児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

法医学の医師が「本件DVDの映像は,モザイク等がなく性器が鮮明に写されたものである。本件女性は,流行のシャギーカット,ほっぺたがポッチャリしており,足は中くらいの太さであるが棒状であること,ませた顔でニキビがないこと,小陰唇が発達し,外陰部の色素沈着が認められること,胸はAカップかBカップくらいである程度あるが平坦であり,乳首は小さめであることなどから,15歳から17歳程度と認められる。」とした画像につき、児童ポルノ性を否定した高裁判例(東京高裁r02.11.12)

法医学の医師が「本件DVDの映像は,モザイク等がなく性器が鮮明に写されたものである。本件女性は,流行のシャギーカット,ほっぺたがポッチャリしており,足は中くらいの太さであるが棒状であること,ませた顔でニキビがないこと,小陰唇が発達し,外陰部の色素沈着が認められること,胸はAカップかBカップくらいである程度あるが平坦であり,乳首は小さめであることなどから,15歳から17歳程度と認められる。」とした画像につき、児童ポルノ性を否定した高裁判例(東京高裁r02.11.12)

 CG事件の地裁・高裁判決の影響です。
「原判決の前記判断は,原審証拠及び論理則,経験則等に照らして不合理であって是認できない。すなわち,所論が指摘するとおり,本件医師が挙げる前記2①から⑥までの根拠は,いずれも本件女性が18歳以上かそれ未満かを区別するに足りるものではない。同①から⑥までの根拠のうち,多少なりとも意味がありそうなものは⑤及び⑥の性器や乳房の状態をいうものであるが,そこで指摘されていることは18歳以上の女性にも妥当し得る状態と思われるのに,それがなぜ18歳未満の女性と判断できるのかその根拠は説明されていない。本件医師は,前記警察官調書謄本において,女子乳房の発育段階の区分や外陰の発達度等も参考にしているとも供述しているが,同⑤及び⑥の根拠に関し,その観点からの説明はない(なお,前記警察官調書謄本についての原審弁護人の証拠意見は,「不同意。ただし信用性を争う。」というものであったが,本件医師に対する証人尋問は行われていない。)。本件医師が述べるとおり,子どもの成長には個人差が大きく,外見による年齢判断は困難であるというのであるから,本件女性が15歳から17歳程度と考えた合理的根拠を挙げる必要があるが,それはない。原判決は,本件医師の供述は18歳に達している可能性を排斥していると説示するが,合理的な根拠を示さなければ専門家の意見が正当であるかどうかは判断できない」


判例番号】 L07520565
       強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件

【事件番号】 東京高等裁判所判決
【判決日付】 令和2年11月12日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

