児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

白井美果「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律2条2項にいう「犯罪行為により得た財産」は,当該犯罪行為により取得した財産であればよく,その実行に着手する前に取得した前払い代金等であっても後に当該犯罪が成立する限り「犯罪収益」に該当する等とした事例 最高裁第三小法廷決定平成20.11.4」捜査研究696号

 研修の記事で研修員に疑問があると言ってた論点なので、上告理由に入れておきました。
 この判例が出たので、代金の取得とその後の児童ポルノ罪の成立をいちいちセットで立証する必要が生じています。白井検事はその点がご不満のようです。

なお,本決定(控訴審判決も同旨)が, r犯罪行為により得た財産j については,前提犯罪との前後関係を問わずにマネー・ローンダリングの罪が成立するとしつつ,マネー・ローンダリング罪の構成要件該当行為が先行する場合には,その後に前提犯罪の犯罪行為が成立しなければならないとしている。
この趣旨は,決定の内容自体からは必ずしも明らかではないが,前提犯罪が行われたことを一種の処罰条件とみたものとも解される。「当該犯罪行為により得た」と法が規定していることからすれば,法文上も,後に前提犯罪が成立することを当然に必要としているとも解される。
しかしながら,前払い代金を借名口座に入金した後に前提犯罪の実行の着手に至らなかった場合であっても,前提犯罪により(例えば,前提犯罪を実行する予定でその前払いとして)得た財産であるとの関係が認められさえすれば.将来の犯罪を助長するといえ,したがって,マネー・ローンダリング行為を処罰するためには,前提犯罪の成立を条件とするべきではないとも考えられ,特に,マネー・ローンダリングの行為者と前提犯罪の行為者が同一の場合(多くの事例はそうであろう。)には必ずしも前提犯罪が成立していなくとも,将来の犯罪を助長する危険性には変わりはないものともいえるのであって,反論もあり得るところである。

 でも、別の事件で最決の前に、原田博士もそう言ってるのだから、反論の余地はないと思います。

東京高裁平成20年8月13日
(1)所論は,児童ポルノでありわいせつ図画であるDVD−R又はわいせつ図画であるDVD−Rの販売代金を第三者名義の銀行口座に振り込ませて犯罪収益の取得につき事実を仮装したという原判示第4の事実につき,次のとおりの法令適用の誤りと理由不備があるという。?代金を前払いで振り込ませた段階では前提犯罪たる児童ポルノ提供罪の着手がないから,その代金は犯罪収益に当たらない。?隠匿行為の時点で犯罪収益性を備えている必要があるところ,振込みは児童ポルノ提供行為の着手前に完了しているのであるから,「隠匿し」たとはいえない。?原判決は,児童ポルノ提供罪が成立していない代金収受の時点で仮装罪を認めているが,提供行為が行われなかった場合にも仮装罪が成立することになって不当であるし,そのような解釈は,財産権の侵害である。?前提犯罪の既遂が要件となるならば,訴因において提供罪の既遂が具体的に記載されていなければならないが,原判決にはその記載がなく理由不備である。
(2)第三者名義の口座に児童ポルノ等のDVD−Rの代金が前払いで振り込まれた場合,その代金に対応する児童ポルノ提供又はわいせつ図画販売が行われれば,その代金は児童ポルノ提供又はわいせつ図画販売により得た財産といえるので,その時点で犯罪収益仮装罪の成立が認められる。所論の?ないし?は,振込時点で代金が犯罪収益といえなければ犯罪収益仮装罪の成立が認められないという前提に立ったものであって,結局のところ,前提を欠く立論である。また,?についてであるが,組織犯罪処罰法10条1項は,その文言からみて,罪となるべき事実において前提犯罪を逐一記載することを要求する趣旨と解することができないので,原判決に理由不備は認められない。
 平成20年8月13日
  東京高等裁判所第9刑事部
        裁判長裁判官  原 田 國 男
           裁判官  田 島 清 茂
           裁判官  松 山 昇 平

