児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

10歳児童へのわいせつ行為は、強制わいせつ罪(176条後段)であって青少年条例違反(わいせつ行為)は成立しない

択一的か観念的競合かという問題なんですが、強制わいせつ罪だけでいいような気がするのです。

 10歳へのわいせつ行為は強制わいせつ罪(刑法176条後段)にほかならないから、この行為は強制わいせつ罪である。

 刑法の処罰範囲と青少年条例の処罰範囲とは重複しないから、この場合は、青少年条例は適用されない。

 判例に従えば、条例の「わいせつ行為」とは広く青少年に対する「わいせつ行為」一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う「わいせつ行為」のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような「わいせつ行為」をいうものと解するのが相当である。

 さらに、例えば大阪府条例をみると、強制わいせつ罪(176条前段)では意思に反してわいせつ行為を行う程度の暴行脅迫が要件となっていることと比べると、条例の場合は「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う「わいせつ行為」のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような「わいせつ行為」」だとして被害者の自由意思がある程度残っている場合というのであるから、強制わいせつ罪(意思に反してわいせつ行為を行う程度の暴行脅迫が必要とされる)との重複を避けるために、わいせつ行為が限定されていることが明らかである。
大阪府青少年健全育成条例の運用について(大阪府警例規

 強制わいせつ行為の禁止は、国法が受け持つ分野である(福井地裁S48.11.20)。

福井地裁S48.11.20 
ところで、刑法一七六条、一七七条および一七八条は、一三歳以上の婦女に対する姦淫ないしわいせつ行為は、暴行、脅迫または婦女子の心神喪失ないし抗拒不能に乗ずる等してした場合のみを処罰の対象としているが、これは、一定限度以上精神的・肉体的に発達した者の間の性行為は人間本来の自然の情愛に基づくものとして当事者間の自由な意思に任せられるべきものであつて、明らかに合理的な必要性のある場合に限り、またその範囲を明確にして刑法が禁止し、処罰することを定めている場合以外の性行為は教育、道徳等により規制することは別として、刑法上は処罰の対象外としていることを意味するものと解するのが相当である。
 ところで、本件条例がいう「みだらな性行為」とは結婚を前提としない単なる欲望を満すためにのみ行う性行為がこれに当ると解されるから、一三歳以上の青少年に対するものに限り、本件条例の記規定は、刑法上犯罪とされない行為を禁止し、その違反に対し刑罰を科するものであることは明白である。
 たしかに、刑法の強姦罪または強制わいせつ罪は、主として個人の性的自由ないし貞操を保護法益とするのに対し、本件条例は、「青少年の健全な育成および保護」を目的とするがゆえに、その趣旨目的を異にするところがあるといえるが、その反面右本件条例は、右刑法と同じく親告罪とされているところからもわかるように、やはり、個人の性的自由ないし貞操をもその保護の対象としていることは否定しえないのであつて、このように個人の性的自由ないし貞操のごとき個人的法益をも保護法益とする規定は、広く国民個人個人に等しく直接に関係のある事項であるといえるから、地方公共団体が各個別に規制すべき性質のものではなく、専ら国法により規制すべき領域であると解するのが相当である。

釧路家庭裁判所帯広支部決定昭和48年2月9日
家庭裁判月報25巻9号149頁
文理的に検討しても前記一二条の三には「性交」、「性的行為」等単に事実を指示する文言ではなく「いん行」または「わいせつな行為」という否定的価値判断を含む文言が使用されていることに照らし、青少年を対象とする性行為または性的行為のすべてが前記条例により規制されるものとは解しえない。
 むしろ前述のような性行為における個人意思尊重の必要性、青少年の健全育成の目的、幅広い青少年の定義や一二条の三の文言、他の法規による性行為の規則等を総合すれば本条例にいう「いん行またはわいせつな行為」とは、(1)青少年が性行為の意味や結果について判断能力を有しない状態にあることを利用し、または強姦罪、強制わいせつ罪に該当しない程度の暴行、強迫や威迫、欺罔、支配的立場にあることを利用するなどの手段による等何らかの形で青少年の性的自由を侵害する性行為および性行為以外の性的行為もしくは(2)対価の授受や第三者の観覧に供することを目的とし、あるいは多数人を相手方とする乱交の一環としてなされたものである等反倫理性の顕著な性行為および性行為以外の性的行為をさすものと解するのが相当である。

最高裁判所大法廷判決昭和60年10月23日
裁判官伊藤正己の反対意見
 二 次に問題となるのは国法との抵触である。いうまでもなく、条例は「法律の範囲内で」制定することが許されるのであるから(憲法九四条。地方自治法一四条一項は、「法令に違反しない限りにおいて」制定できるとする。)、国の法令と矛盾抵触する条例は
無効である、もとより、いかなる場合にこの矛盾抵触があるとすべきかは、微妙な判断となることが少なくない。ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がないからといつて、当然に条例がこれについて規律することが許されることにはならないし、また特定事項について国の法令と条例が併存するときにも、矛盾抵触があると考えられない場合もある。条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の規律対象や文言を対比するのみでなく、それぞれの目的、内容及び効果を比較して決定されることになる(最高裁昭和四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日大法廷判決・刑集二九巻八号四八九頁参照)。
 ところで、淫行処罰規定に関連のある国の法令として、児童に淫行をさせる行為に重罰を科する児童福祉法の規定及び売春の相手方を不可罰としている売春防止法もあるが、ここでは刑法の強姦罪の規定を検討することとしたい(なお、条例の淫行処罰規定にいう青少年とは男女を問わないものであるが、実質上年少の婦女を主眼とするものであるこどは疑いをいれないところであるから、それを前提として考えてみる。)。
 刑法一七七条及び一七八条の規定によれば、一三歳未満の婦女については、いかなる手段方法によるかを問わず、また完全な合意がある場合であつても、これを姦淫することを強姦罪とするとともに、一三二歳以上の婦女については、暴行、脅迫をもつて又は抗拒不能や心神喪失に乗ずるなどの所定の手段方法によつてこれを姦淫した場合に限定して、強姦罪に当たるとされている。これは一三歳に満たない婦女は性行為の意義を理解することができず、その同意の能力を欠くものとされるからであるが、無限定に姦淫を処罰することを相当とする年齢の上限を何歳とすべきかは、国法のレベルにおける裁量によるもので、その変更は法律をもつてしなければならないことは明らかであろう

文献も同趣旨である。

執務資料 福祉犯罪の捜査 三訂版 p71
風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版P68

 これを青少年条例違反とするときは、特に、強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨を没却する。被害者が処罰を望まない場合、法廷で事実が明らかになることを望まない場合にも、青少年条例違反で処罰され、公判に持ち出されることになって、被害者の意思に反する。

 また、青少年条例は、一応性的承諾能力があるもののそれが未熟であることを補う趣旨で、青少年の性行為を規制する趣旨であるから、性的承諾能力を備えていることを前提にしていると解されるところ、12歳以下の場合については、そもそも、そのような能力はないから、国法によって強制がなくても強姦・強制わいせつ罪として重く処罰することとされているところであり、青少年条例は適用の前提を欠くし、法定刑の点でも機能しない(性犯罪規定と並行して適用されることを予定していない。)