児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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歯科助手に対する強制わいせつ致傷で有罪判決(懲役3年執行猶予4年)を受けた歯科医について歯科医師免許の取消処分取消請求事件(東京地裁R03.10.19)

歯科助手に対する強制わいせつ致傷で有罪判決を受けた歯科医について歯科医師免許の取消処分取消請求事件(東京地裁R03.10.19)
 刑事事件の方は示談未了で執行猶予になったようです。
 処分事例集をみると、院内のセクハラ事案も重い行政処分になっています。

歯科医師免許の取消処分取消請求事件
東京地方裁判所令和元年(行ウ)第368号
令和3年10月19日民事第51部判決
口頭弁論終結日 令和3年5月13日
       判   決
被告 国
代表者法務大臣 B
処分行政庁 厚生労働大臣 C
指定代理人 別紙1指定代理人目録記載のとおり


       主   文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 厚生労働大臣が原告に対して令和元年6月27日付けでした,歯科医師免許を取り消す旨の処分を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,歯科医師の免許を有し,矯正歯科クリニック(以下「本件クリニック」という。)を経営していた原告が,同クリニックの歯科助手であった女性(以下「被害者」という。)に対する強制わいせつ致傷の罪により有罪判決を受けたことを理由に,厚生労働大臣(処分行政庁)から,歯科医師法(令和元年法律第37号による改正前のもの。以下同じ)7条2項3号に基づき歯科医師免許を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから,被告を相手に,本件処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令の定め
 本件に関係する歯科医師法の定めは別紙2に記載したとおりである。
2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告について
 原告(昭和49年○月○○日生)は,平成15年5月21日,厚生労働大臣から,歯科医師法2条,6条に基づき歯科医師免許(以下,単に「免許」ということがある。)を付与され,医療法人の理事長として,市内に矯正歯科クリニック(本件クリニック)を開設し,その院長として矯正歯科診療を行っていた(甲2,4,13)。
(2)原告が受けた有罪判決及び被害者との示談について(甲2,8)
ア 原告は,平成27年7月2日,大津地方裁判所において,強制わいせつ致傷罪により懲役3年,執行猶予4年の有罪判決(以下「本件有罪判決」といい,この刑事事件を「本件刑事事件」という。)を受け,同月16日に同判決は確定した。
 本件有罪判決において認定された罪となるべき事実は,原告が,平成25年9月29日に本件クリニックでの仕事を終えた後,同クリニックの歯科助手であった女性(被害者)と午後6時30分頃から午後11時過ぎ頃までの間,2件の飲食店で飲酒するなどし,その後,本件クリニックが所在するマンション(以下「本件マンション」という。)の敷地まで戻った同日午後11時20分頃,同敷地内において,被害者に抱き付いて壁に押し付けた上,その唇や頚部に接吻し,着衣内に手を差し入れて被害者の陰部を直接触り,その際,抵抗する被害者をその場に転倒させ,全治約10日間を要する頚部挫傷,右股関節挫傷,右下腿挫傷,左膝関節挫傷の傷害を負わせた(以下「本件犯行」という。)というものである。
 本件有罪判決では,原告は,本件犯行の際,約10分間にわたり被害者の陰部を直接触った上,執拗に被害者を本件マンションに連れ込もうとしていたものであり,被害者は,これらの際に原告から逃げようとして転倒したものと認定されている。
イ 原告は,平成27年7月16日,本件刑事事件に関して被害者との間で示談をし,300万円の慰謝料を支払った。
(3)本件処分及び本件訴えに至る経緯等
ア 厚生労働大臣は,歯科医師法7条5項に基づき,平成31年4月17日,滋賀県知事に対し,原告に対する意見聴取を行うよう求め,同知事は,令和元年5月15日に原告に対する意見聴取を実施し,その結果を踏まえ,同月20日,同大臣に対し,意見の聴取に係る報告書を提出した。同報告書には,原告が被害者との間で示談したことについての記載がある。(甲5,乙1,2)
