児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裸の画像の乳房・陰毛等から年齢を立証するという「タナー法」というのは、医学文献には存在せず、一部の内科医の供述や警察の内部資料にのみ存在すること

 最近の「タナー法」の評価について書いておきます。
 「タナー判定」というのは、小児科医の分野で人の性的成熟度を測る指標である。


小児科学 第3版(医学書院)p17
思春期の性成熟と成長
思春期は,小児から成人への移行の過渡期にあたる時期で,種々の成熟段階を経て身体全体が成人に成熟する。この過程は多くの神経内分泌因子やホルモンによって制御されているが,最終的には,下垂体から分泌されるゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)と性腺から分泌される性ステロイドホルモンが上昇して,二次性徴を発現・成熟させる。
何が思春期開始の引き金になるかは,完全には明らかではないが,栄養や脂肪細胞から分泌されるレプチンなどが関与していると考えられている。
(1)二次性徴の成熟
思春期の発来は,男子においては精巣容量の増大から始まり,陰茎増大,陰毛発生と進んでいく。女子においては乳房の発育から始まり,陰毛発生,初経と進んでいく。思春期の評価は, Tannerが提唱したTanner分類が用いられ,男子においては,精巣の大きさ,陰茎の大きさ,陰毛の発毛状態が,女子においては乳房の発育,陰毛の発毛状態が評価される。いまだ思春期が始まらない時期をTanner1度.成人の成熟状態をTanner5度とし,思春期の開始(女子で乳房の発育開始,男子で精巣の4ml以上の増大)をTanner2度として,評価する(図1-12,13)。男子では,orchidometer (精巣容量測定器)を用いて精巣容量を測定する。

 使い方としては、例えば、6歳女子として受診した患者が豊満な乳房であれば、「タナー5度」として、「思春期早発」を疑い、診察・検査して異常がないか調べ
 20歳女子として受診した患者が乳頭のみ突出・乳房未発達であれば、「タナー1度」として、「思春期遅発」を疑い、さらに診察・検査して、異常がないか調べる。そういう指標である。
 小児科では
  乳房・陰毛が1度だから○○歳
  乳房・陰毛が5度だから○○歳
という使われ方はしない。

 タナーの手法を確認するために、タナー博士の論文を翻訳した。

Marshall & Tanner.
Variations in pattern of pubertal changes in girls.
Arch Dis Childh 44巻, 235号, 291~303ページ, 1969年
Material and Methods
The subjects were 192 white British girls participating in the Harpenden Growth Study.
They had no physical abnormalities, and lived in family groups in a children's home where the standard of care was in all respects excellent.
They came mainly from the lower socio-economic sector of the population, and some may not have received optimal physical care before entering the home (usually at ages 3 to 6 years).
The reason for their admission was usually break-up of the parental home by divorce or by the death, illness, or desertion of one parent.
The subjects were seen at 3-monthly intervals during adolescence. Some were followed throughout their whole adolescent period; but some through part of it only.
The development of the secondary sex characters was studied in photographs taken in the nude at each examination.
All the photographs of each girl were later examined together.
By comparing each picture with the preceding one, changes in the breasts and pubic hair were readily recognized.
The breasts and pubic hair on each photograph were classified into five stages of development, as described by Tanner (1962).

材料と手法
 被験者は、ハーペンデン成長研究に参加している192人の白人英国人少女であった。 彼女らに身体的な異常はなく、標準的なケアがあらゆる点で優れていた子どもの家の家族グループに住んでいた。彼女らは主に人口の中でも低い社会経済層から来ており、ホームに入る前に(通常3〜6歳で)最適な身体的ケアを受けていない者もいた。彼女らが入所した理由は通常、両親の離婚または死亡、病気、片親の失踪などによる実家庭の崩壊である。
被験者は青年期に3か月間隔で観察された。一部は思春期全体を通して追跡されたが、別の一部は部分的であった。
二次性徴の発達は、各検査でヌード撮影された写真で研究された。各少女の写真は後日すべて一緒に調べられた。各写真を前の写真と比較することにより、乳房と陰毛の変化が容易に認識された。タナー(Tanner)(1962)によって説明されているように、各写真の乳房と陰毛は5つの発達段階に分類された。これらは図1と2に示されている。すべての評価は同じ観察者(W.A.M.)によって行われた。乳房の段階は次のとおりである。

 1969年の論文の対象は、施設内の白人英国人192人であって、全国民レベルの網羅的な研究ではない。
 身長・体重・初潮の時期を継続的に計測した結果である。
 繰り返しておくが、
 成熟度と年齢との対比が集計されているが、
  乳房・陰毛が1度だから○○歳
  乳房・陰毛が5度だから○○歳
という使われ方はされていない。年齢を知った上での調査だからである。

