなく,児童ポルノ提供罪が成立する旨主張するが,本件が児童ポルノ公然陳列罪に該当することは,一審判決が「補足説明」の項で正当に説示するところである。
なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電子データを記録媒体に記憶させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧させた場合には,上記電子データが記憶・蔵置された記録媒体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして,児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,これを前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する行為の処罰を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明示したというものである。このような同法の改正の趣旨にかんがみれば,本件が児童ポルノ提供罪に当たらないことは明白である。

 少しは判例集めてくれよ。

追記
 質問があったので補足します。
 改正時の法務省の見解については、島戸さんの解説がある。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
P91
イ 「提供」の意義
第7条第1項、第2項、第4項及び第5項の「提供」とは、当該児童ポルノ又は電磁的記録その他の記録を相手方において利用し得べき状態に置く法律上・事実上の一切の行為をいい、有償・無償を問わない(刑法第163条の4、薬物四法による資金等提供、売春防止法第8条、第11条、第13条における「提供」の字義と同様である。(14)。必ずしも相手方が現に受領することまでは必要ではない。
具体的には、児童のポルノに係る電磁的記録の提供であれば、プロバイダーを経由する場合、児童ポルノを内容とする電磁的記録を電子メールで相手方に送信し、プロバイダ内で相手方の受信箱に入れる行為がこれに当たる。

P108
14)この意味で、従前の「頒布」「販売」「業としての貸与」よりも、既遂時期が早まることがあり得る。児童ポルノについては、描写された児童の人権を侵害するものでもあることから、他人が現実に取得しなくても、これが利用できる状態に置かれれば、他人が取得する可能性が強く、当該児童の人権侵害のおそれが発生しており、予防の必要性が高いこと、今般電磁的記録も対象とされたことに伴い、現実に相手方が取得しなくても、他者にわたるなどして児童の人権が侵害される結果になり得ることからすれば、このような変更も妥当なものであると考えられる。

P99
その際、不特定多数の者が、当該画像データを閲覧するために、当該ハードディスクにアクセスして、その児童ポルノの画像データを自己のコンピュータにダウンロードした場合に、当該不特定多数の者の行為を介して、同人らのコンピュータに児童ポルノを内容とする画像データを提供したこととして、児童ポルノを内容とする電磁的記録の提供罪が成立するか否かについては、様々な考え方があり得るところであるが、混合包括一罪として児童ポルノの公然陳列罪一罪の法定刑の範囲内で処理されることになると考えられる。

 ここで改正の経緯を知っているなら「混合的包括一罪」などとは言ってはいけない
 島戸さんも認めるように、有償でダウンロードさせる行為というのは、実質的に「販売行為」であるから、「販売罪」として処罰したいところだが、ダウンロード販売の事例を奈良地裁h14.11.26が販売罪にしたのを大阪高裁H15.9.18が破棄した上で販売罪は成立せず公然陳列罪にとどまるとしたことに対応して、H16改正で電気通信の方法による提供罪(4項提供罪)ができたのである。
 だとすれば、そのために4項提供罪を作ったのだから、児童ポルノを有償でダウンロードさせる行為は公然陳列罪ではなく4項提供罪のみである。
 
