児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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わいせつ電磁的記録記録媒体陳列被告事件、性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律違反被告事件東京地裁令和5年9月14日

わいせつ電磁的記録記録媒体陳列被告事件、性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律違反被告事件東京地裁令和5年9月14日
「AV出演被害防止・救済法」「本法」とされています。

判例番号】 L07831161
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
       主   文
 被告人Y1を懲役2年及び罰金150万円に、被告人合同会社Y2を罰金30万円に処する。
 被告人Y1においてその罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
 被告人Y1に対し、この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
 被告人Y1から金876万3449円を追徴する。

       理   由

(罪となるべき事実)
第1 被告人Y1(以下「被告人Y1」という。)は、インターネット上の動画販売サイトを利用して、不特定多数のインターネット利用者にわいせつな電磁的記録である動画ファイルを公然と陳列しようと考え、別表記載のとおり、平成28年9月30日頃から令和4年9月19日頃までの間、29回にわたり、東京都品川区(以下略)の当時の被告人方において、男女の性交場面等を露骨に撮影したわいせつな電磁的記録である動画ファイル29点を、インターネットに接続したパーソナルコンピューターを用いて、「D」が管理するサーバーコンピューターにそれぞれ記録、保存させた上、令和4年10月20日までの間、不特定多数のインターネット利用者が、被告人が設定した代金を支払うことにより前記各動画の閲覧が可能な状態を設定し、もってわいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列した。
第2 被告人合同会社Y2(以下「被告会社」という。)は、千葉県市川市(以下略)に本店を置き、性行為映像制作物等の映像制作等を業とするもの、被告人Y1は、被告会社の代表社員として被告会社の業務全般を統括するものであるが、被告人Y1は、被告会社の業務に関し、
 1 令和4年9月1日、横浜市保土ケ谷区(以下略)「E」512号室において、
 (1)別紙秘匿目録記載のA(以下「A」という。)との間で性行為映像制作物への出演契約を締結しようとするに際し、あらかじめ、同人に対し、法令で定める事項を記載し又は記録した説明書面等を交付し又は提供しなかった
 (2)Aとの間で性行為映像制作物への出演契約を締結した際、速やかに、同人に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し又は提供しなかった
 2 令和4年9月19日、川崎市宮前区(以下略)「F」211号室において、
 (1)別紙秘匿目録記載のB(以下「B」という。)との間で、性行為映像制作物への出演契約を締結しようとするに際し、あらかじめ、同人に対し、法令で定める事項を記載し又は記録した説明書面等を交付し又は提供しなかった
 (2)Bとの間で性行為映像制作物への出演契約を締結した際、速やかに、同人に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し又は提供しなかった
 3 令和4年9月23日、東京都品川区(以下略)において、
 (1)別紙秘匿目録記載のC(以下「C」という。)との間で性行為映像制作物への出枝契約を締結しようとするに際し、あらかじめ、同人に対し、法令で定める事項を記載し又は記録した説明書面等を交付し又は提供しなかった
 (2)Cとの間で性行為映像制作物への出演契約を締結した際、速やかに、同人に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し又は提供しなかった。
(証拠の標目)
(法令の適用)
被告人Y1について
 罰条
  判示第1の行為
   包括して刑法175条1項前段
  判示第2の1(1)、第2の2(1)及び第2の3(1)の各行為
   いずれもAV出演被害防止・救済法22条1項2号、21条1号、5条1項
  判示第2の1(2)、第2の2(2)及び第2の3(2)の各行為
   いずれもAV出演被害防止・救済法22条1項2号、21条2号、6条
 刑種の選択
  判示第1の罪について
   懲役刑及び罰金刑を選択
  判示第2の1(1)ないし第2の3(2)の各罪について
   いずれも懲役刑及び罰金刑を選択
 併合罪の処理
  懲役刑について
   刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
  罰金刑について
   刑法45条前段、48条2項(各罪所定の罰金の多額を合計)
 労役場留置
  刑法18条(金1万円を1日に換算)
 刑の全部執行猶予
  懲役刑について
   刑法25条1項
 追徴
  組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律16条1項本文、13条1項1号(判示第1の罪に係る犯罪収益のうち、主文掲記の追徴額は没収することができない。)
被告会社について
 罰条
  判示第2の1(1)、第2の2(1)及び第2の3(1)の各行為
   いずれもAV出演被害防止・救済法22条1項2号、21条1号、5条1項
 判示第2の1(2)、第2の2(2)及び第2の3(2)の各行為
   いずれもAV出演被害防止・救済法22条1項2号、21条2号、6条
 併合罪の処理
  刑法45条前段、48条2項(各罪所定の罰金の多額を合計)
(法令の適用に関する補足説明)
第1 争点等
