児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

SNSで9歳児童に裸体を撮影させた行為を強制わいせつ罪(176条後段)とした事案。児童ポルノ製造罪とは観念的競合(大阪高裁R3.7.14 判決速報令和3年17号)

SNSで9歳児童に裸体を撮影させた行為を強制わいせつ罪(176条後段)とした事案。児童ポルノ製造罪とは観念的競合(大阪高裁R3.7.14 判決速報令和3年17号)
 奥村説ですけどね。
 裸画像を撮影させるというのは、医療行為としてもありうるというので、「行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できない」とされます。
 「撮影させ」まででわいせつ行為になるので、犯人が見ていなくても、強制わいせつ罪(176条後段)になります。

判決速報令和3年17号
強制わいせつ,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
令和3年7月14日
阪高裁第6刑事部判決 控訴棄却
(被告人)
(第 一 審) 京都地方裁判所
判示事項
被告人が,アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して,遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し,その裸体をいわゆる自撮りした画像を被告人に送信するよう要求し、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせ、自撮りさせた行為(以下,「本件行為」という。)の「わいせつな行為」(刑法176条)該当性が争われた事案について(なお,被害者は自撮り後,引き続き,被告人に画像を送信し被告人に閲覧させているが,送信・閲覧行為は強制わいせつ罪として起訴されていない。),平成29年11月29日最高裁大法廷判決の判断基準を適用し,本件は行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できないものの,一定の性的性質を備えていて、「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであることに加え,本件行為の行われた際の具体的状況等をも考慮すると,性的な意味合いが相当強いものといえるから、「わいせつな行為」に当たるとして、強制わいせつ罪の成立を認めた事案

1 罪となるべき事実(要旨)
被告人は,被害者が13歳未満であることを知りながら,
①遠隔地にいた同人に対し、ダイレクトメッセージ機能を使用して,その陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し,その頃,被害者にそのような姿態をとらせていわゆる自撮りをさせた上,
②その画像データをダイレクトメッセージ機能を使用して被告人のスマートフォンに送信させて,アプリケーションソフト運営法人が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させた。
2 訴訟経過
検察官は、①行為(本件行為)を強制わいせつ罪,①及び②行為を児童ポルノ製造罪として,別個の訴因で(併合罪として)起訴した。
弁護人は,本件行為につき、被害者に裸体を自撮りさせただけでは,遠隔地にいる被告人が見ることはできず,性的侵襲は弱いので,「わいせつな行為」に該当しないか,該当するとしても強制わいせつ未遂罪が成立するにとどまる旨主張したが,原判決は,本件行為につき強制わいせつ罪の成立を認め,罪数につき、児童ポルノ製造罪と観念的競合の関係にあると判断した
これに対し,被告人が控訴し,原審同様強制わいせつ罪の成立を争ったが,控訴審判決はこれを排斥し,控訴を棄却した。
第2控訴審判示
参考事項
1 前記最高裁判決で示された判断基準を,本件のような非接触型・非対面型わいせつ事案に当てはめて強制わいせつ罪の成立を認めた高裁判決はまれであり、その詳細な理由付けを含め,先例としての価値は大きい。
2 前記最高裁判決が「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分踏まえる」としたことの趣旨につき,同判例解説 (214 頁)では,次のような判断の順序を示したものと説明されている。すなわち,
(a) 行為そのものに、性的性質が有り,かつ,その性的性質の程度が強いために,直ちに「わいせつな行為」に該当すると判断できる行為か
(b) 行為そのものに備わる性的性質が無いか,あっても極めて希薄であるために,およそ刑法176条による非難に値する程度に達しえないものとして、直ちに「わいせつな行為」に該当しないと判断できる行為かをまず判断し,次に,
(C) 行為そのものが持つ性的性質が不明確であるために、行為の外形だけでは「わいせつな行為」該当性の判断がつかない類型においては、行為そのものが持つ性的性質の程度を踏まえた上で,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮する
というものである。
また,前記最高裁判決のいう「当該行為が行われた際の具体的状況等」として考慮すべき判断要素として,前記判例解説 (218 頁以下)では,以下の事情が挙げられている。
(a) 行為者と被害者の関係性
(b) 行為者及び被害者の各属性等(それぞれの性別・年齢・性的指向・文化的背景〔コミュニケーション手段に関する習慣等〕・宗教的背景等)
(c) 行為に及ぶまでの経緯,行為者及び被害者の各言動,行為が行われた時間,場所,周囲の状況等
(d) 行為に及んだ目的を含む行為者の主観的事情(外部的徴表として現れているもの)
控訴審判決は,同判例解説と同様の視点で当てはめがなされている。
訴因には「わいせつな行為」の概略しか記載しないが、行為の行われた具体的状況等をも加味して「わいせつな行為」該当性を評価すべき事案においては、「わいせつな行為」であることを基礎づける具体的事実を冒頭陳述で指摘する必要があるとともに,論告で,その具体的事実の評価について丁寧に論じる必要がある(前記判例解説 226頁参照)。


4 非接触型のわいせつ行為(例えば,脅迫により畏怖した被害者に自慰行為をさせて自撮りさせ,その画像を遠隔地にいる被告人に送信させる事案)を強要罪で起訴する例が見られることについて,(被告人に画像を送信しなくても)強制わいせつ罪が成立するのではないかとの指摘がなされていた(橋爪隆「非接触型のわいせつ行為について」研修 860 号)が,本件はこれを肯定した高裁判決として参考になる。
○ 参照条文
刑法176条

追記
 警察から問い合わせの電話があるが、記録は京都地検にあるので詳細はそちらに問い合わせて下さい。
 事件の特定は「検察庁の判決速報令和3年17号。被告人氏名も書いてある」って言えばいいでしょう。

追記
 メールで脅して撮影させた行為についても、強制わいせつ罪と製造罪を観念的競合にした判決(大阪高裁令和4年1月20日)も出ました。