第5 原判示第2(児童ポルノ所持)のうちDVD1枚に関する事実誤認ないし法令適用の誤りの論旨について
 1 論旨
 論旨は,原判示第2のDVD14枚のうちの1枚である本件DVDについて,写っている本件女性が18歳未満の児童ではない疑いがあるのに,本件DVDに児童ポルノ該当性を認定した原判決には事実誤認ないし法令適用の誤りがある,という。
 2 原判決の判断の概要
 原判決の判断の概要は,次のとおりである。
 本件DVDを含む複数のDVDに写っている女性の年齢判断をした本件医師は,警察官調書謄本(原審甲53)において,本件女性は,①流行のシャギーカット,②ほっぺたがポッチャリしており,③足は中くらいの太さであるが棒状で,④ませた顔でニキビがなく,⑤小陰唇が発達し,外陰部の色素沈着が認められ,⑥胸はAカップかBカップくらいある程度であるが平坦であり,乳首は小さめであることなどから,15歳から17歳程度であると供述する。本件医師は,豊富な実務経験を有する専門家の立場から,具体的な事情を根拠に挙げて,同じく経験豊富な教授と共に総合的に判断したものであり,その正確性について十分信用できる。本件医師は,18歳未満とは完全に言い切れない者を除外して18歳未満であると判断しているので,上記供述は18歳に達している可能性を排斥していると考えられる。したがって,本件女性の年齢は18歳未満であると認められ,他の証拠も併せ考慮すると,本件DVDは「児童ポルノ」に該当する。
 3 当裁判所の判断
 原判決の前記判断は,原審証拠及び論理則,経験則等に照らして不合理であって是認できない。すなわち,所論が指摘するとおり,本件医師が挙げる前記2①から⑥までの根拠は,いずれも本件女性が18歳以上かそれ未満かを区別するに足りるものではない。同①から⑥までの根拠のうち,多少なりとも意味がありそうなものは⑤及び⑥の性器や乳房の状態をいうものであるが,そこで指摘されていることは18歳以上の女性にも妥当し得る状態と思われるのに,それがなぜ18歳未満の女性と判断できるのかその根拠は説明されていない。本件医師は,前記警察官調書謄本において,女子乳房の発育段階の区分や外陰の発達度等も参考にしているとも供述しているが,同⑤及び⑥の根拠に関し,その観点からの説明はない(なお,前記警察官調書謄本についての原審弁護人の証拠意見は,「不同意。ただし信用性を争う。」というものであったが,本件医師に対する証人尋問は行われていない。)。本件医師が述べるとおり,子どもの成長には個人差が大きく,外見による年齢判断は困難であるというのであるから,本件女性が15歳から17歳程度と考えた合理的根拠を挙げる必要があるが,それはない。原判決は,本件医師の供述は18歳に達している可能性を排斥していると説示するが,合理的な根拠を示さなければ専門家の意見が正当であるかどうかは判断できない。
 そうすると,原判決には,本件医師の上記供述に関する信用性判断を誤った結果,本件女性が18歳未満であると認定して児童ポルノ該当性を肯定した事実誤認がある。
 もっとも,原判決が認定した原判示第2の事実は児童ポルノであるDVD14枚を所持したというものであり,この行為は包括一罪に当たるとしているところ,そのうちの本件DVD1枚の児童ポルノ該当性に誤認があるにすぎないから,この誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえず,結局,論旨は理由がない。


第6 原判示第2に関する事実誤認の論旨について
 1 論旨
 論旨は,被告人が各DVD(ただし,原判示第2のDVD14枚のうち本件DVD1枚を除いたものを指す。)を視聴していたのは平成18年頃までであって,原判示第2の平成30年7月18日当時は各DVDへの関心を失っていたから,児童ポルノ法7条1項にいう「自己の性的好奇心を満たす目的」はなかったのに,これがあるとした原判決の判断には事実誤認がある,というものである。
 2 原判決の判断の概要
 原判決は,概要,次のとおり説示して被告人に自己の性的好奇心を満たす目的があると認定した。
 被告人は,児童ポルノに該当する各DVDを同目的をもって入手したのであるから,特段の事情のない限り,その後の所持についても同目的があると推認するのが合理的である。被告人が10年以上各DVDを視聴していなかった可能性は否定できないが,各DVDは被告人方の書斎の本棚に保管されており,女子児童に性的興味を有していた被告人がその興味を満たすために各DVDを視聴しようと思えばいつでも視聴できたものである。そうすると,上記推認を妨げる事情は見当たらず,被告人は,平成30年7月当時,同目的で各DVDを所持していたと認められる。
 3 当裁判所の判断
 原判決の前記認定,判断は,原審証拠及び論理則,経験則等に照らして不合理なところはなく,当裁判所としても是認できる。
 所論は,平成26年に児童ポルノ法が改正されて児童ポルノの単純所持が処罰対象とされたが,その際の衆議院法務委員会の議論を踏まえると,被告人のように処罰対象ではなかった時期から児童ポルノを所持していた場合に,改正された児童ポルノ法が適用されるには,改めて積極的な利用の意思に基づいて新たな所持,保管が開始されたと認定できることが必要である,という。
 しかし,各DVDが平成26年の児童ポルノ法改正以前に購入されたものであっても,各DVDは正に被告人の性的好奇心を満たす目的で入手,所持したものであるという経緯に加え,前記のとおり,原判示第2の当時,被告人は,低学年の女子児童に対する性的興味を持っており,そうした性的興味を満たすような女子児童の性交場面等が記録された各DVD(13枚)をいつでも視聴できる自分の書斎の中の本棚にこれを継続して置いていたというのであるから,被告人が各DVDを保管していたのは自己の性的好奇心を満たす目的であると認められ,これと同旨の原判決の認定に誤りはない。所論の示す考え方は,上記改正より相当以前に購入した児童ポルノがどこに保管されているか分からなくなったが,上記改正後の引っ越し等の際にそれが出てきてそのまま保管していた場合などには,自己の性的好奇心を満たす目的が否定されることがあり得るという意味で処罰対象を適切に画しようとするものにすぎず,原判決の結論と矛盾するものではない。
 4 原判示第2に関する事実誤認の論旨は,理由がない。
第7 結論
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
  令和2年11月17日
    東京高等裁判所第6刑事部
        裁判長裁判官  大熊一之
           裁判官  浅香竜太
           裁判官  小野寺健