 弁護人は、判示第2の各事実(以下「本件各事実」という。)に関し、AV出演被害防止・救済法(以下「本法」という。なお、本法の規定を引用する場合には、「法」と略称する。)5条1項、6条、21条、1号、同条2号、22条1項2号の各規定(以下、法5条1項を「本件説明義務規定」、法6条を「本件契約書等交付義務規定」といい、両者及びそれらの違反に対する罰則規定である法21条1号、同条2号及び22条1項2号を併せて「本件各規定」という。)は、憲法22条1項に違反して違憲無効ないし本件各事実に適用する限りで違憲無効であるため、本件各事実について被告人Y1及び被告会社は無罪である旨主張する。
 当裁判所は、本件各規定は、憲法22条1項に違反するものではなく、本件各事実への適用においても違憲とはいえず、本件各事実について被告人Y1及び被告会社はいずれも有罪であると判断したので、以下その理由を補足して説明する。
第2 本法の規定等
 1 本法は、性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることに鑑み、性行為映像制作物への出演契約に関し、その締結の前後を通じて出演者の性に関する自己決定権を保障し、併せてその心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護するため、制作公表者が、出演契約を締結し、性行為映像制作物の制作公表を行うにあたって守るべき各種の規律を定めている。
 2 すなわち、制作公表者が出演者との間で出演契約を締結しようとするときは、出演契約書等の案を示して出演契約事項を説明し、また、法5条1項各号所定の事由について、説明書面等を交付等して説明しなければならず(法5条1項)、出演契約を締結した場合には、速やかに、当該出演者に対し、出演契約事項が記載等された出演契約書等を交付等しなければならない(法6条)。また、性行為映像制作物の撮影は、出演契約書等の交付等又は説明書面等の交付等のいずれか遅い日から一月を経過した後でなければ、行ってはならず(法7条1項)、性行為映像制作物の公表までの間には、出演者に対し、当該出演者の出演に係る映像であって公表を行うものを確認する機会を与えなければならない(法8条)。さらに、性行為映像制作物の公表は、その撮影が終了した日から四月を経過した後でなければ行ってはならない(法9条)。そして、制作公表者が法5条1項、6条の規定に違反したときは、出演者は出演契約を取り消すことができ(法11条)、法7条1項、8条、9条の規定の違反があった場合には、出演契約を無催告で解除することができる(法12条)上、性行為映像制作物の公表が行われてから一年を経過するまでは、出演者は、出演契約の任意解除等ができるものとされている(法13条1項)。
 その上で、制作公表者が、法5条1項に違反し、説明書面等を交付等しなかった場合には、六月以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされ(法21条1号)、法6条に違反して、出演契約書等を交付等しなかった場合にも、同様に処罰される(法21条2号)。なお、上記各罰則についての両罰規定として法22条1項2号が定められている。
第3 本件各規定の合憲性
 1 憲法、22条1項は、狭義1における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由も保障しているところ、職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その同項適合性を一律に論じることはできず、その適合性は、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。この場合、上記のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ、その合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭があり得る(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。
 2 本件説明義務規定は、制作公表者に対し、出演契約の締結に当たって、あらかじめ、出演者に対し、出演契約事項だけでなく、本法による出演契約の規制内容等(法5条1項1号)、撮影された映像により出演者が特定される可能性があること(同項3号)、出演契約に関する相談機関の名称及び連絡先(同項4号)等を記載等した書面等を交付等して説明することを義務付けている。これは、性行為映像制作物への出演が、出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害を生ぜしめるおそれがあることから、出演者が契約の内容や効果を十分に理解した上で契約締結の判断をできるようにし、また、説明書面等を交付等することで、契約締結後も、前記相談機関を含む第三者への相談等も含め、性行為映像制作物への出演について熟慮する機会を与えることで、出演者の性に関する自己決定権を保障する趣旨と解される。
 本件契約書等交付義務規定についても、前記性行為映像制作物への出演に伴うリスクの内容及び性質に鑑み、出演契約締結後に、出演者が契約の内容を確認できるようにするとともに、出演契約書等を見せながら前記相談機関を含む第三者に相談すること等も含め、性行為映像制作物への出演について熟慮する機会を与えることによって、出演者の性に関する自己決定権を保障する趣旨と解される。
 以上によれば、本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定の上記各目的が、公共の福祉に合致することは明らかである。
 3(1)そこでまず、本件説明義務規定についてみると、その説明の対象となる事項(以下「説明事項」という。)は、出演契約事項のほか、出演契約締結を判断するに際し重要な事項であると認められ、出演契約の性質及び内容等に照らせば、前記目的のために、所定の事項を記載等した書面等を交付等して説明させることに合理性があることは明らかであり、説明事項の内容に照らせば、書面等を準備することも含め、説明それ自体の負担は限定的なものである。また、本件説明義務規定に違反して出演契約が締結された場合には、性行為映像制作物への出演が出演者の意に沿わないものとなりかねず、出演者に重大な被害を与える危険性があること等に照らせば、本法所定の罰則をもってその実効性を担保していることにも相応の必要性、合理性が認められる。
