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(申立550万円 認容額440万円)強姦致傷・刑事損害賠償命令(東京地裁令和元年6月21日)

行為否認

損害賠償請求事件
東京地方裁判所
令和元年6月21日民事第1部判決
       判   決
1 東京地方裁判所平成30年(損)第23号刑事損害賠償命令事件の仮執行宣言付損害賠償命令を認可する。
2 異議申立て後の訴訟費用は被告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 主文と同旨
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告による強姦致傷の被害を受けたと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償金440万円及びこれに対する不法行為の日である平成29年4月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原告は,上記強姦致傷を公訴事実とする刑事事件において,不法行為に基づき,被告に対し,550万円の支払を求める刑事損害賠償命令の申立てをし,裁判所は,このうち440万円の限りで一部認容する仮執行宣言付損害賠償命令を行ったところ,被告が異議の申立てをした。また,原告は,上記仮執行宣言付損害賠償命令を受け,移行後の民事訴訟手続において,請求の趣旨を主文と同旨のものに変更し,請求の減縮を行った。
2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)原告及び被告は,平成29年4月22日午後11時24分頃から同月23日午前1時頃までの間,原告の自宅(以下「原告宅」という。)において性交渉を持った(以下「本件性交渉」という。)。
(2)原告は,同日,順天堂大学医学部附属浦安病院を受診し,全治まで約5日間を要する顔面打撲,右膝内出血及び外傷性頸部症候群と診断された。(甲8)
(3)被告は,同年11月10日,本件性交渉につき,原告に対する強姦致傷を公訴事実として,東京地方裁判所に起訴された(同裁判所平成29年合(わ)第251号,甲1。以下「本件刑事事件」という。)。被告は,平成30年6月19日,東京地方裁判所において,原告に対する強姦致傷罪により懲役7年の有罪判決の宣告を受け(甲6),東京高等裁判所に控訴したが,同年12月13日,控訴棄却の判決がなされ(同裁判所平成30年(う)第1473号,甲10),同判決は同月28日に確定した。
(4)ア 原告は、平成30年5月31日,本件刑事事件において,被告に対して,損害賠償金550万円及び遅延損害金の支払を求める損害賠償命令の申立て(東京地方裁判所平成30年(損)第23号)をした。
イ 東京地方裁判所は,同年8月20日,上記アの申立てについて,被告が原告に対し,440万円及びこれに対する平成29年4月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容する仮執行宣言付損害賠償命令を行ったところ,被告が,平成30年9月4日,異議を申し立てたため,本訴訟事件に移行した。(顕著な事実)
ウ 原告は,上記イの仮執行宣言付損害賠償命令を受け,平成31年1月17日付け「請求の減縮申立書」により,請求額を440万円とする請求の減縮を行い,また,同年2月5日付け「請求の減縮申立書訂正申立書(兼訴え変更申立書)」により,請求の趣旨を主文と同旨のものに変更した。(顕著な事実)
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)被告による強姦致傷の被害の存否(争点1)
(原告の主張)
 被告は,原告が,携帯電話をなくして困っていたことに乗じて,言葉巧みに原告宅に上がり込み,その後,原告にいきなり抱きついてベッドに押し倒し,原告の身体に覆いかぶさって口を塞いだ上,「静かにしろ。」などと言って,スカート及びパンツを引き下ろし,膣内に手指を入れ,さらに,原告が逃げようとすると,背後から抱きついて,目を手で塞ぐなどした上,ベッドに押し倒し,膣内に手指を入れながら「おとなしくしろ。」と言うなどの暴行脅迫を加えた上で,本件性交渉を行った。これにより,原告は,全治まで約5日間を要する顔面打撲等の傷害を負った。 
 以上のとおり,被告は,原告に対して強姦致傷に当たる行為を行ったものであり,不法行為が成立する。
(被告の主張)
 否認する。被告は,ナンパ目的で原告に声を掛けて知合い,原告宅に行き,その際,「付き合う?」などと言ったところ,原告の方から「恋人になってよ。」と言われ,合意の上で本件性交渉を持ったのであり,本件性交渉を持つ際に暴行や脅迫などは行っていない。
 原告の主張は,原告本人の本件刑事事件における供述を根拠とするものであるが,原告は,一度原告宅から逃げようとした際に台所付近で相当程度暴れて抵抗した旨供述するところ,台所の床に置かれた空のペットボトルは倒れておらず,客観的状況と整合しないなど,暴行脅迫の有無という核心部分について,客観的事実と反する供述を行っている。
 他方,被告の本件刑事事件における供述は,暴行脅迫に関する部分を除き,基本的には原告の供述と符合するのであり,また,被告が本件性交渉の後,証拠隠滅行為等を行うことなく日常どおりの生活を送っており,逮捕から刑事裁判の控訴審まで,一貫して同内容の主張を続けていることからすると,信用性が高いといえる。
 以上によれば,原告の供述を信用することはできず,被告が原告に強姦致傷に当たる行為を行ったということはできないから,不法行為は成立しない。
(2)損害の発生及び数額(争点2)
(原告の主張)
 原告は,被告の不法行為により,全治5日間の傷害を負い,また,精神的苦痛を被った。原告が被った精神的苦痛は,被告による不法行為そのものによる苦痛のみならず,念願の仕事を諦めざるを得なくなった苦痛,周囲の人間と信頼関係を築くことができなくなり,社会生活上支障が出ていることによる苦痛等も存在するのであり,これらを慰謝するには,400万円を下らない。
 また,原告は,本件に関し,弁護士に委任せざるを得なくなったのであり,被告の不法行為と因果関係のある弁護士費用相当損害金としては,40万円が相当である。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
 原告の主張する各種の症状や人間関係,仕事関係への支障等はいずれも抽象的なものである上,本件との因果関係を基礎付ける証拠はない。
 また,本件性交渉に至る経緯の中で,被告による欺罔や脅迫等は行われておらず,原告が負った傷害の程度も軽微であるし,原告は,現場である原告宅に,事件以降,居住を続けていたというのであり,これら事情からすれば,原告の受けた精神的損害の程度は,同種事案と比べると評価を異にするものというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告による強姦致傷の被害の存否)
(1)本件性交渉に至る経緯及びその後の経過について,原告は,本件刑事事件において,大要,以下の供述をする(甲2)。
 原告は,携帯電話をなくし,会う約束をしていた仕事関係者と連絡がとれなくなっていたところ,自宅の最寄り駅近くにある交番に遺失物届を出すため,同駅の改札を出たところで,被告及びその友人から声を掛けられ,携帯電話をなくしたことを伝えた。その後,交番に行って遺失物届を出した際に,警察官から,ノートパソコンをWi-Fiに繋げて連絡をとる方法があるなどとアドバイスを受けたため,ノートパソコンのある原告宅に帰ることとし,交番を出ると,被告から再び声を掛けられた。原告が,上記経緯を説明すると,被告は,自身の携帯電話のデザリング機能を使うよう提案してきた。原告は,当初断ったものの,被告の提案を受けることとして,被告に,自宅からパソコンを持ってくるので,ここで待つよう伝えたが,被告は,原告の話を聞かず,原告についていき,「住民の目もあるし,寒いから入らせて。」「エントランスまでしか入らないから。」などと述べ,結局,原告宅に入れることになった。原告宅においては,ベッドなどがある奥の部屋には入らず,玄関近くでインターネット接続作業を行ったが,結局,上記仕事関係者とは連絡が取れなかった。この間,被告は,しきりに奥の部屋に行きたがったため,原告は怖くなり,パソコンから,元交際相手に「たすけて」,「しらないひといてこわい」などのメッセージを送信したものの,すぐに返事はなかった。原告は,被告に帰ってもらおうと思い,その旨を伝えたところ,被告から,「チューしようよ。」と言われ,突然抱きつかれ,その後,両手で体を持ち上げられて奥の部屋まで連れて行かれ,ベッドに押し倒されて,身体に覆い被さられて口を塞がれた上,「静かにしろ。」などと言われ,スカート及びパンツを引き下ろされ,膣内に手指を入れられ,さらに,原告が逃げようとすると,背後から抱きつかれ,目を手で塞がれるなどされた上,再びベッドに押し倒され,膣内に手指を入れられ,「おとなしくしろ。」などと言われるなどして,本件性交渉が行われた。原告は,性交が中断した段階で,逃げ出そうと考え,一緒にシャワーを浴びようと提案し,一緒に浴室に入った。そして,原告は,「タオルを取ってくるから。」などと言って浴室から先に出ると,ショーツを履き,ルームウェア1枚だけを羽織った上で,裸足で自宅を飛び出し,前記交番に駆け込み,警察に被害を申告した。その後,病院に行き,前記前提事実(2)の診断を受けた。いずれの傷害も,本件性交渉の前には存在しないものであった。
(2)証拠(甲3,8)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件性交渉直後に,ショーツを履き,ルームウェア1枚のみを羽織り,裸足のまま交番に駆け込み,被害の申告をしたことが認められるところ,同事実は,上記(1)の原告の供述と符合するものであり,強姦被害直後の被害者の行動として,不自然なところはない。また,原告は,本件性交渉の直前に,元交際相手に対し,「たすけて」「しらないひといてこわい」などのメッセージを送信しているところ,同事実は,原告宅に被告を入れたものの,被告がしきりに奥の部屋に行こうとしたため怖くなったという供述と符合するものである。さらに,原告において,初対面の被告に対し,敢えて強姦被害について虚偽の申告をする動機は存在しない。
 以上によれば,原告の上記(1)の供述の信用性は高いというべきである。
(3)ア これに対し,被告は,〔1〕原告は,一度奥の部屋から逃げようとした際に被告に背後から捕えられ,奥の部屋に連れ戻される際に台所付近で相当程度暴れて抵抗した旨供述するが(甲2・証人尋問調書54頁),台所の床に置かれた空のペットボトルは倒れておらず,その他のものも倒れずに整然と並んだままであること,〔2〕上記抵抗の際は,付近に設置されていた洗濯機がずれるほどの力で抵抗した旨供述するが(甲2・証人尋問調書54頁),実況見分時の写真では,ずれているとはいえないこと(甲7),〔3〕本件性交渉中に鼻血が出た際にティッシュで拭った旨供述するが(甲2・証人尋問調書88頁),当該ティッシュは原告宅から発見されていないこと(甲7),〔4〕原告宅を出る際に,暖簾が外れていた旨供述しているが(甲2・証人尋問調書72頁),実況見分時には掛かっていたことなどを挙げ,原告の本件刑事事件における供述は,客観的事実に反し,信用できないなどと主張する。
 しかしながら,上記〔1〕については,ペットボトルに原告や被告の手足等が直接当たらなければ,倒れなくても不自然ではない。この点,被告は,原告の供述を前提とすれば,床や台所においてある物が倒れると考えるのが経験則に照らし相当であるなどと主張するが,原告の供述を前提としても,手足等が当たらない可能性があるのであって,被告の主張は採用できない。また,上記〔2〕について,原告は,被告に暖簾や洗濯機の位置を戻すよう述べた旨も供述しているのであり(甲2・証人尋問調書84頁),原告の供述は,実況見分時の写真と矛盾するものではない。さらに,上記〔3〕については,たしかに,甲7からは,実況見分時にティッシュが発見されていないとは認められるものの,他方で,掛け布団には,血痕ようのものの付着が認められるのであり,ティッシュが未発見であることは,本件性交渉の際に鼻血が出たという原告の供述の核心部分を否定するまでの事情であるということはできない。加えて,上記〔4〕については,そもそも,本件性交渉後の原告の供述内容を問題とするものであり,暴行脅迫の有無という原告の供述の中核部分の信用性を特段左右するものではない。
 このほか,被告は,本件刑事事件において,原告に虚偽供述の動機がないと評価したことは不当であるなどと主張するが,被告の指摘は抽象的なものであり,前記(2)で述べた被害申告の態様に照らしても採用し難い。
イ また,被告は,本件刑事事件における被告の供述は,暴行脅迫に関する部分を除き,基本的には原告の供述と符合するのであり,信用性が高いなどと主張する。
 しかしながら,被告の本件刑事事件における供述を前提とすると,原告は,元交際相手に対し,「たすけて」などとメッセージを送信したにもかかわらず,直後に心変わりをして被告と合意の上で本件性交渉を行い,その後,再び心変わりして,ショーツを履き,ルームウェア1枚だけを羽織って,裸足で外に出て,警察官に強姦の被害申告をしたことになるが,そのような可能性は考え難く,被告の供述は信用し難い。
 被告は,本件性交渉の後,証拠隠滅行為等を行うことなく日常どおりの生活を送っていること,一貫して同内容の主張を続けていることからすると,被告の供述は信用できるなどと主張するが,被告が本件性交渉後に日常通りの生活を送っていたとしても,原告と合意の上で本件性交渉を行ったことが裏付けられるわけではないし,一貫して同内容の主張を続けていたとしても,上記の供述内容の不合理性に照らせば,被告の供述は信用できない。そして,このような信用性に乏しい被告の本件刑事事件における供述をもって,原告の供述の信用性が左右されることはないというべきである。
(4)以上のとおり,原告の本件刑事事件における供述は信用性の高いものであり,これによれば,本件について,前記(1)の事実を認めることができ,原告は,被告から暴行脅迫を受け,同意なく本件性交渉が行われたと認められる。
 また,本件性交渉の前に,前記前提事実(2)記載の顔面打撲等の傷害は負っていなかったことからすると,上記の傷害は,本件性交渉に際して生じたものと認められるから,原告は,被告による強姦致傷の被害を受けたといえる。
2 争点2(損害の発生及び数額)
(1)慰謝料について
 被告による強姦致傷の態様,これにより原告の被った恐怖感や屈辱感及び社会生活上の支障の程度,その他本件全証拠及び弁論の全趣旨によって認められる本件不法行為に関する一切の事情を総合考慮すると,慰謝料として400万円を認めるのが相当である。
(2)弁護士費用相当損害金について
 本件訴訟の類型,難易度,認容額その他本件全証拠及び弁論の全趣旨によって認められる本件訴訟に関する一切の事情を考慮すると,弁護士費用相当損害金としては40万円を認めるのが相当である。
第4 結論
 以上によれば,原告の請求は理由があるから,全部認容すべきである。
 よって,被告に対して440万円及びこれに対する平成29年4月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じた仮執行宣言付損害賠償命令を認可することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官 前澤達朗 裁判官 中畑章生 裁判官 神本博雅

(申立額330万円・認容額220万円)強制わいせつ罪・刑事損害賠償命令(東京地裁令和2年12月8日)

強制わいせつは行為態様に強弱ありますので「平成24年8月5日未明,札幌市内の路上において,歩行中の原告に対し,正面から両肩を両手でつかんで住宅敷地内に連れ込み,頭部を両手で押さえつけ,無理やりせっぷんして口腔内に舌を入れた上,着衣の上から右胸及び陰部を左手で触った(以下「本件不法行為」という。)。」の場合、220万円という判断です。

