児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

 13歳未満の者に依頼して裸画像を撮影送信させる行為は強制わいせつ罪(176条後段)を構成する(某高裁某支部)


「確かに,この主張のとおり,原判示第4の事実のうち,前記(1)の②の撮影行為はそれ自体強制わいせつ罪を構成すると解される。」という初判断が出ています。

原判決
第4 A(当時●●●歳。以下「A」という。)が18歳に満たない児童であることを知りながら、別表2記載のとおり、平成29年月日午後11時15分頃から同月日午前10時43分頃までの間、前後8回にわたり、●●●内の同児童方において、同児童に、その乳房又は陰部を露出させる姿態をとらせ、これを同児童の撮影機能付きスマートフォンで静止画又は動画として撮影させた上、その静止画像データ3点及び動画データ5点を、同スマートフォンから被告人のパーソナルコンピュータに電子メール添付ファイルとして送信させてこれらを受信し、同月日午後11時17分頃から同月日午後零時23分頃までの間、上記被告人方において、同静止画像データ3点及び同動画データ5点を同パーソナルコンピュータに記録させて保存し、もって衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
(法令の適用)
  第4 包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号

控訴審判決
3原判示第4の事実について
(1)不法な公訴の受理又は訴訟手続の法令違反
原判示第4の事実には,
①被告人から被害児童への撮影依頼,
①被害児童による撮影及びスマートフォンヘの記録,
③被害児童による被告人への撮影した画像の送信
④被告人による送信された画像の受信・記録
という行為が含まれ,児童ポルノの②提供目的製造罪,③提供罪,④単純所持罪,①上記②及び③の教唆という併合罪関係にある4つの行為がまとめて記載されているから,訴因不特定として公訴棄却されるべきであったのに,実体判断をした原判決には不法に公訴を受理した違法があるし,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反もある。
(2)訴訟手続の法令違反(弁護人奥村の控訴理由第2及び■■■■■■の控訴理由第2)
原判示第4の事実は,強制わいせつ罪を構成するのに児童ポルノ製造罪で起訴しているのであって,訴因不特定の違法があるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。
また,原判示第4の行為がされた当時,強制わいせつ罪の起訴には被害者の告訴が必要であったところ,原判示第4の行為について告訴がないまま起訴されているから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある
(3)法令適用の誤り(弁護人奥村の控訴理由第3及び■■■■■■の控訴理由第3)
被害児童は,自由意思で自分を撮影し,送信しており,被害児童が児童ポルノの提供目的製造罪ないし提供罪の正犯であって,被告人はそれらの教唆ないし共同正犯であるから,被告人の単独正犯とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。

裁判所の判断
原判示第4の事実について
Il不法な公訴の受理又は訴訟手続の法令違反の主張(前記第1・3(1))について
まず,原判示第4の事実に係る公訴事実はできる限りの特定がされているといえる。
また,同事実に弁護人奥村及び■■■■■■が指摘する①から④までの行為が含まれるとしても,これらは,■■■■■■において,継続した同一の犯意に基づき,一人の児童に係る児童ポルノを所持するために順次行われた行為であるから,これら各段階の行為が各別にみた場合にいずれも指摘された罪の構成要件に該当し得るとしても,全体としては包括して一罪と評価できる。
また,訴因の設定は原則として検察官に委ねられているところ,前記の各段階を各別に特定して訴追しなければ審理の範囲が定まらないとか防御に支障が生じるというものでもないから,これらをまとめたことにより訴因が特定できなくなるものでもない。さらに,弁護人奥村及び■■■■■■が引用する東京高等裁判所の各判決は,起訴状記載の訴因が併合罪を構成するかが不明確な事案についてのものであって,本件とは事案が異なる。したがって,前記事実に係る訴因が不特定であるとして不法な公訴の受理あるいは訴訟手続の法令違反があるとする主張は採用できない。なお,前記②③については,証拠から認められる被害児童の積極性の低さなどからすると,被害児童がそれらの罪に係る構成要件的故意等を有する正犯にあたるとも思われず,従ってまた①の行為が②や③の教唆に当たるということ自体が困難である(これらを間接正犯とするのであれば理解できるが,そうであるとしても,訴因の特定については先に述べたところがそのままあてはまる。)。
(2)訴訟手続の法令違反の主張(前記第1・3(2))について
確かに,この主張のとおり,原判示第4の事実のうち,前記(1)の②の撮影行為はそれ自体強制わいせつ罪を構成すると解される。しかし,■■■■■■が原判示第4の罪に係る行為をした意図は児童ポルノの製造(特に自ら所持等する装置への記録)にあるし,原判示第4の事実には強制わいせつ以外の行為が含まれているのであって,撮影行為はその一部にすぎない。そして,起訴状記載の罰条も併せれば,検察官が強制わいせつを起訴したのではないことは明白であって,審理の範囲が定まらないとか,防御に支障が生じるというものでもないから,訴因が不特定であるとはいえない。また,検察官が起訴したのは非親告罪である児童ポルノ製造罪であるから,強制わいせつ罪の起訴であることを前提に親告罪における告訴が欠ける旨の弁護人奥村及び■■■■■■の主張を採用する余地はなく,この点で原判決に訴訟手続の法令違反はない
(3)法令適用の誤りの主張(前記第1・3(3))について
前記(1)で触れたとおり,証拠からは,被害児童による同②及び③の行為が児童ポルノの提供目的製造罪や提供罪の構成要件を満たすとはいえず,また■■■■■■の原判示第4の行為は包括して児童ポルノ製造罪に当たると解されるから,これを前提に■■■■■■に同罪の単独正犯が成立するとした原判決に法令適用の誤りはない。