児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノのファイル共有を提供目的所持で逮捕した事例(埼玉県警)

 児童ポルノのファイル共有につき、札幌高裁は5項所持罪(不特定多数提供目的)だと言いますが、大阪高裁の湯川さんにいわせれば、5項所持罪(不特定多数)じゃなくて公然陳列罪のみ成立することになります。最決H13を尊重するということでしょうね。化石化してるんだ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111019-00000598-san-l11
児童ポルノをネット送信目的で所持 容疑の男3人逮捕
産経新聞 10月19日(水)20時34分配信
 少年捜査課の調べでは、3人は8月5日から9月7日までの間に、それぞれの自宅で、インターネットで送信する目的で児童ポルノの動画ファイル1点をパソコンに所持していた疑いが持たれている。
 少年捜査課によると、3人が利用していたのは、トレントファイルと呼ばれるファイルを入手し、目的のファイルをダウンロードする方式のファイル共有ソフト。同様のソフト利用者を児童買春・児童ポルノ禁止法違反容疑で逮捕するのは全国初だという。
 トレント系のファイル共有ソフトはダウンロード速度が速く、人気を集めている。一方で、ダウンロード画面に送信側のIPアドレスが表示されるため、送信者が特定しやすいという特徴がある。
 3人は5〜10歳の女児の児童ポルノ動画300〜1000点を所持。それぞれ、トレント系のファイル共有ソフトを利用して、1日3〜4万回、動画ファイルを送信していたという。

 ファイル共有は、奥村が何度指摘しても、大阪高裁では公然陳列罪のみが成立し、4項提供罪(不特定多数)は成立しないというのに、関東地方では、4項提供罪(不特定多数)が成立するというのです。

阪高判H21.9.2
また,弁護人は,本件は,児童ポルノ公然陳列罪ではなく,児童ポルノ提供罪が成立する旨主張するが,本件が児童ポルノ公然陳列罪に該当することは,一審判決が「補足説明」の項で正当に説示するところである。
なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後
の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電子データを記録媒体に記憶させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧させた場合には,上記電子データが記憶・蔵置された記録媒体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして,児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,これを前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する行為の処罰を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明示したというものである。このような同法の改正の趣旨にかんがみれば,本件が児童ポルノ提供罪に当たらないことは明白である。
以上のとおり,一審判決に法令の適用の誤りはない。弁護人の主張は,採用できない。
大阪高等裁判所第2刑事部
裁判長 裁判官 湯川哲嗣

阪高判h23.3.23
第2  控訴理由に対する判断
 1  法令適用の誤りの主張について
 刑法175条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい(最高裁平成13年7月16日第三小法廷決定・刑集55巻5号317頁参照),児童ポルノ法7条4項前段の児童ポルノ公然陳列罪における「公然と陳列した」との要件についてもその文言に照らしてこれと同旨であると解するのが相当であるところ,本件は,児童ポルノを含むわいせつ図画の画像情報が記憶,蔵置された, わいせつ物であり児童ポルノに当たるハードディスクを内蔵したパソコンをインターネットに接続してファイル共有ソフトの共有機能を作動させ,不特定多数のインターネット利用者にこれらの画像が閲覧可能な状況を設定したというものであるから, わいせつ物陳列罪ないし児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明らかである。なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電磁的記録である画像情報を記録煤体に記憶,蔵置させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧可能な状態にした場合には,裁判実務上,上記画像情報が記憶,蔵置された記録煤体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,改正法では,そのような解釈を前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する等の行為の処罰規定を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明らかにしたもの,すなわち記録媒体自体の公然陳列等の行為が電磁的記録に係る記録煤体に係る罪, つまり有体物である児童ポルノに係る罪により従来通り処罰されることを明示したものと解される。このような同法の改正の趣旨・内容にかんがみれば,本件で児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明白である。以上と異なる弁護人の主張は,結局のところ,独自の見解に基づくものであって採用できない。
 以上のとおり, 一審判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。弁護人の主張は理由がない。
平成23年3月23日
 大阪高等裁判所第2刑事部
   裁判長裁判官  湯川哲嗣