児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

わいせつの定義がない。「新コンメンタール刑法第2版」

 羅列した裁判例から推測しろということでしょうか。

I 法益
個人の性的自由ないしは性的自己決定権とする見解が多数説である(井田.各論106頁以下は、性的自己決定権を、身体的親密領域を侵害しようとする性的行為からの防御権と捉える)。被害者の性的差恥心を含むとする見解もあり得るが、性的行為の意味を理解し得ない幼児等へのわいせつ行為の説明に不都合をきたすことになろう(中森・各論65頁(注38))。
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「わいせつな行為」について、裁判例では、公然わいせつ罪(刑174条)、わいせつ物頒布等罪(刑175条) と|司様、「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」という基準が示されるが(名古屋高金沢支判昭36.5.2下刑集3巻5=6号399頁)、学説上は、性的自由を侵害するという観点から構成する見解が有力である。
具体的には、陰部に手を触れる(前掲・名古屋高金沢支判昭36.5.2)、女性の乳房に手を触れる(11, 12歳の女児に対するものとして、大阪地堺支判昭36・4・12下刑集3巻3=4号319頁。
なお、性的自由の侵害の見地からは、男性に対する場合も含み得るであろう)、啓部に触れる(仙台高判平25・9・19高刑速(平25)号250頁。
否定例として、名古屋地判昭48・9・28判時736号110頁[10歳の少女に対するもの〕) といった、性的にセンシテイブな部位への身体接触がこれにあたる。
判例ではそのほか、肛門に異物を挿入する(東京高判昭59・6・13刑月16巻5=6号414頁〔男児に対する準強制わいせつの事案] )、自慰行為をして射精し精液を陰部に付着させる(奈良地判平30・12・25LEX/DB25561976 [準強制わいせつの事案〕)、裸にして写真を撮る(東京高判昭29.5.29判特40号138頁〔ただし、被害者の陰部を手指で弄ぶ行為もしている〕)、内縁関係にある男女を裸体にして性交の姿態および動作をとらせる(釧路地北見支判昭53・10・6判タ374号162頁)、行為者の面前で下着まで脱いで着替えさせる(東京高判平15・9.29束高刑時報54巻l~12号67頁〔準強制わいせつの事案] )といった行為も、わいせつ行為にあたるとされる。
また、公然わいせつ罪等との保護法益の相違からは、相手方にキスするよう強制するような場合も含まれることになる(見ず知らずの女子の肩に抱きついて接吻しようしたところ、果たせなかった事案につき強制わいせつ未遂罪の成立を認めたものとして、高松高判昭33.2.24高刑特5巻2号57頁)。
なお、口淫や肛門への男性器の挿入、男性に対する女性との性交の強制は、平成29(2017)年改正により、強制性交等として刑法177条の罪に含まれることとなった(つまり、強制性交等は、本罪の加重規定と解される)。
電車内での痴漢行為のうち、着衣の上から触れる程度にとどまるものは、直ちに「わいせつな行為」にあたるわけではなく、都道府県の迷惑防止条例違反の罪となり得る。

本罪における「わいせつな行為」に内容につき、行為者の性的意図の要否に関してかねてより議論されてきた。
これについては、Ⅳで主観的要件として解説する。

本罪は、暴行・脅迫によりわいせつ行為が行われた時点で既遂に達する。
13歳未満の者に対し暴行・脅迫によらずに犯される場合は、わいせつ行為のみで本罪が成立する。
その意味で、本罪は挙動犯と理解し得る(大谷・各論122頁参照)。
未遂については、刑180条の解説を参照。
(安達光治)