児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ単純所持罪(7条1項)の無罪判決(大阪地裁r06.4.16)

児童ポルノ単純所持罪(7条1項)の無罪判決(大阪地裁r06.4.16)
 東京地裁H28、東京高裁H29の流れです。
 無罪事件で用いられる文献・判例を紹介しておきます

東京地裁のCG事件(東京地裁H28.3.15)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=87027
では、34画像中31画像が無罪になっています。

控訴審(東京高裁h29.1.24)で追認

d1law
被告人が、不特定多数の者に提供する目的で、衣服をつけない実在する自動の姿態が撮影された画像データを素材として編集した画像データである児童ポルノを製造し、同一のファイルを訴外会社に送信して記憶・蔵置させるとともに、その販売を同社に委託し、不特定の者に販売することで児童ポルノを提供したという件で起訴された件につき、被告人が控訴した控訴審において、原判決が破棄され、被告人が罰金30万円に処せられた事例。
東京高裁h29.1.24
判    決
 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成28年3月15日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官和久本圭介並びに弁護人山口貴士(主任),同壇俊光,同奥村徹,同野田隼人,同北周士,同北村岳士,同歌門彩及び同吉峯耕平(いずれも私選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主    文
 原判決を破棄する。
 被告人を罰金30万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。
 原審における訴訟費用のうち,2分の1を被告人の負担とする。
 本件公訴事実第2(平成25年9月3日付け訴因変更請求書による訴因変更後のもの)のうち,児童ポルノである画像データを含むコンピュータグラフィックス集「聖少女伝説」を提供したとする点について,被告人は無罪。
イ 児童性の認定について
(ア)所論は,原判決が児童性に関する唯一の証拠としたy医師の鑑定及びその原審証言は,同医師が依拠する理論自体,刑事事件で児童性の認定に利用できるほど理論的,合理的なものとはいえず,タナー法については,提唱者であるタナー氏自身が,同法で年齢を推定することはできないとして,これを年齢の推定に利用することを批判していることなどに照らすと,y医師の原審証言は信用できず,また,判断対象は本件CGの児童ポルノ性であるのに,本件CGを見て判断しておらず,その基となった素材画像の写真のみを見て判断している点でも信用できないと主張する。また,原判決が,タナー法で乳房2度以下であれば18歳であるといえると判断した点についても,18歳以上の女性の中に,実際に乳房についてタナー2度の女性がどの程度存在するかに関するデータはない上,実際,y医師は,原審公判において,明らかに18歳以上であるAV女優の乳房の写真を弁護人から示されて,タナー2度であると誤った証言をしていることなどに照らすと,同医師の証言は信用できない,結局,原判決の判断は,裁判所が写真を見て幼く感じたから18歳未満であるというにすぎず,このような原判決の判断には事実の誤認がある,などと主張する。
(イ)そこで検討すると,胸部及び陰毛のみを判断資料とするタナー法に基づいて年齢を判定することには限界ないし危うさがあること,タナー法に依拠して,本件において素材画像の写真の児童性を判定したy医師の原審証言を全面的に信用して年齢を判断することが相当でないことは,原判決が適切に説示するとおりである。もっとも,原判決が乳房についてタナー法で2度以下と判定された事例について,児童性を認定した点については,確かに,18歳以上の女性の中に乳房がタナー2度以下の者がどの程度の確率で存在するかを実際に調査したデータはないものの,y医師は,原審において,タナー2度以下で18歳以上である可能性として,体質性思春期遅発症による可能性と性腺機能低下症による可能性が考えられるところ,前者については,性発達の年齢の分布が正規分布となることが分かっていることから,乳房についてタナー2度に達する日本人女性の平均年齢と標準偏差を元に計算すると,100万人に3人(1万人に0.03人)未満の確率となり,後者の可能性についても,1万人に1人未満であるから,前者と後者の可能性を併せても,18歳以上の者の中で乳房タナー2度以下が存在する可能性は,理論上,1万人に1人未満という極めて低い確率である,18歳未満か否かの判断については,乳房タナー2度を基準とすればまず間違いがない旨証言している。
 加えて,y医師が引用する田中敏章氏らの研究(y原審証言調書別紙6。当審弁3。)によれば,1983年ないし1986年生まれの日本人女児226人について,乳房タナー度数別の累積頻度を実態調査したところ,12歳になるまでに,全ての者がタナー2度に達し,95%の者がタナー3度に達したことが認められ,更に18歳になるまでにはタナー3度に達する者の割合が高くなることが推認される。
 y医師の上記の原審証言は,小児科学,小児内分泌学等を専門とする同医師の専門的知見に基づき,上記の実態調査等のこれまでの医学的,科学的な研究等の成果に基づくものであって,その内容には合理性があり,十分信用することができるというべきである。そうすると,少なくとも,y医師が述べるように,18歳以上の者の中に乳房についてタナー2度以下の者が存在する可能性が極めて低いことについては,十分科学的な裏付けがあるといえるから,原判決が採ったように,少なくとも,乳房がタナー2度以下と判断された者については,18歳未満であると推認することができ,さらに,顔立ち,乳房や肩幅,腰付近の骨格等の身体全体の発達の程度をも加味して検討すれば,18歳以上の女性で乳房がタナー2度以下と判定される例外的な事例は,排除できるというべきである。したがって,y医師が乳房についてタナー2度と判定した被写体について,上記の諸点も考慮した上,児童性を認めた原判決の判断に,事実の誤認はなく,単に裁判所が写真を見て幼く感じたから児童性を認定したとする所論の論難は当たらない。その他,所論が指摘する点を踏まえても,上記の判断は揺るがない。


