従前は、脱がして触って撮った行為は、一個のわいせつ行為とされていましたので、そのうちの撮影行為を3項製造罪と評価するとしても、行為の個数は変わりません。
「脱がして」「触って」「撮った」というのを形式的には3個の行為として包括一罪とする見解もありません。一個のわいせつ行為です。
名古屋高裁事件
名古屋地裁平成21年10月19日
第2
1 平成年7月1日午後4時57分ころ,大阪市内所在の空き家敷地内において,B(当時6歳)に対し,同児が13歳未満であることを知りながら,「。」などと言ってロを開けさせ,その口中に自己の陰茎を挿入し,さらに,「。」などと言って,同児に自己の陰茎を握らせて手淫させ,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした
2 前記1の日時場所において,同児が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児に対し,自己の所有する携帯電話機の動画機能を使用し,同児に前記1の手淫行為に係る児童の姿態をとらせて撮影し,その動画を同携帯電話機に装着した電磁的記録媒体であるミニSDカードに記録させ,もって児童に,児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものをとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写する方法により,児童ポルノを製造した
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名古屋高裁平成22年3月4日
4控訴理由第4について
論旨は,原判示第2,第3;第6,第7及び第8の各事実について,同一機会の強制わいせつと児童ポルノの製造であるから,観念的競合とすべきであったのに,両者を併合罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
確かに,所論のとおり,被害児童らに対し手淫ないし口淫させた姿を撮影した行為は,児童ポルノ製造の実行行為となるほか,強制わいせつ罪の実行行為にも当たるから,強制わいせつの事実において上記撮影の点が起訴,認定されていないことを考慮しても,上記の行為は1個の行為が児童ポルノ製造罪及び強制わいせつ罪の2個の罪名に触れるものというべきであって,両罪は観念的競合となると解される。
原判決にはこの点において法令適用の誤りがあるといわざるを得なりが,正しく法令適用した場合と原判決のした法令適用とにおいて最終的な処断刑の範囲は変わらないから,その誤りは判決に影響を及ぼすものではない。
論旨は理由がない。
仙台高裁事件
福島地裁白河支部平成20年10月15日
第2 同年7月31日午前11時20分ころ,大阪市所在の原野において,b(当時9歳)に対し,同人が13歳未満の児童であることを知りながら,同人の衣服を脱がせて,その陰部等を手指でもてあそぶとともに,なめ回した上同人に陰部を露出させる姿態をとらせて,その陰部をカメラ機能付き携帯電話機で撮影し,その電磁的記録を前記携帯電話機に記録し,もって13歳未満の女子に対しわいせつな行為をするとともに,衣服の全部又は一部を着けず,性欲を興奮させ又は刺激する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により竃磁的記録に係る記録媒体に描写し,前記児童に係る児童ポルノを製造し
(法令の適用)
被告人の判示第1及び第2の各所為中強制わいせつの点は,いずれも行為時においては平成16年法律第156条による改正前の刑法176条後段に,裁判時においてはその改正後の刑法176条後段に該当するが,これらは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,判示第3及び第4の各所為中強制わいせつの点はいずれも同法同条後段に,判示第2ないし第4の各所為中児童ポルノを製造した点はいずれも児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項,2条3項3号にそれぞれ該当するが,判示第2ないし第4の各所為について,これらはいずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い強制わいせつ罪について定めた懲役刑でそれぞれ処断することとし,
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仙台高裁H21.3.3
(1)所論は,原判示第2から第4までの各事実について,
?原判決は,法令の適用の項において,強制わいせつ罪と児童ポルノ法7条3項の児童ポルノ製造罪とを観念的競合として処理しているが,両者は併合罪の関係に立つものであるから,原判決には法令適用の誤りがある,また,各起訴状記載の公訴事実には,併合罪である両罪が混然一体として記載されており,訴因の特定を欠いているため,公訴提起自体が刑訴法256条3項に違反して無効であって,同法338条4号により公訴棄却すべきであったから,原審の訴訟手続には,実体判決をした点及び不特定な事実を認定判示した審理不尽の点において訴訟手続の法令違反がある,
などと主張する。
(2)しかしながら,
?については,原判決は,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪とを観念的競合として処理しているところ,これが併合罪であるとするのは被告人に不利益な主張といわざるを得ず,このことは刑訴法402条により控訴審において被告人に原判決より重い刑を言い渡すことができないことを考慮しても同様というべきである。したがって,両罪が併合罪であることを前提とする所論は,控訴の利益を欠き不適法であるから,採用の限りでない。
なお,付言するに,各被害児童の陰部を撮影する行為は,強制わいせつ罪のわいせつな行為に当たるとともに,児童ポルノ製造罪の実行行為にほかならないから,両罪を観念的競合として処理した原判決に法令適用の誤りはなく,また,原審の訴訟手続に所論のいうような法令違反はない。
高松高裁事件
松山地裁平成 22年 3月 30日
第2 平成20年4月 1日午後 3時30分ころ,松山市公園公衆トイレの女子トイレ内において,b(平成 13年 6月 13日生,当時6歳)に対し,同女が 13歳未満の児童であることを知りながら,同女の腕をつかんで、同トイレの個室内に連れ込み,出入口ドアの施錠をし,同女に対し,そのズボンと下着を脱がせて下半身を裸にして,同女の陰部を露出させる姿態をとらせ,これを携帯電話機付属のカメラで撮影し,さらに,同女の頭部等に射精した上,これを同カメラで撮影し,その電磁的記録を同携帯電話機に内蔵する記録媒体に記録して,もって, 13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をするとともに,衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した
(法令の適用)
判示第2の所為のうち,強制わいせつの点は同法 176条後段に,児童ポルノ製造の点は児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項, 2条 3項 3号に,判示第 3の所為は刑法 176条に,判示第4の所為は香川県迷惑行為等防止条例 13条 1項, 3条5号に,判示第 5の所為は刑法 208条にそれぞれ該当するが,判示第2は1個の行為が 2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条 1項, 10条により 1罪として重い強制わいせつ罪の刑で処断することとし,
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高松高裁平成22年9月7日
第3 法令適用の誤りの主張について
論旨は,?原判示第2の児童ポルノ製造罪と強制わいせつ罪とは混合的包括一罪ないし児童ポルノ製造罪は強制わいせつ罪に吸収されると解すべきであるのに,両罪を観念的競合とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかし, ?の児童ポルノ製造罪と強制わいせつ罪との罪数関係の点は,本件においては,その行為の大半が重なり合っているから,観念的競合である。なお,所論は,予備的に,両罪が併合罪とされた場合には,原判決に訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りがあるとも主張するが,前提を欠く。