イ 厚生労働大臣は,歯科医師法7条4項に基づき,令和元年6月26日,原告に対する処分について,医道審議会(医道分科会。以下同じ)に諮問し,医道審議会は,同月27日,原告に対しては免許の取消しが相当である旨の答申をした(乙3~5)。
ウ 厚生労働大臣は,令和元年6月27日付けで,原告に対し,歯科医師法7条2項3号に基づき免許を取り消す旨の処分(本件処分)をした。本件処分に係る命令書(以下「本件命令書」という。)は,理由欄に「強制わいせつ致傷により,懲役3年,執行猶予4年の刑が確定したため」と記載されていたほか,原告の免許を「平成31年2月13日をもって」取り消すとの記載(以下「本件始期の定め」という。)があった。本件命令書は,令和元年7月3日に原告に到達した。(甲1)
 一方,厚生労働大臣は,令和元年6月27日に厚生労働省のホームページに掲載した本件処分に係るプレスリリース(以下「本件プレスリリース」という。)においては,本件処分の効力発生日につき同年7月11日と記載していた(乙14)。
エ 原告は,令和元年7月16日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
オ 厚生労働大臣は,令和元年8月7日付けで,原告に対し,本件命令書の記載のうち「平成31年2月13日をもって」と記載されていた部分(本件始期の定め)については明白な誤りであり,「令和元年7月11日をもって」が正しい記載であるので補正する旨の書面(以下「本件補正書」という。)を送付した(乙6)。
3 争点
 本件の争点は,本件処分の適法性であり,具体的には,〔1〕本件命令書に本件始期の定めが記載されていたこと(以下「本件記載」ということがある。)は,本件処分を取り消すべき瑕疵に当たるか否か,〔2〕原告に対して歯科医師免許取消処分(以下「免許取消処分」ということがある。)を選択したことにつき,厚生労働大臣がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものといえるか否かである。
4 当事者の主張
 争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙3記載のとおりである。なお,別紙で定義した略語は本文においても用いる。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は,本件始期の定めに係る本件記載は本件処分を取り消すべき瑕疵には当たらず,また,原告に対して免許取消処分を選択したことにつき,厚生労働大臣による裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められないから,本件処分は適法であって,原告の請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。
1 争点1(本件記載は本件処分を取り消すべき瑕疵に当たるか否か)について
(1)ア 歯科医師法上,同法7条2項3号に基づく免許取消処分の効力発生時期について定めた規定はなく,同処分をする場合にその効力発生時期につき別段の定めを設けるか否か,設けるとした場合にどのように定めるかは,厚生労働大臣の裁量に委ねられているものと解される。そこで,厚生労働大臣が効力発生時期を定めずに免許取消処分をした場合には,その効力は同処分に係る命令書が被処分者に到達した時点において発生するが,特定の時点を効力発生時期と定めて免許取消処分をした場合には,その効力は同時点において発生することとなる。
 ところで,本件においては,本件処分に係る命令書(本件命令書)に効力発生時期の定め(本件始期の定め)が記載されているものの,その定めは本件命令書の作成日付である令和元年6月27日よりも4か月以上前の平成31年2月13日とされていることから,本件始期の定めの効力及びこれに伴う本件処分への影響が問題となる。
イ 歯科医師法7条2項3号に基づく免許取消処分は,歯科医師が同法4条各号に定める欠格事由のいずれかに該当し,又は歯科医師としての品位を損するような行為のあったときに,当該歯科医師に与えた免許を取り消すものであり,免許を取り消された者は同法17条により歯科医業を行うことができない。また,その者がこれに違反して歯科医業を行う場合には,同法29条1号に定める罰則の適用対象となる。