 検察庁も「タナー法とは,女子児童については,乳房の膨らみと乳輪の隆起,陰毛の濃さや範囲により, 1度から5度のステージで,発達段階を定義し,性発達の段階を評価するものである」と説明する。(佐藤淳「実在する児童の裸を撮影した写真を素材として作成したコンピュータグラフィックスの画像データに係る言己録媒体を「児童ポルノ」と認定し,児童ポルノ製造罪及び児童ポルノ提供罪の成立を認めた事例(平成28年6月15日東京地裁判決・公刊物未登載)」研修818号)
 タナー法から年齢が推定できるというのは、文献はなく、医師の供述にのみ存在するものである。公開されている文献はないので挙げられない。

研修818号
(注6)本判決に引用されている医師の供述によれば, タナー法とは,女子児童については,乳房の膨らみと乳輪の隆起,陰毛の濃さや範囲により, 1度から5度のステージで,発達段階を定義し,性発達の段階を評価するものであり,乳房について,全く発達していない,やや膨らむ,更に大きく突出する,乳房が肥大する,成人型になるとの5ステージ,乳輪について,平坦,やや隆起する,隆起が目立たなくなる,隆起する,平坦になるとの5ステージ,陰毛について,何もない,僅かに陰毛が生える,少し色が濃くなる,成人に近くなるが大腿部までは広がらない,大腿部まで広がるとの5ステージが定義されているとのことである。

 ところが日本警察には「写真・画像から年齢を証明できるという医学的な方法」があってそれの方法を「タナー法」と呼ぶらしい。
 警察関係の出版物(受験雑誌・執務資料)によれば、「予備鑑定員」制度があって、警察庁がタナー法による年齢鑑定の講習会を行っているようなので、警察にはあると思われる。非公開の執務資料や研修資料(虎の巻)として存在するようである。

警察庁執務資料 児童買春・児童ポルノ事犯の取締りH14
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2015昇任SAシステム実務編TOP社
(4)予備年齢鑑定員一児童ポルノ事件の捜査において、児童ポルノか否かの予備鑑定を行う警察官をいう。
4) 正しい。警察庁が主催する講習を終了した警察官が、捜索の際に児童ポルノ映像を発見した際、その場で児童性を認定して現行犯逮捕できることとしており、この講習を受けた警察官を「予備年齢鑑定員」という。
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top昇任SAシステム2018実務編
次は、児童ポルノ提供事犯捜査要領についての記述であるが、妥当でないのはどれか。
(5) 児童ポルノ事犯の捜索・差押えの現場において、あらかじめ鑑定済みの児童ポルノを発見できないものの、児童ポルノと思料される別の画像を発見した場合であって、一定の要件がある場合には、当該現場における警察官の見分に基く予備年齢鑑定により児童性を認定し、現行犯逮捕することができる。
(5)妥当。予備年齢鑑定の要件として、「①指定鑑定員による予備鑑定であること、②予備鑑定の結果、タナー法の2度以下と判定されること」及びそれ以外の要件として、「①提供目的等を認めるに足りる状況であること、②逮捕の必要性があること」の要件がある場合は、当該現場における警察官の見分に基づく予備年齢鑑定により児童性を認定し、現行犯逮捕することができる。
・・・・・・・
KOSUZO 2014年5月号
次は、児童ポルノ提供事犯の捜査に関する記述であるが、妥当でないのはどれか。
(5) 予備年齢鑑定の要件は、①指定鑑定員による予備鑑定であること、②予備鑑定の結果、タナー法の2度以下と判定されることであり、その対象には、別人の頭部の画像と胴体部分の画像を合成させたと思料される静止画も含まれる。
(5)妥当でない。「別人の頭部の画像と胴体部分の画像を合成させたと思料される静止画も含まれる」とする枝文は妥当でない。タナー法によるところの2度以下と判定されることが必要であるが、別人の頭部の画像と胴体部分の画像を合成させたと思料される静止画や、いわゆるボカシ入りの画像等、加工している画像は除かれる。

 ところで、アメリカの児童ポルノ事件でのタナー法による立証について、タナー本人による警告が1999に出て、2016になって吉井によって日本にも紹介された。

Misuse of Tanner Puberty Stages to Estimate Chronologic Age
PEDIATRICS 102(6):1494 · January 1999 
Misuse of Tanner Puberty Stages to Estimate Chronologic Age
To the Editor..
One of us has been involved as an expert in several US federal cases of possession of alleged child pornography, in which seized materials (videos, photographs, computer downloads) were used as evidence against individuals identified in “sting” operations, wherein government agents take over pornographic businesses.
In these cases the staging of sexual maturation (Tanner stage) has been used not to stage maturation, but to estimate probable chronologic age.
This is a wholly illegitimate use of Tanner staging: no equations exist estimating age from stage, and even if they did, the degree of unreliability in the staging.the independent variable. would introduce large errors into the estimation of age, the dependent variable.
Furthermore, the unreliability of the stage rating is increased to an unknown degree by improperly performed staging, that is, not at a clinical examination but through nonstandardized and, thus, unsuitable photographs.
Therefore, we wish to caution pediatricians and other physicians to refrain from providing “expert” testimony as to chronologic age based on Tanner staging, which was designed for estimating development or physiologic age for medical, educational, and sports purposes.in other words, identifying early and late maturers.
The method is appropriate for this, provided chronologic age is known. It is not designed for estimating chronologic age and, therefore, not properly used for this purpose.


