児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

同一日時場所における児童淫行罪+製造罪を家裁と地裁に起訴して、一方が確定した場合の法律関係

 判例のパズルみたいなもので、夏休みの自由研究。

 児童淫行罪と製造罪が観念的競合という前提で、

 家裁事件:7/27 ホテル甲における被害児童Aに対する児童淫行罪→未確定(一審実刑
 地裁事件:7/27 ホテル甲における被害児童Aに対する児童ポルノ製造罪→確定(執行猶予)

という訴訟係属になったときの裁判所の対応を考えています。まあこういう起訴をしちゃって、弁護人も看過して、裁判所も疑いなく判決してしまった。
 一事不再理なので家裁事件は免訴になるんじゃないかと。
 途中で気付くと、どっちかにまとめられて、両方服役することになりますが、軽い方を先に確定させた方がいいかもしれない。
 
 こういう判例があります。
 科刑上一罪である場合でも、一事不再理については「前訴及び後訴の各訴因のみを基準としてこれらを比較対照することにより行う」ということにして、窃盗というのは、常習累犯でも
  1/1 大阪府甲宅窃盗 財布窃取
  2/1 兵庫県乙宅窃盗 宝石窃取
というばらばらの行為なので、訴因対照じゃわからないので、一事不再理の関係では一罪とは扱わないというのです。

最高裁判所第3小法廷判決/平成14年(あ)第743号
平成15年10月7日
【参考文献】最高裁判所刑事判例集57巻9号1002頁
      判例タイムズ1139号57頁
      判例時報1843号3頁
【評釈論文】現代刑事法6巻6号88頁
      ジュリスト臨時増刊1269号202頁
      法学セミナー49巻2号123頁
 2 常習特殊窃盗罪は,異なる機会に犯された別個の各窃盗行為を常習性の発露という面に着目して一罪としてとらえた上,刑罰を加重する趣旨の罪であって,常習性の発露という面を除けば,その余の面においては,同罪を構成する各窃盗行為相互間に本来的な結び付きはない。したがって,実体的には常習特殊窃盗罪を構成するとみられる窃盗行為についても,検察官は,立証の難易等諸般の事情を考慮し,常習性の発露という面を捨象した上,基本的な犯罪類型である単純窃盗罪として公訴を提起し得ることは,当然である。
 そして,実体的には常習特殊窃盗罪を構成するとみられる窃盗行為が単純窃盗罪として起訴され,確定判決があった後,確定判決前に犯された余罪の窃盗行為(実体的には確定判決を経由した窃盗行為と共に一つの常習特殊窃盗罪を構成するとみられるもの)が,前同様に単純窃盗罪として起訴された場合には,当該被告事件が確定判決を経たものとみるべきかどうかが,問題になるのである。
 この問題は,確定判決を経由した事件(以下「前訴」という。)の訴因及び確定判決後に起訴された確定判決前の行為に関する事件(以下「後訴」という。)の訴因が共に単純窃盗罪である場合において,両訴因間における公訴事実の単一性の有無を判断するに当たり,饒両訴因に記載された事実のみを基礎として両者は併合罪関係にあり一罪を構成しないから公訴事実の単一性はないとすべきか,それとも,饌いずれの訴因の記載内容にもなっていないところの犯行の常習性という要素について証拠により心証形成をし,両者は常習特殊窃盗として包括的一罪を構成するから公訴事実の単一性を肯定できるとして,前訴の確定判決の一事不再理効が後訴にも及ぶとすべきか,という問題であると考えられる。
 思うに,【要旨】訴因制度を採用した現行刑訴法の下においては,少なくとも第一次的には訴因が審判の対象であると解されること,犯罪の証明なしとする無罪の確定判決も一事不再理効を有することに加え,前記のような常習特殊窃盗罪の性質や一罪を構成する行為の一部起訴も適法になし得ることなどにかんがみると,前訴の訴因と後訴の訴因との間の公訴事実の単一性についての判断は,基本的には,前訴及び後訴の各訴因のみを基準としてこれらを比較対照することにより行うのが相当である。
 本件においては,前訴及び後訴の訴因が共に単純窃盗罪であって,両訴因を通じて常習性の発露という面は全く訴因として訴訟手続に上程されておらず,両訴因の相互関係を検討するに当たり,常習性の発露という要素を考慮すべき契機は存在しないのであるから,ここに常習特殊窃盗罪による一罪という観点を持ち込むことは,相当でないというべきである。
 そうすると,別個の機会に犯された単純窃盗罪に係る両訴因が公訴事実の単一性を欠くことは明らかであるから,前訴の確定判決による一事不再理効は,後訴には及ばないものといわざるを得ない。
 以上の点は,各単純窃盗罪と科刑上一罪の関係にある各建造物侵入罪が併せて起訴された場合についても,異なるものではない。
 なお,前訴の訴因が常習特殊窃盗罪又は常習累犯窃盗罪(以下,この両者を併せて「常習窃盗罪」という。)であり,後訴の訴因が余罪の単純窃盗罪である場合や,逆に,前訴の訴因は単純窃盗罪であるが,後訴の訴因が余罪の常習窃盗罪である場合には,両訴因の単純窃盗罪と常習窃盗罪とは一罪を構成するものではないけれども,両訴因の記載の比較のみからでも,両訴因の単純窃盗罪と常習窃盗罪が実体的には常習窃盗罪の一罪ではないかと強くうかがわれるのであるから,訴因自体において一方の単純窃盗罪が他方の常習窃盗罪と実体的に一罪を構成するかどうかにつき検討すべき契機が存在する場合であるとして,単純窃盗罪が常習性の発露として行われたか否かについて付随的に心証形成をし,両訴因間の公訴事実の単一性の有無を判断すべきであるが(最高裁昭和42年(あ)第2279号同43年3月29日第二小法廷判決・刑集22巻3号153頁参照),本件は,これと異なり,前訴及び後訴の各訴因が共に単純窃盗罪の場合であるから,前記のとおり,常習性の点につき実体に立ち入って判断するのは相当ではないというべきである。