 このような免許取消処分の内容・性質に鑑みると,同処分は将来に向かって免許の取消しの効力を発生させるものであり,厚生労働大臣は,命令書の作成日付より前に遡って免許取消処分の効力発生時期を定める権限を有するものではない。したがって,本件命令書の作成日付より前の日付を効力発生時期とする本件始期の定めは明らかな誤記であり,無効であるというべきである。
ウ そうすると,本件処分は,効力発生時期を定めずにされた免許取消処分というべきであるから,同処分の効力は,上記アに説示したところに照らし,本件命令書が原告に到達した時点(令和元年7月3日)において生じたものと解するのが相当である。
(2)効力発生時期に関する被告の主張について
 被告は,行政庁の意思決定と表示が一致しない場合に,その誤りが外形上明らかなときは,行政庁の真意に従って行政処分の効力が認められると解すべきであるから,本件処分の効力発生時期は厚生労働大臣の真意である令和元年7月11日と解すべきである旨主張する。
 しかしながら,上記(1)ウに説示したとおり,本件始期の定めが無効である以上,本件処分は効力発生時期を定めずにされたものと解するべきであって,本件始期の定めと異なる効力発生時期の定めがあったものと解することはできない。そもそも,本件命令書の作成日付より前の日を効力発生時期として定める旨の本件記載が明らかな誤記であるとしても,本来記載すべき効力発生時期の日付が被告の主張する令和元年7月11日であったことは本件命令書の記載から読み取ることができない。被告は,被処分者への便宜のため処分告知から効力発生時期までの間に若干の猶予期間を設ける行政実務の運用や,本件処分についても同運用に従って令和元年7月11日を効力発生時期とすることが企図され,本件プレスリリースでもその旨の公表がされたことを挙げるが,上記(1)イに説示したような免許取消処分の内容・性質に鑑みれば,厚生労働大臣が効力発生時期を定めて免許取消処分をする場合には,その定めは同処分に係る命令書の記載上明確でなければならないというべきである。
 したがって,本件処分の効力発生時期に関する被告の主張は採用することができない。
(3)本件処分の効力に関する原告の主張について
 原告は,本件始期の定めが無効である以上,本件処分もこれと不可分一体のものとして,あるいは,効力発生時期の特定を欠く処分となることによって,違法,無効となる旨主張する。
 しかしながら,上記(1)アに説示したとおり,歯科医師法7条2項3号に基づく免許取消処分において効力発生時期につき別段の定めを設けることは必要的ではなく,効力発生時期を定めるか否かは厚生労働大臣の裁量に委ねられているのであるから,本件始期の定めが無効となったことで効力発生時期の定めが欠けることになったとしても,これにより本件処分自体の効力に影響を及ぼすこととなるものとは解されない。また,上記(1)アのとおり,厚生労働大臣が効力発生時期を定めずに免許取消処分をした場合には,その効力は同処分に係る命令書が被処分者に到達した時点において生ずるのであるから,本件処分が効力発生時期の定めを欠くことによりその効力がいつ発生するかの特定ができないこととなるものでもない。
 なお,このように解した場合には,本件命令書に記載された日付とは異なる時点で本件処分の効力が生ずることとなるが,本件命令書の作成日付より前の日付を効力発生時期とする本件始期の定めが明らかな誤記であり,無効であることは上記(1)イに説示したとおりであるから,これにより被処分者である原告に不測の損害をもたらすものということはできない。
 以上によれば,本件処分の効力に関する原告の主張は採用することができず,本件始期の定めが無効であることによって本件処分を取り消すべき瑕疵が生ずるものと解することはできない。
2 争点2(原告に対して免許取消処分を選択したことにつき,厚生労働大臣がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものといえるか否か)について
(1)原告は,本件有罪判決により懲役3年,執行猶予4年の刑に処せられ,歯科医師法4条3号の欠格事由に該当することとなった(前提事実(2)ア)。
 歯科医師法7条2項は,歯科医師が「罰金以上の刑に処せられた者」(同法4条3号)に該当するときは,厚生労働大臣は,〔1〕戒告,〔2〕3年以内の歯科医業の停止又は〔3〕免許の取消しをすることができる旨定めている。この規定は,歯科医師が同法4条3号の規定に該当することから,歯科医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には歯科医師の資格を剥奪し,そうまでいえないとしても,歯科医師としての品位を損ない,あるいは歯科医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には,一定期間歯科医業の停止を命ずるなどして反省を促すべきものとし,これによって歯科医業が適正に行われることを期するものであると解される。
