6版では、「わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。」って書いてたけどな。
前田雅英刑法各論講義6版
強制わいせつ罪
わいせつな行為とは、いたずらに性欲を興奮・刺激させ、かつ、普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道徳観念に反する行為をいう(名古屋高金沢支判昭36.5.2下刑集3.5=6.399)。
被害者の性的自由の侵害が本罪の中核であり、性的風俗を保護法益とする公然わいせつ罪、わいせつ物頒布罪における「わいせつ」の観念とは異なることがある。例えば、相手方の意思に反する接吻(東京高判昭32・1 .22高刑集10. 1 ・10)は、公然わいせつ罪の意味における「わいせつ」行為ではないが、強制わいせつ罪にいう「わいせつ」行為である。判例において本罪のわいせつ行為とされたものとして、陰部への接触(大判大13・10.22刑集3.749等)、乳房への接触(大阪地堺支判昭36.4. 12下刑集3・3=4・319)、少年の肛門に異物を挿入する行為(東京高判昭59.6. 13判時1143. 155)などがあり、着衣の上から若い女性の替部を手のひらでなで回す行為もわいせつ行為にあたる(名古屋高判平15・6・2判時1834.161)。そのほか、直接身体に接触しなくても、裸にして写真を撮る行為(東京高判昭29.5.29高刑特40・138)、男女に強いて性交させる行為(釧路地北見支判昭53. 10・6判夕374. 162) もわいせつ行為にあたる。
性的に未熟な7歳の女児に対してその乳部および替部を触れる行為を行った場合、わいせつ行為といえるか。判例は、その女児は、「性的に末熟で乳房も未発達であって男児のそれと異なるところはないとはいえ、同児は、女性としての自己を意識しており、被告人から乳部や臂部を触られて差恥心と嫌悪感を抱」いているのであって、わいせつ行為であるとする(新潟地判昭63.8.26判時1299・152)。しかし、性的に未熟な児童に対しても、客観的にみてわいせつと感じられるような行為をすればわいせつにあたるのであって、被害者の性的蓋恥心・嫌悪感の有無は、本罪の成否に影響しない。例えば、植物状態に陥った者の性的自由ないし不可侵性も侵害されうるのであり、少なくとも準強制わいせつ罪によって保護されるべきだからである。
本罪は、いわゆる傾向犯であり、わいせつ行為は、わいせつな主観的傾向の発現として行われることを要するとされる(大塚100頁)。しかし、このような主観的傾向は、構成要件の主観的要素とされていない、行為者の主観的傾向によって被害者の性的自由の保護が左右されるべきではない、それが余りにも漠然とした無意識の世界にまで立ち入って判断せざるをえないものであるといった理由で、これを否定する見解も有力である(平野180頁、大谷118頁以下、中森58頁、西田90頁、前田152頁)。
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前田雅英刑法各論講義7版
1) 22章の罪全体をすべて個人法益に還元しようとする動きがあったが‘ そもそも, 保護法益は「複合的」なものであり, また, 多数の国民の共有する性的感情を「倫理・風俗」と呼んで保護することも合理性がある(424頁)
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刑法上のわいせつの意義は, 徒らに性欲を興奮または刺激せしめ, かつ普通人の性的差恥心を害し, 善良な性的道義観念に反することとされるが(最判昭26・5・10刑集'6・102 424頁), この定義は,公然わいせつ罪(174条) , わいせつ物頒布罪(175条)に関するもので,本罪は個人の性的人格・身体を直接侵害する以上別異に考えられ, キスする行為もわいせつ行為である(東京高判昭32・1・22高刑集10・1・10).着衣の上からであっても.女性の臂部を手のひらでなで回す行為も「わいせつ行為」に当たる(名古屋高判平15・6・2判時1834・161)
いわゆる痴漢行為は、本条の要件に該当する場合がある(態様により, 条例による処罰にとどまることもある) .必ずしも被害者の身体に触れる必要はない.裸にして写真を撮る行為も含む(最判昭45' 1 '29刑集24・l ・1E,99頁)9) ~ 「性交あるいは肛門性交・口腔性交」も典型的なわいせつ行為であるが,現在は177条の強制性交等罪によって処罰される.現在でも,少年の肛門に異物を挿入する行為はわいせつ行為に当たる(東京高判昭59.6. 13判時1143・155参照) ~
「わいせつな行為」か否かは,行為自体から客観的に判断し得る場合も多いが,行為自体の性的性質が不明確なため,行為時の具体的状況(行為者と被害者の関係,各属性, 周囲の状況や,行為者の目的等の主観的事情など)を考慮しなければわいせつ性を判断しえない場合もある(最大判平29. 11 .29刑集71 ・9・467-99頁)~
9) 性欲を満足させる意図で男女を裸にし性交の動作をとらせる行為も176条に該当する(釧路地北見支判昭53. 10.6判タ374・162).
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傾向犯に関する判例変更かつて,本罪は傾向犯であり, わいせつな主観的傾向すなわち行為者の性欲を刺激,興奮,満足させる性的意図が必要であるとする見解が有力であった(注釈(4)295頁)~ 判例も, 女性を脅迫して裸にし,撮影した事案につき,専ら報復,侮辱, 虐待の目的に出たのであれば,性的意図(傾向)を欠き, 本罪は成立しないとしてきた(最判昭45. 1 .29刑集24. 1 . 1) . しかし, 法文に「わいせつ傾向」は規定されておらず, 強制的にわいせつな行為をし, そのことを認識していればl4)本罪が成立し得るとも解し得る(東京高判平26.2. ,3高検速報26.45,大阪高判平28・10・27裁判所Web) ~
たしかに,「わいせつ傾向を欠く強制わいせつ行為」は希で, わいせつ傾向の認められる場合のみを禁圧すれば足りるという評価も,一定の説得性があった. しかし,被害者の性的差恥心は行為者の動機のいかんにかかわらず害されている. 国民の意識の主流も.性被害を重視する方向に転換していった.
そのような中で, 最大判平29.11 .29(刑集71・9・467)が,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は, その後の社会(意識)の変化を踏まえればもはや維持しがたいとし, 「故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく, 昭和45年判例の解釈は変更されるべきである」としたのである.