1審の宣告刑と比べると、執行刑期は17か月短縮され、ほとんど刑期がありません。
控訴審判決の「訴訟費用」というのは、国選で選任されたものの、控訴理由がなかなか書けず控訴趣意書の締め切り直前で私選が選任されて、解任された国選弁護人の報酬なんですが、多分児童淫行罪の条文も見てないと思います。
ギリギリで私選で選任されることもありますが、とりあえず期限内に何か出しておいて、期限を延長してもらってじっくり買うという二段階で対応しています。
弁護人弁護士奥村徹
東京高裁平成24年10月17日
判決
上記の者に対する児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反被告事件について、平成24年月日地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので当裁判所は、検察官出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役年に処する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、理由不備、法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。
第1 原判示第1の3の事実についての理由不備又は法令適用の誤りの主張について
所論は失当である。
論旨は理由がない。第2 理由不備の主張について
論旨は、児童福祉法34条1項6号の児童に淫行をさせる罪(以下「児童淫行罪」ということがある。)の罪となるべき事実(原判示第1の1等の事実)については、単に雇用関係や身分関係という被告人と被害児童との関係だけでなく、実際に事実上の影響力を与えた事実を記載する必要があるところ、原判決は、被告人は、当時原判示学校(以下「本件学校」ということがある。)に教諭として勤務していたものであること並びに被害児童が本件学校の元生徒であり部員であったことを摘示するのみで「実際に事実上の影響力を与えた事実」を全く記載しておらず、児童淫行罪の構成要件に該当すべき具体的事実を摘示しているとはいえなし、から、原判決にはこの点において理由不備の違法があるというのである。
そこで検討すると、児童福祉法34条1項6号は、児童に淫行を「させる行為」を禁止しているのであるから、自己を相手に淫行をさせる場合、同号に該当するといえるためには単に児童と淫行をするだけでは足らず、少なくとも児童に対し淫行を助長し促進する行為をすることが必要であり(最高裁昭和40年4月30日決定裁判集155巻595頁参照)、したがって、罪となるべき事実にはその旨を摘示する必要があるというべきである。
しかるに、原判決は、上記のとおり被告人が本件学校の教諭で被害児童が本件学校の元生徒であった旨を判示するにとどまり、このことが被告人を相手とする性交類似行為又は性交とどのような関連があるかの判示はなく、他に被告人が被害児童に対し淫行を助長し促進したことを示す事実の摘示もない(各起訴状記載の公訴事実も同様である。)。
そうすると、原判決は、児童福祉法34条1項6号の罪の構成要件を満たす事実を漏れなく記載していないというべきであるから、原判決には、原判示第1の1等の事実に関し、理由不備の違法があるといわざるをない。
検察官は、答弁書において、原判示の罪となるべき事実は、本件が、学校教師の生徒又は元生徒に対する事実上の影響力を及ぼして被害児童に淫行をさせた趣旨であることを容易に理解できるから、児童に淫行をさせる罪の構成要件の摘示に欠けるところはないと主張するが、単なる両者の関係の記載をもって、直ちに同関係に伴う影響力を及ぼした趣旨であると解することは困難である上、原判決は、被告人が児童に淫行をさせるいかなる行為をしたのかについては全く記載していないのであるから、検察官の上記所論は採用できない。
なお、原判決は、(量刑の理由)の項において、「被害児童が、在学時も卒業後も、恩師として被告人を尊敬し頼りにしており、それ故に学校卒業後も被告人に自らの悩みを相談していたのであり、同児童らと被告人との在学時代の関係等からすれば、被告人は恩師として同児童らに依然として相当な影響力を持っていたと考えられる。」旨判示して、被告人がかかる影響力を利用して被害児童に淫行をさせたと解し得る説示をしているものの、この点を罪となるべき事実として摘示していない以上、理由不備の違法が解消されるものではない。
以上によれば、論旨は理由がある。
第3破棄自判
第2のとおり、原判示第1の1等の事実を認定して被告人を有罪とした原判決には理由不備の違法があり、破棄を免れないところ、原判決は、原判示第1の1等の事実と同第1の3の事実に係る罪とを刑法45条前段の併合罪として1個の刑を科しているので、原判決はその全部を破棄すべきである。
よって、その余の論旨(原判示第1の1等の事実についての罪数評価の誤りをいう法令適用の誤りの主張及び量刑不当の主張)についての判断を省略して、刑事訴訟法397条1項、378条4号により原判決を破棄し、同法400条ただし書により、当審において変更された訴因に従い、更に次のとおり判決する。