児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノを手元に置くのを所持罪、オンラインストレージに置くのを保管罪というのに、「児童の裸を撮影した児童ポルノを同市内の自宅で保管したとして、同禁止法違反(保管)で追起訴した」事例(松江地裁R04.11.28)

児童ポルノを手元に置くのを所持罪、オンラインストレージに置くのを保管罪というのに、「児童の裸を撮影した児童ポルノを同市内の自宅で保管したとして、同禁止法違反(保管)で追起訴した」事例(松江地裁R04.11.28)
 立法者の解説と名古屋高裁判例があって、保管罪不成立で、所持罪になるんだ。

元小学校教諭追起訴 児童ポルノ法違反=島根
2022.09.22 読売新聞
 元小学校教諭が勤務先で女児の裸を盗撮したとされる事件で、地検は21日、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(盗撮製造)と県迷惑行為防止条例違反(卑わいな行為の禁止)で起訴された被告について、他の女性にも盗撮を繰り返していたとして、同条例違反の「常習」を加える訴因変更を地裁に請求した。
 また、昨年6月頃、児童の裸を撮影した児童ポルノを同市内の自宅で保管したとして、同禁止法違反(保管)で追起訴した。16日付。

名古屋高等裁判所平成31年3月4日宣告 
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)違反,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
平成30年11月5日名古屋地方裁判所宣告判決。被告人控訴
判    決
主    文
 原判決を破棄する。
理    由
 第1 控訴趣意は控訴趣意書,控訴趣意補充書(弁護人作成)のとおり。論旨は理由不備,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤り,事実誤認,量刑不当(原判決懲役2年4年猶予付保護観察)
 第2 職権判断
 1 原判示第2に係る(訴因変更後の)公訴事実は要旨不特定多数の者に有償で頒布提供する目的で,平成30年2月20日,被告人方において,記録媒体である外付けハードディスクに,児童ポルノである電磁的記録2点及び児童ポルノであり,かつ,わいせつな画像データを記録した電磁的記録4点を保管した(児童ポルノ禁止法違反,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管)。
 原判示第2は要旨前記目的で,前記年月日,前記場所において,前記ハードディスクに「児童ポルノであり,かつ,わいせつな画像データを記録した電磁的記録2点及び児童ポルノであり,かつ,わいせつな画像データを記録した電磁的記録4点を保管した」旨
 2 原判決は検察官がわいせつ電磁的記録有償頒布目的保管で処罰を求めず,児童ポルノ禁止法違反のみで処罰を求めた電磁的記録2点につき前者の罪も成立するとした。審判の請求を受けない事件について判決をした。破棄を免れない(刑訴法397条1項,378条3号後段,400条ただし書適用)。
 第3 自判
(原判示罪となるべき事実第2に代えて当裁判所が新たに認定した事実)
 第2 被告人は,不特定多数の者に提供有償頒布目的で,平成30年2月20日,原判示第1被告人方において,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した画像データ2点に係る電磁的記録及び前同様の画像データであり,かつ,女児の性器を露骨に撮影した画像データ4点に係る電磁的記録に係る児童ポルノであり(前記画像データ2点及び4点関係),かつ,わいせつ物である(前記画像データ4点関係)記録媒体たる外付けハードディスク1台を所持した(事実[訴因変更後の]公訴事実同旨。第1は原判示第1のとおり)。
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 2 判示第2
 (1) 同事実(被告人弁護人も争わない)は児童ポルノ禁止法7条7項,刑法175条2項の「所持」罪該当(検察官はこれらの「保管」罪該当をいうけれども,被告人は電磁的記録に係る記録媒体を所持したから「所持」該当。「保管」不該当。訴因変更不要)
 (2) 弁護人は(訴因変更後の)公訴事実は電磁的記録(「画像」)のうちどれが児童ポルノでどれがわいせつか分からず訴因不特定という。検察官は各画像の女性の推定年齢を小児科医の供述(甲39)で立証しているところ,同医師の検察官調書添付の画像を起訴していること明らか。その画像から児童ポルノ画像(陰部を露骨に撮影したとまではいえない。甲39添付資料2-1,2-3)と児童ポルノかつわいせつ画像(陰部を露骨に撮影。同2-2,2-4から2-6まで)を区別可。訴因不特定といえない。
(法令の適用)
 1 罰条
 (1) 判示第1 各児童ごとに刑法60条,児童ポルノ禁止法7条5項,2項,2条3項3号(原判決は単純[又は包括]1罪。訂正)
 (2) 判示第2のうち児童ポルノ所持の点は同法7条7項前段,6項,2条3項3号。わいせつ物所持の点は刑法175条2項
 2 科刑上1罪の処理(判示第1,第2につき)
 いずれも刑法54条1項前段,10条(判示第1は1個の行為が5個の罪名に触れる場合。1罪として犯情の最も重い甲39添付資料1-1の女児に係る罪の刑で処断。判示第2は1個の行為が2個の罪名に触れる場合。1罪として重い児童ポルノ所持罪の刑で処断)
 3 刑種の選択 いずれも懲役刑
 4 併合罪加重 刑法45前段,47条本文,10条(重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
 5 刑の執行猶予 刑法25条1項
 6 保護観察 刑法25条の2第1項前段
 7 訴訟費用(原審)の処理 刑訴法181条1項ただし書(不負担)
  平成31年3月4日
    名古屋高等裁判所刑事第1部
裁判長裁判官 山口裕之
裁判官 出口博章
裁判官 山田順子