損害賠償請求事件
東京地方裁判所
令和2年12月8日民事第30部判決
       主   文

1 本件につき札幌地方裁判所令和2年(損)第4号事件の仮執行宣言を付した損害賠償命令(主文第1項及びこれに係る第4項)を認可する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
1 主文第1項と同旨
2 被告は,原告に対し、前項の認可に係る金額のほか,110万円及びこれに対する平成24年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第2項につき,仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告から強制わいせつ行為をされたと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償(慰謝料,弁護士費用)及びこれに対する不法行為の日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 
2 前提事実
(1)被告は,平成24年8月5日未明,札幌市内の路上において,歩行中の原告に対し,正面から両肩を両手でつかんで住宅敷地内に連れ込み,頭部を両手で押さえつけ,無理やりせっぷんして口腔内に舌を入れた上,着衣の上から右胸及び陰部を左手で触った(以下「本件不法行為」という。)。(甲1,2,弁論の全趣旨)
(2)札幌地裁は,令和2年3月24日,本訴被告を被告人とする強制わいせつ被告事件(平成31年(わ)第149号,令和元年(わ)第392号)につき,罪となるべき事実として,本件不法行為ほか1件(深夜,歩道上において,いきなり本件原告とは別の女性である被害女性の背後から左肩越しに左手を伸ばして,左胸をわしづかみにして揉んだというもの。以下「別件不法行為」という。)の強制わいせつ行為を認定した上,懲役2年の判決を言い渡した。(甲1)
(3)原告は,札幌地裁に対し,前記「第1 請求」同旨の支払を求める旨の損害賠償命令を申し立て(同庁令和2年(損)第4号),札幌地裁は,令和2年3月30日,220万円及びこれに対する平成24年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で申立てを認め,仮執行宣言を付する旨の決定(以下「本件損害賠償命令」という。)をし,これに対し,被告が適法な異議を申し立てた。(当裁判所に顕著な事実)
3 主たる争点及び当事者の主張
 損害額
(原告の主張)
 本件不法行為の態様,原告に何ら帰責性がないこと,原告が被害後,男性や夜間外出に恐怖を抱くようになったこと,刑事事件への対応の負担を余儀なくされたこと,被告が刑事事件において本件不法行為を否認し,何らの慰謝の措置も講じていないこと,反省謝罪もなかったことなど,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,慰謝料額は300万円が相当である。
 そして,上記慰謝料額等の諸事情に照らせば,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は30万円とするのが相当である。
(被告の主張)
 原告の主張は,否認ないし争う。
 本件損害賠償命令が認めた慰謝料200万円及び弁護士費用20万円も,高額に過ぎる。
第3 当裁判所の判断
1 被告の行った本件不法行為は,未明に,犯行現場である住宅敷地に連れ込み,頭部を両手で押さえつけた上でわいせつ行為に及んだというものであるところ,原告に対し相応の強さの有形力が行使されており,さらに,わいせつ行為についても,無理矢理せっぷんして口腔内に舌を入れた上,着衣の上から右胸及び陰部を左手で触るという性的自由に対する侵害の程度が相応に高いものであったといえる。そして,本件不法行為が必然的に刑事裁判への対応等の負担を生じさせたこと等をも考慮すれば,原告の受けた精神的苦痛は,甲第2号証,第3号証にも表れているように,大きかったといえる。
 以上に鑑みれば,原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる金額としては200万円が相当である。そして,上記慰謝料額や,原告において執ることを余儀なくされた裁判手続の内容等の諸事情に鑑みれば,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は20万円とするのが相当である。
 被告は,札幌地裁令和2年(損)第3号刑事損害賠償命令事件を引き合いに出し,同事件で問題となった不法行為と本件不法行為とでは態様が異なるのに慰謝料額が同額であるのは不当であるなどと主張する。しかしながら,同種事犯であっても,事情は様々であるから,単純な比較は困難である。そもそも,上記札幌地裁令和2年(損)第3号事件における不法行為の内容自体,記録上明確ではないから,比較はなおさら困難である。仮に,これが別件不法行為をいうものと解した場合,むしろ,本件不法行為の方が別件不法行為よりも有形力行使の態様やわいせつ行為の態様において違法性が高いといい得るから,少なくとも,行為態様の比較において,本件不法行為の違法性が別件不法行為のそれよりも低いなどとは到底いえない。以上によれば,いずれにしても,被告の上記主張は理由がない。
2 結論
 よって,本訴請求は,220万円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があるからその限度で認容するのが相当なところ,この判断は本件損害賠償命令(主文第1項及びこれに係る第4項)と符合するのでこれを認可し,原告のその余の請求を棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第30部
裁判官 佐藤康平

(請求額1280万円・認容額440万円)強制わいせつ罪・刑事損害賠償命令(東京地裁平成21年12月7日) 

「被告は,個人レッスンの際に,原告に対し,キスをする,全裸にさせる,乳房をもむ,乳首をなめる,陰部付近を触る,陰部に指を入れる,全裸の写真を撮るなどのわいせつ行為を繰り返した。(甲7,8,13) (3) 平成18年10月中旬ころ,被告の自宅での個人レッスンの際,被告は,原告を怒鳴るなどして脅して全裸にさせた上で,原告に対し,乳房をもむ,乳首を触る,乳首をなめる,陰部付近を触る,陰部に指を入れる,自己の陰茎を原告に握らせるなどのわいせつ行為を行った」という一連のわいせつ行為について440万円認容されています。

主文
 1 被告は,原告に対し,440万0600円及びこれに対する平成18年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用はこれを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
 
