入浴中の被害者の腕及び脇腹を手で触る行為をわいせつ行為とした事例 (弘前支部r7.9.19)
被告人Bは被害者の母親
【判例ID】 28333526
【裁判年月日等】 令和7年9月19日/青森地方裁判所弘前支部
【事件名】 不同意わいせつ、強制わいせつ被告事件
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 楠山喬正
【出典】 D1-Law.com判例体系
■28333526
青森地方裁判所弘前支部
令和7年(わ)第39号/令和7年(わ)第52号
令和07年09月19日
被告人の表示は別紙1記載のとおり主文
被告人Yを懲役2年4月に、被告人Bを懲役2年2月に処する。
被告人両名に対し、未決勾留日数中各110日をそれぞれその刑に算入する。
被告人両名に対し、それぞれその刑の一部である懲役4月の執行を3年間猶予し、その猶予の期間中被告人両名を保護観察に付する。理由
(犯罪事実)
被告人両名は、出会い系アプリ「A」(以下単に「A」という。)を通じて知り合い、Aのメッセージ機能を利用して連絡を取り合う関係にあった者であるが、
第1 共謀の上、被告人Bの長女である別紙2記載の被害者(当時6歳。以下単に「被害者」という。)が13歳未満の者であることを知りながら、令和3年8月1日午後3時4分頃から同日午後3時58分頃までの間に、青森県C市(以下略)にあるホテルD10号室において、被害者に対し、その着衣を脱がせて全裸にさせた上、被告人Bが被害者の陰部を手指で広げ、被告人Yがその状況をデジタルカメラで撮影するなどし、もって13歳未満の者に対しわいせつな行為をした。
第2 共謀の上、被害者(当時9歳)が16歳未満の者であることを知りながら、令和6年12月6日午後4時7分頃から同日午後6時1分頃までの間に、E市(以下略)にあるホテルF105号室において、被害者に対し、その着衣を脱がせて全裸にさせた上、被告人Yと一緒に入浴させ、被告人Yが、入浴中の被害者の腕及び脇腹を手で触るわいせつな行為をした。
(証拠の標目)
(争点に対する判断)
第1 争点
被告人Yは、不同意わいせつの犯行(判示第2)の際、一緒に入浴していた被害者に対し、その腕及び脇腹を触っている(以下「本件わいせつ行為」という。)(甲17、被告人Y、乙5)。これに対し、被告人Bは、被告人Yと被害者が入浴してからのことは知らないと述べ、弁護人は、被告人Bは被害者との入浴中に被告人Yがどのような行為をするかについて被告人Yと何らやり取りをしておらず、本件わいせつ行為について被告人両名の間に共謀がないと主張する。
したがって、本件の争点は、本件わいせつ行為に不同意わいせつ罪の共同正犯が成立するかどうか、より具体的には、本件わいせつ行為が、被害者を被告人Yと一緒に入浴させることを約束した被告人両名の共謀に基づくものと認められるかどうかである。
当裁判所は、本件わいせつ行為は被告人両名の共謀に基づくものであり、本件わいせつ行為についても不同意わいせつ罪の共同正犯が成立すると判断したので、以下、その理由を説明する。
第2 認定事実
証拠によれば、以下の事実が認められる。
1 被告人Yは、Aを通じて被告人Bと知り合った後、被告人Bに長女である被害者がいることを知ると、被告人Bに対し、被害者と会わせてほしい、被害者と一緒に入浴させてほしいなどと求めるようになった。そして、被告人両名は、被告人Yが被告人Bに金銭を支払う約束をした上で、複数回、被告人両名及び被害者の3人で会い、ホテルなどに行っていた。被告人Bは、被告人Yが、被害者に対し、下心すなわち性的な興味関心を抱いていることを認識していた。(被告人B、乙4、7、8)
また、被告人Bは、被告人Yから、被害者とキスをさせてほしいなどと言われたことがあると述べており(乙9)、被告人Yも、被告人Bに対し、被害者とセックスがしたいと言ったことがあると述べている(乙5)。これらの供述からすれば、被告人Yは、被告人Bに対し、被害者の身体に触れる性的な行為がしたいと希望したことがあったと認められる。