 「提供」とは、当該児童ポルノ又は電磁的記録その他の記録を相手方において利用し得べき状態に置く法律上・事実上の一切の行為をいい、有償・無償を問わないというのだから、提供罪だと「受け取った事実」の立証が必要になるということはない。使いやすいように成立要件を緩めてあるのである。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」研修676号
(3)そして,次に,設例において,甲が,児童のポルノに係る電子データをインターネット上を介して丙に対して送信した行為についての罪責について検討する。     ア 児童のポルノを内容とする画像データをインターネット上で不特定又は多数の者に対して送信する行為について,改正前の第7条第1項の児童ポルノ販売罪に当たるか否かについて,改正前の第2条第3項には「写真,ビデオテープその他の物」と規定されており,これが有体物に限定するものであって,電子データはこれに含まれないのではないかと思われたため,争いがあった。
この点,奈良地判平成14年11月26日(公刊物未登載)は,児童のポルノを内容とする画像データを不特定又は多数の者に対して有償で送信した事案において,インターネット上の送信行為をもって「販売」行為があると認定した。この考え方は,児童のポルノを内容とする画像データ(電磁的記録)そのものを児童ポルノと構成したとも思われる。
しかしながら,同判決の控訴審である大阪高判平成15年9月18日高刑集56巻3号1頁が,「販売」の対象となる「児童ポルノ」は有体物に限るなどとしてこれを破棄する(上告後,上告棄却により確定している。)など,有体物でないものを「児童ポルノ」とすることによってインターネット上の送信行為をもって改正前の「頒布」,「販売」があったと構成することは必ずしも一般的な理解とはいえなかった。一方,サイバー犯罪条約において,「コンピュータ・システムを通じて児童ポルノを頒布し又は送信すること」の犯罪化が要請されていたところである。このような経緯から,平成16年の改正隼おいて,この点の処罰が明示されたところである。すなわち,有体物としての児童ポルノの流通と同様,インターネット上の児童のポルノの流通に関しても規制,処罰を行う必要があり,児童ポルノを内容とする電磁的記録その他の記録を電気通信回線を通じて提供する行為は,児童ポルノを提供する行為と実質的には同様の行為であって処罰の必要性が高いことから,児童のポルノを内容とする電磁的記録についての電気通信回線による提供(第1項後段,第4項後段)及びこれを目的とする児童のポルノを内容とする電磁的記録を保管する行為(第2項,第5項)等を新たに処罰することとした。

 これは児童ポルノがデータによって拡散することに着目した、思い切った法律であった。
 ところが、これが現場に下りてくると、刑法175条の感覚を身につけた化石のような裁判官がいて、刑法的に曲げてしまう。
 大阪高裁H21.9.2はshareの事件だが、4項提供罪はメールに限るとして、ファイル共有は公然陳列罪のみだとしている。

阪高裁H21.9.2
また,弁護人は,本件は,児童ポルノ公然陳列罪ではなく,児童ポルノ提供罪が成立する旨主張するが,本件が児童ポルノ公然陳列罪に該当することは,一審判決が「補足説明」の項で正当に説示するところである。
なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電子データを記録媒体に記憶させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧させた場合には,上記電子データが記憶・蔵置された記録媒体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして,児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,これを前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する行為の処罰を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明示したというものである。このような同法の改正の趣旨にかんがみれば,本件が児童ポルノ提供罪に当たらないことは明白である。
以上のとおり,一審判決に法令の適用の誤りはない。弁護人の主張は,採用できない。

 また、札幌高裁はダウンロード販売は4項提供罪にあたるとした上で、既遂時期は島戸説を採らずに、受領時だとしている。

札幌高裁H21.6.16
児童ポルノ提供罪の成立時期についての補足説明)
 弁護人は,本件における児童ポルノ提供罪は,不特定多数の第三者がアクセスできる状態においた時点で成立する旨主張するが,本件犯行態様をみると,購入者によりその代金が振込入金されたことを確認した被告人が,犯罪事実1の児童ポルノ動画ファイルのダウンロードに必要なIDとパスワードを購入者に電子メールで送信し,購入者は,そのIDとパスワードを使って,被告人のファイルサーバーから上記児童ポルノ動画ファイルをダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置させた上,ダウンロードした上記児童ポルノ動画ファイルを再生して画像を見るというものであるから,本件における提供というためには,購入者が購入した上記児童ポルノ動画ファイルを実際にダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置することを要するというべきであり,弁護人の主張は採用することができない。
   裁判官裁判官 小川育央
      裁判官 二宮信吾
      裁判官 水野将徳

 H16改正時点からすると、4項提供罪(不特定多数)の成立範囲が減縮されているし、既遂時期も遅くなってきて、だんだん刑法175に戻りつつあるようである。