吉井匡「児童ポルノ事件における児童性の認定方法に関する考察 タナー法を用いた年齢推定法の利用について.浅田和茂先生古稀祝賀論文集 347-369ページ, 2016年
「我々はこれまで、連邦管轄下の児童ポルノ事件において、専門家として関与してきた。そこでは、押収された証拠(ビデオや写真、インターネット上からダウンロードされたもの)は、政府のエージェントが行う、ポルノの流通を制圧するおとり捜査
("sting"operation)において、特定の個人に対する不利な証拠として利用された。これらの場合において、タナー法は、成熟度の段階ではなく、暦年齢の推定に用いられた。これは、タナー法の完全に非論理的(wholly illegitimate)な用いられ方である。タナー法から年齢を推定する方程式は存在しないのである。そして、もし政府のエージェントらが年齢の推定を行うとしても、信頼性に欠ける診断(独立変数)は、年齢の推定(従属変数)において大きな誤りを生じさせるであろう。さらに、臨床検査を経ず、標準化もされていない不適切な写真によって不適切に実施された診断は、信頼性に欠けるタナー度数の決定を、想定できない程度にまで増加させるであろう。従って我々は、小児科医やその他の医師に対して、タナー法に基づいた暦年齢に関する『専門家』としての宣誓証言を差し控えるよう注意を求めたい。タナー法は、医療や教育、スポーツといった場面において、発育や生理的な年齢の推定のために、換言すれば発育が早いか遅いかを判断するために考案されたものである。暦年齢が既に知られているならば、タナー法の利用は適切である。しかし、タナー法は暦年齢の推定のためには設計されていないので、その目的達成のためには適切に利用することはできない。」

 
 そこで、東京地裁h28.6.15(CG事件)が「タナー判定」に疑問を差し入れた後の文献では、注意書きが添えられるようになっている。なお、吉井論文の刊行時期からわかるように、東京地裁h28の弁護人は、タナーのmisuseの話と、吉井論文での指摘を知らなかった。控訴審の弁論前に知った。

KOSUZO 10月号
2018年9月10日発行
監修者/村上徳光(元髻察大学校長)
発行者/横田キイ
発行所/株式会社EDU-COM
生活安全
次は、児童ポルノ事犯の捜査過程における児童性の立証に際しての留意事項に関する記述であるが、誤りはどれか。
(2)画像等に描写された児童の医師による年齢鑑定は、臨床経験や専門的知見を踏まえて実施されるが、対象者に関して得られる情報が限定的であること等による限界ないし危うさがあることに留意する。
(2)○
画像等に描写された児童の医師による年齢鑑定は、タナー法を適用して得られた結果を基本として、骨盤の発達の程度や顔立ち及び体つき等も考慮の上、医師としての臨床経験や専門的知見を踏まえて実施されるが、同手法による年齢鑑定は、実際に対象者を診察して評価を行う場合と比べて、被写体の姿勢、光の当たり方、画質等様々な制約があることから、限界ないし危うさがあることを十分認識し、鑑定資料の抽出や提示方法に留意する必要がある。