 (2)次に、本件契約書等交付義務規定についてみると、前記目的に照らし、所定の事項を記載した契約書等を交付させることに合理性があることは明らかであり、その負担も、本件のような規定がない場合であっても、契約の締結に伴って通常生じ得るものにすぎない。また、契約書等の交付がなかった場合には、契約の内容を十分確認することができず、性行為映像制作物への出演が出演者の意に沿わないものとなるおそれがあり、出演者に前記のとおり重大な被害を生ぜしめるおそれがあること等に照らせば、本法所定の罰則をもってその実効性を担保していることにも相応の必要性、合理性が認められる。
 4(1)ア 以上の各点に関し、弁護人は、法7条1項、9条及び13条の各規定に沿って性行為映像制作物の制作公表を行った場合に生じる制作公表者や出演者等に対する影響の大きさや、法7条1項及び9条によれば、本法施行日から5か月間は、性行為映像制作物の公表ができなくなり、その間、実質的に収入を得る機会がなくなること、同施行に伴い、従前、性行為映像制作物の制作公表やそれへの出演によって稼得していた人々の中に収入の減少等により経済的な不利益を被った者がいること等を指摘し、法7条1項、9条及び13条が、許可制と同様に職業の選択の自由そのものに対する強力な制限である旨主張し、職業の自由に対するより緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によってはその目的を十分に達成することができないと認められるか否かを審査すべきであると主張しているものと解される。
 イ しかしながら、まず、本件でその憲法適合性が問題となっているのは本件各規定であって、弁護人が指摘する法7条1項、9条及び13条が直接問題となる訳ではない。
 その上で、弁護人の前記主張にも鑑み、本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定において、説明事項とされ、また、出演契約の内容を規律するものとされている法7条1項、9条及び13条の各規定の内容も踏まえて検討すると、まず、法7条1項、9条及び13条の各規定により、性行為映像制作物を制作公表するにあたって事前の届出や許可等が課されていたり、制作公表を行う主体が法的に制限されたりしているものではない。さらに、前記各規定の内容を具体的に検討すると、法7条1項及び9条に関していえば、性行為映像制作物の内容やそれによる事業活動それ自体を全面的に規制するものではなく、本件各規定と同様、出演者の性に関する自己決定権を保障するという観点から、性行為映像制作物の制作公表のプロセスに対して一定の規制を課したものにとどまるところ、撮影や公表までに経過が必要とされる期間も、前述した性行為映像制作物の出演に伴うリスクの内容及び性質並びに制作公表に要する期間等に照らして合理的な限度といい得る。また、法7条1項及び9条の各規定によって、本法施行後、最低5か月間は、同施行後に締結した出演契約に基づく性行為映像制作物が公表できないとしても、それは、上記のようなプロセスに対する規制を定めたことに伴うもので、その間職業の自由に対する制限の程度が強くなるというものではなく、また、その間においても、性行為映像制作物の制作公表に向けた新たな出演契約の締結や、法施行前に締結された出演契約に係る性行為映像制作物の制作公表の事業活動が制限されるものではなかったこと(法附則2条)等からすると、前記各規定によって、出演者を含め、収入を得る機会が実質的に奪われていたともいい難い。さらに、法13条に関しても、出演者の性に関する自己決定権を保障し、出演者の心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護するために、前述した性行為映像制作物への出演に係るリスクの内容及び性質等を考慮して定められた一定の期間に限って出演者に任意解除権を認めたものにとどまる。そして、法7条1項、9条及び13条のいずれの規定についても、それに違反して性行為映像制作物の制作公表を行うことが罰則の適用対象になっている訳でもない。
 このように、法7条1項、9条及び13条の各規定による制約の内容を具体的にみても、制作公表者はもとより、出演者その他の性行為映像制作物の制作公表に関係する主体も含め、職業選択の自由そのものに対する強力な制限になっているということはできず、したがって、これら各規定に関連し、説明義務や契約書等の交付義務を課すにすぎない本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定についても、職業選択の自由そのものに対する制限を加えるものとはいえない。
 以上によれば、本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定は、職業活動の内容及び態様に対する制限にとどまるもので、その制限の程度も大きいということもできず、弁護人の前記アの主張はいずれも採用できない。
 (2)なお、弁護人は、本法による規制が定められたことにより、公布から5か月間は職業選択の自由が失われていたといえ、同施行後5か月以内に起訴された本件各事実に適用する限りで違憲である旨を主張するが、前記4(1)イのとおり、同施行後5か月以内であっても被告人の職業選択の自由が実質的にも失われていたとはいえないから、弁護人の主張は、採用することができない。
 5 以上によれば、本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定を定め、それに違反した者を処罰するとの規制に必要性、合理性があるとした立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を超えるものであるということはできず、本件各規定はいずれも憲法22条1項に違反するものということはできず、本件各事実への適用において違憲となるものではない。
(量刑の理由)
  令和5年9月19日
    東京地方裁判所刑事第16部
        裁判長裁判官  安永健次
           裁判官  花田隆光
           裁判官  足立洋平