原審は家裁事件。弁護人は小声でブツブツ「管轄おかしいよ〜」と唱えましたが、児童淫行罪と3項製造罪(姿態とらせて製造)を観念的競合として、管轄認めています。
少年法
第37条(公訴の提起)
次に掲げる成人の事件については、公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
一 未成年者喫煙禁止法(明治三十三年法律第三十三号)の罪
二 未成年者飲酒禁止法(大正十一年法律第二十号)の罪
三 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第五十六条又は第六十三条に関する第百十八条の罪、十八歳に満たない者についての第三十二条又は第六十一条、第六十二条若しくは第七十二条に関する第百十九条第一号の罪及び第五十七条から第五十九条まで又は第六十四条に関する第百二十条第一号の罪(これらの罪に関する第百二十一条の規定による事業主の罪を含む。)
四 児童福祉法第六十条及び第六十二条第五号の罪
五 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十条及び第九十一条の罪
2 前項に掲げる罪とその他の罪が刑法(明治四十年法律第四十五号)第五十四条第一項に規定する関係にある事件については、前項に掲げる罪の刑をもつて処断すべきときに限り、前項の規定を適用する。
「観念的競合」の文字がある東京高裁H17と、併合罪とした大阪高裁H18があって、どっちにしても判例違反。
逃げ道として、児童ポルノ罪を家裁でも管轄できるという選択も考えられるんですが、それはできないという高裁判決が2件くらいあって、三方塞がり。
追記
次の裁判例はいずれも奥村弁護士事件。くどくどと観念的競合説を主張した結果。
なるほど東京高裁h17は、観念的競合ぽいですね。かすがいになることを前提にして量刑で工夫してますから。
この罪数判断には、弁護人も検察官も驚いた。
東京高裁H17.12.26
本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に起訴された訴因は,平成年日から平成月日までの間の前後6回にわたる児童ポルノの製造を内容とするものであり,他方,別件淫行罪について家庭裁判所に起訴された訴因は,平成年月日の被害児童に淫行させる行為を内容とするものであって,これらの両訴因を比較対照してみれば,両訴因が科刑上一罪の関係に立っとは認められないことは明らかである。
所論は,本件児童ポルノ製造の際の淫行行為をいわばかすがいとして,本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが一罪になると主張しているものと解される。ところで,本件児童ポルノ製造罪の一部については,それが児童淫行罪に該当しないと思われるものも含まれるから(別紙一覧表番号1及び4の各一部,同番号5及び6),それについては,別件淫行罪とのかすがい現象は生じ得ない。
他方,本件児童ポルノ製造罪のなかには,それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば,性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号1の一部,同番号2及び3)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり,また,その児童淫行発と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は,併合罪ではなく,包括的一罪と解するのが,判例実務の一般である。),かすがいの現象を認めるのであれば,全体として一罪となり,当該児童ポルノ製造罪については,別件淫行罪と併せて,家庭裁判所に起訴すべきことになる。
かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが,その当否はおくとして,かかる場合でも,検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで,当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に,別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば,そのような措置も是認できるというべきである。一般的に言えば,検察官として,当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって,すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和59年1月27日第一小法廷決定・刑集38巻1号136頁,最高裁平成15年4月23日大法廷判決刑集57巻4号467貢)。そして,児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて,法定刑の上限はもとより,量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると,検察官が児童淫行罪の訴因について,証拠上も確実なものに限るのはもとより,被害児童の心情等をも考慮して,その一部に限定して起訴するのは,合理的であるといわなければならない。また,そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。ただ,そうした場合には,児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが別々の裁判所に起訴されることになるから,所論も強調するように,併合の利益が失われたり,二重評価の危険性が生じて,被告人には必要以上に重罰になる可能性もある。そうすると,裁判所としては,かすがいになる児童淫行罪が起訴されないことにより,必要以上に被告人が量刑上不利益になることは回避すべきである。
でも、同じ被告人の同じ行為を家裁から捉えた高裁判決は併合罪だという。保護法益も考慮するんだとか。かすがいにならないという。
地裁事件と家裁事件があって、別々に控訴されて、併合されないものだから、一連の行為の評価について、控訴審判決は2個ある。
東京高裁h18.1.10
しかしながら,被告人の本件被害女子児童に対する各所為のうち,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の罪に該当するとして地方裁判所に起訴された訴因は,本件当日以外の児童ポルノの製造行為を内容とするものであって,児童福祉法違反の淫行をさせる行為を内容とするものではなく,他方,本件の原審である家庭裁判所に起訴された訴因は,本件当日の淫行をさせる行為を内容とするものである。これら二つの訴因を比較対照しても,両訴因が科刑上一罪の関係に立つと解することができる契機は存在せず,両罪の保護法益の違いにもかんがみると,両訴因は併合罪の関係に立つものと考えられる。そして,これと同旨の罪数判断を踏まえてなされたとみられる本件の各起訴は,それぞれの管轄のある裁判所に別々になされたものであって,そもそも併合審理や弁論の併合ができないものである以上,それらが被告人から併合の利益を奪うものでないことは多言を要しない。また,上記第1でみたとおり,本件の起訴は,本件当日の淫行をさせる行為を内容とするものであって,継続反復する淫行をさせる行為を審判対象とするものでなく,ましてや強姦ないしは強制わいせつの罪にあたる行為を審判対象とするものでないことは明らかである。論旨はいずれも前提を欠き採用できない。
やはり、観念的競合説だと、二重起訴とか二重処罰とかでややこしいですよね。そもそも安易に観念的競合は認めない。
で大阪高裁は、性行為と撮影とは1個の行為じゃないというに至っています。
大阪高裁h18.10.11
論旨は,①原審である家庭裁判所(以下単に「家裁」という。)に起訴された児童に淫行をさせる罪に係る行為である児童との性交等とその場面を撮影した児童ポルノ製造罪を構成する行為とは1個の行為であるから両罪は観念的競合であり,地方裁判所(以下単に「地裁」という。)に起訴された13歳未満の児童に対する強姦罪とその場面を撮影した行為に係る児童ポルノ製造罪も同様に観念的競合である,そして,地裁に起訴された児童ポルノ製造罪に係る行為である画像データをDVD等に記録させた行為と上記の撮影行為とは包括して児童ポルノ製造罪となり,製造した児童ポルノを提供した行為に係る児童ポルノ提供罪及びわいせつ図画頒布罪とは牽連犯となる,さらに,複数の児童に係る児童ポルノ提供罪及びわいせつ図画頒布罪は包括一罪となるから,結局,被告人について家裁及び地裁に起訴された全ての罪が一罪となり, その中で最も重いのは地裁に起訴された強姦罪であるから,少年法37条2項 により児童に淫行をさせる罪も地裁に管轄があるのであって,家裁で審理し判決した原判決には不法に管轄を認めた違法があり,検察官が一罪の関係にある児童に淫行をさせる罪と児童ポルノ製造罪等を家裁と地裁に別々に起訴したのは憲法39条の禁止する二重起訴に当たるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある・・・というのである。
所論にかんがみ記録を調査して検討する。
まず,①の主張について検討する。原判示の児童に淫行をさせる罪に係る行為である被告人らと児童との性交等とその場面を撮影した行為とは,時間的には重なっているものの,法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下では,社会通念上1個のものと評価することはできないから,両者は併合罪の関係にあるというべきである。論旨はその前提を欠き,理由がない。
刑法総論としては、併合罪説ですよね。原則に戻ってきたところ。
児童ポルノ法は特別法だし、悪質だから処断刑期の幅も広く欲しいですよね。