 
事実及び理由

第1 請求
 被告は,原告に対し,1280万9360円及びこれに対する平成18年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 事案の要旨
 本件は,原告が,平成17年12月から平成18年10月までの間,クラリネットの個人レッスンの講師である被告から,個人レッスンの際に,キスをする,着衣を脱がせて全裸にする,乳房をもむ,乳首をなめる,陰部付近を触る,陰部に指を入れる,被告の陰茎を握らせるなどのわいせつ行為を受けたなどとして,不法行為に基づき1280万9360円及びこれに対する不法行為日の後である平成18年10月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
 なお,本件は,刑事損害賠償命令事件が,民事訴訟に移行した事件であるが,原告は,本件訴訟において,請求の原因を変更し,刑事被告事件の訴因となった事実以外の事実を含めた被告の一連のわいせつ行為について不法行為に基づく損害賠償を請求している。
 2 前提事実(以下の各事実は,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
  (1) 当事者
   ア 原告は,平成18年当時,神奈川県立a高校(以下「a高校」という。)の高校生であり,吹奏楽部に在籍していた。(甲7,弁論の全趣旨)
   イ 被告は,b音楽大学を卒業し,ハンガリーの音楽院への留学経験もあるプロのクラリネット奏者であり,原告がa高校吹奏楽部に在籍していた当時,同部の外部講師を務めていた。(甲4,7)
  (2) 原告は,音楽大学へ進学するために,平成17年11月から平成18年11月までの間,被告からクラリネットの個人レッスンを受けていたが,被告は,個人レッスンの際に,原告に対し,キスをする,全裸にさせる,乳房をもむ,乳首をなめる,陰部付近を触る,陰部に指を入れる,全裸の写真を撮るなどのわいせつ行為を繰り返した。(甲7,8,13)
  (3) 平成18年10月中旬ころ,被告の自宅での個人レッスンの際,被告は,原告を怒鳴るなどして脅して全裸にさせた上で,原告に対し,乳房をもむ,乳首を触る,乳首をなめる,陰部付近を触る,陰部に指を入れる,自己の陰茎を原告に握らせるなどのわいせつ行為を行った(以下,上記(2)及び(3)の被告の一連のわいせつ行為を指すときは「本件各わいせつ行為」という。)。(甲1,2,4,7,8,13)
  (4) 平成18年11月,原告は被告の個人レッスンを止め,音楽大学の受験をすることもあきらめ,高校卒業後は短期大学に進学した。(甲8,10)
  (5) 平成19年12月10日,原告は,原告の父親に対し,被告から本件各わいせつ行為を受けていたことを打ち明け,平成20年10月ころ,警視庁昭島警察署長に対し,前記(3)の被告の行為が強制わいせつ罪に当たるとして被告を告訴した。その後,被告は逮捕・勾留され,平成21年2月10日,同行為について,強制わいせつ罪で東京地方裁判所八王子支部に起訴された。被告は,公訴事実について認め,同年4月21日,東京地方裁判所立川支部において懲役3年の実刑判決を受け,同判決は確定した。
 なお,原告は,平成21年3月27日,犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律17条1項に基づき,東京地方裁判所八王子支部に対し,損害賠償命令の申立てを行った(同支部平成21年(損)第4号)が,第2回審尋期日において,4回以内の審理期日では審理を終結することが困難であるとして,同法32条1項により,同事件を終了させる旨の決定がされ,本件訴訟へ移行した。(以上につき,甲1ないし4,10,弁論の全趣旨)
 3 争点
  (1) 損害額
  (2) 過失相殺の可否
 4 争点についての当事者の主張
  (1) 争点(1)(損害額)について
 (原告の主張)
   ア 慰謝料 1000万円
 本件各わいせつ行為によって原告が負った精神的損害は甚大であり,その額は1000万円を下らない。
   イ 財産的損害
 (ア) 個人レッスン代 55万6000円
 原告は,平成17年11月から平成18年11月まで被告の個人レッスンを受けていたが,被告が行ったのはわいせつ行為であり,個人レッスンとはいえないから,被告に支払った個人レッスン代は原告の被った損害である。そして,原告は,平成17年は1か月3回ないし4回のペースで,平成18年は平均すると1か月5回のペースで個人レッスンに通い,1回の個人レッスンにつき,平成17年は8000円,平成18年は1万円を被告に支払っていた。したがって,原告の支払った金額の合計(なお,平成18年11月分の個人レッスン代は除く)は,8000円×7(平成17年11月は3回,同年12月は4回で計算)+1万円×5×10か月=55万6000円であり,これは原告の被った損害である。
 (イ) クラリネット代 40万円
 原告は,本件各わいせつ行為により,クラリネットを吹くことはもちろん,見ることもできなくなってしまった。
 したがって,クラリネットの購入代金40万円は原告の被った損害である。
 (ウ) クラリネットパーツ(リード)代 36万円
 クラリネットを演奏するにはリードと呼ばれる部品が必要で,原告は,1箱2000円以上するリードを1か月に少なくとも5箱以上購入していた。しかし,これらのリード代は,原告がクラリネットを吹くことができなくなってしまったため,すべてが無駄になった。
 したがって,3年分のリード代36万円(2000円×5×12×3=36万円)は原告の被った損害である。
 (エ) 交通費 8万4360円
 被告のレッスンは,被告の自宅又は厚木市内のカラオケボックスで行われた。原告の自宅から被告の自宅までの往復交通費は1回当たり1560円であり,厚木市内のカラオケボックスまでの往復交通費は1回当たり800円である。被告の自宅での個人レッスンは合計51回,カラオケルームでの個人レッスンは合計6回であったから,個人レッスンに通うための交通費の合計は,1560円×51+800円×6=8万4360円である。
 そして,前記(ア)のとおり,被告が行ったのは個人レッスンとはいえないのであるから,レッスンに通うために要した往復交通費は原告の被った損害である。
 (オ) カラオケボックス使用料 9000円
 カラオケボックスでの個人レッスンは合計6回行われたが,カラオケボックス使用料は1回当たり1500円ないし2000円であり,原告は少なくとも合計9000円の使用料を支払った。この使用料も交通費と同様の理由から原告の被った損害である。
   ウ 弁護士費用 140万円
 原告は,本件各わいせつ行為について,告訴,刑事裁判への被害者参加,損害賠償命令の申立て,本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人弁護士に依頼し,損害額の1割を弁護士費用として支払うことを約した。よって,上記損害額の合計の約1割である140万円は原告の被った損害である。
 (被告の主張)
 いずれも争う。
   ア 慰謝料について
 原告は,本件各わいせつ行為の結果,重度の精神障害を負ったという事情もない。強制わいせつ行為よりも法定刑が重く,かつ,肉体的・精神的苦痛もはるかに大きいと評価される強姦の事案であっても,慰謝料は300万円程度であり,強姦の事案でもない本件各わいせつ行為について,慰謝料が1000万円というのは極めて高額にすぎる。本件各わいせつ行為による精神的苦痛に対する慰謝料としては,弁護士費用を含め高くとも200万円程度であると評価するのが相当である。
   イ クラリネット代について
 原告は,被告の個人レッスンを開始する以前にクラリネットを購入していたのであるから,本件各わいせつ行為と原告のクラリネット購入との間に因果関係はなく,クラリネットの購入代金は,本件各わいせつ行為により生じた損害ではない。
   ウ 個人レッスン代,交通費,カラオケボックス使用料について
 原告は,本件各わいせつ行為が継続している間も,自らの意思で個人レッスンを受けることを希望し,被告から個人レッスンを受けていたのであるから,本件各わいせつ行為と個人レッスン代等との間に因果関係は認められない。
 仮に,本件各わいせつ行為と個人レッスン代等との間に因果関係があると評価されるとしても,被告が原告に対し個人レッスンを行った回数は,約30回程度であったのであるから1か月につき5回程度のレッスンを行っていたことを前提としてレッスン代を計算することは誤りである。
   エ 弁護士費用について
 本件訴訟は刑事裁判の証拠を援用して行われるのであり,弁護士が行うべき特段の作業はないのであるから,本件各わいせつ行為と相当因果関係のある弁護士費用は高く見積もっても20万円程度が相場であり,140万円は高額にすぎる。
  (2) 争点(2)(過失相殺の可否)について
 (被告の主張)
 被告は,個人レッスンにおいて,原告に対し,被告から本件各わいせつ行為をされるのが嫌であればレッスンを止めてもいいこと,その場合は他の指導者を紹介することを伝えていた。原告は当時高校生であり,十分に常識的な行動をとることができる年齢であったのであるから,被告の本件各わいせつ行為を受け入れたくなければ,別の指導者を紹介してもらうなどして被告の個人レッスンを拒否することは十分に可能であった。
 原告は,被告に対して個人的な恋愛感情を抱いたことから本件各わいせつ行為に至ったのであるが,原告が明確に拒否の意思表示をしなかったために,被告は,本件各わいせつ行為を継続することになってしまったのである。
 原告と被告との間の師弟関係は,原告が被告から完全に支配されていたというものではなく,わいせつ行為を拒否することが不可能であったというような特段の事情もないのであるから,原告にも落ち度があったというべきであり,その原告側の過失割合としては3割が相当である。
 (原告の主張)
 被告は,原告に対し,最初の個人レッスンの際に,「音大を目指すなら俺の言うことを全部聞け」,「俺の言うことが聞けないなら止めろ」などと述べ,個人レッスン中は,最初から最後まで怒鳴り,譜面台を蹴り,譜面を破り,原告のふくらはぎを蹴り,胸ぐらをつかみ,髪の毛をわしづかみにするなどの暴行を加えていた。また,被告は,レッスンの際,原告に対し,自らの携帯電話に保存していた原告の全裸の写真を突きつけ,練習をしなければ他人に同写真を見せると脅迫もしていた。さらに,被告は,音大受験に迷いが生じたと打ち明けた原告に対し,憤慨し,「俺がお前と費やした時間を無駄にするのか」と怒鳴り続けた。
 かかる状況の下で,原告は,被告に止めたいと申し出たら被告からまた怒鳴られるという恐怖心,原告を応援して高いレッスン代を払ってくれる両親に対する罪悪感,被告のレッスンをやめたら吹奏楽部にすら所属していられないかもしれないという孤独感や絶望感から,止めたいという気持ちを押し殺し,被告の個人レッスンを受け続けていたのである。
 したがって,原告に,本件各わいせつ行為を拒否する選択肢などなかったことは明らかであり,原告に何ら落ち度は存在しない。
第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
 掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
  (1) 被告による個人指導を受けるようになる経緯
   ア 原告は,中学時代に吹奏楽部でサックスを担当し,このころからプロの音楽家になりたいと考えるようになった。そのため,吹奏楽部が盛んであったa高校を受験して,平成16年4月,同校に入学した。原告は,同校に入学後すぐに吹奏楽部に入部し,当時,同部の外部講師を務めていた被告から部活動の際に指導を受けるようになった。被告は,吹奏楽部において非常に厳しい指導をしており,生徒がミスをすると,怒鳴る,譜面台を蹴飛ばす,指揮棒を投げる,楽譜を破るなどの行為を行っており,吹奏楽部の部員から怖れられていた。
 なお,原告は,吹奏楽部に入部後,サックスの担当を希望したが,当時,吹奏楽部のサックスの定員に空きがなかったため,クラリネットを担当することとなり,このころクラリネットクランポンRC prestige)を約40万円で購入した。(以上につき,甲7,10,13,18,19,弁論の全趣旨)
   イ 平成17年の秋ころ,a高校吹奏楽部内でサックスのオーディションがあり,原告は,元々サックスの担当を希望していたことから,同オーディションに参加した。同オーディションで審査員を担当していた被告は,原告がサックスを演奏しているのを聞いて,原告に音楽大学を目指さないかと声をかけ,サックスで目指すなら他の指導者を紹介するし,クラリネットで目指すのであれば被告が個人レッスンをする旨伝えた。
 原告は,サックスよりもクラリネットの方が上手く演奏できると思っていたこと,プロのクラリネット奏者である被告から音楽大学を目指さないかと勧誘を受けたことなどから,クラリネット音楽大学を目指そうと考え,その旨を被告に伝え,同年11月ころから,被告の個人レッスンを受けるようになった。(以上につき,甲7,10,13)
  (2) 被告による本件各わいせつ行為
   ア 平成17年11月下旬,原告は,被告の自宅において,被告から最初の個人レッスンを受けた。その際,被告は,原告に対し,本当に音大を目指すのであれば俺の言うことを全部聞け,俺の言うことが聞けないなら止めろ,今までの先輩で音大の入試の前に緊張してうまく吹けない先輩がいたが,裸になって吹けといって,裸にして吹かせたらうまくいった,体を売って演奏会に出ている人もいるなどと述べた。(甲7,17)
   イ 平成17年12月上旬ころ,厚木市内のカラオケボックスにおいて個人レッスンが行われた際,被告は,原告に対し,ブラジャーがきついから呼吸がうまくできないと述べ,ブラジャーを外すようにと指示し,原告は,その被告の言葉を信じて,その日はブラジャーを外してレッスンを受けた。(甲7)
   ウ 平成17年12月末,厚木市内のカラオケボックスでの個人レッスンの際,被告は,クラリネットを吹くときは唇を柔らかくする必要があり,キスをする感じでやる必要があるなどと述べ,原告に対し,キスをした経験があるか尋ねた。これに対し,原告が経験がないと答えると,被告は,今からキスをすると述べ,原告に対しキスをした。その後,被告は,被告の自宅やカラオケボックスでのレッスンの際,原告と二人きりになると,原告に対しキスをするようになった。原告は,被告とキスをすることに苦痛を感じていたが,キスを拒否すれば,個人レッスンが受けられなくなり,音楽大学への進学もできなくなると考えて我慢していた。(甲7,12,13)
   エ 平成18年2月ころ,被告の自宅でのレッスン中に,被告は,原告に対しパジャマに着替えるように指示し,原告が被告から渡されたパジャマに着替えると,被告は,腹式呼吸の練習をすると述べ,原告を上半身裸にさせた上で,原告の腹部等を触るなどした。(甲7,13)
   オ 平成18年3月ころになると,被告は,被告の自宅での個人レッスンの際(被告の家族が在宅していないとき)には,原告が演奏を間違えると服を脱げと怒鳴り,服を脱がせて全裸にした上で原告に演奏させるようになった。そして,同月下旬ころのレッスンの際,全裸にさせられた原告が演奏していると,被告が,原告に対し,異性と交際したことがあるかと尋ねてきたことから,原告が異性と交際した経験はないと答えたところ,被告は,異性と交際した経験がないのがいけない,女性ホルモンを出さないといけないなどと述べて,原告の陰部付近を触り,陰部に指を入れて動かすなどした。また,このころから,被告は,全裸にした原告の乳房をもんだり,乳首をなめたりするようにもなった。
 原告は,被告から上記のようなわいせつ行為をされるようになってから,そのことが苦痛で被告の個人レッスンを止めたいと思っていたものの,音楽大学に進学するためには,被告に指導をしてもらうことが必要であると考えたことに加え,個人レッスンを止めると言って被告から怒鳴られるなどして怖い思いをすることや個人レッスンを止めてa高校の吹奏楽部に在籍できなくなる事態を回避したかったことから,個人レッスンを止めると言い出すことはできず,被告のわいせつ行為を我慢して個人レッスンを受けていた。(以上につき,甲7,13)
   カ 平成18年夏ころになると,被告は,原告に対するレッスンをより厳しく行うようになり,原告に対し,「下手くそ」などと怒鳴る,譜面台を蹴飛ばす,楽譜を破って投げつけるといった行為をより頻繁に行うようになった。なお,このころは,被告の自宅ではなく,a高校で個人レッスンが行われることが度々あった。(甲7,13)
   キ 平成18年9月上旬ころ,原告が被告に対し個人レッスンを止めたいと伝えたところ,被告は,原告が個人レッスンを止めるのであれば,当時,原告を含めた吹奏楽部8人で組んでいたクラリネットアンサンブルの指導も行わないと述べた。この被告の言葉を聞いて,原告は,他のアンサンブルのメンバーに迷惑をかけることは避けたいと考え,被告に対し,個人レッスンをこのまま続けると述べた。
 しかし,その後,個人レッスンを止めたいという気持ちはより強くなり,同年9月下旬ころ,被告の自宅での個人レッスンの前に,原告は,被告に対し,音楽大学へ進学したいのかどうかわからなくなってしまったと述べた。被告は,この原告の言葉を聞いて激怒し,原告に対し,俺がお前に費やした時間を無駄にするのかなどと怒鳴った。原告は,被告から怒鳴られて恐怖を感じ,泣きながら音楽大学を目指す旨述べた。
 それからレッスンが開始されたが,泣きながら演奏した原告が演奏を失敗すると,被告は,ペナルティーだと言って原告に服を脱ぐように命じて原告を全裸にさせ,原告の全裸の姿を被告の携帯電話で写真に撮った。そして,被告は,原告に対し,練習しないとこの写真を他人に見せるぞなどと述べた。(以上につき,甲8,13)
   ク 平成18年10月上旬,被告は,a高校で原告の個人レッスンを行った際,原告がうまく演奏できなかったとして,原告の胸ぐらをつかむ,原告の髪の毛を片手でつかんで原告の頭を揺さぶる,原告の目の前の譜面台とともに原告のふくらはぎを蹴るなどの暴行を加えた。さらに,被告は,原告に対し,前記キの原告の全裸の写真を見せ,これを他人に見せると述べた。(甲8,13)
   ケ 平成18年10月中旬ころ,被告の自宅でのレッスンの際,原告が演奏を何度も間違えたところ,被告は,舌打ちをして,「下手くそ。何だその汚い音は。なぜ言われたとおりにできないんだ。服を脱げ」などと怒鳴って原告を脅した。原告は,被告から怒鳴られて恐怖を感じたことに加え,以前のように暴行を受けることや被告が以前撮影した原告の全裸の写真が第三者の目にさらされる事態をおそれ,被告のいうとおり服をすべて脱いで裸になった。被告は,裸になった原告に対し,乳房をもむ,乳首を触る,乳首をなめる,陰部付近を触る,陰部に指を入れるなどのわいせつ行為を行った上,さらに,自らも服を脱ぎ,右手で原告の左手首をつかんで無理矢理自らの陰茎に引き寄せ,露出した陰茎を握れと怒鳴って原告を脅し,原告に自己の陰茎を握らせた。(甲1,8,13)
   コ 平成18年10月下旬,原告が被告の自宅での個人レッスンに遅刻したところ,被告は,原告に対し,土下座して謝れと怒鳴り,原告が土下座をすると,原告の頭を足で踏みつけ,さらに,原告に対し,原告が遅刻したために無駄になった時間の代償を払え,払えないのであれば体で払えなどと怒鳴った。(甲8,13)
  (3) 個人レッスンの中止
   ア 前記(2)コのレッスンの後,原告は,a高校において,被告のレッスンを2,3度受けたが,被告の行為に耐えられなくなり,平成18年11月,被告に対し,電話で個人レッスンを止める旨を伝えた。(甲8,13)
   イ 原告は,被告の個人レッスンを止めた後,吹奏楽部での活動は継続したものの,音楽大学を受験することはなく,高校卒業後は短期大学に進学した。(甲4,8,10,13)
  (4) 被告の本件各わいせつ行為の発覚
   ア 短期大学に進学後,原告は当時の交際相手に対し,被告から本件各わいせつ行為を受けたことを打ち明け,その交際相手から原告の両親に対しても同事実を話すようにと説得を受けたことから,平成19年12月10日,原告の父親にも同事実を告白した。原告の父親は,原告の話を聞き,平成20年1月下旬,原告訴訟代理人の弁護士に同事実について相談した。(甲4,10)
   イ そうしたところ,平成20年3月12日ころ,被告から原告の携帯電話にメールがあり,原告は,両親や弁護士と相談の上,被告との間でメールで連絡を取るようになった。
 そのメールのやり取りの中で,被告は,当初,原告が個人レッスンを止めたことについて「君は僕との約束を一方的に破りました」,「僕はこの件でとても傷つきました」などと述べ,原告に対するわいせつ行為について,「純粋に表現者の世界へ導くものであった」,「なぜ裸になるかは羞恥に慣れ,自分を隠さなくなるようにするため」,「何故身体に触れるかは音楽表現のほとんどは,SeXの感覚の移し替えなので,身体を触られる感覚,それもSeXに関係した場所を触られる感覚を知ると,自分が表現する側にまわった時,人と人との間に存在する間や緊張感,相手を壊さずに刺激を与える際の手加減の度合い等を上手くコントロール出来るようになる」,「基礎的な音楽力が未開発なのに短期で結果を出さなければいけない状況の君にはもっとも効果的と考えた」などと述べていたが,最終的には,個人レッスン中に原告に対しセクシャルハラスメントを行ったとして謝罪した。(甲9,10)
 2 争点(1)及び(2)(損害額及び過失相殺の可否)について
  (1) 慰謝料
 原告は,当時,高校生という多感な時期にあり,異性と交際した経験もなかったにもかかわらず,指導者として信頼していた被告から約10か月という長期間にわたり,個人レッスンの際に何度も前記1(2)ウないしオ,キ,ケのようなわいせつ行為を受けたのであり,本件各わいせつ行為によって原告が被った精神的苦痛は察するに余りあるものがある。これに加え,前記1(4)イのとおり,被告は,原告が本件各わいせつ行為に耐えきれず個人レッスンを止めた後も,自己の卑劣な行為を正当化し,悪いのは原告であると言わんばかりの内容の電子メールを原告に対し送信するなど,事後の対応も極めて不誠実であること,前記1(3)イのとおり,本件各わいせつ行為により,原告は音楽大学を受験することすらあきらめ,音楽とは無関係の進路に進まざるを得なくなったことなど,その他本件に現れた一切の事情も考慮すると,本件各わいせつ行為によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,350万円が相当である。
  (2) 財産的損害
   ア クラリネットレッスン代
 (ア) 前記1(2)イ,ウのとおり,被告は,原告の個人レッスンを開始して1か月も経たないうちに,原告に下着を外すように指示をしたり,原告にキスをするなど,わいせつ行為ないしそれに類する行為を行ったものと認められるものの,その後も継続的に原告に対し本件各わいせつ行為を行い,その内容は徐々に悪質になっている。こうした経過にかんがみると,被告の原告に対する個人レッスンは,当初から,クラリネットの指導というよりも,原告に対しわいせつ行為を行うことを主たる目的としたものといわざるを得ない。被告は,わいせつ行為を行う目的で個人レッスンを行い,実際に,被告は,原告に対し,個人レッスンの際に何度もわいせつ行為を行っていることに加え,個人レッスンの際に原告が覚えた恐怖心等は重大なものであり,クラリネットの指導の実質があったとは認められないことを考えれば,被告が原告に対し行った個人レッスンは,わいせつ行為を行わなかった個人レッスンも含め,金銭を支払うに値しないものというべきである。したがって,原告が被告に対し支払ったレッスン代は原告の被った損害であるといえる。
 (イ) ところで,原告は,平成17年11月分から平成18年10月分まで合計57回(平成17年11月は月3回,同年12月は月4回,平成18年は各月5回)の個人レッスン代を損害として請求している。
 しかし,平成17年11月については,前記(3)アのとおり,個人レッスンが初めて行われたのが同月下旬であることからして,1回を超えて個人レッスンが行われたと認めることはできない。また,平成17年12月以降については,原告は,平成21年2月5日の時点では,個人レッスンの回数について,基本的に週に1回,月に3回か4回,土曜日か日曜日,時には祝日にレッスンをしたと述べていること(甲7),原告の父親も週に1回の割合であったと述べていること(甲10)などからすると,月に平均4回の割合で行われていたと認めるのが相当であり,これを超える回数が行われたと認めるに足りる証拠はない。(なお,被告は個人レッスンの回数は合計で30回以上であると述べるが,内訳を具体的に述べているわけではなく,上記認定を左右するものではない。)
 (ウ) 上記の個人レッスンの回数を前提とすると,1回あたりのレッスン代は平成17年が8000円,平成18年が1万円であったと認められること(甲19)から,原告が被告に対し平成17年11月から平成18年10月までに支払ったレッスン代は,8000円×5(平成17年11月が1回,同年12月が4回)+1万円×4回×10か月=44万円であり,これは原告の被った損害である。
   イ クラリネット
 原告は,クラリネットの購入代金40万円は,被告のわいせつ行為により原告が被った損害であると主張する。
 しかしながら,原告は,平成16年4月に吹奏楽部に入部した後の高校1年時にクラリネットを購入し(甲19),本件各わいせつ行為後も平成19年3月の卒業時まで吹奏楽部での活動を続けていたこと(甲8),本件各わいせつ行為により原告所有のクラリネットが毀損したなどの事情はないこと,クラリネットを使用しなくなったとしても,原告においてクラリネットを売却することは何ら妨げられないことなどからすると,原告にクラリネット購入代金相当額の損害が発生したとは認めることはできない。
 よって,原告の上記主張は採用することができない。
   ウ クラリネットパーツ(リード)代
 原告は,クラリネットのリード購入代金についても本件各わいせつ行為により原告が被った損害であると主張する。
 しかしながら,本件各わいせつ行為によりリードが毀損したわけではなく,リードは,被告の個人レッスンを受けなくとも,原告がクラリネットを演奏する際に使用して費消したと考えられることからすると,原告にクラリネットのリード購入代金相当額の損害が発生したと認めることはできない。
 よって,原告の上記主張は採用することができない。
   エ 交通費
 原告は,被告からクラリネットの個人レッスンを受けるために交通費を支出したものであるが,前記アのとおり,被告が原告に対し行ったのは個人レッスンの名に値しないものであり,原告が支出した交通費はすべて無駄になったというべきであるから,これは,本件各わいせつ行為により原告が被った損害といえる。
 ところで,前記アのとおり,原告は,被告から計45回の個人レッスンを受けたと認められるが,後記オのとおり,その内6回は厚木市内のカラオケボックスで行われたものである。また,前記1(2)カ,(3)アのとおり,個人レッスンは,a高校においても度々行われていたと認められるところ,被告が,被告の自宅での個人レッスンの回数は3分の2程度であるとの趣旨の供述をしていること(甲17)にかんがみると,被告の自宅での個人レッスンは,30回と認めるのが相当である。そして,原告の家から被告の自宅までの往復交通費は1560円であり,厚木市内のカラオケボックスまでの往復交通費は800円である(甲19)。
 よって,1560円×30+800円×6=5万1600円が原告の被った損害である。
   オ カラオケボックス使用料
 上記エの交通費と同様の理由から,カラオケボックスの使用料として支払った金額も原告の被った損害といえる。
 原告は,カラオケボックスを使用した個人レッスンの回数について,警察から聞いた回数として6回であると述べており(甲19),被告からこれに対する特段の反論もない。したがって,カラオケボックスを使用した個人レッスンの回数については,原告の主張どおり,6回と認めるのが相当である。そして,1回あたりのカラオケボックスの使用料は1500円程度であったと認められる(甲19)ことから,1500円×6=9000円が原告の被った損害である。
  (3) 過失相殺
 被告は,原告が本件各わいせつ行為を拒否できる状況にあったにもかかわらず,これを明確に拒否しなかったことから,被告が本件各わいせつ行為を継続することになったのであるから,原告にも落ち度があり,3割の過失相殺をすべきであると主張する。そこで,以下過失相殺の可否について検討する。
   ア 平成18年9月以後について
 前記1(2)キのとおり,原告は,平成18年9月上旬及び同年9月下旬ころに,被告に対し個人レッスンを止めたいと訴えている。この行動が被告のわいせつ行為を拒否する原告の意思表示であることは誰の目にも明らかであり,原告が被告のわいせつ行為を明確に拒否しなかったとの被告の主張はその前提を欠く。
 したがって,平成18年9月以後については,原告に何ら落ち度は認められない。
   イ 平成18年8月以前について
 (ア) 平成18年8月以前,原告は,被告の個人レッスンを止めたいと述べるなどの行動はとっていない。
 しかしながら,原告が,上記のような行動をとることなく,被告のわいせつ行為を我慢していたのは,前記1(2)ウ,オのとおり,原告に対する恐怖感や被告の個人レッスンを止めると音楽大学の進学が困難になることを怖れていたためである。前記1(1)アのとおり,被告は,指導の際には,日常的に,怒鳴る,譜面台を蹴飛ばす,指揮棒を投げる,楽譜を破るなどの行為を行っていたことから,原告を含む吹奏楽部員からは怖れられていたのであり,そのような被告に対し,当時高校生であった原告が,怒鳴られたり暴力的な行為を受けることを覚悟して,自己の意思を明確に示すことは非常に困難なことであったといえる。また,原告は,目標とする音楽大学の進学のためには,被告から指導を受ける必要があると信じ,被告の理不尽な個人レッスンを耐えなければならないと思い込んでいたものであり,冷静な判断をすることは難しい状態にあったものと認めることができる。
 こうしたことからすると,原告が,被告に対し,被告の個人レッスンを止めると述べたり,わいせつ行為を行う被告に対して明確に拒否の意思を示すなどの行動をとらなかったとしても,それはやむを得ないというべきであり,そのことをもって原告の落ち度ということはできない。
 (イ) なお,被告は,個人レッスン開始後も被告による個人レッスンが嫌であれば他の指導者を紹介すると述べていたと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。仮に,そのような事実が認められるとしても,原告が被告に対し,被告の個人レッスンを止め,別の指導者を紹介してほしいと申し出ることができない状態にあったことは上記(ア)と同様である。したがって,いずれにしても原告に落ち度は認められない。
   ウ 小括
 以上のとおり,原告には何ら落ち度は認められないのであるから,過失相殺をすべきとする被告の主張は採用することができない。
  (4) 弁護士費用
 原告が損害賠償命令申立て及び本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人弁護士に依頼したことは当裁判所に顕著である。そして,本件事案の性質・内容,本件訴訟の経過,原告の被った損害等に照らせば,被告の本件各わいせつ行為と相当因果関係のある弁護士費用は,40万円と認めるのが相当である。
  (5) 合計
 以上の合計440万0600円が,被告の本件各わいせつ行為により生じた原告の損害である。
 3 結論
 以上のとおり,原告の請求は,440万0600円の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 本間健裕 裁判官 田口治美 裁判官 小野本敦)