2 被告人Yは、令和6年2月頃、自動車を運転して帰宅途中の被害者に近づき、手を振るなどした。それを知った被告人Bは警察に通報し、被告人Yは、現場に近づかないよう警察官から警告を受けた。(被告人Y、被告人B、乙5)
3 被告人Yは、犯行の一、二週間前に、被告人Bに対し、また会いたい旨を伝えた。その後、被告人両名は、〈1〉被害者を被告人Yに会わせ、一緒に入浴させること、〈2〉被告人Yは被害者が嫌がることをしないこと、〈3〉被告人Yが被告人Bに30万円を支払うこと、を約束した(以下「本件約束」という。)。(被告人Y、被告人B、乙5、9)
被告人Bは、遅くとも本件約束をする前には、前記2のとおり帰宅途中の被害者に近づくなどした者が被告人Yであることを知った。(被告人B)
本件約束のうち、被害者が嫌がることをしない点について、被告人両名は、どのような行為がこれに当たるのかを具体的には話し合っておらず、被告人Bは、犯行に至るまで、被害者に対し、どのような行為をされたら困るか、その意思を確認することはしなかった。(被告人B、被告人Y)
4 被告人両名及び被害者は、令和6年12月6日、本件約束のとおり、犯行場所であるホテルに行った。被告人Yは、同ホテルに入室すると、浴槽に湯を張り、服を脱いで浴室に入った。これに続いて、被害者も服を脱いで浴室に入った。被告人Bは、被害者に対し、入浴することをあらかじめ伝えていた。(甲17、被告人Y、乙5、9)
その後、被告人Yと被害者は、数十分間、二人きりで浴室内におり、被告人Bは、その間、浴室及び脱衣場とは別の部屋にいた(なお、被告人Bが浴室内の様子を見に行ったことがあったかどうかは、被告人両名の間で供述に相違がある。)。そして、被告人Yは、被害者と一緒に浴槽の湯に浸かっていた際、被害者の身体を触りたいと思い、被害者の腕及び脇腹を手で触った。(甲1、17、被告人Y、乙5、9)
5 同ホテルの浴室は広さ約4.2平方メートルであり、浴槽は幅103センチメートル、奥行73センチメートルである。被告人Bは、以前にも同じホテルを利用したことがあり、浴槽の大きさが家庭用と同じ程度であることは認識していた。(甲1、被告人B)
第3 本件わいせつ行為が被告人両名の共謀に基づくものかどうか
1 本件約束によって被告人両名が合意したのは、被害者を被告人Yと一緒に入浴させることであり、被告人Yが本件わいせつ行為に及ぶことについて、被告人両名が話し合い、合意した事実はない。しかし、実際に行われた行為の全てを被告人両名が認識し合意していなければ共同正犯が成立しないわけではない。本件約束により成立した共謀の趣旨、内容等に照らして、本件わいせつ行為が被告人両名の共謀に基づくものであると認められれば、本件わいせつ行為についても共同正犯が成立する。
2 本件約束により、被害者を被告人Yと一緒に入浴させることが合意されているが、被告人Yにとって重要なのは、被害者の裸の姿を間近で見て、自らの性欲を満たすことである。被告人Bも、被告人Yが被害者に対し性的な興味関心を抱いていることは認識しており、被害者と一緒に入浴したいという被告人Yの求めに応じることで、被告人Yから金銭を受け取ることができると考えて、被害者を被告人Yと一緒に入浴させることに応じている。
したがって、本件約束により成立した共謀は、裸の被害者が目の前にいるという被告人Yが性的な興奮を感じる状況を作り出し、それを被告人両名がお互いに利用し合って、被告人Yは自らの性欲を満たし、被告人Bは金銭的な利益を得ることを内容とするものである。そうだとすると、被害者を被告人Yと一緒に入浴させることは、被告人Yが性的な興奮を感じる状況を作り出すための口実にすぎず、入浴それ自体に大きな意味があるわけではないから、被告人両名の共謀は、被告人Yと被害者が一緒に入浴すること、すなわち、二人が同じ浴室内でそれぞれ身体を洗い、浴槽の湯に浸かることだけに限られていたわけではない。
3 被告人両名は、本件約束に際して、被害者が嫌がることをしないことも約束している。しかし、被告人Bは、被告人Yが以前に被害者の身体に触れる性的な行為を希望したことがあったにもかかわらず、被害者に対し、どのような行為をされたら困るかをあらかじめ確認しておらず、被告人Yに対し、被害者が嫌がることとは具体的に何なのかを説明してもいない。加えて、被告人Bは、被害者と一緒にホテルまで同行しており、被告人Yの行動を終始監視することも容易にできたにもかかわらず、被告人Yと被害者の二人きりで浴室に入らせ、自らは別の部屋で待機していた。