タナー法を批判する論文として
 浅田和茂先生古稀祝賀論文集(平成28〔2016〕年10月l日刊)
 児童ポルノ事件における児童性の認定方法に関する考察
 -タナー法を用いた年齢推定法の利用について- 吉井匡
 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K01206/

  The difficult issue of age assessment on pedo-pornographic material
  Inaccuracy of age assessment from images of postpubescent
  Misuse of Tanner Puberty Stages to Estimate Chronologic Age

吉井論文を批判してタナー法も絞ればまだ使えるという論稿
 性犯罪捜査全書 理論と実務の詳解
 タナー法による性(犯罪)被害児童の年齢推定
 城祐一郎 元検事

無罪判決
 佐賀地裁r02.2.12 D1-Law.com判例体系
 大阪地裁r06.4.16

朝日新聞デジタル記事
児童ポルノ所持に無罪 大阪地裁「写真では18歳未満か疑い残る」
2024年4月17日 12時27分
 児童の性的動画を持っていたなどとして児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪などに問われた男(53)の判決で、大阪地裁の松本英男裁判官は「被写体が18歳未満か合理的な疑いが残る」として、同罪を無罪とした。動画や画像から「18歳未満」と判断する際に使われる医学的手法の適用時には、「慎重な判断が必要」と述べた。

 判決は16日。6歳の児童の下着を撮った大阪府迷惑防止条例違反の罪は認め、懲役6カ月執行猶予3年(求刑・懲役8カ月)とした。

 男は2022年3月、スマートフォン児童ポルノの動画を保存していたなどとして起訴された。被写体が誰なのかは特定されておらず、「動画に映っている女性が18歳未満か」が争点だった。

 捜査現場では児童ポルノかどうかを判断する場合、体の発育状況などから性的な成熟の度合いを評価する「タナー法」が広く用いられている。

裁判官「タナー法での判定時、慎重な判断必要」
 検察側は、動画の写真資料をタナー法を用いて鑑定した小児科医の意見をもとに、被写体は「小学校高学年から中学生の女児と考えられる」と主張。弁護側は「間違いなく18歳未満とは言えない」と反論した。
 松本裁判官はまず、性的な成熟には個人差があることや判定には主観が入ること、画像の解像度の問題を踏まえて、「タナー法で年齢を判定する際は慎重な判断が必要だ」と述べた。
その上で、今回の写真資料は不鮮明で映った人物の人種や国籍も断定できないことから、「日本人女性の性成熟度の研究をそのまま援用できるのかは疑問がある」と指摘。体つきからの年齢判断に統計学的な合理性があるとしても、「具体的な例外を許さないものとは考えられない」として、「18歳未満」とする検察側の主張には合理的な疑いが残ると結論づけた。
 弁護人の川崎拓也弁護士は「主張が一部認められなかったのは遺憾だが、画像からの年齢の判定には慎重さが必要だという判断は妥当だ。近年は写真の加工も当たり前になっており、捜査にも慎重さが求められる」と話した。(山本逸生)