判例番号】 L07550315
強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 静岡地方裁判所浜松支部判決
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
       理   由

 【罪となるべき事実】
第2 被告人は,自己の性的好奇心を満たす目的で,平成30年7月18日,浜松市浜北区(以下略)所在の被告人方において,児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態,他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録である動画データを記録した児童ポルノであるDVD14枚を所持した。
 3 ②判示第2の事実における(ア)DVD1枚の児童ポルノ該当性について
   弁護人は,判示第2の事実における各DVD(以下,単に「各DVD」という。)のうち,「△△」と印字されたラベルが貼られたケースに入っているもの(以下「本件DVD」という。)については,写っている女性(以下「本件女性」という。)が18歳未満ではない疑いがあるとして,児童ポルノ該当性を争うため,以下検討する。
  (1)本件DVDを含む複数のDVDに写っている女性の年齢判断をした,当時国立大学法人I大学の法医学講座の助教授であったG医師(以下「本件医師」という。)の供述の概要は,次のとおりである。
    私は,約13年間の法医実務経験を有しており,その間,法医解剖数約605件,行政解剖数約53件,検案数約281件を経験し,幼児から第二次性徴期である8歳くらいから18歳くらいまでの少女の解剖,検案も多数担当している。これらの経験や医学文献に基づき,女子の陰毛,乳房及び外陰の発育度並びに骨盤の増大度等を総合考慮し,約27年間の法医実務経験を有する同講座の教授と共に判断する。18歳未満の可能性が高いが,18歳未満とは完全に言い切れない者を除外し,ほぼ18歳未満として間違いない者について,18歳未満と判断する。
    本件DVDの映像は,モザイク等がなく性器が鮮明に写されたものである。本件女性は,流行のシャギーカット,ほっぺたがポッチャリしており,足は中くらいの太さであるが棒状であること,ませた顔でニキビがないこと,小陰唇が発達し,外陰部の色素沈着が認められること,胸はAカップかBカップくらいである程度あるが平坦であり,乳首は小さめであることなどから,15歳から17歳程度と認められる。
  (2)以上の本件医師の供述は,豊富な実務経験を有する専門的な立場からの合理的なものとして信用できる。
    この点,弁護人は,本件医師の前記供述の信用性に関し,本件医師は,子供の成長には個人差が大きく,外見を観ての年齢判断は困難であり,まして,映像を観ての判断で正確性は劣らざるを得ないとの留保を付しており,年齢判断の正確性には限界があるほか,本件医師が本件女性の年齢判断の根拠とする事情は,いずれも,女性の成長度合いや体型に関する個人差として常識的に考えられる幅を考慮すれば,成人女性についても該当する可能性のあるものであると主張する。
    しかし,本件医師は,弁護人が指摘する留保を付しつつも,自身の経験等に基づいて判断するとしているのであって,この留保をもって,直ちに本件医師の年齢判断の正確性が否定されることにはならない。本件医師は,本件DVDの映像は性器が鮮明に写されたものであるとした上で,具体的な事情を根拠にあげて,本件女性の年齢判断をしているものである。確かに,本件医師が本件女性の年齢判断の根拠とする事情は,個別にみれば,いずれも成人女性についても該当する可能性のあるものではあるが,本件医師は,これらを総合考慮の上,自身の豊富な経験や文献に基づき,同じく豊富な経験を有する教授と共に,本件女性の年齢を15歳から17歳程度と判断しているのであって,その正確性については十分信用できる。
    したがって,弁護人の前記各主張は,本件医師の前記供述の信用性を揺るがすものとはいえない。