 タナー法が争われると、無罪になることが多い。
  東京地裁H28.3.15 製造・提供でほとんど無罪
  佐賀地裁R2.2.12 所持罪で無罪

東京地裁h28.3.15
裁判年月日 平成28年 3月15日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件名 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
第6 児童認定写真の各被写体が18歳未満であると認められるか否か(以下,18歳未満と認められることを「児童性が認められる(否定の場合は「認められない」)とも表記する。)
 1 検察官の主張
 検察官は,①D医師が,児童認定写真の各被写体について,18歳未満であると認定していること,②児童認定写真と同一の写真が収録された写真集の中にその被写体が18歳未満であることをうかがわせる記載があることから,児童認定写真の被写体は,撮影当時,いずれも18歳未満であったと認められる旨主張する。
 2 D医師の供述に基づく児童性の認定について
  (1) D医師は,性発達を評価する学問的な方法として世界的によく用いられている手法としてタナー法があり,同法においては,乳房及び乳輪は乳房のふくらみと乳輪の隆起により,陰毛は濃さや範囲により,それぞれ1度から5度のステージで発達段階が定義され,それにより性発達の段階を評価することができること,そして,タナー法の分類と日本人女子の性発達との関係を調査した研究が複数なされており,同研究の結果に照らせば,乳房又は陰部につきタナー何度であれば年齢が何歳から何歳の範囲に入るかを推測できることから,児童認定写真の被写体については,いずれも18歳未満と認められる旨述べる。
 前記のD医師の供述については,同医師が,小児科学,小児内分泌学を専門にする医師として,専門的知見や過去の経験等に基づいて述べられたものであること,タナー法及び同法の度数と日本における女児の思春期の二次性徴の年齢に関するものとして,D医師が資料として引用したものを含め複数の研究がなされていること等からすると,女児の性発達の段階を評価する手法としてのタナー法の存在や,同法における度数の判定に用いる具体的な基準の定立,さらに,日本人女子について同法の各度数と年齢との間に有意な相関関係を示す医学的知見が存在する点については,十分な信用性が認められる。
 しかしながら,他方で,白木和夫ほか総編集「小児科学(第2版)」医学書院(弁1)に「二次性徴の出現時期が正常であるかどうかを評価するには,正常児の発現時期を知る必要がある。しかしわが国では包括的なデータはほとんどない。よく引用されるのはTannerらの英国人小児の二次性徴発現年齢のデータであるが,人種も年代も違うこのデータを,そのまま現代の日本人小児にあてはめるわけにはいかない。」との指摘にも留意する必要がある。この点は,同文献が出版された平成14年以降にD医師が証人尋問において引用した論文(弁2。以下「田中論文」という。)等が発表され,日本における正常児の二次性徴の発現時期に関する研究が進んだと認められるものの,そのことを踏まえても,タナー法による分類に基づく年齢の判定は,あくまで統計的数字による判定であって,全くの例外を許さないものとは解されない。その統計的数字も,例えば,現在のDNA型鑑定に比すればその正確さは及ばない。身長や肌の艶,顔つき,あるいは手の平のレントゲン写真などといった判断資料は一切捨象して,胸部及び陰毛のみに限定して判断するタナー法の分類に基づく年齢の判定は,あくまで,18歳未満の児童であるか否かを判断する際の間接事実ないし判断資料の一つとみるべきである。
  (2) さらに,本件においては,殊にD医師が児童認定写真の被写体の年齢を判定したことについては,以下のとおり,その信用性を慎重に判断すべき具体的な事情が複数存在する。
   ア 児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料が限られていること
 (ア) D医師は,甲第25号証及び甲第26号証の児童認定書2通を作成した際の状況について,弁護人の質問には,前記各児童認定書別添の紙質の紙にプリントアウトされたものを見て判断したと答え,さらに,この点を裁判官から尋ねられた際には,写真をよく見ることに集中していたので,どのように作成したのかはっきりした記憶がないが,写真を見ながら同書の「乳房」,「陰毛」の所にそれぞれ丸を付けた旨述べる。また,D医師は,甲第26号証画像番号14(児童10)について具体的に説明する中で,「元の写真を見」たかのような供述をしている。以上からすると,D医師は,基本的には,児童認定写真を見て写真の女性の年齢を判定しており,また少なくとも同画像番号14の児童性の判断においては,その写真と基になった写真を見て,前記各児童認定書を作成したものと考えられる。
 こうした画像又は写真に基づいてタナー法による度数の判定を行う場合,実際に対象者を診察して評価を行う場合と比べて,被写体の姿勢,光の当たり方,画質等様々な制約があるため,対象者に関して得られる情報が非常に限定されることから,その正確性についてはより慎重に検討する必要がある。D医師も,写真に基づく評価をする場合について,限られた情報から分かるところで慎重に判断するという立場である旨述べ,「情報が少なければ認定の精度は劣ってくるということになりますよね」との弁護人からの質問に対しても,「はい,そのとおりです。」と答えている。
