児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

3項製造罪の「姿態をとらせること」は製造とは別の行為であって,児童ポルノ法7条3項の児童ポルノ製造罪の実行行為には当たらず,製造の手段たる行為に過ぎないと解され,同罪は,児童に姿態をとらせた者がこれを利用して児童ポルノを製造することを処罰する,身分犯的な犯罪であると理解すべきところでもある。(大阪高裁H23.12.21)

 たくさん判示があるんです。
 唐突に「3項製造罪は身分犯」と言われても理解できませんよね。

阪高裁H23.12.21
2 児童ポルノの製造(原判示第4の2,同第5の8)についての法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反をいう主張について
(1)原判示第4の2についての主張論旨は,原判決は,原判示第4の2の罪となるべき事実として,被告人が(以下「共犯者」という。)と共謀の上,本条例違反行為を行って被害男児に性交類似行為の姿態をとらせて児童ポルノを製造した旨,起訴状記載の公訴事実(訴因)と同様の事実を摘示するところ,児童ポルノ法7条3項の「姿態をとらせて」は,7条3項の児童ポルノ製造罪の実行行為ではなく,共謀の対象とはならないのに,原判決が,「姿態をとらせて」の部分を含め,共謀の対象である実行行為として摘示しているのは,法令適用の誤りがある,また,起訴検察官は,上記のような身分と解される部分についてまで共謀共同実行した旨の公訴事実で起訴しているところ,このような公訴事実の記載は不適法というべきである,そして,公訴事実(訴因)や罪となるべき事実の上記のような記載方法は,共犯者のうち誰が姿態をとらせたのかが明らかでなく,訴因が不特定であるから,原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,というのである。
そこで,検討するに,「姿態をとらせること」は製造とは別の行為であって,児童ポルノ法7条3項の児童ポルノ製造罪の実行行為には当たらず,製造の手段たる行為に過ぎないと解され,同罪は,児童に姿態をとらせた者がこれを利用して児童ポルノを製造することを処罰する,身分犯的な犯罪であると理解すべきところでもある。
確かに,起訴状記載の公訴事実(訴因)と原判決の判示は,「と共謀の上」,「姿態をとらせて」「児童ポルノを製造した」と順次記載されてはいるか,いずれも,共謀の対象としての実行行為は,「児童ポルノを製造した」の部分を意味し,「姿態をとらせて」の部分は被告人において,実行行為の手段である「姿態をとらせること」を行ったとの趣旨で記載されているものと十分に理解することができる。
上記のような記載によっているからといって,「姿態をとらせて」を実行行為と解したと即断すべきではない。

 従前の判例は、非実行行為説を「弁護人独自の見解」と評価していましたが、H23には判例になりました。

札幌高裁H19.9.4
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書(ただし第1部について,弁護人は陳述しない旨述べた),各控訴趣意補充書に,これに対する答弁は,検察官作成の答弁書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。
なお,以下において,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」を児童ポルノ法と,また,児童ポルノ法7条3.項の罪を児童ポルノ製造罪という。
第1理由齟齬、訴訟手続の法令違反及び事実誤認の控訴趣意について
論旨は,要するに,?原判決は,「携帯電話内蔵メモリ.からSDカードの複製」については,姿態をとらせることは実行行為ではないとしながら,罪数処理においては,姿態をとらせることを実行行為とすることを前提にしており,原判決には,理由離解がある(控訴理由第5),?原判決の「犯罪事実」には,「携帯電話による撮影行為」と「携帯電話内蔵メモリからSDカードの複製」という2段階の製造行為が記載されているが,「携帯電話内蔵メモリからSDカードの複製」には,「姿態をとらせる」に該当する事実が記載されていない原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある(控訴理由第4),?児童を撮影した電磁的記録が携帯電話内蔵メモリからSDカードに複製された日時場所亮,起訴状及び原判決記載の日時場所と異なるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある,仮に,原判決が実際に複製された日時場所を認定しているとすれば,起訴状に記載された訴因外の事実を認定したこととなり,原判決には訴因逸脱認定という判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある(控訴理由第6),というのである。
そこで,検討するに,児童ポルノ法7条3項は,「姿態をとらせ,これを記録媒体その他の物に描写することにより,児童ポルノを製造すること」を処罰しているのであって,「姿態をとらせ」てから「その姿態を描写する」までの間の経過については,何ら制限を加えていないから,「姿態をとらせ」てから姿態が描写された児童ポルノが作成されるまでの間に,複数の児童ポルノが製造さ.れることを排除していないと解され,また,児童ポルノ法の「製造」とは,児童ポルノを作成することをいい,児童ポルノは,一定の操作を行うことによって児童の姿態を視覚により認識することができれば足りるから,例えば,フイルムカメラによる写真撮影の場合には,?撮影,?フイルムの現像,?フイルムのプリント・焼付けのそれぞれが児童ポルノの製造に当たると解される。このように,児童ポルノの製造においては,「撮影して写真を作製する」といった,社会通念的に一つの固まりと見られそうな行為であっても,その過程で児童ポルノに当たる物が順次製造されるごとに製造行為が観念でき,当初から意図されていた物が製造されるまでに複数の製造行為が連なっていると見られる場合が少なくない。そして,同一の者が犯意を継続してこれらの行為を行っ,たような場合には,その全体として包括一罪となると解するのが相当である。原判決は,その「犯罪事実」において,「同児童らを相手方とする性交又は性交類似行為に係る姿態及び衣服の全部又は一部を着けない姿態であって性欲を興奮させ又は刺激する姿態をとらせ,これをそれぞれ携帯電話内蔵カメラで撮影した上,これらを電磁的記録に係る記録媒体1枚(miniSDカード)に描写し,もって同児童らに係る児童ポルノをそれぞれ製造した」と記載しているのであって,原判決が,「児童に姿態をとらせ,これを携帯電話内蔵カメラで撮影した上,・電磁的記録に係る記録媒体1枚(SDカード.)に措写し」たことを一体として児童ポルノ製造罪の実行行為としていることは明らかで,「児童に姿態をとらせ」たことを,実行行為として認定し,原判決の「犯罪事実」にも実行行為として記載していることは明らかである。論旨?及び?は,原判決を曲解した独自の見解に基づくもので,失当である。