こういう控訴理由でした。

法令適用の誤り~被告人が自宅で所持しているポータブルHDD内の児童ポルノ画像については、「保管罪」は成立しないこと
1 原判決
 原判決は、被告人方におけるポータブルHDD内の児童ポルノ画像について児童ポルノ法7条7項後段の「電磁的記録保管罪」を適用した。

原判決
第2 不特定多数の者に有償で頒布提供する目的で,平成年月日,前記被告人方において,記録媒体である外付けハードディスクに,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録した電磁的記録2点及び同児童ポルノであり,かつ女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録した電磁的記録4点を保管したものである。
(法令の適用)
罰条
 判示第1の事実につき 刑法60条,児童ポルノ法7条5項,2項,2条3項3号
 判示第2の事実中
  児童ポルノ電磁的記録頒布目的保管の点につき
  児童ポルノ法7条7項後段,6項,2条3項3号

法文
第七条(児童ポルノ所持、提供等)
7前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。

 しかし、被告人の実力支配下にあるHDDの画像については、有体物としての児童ポルノの提供目的所持罪が成立して、電磁的記録記録としての保管罪は成立しない。

 原判決にはこの点で、法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

2 児童ポルノ法における「保管」とはリモートストレージ等被告人の現実支配が及ばない支配状態をいうこと
(1)児童ポルノ法H16改正時の解説
 目的保管罪というのは、H16改正で設けられた罪名なので、当時の解説を見ておく。
 刑法のわいせつ図画罪とは特別関係であるから、刑法の解釈の影響を受けない。

①森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」p98
 議員立法だが、担当した議員の解説である。

電磁的記録の「保管」とは、当該電磁的記録を自己の実力支配内に置いておくことをいいます。具体的には、当該電磁的記録をコンピュータのレンタル・サーバに保存したり、自己が自由にダウンロードすることができるリモート(プロパイダーのメールボックスに入れられたメールを閲覧できる機能)の記録媒体に保存する行為がこれに当たります。
なお、自己の所持する記憶媒体に電磁的記録を保存している場合は、当該記憶媒体の「所持」 罪が成立するため、記録媒体を所持していないが、前記の方法により電磁的記録を保管している場合にのみ本罪が成立することになります。

②島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08 p95
 島戸さんは裁判官である。

ウ 後段で規定する行為
電磁的記録の「保管」とは、当該電磁的記録を自己の実力支配内に置いておくことをいう。具体的には、当該電磁的記録をコンビュータのレンタル・サーバに保存する行為がこれに当たる。
前記のとおり 、記録媒体に記録されている電磁的記録については、当該 自己の所有する記憶媒体に電磁的記録を保存している場合は、当該記憶媒体の「所持」罪が成立するため、記録媒体を所持していないが、電磁的記録を保管している場合にのみ本罪が成立することになる。

③大橋充直検事「検証ハイテク犯罪の捜査 第41回特集 児童買春・児童ポルノ禁止法の改正」捜査研究 第640号

(2)児童ポルノ法H26改正時の解説
 単純所持罪(7条1項)が設けられた際に、再度、所持と保管の区別が再確認され、周知されている。

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
1 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とする。

警察庁少年課課長補佐友永光則警察公論2014年10月号p12

警察庁少年課課長補佐友永光則警察公論2014年10月号p12
イ「所持」及び「保管」の意義
児童ポルノの「所持」とは,有体物(写真, DVD,ハードディスク(記録媒体)等)である児童ポルノを,自己の事実上の支配下に置くことをいう。
これに対し電磁的記録の「保管」とは,電磁的記録を自己の実力支配内に置くことをいう。
具体的には,当該電磁的記録をコンピュータのレンタル・サーバに保存したり,自己が自由にダウンロードすることができるリモートの記録媒体に保存する行為が該当する。これに対し,自己の所持するパソコンのハードディスクに保存している場合は,ハードディスク(有体物)の所持罪に該当する。

②江口寛章ら「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部改正」警察学論集第67巻第10号p97.





③坪井麻友美検事「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」捜査研究 第63巻第9号(2014年9月号)
 坪井検事は、現行法の目的所持罪と保管罪の区別についても、リモートが保管罪と説明している。

4 まとめ
 にもかかわらず、児童ポルノ保管罪を認めた原判決には、法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。
 児童ポルノ法は刑法175条とは特別法の関係にあって、刑法と比較すると、児童ポルノの悪質性に鑑みて

①製造罪・運搬罪・特定少数への提供罪など刑法にはない罪があること
②刑法の「頒布罪」の類似行為として「児童ポルノ提供罪」があるが、提供罪は頒布罪に比べると既遂時期が早いこと

という特徴がある。
 手元に電磁的記録を持っている場合に、刑法が「保管」っていうんだから、児童ポルノ法も「保管」にしてしまうという解釈はとれない。

追記2022/11/28
 保管罪で判決されたもよう。

更衣室で着替えする女子児童を盗撮、元小学校教諭に判決 裁判官「酌量の余地などみじんもない」と糾弾
11/28(月) 18:26配信山陰中央新報
 勤務先の小学校で児童を盗撮したなどとして、児童買春・ポルノ禁止法違反(製造・電磁的記録保管)と島根県迷惑行為防止条例違反(卑わいな行為)の罪に問われた元小学校教諭の被告(30)=松江市=の判決公判が28日、松江地裁であり、畑口泰成裁判官は懲役2年、保護観察付きの執行猶予4年(求刑懲役2年6月)を言い渡した。