強制わいせつは行為態様に強弱ありますので「平成24年8月5日未明,札幌市内の路上において,歩行中の原告に対し,正面から両肩を両手でつかんで住宅敷地内に連れ込み,頭部を両手で押さえつけ,無理やりせっぷんして口腔内に舌を入れた上,着衣の上から右胸及び陰部を左手で触った(以下「本件不法行為」という。)。」の場合、220万円という判断です。
損害賠償請求事件
東京地方裁判所
令和2年12月8日民事第30部判決
主 文1 本件につき札幌地方裁判所令和2年(損)第4号事件の仮執行宣言を付した損害賠償命令(主文第1項及びこれに係る第4項)を認可する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項と同旨
2 被告は,原告に対し、前項の認可に係る金額のほか,110万円及びこれに対する平成24年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第2項につき,仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告から強制わいせつ行為をされたと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償(慰謝料,弁護士費用)及びこれに対する不法行為の日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実
(1)被告は,平成24年8月5日未明,札幌市内の路上において,歩行中の原告に対し,正面から両肩を両手でつかんで住宅敷地内に連れ込み,頭部を両手で押さえつけ,無理やりせっぷんして口腔内に舌を入れた上,着衣の上から右胸及び陰部を左手で触った(以下「本件不法行為」という。)。(甲1,2,弁論の全趣旨)
(2)札幌地裁は,令和2年3月24日,本訴被告を被告人とする強制わいせつ被告事件(平成31年(わ)第149号,令和元年(わ)第392号)につき,罪となるべき事実として,本件不法行為ほか1件(深夜,歩道上において,いきなり本件原告とは別の女性である被害女性の背後から左肩越しに左手を伸ばして,左胸をわしづかみにして揉んだというもの。以下「別件不法行為」という。)の強制わいせつ行為を認定した上,懲役2年の判決を言い渡した。(甲1)
(3)原告は,札幌地裁に対し,前記「第1 請求」同旨の支払を求める旨の損害賠償命令を申し立て(同庁令和2年(損)第4号),札幌地裁は,令和2年3月30日,220万円及びこれに対する平成24年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で申立てを認め,仮執行宣言を付する旨の決定(以下「本件損害賠償命令」という。)をし,これに対し,被告が適法な異議を申し立てた。(当裁判所に顕著な事実)
3 主たる争点及び当事者の主張
損害額
(原告の主張)
本件不法行為の態様,原告に何ら帰責性がないこと,原告が被害後,男性や夜間外出に恐怖を抱くようになったこと,刑事事件への対応の負担を余儀なくされたこと,被告が刑事事件において本件不法行為を否認し,何らの慰謝の措置も講じていないこと,反省謝罪もなかったことなど,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,慰謝料額は300万円が相当である。
そして,上記慰謝料額等の諸事情に照らせば,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は30万円とするのが相当である。
(被告の主張)
原告の主張は,否認ないし争う。
本件損害賠償命令が認めた慰謝料200万円及び弁護士費用20万円も,高額に過ぎる。
第3 当裁判所の判断
1 被告の行った本件不法行為は,未明に,犯行現場である住宅敷地に連れ込み,頭部を両手で押さえつけた上でわいせつ行為に及んだというものであるところ,原告に対し相応の強さの有形力が行使されており,さらに,わいせつ行為についても,無理矢理せっぷんして口腔内に舌を入れた上,着衣の上から右胸及び陰部を左手で触るという性的自由に対する侵害の程度が相応に高いものであったといえる。そして,本件不法行為が必然的に刑事裁判への対応等の負担を生じさせたこと等をも考慮すれば,原告の受けた精神的苦痛は,甲第2号証,第3号証にも表れているように,大きかったといえる。
以上に鑑みれば,原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる金額としては200万円が相当である。そして,上記慰謝料額や,原告において執ることを余儀なくされた裁判手続の内容等の諸事情に鑑みれば,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は20万円とするのが相当である。
被告は,札幌地裁令和2年(損)第3号刑事損害賠償命令事件を引き合いに出し,同事件で問題となった不法行為と本件不法行為とでは態様が異なるのに慰謝料額が同額であるのは不当であるなどと主張する。しかしながら,同種事犯であっても,事情は様々であるから,単純な比較は困難である。そもそも,上記札幌地裁令和2年(損)第3号事件における不法行為の内容自体,記録上明確ではないから,比較はなおさら困難である。仮に,これが別件不法行為をいうものと解した場合,むしろ,本件不法行為の方が別件不法行為よりも有形力行使の態様やわいせつ行為の態様において違法性が高いといい得るから,少なくとも,行為態様の比較において,本件不法行為の違法性が別件不法行為のそれよりも低いなどとは到底いえない。以上によれば,いずれにしても,被告の上記主張は理由がない。
2 結論
よって,本訴請求は,220万円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があるからその限度で認容するのが相当なところ,この判断は本件損害賠償命令(主文第1項及びこれに係る第4項)と符合するのでこれを認可し,原告のその余の請求を棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第30部
裁判官 佐藤康平