児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

同一サーバーにおける公然陳列罪の罪数は陳列行為の数で決まる(大阪高裁H24.5.31)

 HDDの個数と言ってみたり、行為の数と言ってみたりで定まりませんね。

阪高裁H24.5.31公刊物未搭載
第4 控訴趣意中,控訴理由第4の法令適用の誤りの論旨について
   論旨は,要するに,原判示第3及び第4について各公然陳列罪は態様が類似し,日時も重複しているから,包括一罪の関係にあるのに,原判決は併合罪とした点に,法令適用の誤りがある,というのである。そこで,記録を調査して検討するに,児童買春等処罰法7条4項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当であるところ,本件においては,被告人が原判示第3及び第4の各被害者ごとに別個のホームページを作成した上,各ホームページに各被害児童に係る児童ポルノを掲載してサーバーコンピュータのハードディスク内に記録し蔵置させているのであり,被告人の掲載のための操作は別個であることに加え,閲覧者もそれらにアクセスすることによって各児童ポルノを閲覧することになるから,陳列行為は社会的見解上も別個のものといえ,両罪は併合罪の関係にあると解することができる。所論引用の判例(平成16年6月23日東京高裁判決・公刊物未搭載)は,本件と事案を異にし,適切なものではない。
   そうすると,併合罪とした原判決に法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。

 控訴理由も公開しておきます

第1章 法令適用の誤り〜判示第3と第4は包括一罪
1 はじめに
 原判決は判示第3と第4の公然陳列罪を併合罪として処理した。

原判決
第3 B(16)が18歳に満たない児重であることを知りながら,別紙記載のとおり,平成24年9月7日午前7時37分ころから同月30日午前3時28分ころまでの間,8回にわたり,前記当時の被告人方において,被告人の携帯電話機を使用して,インターネットを利用し,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノの静止画データ合計8ファイルを,大阪市北区西天満ビル4階にある株式会社が管理するサーバーコンピュータに送信して,そのハードディスク内に記憶,蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し閲覧可能な状態を設定して前記児童ポルノを公然と陳列した。
第4 C(当時15歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,平成24年9月22日午前6時30分ころ及び同日午後零時28分ころの2回にわたり,前記当時の被告人方において,被告人の携帯電話機を使用して,インターネットを利用し,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノの静止画データ合計2ファイル(各ファイル名,胸写 ダウンロード禁止します,ダウンロード禁止)を,前記株式会社ビヨンドが管理する前記サーバーコンピュータに送信して,そのハードディスク内に記憶,蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し閲覧可能な状態を設定して前記児童ポルノを公然と陳列した。

 しかし、2つの公然陳列罪は、態様も類似しているし、日時も重複していることから、包括一罪と解すべきであり、原判決にはこの点で法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。
2 公然陳列行為一覧
 判示第3第4の公然陳列行為は、「被告人方から送信され、大阪市北区西天満ビル4階にある株式会社が管理するサーバーコンピュータに送信して,そのハードディスク内に記憶,蔵置させ」た点は共通である。
 しかも、犯行日時も、
日時 被害児童
判示第3 2012/09/7 7:37 B
判示第3 2012/09/8 20:25 B
判示第3 2012/09/10 3:20 B
判示第3 2012/09/11 7:12 B
判示第3 2012/09/13 20:30 B
判示第3 2012/09/17 22:16 B
判示第3 2012/09/20 1:46 B
判示第4 2012/09/22 6:30 C
判示第4 2012/09/22 12:28 C
判示第3 2012/09/30 3:28 B
となっていて、重複している。

3 裁判例
(1)東京高裁H16.6.23(横浜地裁H15.12.15)
 児童ポルノ公然陳列罪の罪数については、被害児童数は重視せず、ディスクアレイの個数で決めるというのが、東京高裁の判例である。

横浜地裁H15.12.15
(法令の適用)
1 罰条  被害者ごと(画像が複数ある被害者については,その複数は包括して)に,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項
2 科刑上一罪の処理  刑法54条1項前段,10条(一罪として,犯情の最も重い別紙一覧表番号1の被害者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反罪の刑で処断)

東京高裁H16.6.23
2所論は,要するに,原判決は,被害児童ごとに法7条1項に違反する罪(児童ポルノ公然陳列罪)が成立し,結局これらは観念的競合の関係にあるとして,その罪数処理を行っているが,本罪については,被害児童の数にかかわらず一つの罪が成立するというのが従来の判例であるから,原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第16)。そこで,本件に即して検討すると,法7条1項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当である。確かに,所論もいうように,児童個人の保護を図ることも法の立法趣旨に含まれているが,そうであるからといって,本罪が,児童個人に着目し,児童ごとに限定した形で児童ポルノの公然陳列行為を規制しているものと解すべき根拠は見当たらず,被害児童の数によって,犯罪の個数が異なってくると解するのは相当でない。そして,本件では,被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎないものと解される。したがって,この点に関する所論は正当であって,被害児童ごとに本罪が成立するとした原判決の法令解釈は誤りである。しかし,原判決は,成立した各本罪全体について,科刑上一罪の処理をした上で,全体を一罪として処断刑を算出しているから,その処断刑期の範囲は,当裁判所のそれと同一である。そうすると,この点に関する原判決の法令適用の誤りは,判決に影響を及ばすものとはいえない。論旨は,結局理由がない。
3所論は,要するに,本件訴因においては,被害児童ごとに,その氏名,年齢等(身体的特徴,容姿等)で特定しなければならないのに,これを特定させないまま審理判決をした原審の訴訟手続には,判決に影響を及ばすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある,と主張する(控訴理由第17)。しかし,所論は,児童ポルノ公然陳列罪は描写された被害児童ごとに犯罪が成立することを前提とする点で,既に失当である上,本法の立法趣旨が児童個人の法益を守るものであることを考慮しても,法7条1項の罪について,直ちに訴因の記載方法として,被害児童ごとに,その氏名,年齢等(身体的特徴,容姿等)で特定しなければならないことになるものではない。本件訴因の特定に欠けるところはないとした原判決の判断は正当である。論旨は理由がない。なお,この論旨は,正確には,第2に分類されるべきものであるが,便宜ここで判断を示すこととした。

名古屋地裁h19.1.10*1
(法令の適用)
罰条
判示1の行為 包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第7条4項前段,2条3項1号,2号,3号
判示2の行為いずれも刑法62条1項,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第7条4項前段,2条3項3号
なお,判示1の被告人自身による児童ポルノの陳列と同2の各封助行為とは,被告人が掲示板に児童ポルノを陳列させるという同一の目的のために行った行為と認められ本件法益侵害の程度,機会の同一性等の観点からみて,一回の処罰でまかなってよい場合に当たるとみるのが相当であり,全体として包括一罪の関係にあると解されるので,10条により犯情の最も重い判示1の被告人自身による児童ポルノ陳列罪の刑で処断する。