判例も学説もない新規の論点で、初めて解釈を唱えた弁護人が、初めて考えた裁判所にいきなりぼろかすに否定されるところが悔しいですね。

秋山実「研修の現場から 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項の犯罪収益等隠匿罪を積極的に適用した一事例」研修 第662号

本年7月に実施された第94回検事専門研修では,第一線の現場において,組織的犯罪処罰法が更に効果的積極的に適用されるよう,同法に関する講義を実施したほか,研修員かち紹介された同法に関する具体的適用事例について分科会及び全体会方式による事例研究全行いました。今回はその中から. 犯罪収益等隠匿罪を積極的に適用した事例す取り上げて紹介することにします。
(略)
事例研究の討議においては.研修員のほぼ全員が,結論的にはこのような場合でも犯罪収益に該当するという意見で一致していました。
しかし,その根拠付けに関し, 上記裁判例のような考え方に対しては,そもそも前提犯罪が完了したときに遡って犯罪収益につき事実を仮装した行為に該当するという解釈が成り立つのか,また,当該CD-Rが送付されない間は法律関係がいつまでも確定しないのではないかという意見もありました。難しい問題ですが,討議では,前提犯罪により得た財産についてその帰属を仮装隠匿する行為が,その捕捉を困難にし,将来の犯罪活動への再投資等のための犯罪収益の保持・運用を容易にすることから,犯罪収益等隠匿罪が独立して処罰対象止されたという趣旨に照らせば,法の定める前提犯罪の対価としての趣旨で得た財産である限り,前提犯罪が成立したか否か,既遂に達したかに関わらず法益を侵害することには変わりはないはずであるから,犯罪収益性が認められるのではないかとする意見も出されており,この点は今後なお検討すべき課題であると思われます。

名古屋地裁半田支部H15.5.8
2弁護人の主張(1)について
犯罪収益規制法2条2項1号は,財産上不正な利益を得る目的で犯した児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項の罪(児童ポルノ販売罪.別表59号)の犯罪行為により得た財産を「犯罪収益」にあたると規定しており,児童ポルノ販売罪の未遂罪は処罰の対象とされていないから,児童ポルノ販売罪を前提犯罪とする「犯罪収益」といえるためには,児童ポルノ販売罪が既遂に達していることを要すると解される。しかしながら、このことは,犯罪収益規制法10条1項に規定する犯罪収益の取得につき事実を仮装する行為を実行する段階において,前提犯罪である児童ポルノ販売罪が既遂に達していることを要すると解するものではない。すなわち、児童ポルノ販売罪の実行行為により得た財産の取得につき事実を仮装し,その後に児童ポルノ販売罪が既遂に達した場合は,その既遂時点において,当該仮装行為が,「犯罪収益の取得に関する仮装行為」と法的に評価されることになると解するべきである。なぜなら,まず第1に,犯罪収益規制法10条は,金融機関を経由することによって犯罪収益をクリーンな外観を有する財産に変えて前提犯罪との関係を隠匿し,あるいはこれらの財産を隠匿する行為は,将来の犯罪活動に再投資されたり,事業活動に投資されて合法的な経済活動に悪影響を及ぼすなどのおそれのある犯罪収益の保持・運用を容易にすることから,これを処罰する趣旨の規定であるところ,犯罪収益の取得は,経験上必ずしも前提犯罪の完了後に行われるものではなく,犯罪遂行の過程においてされることが往々にしてあるから,このように解釈しなければ法の趣旨は達成できない。
第2に,前提犯罪の完了を目指して着手した実行行為により得た財産は,取得時点において,既に将来犯罪収益となることが予定されているものであるから,その帰属を仮装する行為は,後に当初の予定どおり前提犯罪が完了したときには,遡って犯罪収益につき事実を仮装した行為にあたると評価するのは自然であり,かつ合理的な見方であるといえるからである。よって,弁護人の主張は採用できない。