 以上を前提に,本件においてD医師が前記各児童認定書を作成した際に参照した資料がどのようなものであったかについてみると,前記のとおり,その資料としては,児童認定写真及び更にその元になった写真が想定されるが,後者については,前記甲第26号証画像番号14(児童10)以外の前記各児童認定書別添の写真の児童性判断時に,実際に示されたかどうか,また,同画像番号14の場合を含めて,元の写真なるものが示されたとしてどのようなものが示されたのかは全く明らかでない。また,前記各児童認定書別添の写真は,いずれも画質が粗い上,明らかにピントが合っていないか印刷に問題があると思われるもの(甲第25号証画像番号3(児童2),14(児童11),甲第26号証画像番号3(児童2),14(左側)(児童10)等)や全体が白くなっていたり(甲第25号証画像番号5(児童4),甲第26号証画像番号6(児童5),17(児童13)等),暗くなっていたり(甲第25号証画像番号17(児童14),23(児童16)等)しているものが多くみられ,そこから得られる情報は非常に限定的なものにとどまる。
 (イ) そして,タナー法における乳房及び乳輪と陰毛の発達段階の評価基準が細かく定められているところ,前記のように情報が限定的であることは,その細かな判定にも影響を与えると解される。
 D医師は,タナー法における発達段階の分類について,乳房については,乳房が全く発達していない1度から,やや膨らむ,さらに大きく突出,乳房が肥大する,成人型になるまでの5ステージ,乳輪については,平坦な1度から,やや隆起する,隆起が目立たなくなる,隆起する,平坦になるまでの5ステージ,陰毛については,何もない1度から,僅かに陰毛が生えてくる状態,少し色が濃くなる状態,成人に近くなるが大腿部までは広がらない状態,大腿部まで広がった状態までの5ステージが,それぞれ定義されている旨述べる。
 このタナー法の分類についてみると,乳房については,児童認定写真の被写体の乳房の全体的な印象からその発達の状態を判断することは可能であるように思われるものの,乳輪については,その隆起の有無で発達の評価が分かれるところ,前記のとおり児童認定写真等の限られた情報しかない中で,乳輪の隆起があるかないかという微妙な判断を正確に行うことができるかどうかについては,殊に児童認定写真では多数ぼやけているなどして乳輪が不鮮明なものや被写体が正面から撮影されているため乳輪の隆起の有無が判別しづらいものが多いことからしても,疑問がある。
 D医師は,乳房の大きさと乳輪の隆起の有無から判断する旨を述べるが,他方,前記各児童認定書において乳房についてタナー3度と認定している者について,その認定の理由として,乳房の大きさが成人並みではないという点と併せて,乳輪が隆起していない又は乳腺の発達が不十分という点をいずれにおいても指摘しており,乳輪の隆起の有無が2度と3度又は3度と4度の区別において重要な基準になっているものと認められる。そして,D医師は,成人になっても胸が非常に小さい女性は多くいるように思われるが,その点はどのように考えればよいのかという裁判官の質問に対して,成人で小さいには程があるということに加え,乳房の発達段階については,その大きさというよりも乳輪やその隆起の有無で見ている旨述べており,その供述からも,乳輪の隆起の有無がタナー法における評価において重要な意義を有していることがうかがわれる。
 しかしながら,一方で,D医師は,甲第26号証画像番号2(児童1)は乳輪の隆起が明らかでないが2度,同画像番号14(左側)(児童10)は乳輪の隆起がはっきりしないが2度,同画像番号17(児童13)は乳輪の隆起が明らかではないが3度と,それぞれ判定し,その理由として,乳房の隆起がある,乳房の発達がある,4度とするには乳房の発達が非常に悪いなどと述べ,乳輪の隆起の有無の判断ができないときには,乳房の発達度合いを考慮して判定しているかのように述べている。しかし,そうなると,先の乳房が小さい女性もいると思わるが,との問いに対する答えとの整合性は必ずしも明らかではない。
 また,D医師は,胸だけが写っている場合は,判定は非常に難しく,体全体が写っている中で判断するという慎重さが必要だと思う(D医師証人尋問調書(以下「D調書」という。)37頁)旨述べるが,他方で,胸部と陰毛の片方が分からないと年齢を判断できないというものではない(同35頁)とも述べ,弁護人から,反対尋問でD医師に胸部のみが切り取られた写真の4枚目(D調書別紙15)を示された際,躊躇なく「2度というふうに判定できます。」と述べている。そして,D医師は,弁護人から当該写真の女性がアダルトビデオ女優であることから18歳以上であると聞いた後も,「この方は,18歳未満のときに撮影された可能性が極めて高い」などと述べて,自らの判定を再考したりする態度は示していない。この点,検察官は,弁護人が示した当該写真(D調書別紙15)は,アダルトビデオ販売サイト内のサンプル画像を加工したものであり,弁第11号証及び弁第12号証のタイトル等からすれば,当該アダルトビデオ女優の乳房が小さいことを殊更に強調するために加工されている可能性が否定できないと主張しており,確かに,写真データにそのような加工を施すことは容易で,その可能性は否定できない。しかしながら,写真データと比較し修整が困難と考えられる弁第12号証の動画からも,同女優の乳房は,D医師が「成人並みでない」と述べる乳房と比べても発達しているとは到底いえない(なお,幼いことを宣伝文句にした写真をそれらしく加工する可能性については,検察官が素材写真(検・素材画像)の実在欄で掲げる写真集等についても等しく当てはまる指摘というべきである。)。
 またD医師は,甲第25号証画像番号3(児童2),12ないし17(児童9ないし14),23(児童16),28(児童17)及び甲第26号証画像番号8(児童6),10(児童8),25(児童17)について,いずれも乳房は成人に達するほどではない,あるいは成人並みよりも小さいなどと述べているが,乳房部分だけを抜粋して写真から判断した場合,その大きさから,成人に達しない,あるいは成人並みでないと判断し得るとは解されない。