 したがって,歯科医師歯科医師法4条3号の規定に該当する場合に,免許を取消し,又は歯科医業の停止を命ずるかどうかということは,当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該歯科医師の性格,処分歴,反省の程度等,諸般の事情を考慮し,同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ,その判断は,医道審議会の意見を聴く前提のもとで歯科医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。それゆえ,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした免許取消処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである(最高裁昭和63年判決参照)。
(2)そこで検討すると,本件犯行の罪名である強制わいせつ致傷罪は,法定刑が無期又は3年以上の懲役であり(刑法181条1項),性犯罪の中でも特に重い法定刑が定められている(同法第22章参照)。
 本件犯行の態様についてみると,原告は,本件クリニックの歯科助手という立場にあった被害者に対し,夜間における本件マンションの敷地内において,抱き付いて壁に押し付けた上,その唇や頚部に接吻し,約10分間にわたり被害者の陰部を直接触るというわいせつ行為に及ぶとともに,被害者を執拗に本件マンションに連れ込もうとし,これらの際に被害者を転倒させるなどして傷害を負わせたというものであって,相当に悪質で,違法性の程度が高いものであり,本件有罪判決においても懲役3年,執行猶予4年の刑に処せられ,比較的長期間の執行猶予が付されている。
 これらの犯行は計画的に行われたものではないものの,原告の経営する医療法人が雇用する被害者に対し,原告からの誘いを断りにくい状況下で長時間の飲食を共にし,飲酒の影響もあって犯意を生ずるに至ったものである(甲2)から,犯行に至る経緯に照らしても非難の程度が減ずるような事情は見られない。また,本件有罪判決に示された証拠関係や犯行当時の状況に照らすと,原告は,被害者が履いていたスキニーズボンのボタンを外し,ズボン及び下着の中に手を差し入れて陰部を直接触ったものと認められ,また,抵抗する被害者を本件マンションに連れ込もうとして被害者を転倒させたものと認められるところ,このような行為自体が,被害者の身体及び心情を著しく軽視するものとをいわざるを得ない。
 このように,原告は,患者の身体を直接預かる資格である歯科医師という立場にありながら,上記のとおり悪質な犯行に及び,その社会的信用を失墜させ,また,他人の身体及び心情を著しく軽視した行為をしたといえるのであるから,歯科医師として求められる品位を欠き,人格的に適格性を有しないとの評価を受けてもやむを得ない。
 そうすると,原告の主張する原告に有利な諸事情(本件犯行が計画的であったとは認められないこと、被害者の致傷結果が比較的軽微なものであったこと,本件有罪判決宣告後に被害者との間で示談が成立し,300万円の慰謝料が支払われたこと,原告に前科や処分歴がないこと,原告が本件犯行について反省の態度を示していること,複数の歯科医師等から原告の免許取消しに関する嘆願書が提出されていること〔甲9~16〕など)を踏まえても,厚生労働大臣医道審議会の意見を踏まえて免許取消処分を選択したことについて,社会観念上著しく妥当性を欠くとはいえず,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものと認めることはできない。
(3)原告の主張について
ア 原告は,本件始期の定めがあることにより,本件処分は社会観念上著しく妥当性を欠くものであり,厚生労働大臣裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものである旨主張する。 
