児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

大谷先生改説~「性的差恥心を抱くような自己決定の自由に対する罪」つまり「性的自由に対する罪」と改めることにした。

 大法廷h29.11.29に影響受けてる

大谷刑法講義各論新版第5版
p119
性的感情に対する罪
わいせつ罪または性交等罪の保護法益は,個人の性的白由であるとするのが従来からの通説である。これに対し本書は,初版以来,性的自由に対する罪と併せて正常な性的差恥心も保護法益であると主張してきた。その理由は,本罪の保護法益を単純に性的自由にすぎないと解すると, とっさに接吻する行為や人の陰部に手で触れる行為など, 自由の侵害を伴はない性的行為も含まれてしまい無限定となるところから,正常な性的差恥心を害するような行為に限定すべきであると考え,あえて性的蓋恥心を害する行為を含ませる趣旨で性的感情に対する罪の観念を導入して自説を展開してきた次第である。これに対して近年においては, 「人が性的差恥心を抱くような事項についての自己決定の自由が保護法益の内容である」とする見解が通説となってきた2.この見解は,性的差恥心を性的自由概念の中核として捉えている点で妥当であり,また,性的自由と性的感情を別個のものとしてきた私見よりも優れているところから,今日の通説に倣って,本罪を「性的差恥心を抱くような自己決定の自由に対する罪」つまり「性的自由に対する罪」と改めることにした。
1大谷・新版第4版補訂版1 11頁。なお,西田・第6版89頁。
2山口・105頁。なお,中森・65頁,西田・99頁,高橋・136頁。
(1) わいせつな行為
本罪は,人に対して「わいせつな行為」をしたときに成立する。わいせつな行為とは,判例によると「徒に性欲を刺激又は興奮させ,かつ,普通人の正常な性的蓋恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為」とされている1,
本書の旧説では,本罪における「わいせつな行為」の意義も基本的には判例と同趣旨と解すべきであるとしてきたが5,既述のごとく,本罪の保護法益を性的自己決定の自由と改めたことに関連して,判例の定義に一部従いながら, 「わいせつな行為とは,普通人の性的蓋恥心を害する行為をいう」と改めることにした6.近年では, 「わいせつな行為」を定義するにあたり,公然わいせつ罪の場合は, 「(自ら行うか否かについての)性的な自由の対象となる行為である」のに対し,強制わいせつ罪の場合は, 「(他人が行うことを見るか否かについての)性的自由の対象となる行為」をいうとして,性的自由の点からわいせつの定義をする説が有力となっている7, しかし,こうした見解からは,わいせつの意義は明らかにならないと考える。問題は,性的自由を侵害する「わいせつな行為とは何か」にあり,私見は,その時代の社会における「普通人の正常な性的蓋恥心を害する行為」であるということに帰着する。無理やりキスをする行為,乳房や陰部に触れる行為8などは,当分の間は, 「普通人の正常な性的差恥心を害する行為」として, 「わいせつな行行」と認められるであろう。
性的差恥心を侵害する行為
新潟地判昭和63年8月判時1299号152頁は,性的に未熟な7歳の女子でも女性としての自己を意識しており,胸等に触れられる行為には差恥心・嫌悪感を抱いていたのであるから本罪の客体になるとした。しかし,被害者が性的感情としての「蓋恥心・嫌悪感」を抱いたかどうかではなく, 「普通人の正常な性的差恥心を害する行為」すなわち一般人を基準として性的蓋恥心を害される行為といえるか否かが問題の核心であろう。具体的には,乳房や陰部を触る行為9,裸にして写真を撮る行為10などがわいせつに当たる。
4名古屋高判金沢支判昭36.5.2下刑集3.5=6.399,最大判昭32.3. 13刑集11 .3.997.
5大谷・新版第4版補訂~版113頁。
6なお,前田・93頁。
7山口・107頁。なお,曽根・66頁,中森・65頁,高橋・128頁。
8東京高判昭32. 1 .22刑集10. 1 . 10.
9名古屋高金沢支判昭36.5.2下刑集3.5=6.399.
1o東京高判昭29・5.29判時40. 138.
1lなお,大塚・99頁。

本罪の主観的要素として,故意のほかに行為者自身の「性的意図」ないし「猥褻の傾向」が必要であるとする見解があった。また,最高裁判例は,強制わいせつ罪が成立するためには, 「犯人の性欲を刺激させ又は満足させるという性的意図が必要である」'8とし,被告人がもっぱら被害者の女性に報復し,侮辱し虐待する目的で被害者である23歳の女性を裸にして写真撮影をしても,強制わいせつ罪は成立しないとされたのである。
18最判昭45・1 ・29刑集24. 1 ・1。

学説においては, このような性的意図は,保護法益である性的自由の侵害の有無と無関係であるとして, この要件は不要とする見解が有力となっていた9。
最高裁判所は, こうした学説の流れを踏まえて,平成29年11月29日大法廷判決によって,被告人は,性的意図はなく金を得る目的で,7歳の女に対し,被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,陰部を触るなどの行為ついて, 「性的意図」を一律に本罪の成立要件とすることは相当でないと判して,強制わいせつ罪の成立を肯定し, 「昭和45年の判例の解釈は変更さるべきである」としたのである2。
性的意図は,性的自由の侵害の有無とは無関係であるから, これを本罪の主観的要件とすることは妥当でなく,その意味で,最高裁の新判例は妥当であると考える。
19団藤・491頁,平野・180頁中森・66頁,西田・100頁,前田・96頁,山口・108頁,高橋.132頁。
20最大判平29. 1 1 .29刑集71 .9.467.