児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

13歳未満の者に対する青少年条例違反(青少年淫行罪)

 こういう条例なんです。「青少年」ではなく「少年です」

http://reiki.pref.kumamoto.jp/reiki/Li05_Hon_Dsp.exe?PAGE=0&UTDIR=D:\EFServ2\ss000043B6\H00000001&SYSID=397&FNM=q4010555042204011.html&NAMETAG=J13_K2#J13_K2
熊本県少年保護育成条例
第4条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) 少年 小学校就学の始期から満18歳に達するまでの者(婚姻した女性を除く。)をいう。
(2) 保護者 親権を行う者、未成年後見人、児童福祉施設の長、寄宿舎の舎監、雇よう主その他の者で少年を現に監護する者をいう。
(みだらな性行為及びわいせつ行為の禁止)
第13条 何人も、少年に対し、みだらな性行為又はわいせつ行為をしてはならない。
2 何人も、少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
第24条 次の各号の一に該当する者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
(1) 第13条第1項の規定に違反した者

 12歳に対する福岡県青少年条例違反(わいせつ)についてこういう主張をしたことがある。

法令適用の誤り〜強制わいせつ罪(176条後段)を構成する場合、青少年条例違反(わいせつ行為)は成立しない
1 はじめに
 判示の事実が認定されるとしても12歳へのわいせつ行為は強制わいせつ罪(刑法176条後段)にほかならないから、この行為は強制わいせつ罪である。

 刑法の処罰範囲と青少年条例の処罰範囲とは重複しないから、この場合は、青少年条例は適用されない。

2 条例の「わいせつ行為」とは
 こういう規定である。

福岡県青少年健全育成条例
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/18/18178_90683_misc.pdf
第5 章青少年の健全育成を阻害するおそれのある行為の規制
( いん行又はわいせつな行為の禁止)
第31条何人も、青少年に対し、いん行又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。

 「わいせつ」の定義は刑法と同じである。

 例えば大阪府条例をみると、強制わいせつ罪(176条前段)では意思に反してわいせつ行為を行う程度の暴行脅迫が要件となっていることと比べると、条例の場合は「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う「わいせつ行為」のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような「わいせつ行為」」だとして被害者の自由意思がある程度残っている場合というのであるから、強制わいせつ罪(意思に反してわいせつ行為を行う程度の暴行脅迫が必要とされる)との重複を避けるために、わいせつ行為が限定されていることが明らかである。
大阪府青少年健全育成条例の運用について(大阪府警例規 少第74号)



 また、撮影行為も「わいせつ行為」に含まれる。
大阪府青少年健全育成条例の運用について(大阪府警例規 少第74号)

 福岡県の手引きでも、刑法等では処罰できない行為を補完的に処罰する趣旨だと解説されている。
福岡県青少年健全育成条例の手引き 平成18年10月

3 国法と条例の関係
 条例の趣旨が「法律で規制できない行為についての補完的な性格」であるとすると、強制わいせつ行為の禁止は、ひとえに国法が受け持つ分野である(福井地裁48.11.20*1)。