 しかしながら,前記1(1)に説示したとおり,本件始期の定めが無効であるからといって,本件処分自体が違法となるものではなく,無効な本件始期の定めがあることは裁量権の範囲の逸脱又は濫用を基礎付けるものとはならないから,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,本件犯行につき,凶器を用いていないことから暴行は軽微であり,致傷結果も軽微であり,計画性もなかったこと,被害者との間で示談が成立しているが本件有罪判決の後であったためその量刑には織り込まれていないこと,原告が飲酒をやめ反省していること,前科や処分歴がないこと等の事情を踏まえると,原告に対する処分は歯科医業の停止で十分である旨主張する。
 しかしながら,原告が本件犯行に凶器を用いていないからといって,その犯行が軽微なものとはいえないことは,前記(2)の説示に照らし明らかである。
 また,被害者との示談は本件有罪判決の後に成立しているものの,同判決では,原告が被害者に対する賠償金の支払のために300万円を準備していることも考慮して原告に対し刑の執行を猶予するものとしているのであり,他方,本件犯行の犯情に照らせば酌量減軽をして法定刑の下限を下回る刑を選択すべきではなく執行猶予期間も比較的長期間とするのが相当であるとして懲役3年,執行猶予4年という量刑が定められたものである。そうすると,仮に,被害者との示談が本件有罪判決前に成立し,量刑において考慮されていたとしても,上記と異なる量刑とはならない可能性も十分に考えられ,本件処分において,厚生労働大臣が,本件有罪判決の量刑を前提としつつ,同判決後の示談成立等の事情も考慮した上で免許取消処分を選択したことが,裁量権の範囲の逸脱又は濫用を基礎付けるものとはいえない。
 そのほかに原告が主張する事情は,いずれも前記(2)に説示したとおり,本件犯行の違法性の程度等の事情を踏まえてもなお原告に対し免許取消処分を選択したことが社会通念上著しく妥当性を欠くものとするに足りるものとはいえない。
 よって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ また,原告は,医師・歯科医師が強制わいせつ致傷罪又は強制わいせつ罪(準強制わいせつ罪を含む。以下同じ)を犯した場合の行政処分例と比較すると,本件処分は不当に重い処分であって,平等原則に反する旨主張する。
 しかしながら,そもそも事案の異なる行政処分例を単純に比較して処分の軽重を論ずることは困難である。この点をおき,原告が指摘する他の行政処分例と比較してみても,原告が強制わいせつ致傷罪で懲役3年,執行猶予4年の有罪判決を受けていることや,前記(2)に説示した本件犯行の違法性の程度等に照らせば,本件処分が不当に重いということはできず,平等原則違反をいう原告の主張は採用することができない。
エ 原告は,免許取消処分は歯科医師にとって最も重い処分であるところ,本件指針(甲6)において,「診療の機会に医師,歯科医師としての立場を利用したわいせつ行為などは,国民の信頼を裏切る悪質な行為であり,重い処分とする。」と記載されていることからすれば,上記類型の行為に該当しない本件犯行に対しては,免許取消処分以外の処分が選択されるべきであり,本件処分は比例原則に反する旨主張する。
 しかしながら,本件指針(甲6)は,医道審議会行政処分に関する意見を決定するに当たっての基本となる一定の考え方を示したものであり,そこには「わいせつ行為は,医師,歯科医師としての社会的信用を失墜させる行為である」とあるところ,本件指針における該当部分は,強制わいせつ,売春防止法違反,青少年保護育成条例違反等のわいせつ行為一般についての考え方を示したものであり,原告の指摘する記載部分は上記わいせつ行為一般について特に重い処分にすべき場合を例示したものにすぎず,「基本的には司法処分の量刑などを参考に決定する」とも記載されていることにも照らせば,本件指針において,原告主張のように診療の機会に直接,歯科医師としての立場を利用してされた行為に当たらない場合は免許取消処分以外の処分を選択するという考え方が示されているとはいえない。
 したがって,比例原則違反をいう原告の上記主張は,その前提を欠くものであって採用することができない。
3 まとめ
 以上によれば,本件記載は本件処分を取り消すべき瑕疵には当たらず,また,原告に対して免許取消処分を選択したことにつき,厚生労働大臣による裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとも認められないから,本件処分は適法である。
第4 結論
 よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官 清水知恵子 裁判官 横地大輔 裁判官 定森俊昌

(別紙1)指定代理人目録《略》
(別紙2)歯科医師
(別紙3)当事者の主張の要旨