歯科助手に対する強制わいせつ致傷で有罪判決(懲役3年執行猶予4年)を受けた歯科医について歯科医師免許の取消処分取消請求事件(東京地裁R03.10.19)

歯科助手に対する強制わいせつ致傷で有罪判決を受けた歯科医について歯科医師免許の取消処分取消請求事件(東京地裁R03.10.19)
 刑事事件の方は示談未了で執行猶予になったようです。
 処分事例集をみると、院内のセクハラ事案も重い行政処分になっています。

歯科医師免許の取消処分取消請求事件
東京地方裁判所令和元年(行ウ)第368号
令和3年10月19日民事第51部判決
口頭弁論終結日 令和3年5月13日
       判   決
被告 国
代表者法務大臣 B
処分行政庁 厚生労働大臣 C
指定代理人 別紙1指定代理人目録記載のとおり


       主   文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 厚生労働大臣が原告に対して令和元年6月27日付けでした,歯科医師免許を取り消す旨の処分を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,歯科医師の免許を有し,矯正歯科クリニック(以下「本件クリニック」という。)を経営していた原告が,同クリニックの歯科助手であった女性(以下「被害者」という。)に対する強制わいせつ致傷の罪により有罪判決を受けたことを理由に,厚生労働大臣(処分行政庁)から,歯科医師法(令和元年法律第37号による改正前のもの。以下同じ)7条2項3号に基づき歯科医師免許を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから,被告を相手に,本件処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令の定め
 本件に関係する歯科医師法の定めは別紙2に記載したとおりである。
2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告について
 原告(昭和49年○月○○日生)は,平成15年5月21日,厚生労働大臣から,歯科医師法2条,6条に基づき歯科医師免許(以下,単に「免許」ということがある。)を付与され,医療法人の理事長として,市内に矯正歯科クリニック(本件クリニック)を開設し,その院長として矯正歯科診療を行っていた(甲2,4,13)。
(2)原告が受けた有罪判決及び被害者との示談について(甲2,8)
ア 原告は,平成27年7月2日,大津地方裁判所において,強制わいせつ致傷罪により懲役3年,執行猶予4年の有罪判決(以下「本件有罪判決」といい,この刑事事件を「本件刑事事件」という。)を受け,同月16日に同判決は確定した。
 本件有罪判決において認定された罪となるべき事実は,原告が,平成25年9月29日に本件クリニックでの仕事を終えた後,同クリニックの歯科助手であった女性(被害者)と午後6時30分頃から午後11時過ぎ頃までの間,2件の飲食店で飲酒するなどし,その後,本件クリニックが所在するマンション(以下「本件マンション」という。)の敷地まで戻った同日午後11時20分頃,同敷地内において,被害者に抱き付いて壁に押し付けた上,その唇や頚部に接吻し,着衣内に手を差し入れて被害者の陰部を直接触り,その際,抵抗する被害者をその場に転倒させ,全治約10日間を要する頚部挫傷,右股関節挫傷,右下腿挫傷,左膝関節挫傷の傷害を負わせた(以下「本件犯行」という。)というものである。
 本件有罪判決では,原告は,本件犯行の際,約10分間にわたり被害者の陰部を直接触った上,執拗に被害者を本件マンションに連れ込もうとしていたものであり,被害者は,これらの際に原告から逃げようとして転倒したものと認定されている。
イ 原告は,平成27年7月16日,本件刑事事件に関して被害者との間で示談をし,300万円の慰謝料を支払った。
(3)本件処分及び本件訴えに至る経緯等
ア 厚生労働大臣は,歯科医師法7条5項に基づき,平成31年4月17日,滋賀県知事に対し,原告に対する意見聴取を行うよう求め,同知事は,令和元年5月15日に原告に対する意見聴取を実施し,その結果を踏まえ,同月20日,同大臣に対し,意見の聴取に係る報告書を提出した。同報告書には,原告が被害者との間で示談したことについての記載がある。(甲5,乙1,2)
イ 厚生労働大臣は,歯科医師法7条4項に基づき,令和元年6月26日,原告に対する処分について,医道審議会(医道分科会。以下同じ)に諮問し,医道審議会は,同月27日,原告に対しては免許の取消しが相当である旨の答申をした(乙3~5)。
ウ 厚生労働大臣は,令和元年6月27日付けで,原告に対し,歯科医師法7条2項3号に基づき免許を取り消す旨の処分(本件処分)をした。本件処分に係る命令書(以下「本件命令書」という。)は,理由欄に「強制わいせつ致傷により,懲役3年,執行猶予4年の刑が確定したため」と記載されていたほか,原告の免許を「平成31年2月13日をもって」取り消すとの記載(以下「本件始期の定め」という。)があった。本件命令書は,令和元年7月3日に原告に到達した。(甲1)
 一方,厚生労働大臣は,令和元年6月27日に厚生労働省のホームページに掲載した本件処分に係るプレスリリース(以下「本件プレスリリース」という。)においては,本件処分の効力発生日につき同年7月11日と記載していた(乙14)。
エ 原告は,令和元年7月16日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
オ 厚生労働大臣は,令和元年8月7日付けで,原告に対し,本件命令書の記載のうち「平成31年2月13日をもって」と記載されていた部分(本件始期の定め)については明白な誤りであり,「令和元年7月11日をもって」が正しい記載であるので補正する旨の書面(以下「本件補正書」という。)を送付した(乙6)。
3 争点
 本件の争点は,本件処分の適法性であり,具体的には,〔1〕本件命令書に本件始期の定めが記載されていたこと(以下「本件記載」ということがある。)は,本件処分を取り消すべき瑕疵に当たるか否か,〔2〕原告に対して歯科医師免許取消処分(以下「免許取消処分」ということがある。)を選択したことにつき,厚生労働大臣がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものといえるか否かである。
4 当事者の主張
 争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙3記載のとおりである。なお,別紙で定義した略語は本文においても用いる。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は,本件始期の定めに係る本件記載は本件処分を取り消すべき瑕疵には当たらず,また,原告に対して免許取消処分を選択したことにつき,厚生労働大臣による裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められないから,本件処分は適法であって,原告の請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。
1 争点1(本件記載は本件処分を取り消すべき瑕疵に当たるか否か)について
(1)ア 歯科医師法上,同法7条2項3号に基づく免許取消処分の効力発生時期について定めた規定はなく,同処分をする場合にその効力発生時期につき別段の定めを設けるか否か,設けるとした場合にどのように定めるかは,厚生労働大臣の裁量に委ねられているものと解される。そこで,厚生労働大臣が効力発生時期を定めずに免許取消処分をした場合には,その効力は同処分に係る命令書が被処分者に到達した時点において発生するが,特定の時点を効力発生時期と定めて免許取消処分をした場合には,その効力は同時点において発生することとなる。
 ところで,本件においては,本件処分に係る命令書(本件命令書)に効力発生時期の定め(本件始期の定め)が記載されているものの,その定めは本件命令書の作成日付である令和元年6月27日よりも4か月以上前の平成31年2月13日とされていることから,本件始期の定めの効力及びこれに伴う本件処分への影響が問題となる。
イ 歯科医師法7条2項3号に基づく免許取消処分は,歯科医師が同法4条各号に定める欠格事由のいずれかに該当し,又は歯科医師としての品位を損するような行為のあったときに,当該歯科医師に与えた免許を取り消すものであり,免許を取り消された者は同法17条により歯科医業を行うことができない。また,その者がこれに違反して歯科医業を行う場合には,同法29条1号に定める罰則の適用対象となる。
 このような免許取消処分の内容・性質に鑑みると,同処分は将来に向かって免許の取消しの効力を発生させるものであり,厚生労働大臣は,命令書の作成日付より前に遡って免許取消処分の効力発生時期を定める権限を有するものではない。したがって,本件命令書の作成日付より前の日付を効力発生時期とする本件始期の定めは明らかな誤記であり,無効であるというべきである。
ウ そうすると,本件処分は,効力発生時期を定めずにされた免許取消処分というべきであるから,同処分の効力は,上記アに説示したところに照らし,本件命令書が原告に到達した時点(令和元年7月3日)において生じたものと解するのが相当である。
(2)効力発生時期に関する被告の主張について
 被告は,行政庁の意思決定と表示が一致しない場合に,その誤りが外形上明らかなときは,行政庁の真意に従って行政処分の効力が認められると解すべきであるから,本件処分の効力発生時期は厚生労働大臣の真意である令和元年7月11日と解すべきである旨主張する。
 しかしながら,上記(1)ウに説示したとおり,本件始期の定めが無効である以上,本件処分は効力発生時期を定めずにされたものと解するべきであって,本件始期の定めと異なる効力発生時期の定めがあったものと解することはできない。そもそも,本件命令書の作成日付より前の日を効力発生時期として定める旨の本件記載が明らかな誤記であるとしても,本来記載すべき効力発生時期の日付が被告の主張する令和元年7月11日であったことは本件命令書の記載から読み取ることができない。被告は,被処分者への便宜のため処分告知から効力発生時期までの間に若干の猶予期間を設ける行政実務の運用や,本件処分についても同運用に従って令和元年7月11日を効力発生時期とすることが企図され,本件プレスリリースでもその旨の公表がされたことを挙げるが,上記(1)イに説示したような免許取消処分の内容・性質に鑑みれば,厚生労働大臣が効力発生時期を定めて免許取消処分をする場合には,その定めは同処分に係る命令書の記載上明確でなければならないというべきである。
 したがって,本件処分の効力発生時期に関する被告の主張は採用することができない。
(3)本件処分の効力に関する原告の主張について
 原告は,本件始期の定めが無効である以上,本件処分もこれと不可分一体のものとして,あるいは,効力発生時期の特定を欠く処分となることによって,違法,無効となる旨主張する。
 しかしながら,上記(1)アに説示したとおり,歯科医師法7条2項3号に基づく免許取消処分において効力発生時期につき別段の定めを設けることは必要的ではなく,効力発生時期を定めるか否かは厚生労働大臣の裁量に委ねられているのであるから,本件始期の定めが無効となったことで効力発生時期の定めが欠けることになったとしても,これにより本件処分自体の効力に影響を及ぼすこととなるものとは解されない。また,上記(1)アのとおり,厚生労働大臣が効力発生時期を定めずに免許取消処分をした場合には,その効力は同処分に係る命令書が被処分者に到達した時点において生ずるのであるから,本件処分が効力発生時期の定めを欠くことによりその効力がいつ発生するかの特定ができないこととなるものでもない。
 なお,このように解した場合には,本件命令書に記載された日付とは異なる時点で本件処分の効力が生ずることとなるが,本件命令書の作成日付より前の日付を効力発生時期とする本件始期の定めが明らかな誤記であり,無効であることは上記(1)イに説示したとおりであるから,これにより被処分者である原告に不測の損害をもたらすものということはできない。
 以上によれば,本件処分の効力に関する原告の主張は採用することができず,本件始期の定めが無効であることによって本件処分を取り消すべき瑕疵が生ずるものと解することはできない。
2 争点2(原告に対して免許取消処分を選択したことにつき,厚生労働大臣がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものといえるか否か)について
(1)原告は,本件有罪判決により懲役3年,執行猶予4年の刑に処せられ,歯科医師法4条3号の欠格事由に該当することとなった(前提事実(2)ア)。
 歯科医師法7条2項は,歯科医師が「罰金以上の刑に処せられた者」(同法4条3号)に該当するときは,厚生労働大臣は,〔1〕戒告,〔2〕3年以内の歯科医業の停止又は〔3〕免許の取消しをすることができる旨定めている。この規定は,歯科医師が同法4条3号の規定に該当することから,歯科医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には歯科医師の資格を剥奪し,そうまでいえないとしても,歯科医師としての品位を損ない,あるいは歯科医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には,一定期間歯科医業の停止を命ずるなどして反省を促すべきものとし,これによって歯科医業が適正に行われることを期するものであると解される。
 したがって,歯科医師歯科医師法4条3号の規定に該当する場合に,免許を取消し,又は歯科医業の停止を命ずるかどうかということは,当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該歯科医師の性格,処分歴,反省の程度等,諸般の事情を考慮し,同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ,その判断は,医道審議会の意見を聴く前提のもとで歯科医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。それゆえ,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした免許取消処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである(最高裁昭和63年判決参照)。
(2)そこで検討すると,本件犯行の罪名である強制わいせつ致傷罪は,法定刑が無期又は3年以上の懲役であり(刑法181条1項),性犯罪の中でも特に重い法定刑が定められている(同法第22章参照)。
 本件犯行の態様についてみると,原告は,本件クリニックの歯科助手という立場にあった被害者に対し,夜間における本件マンションの敷地内において,抱き付いて壁に押し付けた上,その唇や頚部に接吻し,約10分間にわたり被害者の陰部を直接触るというわいせつ行為に及ぶとともに,被害者を執拗に本件マンションに連れ込もうとし,これらの際に被害者を転倒させるなどして傷害を負わせたというものであって,相当に悪質で,違法性の程度が高いものであり,本件有罪判決においても懲役3年,執行猶予4年の刑に処せられ,比較的長期間の執行猶予が付されている。
 これらの犯行は計画的に行われたものではないものの,原告の経営する医療法人が雇用する被害者に対し,原告からの誘いを断りにくい状況下で長時間の飲食を共にし,飲酒の影響もあって犯意を生ずるに至ったものである(甲2)から,犯行に至る経緯に照らしても非難の程度が減ずるような事情は見られない。また,本件有罪判決に示された証拠関係や犯行当時の状況に照らすと,原告は,被害者が履いていたスキニーズボンのボタンを外し,ズボン及び下着の中に手を差し入れて陰部を直接触ったものと認められ,また,抵抗する被害者を本件マンションに連れ込もうとして被害者を転倒させたものと認められるところ,このような行為自体が,被害者の身体及び心情を著しく軽視するものとをいわざるを得ない。
 このように,原告は,患者の身体を直接預かる資格である歯科医師という立場にありながら,上記のとおり悪質な犯行に及び,その社会的信用を失墜させ,また,他人の身体及び心情を著しく軽視した行為をしたといえるのであるから,歯科医師として求められる品位を欠き,人格的に適格性を有しないとの評価を受けてもやむを得ない。
 そうすると,原告の主張する原告に有利な諸事情(本件犯行が計画的であったとは認められないこと、被害者の致傷結果が比較的軽微なものであったこと,本件有罪判決宣告後に被害者との間で示談が成立し,300万円の慰謝料が支払われたこと,原告に前科や処分歴がないこと,原告が本件犯行について反省の態度を示していること,複数の歯科医師等から原告の免許取消しに関する嘆願書が提出されていること〔甲9~16〕など)を踏まえても,厚生労働大臣医道審議会の意見を踏まえて免許取消処分を選択したことについて,社会観念上著しく妥当性を欠くとはいえず,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものと認めることはできない。
(3)原告の主張について
ア 原告は,本件始期の定めがあることにより,本件処分は社会観念上著しく妥当性を欠くものであり,厚生労働大臣裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものである旨主張する。 
 しかしながら,前記1(1)に説示したとおり,本件始期の定めが無効であるからといって,本件処分自体が違法となるものではなく,無効な本件始期の定めがあることは裁量権の範囲の逸脱又は濫用を基礎付けるものとはならないから,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,本件犯行につき,凶器を用いていないことから暴行は軽微であり,致傷結果も軽微であり,計画性もなかったこと,被害者との間で示談が成立しているが本件有罪判決の後であったためその量刑には織り込まれていないこと,原告が飲酒をやめ反省していること,前科や処分歴がないこと等の事情を踏まえると,原告に対する処分は歯科医業の停止で十分である旨主張する。
 しかしながら,原告が本件犯行に凶器を用いていないからといって,その犯行が軽微なものとはいえないことは,前記(2)の説示に照らし明らかである。
 また,被害者との示談は本件有罪判決の後に成立しているものの,同判決では,原告が被害者に対する賠償金の支払のために300万円を準備していることも考慮して原告に対し刑の執行を猶予するものとしているのであり,他方,本件犯行の犯情に照らせば酌量減軽をして法定刑の下限を下回る刑を選択すべきではなく執行猶予期間も比較的長期間とするのが相当であるとして懲役3年,執行猶予4年という量刑が定められたものである。そうすると,仮に,被害者との示談が本件有罪判決前に成立し,量刑において考慮されていたとしても,上記と異なる量刑とはならない可能性も十分に考えられ,本件処分において,厚生労働大臣が,本件有罪判決の量刑を前提としつつ,同判決後の示談成立等の事情も考慮した上で免許取消処分を選択したことが,裁量権の範囲の逸脱又は濫用を基礎付けるものとはいえない。
 そのほかに原告が主張する事情は,いずれも前記(2)に説示したとおり,本件犯行の違法性の程度等の事情を踏まえてもなお原告に対し免許取消処分を選択したことが社会通念上著しく妥当性を欠くものとするに足りるものとはいえない。
 よって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ また,原告は,医師・歯科医師が強制わいせつ致傷罪又は強制わいせつ罪(準強制わいせつ罪を含む。以下同じ)を犯した場合の行政処分例と比較すると,本件処分は不当に重い処分であって,平等原則に反する旨主張する。
 しかしながら,そもそも事案の異なる行政処分例を単純に比較して処分の軽重を論ずることは困難である。この点をおき,原告が指摘する他の行政処分例と比較してみても,原告が強制わいせつ致傷罪で懲役3年,執行猶予4年の有罪判決を受けていることや,前記(2)に説示した本件犯行の違法性の程度等に照らせば,本件処分が不当に重いということはできず,平等原則違反をいう原告の主張は採用することができない。
エ 原告は,免許取消処分は歯科医師にとって最も重い処分であるところ,本件指針(甲6)において,「診療の機会に医師,歯科医師としての立場を利用したわいせつ行為などは,国民の信頼を裏切る悪質な行為であり,重い処分とする。」と記載されていることからすれば,上記類型の行為に該当しない本件犯行に対しては,免許取消処分以外の処分が選択されるべきであり,本件処分は比例原則に反する旨主張する。
 しかしながら,本件指針(甲6)は,医道審議会行政処分に関する意見を決定するに当たっての基本となる一定の考え方を示したものであり,そこには「わいせつ行為は,医師,歯科医師としての社会的信用を失墜させる行為である」とあるところ,本件指針における該当部分は,強制わいせつ,売春防止法違反,青少年保護育成条例違反等のわいせつ行為一般についての考え方を示したものであり,原告の指摘する記載部分は上記わいせつ行為一般について特に重い処分にすべき場合を例示したものにすぎず,「基本的には司法処分の量刑などを参考に決定する」とも記載されていることにも照らせば,本件指針において,原告主張のように診療の機会に直接,歯科医師としての立場を利用してされた行為に当たらない場合は免許取消処分以外の処分を選択するという考え方が示されているとはいえない。
 したがって,比例原則違反をいう原告の上記主張は,その前提を欠くものであって採用することができない。
3 まとめ
 以上によれば,本件記載は本件処分を取り消すべき瑕疵には当たらず,また,原告に対して免許取消処分を選択したことにつき,厚生労働大臣による裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとも認められないから,本件処分は適法である。
第4 結論
 よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官 清水知恵子 裁判官 横地大輔 裁判官 定森俊昌

