児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「マスク越しのキス」を「わいせつ行為(刑法176条)」とした事例(岐阜地裁R03.11.4)

「マスク越しのキス」をわいせつ行為とした事例(岐阜地裁R03.11.4)
 こういう微妙な事例は、薄井論文を引用して、わいせつ性を説明させる必要があります。
 そもそも「キス」じゃなく「接吻」だ。

薄井真由子「強制わいせつ罪における「性的意図」~植村立郎「刑事事実認定重要判決50選_上_《第3版》」2020立花書房 
 他方で,口腔については,日常生活上,さまざまな物が入る部位であるから,口腔に手指や異物を挿入するとか,直接触るとかいうことだけでは性的性質が明確ということはできない。挿入は侵襲度の高い行為であるが,口腔への挿入の場合には,何を挿入するかによりその性的性質の有無及び程度が大きく変わるものと解される。例えば,行為者の舌を被害者の口腔に挿入する行為は,挿入するものとの関連で性的性質が強く認められるから,①の場合に当たるといえるのではないだろうか。これに対し,直接の接触の場合(この場合は口腔への接触ではなく唇への接触というのが正確かもしれない)には,挿入よりも侵襲度が下がることから,それだけで①の場合に当たるというのは困難であるように思われる 11)。接触の執拗さ(継続性)も踏まえた上で,①の場合に当たるといえることもあろう。

11) 口腔内への舌の挿入を伴わない接吻については,性的性質が明確とまではいえず,行為が行われた際の具体的状況等を総合考慮して判断するものと考えられる。接吻が刑法176条の「わいせつな行為」に当たるかについては,亀山=河村・前掲注l) 67以下参照。

元県立高教諭に有罪判決 教え子へのわいせつ罪 「事後の犯情悪質」 岐阜地裁
2021.11.05 岐阜新聞
 岐阜地裁は4日、教え子の少女=当時(18)=にマスク越しにキスするなどのわいせつな行為をしたとして、強制わいせつの罪に問われた被告に対し、懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決を言い渡した。
 笹邉綾子裁判官は判決で「着衣やマスクの上からではあるが、胸に顔をうずめるようにして押し当てた点は、相当な羞恥心、不快感を与え、軽微とは言えない」とし、「被害者が警察に相談したことを知ると、悪質な脅迫で取り下げを迫った。事後の犯情は極めて悪く、被害者が被った精神的被害は非常に大きい」と指摘した。一方で、前科前歴がなく、懲戒免職処分を受けたことなどから執行猶予付き判決とした。
 判決によると、被告は今年4月4日午後8時20分ごろから同50分ごろまでの間に、岐阜市内のコンビニに止めた車内で、少女の両胸に顔を押し当てるなどのわいせつな行為をした。

「亀山=河村 前掲」というのは 大コンメンタール刑法第三版第9巻

コンメンタール刑法第三版第9巻p67
(4) わいせつ行為
(a) 意義本条のわし、せっ行為は, I徒に性欲を興奮または刺激せしめ,且つ,普通人の正常な性的差恥心を害し,善良な性的道徳、観念に反する」行為をいうものとされており(名古屋高金沢交判昭36・5・2下集3巻5= 6号399頁l,174条, 175条における「わいせつ」とほぼ共通の概念であるが,本条は,被害者の性的自由ないし性的感情の保護をもその法益をとするものであるから,おのずからニュアンスを異にするところがあると説かれる(174条III3 ,団藤・注釈(4)[所]293員,大塚・注解797頁,条解刑法466頁等.
本条は,風俗犯的性格もないわけではないが,本質的には個人の性的自由ないし性的感14情の侵害を主たる罪質とする罪と解されるから,端的に人の性的自由を犯し,性的感情を害する性質の行為を対象とすると解すべきである.前掲判例のように解してみても, 174条, 175条の行為は,公然ないしは不特定多数の人をいわば観客として行われることによって違法性が認められるものであるのに対して,本条の行為は,特定個人に対してその意思に反して行われる侵害行為であるところに本質があるのであるから,前者の定義をそのまま本条に当てはめることができない場合がでてくるのは当然である(東京両判昭40・3・18高検速報1337号参照).
このような見地から,接吻が174条のわいせつ行為に当たらないとしても,本条のわいせっ行為たり得ることは当然である(広烏高松江支判附27・9・24特報20号187頁〔長島敦・研修54号87頁],東京高判日{i32・1・22高集10巻l号10頁〔尚橋幹男・判タ78サ16頁],仙台高判昭32・4・18高集10巻6号491頁,高松高判昭33・2・24裁特日巻2-~}57Yi , 名凸屋高金沢支判昭36 ・5 ・2 -f集3巻5= 6号399頁,東京高判平20・7・9高検速報〔平20) 121頁.ただし,反対説もある柏木・各論312頁,小野ら・註釈416頁参照l.


コンメンタール刑法第三版第9巻p68
20 【接吻】接吻については,前掲諸判例のほか,大阪高裁昭和41年9月7日判決(判タ199号187頁),仙台高裁昭和49年12月10日判決(高検速報(昭49) 9号)及びこの判決に対する上告審決定(最決昭50・6・19裁判集〔刑事J196号653頁),東京地裁昭和56年4月30日判決〔判時1028号145頁) (頬に接吻しようとした事例 
 男性間の接吻につき大阪地裁昭和43年2月6日判決(判タ221号237瓦) (35歳の男が11歳の男の子に強いて接吻したのを強制わいせつと認めた事例)参照.