東京高裁h28.2.19 によれば「撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない」とされています。強制わいせつ罪説を「失当」と評価しています。
送信型強制わいせつ罪の高裁判例としては。
大阪高裁r030714(1審京都地裁)
大阪高裁r040120 (1審京都地裁)
があります。
https://digital.asahi.com/articles/ASQ563W7GQ56UTIL00N.html
成城署によると、容疑者は1月29日、東京都内の20代女性のインスタグラムに別人を装ってダイレクトメッセージ(DM)を送信。「画像を送らないと関係者に危害を加える」などと脅し、女性にわいせつな画像や動画を撮影させて送信させた疑いがある。
東京高裁h28.2.19 (一審新潟地裁高田支部H27.8.25)
判例タイムズ1432号134頁
(1) 強要罪が成立しないとの主張について
記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
(2) 公訴棄却にすべきとの主張について
以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。
控訴理由
(1)強要罪とした裁判例*1
強要罪とした裁判例はたくさんある。
弁護人が刑事確定訴訟記録法により閲覧して、脅して撮影送信させた行為が強要罪として処理された事例
福島 地裁 会津若松 H18.2.8
大津 地裁 H18.3.22
松山 地裁 西条 H18.12.11
岡山 地裁 倉敷 H19.2.13
高知 地裁 H19.5.31
水戸 地裁 H19.7.4
福島 地裁 会津若松 H19.8.1
札幌 地裁 H19.12.11
徳島 地裁 H20.2.13
福井 地裁 H20.10.8
札幌 地裁 H20.12.11
盛岡 地裁 一関 H21.5.13
徳島 地裁 H21.5.15
大津 地裁 H21.7.31
水戸 地裁 土浦 H21.9.8
横浜 地裁 H21.11.27
神戸 地裁 H21.12.10
大阪 地裁 H21.12.25
千葉 地裁 H22.2.10
大阪 高裁 H22.6.18
横浜 地裁 川崎 H22.7.8
岡山 地裁 H22.8.13
長野 地裁 上田 H22.9.16
青森 地裁 H22.10.29
名古屋 地裁 H22.11.1
札幌 地裁 室蘭 H22.12.1
広島 高裁 岡山 H22.12.15
仙台 地裁 登米 H23.2.7
さいたま 地裁 H23.5.13
福岡 地裁 H23.5.30
札幌 地裁 H23.8.10
札幌 地裁 H24.6.23
福井 地裁 敦賀 H24.9.26
佐賀 地裁 H24.10.3
東京 地裁 H24.11.5
新潟 地裁 長岡 H24.12.25
横浜 地裁 H25.7.4
東京 地裁 H25.8.8
旭川 地裁 H25.8.9
和歌山 地裁 H25.9.20
松山 地裁 H26.1.30
水戸 地裁 土浦 H26.6.16
福井 地裁 H27.1.8
岐阜 地裁 御嵩 H27.2.16
富山 地裁 高岡 H27.3.3
札幌 地裁 苫小牧 H27.3.10
大阪 地裁 H27.6.15
新潟 地裁 高田 H27.8.25
福井 地裁 敦賀 H30.1.2550件程度確認しているが、ほんまか?と言われるので、手元に判決書があるものを並べておく。
裁判例1 水戸地裁H19.7.4
裁判例2 福島地裁会津若松支部h19.8.1
裁判例3 徳島地裁H20.2.13
裁判例4 徳島地裁H21.5.15
裁判例5 大阪地裁H21.7.17
裁判例6 東京地裁立川支部H21.10.9(12歳)
裁判例7 横浜地裁川崎支部H22.7.8
裁判例8 神戸地裁H22.12.10(大阪高裁H22.6.18)
裁判例9 広島高裁岡山支部H22.12.15(岡山地裁h22.8.13)
裁判例10 青森地裁h22.10.29
裁判例11 名古屋地裁H22.11.1
裁判例12 大阪地裁堺支部H22.11.22
裁判例13 仙台高裁H23.9.15(仙台地裁古川支部H23.5.10
裁判例14 さいたま地裁H23.5.13
裁判例15 仙台地裁登米支部H23.2.7
裁判例16 福岡地裁H23.5.30
裁判例17 東京地裁h25.8.8
裁判例18 札幌地裁H23.8.10
裁判例19 福井地裁敦賀支部h24.9.26
裁判例20 旭川地裁h25.8.9
裁判例21 山口地裁h25.12.18 強要未遂
裁判例22 名古屋高裁金沢支部H27.7.23(福井地裁h27.1.8)
裁判例23 東京高裁H27.12.22(新潟地裁高田支部h27.8.25
裁判例24 名古屋高裁金沢支部H27.7.23(富山地裁高岡支部H27.3.3)
裁判例25 広島地裁h27.10.2 自慰行為させ
裁判例26 広島高裁h28.3.10(広島地裁H27.10.2)
裁判例27 千葉地裁h31.2.22
裁判例28 大阪高裁r2.10.2(奈良地裁葛城支部R02.3.30)
裁判例29 大阪高裁R2.10.27(奈良地裁葛城支部R2.2.27)高裁レベルでも脅して送らせる行為を強要罪とするものは多く 弁護人が「強制わいせつ罪の告訴無しだ」という主張に対して、ことごとく「強要罪でいいのだ」と判断してきた。
仙台高裁H23.9.15(仙台地裁古川支部H23.5.10)
広島高裁岡山支部H22.12.15(岡山地裁H22.8.13)
大阪高裁H22.6.18(神戸地裁H21.12.10)
東京高裁H27.12.22(新潟地裁高田支部H27.8.25)
大阪高裁R2.10.27 (奈良地裁葛城支部R2.2.27)
大阪高裁r2.10.2(奈良地裁葛城支部R02.2.27)
名古屋高裁沢支部H27.7.23(富山地裁高岡支部h27.3.3)