これらの事情からすれば、被告人Bは、被害者との入浴中に被告人Yがどのような行為をするかについて、さほど関心を有していなかったと認められる。したがって、被害者が嫌がることをしないという約束は、被告人Yが以前に帰宅途中の被害者に近づくなどしたことがあったため、ある行為について、被害者が拒否する意思を示したにもかかわらず、被告人Yが無理やりその行為に及ぶことは許容しないという程度のものでしかなく、被告人Yが入浴中に被害者の身体に触れることを一切許さない趣旨ではない。
この点、被告人Bは、被害者が嫌がることには被害者の身体に触れることも含まれる、被告人Yが被害者の身体に触れることはないと思っていたと述べる(被告人B、乙9)。しかし、前記のとおり、犯行当時、被告人Bは入浴中の被告人Yの行動にさほど関心を有していなかったのであるから、被害者の身体に触れることは被害者が嫌がることに含まれる、被告人Yが被害者の身体に触れることはないと被告人Bが明確に意識していたかは疑問であり、被告人Bの供述は後付けの弁解である。また、被告人Yが被害者の身体に触れることを被告人Bが認容していなかったとしても、被告人Bは被告人Yに対し被害者の身体に触れてはならない旨を伝えなかったのであるから、被告人Bの内心が被告人両名の共謀の内容に影響を与えることはない。
4 以上の検討を踏まえて、本件わいせつ行為についてみると、被告人Yは、裸の被害者が目の前にいるという、本件約束に基づいて被告人両名が作り出した状況に性的な興奮を覚えたことで、自らの性欲をより一層満たしたいと考えて、本件わいせつ行為に及んだものである。しかも、被害者に対する性的な興味関心を抱いている被告人Yが、家庭用と同程度の大きさの浴槽しかない狭い浴室に被害者と二人きりでいれば、本件わいせつ行為に及ぶことは誰でも容易に想定し得る事態である。また、被告人Yが手を触れたのは被害者の腕及び脇腹であり、陰部などの性的な部位ではなく、本件わいせつ行為が被害者の意思に反することが明白であったともいえない。
これらの事情からすれば、本件わいせつ行為は、被害者を被告人Yと一緒に入浴させたことに触発されて、それと同一の機会に、被告人Yの性欲を満たすという同一の目的により、被害者との入浴に付随して行われたものである。したがって、本件わいせつ行為は被告人両名の共謀に基づくものであると認められ、本件わいせつ行為についても不同意わいせつ罪の共同正犯が成立する。
(法令の適用)
被告人両名いずれも下記のとおり。
罰条
判示第1の所為 刑法60条、令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条後段
判示第2の所為 包括して刑法60条、176条3項、1項(令和5年法律第66号附則3条により「拘禁刑」を「懲役」と読み替える。)
併合罪の処理 令和4年法律第68号441条1項により同年法律第67号による改正前の刑法45条前段、47条本文、10条(ただし、同条2項及び3項は刑法)(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
刑の一部の執行猶予 整理法447条、刑法27条の2第1項
保護観察 整理法447条、刑法27条の3第1項
訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は、出会い系アプリで知り合った被告人両名が、被告人Bは長女である被害者を被告人Yに撮影させたり一緒に入浴させたりし、その対価として被告人Yは被告人Bに金銭を支払うことを約束した上で、被告人Bが被害者をホテルに連れていき、同ホテルにおいて、被害者を裸にさせる、被害者の陰部などを撮影する、被害者を被告人Yと一緒に入浴させるなどのわいせつな行為をした事案である。
