児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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提供目的製造行為を、姿態をとらせて製造罪で起訴していいのか~4項製造罪と7項製造罪との関係

提供目的製造行為を、姿態をとらせて製造罪で起訴していいのか~4項製造罪と7項製造罪との関係
 島戸さんらの解説では、各項の製造罪の守備範囲は重ならないとされていたのですが、提供目的で姿態をとらせて製造したとか、ひそかに姿態をとらせて製造したような事案が出てきたので、最近はそうるさいこというなよ、優先順位はないよという高裁判例が続いています。
 訴追裁量論でごまかしているような気がします。

島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08(2004.8.10)
p97
ウ構成要件
第2項に規定するもののほか、児童に第2条第3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造する行為である。
(ア) 姿態をとらせ」
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。
いわゆる盗撮については、本項の罪に当たらない。一般的にそれ自体が軽犯罪法に触れるほか、盗撮した写真、ビデオ等を配布すれば名誉致損の罪も成立し得るし、他人に提供する目的で児童ポルノを製造すれば、第7条第2項、第5項により処罰されることとなる。
(イ) 第1項の目的で児童ポルノを製造した場合は本項の罪からは除かれる。これは単に重複を避けるための技術的なものにすぎない。
・・
p98
オ他罪との関係
他人に提供する目的又は公然陳列目的をもって第7条第3項に規定する児童ポルノの製造行為を行った場合、第7条第3項は、第2項に規定するものを除いているので、他人に提供する目的等があった場合には、その第3項の犯罪は成立しない。
なお、第2項は、第5項に該当する場合を含むものであり、第3項においては、第2項に規定する場合のみを除けば、当然に第5項に該当する場合も除くこととなるものであるから、第3項において、第5項に該当する場合を除くこととはしなかったものである。

阪高裁令和2年10月27日
被告人とOを4項製造罪の共犯として認定した点に関する主張
被告人とOを4項製造罪の共犯として構成した原判示第5に関し,実行行為をしたOには,提供する目的があるから加重類型である7項製造罪が成立し,被告人には提供目的がないから7項製造罪の幇助に止まるが,幇助の故意がないから無罪であって, この点,原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
そこで,検討すると,上記1で説示した通り,検察官が,その訴追裁量にしたがって,実行犯であるOについて, 7項製造罪ではなく4項製造罪として公訴提起するとともに,被告人が4項製造罪の共犯に当たるとして公訴提起したものであるから,裁判所は,その成否についてのみ認定判断すれば足りるところ,原審裁判所が,被告人には4項製造罪につきOとの共謀共同正犯が成立すると認定判断した上で,その旨の法令を適用したことはもとより正当であって,法令適用の誤りはない。
5 4項製造罪の罪となるべき事実に関する主張
被告人に4項製造罪を認めた原判示第2,第5に関し, 「前項に規定するもののほか」として3項製造罪の不成立を認定しておらず,原判決には,理由不備がある, というものである。
そこで,検討すると, 「前項に規定するもののほか」という文言が構成要件であるというのは,弁護人独自の主張であって, 4項製造罪は, 3項で処罰されないものについても,新たに児童ポルノを製造する行為は,児童に悪影響を与えるものであるから, これを処罰しようとするものであって, 3項製造罪の不成立は,構成要件になっているものではない。したがって,原判示第2,第5に理由不備はない。