   イ 18歳以上の女性の中に,乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性がいる可能性
 また,D医師は,タナー法の度数と日本人女子の性発達との関係を調査した研究によれば,同法の各度数に分類される年齢は正規分布すること,乳房についてタナー2度に達する平均年齢が9.7又は9.5歳で標準偏差が0.95,タナー3度に達する平均年齢が11.5歳で標準偏差が1.05,タナー4度に達する平均年齢が12.3歳で標準偏差が1.1であること等が分かっており,以上からすると,95.4%の女児が9.7又は9.5歳プラスマイナス1.9歳の間でタナー2度になり(D調書別紙6),15歳までにタナー2度に達しない者は計算上100万人に0.3人くらいということになり(D調書別紙7),18歳以上でタナー2度以下である場合は,1万人に1人を超えないと考えられる(D調書別紙10,11)旨述べる。
 しかしながら,D医師が証人尋問において引用した田中論文の中の日本人女子の乳房の性成熟段階の累積頻度(D調書別紙6)の図を見ると,タナー2度の線については累積頻度が100%のところにほぼ到達しているのに対して,タナー3度の線は93又は94%の辺りで切れており,タナー4度の線は,65%の辺りで切れている。また,田中論文は,その対象者について「東京の私立の女子校生の1983年4月から1986年3月までに生まれた女子で小学校1年(6歳)から中学3年(14歳時)まで経過観察できた226名を対象とし」た旨記載している。そうすると,D医師の述べるとおり,この論文において判明した範囲でタナー法の度数と年齢とがほぼ正規分布の関係にあることや,およそ自然界に存在する生物の特徴として発達度合い等の正規分布が想定されること等を前提に,18歳以上の女性の中で乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性が存在する可能性をそれぞれ理論的に計算することは可能であるとしても,実際に18歳以上の女性の中に乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性がどの程度存在するかについては,前記論文からは実証的に明らかでない。
 また,D医師は,前記各児童認定書を作成するに際しては,日本人女性の中にはタナー4度のまま成人となりそれ以上発達しない人もいることから,4度の可能性がある場合には推定年齢が不明であると表現した旨述べている。前記の正規分布に基づく理論的な計算によれば,18歳以上でタナー4度と評価される者が現れる確率は相当程度低くなると思われるところ,D医師自身,前記の正規分布に基づく理論的な観点だけでなく,タナー4度のまま成人となる者もいるという実証的な観点も踏まえて,結論を出しているものといえる。
 そして,D医師は,乳房及び外陰部でみて,タナー2度以下で18歳以上である可能性については,極端な「おくて」言い換えれば,質性思春期遅発症の場合や,性腺機能低下症の場合であると思われるが,概ね1万人に1人未満であると述べる。
 田中論文で調査された年齢の範囲で,その調査対象となったほぼ100%の日本人女性がタナー2度に達したと認められるから,その指摘自体は実証的根拠があるというべきであり,その割合は相当に低いと考えられるが,例外が皆無とは解されず,また,D医師の供述からも,正規分布による理論上の計算以上の説明はされていない。そして,児童性が認められるかの判断にあたっては,そもそも,タナー2度と判断してよいのかという,実際の度数判定の適切さが前提となる。
 そうしてみると,先のアダルトビデオ女優のように,18歳以上と考えられるにもかかわらず,タナー2度と判定される程度にしか乳房が発達していない女性が実社会に存在することは否定できない。また,その事柄の性質上,乳房が十分発達していないことを殊更強調してアダルトビデオ女優になる女性よりも,それを明らかにせずに生活する女性の方が当然多いと考えられることからすると,18歳以上でありながら乳房についてタナー2度と判定されかねない一定数の女性が存在することも否定できないというべきである。
   ウ そして,本件では更に,児童認定写真が修整が加えられた写真である可能性があることも考慮する必要がある。
 D医師は,タナー法によって,陰毛についてもその度数を判定しているが,陰毛については,剃られている可能性があるほか,前記実在性で検討した書籍の発行年月に照らしても,撮影後に陰部付近の画像に修整を加えて出版等がされた可能性があることから,その度数判定については,より慎重な判断が必要である。この点,D医師は,剃毛すると皮膚に赤みや赤黒さを見ることができるので剃毛されたか否かは見分けることができるし,そのような皮膚の色等まで修整がなされるとは考えられない旨述べるが,前記のとおり児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料の画質が粗いこと等からすれば,上記の点を正確に判断することができるか否かには疑問の残るところであり,また,陰毛や陰部が露骨に表されないように修整が加えられることは十分考えられるところである。そして,甲第25号証画像番号2(児童1)は,陰部に修整が施されている可能性が高い(検察官レイヤー,甲第34号証及び甲第41号証写真番号3は甲第25号証画像番号2(児童1)と同一の写真に見えるが,甲第36号証及び甲第41号証写真番号36,37はこれらの写真よりも陰部付近が鮮明である。弁第13号証の「1_02_0003_wr2_19.jpg」のレイヤーも全体としては白くなって鮮明ではないものの陰毛部については甲第25号証画像番号2よりもはっきりしている。したがって,甲第25号証画像番号2(児童1)は,より鮮明な写真に修整が加えられた可能性が高いことが分かる。さらには,よりはっきりしている写真やレイヤーであってもなお,陰毛部に黒く写っているものが陰毛であると断定できるかについては疑問が残る。)。しかし,D医師は,陰毛がかろうじて写っている,修整された痕跡がないとして,タナー2度であると判定している。