 じゃあ、これはどうするか?

 家裁事件:7/27 ラブホテル甲における被害児童Aに対する児童淫行罪→未確定
 地裁事件:7/27 ラブホテル甲における被害児童Aに対する児童ポルノ製造罪→確定

 訴因対照によっても、日時・場所・被害児童・犯人は一緒ですよね。姿態とらせた=淫行行為に他ならず、証拠を見れば、児童ポルノをみると、児童淫行行為が写っているわけです。
 まとめて家裁で処理している事例もあるくらいです。

某家裁
(罪となるべき事実)
被告人は,平成20年7月27日 ホテル甲において,被害児童A(15際)が満18歳に満たない児童であることを知りながら, 同児童をして,被告人を相手に性交させ, 又は口淫させるなどの性交類似行為をさせ,もって,児童に淫行をさせるとともに, 同児童をして,同児童による性交等に係る同児童の各姿態をとらせ,これをデジタルビデオカメラで撮影して,それら姿態を視覚により認識することができる電磁的記録媒体であるミニデジタルビデオカセットに描写し,もって同児童に係る児童ポルノを製造した。
(法令の適用)
 被告人の判示所為のうち,児童に淫行をさせた点は,包括して児童福祉法60条1項,34条1項6号に,児童ポルノを製造した点は,包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項,1項,2条3項1号にそれぞれ該当するところ,児童に淫行をさせた点と児童ポルノを製造した点は、それぞれ1個の行為が 2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い児童福祉法違反の罪の刑で処断することとし,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役 年に処し・・・

 控訴してみたら、控訴審も詳細に説明して、科刑上一罪だといってます。児童淫行=姿態をとらせだというのです。
 これじゃあ、設例では児童淫行罪の家裁の事実に製造罪の事実のうち「姿態をとらせ」が含まれていて、オーバーラッピングしていることになる。

札幌高裁H19.3.8
第1 管轄違い及び法令適用の誤りの控訴趣意について(控訴理由第4)
論旨は,要するに,本件児童ポルノ製造罪と本件児童淫行罪とは併合罪であって,本件児童ポルノ製造罪の管轄は地方裁判所であるのに,これを観念的競合であるとして本件児童ポルノ製造罪について家庭裁判所に管轄を認めた原判決には不法に管轄を認めた違法があり,また,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
そこで,検討するに,製造の各行為、は,児童に淫行させながら,その児童の姿態を撮影したというものであり,児童淫行罪であるとともに児童ポルノ製造罪に該当する。これらの児童に淫行させる行為とその姿態を撮影する行為は,法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で,行為者の動態が社会見解上一個のものと評価されるものであるから,一個の行為で二個の罪名に触れる場合に当たり,観念的競合の関係にあると解される。原判決は,これと同旨の判断に基づき,児童淫行罪を専属管轄とする家庭裁判所として本件を処理したものであって,不法に管轄を認めた違法ないし法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。