(別紙1)指定代理人目録《略》
(別紙2)歯科医師
(別紙3)当事者の主張の要旨

メール等で遠隔操作で自慰行為をさせる行為は、わいせつ行為とか、わいせつ行為を教えるとか、性交類似行為と評価される

 強制わいせつ罪の関係で「わいせつ行為」と評価された裁判例が増えてるので、青少年条例の関係でも「わいせつ行為」とされる傾向ですよね。

高知地裁R2.10.28
A(13)が、青少年であることをしりながら
被告人方において
被告人のpc使用して ブラウザ会議システム○○のビデオ通話機能及びチャットを利用してa方のaとビデオ通話中に、aに指示して aが使用するタブレット端末に内蔵されたカメラの前で、乳房陰部等を露出させその乳房をもませて 陰部を指で開いて触らせるなどしてもって青少年にわいせつ行為をさせた
○○県青少年条例違反
・・・
伊丹簡裁R2.11.2
○○市においてLINEを用いて、同児童に対して、同児童が使用するスマホに、
肛門にマジックに突っ込め
出し入れしろ
などとメッセージを送信して、
そのころ××市内にいた同児童に閲読させ、もって、青少年に対してわいせつな行為を教えたものである。
○○県青少年条例違反
・・・
札幌地裁H29.11.15
B(17) 児童であることを知りながら
チャットレディとして雇用し
Bをして前記ライブの映像配信システムを利用して電気通信回線を通じて即時配信する方法により、不特定又は多数の視聴者に向け、陰部にバイブを挿入するなどの自慰行為をさせ、もって児童をして性交類似行為させる行為をした(児童淫行罪)
・・・
東京地裁
a(19)に強制わいせつ行為をしようと企て
被告人方周辺において
架空の第三者を装い 被告人の携帯電話からaの携帯電話機に
脅迫文言
などの文言を内容とする電子メールを送信して
いずれもそのころ前記各メールをaに閲読させ脅迫して、その犯行を著しく困難にしたうえ いずれもそのころ a方において aをして着衣を脱いで陰部や乳房を露出させた姿態を同人が使用する携帯電話機のカメラ機能で撮影させ その各画像を被告人が使用する前記携帯電話に送信させた
強制わいせつ罪(176条前段)
・・・
高松地裁H28.6.2
強いてわいせつ行為しようと企て
被告人方 a12に 被告人の携帯電話から LIN利用して 
脅迫文言
○県の同人に閲読させ着衣をぬぎパンツの中に手を差し入れさらにパンツも脱ぎその姿態を撮影することを要求して
その要求に応じなければLINEや写真を流布させることを告知して 畏怖させ
同人に着衣脱がせて上半身裸にしてパンツ内に手を入れさせ、さらにパンツを脱がせてそれぞれ上半身裸の写真 パンツ内に差し入れた写真 陰部の写真を児童の携帯で撮影させた上 同画像データを被告人の携帯電話に順次送信させ
もって 強いてわいせつ行為した

臀部が性的部位であることから臀部への接触が原則的に性的意味を有するということはできないのであり,本件各行為は,男性である被告人が男子小学生の臀部を1回軽く叩くという行為態様からすると,卑わいな言動に当たると解することは困難である。(神戸地裁r031130)

臀部を着衣の上から手で触ったこと,その態様がいずれも1回軽く叩くというものであった

神戸地裁令和 3年11月30日公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件
主文
 被告人は無罪。
理由
 1 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,第1 令和3年3月24日午後2時36分頃,神戸市〈以下省略〉a店において,A(当時10歳)に対し,その臀部を着衣の上から手で触り,第2 同日午後2時40分頃,同店において,B(当時10歳)に対し,その臀部を着衣の上から手で触り,もって公共の場所において,人に対する,不安を覚えさせるような卑わいな言動をした」というものである。
 被告人が公訴事実記載の日時場所においてA及びBの臀部を着衣の上から手で触ったこと,その態様がいずれも1回軽く叩くというものであったことは証拠上容易に認められ,当事者間にも争いがない(公訴事実記載の各行為を以下「本件各行為」という。)。その状況は次のとおりである。
  (1) 被告人は現場となったコンビニエンスストアの男性店員であり,A及びBはいずれも客として同店を訪れた男子小学生である。Aは被告人と初対面であり,Bは被告人を何度か見かけたことがある程度であった。
  (2) 本件当日,A及びBは他の男女の小学生とともに十数名で現場店舗を訪れた。
  (3) 被告人は,本件各行為に先立ち,別の男子小学生3名の臀部を触った。
  (4) 被告人は,通路に立っていたAに背後から近付き,臀部を無言で軽く叩いた(公訴事実第1)上,その横を通り過ぎた。Aはその場から店を出て敷地外まで走り去り,間もなく付近の交番に行って被害申告をした。
  (5) 被告人は,店内を歩いていたBを手招きで呼び寄せ,後ろを向いてと言って背を向けさせた上,臀部を軽く叩いた(公訴事実第2)。Bは間もなく付近の交番に行って被害申告をした。
  (6) Bの被害申告に先立ち,上記(3)の小学生のうち1名以上も,付近の交番に行って被害申告をした。
 2 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(兵庫県)3条の2第1項は「何人も,公共の場所又は公共の乗物において,次に掲げる行為をしてはならない。」と定め,同項第1号は「人に対する,不安を覚えさせるような卑わいな言動」と定める。
 ここにいう卑わいな言動とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいい,その該当性は行為態様や犯行当時の状況,被害者及び被告人の関係等の客観的事情に照らして判断すべきであって,性的な動機や目的があることを要しないと解すべきである(以上は検察官が主張するとおりであり,弁護人もこれと相反する主張をするものではないと解される。)。また,卑わいな言動該当性は,当該事案の具体的状況を前提として,被害者の立場に置かれた一般通常人を基準に判断すべきである。
 当裁判所は,以上の見地に立って,本件各行為は卑わいな言動に該当しないと判断した。その理由は以下のとおりである。
 3 検察官が主張するとおり,臀部は性的な部位である。児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項3号,私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律2条1項3号も,臀部を性的部位と定めている。
 しかし,大多数の男性の性的対象は女性であると認識されているから,男性の男性に対する身体的接触が性的意味を有すると認識される度合いは小さいと考えられる。また,臀部の性的意味の程度は,性的部位の中では比較的低く,また,女性よりも男性の方が低いと考えられ,臀部を叩くという行為は,特に男性に対しては,冗談,励まし,注意,体罰など,様々な意味でなされることがあり得る。
 そうすると,臀部が性的部位であることから臀部への接触が原則的に性的意味を有するということはできないのであり,本件各行為は,男性である被告人が男子小学生の臀部を1回軽く叩くという行為態様からすると,卑わいな言動に当たると解することは困難である。
 これに対し検察官は,本件条例は性別を限定しておらず,性的平等が重視される現在の社会において,客観的に卑わいな言動と評価されるべき行為は,対象者の性別にかかわらず卑わいな言動と評価すべきであり,まして小学生の段階では性差も未だ顕著ではないと主張する。しかし,ある者が行為者の性的対象にされていると認識されるか否かや,身体のある部位が持つ性的意味の程度は,それが小学生である場合を含め,性別により現実に差があると考えられるから,対象者の性別により卑わいな言動該当性は異なり得る。
 被告人とA及びBとの関係や,被害前の状況からして,被告人がA及びBに触ることを正当化する事情がなく,A及びBには臀部を叩かれる合理的理由がないこと,被害後のA及びBの行動からして,本件各行為が嫌悪感や不安感を感じさせる行為であったと認められることは,検察官が主張するとおりである。しかし,検察官が指摘する点は,本件各行為が性的道義観念に反し下品でみだらなものであることまで基礎付けるものではない。
 被告人は,公判廷において,Aの臀部を叩いたのは通路を空けるように促す目的であり,Bの臀部を叩いたのは店内を走り回るグループの一員として注意する目的であったと供述するのに対し,検察官は,被告人の供述は信用できず,被告人はA及びBの臀部を触ること自体を目的としていたと主張する。しかし,前述のとおり卑わいな言動該当性は客観的事情に照らして判断すべきであるから,検察官の主張はこれを左右しない。
 なお,被告人が本件各行為に先立ち別の男子小学生3名の臀部を触った事実は,当該行為が性的意味を有する態様で行われ,かつ,A及びBがそのことを認識していたなどの事情を認めるに足りる証拠のない本件では,本件各行為を卑わいな言動と認める根拠にならない。
 4 よって,刑事訴訟法336条により,主文のとおり判決する。
 (求刑 罰金30万円)
 神戸地方裁判所第1刑事部
 (裁判官 安西二郎)

「被害児童が13歳未満の者であることを知りながら,同日■(省略)■同校■において,自己の陰茎を露出して被害児童の面前で見せつけるなど」というわいせつ行為(延岡支部r4.2.25)