被害者を被告人Yと一緒に入浴させた行為(判示第2)は、被害者にとって、狭い密室空間である浴室内において、性的な部位を含む裸の姿を赤の他人である被告人Yに間近で見られる上、被告人Yの裸の姿を見させられるものである。また、被害者の陰部などをカメラで撮影した行為(判示第1)も、被害者にとって、自らの性的な部位や裸の姿を、被告人Yが性欲を満たすための被写体として扱われるものである。このように、被告人両名の行為は、秘密にされるべき被害者の性の領域を深く侵害している。
被害者は、犯行発覚後の司法面接において、被告人Yと一緒に入浴するなどしたことが嫌だったと述べており、本件各犯行により精神的苦痛を被っている。しかも、年を重ねるごとにその苦痛は増していくことが予想され、被害者を守るべき立場にあるはずの母親が本件各犯行に関与したことも相まって、被害者はこれからの長い人生における成長、発達に支障を来たすおそれがあり、被害結果は重大である。
被告人Yは、時には数十万円もの金銭を支払って被告人Bを買収し、自らの性欲を満たそうとし、被告人Bも、被害者を監護する母親でありながら、被害者を被告人Yに差し出して多額の金銭を得ようとしている。被害者を性的又は金銭的な欲望に基づく取引の対象とみる被告人両名の意思は、被害者の人格を無視するものである。
以上の検討を踏まえると、被告人Bに連絡を取り、被害者に対するわいせつな行為を求めたのが被告人Yであり、より責任が重いのは被告人Yであるとしても、被告人両名の責任はいずれも重い。被告人両名には実刑を科すべきであり、その責任に見合う刑の重さは、被告人Yにつき懲役3年程度、被告人Bにつき懲役2年6月程度が相当である。
2 その上で、被告人両名の刑を決めるに当たっては、以下の事情も考慮すべきである。
まず、被告人Yは、当時は被害者の立場に立って考える能力がなく、被害者が嫌がっていないから許されると思っていた、以前に児童ポルノ所持の罪で罰金刑を科されていながら、意思が弱く、感情を抑制できなかったので、精神科に通院して専門的な治療を受け、自分を変えたいと述べ、更生の意思を示している。加えて、被告人Yは、既に精神科医の診察を受け、小児性愛症非専従型と診断され、公認心理師による治療方針に係る書面が作成されている。被告人の父親も証人として出廷し、社会復帰後は被告人を受け入れ、家族も一緒に精神科を受診したいと述べており、被告人Yの更生を支援する環境が存在する。また、被告人Yは、父親の協力を得て、被害者に対する損害賠償金として200万円以上を供託しており、民事上の責任を果たす意思も示している。
次に、被告人Bは、被害者との今後の関係について、一緒に生活したいという気持ちはあるが、自分がまた被害者に危害を加えるかもしれないとの懸念があるので、すぐに同居できるとは思っておらず、児童相談所の指導を受け入れると述べており、自らの責任を受け止めている。そして、自らの生活習慣や金銭管理に問題があったので、規則正しい生活をして、第三者のサポートを受けて仕事をしたいと述べ、更生の意思を示している。
これらの事情を考慮すると、被告人両名に対しては、主文の懲役刑を科すのが相当である。
3 他方で、被告人Yの性癖は根深いことからすると、社会生活の中で更生の意思を持続させ、歪んだ性癖を矯正するためには、自発的な通院だけでなく、保護観察という強固な枠組みの中で、継続的かつ長期的な働きかけを行うことが不可欠であり、性犯罪再犯防止プログラムの実施も検討されるべきである。
また、被告人Bは、生活習慣が相当乱れており、欲求を我慢して支出を抑える能力も低く、本件各犯行を始め著しく不適切な方法で金銭を得ようとする姿勢が身に付いている。現状では被告人Bを適切に指導できる者も見当たらず、これらの問題を改善するためには、保護観察所による生活指導、就労支援などが不可欠である。
したがって、被告人両名に対しては、再犯を防止するため、刑の一部の執行を猶予して、猶予の期間中保護観察に付するのが必要かつ相当であると判断した。
(検察官中田圭祐、私選弁護人G(被告人Y)、国選弁護人H(被告人B)各出席)
(求刑 いずれも懲役3年の実刑)
(裁判官 楠山喬正)
(別紙1)(省略)
(別紙2)(省略)