第3事実誤認ないし法令適用の誤りの控訴趣意について
1 被告人は本件児童ポルノ製造罪に関して「姿態をとらせ」ていないとの控訴趣意について(控訴理由第1及び第2)論旨は,要するに,被告人は,児童との口淫等の性交類似行為ないし性交(以下,「性交等」という)の姿態を撮影しているが,児童に姿態をとらせておらず,児童ポルノ製造罪は無罪であるのに,姿態をとらせたと認めて有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認ないし法令適用の誤りがある,というのである。
そこで,検討するに,児童ポルノ法7条3項の「姿態をとらせ」とは,行為者の言動等により,当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい,強制を要しないと解されるところ,関係証拠によれば,被告人は,児童と性交等を行っているが,これらの行為は通常当事者双方の言動により行為に至るものであって,本件においても,被告人が警察官に対し,「」と述べているように,被告人は,自ら積極的に児童に性交等の行為を行い,あるいは,児童の性交等の行為に応じる言動をしているのであって,この被告人の言動等により児童は性交等の姿態をとるに至ったと認められる。被告人が児童に「姿態をとらせ」たことは明らかである。
なお,所論は,姿態をとらせる行為は,児童ポルノ製造に向けられた行為であるから,その時点において児童ポルノ製造の目的を要するが,被告人には,その時点において児童ポルノ製造の目的がない,という。しかし,被告人は,児童に性交等の姿態をとらせ,それを録画しているのであるから,正に,児童ポルノ製造行為に向けて姿態をとらせたというべきである。所論は採用できない。
その他所論がるる主張する点を考慮検討しても,姿態をとらせたことを認めた原判決に事実の誤認ないし法令適用の誤りはなく,論旨は理由がない。

 大阪高裁H18.9.21は、製造罪(撮影)が起訴されていない場合、製造罪(編集複製)と児童淫行罪とは日時場所が違うから、併合罪であって公訴事実の同一性がないというが、設例の事案では、日時場所が同じで、製造罪(撮影)と児童淫行罪が起訴されているのであるから、公訴事実の同一性を肯定せざるを得ない。

阪高裁H18.9.21
そこで,記録を調査して検討するに,本件児童ポルノ製造罪の訴因(訴因変更後のもの)は,平成16年7月14日ころから同17年3月3日ころまでの間,18歳に満たない児童合計12名を相手方とする性交等に係る姿態等を撮影した画像データを,DVD等に記録させて児童ポルノを製造したというものであり,他方,別件淫行罪の訴因をも平成13年3月中旬ころから同17年3月7日までの間,18歳に満たない児童合計13名を相手方として口淫,性交等をさせ,もって児童に淫行をさせる行為をしたというものであるところ,確かに,両罪のうち,ABCDEFGHIJの10名については被害児童が共通しており,かつ,関係証拠によれば,これらの児童については,別件淫行罪におけるその画像データを基に本件児童ポルノ製造罪における児童ポルノを製造したという事実関係も認められる。しかし,被害児童を共通にする両罪の上記訴因を比較しても,両訴因が自然的観察の下に社会的見解上1個の行為と見ることはできないし,その罪質上の通例として,手段結果の関係にあると見ることもできないから,両罪は科刑上一罪の関係にあるとは認められず,また,もとより両訴因の公訴事実が同一であるとも認められない。論旨は,いずれもその前提を欠くというべきである。
これに対し,所論は,児童淫行とその際の児童ポルノ製造としての撮影行為とは,社会的見解上1個の行為と見ることができ,両罪は観念的競合となり,かつ,同一の児童ポルノにおける撮影行為と編集,複製行為は包括一罪と評価されるから,結局以上は−罪となるところ,両罪の各公訴事実の記載を見れば,本件においても撮影行為が起訴されていると考えられるし,仮に起訴されていないとしても、一般に児童ポルノ製造罪における犯罪にの確信は撮影行為にあり、実際に撮影行為が処罰されていないという例は本件以外にはなく,本件児童ポルノ製造罪において撮影行為を起訴しなかった検察官の措置は裁量を逸脱するものであり,検察官の合理的意思解釈として,別件淫行罪の訴因に当該淫行の際の撮影行為も読み込むべきことになるから,本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪との罪数関係を判断する場合には,両罪のかすがいとなる撮影行為の存在を前提とすべきである,と主張する。
しかしながら,両罪の訴因は前記のとおりであって,児童淫行の際の撮影行為が訴因として構成されていないことは明らかである(なお,所論は,各起訴状記載の公訴事実を見れば,両事件とも撮影行為が訴因に掲げられていると考えられる,と主張する。確かに,各起訴状記載の公訴事実には,被告人が児童との性交場面等の撮影をしていたことをうかがわせる記載が散見されるが,いずれもその日時・場所,具体的行為の特定を欠くことや,全体の記載,掲げられた罰条に照らして,これらが訴因として構成されていないことは明らかである。)。また,刑訴法が訴因制度を採用し,検察官に起訴を独占させるとともに,その起訴についての広範な裁量権を認めていることに照らせば,検察官が,立証の難易等諸般の事情を考慮して,児童に対する撮影,編集,複製という一連の児童ポルノ製造行為の中で,複製行為のみを訴追する行為が明らかに不合理ということもできないし,検察官の合理的意思解釈として,別件淫行罪の訴因に当該淫行の際の撮影行為を読み込むこともできない(なお,所論は,検察官が撮影行為を起訴しなかった理由として,本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とのかすがいとなる撮影行為をあえて起訴しないことにより,両罪を一罪ではなく,別罪として処理させようとの意図による,と主張するが,本件全証拠によっても,そのような検察官の意図は認め難い。)。結局,訴因として構成されていない撮影行為の存在を前提にして,両罪の罪数関係を判断することはできないのであって,この所論は採用できない。
所論はまた,本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪との間には公訴事実の同一性があるから,その撮影行為の起訴の有無にかかわらず,二重起訴に当たる,とも主張する。しかしながら,両訴因は,同一被害者に対するものであっても,日時及びその行為態様(児童淫行と,その際に撮影された画像データの複製行為)を全く異にしており,両者は互いに両立し得る関係にあって,基本的事実関係を異にすることは明らかである。したがって,両訴因の間に公訴事実の同一性を認めることはできず,この所論も採用できない。論旨は理由がない。