 わいせつの定義はないので、いちいち聞いて下さい。
「本件行為は,自己の陰茎という性器そのものを被害児童の面前で露出するものであり,それ自体強い性的意味合いを有している。しかも,被告人は,約20分間という長時間にわたり,自己の陰茎を被害児童に見せつけ続け,その間,着席した状態の被害児童の肩付近から約10cmという至近距離まで接近させるなどしたというのである。そして,本件行為が教室内での1対1の授業中に行われたことや,教師とその生徒という関係性,被害児童の年齢等に照らせば,被害児童はその場を離れることが心理的に困難な状況であった。このように本件行為そのものの性的性質に加え,本件行為の行われた具体的状況等をも考慮すれば,」というのであれば、それも訴因で主張してもらわわないと。

宮崎地方裁判所延岡支部
令和4年2月25日判決

(罪となるべき事実)
 被告人は,令和3年4月■日当時,宮崎県■(省略)■学校の教諭であったが,同校生徒の■(当時12歳。以下「被害児童」という。)にわいせつな行為をしようと考え,被害児童が13歳未満の者であることを知りながら,同日■(省略)■同校■において,自己の陰茎を露出して被害児童の面前で見せつけるなどし,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条 刑法176条後段
執行猶予 刑法25条1項
訴訟費用不負担 刑訴法181条1項ただし書
(法令の適用に関する補足説明)
 被告人の本件行為が刑法176条後段の「わいせつな行為」に当たると判断した理由について説明する。
 本件行為は,自己の陰茎という性器そのものを被害児童の面前で露出するものであり,それ自体強い性的意味合いを有している。しかも,被告人は,約20分間という長時間にわたり,自己の陰茎を被害児童に見せつけ続け,その間,着席した状態の被害児童の肩付近から約10cmという至近距離まで接近させるなどしたというのである。そして,本件行為が教室内での1対1の授業中に行われたことや,教師とその生徒という関係性,被害児童の年齢等に照らせば,被害児童はその場を離れることが心理的に困難な状況であった。このように本件行為そのものの性的性質に加え,本件行為の行われた具体的状況等をも考慮すれば,本件行為は,性的意味合いが相当強いものといえるから,刑法176条後段の「わいせつな行為」に当たることは明らかである。
(量刑の理由)
 
令和4年2月25日
宮崎地方裁判所延岡支部
裁判長裁判官 大淵茂樹 裁判官 中出暁子 裁判官 高木航

鹿児島県警察本部3階中会議室において,自己の性的好奇心を満たす目的で,児童ポルノである画像データ4点及び動画データ1点を記録したスマートフォン1台を所持した(鹿児島地裁r03.10.26)

 撮影した時とか、ダウンロードした時点であれば、自己の性的好奇心を満たす目的で所持していた時点はあったと思うんですが、警察本部に取調に呼ばれた時点では、自己の性的好奇心を満たす目的というのはあるのかなあと思うんですよ。

鹿児島地裁令和 3年10月26日
事件名 住居侵入,建造物侵入,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件

 
 上記被告人に対する住居侵入,建造物侵入,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官福林千博及び私選弁護人穂村公亮(主任)各出席の上審理し,次のとおり判決する。 
理由
 【罪となるべき事実】
 被告人は,
 第1 正当な理由がないのに,令和元年6月9日午前1時5分頃,鹿児島県a警察署長Bが看守する鹿児島県奄美市〈以下省略〉同警察署3階女性用更衣室兼仮眠室に,不正に入手した合い鍵を使用して出入口ドアの施錠を解いて侵入した
 第2 正当な理由がないのに,同年9月2日午前0時53分頃,前記女性用更衣室兼仮眠室に,無施錠の出入口ドアから侵入した
 第3 被害者A(氏名は別紙記載のとおり)の私生活をのぞき見る目的で,令和2年2月5日午後10時44分頃,同市〈以下省略〉b職員宿舎502号の当時の同人方に,合い鍵を使用して玄関ドアの施錠を解いて侵入した
 第4 自己の性的好奇心を満たす目的で,令和3年4月3日,鹿児島市〈以下省略〉鹿児島県警察本部3階中会議室において,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ4点及び動画データ1点を記録したスマートフォン1台を所持した
 ものである。
 【証拠の標目】
 【法令の適用】
 被告人の判示第1ないし第3の各所為はいずれも刑法130条前段に,判示第4の所為は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段,2条3項3号にそれぞれ該当するところ,判示各罪についてそれぞれ懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を主文掲記の懲役刑に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から主文掲記の期間その刑の執行を猶予することとする。
 【量刑の理由】
 本件は,現役の警察官であった被告人が,①当直勤務中,警察署内の女性用更衣室兼仮眠室に2回にわたって侵入し(判示第1及び第2。以下「建造物侵入事件」という。),②同じ職員宿舎の同僚宅に侵入し(判示第3。以下「住居侵入事件」という。),③児童ポルノである動画データ等を記録したスマートフォンを所持した(判示第4。以下「児童ポルノ所持事件」という。)という事案である。
 被告人は,①建造物侵入事件においては当直という立場を,②住居侵入事件については職員宿舎の管理人という立場を,それぞれ利用して各犯行に及んでいるほか,③児童ポルノ所持事件においても,当時,警察署内の証拠品保管庫に立ち入ることができる立場にあったことを利用し,証拠品であるCD-Rに記録されていた児童ポルノである動画データ等を私用スマートフォンに取り込んだ末に本件犯行に及んだものである。いずれの犯行も,自らの立場への信頼を裏切る卑劣なものであるし,とりわけ,児童ポルノ所持事件については,警察官としての立場を悪用したものであって,警察活動全体に対する住民の信頼をも裏切るものといわざるを得ない。各犯行の動機も,性的好奇心を満たすというものであり,酌むべき点はない。
 これらの犯情に照らすと,被告人の刑事責任を軽視することはできず,本件は懲役刑を選択すべき事案である。
 以上を前提に,①被告人が本件各犯行を認めた上で贖罪寄付をするなど,反省の態度を示していること,②被告人に前科前歴はないこと,③被告人の母親が,公判廷において,今後被告人を監督する旨述べていることなどの事情も踏まえ,被告人については,主文の刑に処した上,今回に限り,その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役2年)
 鹿児島地方裁判所刑事部
 (裁判官 此上恭平)

自宅内盗撮行為を、卑わい行為として検挙した事例(京都府迷惑行為等防止条例)

自宅内盗撮行為を、卑わい行為として検挙した事例(京都府迷惑行為等防止条例)
 国法(窃視罪)では、他人の住居をのぞいた場合だけが規制されているのに、条例で、自分の住居内の盗撮行為を処罰できるのかという論点があり、京都府京都地検の検察協議でも検討が続いていました。

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h26改正のときの検察協議

昭和二十三年法律第三十九号
軽犯罪法
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

https://www.iza.ne.jp/article/20220412-VE3LMY4QK5JVZNCAZOL6VBZCFU/
男は男女の友人グループを自宅に招いては、少なくとも4年前から自宅トイレなどで20人以上の女性に対し約400回動画を撮影していた。府警のこれまでの任意聴取に対して「性的欲求を満たすため。将来的に(動画を売買して)小遣いも稼ぎたかった」と話しているという。

捜査関係者によると、男は昨年3~12月、自宅のトイレや脱衣場に設置した複数の小型カメラで、友人女性3人を7回盗撮した疑いが持たれている。男はトイレの天井につるした観葉植物や穴をあけた歯磨き粉のチューブなどにカメラを設置し盗撮していたという。

男は撮影した動画をツイッターに投稿していた。動画には女性らの顔も写っており、女性の1人から相談を受けた府警が捜査を進めていた。

京都府迷惑行為等防止条例
(卑わいな行為の禁止)
第3条
3 何人も、住居、宿泊の用に供する施設の客室、更衣室、便所、浴場その他人が通常着衣の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる他人に対し、第1項に規定する方法で、みだりに次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 当該状態にある他人の姿態を撮影すること。
(2) 前号に掲げる行為をしようとして、他人の姿態に撮影機器を向けること。
4 何人も、第1項に規定する方法で第2項に規定する場所若しくは乗物にいる他人の着衣等で覆われている下着等又は前項に規定する場所にいる着衣の全部若しくは一部を着けない状態にある他人の姿態を撮影しようとして、みだりに撮影機器を設置してはならない。

京都府迷惑行為等防止条例逐条解説
2)解説
第3項は、列挙している住居、宿泊の用に供する施設の客室、更衣室、便所、浴場のほか、人が通常着衣の全部又は一部を着けないでいるような場所にいる 「当該状態にある他人の姿態」を盗撮する行為を禁止している。そのほか、盗撮行為を未然防止するため、 当該場所にいる他人に対し、盗撮目的で撮影機器のレンズ部分を向ける行為についても規制の対象とするものである。盗撮目的であれば、 当該行為があった時点で違反が成立し、実際に他人の裸体等が撮影されたことは必要としない。
(3)用語の解釈
ア 「住居」 とは、人の起臥寝食に使用する建物をいい、その居住は、永続的であることを要せず、一時的でもよい。便所や浴室のように人が通常着衣の全部又は一部を着けないでいる場所はもちろんのこと、 リビングや廊下、玄関等であっても、着衣を着けないでいる場合があることから、 ここにいう 「住居」に当たる。したがって、住居内の便所、浴室などは、後述する 「便所」 、 「浴場」等ではなく、 「住居」 として規制されることとなる。
イ 「宿泊の用に供する施設の客室」 とは、宿泊の用に供することができる建物や乗
物内などの客を泊めるための部屋をいう。
具体例としては、
・ ホテルや旅館、民泊の客室
・ 山小屋、バンガローなどの客室
・ ラブホテル、モーテルの客室
・ 宿泊施設が併設されたサービスエリアや合宿所の客室
〔第3条:卑わいな行為〕
寝台列車やフェリーなどの乗物内にある宿泊用の客室
などが想定される。
なお、宿泊の用に供する施設の客室内に設置された「便所」や「浴室」などについては、 「宿泊の用に供する施設の客室」 として規制の対象となる。
ウ 「更衣室」 とは、人が着衣等を着替えるための場所のことであり、会社、学校、病院、 スポーツジム等に設けられている更衣室のほか、洋服店等で試着室として使用されている場所なども該当する。 また、会社内の空き部屋、倉庫等を更衣室として使用している場合も、それらの場所を「更衣室」 として使用している実態がある場合は、 ここにいう 「更衣室」に該当する。
エ 「便所」 とは、公衆便所のほか、学校、会社、官公庁、デパートなどの各種施設に設置されている便所、 イベント会場等で一時的に設けられた仮設便所、新幹線や高速バス等の乗物に設けられた便所など、あらゆる 「便所」が含まれる。
オ 「浴場」 とは、公衆浴場法(昭和23年法律第139号)第1条に規定する公衆浴場、旅館等の大浴場、露天風呂、会社、 スポーツジム、病院等に設けられた浴場などが該当する。浴場は浴室のみならず、脱衣場も含むと解する。
力 「その他人が通常着衣の全部又は-部を着けないでいるような場所」 とは、 「住居」 、 「宿泊の用に供する施設の客室」 、 「更衣室」 、 「便所」 、 「浴場」以外で、人が通常着衣の全部又は一部を着けない状態でいるような場所をいう。
具体例として、キャンプ・場のテント内、デパートやショッピングセンターの授乳室、病院の診察室、エステの施術室、検診車の車内などが該当する。そのほか、学校の教室を体育の授業のために一時的に更衣の場とする場合など、当該場所が行為発生時に「通常」着衣の全部又は一部を着けないでいるような場所に該当する場合があるので、個別に検討する必要がある。
第1号
(1)条文図解
(2)解説
第1号は、通常着衣の全部又は一部を着けない状態でいる他人の姿態を撮影する行為を規制するものである。 したがって、着衣を脱いでいない状態の他人を盗撮した場合は、本号の違反にはならず、第2号の「撮影機器を向ける行為」 を検討することとなる。
(3)用語の解釈
「当該状態にある他人の姿態」 とは、着衣の全部又は一部を着けないでいる状態にある他人の姿態をいい、例えば住居や更衣室等で裸体になっている人、又は着衣を脱ぎつつある人、若しくは着装しつつある人の姿態をいう。ただし、単に上着や靴下などを脱いだだけの姿態を撮影した場合は、 「人前に出れない差恥の姿」 とまでは言い難いため、 ここでいう 「一部を着けないでいる状態」には該当しないと解する。
当該状態にある 他人の姿態を 撮影すること
〔第3条:卑わいな行為〕
第2号:盗撮しようとする行為
(1)条文図解

前号に掲げる行為をしようとして ~ 他人の姿態に撮影機器を向けること

(2)解説
第2号は、盗撮行為を未然防止するため、盗撮目的で、通常着衣の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる他人に対し、撮影機器を向ける行為を規制の対象とするものである。実際に他人の裸体などが撮影されたことは必要とせず、盗撮目的であれば、他人に撮影機器を向けた時点で違反が成立する。 したがって、盗撮する目的以外の撮影については、規制の対象とならない。
(3)用語の解釈
ア 「前号に掲げる行為」 とは、通常着衣の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる他人に対し、 当該状態にある他人の姿態を撮影する行為をいう。
イ 「しようとして」 とは、他人の裸体等を盗撮する目的を有していたということである。 したがって、偶然に撮影機器のレンズ部分が女性が着替えている姿の方向に向いてしまった場合などは本号には該当しない。盗撮目的であるかは、行為者の撮影機器に記録された映像、 目撃状況、関係者の供述などから総合的に判断する必要がある。
ウ 「向ける」 とは、盗撮目的で、 「通常着衣の全部又は一部を着けないでいるような場所」にいる他人に対し、撮影機器のレンズ部分を向ける行為である。
(2)解説
第4項は、盗撮行為を未然防止するため、盗撮目的で、撮影機器をあらかじめ設置する行為を規制するものである。実際に他人の下着等や裸体などが撮影されたことは必要とせず、盗撮目的であれば、設置行為があった時点で違反が成立する。具体的には、駅や教室にいる女子高生のスカート内を盗撮するため、撮影機器をセットした鞄を置く行為や、着替えている女性の裸を盗撮するため、銭湯の脱衣場に小型カメラを取り付ける行為などが該当する。
(3)用語の解釈
ア 「第1項に規定する方法で」 とは、他人を著しく差恥させ、又は他人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法をいう。
イ 「第2項に規定する場所若しくは乗物」 とは、公共の場所、公共の乗物、事務所、教室、 タクシーのほか、不特定又は多数の者が出入りし、又は利用する場所又は乗物をいう。
ウ 「前項に規定する場所」 とは、住居、宿泊の用に供する施設の客室、更衣室、便所、浴場のほか、人が通常着衣の全部又は一部を着けない状態でいるような場所をいう。
エ 「設置」 とは、撮影する機能を有する機器を身体から離れた状態にして、置いたり、取り付けたりする行為をいう。
実際に他人の裸体などが撮影されたことは要せず、盗撮目的で、撮影機器をみだりに設置した時点で、違反が成立する。

島岡まな「ひそかに児童の姿態を記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させる行為と児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪」令和3年度重要判例解説 (ジュリスト臨時増刊)

 盗撮後、タビングされて押収されたHDDを没収したいので、複製行為まで製造罪を認めたいというのがこういう判決の本音です。

 単なる複製行為は製造罪ではなく、4項・5項の製造罪には、「写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより」という手段の限定がある。盗撮してきた画像を犯人方で複製するというのは、単なるダビング行為になるので、これが「ひそかに」というのであれば、盗撮以外の児童ポルノ画像をコッソリ複製するのもひそかに製造罪になってしまい、単なる複製行為は製造罪ではないという立法趣旨に反して、広すぎるというのが上告趣意でした。 この最決では「盗撮犯人が」ということで、主体が限定されました。