阪高裁r02.10.2
3 原判示第4の事実に関する理由不備,理由齟齬,法令適用の誤りの各主張について
(1)論旨は,児童ポルノの製造に係る行為について児童ポルノ法7条3項の罪が成立する場合には,同行為が同条4項の罪に該当する場合であっても,法条競合により同項の罪は成立せず,同条3項の罪が成立しないことが同条4項の罪の構成要件になるという解釈を前提に,原判決が原判示第4の事実について,①(罪となるべき事実)の項において,同条3項の罪が成立しないことを摘示しなかったことは理由不備の違法に当たり,②提供目的により本件の児童ポルノの製造に及んだ旨の被告人の供述を含む供述調書を(証拠の標目)の項に掲げ,(量刑の理由)の項でも提供目的を認定しながら,(罪となるべき事実)の項で同条4項に係る事実を認定したことは理由齟齬の違法に当たり,③同条3項の罪が成立する本件の事実関係において同条4項の罪の成立を認めたことは,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りに当たる,というのである。
(2)そこで原審記録を調査して検討するに,児童ポルノ法7条4項の「前項に規定するもののほか」との規定ぶりからして,同項は同条3項の補充規定であり,両規定に係る罪はいわゆる法条競合の関係に立つと解されるが,これは,ある事実が同条3項に該当する場合に実体法上およそ同条4項の罪が成立し得ないということまでをも意味するものではなく,当該事実に同条3項を適用する場合には,同事実について同条4項の適用が排除されることを意味し,同条3項の罪が成立しないことが同条4項の罪の構成要件になるとは解されない。
 したがって,原判決の理由不備の違法をいう論旨は,そのよって立つ解釈自体が採用し得ないから,失当である。
(3)そして,訴因の構成・設定は検察官の合理的な裁量に委ねられており,検察官は,実体的には児童ポルノ法7条3項を構成すると評価し得る行為についても,立証の難易等諸般の事情を考慮して同条4項の訴因により公訴提起することは許容され,裁判所も,当該公訴事実に掲げられた行為について,同条4項の成立に証拠上欠けるところがないのであれば,原則として,その公訴事実に沿ってこれを認定すれば足りるというべきである。本件では,原判示第4の事実に係る起訴状の記載を見ると,検察官が児童ポルノ法7条4項の罪に当たる行為について起訴していることは明らかであり,原審記録に照らしてその罪の成立に必要な事実関係について証拠上欠けるところも見当たらないから,検察官が設定した訴因に沿って原裁判所が原判示第4の事実を認定したことに何ら違法とすべきところはない。
 所論は,冒頭陳述の記載,検察官請求証拠の立証趣旨や証拠の内容,論告の記載等からすると,検察官は,提供目的での児童ポルノ製造行為を起訴しており,原判決の(証拠の標目)や(量刑の理由)の各項の記載等からすると,裁判所もこれに沿って同目的を認定したとみるのが相当であるなどと主張する。
 しかし,所論が指摘する冒頭陳述の記載は,被告人がこれまでに販売目的で児童から裸の画像を入手するなどの行為を繰り返していた旨の本件犯行に至る経緯を記載しているにすぎず,これに関する検察官請求証拠の立証趣旨をみても,このような経緯を立証するために請求されたものと解される。また,請求証拠の一部に販売目的で本件犯行に及んだ旨の被告人の供述が記載されていたとしても,検察官が自ら設定した訴因を超えて,提供目的による児童ポルノ製造罪の処罰を求める趣旨でそれらの証拠請求をしたとみることはできない。さらに,検察官が論告において,被告人が画像等のデータを販売するために本件犯行に及んだ旨指摘している部分をみても,あくまで本件の動機や経緯の一事情としての記載にすぎず,検察官が証拠調べの結果を踏まえて,提供目的による製造罪での処罰を求める趣旨で指摘したものとみることもできない。加えて,原判決の(量刑の理由)の項における説示をみても,冒頭陳述の記載と同様,被告人が従前から販売目的で児童から裸の画像を入手するなどしていたとの経緯を指摘しているにすぎず,(証拠の標目)に掲げられた被告人の供述調書中に,被告人が販売目的で本件の児童ポルノ製造に及んだ旨の供述が含まれていたとしても,原判決が提供目的での児童ポルノ製造罪の認定根拠としたなどとみることはできない。
 所論は採用できず,原判決の理由齟齬の違法及び法令適用の誤りをいう論旨は,いずれも理由がない。