児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

法務省刑事局公安課長松本麗「実在する児童の裸体を撮影した写真を素材として作成したコンピューターグラフィクスにつき,児童ポルノ製造罪及び提供罪の成立を認めた事例(最高裁判所令和2年1月27日決定,裁判所時報1740号3頁)」研修870号

 法務省刑事局公安課長松本麗「実在する児童の裸体を撮影した写真を素材として作成したコンピューターグラフィクスにつき,児童ポルノ製造罪及び提供罪の成立を認めた事例(最高裁判所令和2年1月27日決定,裁判所時報1740号3頁)」研修870号
 CGの事件なんてもう来ないと思うけどなあ。

3実務上の課題
最後に,被写体である児童の実在性を要求されることに関連して,本決定及びこれに連なる各判示から察せられる,今後の児童ポルノ法違反の捜査・公判における課題について,指摘しておきたい。
第一審判決は,実在性を判断・立証する素材となる画像について,「昨今のカメラやコンピューターソフト等の技術向上に伴い,写真や画像データに改変を加えることが容易になっていることからすると,CGを描く基となった写真について改変が加えられている可能性にも留意する必要があり,特にCGの基となった写真の画像データのみが存在し, その出典が不明である場合には, 出典となった写真集が存在する場合と比べて同画像データ作成の過程において改変が加えられている可能性が高いことになるが, 同画像データのみからその可能性を判断することは相当に困難である。」と指摘しつつ,本件CGの素材とされた写真集について, 「現在ほどには写真加工の技術が進んでいなかった当時の技術からすると, 当時においても写真に一定の加工を施すこと自体は可能であったとしても,実在する人物の写真を全く利用しないで写真を創作したとは考え難いこと,前記各写真集の写真は合成写真であるとすく、に判断できるような外観を有するものではないこと, 当時において特定部位のみを加工する必要性は乏しかったと解されることからすると, これらの写真集に収録された各写真の被写体がその当時実在する人物であったこと」が強く推認される旨判断している。
素材となった画像自体の改変の可能性という観点からいえば,本件では,相当以前に出版されていた写真集が素材であったことが幸いしたといえるだろう。
もちろん,素材画像に関する改変の有無については,専門家による鑑定など多方面からの立証が予定されているものではあろうが,素人でも携帯電話やパーソナルコンピューターを使えば簡単に画像の精密な加工が可能となっている今日,決め手となる証拠収集や立証についてはより注意が必要であることを肝に銘じておきたい。
第4終わりに
平成11年に成立した児童ポルノ法は, その後, 国内における児童ポルノ事犯,児童買春事犯等の横行や児童ポルノ規制を巡る国際情勢などを踏まえて,幾度もの大改正を経て,現在に至っており,既に,児童の性的搾取に対する我が国における中心的な規制の1つとして機能しているといえよう。
それだけに,実務上問題となる論点も多く, また,他方で,実在しない児童を描写したポルノを規制の対象とするのかなど,今後も議論となり得る点も孕んだ分野であり,実務者としては,最新の動向の把握が欠かせないところであり,拙稿が少しでも参考となれば幸いである。