数回の児童ポルノ提供行為(7条6項)は併合罪か包括一罪か

例えば、某地裁の判決は、数回の児童ポルノ提供(7条6項)・わいせつ頒布を科刑上一罪にした。わいせつ頒布1罪、提供罪1罪で観念的競合になるという処理らしい。

 第10 令和7年12月21日から令和9年8月12日までの間、別表記載のとおり、県内又はその周辺において、不特定の者である甲ほか2名に対し、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した児童ポルノであり、かつ、女性器等を露骨に撮影したわいせつな電磁的記録である動画データ合計40点及び静止画像データ合計5点並びに児童ポルノである動画データ10点及び静止画像データ1点を含むデータを、インターネットに接続した自己のスマートフォンから、アプリケーションソフト「カカオトーク」のメッセージ機能等を利用して送信するなどし、その頃、甲ほか2名の使用するスマートフォンに各データをそれぞれ受信させるなどし、代金合計円相当の電子マネーを決済サービス「P」を利用して送金手続をさせる方法で販売し、もって電気通信回線を通じて児童ポルノを記録した電磁的記録を不特定又は多数の者に提供するとともに、電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録を頒布したものである。

日付 買主 児童ポルノかつわいせつ 児童ポルノ
R7.12.21 6 1
R8.1.22 4 0
R8.1.28 5 0
R8.10.5 23 6
R9.8.12 7 4

(法令の適用)
罰 条 
 第10の行為のうち
 わいせつ電磁的記録等送信頒布の点
 整理法441条1項により令和4年法律第67号2条による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)175条1項後段
 児童ポルノ提供の点
 整理法441条1項により同法による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条6項後段、2条3項3号
科刑上一罪の処理       
 刑法54条1項前段、10条(ただし1項は旧刑法)により~~、第10の罪につき重い児童ポルノ提供罪の刑でそれぞれ処断

刑種の選択
 第10の罪につき    懲役刑及び罰金刑を選択

併合罪加重          
 旧刑法45条前段
 懲役刑につき、旧刑法47条本文、刑法10条(ただし1項は旧刑法)により刑及び犯情の最も重い第9の罪の刑に加重
 罰金刑につき、刑法48条1項により第10の罪の罰金と懲役刑を併科
未決勾留日数の算入      刑法21条(懲役刑に算入)
労役場留置          刑法18条
訴訟費用の不負担       刑事訴訟法181条1項ただし書

高裁判決が割れているので、上告理由に使えます。

不特定又は多数の者に提供するということで、1罪である程度の回数が予定されているという面と、
1回ごとに個人的法益を侵害する面があって
見解が割れています。

2 裁判官の論稿
判例タイムズ1311号
判例タイムズ1311号87頁 最高裁判所第2小法廷 平成20年(あ)第1703号 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画販売,わいせつ図画販売目的所持,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件平成21年7月7日
 ところで,本決定は,児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪とが併合罪の関係にあることのみを判示しており,複数の提供行為や所持行為を行った場合,提供又は所持としてはそれぞれ一罪になるのか,各行為ごとに併合罪になるのかについては触れていない。少なくとも児童ポルノ法7条4項の提供罪については,「不特定又は多数の者」への提供が構成要件になっているのであるから,多数回の提供行為も一罪と考えるのが素直ではあろうが,いかなる解釈をとるのか,今後の判断に委ねられたものと考えられる。