4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

島岡まな「ひそかに児童の姿態を記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させる行為と児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪」令和3年度重要判例解説 (ジュリスト臨時増刊)
5本決定の意義
本決定は,平成18年決定と共通する判例法理に基づき,①「製造者自身による複製」および②「(ひそかにという)当該手段で作成した電磁的記録の別の記録媒体への記録」は, 5項製造罪に当たるとした。
その結論は, 立法趣旨および保護法益の観点から支持できる。
上述の①主体の制限や②記録の同一性の要件は。7条による法益保護を最大限に目指しつつ.無限定な処罰範囲の拡大に歯止めをかけるぎりぎりの限界点であるように思われる。
他方で。多数説から主張される「犯意の同一性」や「時間的場所的近接性」等,一次的製造行為と一連一体といえる程度の関連性(包括的評価の可能性)を,本決定は明示的に示していない。
前者の犯意はともかく。後者の近接性の過度の強調は, 児童ポルノ根絶に向けて闘う国際水準に照らして疑問であり, それを特に要求しない本決定を支持する。
なぜなら, 盗撮と無関係な第三者を除き(坪井・前掲3045頁),盗撮した本人が同じ画像を他の記録媒体に複製する行為は,撮影直後だろうが1年後であろうが法益侵害性に相違はなく,前述したようなデメリット(立件や没収の困難性等) も合わせ考えれば,時間的場所的近接性を過度に強調した区別の合理的理由は見いだせないからである(包括的評価を必要としつつ時間的場所的近接性は緩やかでよいとするものに, 西貝吉晃・論ジユリ35号226頁)。
したがって,本決定の射程は,上記①②が揃った事案に及ぶと思われる。
一部の学説による,児童に「姿態をとらせる」行為のみが性的虐待で盗撮や複製はそれに当たらないとする解釈は,性的虐待・搾取の意味を狭く捉えすぎている。
情報技術, IoT等の発展に伴う有体物を中心とした立法方法への疑問(西貝・前掲231頁) もさることながら,今も深刻な性的虐待・搾取を受けている多数の児童を犠牲にしてはならないとの人権感覚および国際感覚が,学説に求められている。

ドイツでは単なるキャッシュデータの保存であっても児童ポルノの所持に当たる


 キャッシュOKっていうと、キャッシュ形式で保存しますよね。

https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=7973&item_no=1&page_id=13&block_id=21
https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=7973&file_id=22&file_no=1

髙良幸哉「児童ポルノ文書の自己調達および所持StGB §§ 184b IV, 52, 53」ドイツ刑事判例研究(88)
3 本件の検討に際し,先例となる裁判例について概観する。まず,本 件以前の下級審の裁判例として,Schleswig高等裁判所2005年?月15日判 決*1がある。これは,被告人がインターネット上で児童ポルノ的な文書に 当たる内容のウェブサイトを閲覧した事案につき,少なくともインターネ ット上で児童ポルノ的内容を検索した者,かかる内容のウェブサイトを呼 び出した者,コンピュータのディスプレイ上で見た当該サイトの単なる閲 覧者も,184b条の意味における所持調達として可罰的になるとする。次 に,BGHの判例として,BGH2005年?月?日決定*2は,改正前StGB184 条?項に基づく他人調達が競合する事案において,調達行為と所為単一で ある所持行為がそれぞれとも所為単一であることをもって,かすがい的 に,これらを所為単一のものとした事案である。当該事案に関しては,法 益侵害性の高い他人調達行為の法定刑が184条各号の犯罪と同等の処罰が 科されていたことから,これらを観念的競合とすることで刑の加重をして いる。その後の裁判例としては,BGH2006年10月10日決定*3がある。これ は,被告人が異なる日に数度にわたり児童ポルノ的内容を含むウェブペー ジを検索し,一方では自ら児童ポルノ的内容のデータファイルを自身のラ ップトップのハードディスク内にダウンロードして保存し,一方では閲覧 により,自動的に児童ポルノ的ウェブサイトのデータのキャッシュデータ が同ハードディスク上に保存されたという事案につき,BGHは,システ ム上自動的にキャッシュデータがハードディスク上から削除されるまでの 間,何時でも児童ポルノ的データファイルを検索することが可能である点 を指摘して,単なるキャッシュデータの保存であっても児童ポルノの所持に当たる旨明示している。この点について明示したのは,このBGH2006 年決定が初めての裁判例である*4。

児童ポルノが撮影・送信されてしまっている児童ポルノ要求行為(埼玉県青少年健全育成条例)の逮捕

 青少年条例の要求行為というのは、児童ポルノ製造罪(7条4項)の未遂・予備的性格ですので、撮影・送信されてしまい製造罪が既遂になった場合には、要求罪は成立しないと思います。
例えば
 1/1 要求
 1/2 製造
 1/3 要求
 1/4 製造
 1/5 要求
だとすると、要求罪は1/5だけになるでしょう。
 だいたい国法の製造罪は未遂を処罰しないのに、条例で未遂を処罰していいのかという論点もあります。

 兵庫県条例の同様の規定について、神戸地検も実効性がないと回答しています。

兵庫県知事井戸敏殿
神戸地方検察庁検事正
罰則の定めのある条例案に関する協議について(回答)
本年11月13日付け文第2280号をもって依頼のありました「青少年愛護条例の一部を改正する条例」について検討した結果,罰則の適用に関し,下記のとおり回答します。

第1 検討結果
1 児童ポルノ等の提供を求める行為
(1) 罰則を設けること
本条例の一部改正(以下, 「一部改正」という。)は, その必要性に基づいて,青少年に対して児童ポルノ等の提供を求める行為を禁止するものであり, これを担保すべく罰則を設けることにも合理的必要性が認められる。
ただし,
①警察が事件を認知するのは,青少年の相談を受けることによるのが通常と思われるが,青少年が行為者の求めに応じて児童ポルノ等を送信して児童ポルノの製造等に至るより前の段階で,警察が認知することは見込まれ難く, また,製造等に至っている場合に製造等のほかに法定刑の低い児童ポルノ等の提供を求める行為を併せて処罰する必要性に乏しいこと,
②現時点で他の地方公共団体には同様の罰則を設ける条例がないため,青少年が提供を求める行為を了知した時に兵庫県内にいたが(結果地),行為者が行為時に同様の条例が存在しない場所にいた事案では,行為者には,故意として,禁止場所における禁止行為であるとの認識,つまり,提供を求める行為が禁止されている兵庫県内で青少年が了知するとの認識が求められる可能性があることなどから,一部改正による罰則が適用される場面は,実際にはかなり限定されるものと思料される。

埼玉県青少年健全育成条例
児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)
第19条の3
何人も、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ及び同項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であ つ て、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第21条の4第1項及び第5項第2号において同じ。) その他の記録をいう。第29条第3号において同じ。)の提供を求めてはならない。
○追加(平成 30 年 10 月 16 日条例第 34 号
・・・
第29 条 次の各号のいずれかに該当する者は、 30 万円以下の罰金に処する。
(3)第 19 条の3の規定に違反して、次に掲げる行為を行 つ た者
イ 青少年に拒まれたにも かか わらず、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めること。
ロ 青少年を威迫し、欺き、若しくは困惑させ、又は青少年に対し、対償を供与し、若しくはその供与の申込み若しくは約束をする方法により、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めること。
・・・
※年齢知情条項は適用なし
第31 条 第 11 条第3項、第 12 条第3項若しくは第4項、第 16 条第2項、第 17 条の2 、 第17条の4第1項若しくは第2項(第1号又は第2号に係る部分に限る。)、第17条の5(第3号に係る部分を除く。) 、 第 18 条第 1 項、第2項若しくは第3項、第 18 条の2、第 18 条の3、第 19 条第1項若しくは第2項、 第 19 条の2、 第 20 条、第 21 条第2項又は第 21 条の2第1項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第 28 条から第 29 条 まで の規定による処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らな

第三十三条 この条例の罰則は、青少年に対しては、適用しない。

解説

(趣旨)
本条は、全ての者に対して、青少年に、自身の姿態が描写された児童ポルノ又はその情報を記録した電磁的記録その他の記録の提供を、当該青少年に不当に求める行為を禁止したものである。

(解説)
本条は、脅されたり、だまされたりするなどして、青少年自身が裸体等をスマートフォン等で撮影させられた上、メール等で送らされる被害、いわゆる「自画撮り被害」にあった青少年が急増しているため、不当に求める行為の禁止が新設されたものである。
1「何人も」とは、国籍、住所、年齢、性別を問わず、全ての人(自然人)を指す。 ただし、青少年が 本条 の違反行為を行っても罰則は適用されない(条例第 33 条)。
2「当該青少年に係る児童ポルノ等」とは、求める相手方である青少年自身の姿態が描写された児童ポルノ等であり、他の青少年の姿態が描写された児童ポルノ等を求めた場合については該当しない。
3「児童ポルノ」の該当性については、児童ポルノ禁止法第2条第3項の定義に準ずる。
4「提供を求める」は、児童ポルノ禁止法第7条第2項に規定する「提供」と同じであり、当該児童ポルノ等を相手方において利用し得るべき状態に置く法律上・事実上の一切の行為をいう。
具体的には、有体物(写真等)としての児童ポルノを交付するよう求めたり、電磁的記録を電子メールで送信するよう求める行為 等 が該当する。
5「求める」とは、青少年に対して、要求するのみならず、勧誘するなども含めた広い概念をいう。
6青少年に拒まれたにもかかわらず再度要求した者や、不当な方法により要求した者は、30万円以下の罰金に処せられる( 条例 第29条3号)。
[関係条文]
児童買春、児童ポルノ等に係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第2 条( 定義 、第7条 (児童ポルノ所持、提供等


・・・
第3号関係
( 「拒まれたにもかかわらず」とは、青少年に対して当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めた者がそれを拒否されたと認識しているにもかかわらずということになる。
したがって、やり取りの記録などから拒否されたと認識していることが明らかである場合のほか、社会通念上、青少年の意思表示が拒否したと認められるものであり、かつ、それが提供を求めた者に到達していることが明らかである場合には、拒否されたと認識していたということができる。
( 「威迫」とは、他人に対して言語挙動をもって気勢を示し、脅迫に至らない程度の人に不安の感を生じさせる行為をいう。
( 「欺く」とは、他人を錯誤に陥れ、虚偽の事実を真実と誤認させる行為である。真実でないことを真実であるとして表示する行為で、虚偽の事実を摘示する場合と真実の事実を隠ぺいする場合とが含まれる。
( 「困惑させる」とは、困り戸惑わせることをいい、暴行脅迫に至らない程度の心理的威圧を加え、又は自由意思を拘束することによって精神的に自由な判断ができないようにすることをいう。
相手方に威力を示す場合、義理人情の機微につけこむ場合、恩顧愛執の情義その他相手方を心理的に拘束し得るような問題を持ち込む場合などが考えられるが、いずれにしても、相手方に対する言動のほか、相手方の年齢・知能・性格、置かれた環境、前後の事情などを総合して判定する。
( 「対償を供与し、若しくはその供与の申込み若しくは約束をする」とは、児童ポルノ等の提供に対する反対給付としての経済的な利益を供与、又はその約束をすることをいう。
対償は、現金のみならず、物品、債務の免除も含まれ、金額の多寡は問わない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8bbf7dc41523ce82756f58bcc8091dc428f52cc7
女子高生に「わいせつ画像の定期契約」求めた男逮捕 同じ趣味で知り合った2人 生徒のスマホ見た父母驚き
逮捕容疑は昨年7月18日~8月1日、県内居住の10代の女子高校生が18歳に満たないことを知りながら、「定期契約しませんか」「毎月3千円とか」「画像も欲しいです」などとメッセージを送信し、わいせつな画像を要求した疑い。

 同署によると、同年8月11日に女子高校生の両親が「スマートフォンの中を確認したところ、わいせつな画像が保存されていた」と同署に相談し、通信状況などから男とのやりとりを発見した。2人は共通の趣味から交流サイト(SNS)で知り合ったという。「裸が見たかった」と容疑を認めているという。

児童ポルノ公然陳列罪の罪数処理 包括一罪説から併合罪説へ

 児童ポルノ公然陳列罪の罪数はサーバーの個数で決まるという植村判決(東京高裁h16.6.23)も効かないなあ。
 奥村は従前から併合罪説だったので、ようやく高裁が付いてきた感じです。
 下記の高裁判例の弁護人は全部奥村です。弁護人弁護士奥村徹併合罪と主張すれば包括一罪だと判示して、弁護人弁護士奥村徹が包括一罪と主張すれば併合罪だと判示していることが明らかです。

包括一罪説

阪高裁h15.9.18
(法令の適用)
第1の所為 児童買春児童ポルノ禁止法4条
第2の所為 包括して同法7条1項
児童買春児童ポルノ禁止法2条3項の各号に重複して該当する画像データがあることは所論指摘のとおりであるものの,検察官においてそれらの重複するものについてはより法益侵害の程度の強い先順位の号数に該当する児童ポルノとして公訴事実に掲げていることは明らかであって,包括一罪とされる本件において,それぞれの画像データが上記各号の児童ポルノのいずれに該当するかを個々的に特定する必要もない
・・・
東京高裁h16.6.23
2所論は,要するに,原判決は,被害児童ごとに法7条1項に違反する罪(児童ポルノ公然陳列罪)が成立し,結局これらは観念的競合の関係にあるとして,その罪数処理を行っているが,本罪については,被害児童の数にかかわらず一つの罪が成立するというのが従来の判例であるから,原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第16)。
 そこで,本件に即して検討すると,法7条1項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当である。確かに,所論もいうように,児童個人の保護を図ることも法の立法趣旨に含まれているが,そうであるからといって,本罪が,児童個人に着目し,児童ごとに限定した形で児童ポルノの公然陳列行為を規制しているものと解すべき根拠は見当たらず,被害児童の数によって,犯罪の個数が異なってくると解するのは相当でない。
 そして,本件では,被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎないものと解される。したがって,この点に関する所論は正当であって,被害児童ごとに本罪が成立するとした原判決の法令解釈は誤りである。
・・・・

名古屋高裁h23.8.3
4 控訴理由④について
 論旨は,本件各画像の被写体となっている児童は3名であるから,本件は児童ポルノ公然陳列罪3罪の併合罪とされるべきであるにもかかわらず,これらを混然と1罪とした本件起訴状は訴因の特定を欠くものであって,この不備を補正させることなく,また公訴を棄却せずに実体判決をした原審の訴訟手続には法令違反があり,さらに,本件を1罪とした原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件犯行は,児童3名が1名ずつ撮影された本件各画像(4点の画像のうち2点は同一の児童が撮影されたものと認められる。)のデータを,約5分間の間に,インターネットのサーバコンピュータに記憶,蔵置させた上,本件各画像の所在を特定する識別番号(URL)をインターネットの掲示板内に掲示して児童ポルノを公然と陳列したというものであり,本件各画像が上記掲示板内の「ロリ画像①」と題する同一カテゴリ内に掲示されているなど,各陳列行為の間に密接な関係が認められることからすれば,各児童に係る児童ポルノ公然陳列罪の包括一罪であると解するのが相当である。
したがって,本件起訴状は訴因の特定を欠くものではないから,原審の訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由がない。なお,原判決は本件を単純―罪と判断したものと解されるが,処断刑期の範囲が包括一罪と同一であるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはないというべきである。

