児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪と製造罪は観念的競合になるか?

 こんな話題ばっかりで、ついてこれる人だけ読んで下さい。警察の人は、検事に質問してみて下さい。調べてもらっても「もう判例ごっちゃでわからない」と答えると思います。
 こういう犯罪事実の判決をいただきました。強制わいせつ罪と製造罪は観念的競合になるという。

某地裁の認定事実
 被告人は,平成年月日ころ,において,A(当時10歳)が13歳未満の児童であることを知りながら,同児童に対し,衣服を脱がせた上,胸部及び陰部を手指でもてあそぶとともに,なめ回し,さらに,足を広げるよう指示して陰部を露出させるなどの姿態をとらせてデジタルカメラで撮影し,その電磁的記録を同カメラ内蔵のSDカードに記録し,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をするとともに,衣服の全部又は一部を着けず,性欲を興奮させ又は刺激する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写し,前記児童に係る児童ポルノを製造したものである。

 これが刑法的な伝統的な思考ですが、児童ポルノ製造罪と性犯罪・福祉犯の罪数処理においては、科刑上一罪が広くなりすぎるという考慮もあって、最近併合罪説に傾きつつあります。
 東京高裁H19.11.6とか東京高裁H20.9.18とか。
 東京高裁H19.11.6によれば強制わいせつ罪と3項製造罪(姿態とらせて製造)も併合罪になって、実際、そういう地裁判決もあるのですが、
 東京高裁H20.9.18の「3項製造罪に係る児童ポルノ製造行為は,児童にとらせた姿態を描写して児童ポルノを製造することを本態とするものであり,また,上記性交等に至らない「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を描写した場合をも処罰範囲に含んでおり,さらには,上記性交等に係る姿態に関しても,前記(弁護人の主張に対する判断)1で見たとおり,そのような姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為も,3項製造罪に当たると解する以上,上記性交等のなされた時間場所とは異なる時間場所においてなされる,別の記録媒体に記憶させる場合も処罰範囲に含まれることになるから」を借りれば、強制わいせつ罪の際に撮影しても、ダビングまで製造罪なのだから、重なり合いは小さいことになります。