 弁護人から陰裂が見えない不自然さを指摘されても,上記説明を維持しようとしているところ自体において,写真に撮影された陰毛から度数を判定することの限界がうかがわれる。
 こうしたことからすると,タナー法に基づく年齢判定においては,その限界ないし危うさがあるというほかなく,D医師が小児医療を専門とする医師であることから,その意見は尊重するとしても,児童性の認定においては成人女性の性発達等をも考慮する必要があるところ,その面からの統計資料等の証拠はなく,また,判定資料とした写真の不鮮明さや修整の可能性,殊に陰部付近の修整の可能性を考慮すると,少なくとも本件においては,D医師の供述を全面的に信用して,年齢を判断することはできないというほかない。
  (3) 以上のとおり,本件においてD医師が児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料が限定されたものであること,その上での判定内容の危うさ等からすれば,D医師による年齢判定についてもその信用性について慎重な検討が必要となる。
 そのようにしてみると,まず,前記のとおり資料が限定され,修整の可能性がある中で,D医師がどれにも3度以上と判定したものがない児童認定写真の陰毛については(本件CGでは問題とされていないが,D医師は,甲第26号証画像番号9(児童7)の写真において,陰毛を2ないし3として3度もあり得ると判定している。しかし,その写真を見ても陰毛が何度であるかが判定できる程鮮明とは解し難い。),タナー法の度数を判定することは不可能に近いというべきであり,D医師が陰毛に関する同度数によって判定した年齢については採用できない。
 また,D医師が18歳以上の可能性もあると述べる乳房のタナー4度とその可能性を否定するタナー3度とを判別する重要な基準となる乳輪の隆起の有無について,前記のとおり資料が限定されている中で正確な判断ができたかは疑問があり,タナー3度と評価された者の中には,実際は乳輪が隆起しておりタナー4度と評価されるべき者が含まれていた可能性が否定できないことなどからすれば,児童認定写真のうち,D医師が被写体の乳房がタナー3度と評価したものの各被写体が18歳未満である旨のD医師の判定についても,採用することができない(D医師自身,タナー3度を(判定基準に)用いてもいいが,誰が見ても必ずといっていいほどに,ほぼ例外なく18歳未満だと言えるということに関してはタナー2度を基準にしたほうが結論は誤らないという意味で言っている,それは乳房だけでなく,陰毛についても同じである旨述べ(D調書11頁),その供述は,タナー法による判定が3度であっても,それは絶対的なものである,あるいは,その判定に誤りが入り込む余地がないとは断定し切れないことを意味するものと解される。)。
 そうすると,D医師がタナー法で乳房を3度と判定した(なお,D医師が,本件CG集に関連する写真で,乳房につき,4度あるいは3度ないし4度であると判定したものはない。),甲第25号証画像番号2ないし5(児童1ないし4),8(児童6),9(児童7),11ないし17(児童8ないし14),22(児童15),23(児童16),27(左側)(児童17。画像番号22と共通。),28(児童18)及び甲第26号証画像番号3(児童2),5(児童4),6(児童5),8(児童6),10(児童7),13(児童8),17(児童11),21(児童12),23(児童13),25(児童14),26(児童15)の各写真については,各被写体が18歳未満である旨のD医師の認定は採用することができず,18歳以上である可能性に合理的な疑いが残る(別紙1で黄緑色で塗りつぶしたもの。ただし,既に検察官レイヤーと児童認定写真とが一致しないあるいは実在性がないとして黄色等で塗られていたものがあり,その場合には画像番号のみを黄緑色で塗りつぶしている。)。
 これに対し,別紙1の画像番号が黄緑色で塗られていないもの,すなわち,D医師がその被写体の乳房についてタナー1度又は2度と評価した各写真については,前記のとおり,D医師が,乳房についてタナー2度が18歳未満か否かという判断のポイントとなる旨述べているとおり,乳房についてタナー2度以下と判定されて18歳以上である女性が一定数存在することは否定できないとしても,それ自体がまれであるといえる上,これらの写真の被写体は,いずれも一見して顔立ちが幼く,乳房や肩幅,腰付近の骨格等の身体全体の発達も未成熟であること等からすれば,これらの被写体は撮影当時18歳未満であったことが強く推認される。
 3 児童認定写真と同一の写真が収録された写真集に被写体の年齢に関する記載があること
 なお,検察官は,児童認定写真と同一の写真が収録された写真集自体に「『F』13歳」,「K 1972年生まれ。」などと,被写体の年齢に関する記載が存在することからも,被写体が撮影当時18歳未満であったことが推認される旨主張するが,そもそも写真集に記載された年齢や生年月日が正確なものであるとする根拠がない上,児童認定写真に係る写真が収録された写真集には,その表紙や本文に「少女」などの記載があり,幼い女児の写真であることを強調する内容となっていることからすれば,そのような写真集に記載された被写体の年齢や生年月日が正確なものであるかは疑問であり,検察官の主張は採用できない。
 4 小括
 以上によれば,別紙1の黄緑色に塗られていない○○及び○○2の各画像に係る児童認定写真の被写体については,18歳未満であると認めるのが相当であるが,その余については,18歳未満であることについて合理的疑いが残り,18歳未満とは認められない。