併合罪

東京高裁R04
第4 法令適用の誤りの主張について
 1 論旨は、要するに、同一児童の同一画像を数回にわたり陳列した原判示の公然陳列行為は包括一罪であるのに、併合罪とした原判決には法令適用の誤りがある、というのである。
 2 原判決は、要旨、次のように説示して、被告人Aが3回にわたり本件動画を公然と陳列した行為は併合罪の関係に立つと判断した。
   すなわち、被告人Aはつのアカウントが凍結されたことを確認した後、新しいアカウントを作成して再び本件動画を投稿しており、アカウント凍結により本件動画は一度公然と陳列された状態ではなくなっていたから、そのような状態で本件動画を再度投稿するのは、記憶・蔵置されたサーバコンピューターが同一であったとしても、別個の法益侵害を発生させていると評価すべきである。
 3 こうした原判決の判断は不合理ではない。
   所論は、児童ポルノ提供罪では社会的法益や反復性を重視して包括一罪とされることが多く、児童ポルノ公然陳列罪でも同様に包括一罪となると主張する。しかし、児童ポルノ公然陳列罪は行為の反復・継続がその性質上当然に予定されているということはできないし、被告人Aは動画の投稿に利用したアカウントが凍結されると新たなアカウントを作成して動画を投稿しており、その都度児童ポルノを公然と陳列する別個の犯意に基づき別個の行為に及んだと認められるから、所論は採用できない。
 4 論旨は理由がない。

阪高裁r03
(2)公然陳列の罪数に関する所論について
 ア 所論〔主任弁護人〕は,原判決は原判示第1の児童ポルノ公然陳列罪と原判示第2の児童ポルノ公然陳列罪とを併合罪としているが,被告人のこれらの行為は,令和年月日から同年月日にかけて,自宅で,反復して児童の裸体画像を公然陳列するところにあり,しかも,陳列したのは1個のサーバコンピュータであり,公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まると解するべきであるから,公然陳列行為は1個の行為であって単純一罪ないし包括一罪と評価されるべきであり(1個の公然陳列行為によって,わいせつ物公然陳列罪と児童ポルノ公然陳列罪を充たすので,両罪の観念的競合となる。),原判決には法令適用の誤りがある旨主張する。
 イ この点,原判決は,法令適用の罰条において「判示第1の1の所為のうち,児童ポルノ公然陳列の点及び判示第2の所為につき,各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ法7条6項前段(2条3項2号,3号)に該当する」としているところ,児童ポルノ法は,児童を性欲の対象とする風潮を防止するという面で児童一般を保護する目的がある一方で,同法1条の目的規定や各個別規定による児童ポルノ規制のあり方に照らすと,当該児童ポルノに描写された個別児童の権利保護をも目的としていると解される。そうすると,被害児童ごとに法益を別個独立に評価して各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めている原判決の罰条適用は正当なものである。所論は(児童ポルノ)公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まるというが,同罪の個人的法益に対する罪としての性格を軽視するものであって賛同できない。
 その上で,原判決は「判示第1の1の所為は,1個の行為が10個の罪名(わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の包括一罪と9個の児童ポルノ公然陳列)に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により,判示第1の2のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列を含め,1罪として刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑で処断する」と科刑上一罪の処理をしているところ,これは,複数のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列は,社会的法益に対する罪である同罪の罪質に照らし,同一の意思のもとに行われる限り包括一罪として処断され,さらに,児童ポルノであり,かつ,わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列したときは,児童ポルノ公然陳列罪とわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪との観念的競合になることから,結局,原判示第1の各罪を包括一罪(刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑)で処断したものと考えられるのであり,そのような原判決の法令適用に誤りはない。
 ウ もっとも,そのように包括一罪とされる原判示第1のうちの同2のわいせつ電磁的記録記録媒体の公然陳列行為と,原判示第2の児童ポルノの公然陳列行為とは,同じ日の僅か4分の間に続けて行われたものであるから,これらをも包括一罪とする考えもあり得るところで,現に原審検察官の起訴はそのようなものであったが,しかし,児童ポルノ公然陳列罪の個人的法益に対する罪としての性格を重視し,あえてそのような処理をせず,原判示第1の罪と原判示第2の罪とを併合罪の関係にあるとした原判決の法令適用に誤りがあるとはいえない。
 公然陳列の罪数に関する所論も採用できない。
 論旨は理由がない。

セクスティングの分類①注目希求型,②性欲充足型,③同性愛社交型④金銭授受型,⑤提供・拡散型⑥強要型

 児童が単独で撮影・送信する場合は、児童が、提供目的製造罪・提供罪になるということを前提にして、「犯罪少年」として扱われているようです。
 おっさんに売ると、「被害児童」になります。

熊本家庭裁判所山本浩二ほか「SNS等を利用した非接触型の性非行を中心とする性非行事件に関する研究」家裁調査官研究紀要26
第4熊本家庭裁判所に事件係属した事例の考察
1 研究対象事例
平成27年4月から平成30年3月までに熊本家庭裁判所に事件係属した児ポ法違反事件又はわいせつ電磁的記録に係る記録媒体陳列事件の在宅事件28事例を対象とした
(資料2)。
男女の内訳は,男子少年22人(78. 6%),女子少年6人(21.4%)である。
非行時の年齢は, 14歳2人(7. 1%), 15歳l1人(39.3%), 16歳7人(25%), 17歳7人(25%), 18歳0人, 19歳1人(3.6%)である。事件別では,児ポ法違反事件のみが21人,児ポ法違反事件及びわいせつ電磁的記録に係る記録媒体陳列事件が6人. わいせつ電磁的記録に係る記録媒体陳列事件のみが1人である。
非行時の職業は,全員が学生であり,有職者はいなかった。学籍は,高校生が18人(64.2%), 中学生が9人(32.2%),大学受験生が1人(3.6%)であった。
2事例の分類
本研究における研究対象事例を検討するに当たり,試みとして,
①注目希求型,
②性欲充足型,
③同性愛社交型
④金銭授受型,
⑤提供・拡散型
⑥強要型
という六つの類型を考えた。類型を作るに当たっては,前述のWolak&Finkelhor (2011)によるセクステイングの分類における着眼点(事案の性質被写体の種類,動機等)を参考に,主に動機・目的によって分類した(資料3)。
なお,性欲充足型と強要型は,性欲の充足という目的は同じであるが,高岸准教授から, その悪質さの程度が大きく異なることや,性加害の深刻度を見る際のポイントの一つである「脅迫・手なずけの有無」によって性欲充足型と強要型とを区別できるという助言を得たことから,別類型とした。
また,同性愛社交型については,研究対象事例の数は少ないものの,高岸准教授から,海外の先行研究(例えば,DirA"etal"2013)では,同性愛者やバイセクシャルの人は,そうでない人に比べてインターネットを介した写真のやり取りが際立って多いことが指摘されており, マイノリテイの仲間を探そうとする願望の結果でもあると言われていることから,一つの類型として独立した方がよいのではないかとの助言を得たことから,類型として独立させた。
複数の動機・目的が複合する事例については, より強い動機・目的によって分類を行
った。

3研究対象事例からみられる各類型の特徴
次に,研究対象事例からみられる各類型の特徴や少年の課題,教育的措置の在り方な
どについて,事例紹介も含めて示す。研究対象事例は,在宅事件であることもあり, その多くが不処分までで終局しているが,類型によって少年の要保護性や終局決定が定まるわけではなく,誤解を避けるため,終局決定については記載していない。
(1) 注目希求型(9人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が閲覧者の反応や閲覧者の増加を期待することにあり,注目を浴びることで心理的な満足感を得るために, SNS等を通じて性器等の画像等を投稿するものを注目希求型とした。
イ内訳
・・
ウ動機・目的及び非行態様
主な動機・目的は,①自己のTwi t terのフォロワーや, スレッドや掲示板の閲覧者を増やしたかった,②多くの者が自己の児童ポルノを投稿しており,個人が特定されることはないと思った,③フォロワーや閲覧者が, どんな反応を示すか楽しみだった, といったものであり,児童ポルノを投稿することで,他者の反応を得たり注目を集めようとしたりしていた。
大半の少年は, SNS等に自己の性器等の画像等を投稿することに性的欲求の充足を求める気持ちはなかったと述べ,性的な欲求の関連を否定していた。しかし,
実際に少年らがSNS等に投稿した画像等には勃起した陰茎の画像や自慰行為の動画があり,少なくとも製造し投稿する際には性的な興奮や充足感も得ていた少年がいると思われるほか, 自慰行為の動画を他者が見ていると想像することに興奮を感じたと述べた少年もおり,性欲充足型の少年のように性欲が主たる目的ではないとしても,多少なりとも性的な欲求があったと考えられる。
また,大半の少年は, SNS等を通じて知り合った人と実際に会おうとしたり性的な接触を求めたりはしていないが,女子少年2人については,別の男子少年の育成条例違反で被害者になっていて, SNS等で知り合った人から会うことを求められて性交までしていたことが分かっている。
エ特徴
・・
(2) 性欲充足型(6人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が性的な欲求を満たすことにあり, SNS等を通じて被害者に裸体等の画像等を送るよう依頼したり,性交の相手を探す目的で自己の性器等の画像等を投稿したりするものを性欲充足型とした。
イ内訳
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(3) 同性愛社交型(2人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が同じ性的指向を持つ者を探すことにあり, SNS等を利用して自己の性器等の画像等を投稿したりするものを同性愛社交型とした。

(4) 金銭授受型(4人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が金銭を得ることにあり, SNS等を利用して自己又は他者の性的画像等を販売しようとしたり,性交相手を探そうとしたりしたものを金銭授受型とした。
イ内訳
女子3人,男子1人であり,全員が高校生であった。年齢は16歳と17歳が2人ずつであった。男子は周囲から模範的な生徒と見られていたが,女子は学校内での人間関係に問題を抱えており,不登校になったり孤独感を抱えたりしていた。両親健在が3人,母子家庭が1人であった。ただし,両親健在の家庭も父の存在感が希薄であったり,両親の関心が弟の方に向いていると感じて寂しさや不満を抱えたりしていた。母子家庭では経済的な問題があったが,他の家庭に経済的な問題はうかがえなかった。性体験がないのは2人(ただし, 1人は本件で出会った相手と初交)で,男子はSNS等で知り合った男性の性器を3千円もらって口淫し,被害者として警察の事情聴取を受けたことがあった。
ウ動機・目的及び非行態様
女子は, SNS等で性交相手を求めようとし, 自分を目立たせるために自己の裸の画像等を投稿した者が2人,自己の裸体等の画像等を売却した者が1人であった。男子は, インターネットで購入した児童ポルノの動画を自分の妹の動画として売却したものであった。
単純に金銭を得ることを目的とした者は3人で,性交相手を求めた女子のうち1人は,性交して結果的に金銭を得ているが,最初から金銭目的ではなく,精神的不調を抱え, 自分が必要とされていることを実感したいという思いから性交相手を求めていた。他の分類に該当するものがなく,最終的に金銭を受け取っていることから,金銭授受型に分類した。
エ特徴
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(5)提供・拡散型(4人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が性的な欲求の充足や金銭ではなく,仲間内の人間関係の維持や被害者への悪意といったものにあり,他者の裸体等の画像等をSNS等で特定の者に提供したり不特定多数が閲覧できるようにしたりするものを提供・拡散型とした。
・・
(6) 強要型(3人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が性的な欲求を満たすことにあり, そのために被害者を脅迫するなどし,強いて被害者に性器等の画像等を送信させるなどしたものを強要型とした。
性的な欲求を満たすという動機や目的は性欲充足型と同じであるが, 強要型の手段には攻撃性や悪意が認められる点が性欲充足型とは異なっている。また,被害者に対する悪意があるという点では拡散型と同じであるが,強要型では被害者の裸体等の画像を脅迫などによって入手している点が拡散型とは異なっている。
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(7) まとめ
全ての類型において, スマートフオンの普及による個室化匿名性や相手と簡単に連絡を取り合える双方向性といったSNS等の特性の影響がうかがえた。SNS等の匿名性の高さは現実生活ではできないことを可能にし,違う自分を演じたり表出できない欲求を表出したりすることができる。そのことが注目希求型や性欲充足型のような性的画像等の投稿への契機となったり, また,強要型のような攻撃性や支配欲求の発露を助長したりすることが考えられる。
研究対象事例の少年に非行歴がある者は少なく, SNS等での言動と現実生活での言動は異なるため, SNS等における非接触型の性非行が現実生活における性非行につながりやすいとまでは言えない。しかし,女子少年は,金銭授受型に限らずSNS等で知り合った男性と実際に出会っているケースが多く,女子少年が被害者にならないようにするためにも,女子少年がSNS等でどのような言動をとっており,相手とどのようなやり取りをしているかをしっかりと確認する必要がある。また,強要型や拡散型には攻撃性や支配欲求,悪意といった要因がうかがえ,少年の抱える問題が比較的大きいと考えられる。同種の非行の再発だけでなく, これらの少年の有する攻撃性等がより深刻な被害を生じさせる別の非行につながるおそれはないかについても,より慎重に調査する必要があろう。

高校生の陸上大会で、競技場ゲート外側からズーム機能を使ったデジタルカメラで、ユニホーム姿の女子選手らの下半身を多数回撮影した行為を、京都府迷惑行為等防止条例3条1項6号(卑わいな言動)として罰金30万円にした事例(右京簡裁R03.12.7)

 事件特定して刑事確定訴訟記録法で閲覧しました。
 アスリート盗撮も迷惑条例で対応できるようです。
 背後の遠方からから臀部を狙ったようです。

京都府迷惑行為等防止条例
平成13年3月30日 条例第17号
(令和2年1月18日施行)
(卑わいな行為の禁止)
第3条
1 何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる他人に対し、他人を著しく羞恥させ、又は他人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、みだりに次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 他人の身体の一部に触ること(着衣その他の身に着ける物(以下「着衣等」という。)の上から触ることを含む。)。
(2) 物を用いて他人の身体に性的な感触を与えようとすること。
(3) その意に反して人の性的好奇心をそそる姿態をとらせること。
(4) 着衣等で覆われている他人の下着又は身体の一部(以下「下着等」という。)をのぞき見すること。
(5) 前号に掲げる行為をしようとして他人の着衣等の中をのぞき込み、又は着衣等の中が見える位置に鏡等を差し出し、置く等をすること。
(6) 着衣等を透かして見ることができる機器を使用して、着衣等で覆われている他人の下着等の映像を見ること。
(7) 異性の下着を着用した姿等の性的な感情を刺激する姿態又は性的な行為を見せること。
(8) 人の性的好奇心をそそる行為を要求する言葉その他の性的な感情を刺激する言葉を発すること。
(9) 前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動(次項から第4項までに規定する行為を除く。)をすること。
(罰則)
第10条 
1 第3条第1項、第2項(第2号に係る部分に限る。)、第3項(第2号に係る部分に限る。)若しくは第4項又は第8条の規定に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/693555
高校生の陸上競技大会でユニホーム姿の女子選手の下半身を執拗(しつよう)に撮影したとして、右京区検は13日、京都市右京区の会社員男性(47)を京都府迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)の罪で略式起訴した、と発表した。1日付。右京簡裁は7日、罰金30万円の略式命令を出した。
 起訴状によると、8月22日、京都市右京区たけびしスタジアム京都で開催された高校生の陸上大会で、競技場ゲート外側からズーム機能を使ったデジタルカメラで、ユニホーム姿の女子選手らの下半身を多数回撮影したとしている。
 府迷惑行為防止条例では、下着や裸を狙った隠し撮りを「盗撮」として処罰の対象とする一方、昨年1月の条例改正で「卑わいな言動」についても新たに規制。京都府警は、着衣の上からでも執拗に下半身を撮影したとされる男性の行為が、「卑わいな言動」に当たると判断し、9月に書類送検していた。

 京都府警はあたかもアスリート盗撮に対応して改正したかのようにコメントしていますが京都府迷惑行為防止条例逐条解説(2020年4月)では具体例がマスクされています。

京都府迷惑行為防止条例逐条解説(2020年4月)
京都府迷惑行為防止条例の一部改正について ~令和2年1月18日施行~