 とすると、上記犯罪事実のような認定では、併合罪である二個の事実を一個の訴因として混在させて書いたことになるので、訴因不特定とか訴訟手続の法令違反になるでしょう。

東京高裁H19.11.6
 そこで検討すると,?,?及び?の各児童買春罪に該当する行為は,児童に対し対償を供与し,あるいは,その約束をして,児童と性交するなどしたものであり,?及び?の各児童ポルノ製造罪(本法7条2項所定の罪。以下,これを同条3項所定の児童ポルノ製造罪と区別して,「2項製造罪」という。)に該当する行為は,提供の目的で,その性交等をしている児童の姿態等を撮影し,DVD−RW1枚あるいはネガフィルム1個の児童ポルノを製造したものであって,これらの行為は,各性交等の時点では同時的に併存してはいても,自然的観察の下で,行為者の動態が社会的見解上1個のものと評価される場合には当たらないと解するのが相当である。
 その理由につき若干補足して説明する。まず,児童買春行為それ自体(児童との性交ないし性交類似行為)は,2項製造罪の実行行為の一部であるとは解されず,児童買春罪と2項製造罪は,その実行行為が部分的にも重なり合う関係にはないのである(このことは,児童に対する強姦や強制わいせつの状況を撮影した場合に,強姦行為や強制わいせつ行為が2項製造罪の実行行為め一部とはいえないのと同様である。)。
 次に,両罪に該当する行為は,本件においてはほぼ同時的に併存し,密接に関連しているので,自然的観察の下で社会的見解上1個の行為と評価するのが相当か否かが問題となる。判例上,外国から航空機等により覚せい剤を持ち込み,これを携帯して通関線を突破しようとした場合の覚せい剤取締法上の輸入罪と関税法上の無許可輸入罪が観念的競合の関係にあるとされており,両罪は実行行為の重なり合いはないが,このような行為は社会的見解上1個の行為であるとされている(最高裁昭和58年9月29日第一小法廷判決・刑集37巻7号1、110頁)ので,これと本件の場合を比較検討してみると,外国から覚せい剤を携行して通関線を突破して本邦内に輸入しようとする者は,必然的に両罪を犯すことになり,いずれか一方の罪のみを犯すということは考えられない(関税法違反罪の実行の着手前に発覚した場合を除く。)が,本件の場合は,児童買春罪のみを犯し,2項製造罪には及ばないことも,逆に,2項製造罪のみを犯し,児童買春罪には及ばないことも共に十分に可能なのである。覚せい剤輸入の場合は両罪に該当する行為はいずれも「輸入」として同質的なものといえるが,「買春」と「製造」はむしろ異質な行為であって,行為者の動態としての1個性は認めがたいというべきであろう。
さらに,本件の2項製造罪においては,児童の姿態等の撮影とこれに伴う第1次媒体への記録により第1次媒体(児童ポルノ)を製造したものとされているにとどまるが,2項製造罪においては,第1次媒体の製造に引き続き,電磁的記録の編集・複写,ネガフィルムの現像・焼き付け等の工程を経て,第2次媒体や第3次媒体の児童ポルノを製造する行為も実行行為に包含されるのであり,事案によっては,相当広範囲にわたる行為に(包括)一罪性を認めざるを得ないであろうが,児童買春罪との観念的競合関係を肯定するとすれば,いわゆるかすがい作用により,科刑上一罪とされる範囲が不当に広がる恐れも否定できないように思われる(強姦罪等との観念的競合を肯定するとすれば,その不都合はより大きいものとなろう。)。
なお,本件と同様に撮影を伴う児童買春の事案において,児童買春罪と3項製造罪が観念的競合の関係にあるとした裁判例は少なくないようであり,3項製造罪に.ついては,「児童に……姿態をとらせ(る)、」行為もその実行行為に含まれるのか否かという問題が存するのであるが,両罪を併合罪関係にあると解する余地もあるように思われる。
また,撮影者が淫行の相手方と,なる児童淫行罪(児童福祉法60条1項,34条1項6号)の事案についても,児童淫行罪と2項製造罪や3項製造罪が観念的競合の関係にあるとした裁判例も少なくないようであるが,これらについてもなお検討が必要のように思われる。少なくとも,これらの裁判例の結論を動かし難いものとして,本件の児童買春罪と2項製造罪の罪数関係を論ずべきではないであろう。

東京高裁H20.9.18
2 原判示第1の児童買春罪との罪数関係について
 弁護人は,同一児童に対する,児童買春罪の実行行為と3項製造罪の実行行為とは,刑法54条1項前段の「1個の行為」と評価すべきであるとし,その根拠として,構成要件的重なり合いがなくても1個の社会的事象であれば,観念的競合となり得るところ,?性行為を含む性犯罪や福祉犯罪とその際になされる3項製造罪は,社会的見解上1個の行為である,?3項製造罪は,法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせて撮影等するものであり,性交・性交類似行為・性器接触行為がなければならないから,性交・性交類似行為と撮影行為は構成要件的に重なり合う関係にある,と主張する。 
刑法54条1項前段にいう「1個の行為」とは,法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,行為者の動態が社会的見解上1個のものと評価を受ける場合をいうものであるところ, 児童買春行為は,児童に対し性交等(性交,性交類似行為,性器接触行為)をすることを本態とするのに対して,3項製造罪に係る児童ポルノ製造行為は,児童にとらせた姿態を描写して児童ポルノを製造することを本態とするものであり,また,上記性交等に至らない「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を描写した場合をも処罰範囲に含んでおり,さらには,上記性交等に係る姿態に関しても,前記(弁護人の主張に対する判断)1で見たとおり,そのような姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為も,3項製造罪に当たると解する以上,上記性交等のなされた時間場所とは異なる時間場所においてなされる,別の記録媒体に記憶させる場合も処罰範囲に含まれることになるから,上記の自然的観察のもとにおいては,児童買春行為と3項製造罪に係る児童ポルノ製造行為とは,社会的見解上別個のものと評価すべきであって,これを1個の行為とみることはできない。したがって,児童買春罪と3項製造罪とは,刑法54条1項前段の観念的競合の関係ではなく,併合罪の関係にあるものと解するのが相当である。
 弁護人の上記主張は採用できない。

 罪数処理は裁判所は避けられない問題で必死に考えてくれますが、高裁レベルで罪数処理が固まらないので、こういう事件の弁護人はいろいろ主張できます。
 被告人も未決勾留日数の法定算入とかで被告人にもメリットあるので、弁護人は見逃さないようにお願いします。