児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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臀部が性的部位であることから臀部への接触が原則的に性的意味を有するということはできないのであり,本件各行為は,男性である被告人が男子小学生の臀部を1回軽く叩くという行為態様からすると,卑わいな言動に当たると解することは困難である。(神戸地裁r031130)

臀部を着衣の上から手で触ったこと,その態様がいずれも1回軽く叩くというものであった

神戸地裁令和 3年11月30日公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件
主文
 被告人は無罪。
理由
 1 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,第1 令和3年3月24日午後2時36分頃,神戸市〈以下省略〉a店において,A(当時10歳)に対し,その臀部を着衣の上から手で触り,第2 同日午後2時40分頃,同店において,B(当時10歳)に対し,その臀部を着衣の上から手で触り,もって公共の場所において,人に対する,不安を覚えさせるような卑わいな言動をした」というものである。
 被告人が公訴事実記載の日時場所においてA及びBの臀部を着衣の上から手で触ったこと,その態様がいずれも1回軽く叩くというものであったことは証拠上容易に認められ,当事者間にも争いがない(公訴事実記載の各行為を以下「本件各行為」という。)。その状況は次のとおりである。
  (1) 被告人は現場となったコンビニエンスストアの男性店員であり,A及びBはいずれも客として同店を訪れた男子小学生である。Aは被告人と初対面であり,Bは被告人を何度か見かけたことがある程度であった。
  (2) 本件当日,A及びBは他の男女の小学生とともに十数名で現場店舗を訪れた。
  (3) 被告人は,本件各行為に先立ち,別の男子小学生3名の臀部を触った。
  (4) 被告人は,通路に立っていたAに背後から近付き,臀部を無言で軽く叩いた(公訴事実第1)上,その横を通り過ぎた。Aはその場から店を出て敷地外まで走り去り,間もなく付近の交番に行って被害申告をした。
  (5) 被告人は,店内を歩いていたBを手招きで呼び寄せ,後ろを向いてと言って背を向けさせた上,臀部を軽く叩いた(公訴事実第2)。Bは間もなく付近の交番に行って被害申告をした。
  (6) Bの被害申告に先立ち,上記(3)の小学生のうち1名以上も,付近の交番に行って被害申告をした。
 2 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(兵庫県)3条の2第1項は「何人も,公共の場所又は公共の乗物において,次に掲げる行為をしてはならない。」と定め,同項第1号は「人に対する,不安を覚えさせるような卑わいな言動」と定める。
 ここにいう卑わいな言動とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいい,その該当性は行為態様や犯行当時の状況,被害者及び被告人の関係等の客観的事情に照らして判断すべきであって,性的な動機や目的があることを要しないと解すべきである(以上は検察官が主張するとおりであり,弁護人もこれと相反する主張をするものではないと解される。)。また,卑わいな言動該当性は,当該事案の具体的状況を前提として,被害者の立場に置かれた一般通常人を基準に判断すべきである。
 当裁判所は,以上の見地に立って,本件各行為は卑わいな言動に該当しないと判断した。その理由は以下のとおりである。
 3 検察官が主張するとおり,臀部は性的な部位である。児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項3号,私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律2条1項3号も,臀部を性的部位と定めている。
 しかし,大多数の男性の性的対象は女性であると認識されているから,男性の男性に対する身体的接触が性的意味を有すると認識される度合いは小さいと考えられる。また,臀部の性的意味の程度は,性的部位の中では比較的低く,また,女性よりも男性の方が低いと考えられ,臀部を叩くという行為は,特に男性に対しては,冗談,励まし,注意,体罰など,様々な意味でなされることがあり得る。
 そうすると,臀部が性的部位であることから臀部への接触が原則的に性的意味を有するということはできないのであり,本件各行為は,男性である被告人が男子小学生の臀部を1回軽く叩くという行為態様からすると,卑わいな言動に当たると解することは困難である。
 これに対し検察官は,本件条例は性別を限定しておらず,性的平等が重視される現在の社会において,客観的に卑わいな言動と評価されるべき行為は,対象者の性別にかかわらず卑わいな言動と評価すべきであり,まして小学生の段階では性差も未だ顕著ではないと主張する。しかし,ある者が行為者の性的対象にされていると認識されるか否かや,身体のある部位が持つ性的意味の程度は,それが小学生である場合を含め,性別により現実に差があると考えられるから,対象者の性別により卑わいな言動該当性は異なり得る。
 被告人とA及びBとの関係や,被害前の状況からして,被告人がA及びBに触ることを正当化する事情がなく,A及びBには臀部を叩かれる合理的理由がないこと,被害後のA及びBの行動からして,本件各行為が嫌悪感や不安感を感じさせる行為であったと認められることは,検察官が主張するとおりである。しかし,検察官が指摘する点は,本件各行為が性的道義観念に反し下品でみだらなものであることまで基礎付けるものではない。
 被告人は,公判廷において,Aの臀部を叩いたのは通路を空けるように促す目的であり,Bの臀部を叩いたのは店内を走り回るグループの一員として注意する目的であったと供述するのに対し,検察官は,被告人の供述は信用できず,被告人はA及びBの臀部を触ること自体を目的としていたと主張する。しかし,前述のとおり卑わいな言動該当性は客観的事情に照らして判断すべきであるから,検察官の主張はこれを左右しない。
 なお,被告人が本件各行為に先立ち別の男子小学生3名の臀部を触った事実は,当該行為が性的意味を有する態様で行われ,かつ,A及びBがそのことを認識していたなどの事情を認めるに足りる証拠のない本件では,本件各行為を卑わいな言動と認める根拠にならない。
 4 よって,刑事訴訟法336条により,主文のとおり判決する。
 (求刑 罰金30万円)
 神戸地方裁判所第1刑事部
 (裁判官 安西二郎)