児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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被害者が男だったという中止未遂の主張(金沢支部r03.09.28)

被害者が男だったという中止未遂の主張(金沢支部r03.09.28)
 
強制性交未遂について、刑事損賠賠償命令の申立があって、250万円で和解しています。

名古屋高等裁判所金沢支部
令和3年9月28日第2部判決
 上記の者に対する住居侵入,強制性交等未遂,窃盗,建造物侵入,福井県迷惑行為等の防止に関する条例違反,窃盗未遂被告事件について,令和3年3月25日福井地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官福島弘出席の上審理し,次のとおり判決する。
       理   由
 本件控訴の趣意は,主任弁護人園山達紀作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから(ただし,同弁護人は,当審第1回公判期日において,同書面の第2に「法令適用の誤り」とあるのを「事実誤認」に,第3に「事実誤認」とあるのを「量刑不当」にそれぞれ訂正の上陳述した。),これを引用するが,論旨は,要するに,(1)原判示第4の強制性交等未遂は,被告人が自己の意思により犯罪を中止したものであるから中止未遂(刑法43条ただし書)が成立するのに,これを認めなかった原判決には事実の誤認がある,(2)被告人を懲役5年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり,刑の執行を猶予すべきである,というものである。
 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
1 事実誤認の論旨について
 原判決は、原判示第4の事実について,被告人は,女性と強制的に性交する目的で標的とした被害者に暴行を加えたのに,同人から自身が男性であることを告げられ,そのことを認識し,前記目的を遂げることができないためその場から立ち去ったものと認められ,被告人が自己の意思により犯罪を中止したものでないことは明らかであるから,中止未遂は成立しないとの判断を示したものである。
 原判決の上記事実の認定,評価は,正当として是認することができる。 
 弁護人は,強制性交等罪は,被害者が男性であってもなし得る犯罪であるから,被害者が男性であったことは犯行を不可能にする事情ではなく,被告人は自己の意思により犯罪を中止したと評価すべきであると主張する。しかしながら,中止未遂における任意性は,中止の原因となった外部的事情が,法的に犯罪の成立を妨げるものではなくても,事実上犯罪の遂行を妨げるものであれば,否定されるものであると解すべきところ,本件において,被告人は,女性と性交する目的で被害者に暴行を加えたものの,被害者から男性であると告げられるなどしたことで,女性と性交することができないとして犯行の遂行を諦めたのであり,そのような事実関係において,被告人が自己の意思により犯罪を中止したと評価することができないのは明らかというべきである。中止未遂の成立を否定した原判決の判断に誤りはなく,弁護人の主張は採用することができない。
 事実誤認をいう論旨は理由がない。
2 量刑不当の論旨について
3 職権判断(破棄自判)
 もっとも,当審における事実取調べの結果によると,被告人は,原判決後,前記刑事損害賠償命令事件において,原判示第5の被害者に対し,250万円を支払うとともに,今後一切同被害者と接触したり,その名誉を害する行為をしたりせず,同被害者の居住県内にも立ち入らないこと等を約することで,和解をしたことが認められる。
 前述のとおり,本件犯情等に照らせば,被告人の刑事責任はそれ相当に重いというべきであって,上記原判決後の事情を十分に勘案してみても,本件において,その執行を猶予し得るほどの刑の量定は妥当しないといわざるを得ない。もっとも,当該事情によれば,被告人を懲役5年に処した原判決の量刑は,現時点においてはやや重きに過ぎるに至ったものと認められ,これを見直すのが相当というべきである。
 よって,刑訴法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書により直ちに当裁判所において自判すべきものと認め,更に次のとおり判決する。
 原判決が適法に認定した事実に法令を適用すると,被告人の原判示第1の所為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,窃盗の点は同法235条に,原判示第2の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,窃盗未遂の点は同法243条,235条に,原判示第3の別表番号1ないし4の各所為のうち,各建造物侵入の点はいずれも同法130条前段に,各衣服等の一部を着けない状態でいる人の姿態を撮影した点はいずれも福井県迷惑行為等の防止に関する条例12条1項4号,3条4項3号に,原判示第4の所為は刑法180条,177条前段に,原判示第5の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,強制性交等未遂の点は同法180条,177条前段にそれぞれ該当するところ,原判示第1の住居侵入と窃盗との間,原判示第2の住居侵入と窃盗未遂との間,原判示第3別表番号1ないし4の各建造物侵入と各福井県迷惑行為等の防止に関する条例違反との間,原判示第5の住居侵入と強制性交等未遂との間には,それぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により,それぞれ1罪として重い,原判示第1については窃盗罪の刑,原判示第2については窃盗未遂罪の刑,原判示第3別表番号1ないし4については各建造物侵入罪の刑,原判示第5については強制性交等未遂罪の刑で各処断し,原判示第1ないし第3の各罪についていずれも懲役刑を選択し,原判示第4及び第5の各罪はいずれも未遂であるからそれぞれ同法43条本文,68条3号を適用して法律上の減軽をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い原判示第5の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,原審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。
令和3年9月28日
名古屋高等裁判所金沢支部第2部
裁判長裁判官 森浩史 裁判官 峯金容子 裁判官 永井健一