 東京高裁H18.1.10は、1/1の児童淫行(起訴されない余罪として2/1も淫行)の家裁事件と、2/1の製造罪の地裁事件について(かすがい外しで起訴されたんですね!)、製造罪(撮影)と児童淫行罪とは日時場所が違うから、併合罪であって公訴事実の同一性がないというんですが、設例の事案では、日時場所が同じで、製造罪(撮影)と児童淫行罪が起訴されているのであるから、公訴事実の同一性を肯定せざるを得ない。

東京高裁H18.1.10
論旨は,要するに,被告人の同一被害女子児童に対する児童ポルノ製造の罪と本件淫行の罪とは科刑上一罪の関係にあるからいずれも家裁に起訴すべきところ,検察官は一罪の一部を地裁に起訴し,一部を家裁に起訴してあえて併合の利益を奪うような起訴をしており,かかる起訴は公訴権の濫用として無効であるにもかかわらず,原判決には公訴を棄却することなく実体判決をした違法があるばかりか,被告人の行為についてのみ併合の利益を奪って重い量刑をした憲法14条違反の違法がある,また,本件の審判対象を継続反復する淫行をさせる行為と解すると,被害女子児童は初期において性交の何たるかを理解しておらず被告人は宗教行為を仮装して淫行をさせる行為に及んだのであるから,被告人の行為の実質は強姦ないしは強制わいせつの行為とみられるのであって,告訴を欠いている本件では起訴が違法であり,管轄もないのであるから,原審にはいずれにしても不適法な公訴を受理したかその訴訟手続に法令違反の違法があるというのである。
しかしながら,被告人の本件被害女子児童に対する各所為のうち,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の罪に該当するとして地方裁判所に起訴された訴因は,本件当日以外の児童ポルノの製造行為を内容とするものであって(当審検1号証),児童福祉法違反の淫行をさせる行為を内容とするものではなく,他方,本件の原審である家庭裁判所に起訴された訴因は,本件当日の淫行をさせる行為を内容とするものである。これら二つの訴因を比較対照しても,両訴因が科刑上一罪の関係に立つと解することができる契機は存在せず,両罪の保護法益の違いにもかんがみると,両訴因は併合罪の関係に立つものと考えられる。そして,これと同旨の罪数判断を踏まえてなされたとみられる本件の各起訴は,それぞれの管轄のある裁判所に別々になされたものであって,そもそも併合審理や弁論の併合ができないものである以上,それらが被告人から併合の利益を奪うものでないことは多言を要しない。また,上記第1でみたとおり,本件の起訴は,本件当日の淫行をさせる行為を内容とするものであって,継続反復する淫行をさせる行為を審判対象とするものでなく,ましてや強姦ないしは強制わいせつの罪にあたる行為を審判対象とするものでないことは明らかである。論旨はいずれも前提を欠き採用できない。