  (3)以上のとおり,信用できる本件医師の前記供述によれば,本件女性の年齢は,15歳から17歳程度と認められるとされている。この点について,弁護人は,15歳から17歳程度との表現からすれば,本件女性が18歳に達している可能性を排斥していない旨主張するが,本件医師は,18歳未満の可能性が高いが,18歳未満とは完全に言い切れない者を除外し,ほぼ18歳未満として間違いない者について,18歳未満と判断するとしているのであって,15歳から17歳程度との供述は,18歳に達している可能性を排斥しているものと考えるべきである。
  (4)したがって,本件女性の年齢は18歳未満であると認められ,他の証拠もあわせ鑑みれば,本件DVDは,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)2条3項にいう「児童ポルノ」に当たるといえる。
 4 ②判示第2の事実における(イ)自己の性的好奇心を満たす目的の有無について
   弁護人は,判示第2の行為日である平成30年7月18日時点において,被告人は,各DVDへの興味・関心を失っていたとして,各DVDの所持につき,児童ポルノ法7条1項にいう「自己の性的好奇心を満たす目的」を争うため,以下検討する。
  (1)関係証拠によれば,各DVDは,本件DVDを含め,児童ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たるといえ,また,被告人は,自己の性的好奇心を満たす目的で,各DVDを入手したことが認められる。このように,自己の性的好奇心を満たす目的でポルノの所持を開始した場合,特段の事情がない限り,その後の所持についても,自己の性的好奇心を満たす目的であると推認するのが合理的である。
  (2)本件において,被告人が,平成30年7月18日を基準として,10年以上,各DVDを視聴していなかった可能性は否定されない。もっとも,各DVDは,被告人方の書斎の本棚に保管されていたのであり,被告人が視聴しようと思えばいつでも視聴できたものである。同書斎には,明らかに不要なものも保管されており,廃棄されていないからといって,直ちに被告人が各DVDへの興味・関心を有していたことにはならないものの,少なくとも,各DVDは,一見してポルノと分かる外観ではなく,廃棄することが困難であったといった事情は見当たらない。各DVDは,同日時点で存在する他のポルノに比べれば,画質等が劣るものであるが,性的好奇心が向けられるには十分なものである。そして,前記2で説示したとおり,被告人は,同日頃において,女子児童に性的興味を有していたと認められるところである。
    以上のとおり,被告人は,各DVDを視聴しようと思えば容易に視聴でき,かつ,それによって,自己の性的好奇心を満たすことができたものといえるのであって,前記特段の事情は認められない。結局,同日時点において被告人は各DVDへの興味・関心を失っていたとの弁護人の前記主張は,単に被告人が各DVDへの具体的な興味を失っていたとの主張に過ぎず,児童ポルノ法7条1項にいう「自己の性的好奇心を満たす目的」を否定するものではない。
  (3)したがって,被告人は,判示第2の行為日である平成30年7月18日時点において,自己の性的好奇心を満たす目的で,各DVDを所持していたと認められる。
 【法令の適用】
罰条
 判示第1の各行為 いずれも刑法176条後段
 判示第2の行為  包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段,2条3項1号,2号,3号
刑種の選択
 判示第2の罪   懲役刑を選択
併合罪の処理    刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情が最も重い判示第1の1の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
刑の執行猶予    刑法25条1項
 【量刑の理由】
  令和2年2月21日
    静岡地方裁判所浜松支部刑事部
        裁判長裁判官  山田直之
           裁判官  横江麻里子
           裁判官  宮田裕平