最高裁判例解説
最高裁判例解説刑事篇平成21年度186頁 平成20年(あ)第1703号 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画販売,わいせつ図画販売目的所持,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件 平成21年7月7日
③武田判事ら「児童ポルノ法(罪数)」特別法を巡る諸問題[大阪刑事実務研究会]判例タイムズ1432号
3 高裁判例
(1)併合罪
阪高裁H23.12.21*1
(1)児童ポルノ法違反の罪について包括一罪が成立するとの主張について
 論旨は,(ア)児童ポルノの提供罪(原判示第1の2,同第3の3,同第5の3,同第5の5)は,被告人が同一の犯意の下に,同一の相手であるP3に送信して提供したものであるから包括一罪であり,(イ)児童ポルノの製造罪(原判示第1の1,同第2の2,同第3の2,同第4の2,同第5の2,同第5の4,同第5の6,同第5の8)については,その保護法益は,社会的法益が基礎で,個人的法益はこれに加味される程度のものなのであるから,被害者が複数であっても,反復継続している製造罪は包括一罪であるのに,これらを併合罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 そこで案ずるに,包括一罪に当たるか否かは,数個の犯罪が成立する場合において,それを構成する数個の行為が,同一罪名に当たるか,同一法益を侵害するものであって,各行為の間に,日時・場所の近接,方法の類似,機会の同一,意思の継続などの密接な関係が認められ,数回処罰ではなく,1回の処罰で処遇することが相当と解されるか否かによって決すべきである。
このような観点から検討すると,(ア)の児童ポルノの提供罪については,提供目的,提供方法及び提供先は同一ではあるものの,他方,機会を異にする犯行であること,児童ポルノの対象男児は基本的に別人であること(原判示第1の2別表2,3のみ同一男児である。なお,弁護人は同別表1ないし3が同一被害男児であると主張するが事実を正解しないもので,失当である。),児童ポルノ法が社会的法益とともに児童の人格的利益の保護を目的とするものであるところ,児童ポルノの提供行為は,これを社会に拡散させて長期間にわたって権利侵害の危険性を及ぼすことなどの点にも鑑みれば,一罪として1回の処罰とすべき場合に当たるとはいえない。(イ)の児童ポルノの製造罪については,被告人が自己のコレクションとしたり,同じ性的嗜好のある者に見せて優越感に浸ったりするなどといった同一の目的に基づくものであるが,他方,各犯行はそれぞれ機会を異にし,新たに犯意が形成されたとみられること,児童ポルノの対象男児は基本的に別人であること(原判示第5の2,同第5の8のみ同一男児である。),各製造行為は,複製しても劣化の少ない電磁的記録の1次的製造(マスターデータの製造)であって,それぞれの製造が複製等を招いてその後の社会への拡散の誘因となるものである上,製造時に被害男児を現に性的対象とするものであるから,個人的法益の侵害の程度が社会的法益の侵害の評価で評価し尽くされるような侵害程度の低いものとはいえないことなどからすれば,一罪として1回の処罰とすべき場合には当たらないというべきである。

阪高裁h14.9.12*2
 1審が併合罪としたのを、追認している
"第4控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,(2)一罪として起訴された事実につきこれを併合罪として処罰するには,訴因変更手続が必要であると考えられるのに,原審裁判所は,検察官が包括一罪として起訴した複数の販売行為について,訴因変更手続を経ないまま,これを併合罪として処罰しているとした上,これらを理由に,原審裁判所の措置には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。しかしながら,(2)の点については,仮に,検察官の意思が所論のとおりであるとしても,訴因事実と同じ事実を認定し,単に罪数的評価が異なるという場合は,訴因変更手続は不要であるから,その前提も失当である。この論旨も理由がない。
"



(2)包括一罪
実は、一罪説もある。一罪説を採る場合には、これを丸写しにすればいいだろう
福岡高裁那覇支部h17.3.1*3
8 控訴趣意中児童ポルノ販売罪の罪数に関する主張について
所論は要するに,被告人が前後6回にわたって児童ポルノを販売した罪は併合 罪であるから,(1)被告人の判示所為について児童ポルノ販売罪の包括一罪が成立 するとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあ る,(2)併合罪については各罪ごとに訴因を特定して明示する必要があるのに,本 件公訴事実は訴因の特定,明示を欠いているから,本件公訴の提起は違法であり, 検察官に対して訴因を特定,明示をすべく釈明を求める必要があったのに,それ をしないまま実体判決をした原判決には,不法に公訴を受理した違法及び訴訟手 続の法令違反があるというにある。
しかし,児童ポルノ販売罪は,その性質上,反覆・継続する行為を予定してい るから,同様の性質を有するわいせつ図画販売罪が同一の意思のもとにおいて行 われる限り,数個の行為が包括一罪とされるのと同じく,同一の意思のもとにお いて反覆・継続して行われた数個の行為は包括一罪となると解すべきである。本 件においては,販売されたCD-Rは原画を同じくする同一内容の画像である上, 被告人は金を儲けるという単一の犯意に基づいて,インターネットのオークショ ンを通じて販売するという同一の犯行態様により,1か月半という短期間に前後 6回の販売行為に及んだのであるから,本件各販売行為が包括一罪であることは 明らかである。
したがって,原判決には所論のような法令の適用の誤り,不法に公訴を受理し た違法,訴訟手続の法令違反がないことは明らかである。論旨は理由がない。

阪高裁h24.6.1
(1) 原判示第5事実の擬律及び罪数(控訴理由第1,第2,第5)について
ア原判示第5事実は,被告人が,被害児童9名に係る性交又は性交類似行為に係る姿態等を記録した動爾データ43ファイルを,インターネットサイトのデータ保管先であるサーバーコンピュータに送信し,そのハードディスク内に記憶,蔵置させ,同サイトのダウンロード会員4名に対し,上記動画ファイルを販売してダウンロードさせたものであるところ,この行為は,不特定又は多数の者に対し,児童ポルノの内容をなす情報を記録した電磁的記録を利用し得べき状態に霞いたものにほかならず, 4項後段提供罪が成立する。
そして, 4項後段提供罪は,不特定又は多数の者への提供行為が構成要件とされており,その構成要件上複数回の提供行為が行われることも当然に予定されていることからすると,上記4名に対する動闘ファイルの提供は包括一罪となると解される。