福井地裁48.11.20
 ところで、刑法一七六条、一七七条および一七八条は、一三歳以上の婦女に対する姦淫ないしわいせつ行為は、暴行、脅迫または婦女子の心神喪失ないし抗拒不能に乗ずる等してした場合のみを処罰の対象としているが、これは、一定限度以上精神的・肉体的に発達した者の間の性行為は人間本来の自然の情愛に基づくものとして当事者間の自由な意思に任せられるべきものであつて、明らかに合理的な必要性のある場合に限り、またその範囲を明確にして刑法が禁止し、処罰することを定めている場合以外の性行為は教育、道徳等により規制することは別として、刑法上は処罰の対象外としていることを意味するものと解するのが相当である。
 ところで、本件条例がいう「みだらな性行為」とは結婚を前提としない単なる欲望を満すためにのみ行う性行為がこれに当ると解されるから、一三歳以上の青少年に対するものに限り、本件条例の記規定は、刑法上犯罪とされない行為を禁止し、その違反に対し刑罰を科するものであることは明白である。
 たしかに、刑法の強姦罪または強制わいせつ罪は、主として個人の性的自由ないし貞操を保護法益とするのに対し、本件条例は、「青少年の健全な育成および保護」を目的とするがゆえに、その趣旨目的を異にするところがあるといえるが、その反面右本件条例は、右刑法と同じく親告罪とされているところからもわかるように、やはり、個人の性的自由ないし貞操をもその保護の対象としていることは否定しえないのであつて、このように個人の性的自由ないし貞操のごとき個人的法益をも保護法益とする規定は、広く国民個人個人に等しく直接に関係のある事項であるといえるから、地方公共団体が各個別に規制すべき性質のものではなく、専ら国法により規制すべき領域であると解するのが相当である。

釧路家庭裁判所帯広支部決定昭和48年2月9日
家庭裁判月報25巻9号149頁
文理的に検討しても前記一二条の三には「性交」、「性的行為」等単に事実を指示する文言ではなく「いん行」または「わいせつな行為」という否定的価値判断を含む文言が使用されていることに照らし、青少年を対象とする性行為または性的行為のすべてが前記条例により規制されるものとは解しえない。
 むしろ前述のような性行為における個人意思尊重の必要性、青少年の健全育成の目的、幅広い青少年の定義や一二条の三の文言、他の法規による性行為の規則等を総合すれば本条例にいう「いん行またはわいせつな行為」とは、(1)青少年が性行為の意味や結果について判断能力を有しない状態にあることを利用し、または強姦罪、強制わいせつ罪に該当しない程度の暴行、強迫や威迫、欺罔、支配的立場にあることを利用するなどの手段による等何らかの形で青少年の性的自由を侵害する性行為および性行為以外の性的行為もしくは(2)対価の授受や第三者の観覧に供することを目的とし、あるいは多数人を相手方とする乱交の一環としてなされたものである等反倫理性の顕著な性行為および性行為以外の性的行為をさすものと解するのが相当である。

最高裁判所大法廷判決昭和60年10月23日
裁判官伊藤正己の反対意見
 二 次に問題となるのは国法との抵触である。いうまでもなく、条例は「法律の範囲内で」制定することが許されるのであるから(憲法九四条。地方自治法一四条一項は、「法令に違反しない限りにおいて」制定できるとする。)、国の法令と矛盾抵触する条例は
無効である、もとより、いかなる場合にこの矛盾抵触があるとすべきかは、微妙な判断となることが少なくない。ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がないからといつて、当然に条例がこれについて規律することが許されることにはならないし、また特定事項について国の法令と条例が併存するときにも、矛盾抵触があると考えられない場合もある。条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の規律対象や文言を対比するのみでなく、それぞれの目的、内容及び効果を比較して決定されることになる(最高裁昭和四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日大法廷判決・刑集二九巻八号四八九頁参照)。
 ところで、淫行処罰規定に関連のある国の法令として、児童に淫行をさせる行為に重罰を科する児童福祉法の規定及び売春の相手方を不可罰としている売春防止法もあるが、ここでは刑法の強姦罪の規定を検討することとしたい(なお、条例の淫行処罰規定にいう青少年とは男女を問わないものであるが、実質上年少の婦女を主眼とするものであるこどは疑いをいれないところであるから、それを前提として考えてみる。)。
 刑法一七七条及び一七八条の規定によれば、一三歳未満の婦女については、いかなる手段方法によるかを問わず、また完全な合意がある場合であつても、これを姦淫することを強姦罪とするとともに、一三二歳以上の婦女については、暴行、脅迫をもつて又は抗拒不能や心神喪失に乗ずるなどの所定の手段方法によつてこれを姦淫した場合に限定して、強姦罪に当たるとされている。これは一三歳に満たない婦女は性行為の意義を理解することができず、その同意の能力を欠くものとされるからであるが、無限定に姦淫を処罰することを相当とする年齢の上限を何歳とすべきかは、国法のレベルにおける裁量によるもので、その変更は法律をもつてしなければならないことは明らかであろう

