児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノに出演する権利(大阪高裁H12.10.24)

 「児童ポルノ法は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為などにより心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的としている(法一条)ところ、児童買春の当事者となったり、児童をポルノに描写することは、その対象となった児童自身の心身に有害な影響を与えるのみならず、そのような対象となっていない児童においても、健全な性的観念を持てなくなるなど、児童の人格の完全かつ調和のとれた発達が阻害されることにつながるものであるから、児童ポルノ法は、直接的には児童買春の対象となった児童や児童ポルノに描写された児童の保護を目的とするものであるが、間接的には、児童一般を保護することをも目的としていると解される。」というのはいいこと言ってますよね。

阪高裁平成一二年一〇月二四日
2 法二条一項について(控訴理由第7、第17)
児童ポルノも表現行為の一形態であるところ、表現行為を制限する法令の規定が非常に包括的な場合には、憲法上保護された表現の自由が不当に制約されるおそれがあるから、「より制限的でない他の規制手段」が考えられる場合には、それによらなければならない。ところで、婚姻可能年齢は、民法上男子は一八歳、女子は一六歳とされており(民法七三一条)、また、刑法上の性的行為に同意することが可能な年齢は、一三歳とされている(刑法一七六条、一七七条)のであるから、少なくとも一六歳以上の女子には、法律上、性的な行為に同意する能力があり、性的自己決定権があるというべきである。法二条一項は、一八歳未満の者をすべて児童とした上、これを一律に児童ポルノ法における規制対象としているが、右のように、児童のうちで性的自己決定権を有する者がいることに配慮すると、児童の年齢に応じて規制方法を変えるというように、「より制限的でない他の規制手段」を採ることを考えるべきである。したがって、法二条一項は、表現の自由に対する過度に広範な規制であり、憲法二一条に違反している。また、後記のとおり、児童ポルノ法においては、児童ポルノの製造行為も処罰されることになっているのであるから、法二条一項が、一律に一八歳未満の者をもって児童としているのは、性的自己決定権を有する児童が性的な表現を含むビデオに出演する権利を不当に侵害するものであり、同条項は、憲法一三条にも違反する、という。
しかし、児童ポルノ法は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為などにより心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的としている(法一条)ところ、児童買春の当事者となったり、児童をポルノに描写することは、その対象となった児童自身の心身に有害な影響を与えるのみならず、そのような対象となっていない児童においても、健全な性的観念を持てなくなるなど、児童の人格の完全かつ調和のとれた発達が阻害されることにつながるものであるから、児童ポルノ法は、直接的には児童買春の対象となった児童や児童ポルノに描写された児童の保護を目的とするものであるが、間接的には、児童一般を保護することをも目的としていると解される。
したがって、このような同法の立法趣旨にかんがみると、一八歳未満の者を一律に児童とした上で、児童買春や児童ポルノを規制する必要性は高いというべきであるから、法二条一項が表現の自由に対する過度に広範な規制を定めたものとはいえないし、また、そのために所論にいわゆる児童の性的自己決定権が制約されることになっても、その制約には合理的な理由があるというべきであるから、同条項が憲法一三条に違反するともいえない。
法二条三項について(控訴理由第8ないし第12、第14、第15)
 所論は、法二条三項によって規制対象とされる児童ポルノとは、被撮影者となつている子供の人権を救済し、保護するという児童ポルノ法の規制目的に照らすと、被撮影者の氏名、住所が判明しているまでの必要はないにしても、具体的に特定することができる児童が被撮影者となっている場合に限るとすべきであるのに、同条項において、そのような特定を要求していないのは、表現の自由に対する過度に広範な規制というべきである、という。
しかし、前記2において説示したような児童ポルノ法の立法趣旨、すなわち、同法が、児童ポルノに描写される児童自身の権利を擁護し、ひいては児童一般の権利をも擁護するものであることに照らすと、児童ポルノに描写されている児童が実在する者であることは必要であるというべきであるが、さらに進んで、その児童が具体的に特定することができる者であることまでの必要はないから、所論のような規定が設けられていないからといって、法二条三項が、表現の自由を過度に広範に規制するものとはいえない。