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(福井地裁h27.1.8)
広島高裁h28.3.10(広島地裁H27.10.2)最近でも、脅迫して撮影送信させた行為について、性的意味合いを認めつつ、強制わいせつ罪には足りないとした高裁判例もでている。
大阪高裁は、「このような行為がその性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず」と言いましたよね。大阪高裁r2.10.2(奈良地裁葛城支部R02.3.30)裁判例28
すなわち,原判決が認定した原判示第1及び第3の各事実の要旨は,被告人が各被害者に対し,それぞれ脅迫文言を記載したメッセージを送信するなどして脅迫し,これによって被害者らを畏怖させ,被害者らに裸の姿態をとらせて自らこれを撮影させた上,その画像ないし動画データを被告人の携帯電話機に送信させ,又は送信させようとしたが未遂にとどまったというものであるところ,なるほどこれらの事実中には,各被害者を脅迫し畏怖させた上,同人らに裸の姿態をとらせて自ら撮影させ,又はさせようとしたという点では,性的な意味合いを持つ行為が含まれている。
しかし,このような行為がその性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず,その該当性を判断するに当たっては,当該事案における具体的状況等に則して強制わいせつ罪に係る構成要件を充足するに足る事実があるか否かを総合的に考慮する必要があることに加え,この大阪高裁判決も、こういう罪となるべき事実では、強制わいせつ罪を充たさない・なんか足りないという。
奈良地裁葛城支部R02.3.30
第3 と共謀の上,年月21日から同月23日までの間
県内又はその周辺において,被告人が,(当時歳)に対し,被告人の携帯電話機から前記「インスタグラム」及びアプリケーションソフト「カカオトーク」を使用し,同の携帯電話機に,「あのさ,動画撮ろうよ?これバレたら大変でしょ?ブロックしたらいろんな人に見せちゃうからね?」などと記載したメッセージ及び同人の裸の画像データを順次送信し,~~これらのメッセージを閲覧させて脅迫し,同人をして,もしこの要求に応じなければ,既に被告人に送信させた同浅野の裸の画像データを不特定多数人に頒布するなど同の名誉等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させ,よって,同日,府内の同人方において,5回にわたり,同人に,その乳房,陰部等を露出した姿態をとらせ,これを同人の携帯電話機のカメラ機能で撮影させた上,同人の乳房等を撮影させた動画データ5点を,同「カカオトーク」を使用して,被告人の携帯電話機に送信させ,撮影済の画像を流布するという脅迫方法からして、本件と同じであって、葛城支部R02.3.30が葛城支部の事実認定では強制わいせつ罪に足りないというのであれば、本件原判決の罪となるべき事実も強制わいせつ罪に足りないし、原判決は訴因外の事実を援用して強制わいせつ罪を認定していることになる。
その共犯者の共犯者の控訴審では強要罪と強制わいせつ罪とを分ける事情は「訴因外の事情」とされている。
大阪高裁R2.10.27(奈良地裁葛城支部R2.2.27)裁判例29
1 被告人の行為が強要罪ではなく,強制わいせつ罪にあたることを前提とした主張
弁護人は,原判示第1及び第4は,強制わいせつ罪を構成し,強要罪は成立しないから,強要罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
そこで検討すると,検察官は,広範な訴追裁量権を有しており,当該事案につき,立証の難易等を考慮して,強制わいせつ罪ではなく,強要罪として公訴を提起することが可能であり,このような場合,公訴の提起を受けた裁判所は,訴因である強要罪の成否のみを審判の対象とすべきであり,それにつき別途強制わいせつ罪が成立するかどうかといった,訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきものではない。
そうすると,原判決が,原判示第1及び第4につき,強制わいせつ罪が成立するか否かにつき立ち入ることなく,検察官が起訴状の罪名で特定した強要罪の成否についてのみ認定判断した上,刑法223条1項(原判示第4につき,さらに刑法60条)を適用したことは正当であって,法令適用の誤りはない。大阪高裁R2.10.27は、この事実では、強制わいせつ罪は充たさない・なんか足りない・訴因外事実を持ってくるなというのだが、
奈良地裁葛城支部R2.2.27
(罪となるべき事実)
被告人は
第1 年月13日,県内において,■■■■(当時歳)に対し,アプリケーションソフト「インスタグラム」を使用して,「お願いだよ。kのいう通りして。それともママにばらしていい?」などと記載したメッセージを順次送信し,その頃,同■■にこれらのメッセージを閲覧させて脅迫し,同人をして,もしこの要求に応じなければ,既に被告人に送信させた同■■の裸の画像データを同人の母親に頒布して同■■の名誉にいかなる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させ,よって,その頃,府内の同人方において,2回にわたり,同人に,その乳房,陰部等を露出した姿態をとらせ,これを同人の携帯電話機のカメラ機能で撮影させた上,同人の乳房等を撮影させた画像データ2点を,同「インスタグラム」を使用して,被告人の携帯電話機に送信させ,撮影済の画像を流布するという脅迫方法からして、本件と同じであって、大阪高裁R2.10.27が葛城支部の事実認定では強制わいせつ罪に足りないというのであれば、本件原判決の罪となるべき事実も強制わいせつ罪に足りないし、原判決は訴因外の事実を援用して強制わいせつ罪を認定していることになる。