 文献も同趣旨である。

執務資料 福祉犯罪の捜査 三訂版 p71
罪数
みだらな性行為等が刑法における強姦、強制わいせつ罪にも該当するときは、刑法のみが適用される。

風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版P68


 これを青少年条例違反とするときは、まず、強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨を没却する。被害者が処罰を望まない場合、法廷で事実が明らかになることを望まない場合にも、青少年条例違反で処罰され、公判に持ち出されることになって、被害者の意思に反する。

 また、青少年条例は、一応性的承諾能力があるもののそれが未熟であってなお健全育成に有害となるおそれがあることを補う趣旨で、青少年との性行為を規制する趣旨であるから、青少年が性的承諾能力を備えていることを前提にしていると解されるところ、12歳以下の場合については、そもそも、そのような能力はないから、国法によって強制がなくても強姦・強制わいせつ罪として重く処罰することとされているところであり、青少年条例は適用の前提を欠くし、法定刑の点でも機能しない(性犯罪規定と並行して適用されることを予定していない。)
 福岡高裁S57.3.29もそのような判示をしている。

福岡高等裁判所S57.3.29
最高裁判所刑事判例集39巻6号462頁
本件被害者(当時一六歳)が「青少年」として本条例の保護を受ける者であることには疑いがない。問題はむしろこれらの者就中婚姻適齢に達した女子に対する合意に基づく性行為が、同条例一〇条一項にいう淫行から除外されるかどうかにあると思われるが、一八歳未満の青少年が心身ともに未成熟な段階にあること、従つてこの様な青少年は、たとえ性行為をすることを自ら欲し若しくはこれに同意したとしても、未だ思慮分別に乏しいため、一時的な感情にかられたり、甘言や誘惑、強引さなどに負けたりした結果であることが多く、これが青少年に対し悪影響を与え、社会にとつて最も大切な青少年の健全な育成に障害となることは明らかであること等に思いを致せば、単に青少年が性行為(性交)に合意していたという事情があるだけでは、これを淫行から除外することは相当でない。また以上の点は青少年が婚姻適齢に達したと否とにかかわらず当てはまることであり(民法七三七条は未成年者の婚姻については父母の同意を必要としており、これを不要という所論は右規定を見落したものと思われる。なおすでに婚姻した青少年には本条例が適用されないことは同条例三条一項かつこ書内の規定の明示するところであり、その他婚姻に準ずる内縁関係や父母の同意を得て婚約中の青少年との間の性行為などは淫行とは言えないであろう。)、以上のように解釈することが、民法七三一条、憲法一三条、三一条等に違反するとは考えられない。論旨は理由がない。

4 被告人の行為は強制わいせつ罪に該当し、青少年条例違反には該当しない
 以上を前提にすると、公訴事実にしても、原判決判示第1の事実にしても、(「単に自己の性的欲望を満たす目的で」というのは強制わいせつ罪における心理的傾向を意味しており)いずれも強制わいせつ罪を構成するから、青少年条例違反には当たらない。