 年齢推定方法としてタナー法が使われたのは、H12(2000)ころからですが、20年経っても、論文1本も見当たりません。

阪高裁H12.10.24      
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、わいせつ図書販売目的所持被告事件
大阪高等裁判所判決平成12年10月24日
判示事項1について
(1) 各被撮影者が人間ではない可能性
   所論は,本件各ビデオテープないし本件各写真の各被撮影者が何人であるかは特定されておらず,それらが人間であることについてすら合理的な疑いを容れる余地がある,という。
   しかし,捜査報告書,写真撮影報告書,Xの警察官調書及び被告人の警察官調書など,原判決が挙示する関係証拠によれば,本件各ビデオテープにおいては,本件各写真の被撮影者である少女性交又は性交類似の行為を行っている模様や全裸になつて陰部を拡げている模様などが撮影されていることが認められるから,本件各ビデォテープの被撮影者が実在する人であることは明らかである。
(2) 各被撮影者が児童ではない可能性
   所論は,本件各写真からは,各被撮影者の体格や発育状況をかろうじて識別できるものの,一般に,身長や乳房の発育状況などには個人差があり,思春期遅発症や小人症が存在することなどを考慮すると,体格や発育状況は,実際の年齢とは必ずしも一致しない。したがって,乳幼児を除けば,写真によるだけでは,その被撮影者が,医学的見地から見て,100パーセントの確率で18歳未満の者であると断言することはできない。医師A作成の鑑定書によれば,本件各写真の被撮影者の年齢が,18歳以上である可能性があると指摘されている。したがって,本件各ビデオテープの各被撮影者が18歳未満の児童であることについて合理的な疑いを容れる余地がある,という。
   しかし,上記関係証拠,ことに捜査報告書ないし写真撮影報告書中の本件各写真から窺われる各被撮影者の容貌,体格,発育状況などに照らすと,本件各ビデオテープの各被撮影者はいずれも児童であると認められる。なるほど,当審証人である医師Aの証言及び同人作成の前記鑑定書によれば,本件各写真の被撮影者が思春期遅発症や小人症である可能性を医学的に否定することはできず,各被撮影者の年齢が18歳未満であると,100パーセントの確率で断言することはできないという。しかし,もとより,刑事訴訟における証明は,医学等の自然科学における証明とは異なり,裁判官に合理的な疑いを容れない程度に確実であるとの心証を抱かせれば足りるものであるところ,医師Aの当審証言によれば,本件各写真の各被撮影者が思春期遅発症や小人症などであることを窺わせる徴候はないというのであるから,上記の証言及び鑑定書によっても,本件各写真,ひいては本件各ビデオテープの各被撮影者が18歳未満の者であることに合理的な疑いを容れる余地はないというべきである。
・・・・・・・
本田守弘児童ボルノビデオテープの画像自体から,被撮影者が実在する18歳未満の者であると認定した事例(大阪高判平12.10. 24 公刊未登載)研修634号
もっとも,刑事訴訟法における証明は,「通常人ならだれでも疑いを差し挟まない」合理的なものであることが必要であるところ,前記医師Aの証言に見られるように思春期遅発症や小人症のために18歳以上でも第二次性徽が見られない女性が存在するとの指摘もあることから,事案に応じて適宜の方法で医療専門家の意見を職取するなどして推認の合理性・客観性を担保することも有益な場合があろう。本判決は,この点に関して「Aの当審証言によれば,本件各写真の各被撮影者が,思春期遅発症や小人症などであることを窺わせる兆候はないというのである」旨判示し,医学的意見をも引用しつつ弁護人の主彊を誹斥しており.その判断過程は今後の捜査処理上参考になると思われる。
いずれにしても,事実認定の合理性を担保するために,弁謹人が主張するように医師の鑑定が必ず必要であるということにはならず,適宜の証拠方法により証明すれば足りるというぺきである。刑事訴訟法上の証明は,本判決が正当に指摘するとおり「医学等の自然科学における証明とは異なりり,裁判官に合理的な疑いを容れない程度に確実であるとの心証を抱かせれば足りる」のであるから,そうでない可能性を医学的に100パーセント排除しないかぎり無罪である旨の弁護人の前記主張はそれ自体失当と言うほかない。この点についての本判決の判旨はもとより正当である。


資料集
資料01 エッセンシャル法医学第3版P312
資料02 学生のための法医学P213
資料03 臨床のための法医学第6版2010
資料04 法医診断学(改訂第2版 1985)p458
資料05 医学要点双書 法医学p162
資料06 標準法医学 第7版 2017
資料07 Marshall & Tanner. Variations in pattern of pubertal changes in girls. Arch Dis Childh 44巻, 235号, 291–303ページ, 1969年
資料08 Azevedoほか. Comparison between objective assessment and self-assessment of sexual maturation in children and adolescents. J Pediatr 85巻, 2号, 135-142ページ, 2009年
資料09 Rosenbloom & Tanner. Misuse of Tanner puberty stages to estimate chronologic age. Pediatrics 102巻, 6号, 1494ページ, 1998年
資料10 Cattaneoほか. The difficult issue of age assessment on pedo-pornographic material. Forensic Science International 183巻, e21-e24ページ, 2009年
資料11 Rosenbloom. Inaccuracy of age assessment from images of postpubescent subjects in cases of alleged child pornography. Int J Legal Med 127巻, 467-471ページ, 2013年
資料12 吉井匡.児童ポルノ事件における児童性の認定方法に関する考察 −タナー法を用いた年齢推定法の利用について−.浅田和茂先生古稀祝賀論文集 347-369ページ, 2016年