姿態を取らせて製造罪(4項)とひそかに製造罪(5項)の複合形態は、4項製造罪のみになります
起訴事例としては
神戸地検姫路支部
神戸地検
大分地検
新潟地検
奈良地裁葛城支部
判決まで行っちゃった事例としては、
大分地検
新潟地検
奈良地裁葛城支部
がありますが、法令適用の誤りです。
こういう法文なので、
第七条(児童ポルノ所持、提供等)
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
他の製造罪の構成要件を満たす場合には、5項製造罪は成立しない。
坪井検事もそう解説する。
坪井麻友美「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」(法曹時報66巻11号57頁)
そうなると、検察官は他の製造罪に当たらないという主張・立証をしなければ、5項製造罪は成立しない。
もしくは、主張責任だけを転換して、被告人・弁護人から他の製造罪にあたるという主張があった場合には、検察官は他の製造罪に当たらないという立証をしなければ、5項製造罪は成立しない。
姿態をとらせて製造行為をひそかに製造罪で起訴していいという訴追裁量はない。
※ 性交しながら撮影することは「性交する姿態をとらせている」ことであるという判例(札幌高裁H19.3.8)。
札幌高裁H19.3.8(最決H21.10.21*1の控訴審判決)にその旨の判示がある。
この理屈は、被害児童が撮影を知らない場合でも変わることがない。
札幌高裁H19.3.8
児童ポルノ法7条3項の「姿態をとらせ」とは,行為者の言動等により,当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい,強制を要しないと解されるところ,関係証拠によれば,被告人は,児童と性交等を行っているが,これらの行為は通常当事者双方の言動により行為に至るものであって,本件においても,被告人が警察官に対し,「(ビデオに撮影した)これらの場面はセックスの一連の行為の一場面であります」と述べているように,被告人は,自ら積極的に児童に性交等の行為を行い,あるいは,児童の性交等の行為に応じる言動をしているのであって,この被告人の言動等により児童は性交等の姿態をとるに至ったと認められる。被告人が児童に「姿態をとらせ」たことは明らかである。
なお,所論は,姿態をとらせる行為は,児童ポルノ製造に向けられた行為であるから,その時点において児童ポルノ製造の目的を要するが,被告人には,その時点において児童ポルノ製造の目的がない,という。しかし,被告人は,児童に性交等の姿態をとらせ,それを録画しているのであるから,正に,児童ポルノ製造行為に向けて姿態をとらせたというべきである。所論は採用できない。
これは正に、「性交などしながらの撮影は「姿態をとらせ」ているのではない」という主張に対する判断であって、判例である。
弁護人弁護士奥村徹の控訴理由
控訴理由第1 事実誤認・法令適用の誤り~性交などしながらの撮影は「姿態をとらせ」ているのではない*2
本件製造罪をひそかに製造罪とするのはこの判例に違反する。
※ あらかじめ室内にピデオカメラを設置して、わいせつ行為をしているところを盗撮した場合は、ひそかに製造罪ではなく、姿態をとらせて製造罪であるという判例(大阪高裁H28.10.26*3 姫路支部H28.5.20*4)
5項製造罪の法文は「前二項に規定するもののほか、」とされる。
盗撮行為であっても、姿態をとらせて製造罪が成立する場合にはひそかに製造罪は成立しないということである。
判例がある。
大阪高裁H28.10.26
強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
判決
検察官北英知
弁護人竹内彰(主任),奥村徹(いずれも私選)
原判決神戸地方裁判所姫路支部平成28年5月20日宣告
第10,第12及び第13の各2の事実における法令適用の誤りの主張について。
論旨は,第10,第12及び第13の各2の製造行為は,いずれも盗撮によるものであるから,法7条4項の製造罪ではなく,同条5項の製造罪が成立するのに,同条4項を適用した原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
しかしながら,法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定されているから,同条4項の罪が成立する場合には同条5項の罪は成立しないことが,法文上明らかである。
所論は,法7条5項に「前2項に規定するもののほか」と規定されたのは立法のミスであってこの文言に特段の意味はないとした上で,法7条5項の罪と他の児童ポルノ製造の罪との関係は前者が後者の特別法の関係だと主張する。
しかし,法7条5項の罪が追加された法改正の趣旨を考慮しても所論のように「前2項に規定するもののほか」に意味がないと解する必要はなく,法7条5項の罪が特別法の関係にあるとの所論は,独自の見解であって,採用できない。
いずれも法7条4項の罪が成立しているとした原判決の法令適用に誤りはない。