性的意図不要にすると、わいせつの定義も変わりますよね。どう変わりますかね。
3姦淫とわいせつ行為
かようにして,新しい刑法典では,強制的な挿入行為さえあれば,その対象を問わない点で,強姦(強制性交等)の範囲を拡大したのである。これに対して,旧規定の強姦罪は,女性を対象とした狭義の性交に限られたため,男性器の女性器への(一部)挿入だけが問題となった。
なお,犯人が性的満足を感じたことまでは必要でないが,強制わいせつ罪では,従前,主観的なわいせつ傾向が成立要件とされてきた(いわゆる傾向犯である)。すなわち,ここでいう「わいせつな行為」は,行為者の性欲を満足させる意図の下に,客観的にも性欲を激・興奮させる一方,普通人の正常な性的差恥心を害し,善良な性的道徳観念に反するものでなければならないのである(名古屋高金沢支判昭和36.5.2下刑集3巻5=6号399頁)。
4被害者の性的自由と主観的内心傾向
例えば,被害女性の臂部を撫で回したとき(参考判例③④)が,前述した「わいせつ行為」に当たるのは当然であるが(大判大正7.8.20刑録24輯1203頁),設問(2)でCに下着を替えさせた場合はどうであろうか。かつて若い女性を裸にして写真を撮ったにもかかわらず,もっぱら報復や侮辱の意図であったとして,強制わいせつ罪の成立を否定した最高裁判例があった(最判昭和45.l・29刑集24巻1号1頁)。しかし,学説の多数は,被害者の性的自由という保護法益を守るうえで,こうした主観的限定を不要とみている。
近年の下級審判例においても,もっぱら客観的な見地から犯人のわいせつ傾向を認めたものが少なくない(東京地判昭和62・9・16判時1294号143頁,東京高判平成26・2・13高等裁判所刑事裁判速報集(平26)号45頁)。そこでは,客観的にみて被害者の性的自由を侵害する行為があり,しかも,犯人がその旨を認識していれば,当然に同罪が成立するものとされる。そもそも,性的自由の侵害が,犯人の心理状態いかんに左右されるとき,被害者の保護に欠けるため,設問中の乙の意図がどうであったかを,あまり重視するべきではない。(佐久間修)