 東京高裁H17.12.26は実は東京高裁H18.1.10と同じ被告人の他方の事件ですが(1/1の児童淫行(起訴されない余罪として2/1も淫行)の家裁事件と、2/1の製造罪の地裁事件について)、製造罪(撮影)と児童淫行罪とは日時場所が違うから、併合罪であって公訴事実の同一性がないというんですが、設例の事案では、日時場所が同じで、製造罪(撮影)と児童淫行罪が起訴されているのであるから、公訴事実の同一性を肯定せざるを得ない。

東京高裁H17.12.26
1管轄違い及び二重起訴並びに憲法14条違反をいう各論旨について(控訴理由第1ないし第3)
その論旨は,要するに,本件児童ポルノ製造罪と同一被害児童に対する淫行罪(以下,「別件淫行罪」という。)とは科刑上一罪の関係にあるとして,これを併合罪として本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に管轄を認めた原判決には不法に管轄を認めた適法があり,また,別件淫行罪が既に家庭裁判所に起訴されているのであるから、地方裁判所に対する本件起訴は二重起訴であり,原判決には不法に公訴を受理した違法があり,さらに,被告人の行為についてのみ併合審理の利益を奪い,合算による不当に重い量刑をした原判決には憲法14条1項違反の違法があるというのである。
しかしながら,本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に起訴された訴因は,平成16年12月2日から平成17年2月17日までの間の前後6回にわたる児童ポルノの製造を内容とするものであり,他方,別件淫行罪について家庭裁判所に起訴された訴因は,平成17年3月26日の被害児童に淫行させる行為を内容とするものであって,これらの両訴因を比較対照してみれば,両訴因が科刑上一罪の関係に立っとは認められないことは明らかである。
所論は,本件児童ポルノ製造の際の淫行行為をいわばかすがいとして,本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが一罪になると主張しているものと解される。ところで,本件児童ポルノ製造罪の一部については,それが児童淫行罪に該当しないと思われるものも含まれるから(別紙一覧表番号1及び4の各一部,同番号5及び6),それについては,別件淫行罪とのかすがい現象は生じ得ない。
他方,本件児童ポルノ製造罪のなかには,それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば,性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号1の一部,同番号2及び3)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり,また,その児童淫行発と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は,併合罪ではなく,包括的一罪と解するのが,判例実務の一般である。),かすがいの現象を認めるのであれば,全体として一罪となり,当該児童ポルノ製造罪については,別件淫行罪と併せて,家庭裁判所に起訴すべきことになる。
かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが,その当否はおくとして,かかる場合でも,検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで,当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に,別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば,そのような措置も是認できるというべきである。一般的に言えば,検察官として,当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって,すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和59年1月27日第一小法廷決定・刑集38巻1号136頁,最高裁平成15年4月23日大法廷判決刑集57巻4号467貢)。そして,児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて,法定刑の上限はもとより,量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると,検察官が児童淫行罪の訴因について,証拠上も確実なものに限るのはもとより,被害児童の心情等をも考慮して,その一部に限定して起訴するのは,合理的であるといわなければならない。また,そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。ただ,そうした場合には,児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが別々の裁判所に起訴されることになるから,所論も強調するように,併合の利益が失われたり,二重評価の危険性が生じて,被告人には必要以上に重罰になる可能性もある。そうすると,裁判所としては,かすがいになる児童淫行罪が起訴されないことにより,必要以上に被告人が量刑上不利益になることは回避すべきである。
そこで,児童ポルノ製造罪の量刑に当たっては,別件樫行罪との併合の利益を考慮し,かつ,量刑上の二重評価を防ぐような配慮をすべきである。そう解するのであれば,かすがいに当たる児童淫行罪を起訴しない検察官の措置も十分是認することができる。したがって,憲法14条違反の主張を含め,所論はいずれも採用できない。

 かすがいの児童淫行罪を起訴してしまったら、それも訴追裁量でしょうが、その場合は「かすがいの現象を認めるのであれば,全体として一罪となり,当該児童ポルノ製造罪については,別件淫行罪と併せて,家庭裁判所に起訴すべきことになる。」というのです。
 設例の場合は、一事不再理効によって、家裁は免訴になるでしょうね。被告人は執行猶予になります。