 それに対する高裁の判断はちょっと苦しい。モザイク状に青少年条例が適用される場面もあるという。

福岡高裁H21.9.16
第3 法令適用の誤りの主張について
1原判示第1についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第1及び第6)について
(1)弁護人は,?13歳未満の者に対するわいせつな行為を刑法176条後段の強制わいせつ罪よりも軽く処罰する本件条例違反の罪は,憲法94条,地方自治法4条1項に違反し無効である,?本件条例違反の罪は,刑法176条後段の強制わいせつ罪を補完する規定であると解され,被告人の原判示第1の行為は同罪に当たるから,本件条例違反の罪を適用した1審判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあると主張する。
(2)まず,?の主張については,刑法176条後段の強制わいせつ罪は,13歳未満の者の性的自由を保護するとともに,性的な情操を保護することによって,青少年の健全育成を図る趣旨であると解され,青少年の健全な育成を目的とする本件条例違反の罪とその趣旨を共通にする面を有しているが,他方で,たとえ13歳未満の者に対してわいせつな行為に及んだ場合であっても,行為者において,相手の年齢を13歳以上18歳未満であると誤信していたときは,刑法176条後段の強制わいせつ罪の故意を欠くため同罪は成立せず,本件条例違反の罪のみが成立することになる。そして,このような場合について,13歳未満の者の保護を図っている刑法が,行為者を同法176条後段の強制わいせつ罪よりも軽い法定刑を定めた本件条例違反の罪で処罰することを禁止しているとは解されないから,本件条例違反の罪が憲法94条,地方自治法14条1項に違反し無効であるはいえない。
(3)次に,?の主張については,本件条例違反の罪が刑法176条後段の強制わいせつ罪を補完する規定であるとしても,刑事訴訟法が採用する当事者主義的訴訟構造下では,審判の対象である訴因をどのように構成するかは,検察官の合理的裁量に委ねられているから,検察官は,13歳未満の者に対するわいせつな行為をした行為者について,事案の内容や立証の難易,その他諸般の事情を考慮して,刑法176条後段の強制わいせつ罪ではなく,本件条例違反の罪として訴因を構成して起訴することは当然許されると解される(なお,本件条例違反の罪は,強制わいせつ罪と異なり,親告罪ではないが,13歳未満の者に対するわいせつな行為の事案において,被害者やその法定代理人である親権者等が,被害者の名誉等への配慮から事件が公になることを望まず,告訴しなかったり,あるいは告訴を取り下げた場合に,検察官が行為者を本件条例違反の罪で起訴することは現実的には想定しがたいから,13歳未満の者に対するわいせつな行為を本件条例違反の罪として起訴することを許容しても,強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨が没却されるとはいえない)。
これを本件について見ると,被告人は,刑法176条後段の強制わいせつ罪等の罪で逮捕,勾留されたこと,しかし,捜査段階の当初は,被害児童の年齢に関する認識について,・・・。このような被告人の捜査段階での供述状況その他の証拠関係等に照らすと,検察官は,被害児童の年齢に関する被告人の認識の立証が必ずしも容易でないこと等を考慮し,刑法176条後段の強制わいせつ罪ではなく,本件条例違反の罪として訴因を構成し,被告人を起訴したと推察され,そのような検察官の公訴提起に関する裁量権の行使には合理性があったと認められる。また,被告人は,原審公判ではさらに供述を変遷させていることをも併せ考えると,原判決が,被告人に対して,検察官が起訴した本件条例違反の罪の成立を認めたことに,法令適用の誤りがあるとは到底いえない。
(4)以上のとおり,原判示第1について法令適用の誤りをいう弁護人の主張は理由がない。

小学生にみだらな行為をした疑い=熊本  読売新聞社 2010年8月31日(火)
 八代署は30日、A・Bの両容疑者を県少年保護育成条例違反の疑いで逮捕した。発表によると、3月31日未明、八代市内のホテルで、当時小学6年生だった県内の少女(12)に、18歳未満であることを知りながら、みだらな行為をした疑い。7月に少女が同署に相談して発覚した。B容疑者は「ホテルには行ったが、みだらな行為はしていない」と容疑を否認しているという。

児童ポルノを製造した疑いで男を追送検=熊本 読売新聞社2010.09.14 
 八代署は13日、A(県少年保護育成条例違反で逮捕)を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで熊本地検に追送検したと発表した。発表によると、3月31日未明、八代市内のホテルで、小学6年生だった少女(12)の裸をビデオカメラで撮影した疑い。「自分で楽しむためだった」と話しているという。