児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

インターネットに接続されたサーバーにわいせつ画像を蔵置する行為は、「わいせつ図画頒布罪」であって、「公然陳列罪」ではないという主張

 前田先生がこういうので、

前田雅英「サイバー犯罪と刑事法」
インターネットにおけるわいせつ事犯の場合も,わいせつ画像データが記録されているサーバー・コンビュータが「わいせつ物」だということで,判例は確定していたといえよう(最決平13・7・16刑集55-5-317)。しかし,今次の改正で,わいせつな電磁的データを記録した媒体は.「わいせつ物」ではなく,その下位概念である電磁的記録に係る記録楳体になり,その範囲で判例の考え方は修正されざるを得なくなった。ただ,処罰範囲に変更はない。そして,電磁的記録そのものの頒布が処罰されることが明確になった。

 こういう主張も間違っていないと思います。

 しかし、かかる行為は、改正前の刑法においても「公然陳列罪」ではなく、「頒布罪」に該当する行為であった。
 原判決にはこの点で法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

2 インターネットで画像を流すということの現象面
 前提としてネット上に画像を掲載するというのはどういうことかを説明する。
 「閲覧」しようとしてホームページが表示されるだけでも、下記のようにクライアントPCにはデータが送信され保存されていることには留意しなければならない。
大橋充直「ハイテク犯罪捜査入門 基礎編」p91

大橋P93
ウエッブ・ブラウザによる画像組立
パソコンA のウエッブ・ブラウザは,【図表5 】のように,インターネット経由でC から受信した「cHP.html」等のファイルを使って,C のホームページを画像に組み立て,これをパソコンの画面に表示する。【図表5 】と前【図表3 】とを見比べてみられたい。
このように,インターネットでホームページを見るのは,テレビを見るのと異なり,ホームページの画像情報をそのままもらってきて画面に映し出すのではない。ウエッブ提供者から,画像を構成する各種ファイルの送信を受けて(ダウンロードして),これらを一時保管ホルダーに保存した上,ウエツブ・ブラウザ・ソフトが,これらのファイルを画像に組み立てて表示しているのである。そのため,インターネットの接続を切っても,テレビ画面のように画像がプッツンと途切れることはなく,オフライン・モード(注10)でホームページが表示され続けるのである。

 そして、画像が画面に表示されたとき、画像データはクライアントPCのHDDに記憶されているが、画面の表示を消したとしても、インターネット接続を切断したとしても、PCを終了させたとしても、画像データは「インターネット一時ファイル」に保存されているから、いつでも再生可能である。
 裁判官の中には、ネット陳列について、クライアントがアドレスを入力すると、あたかも画像を持ったコビトがサーバーからクライアントに画像を見せに来て、画面の表示を消したり、インターネット接続を切断したり、PCを終了させたりすると、そのコビトがサーバーに画像を持ち帰ると思っている者がいるかもしれないが、それこそ事実に基づかない勝手な想像(妄想)である。

 このように、データを相手方に利用可能にする行為は公然陳列行為ではなく、頒布罪である。

3 平成23年改正刑法
 平成23年7月14日に施行された情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律によって、刑法175条は

http://www.moj.go.jp/content/000073754.htm
175条
1 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は前項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

と改正され、電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を送信することを「頒布罪」であることを明らかにした。

 最近では、札幌地裁H20.12.26は、有償でダウンロードさせる行為を「販売罪」であるとした。無償なら「頒布」にあたる。

札幌地裁H20.12.26*1
2 同年9月10日,前記被告人方において,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録である児童ポルノ動画ファイル及び男女の性交場面等を露骨に撮影記録したわいせつ図画である動画ファイルを記憶・蔵置させたファイルサーバー2台(札幌地方検察庁平成20年領第1835号符号36,37)及びハードディスク3台(同号符号38,39,40)を,これらの動画ファイルを不特定又は多数の者に提供かつ販売する目的で所持した。

4 頒布罪とすべき実質的理由
 公然わいせつ罪とわいせつ物公然陳列罪の区別は、相手方(閲覧者・受領者)においてデータが再拡散しうるかどうかという点にある。
 同様に、わいせつ図画の陳列と頒布販売の分水嶺は、相手方(閲覧者・受領者)においてデータが再拡散しうるかどうかという点にある。
 法益侵害の程度が格段に違うからである。

5 原判決
 しかるに、原判決は

性器を露骨に撮影した画像のデータを株式会社が市内に設置する上記掲示板に係るサーバーコンピュータに送信し,そのハードディスクに記憶,蔵置させて不特定多数のインターネット利用者が上記画像を閲覧可能な状態に設定し

という行為について公然陳列罪とした。

 しかし、すでに説明したように、公然陳列罪は成立せず、頒布罪のみが成立することが明らかであり、原判決において公然陳列罪として擬律した点に誤りがある。

6 まとめ
 原判決は、本件行為を「公然陳列罪」と評価して、被告人を「公然陳列罪」の共犯として有罪としたが、かかる行為は、改正前の刑法においても公然陳列罪ではなく、「頒布罪」に該当する行為であった。
 原判決にはこの点で法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。