児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

数日間隔がある数回の児童ポルノ製造行為を製造罪の包括一罪とした高裁判例

数日間隔がある数回の製造行為を製造罪の包括一罪とした高裁判例
 理由は、
児童淫行罪と同様に(1回ごとの権利侵害ではなく)児童の福祉という継続的・包括的な利益を害するという理解
一個の犯意に基づく反復的行為であること
と思われる。

①東京高裁h171226*1(静岡地裁浜松支部h17.7.15*2)

破棄自判部分
 (法令の適用)
 被告人の判示別紙一覧表番号一ないし六の各所為は、包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律七条三項、一項、二条三項一号ないし三号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、原審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

②札幌高裁h19.3.8*3(家裁小樽支部h18.10.2*4)
児童淫行罪と製造罪は併合罪だという判例になっている最決h21.10.21の控訴審判決。
控訴審でも数回の製造罪を包括一罪とした原判決の罪数処理は維持されている。

 判決速報でも製造罪は包括一罪とされている。

児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 札幌高等裁判所判決/平成18年(う)第339号
【判決日付】 平成19年3月8日
高等裁判所刑事裁判速報集平成19年504頁
       理   由
2 児童ポルノの種類・個数の特定に関する控訴趣意について(控訴理由第9)
  論旨は,要するに,本件児童ポルノ製造罪の訴因は,児童ポルノの種類・個数を特定する必要があるにもかかわらず,本件起訴状の公訴事実には「ミニデジタルビデオカセットに描写し」と記載されているのみであり,各撮影行為により何個の児童ポルノが製造されたか,どの児童ポルノが製造されたのかが明らかでなく,本件公訴は訴因不特定の違法があるのに,公訴を棄却せず実体判断をし,また,製造された児童ポルノの個数を「罪となるべき事実」に判示していない原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある,という。
  しかし,本件児童ポルノ製造罪は,被告人が同一児童に対し反復継続したものであるから,包括一罪と評価され,その場合には,訴因を特定するために製造された児童ポルノの個数を明示することは必要でなく,行為の始期及び終期,行為の回数,児童の氏名・年齢,児童ポルノの種類及び描写媒体の種類を明示すれば訴因は特定されていると解されるから,本件起訴に訴因不特定の違法はなく,また,原判決が児童ポルノの個数を「罪となるべき事実」に判示していない点も違法とは認められない。なお,製造された児童ポルノの個数やビデオカセットテープは証拠上明らかにされている。
  その他,児童ポルノ製造罪は製造された児童ポルノの記録媒体毎に成立すると考えるべきであるとの点を含め,所論がるる主張する点を考慮検討しても,論旨は理由がない。

 調査官解説でも、製造罪は包括一罪とされている。最決h21.10.21も包括一罪であることを前提にしている。
刑事篇平成21年度463頁 平成19年(あ)第619号児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件平成21年10月21日 三浦透


③東京高裁h28.12.21

速報番号3589号
児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反
東京高等裁判所第1刑事部
平成28年12月21日
1審 千葉地方裁判所
○判示事項
児童ポルノ製造罪において,同一被害児童に対する27日間, 14回にわたる撮影等の行為を包括一罪とした事例
○裁判要旨
児童ポルノ製造罪の罪数判断においては,被害児童の撮影機会の同一性のみを基準とすることは相当ではなく,被害児童の異同,製造日時,場所,工程及び犯意等にも着目すべきであり,被告人が同一又は一連の機会に,単一又は継続した意思により被害児童に係る児童ポルノを製造したときは,構成要件を充足する行為が多数回にわたっていても,被害児童が同一である以上,包括して一罪を構成するというべきである。
被告人は,自慰行為に用いるために, 27日間にわたり,被害児童に係る児童ポルノを撮影し, これを同一の記録媒体に集積していたもので,単一又は継続した意思により14回の各犯行に及んだとみられるから, これらは包括一罪となる。
○裁判理由
原判決は,原判示第2の平成28年3月21日午後3時31分頃から同年4月16日午後10時40分頃までの計14回の各児童ポルノ製造の所為はそれぞれ(ただし,そのうち同月2日における11回の犯行,同月16日における2回の犯行は,いずれも同一の機会における犯行であるから各包括して)児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項, 2条3項1号, 3号に該当する旨判示している。
この点,同法7条4項の児童ポルノ製造罪を処罰する趣旨は, 当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取又は虐待であり,かつ,流通の危険性を創出する点で非難に値することに基づくものであることに照らすと,同法2条3項所定の姿態を被害児童にとらせて撮影した機会の同一性のみを罪数判断の基準とすることは相当ではなく,被害児童の異同のほか,製造日時,場所,工程(電磁的記録や記録媒体の同一性等)及び犯意等にも着目すべきであり,被告人が, 同一又は一連の機会に,単一又は継続した意思により当該児童に係る児童ポルノを製造したときは,構成要件を充足する行為が多数回にわたっていても,被害児童が同一である以上,包括的に観察して一罪を構成するというべきである。被告人は, 自慰行為に用いるために, 27日間にわたり,被害児童に係る児童ポルノを撮影し, これを同一の記録媒体に集積していたもので,単一又は継続した意思により原判示第2の犯行に及んだとみられるから,原判示第2の所為は包括して同法7条4項, 2項(2条3項1号, 3号)に該当し,併合罪の処理に当たっても,刑法47条ただし書の制限内で重い原判示第1の罪の刑に法定の加重をすべきであり, これと異なる原判決の法令の適用には誤りがある。
しかしながら,原判決の宣告刑は,正当な処断刑の範囲内にあり,かつ原判示第2の撮影の機会ごとに併合罪とされたが故に殊更重く量刑された事情はなく本件事案の内容等に照らし,その量刑が重きに過ぎるとも認められないから,前記の誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。

④大阪高裁H28.6.9

2)児童ポルノ製造罪相互の罪数関係(上記②について)
 児童ポルノ製造罪は,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を規制し,児童一般を保護するとともに,個々の児童が児童ポルノの対象とされることから保護することを目的とするものであるから,同じ児童を対象に,同様の目的で行われた,一連の児童ポルノ製造行為は,包括一罪の関係に立つと解するのが相当である。
 そして,原判示第2の1の児童ポルノ製造は平成年月12日に被害児童の自宅において,被告人が被害児童の陰茎を手指で触る姿態及び同児童に陰茎を露出させる姿態をとらせて動画撮影するなどしたもの,同第2の2の児童ポルノ製造は同年月16日に同じ場所において上記児童に対して上記同様の方法で行われたもので,いずれも,同児童に対する好意に基づき,同児童の陰茎等を撮影したいという性的欲求を満たすことを目的とするものであるから,少なくとも両行為は,包括一罪の関係に立つと見るべきである。したがって,これを併合罪とした原判決の法令の適用は誤っているものといわざるを得ない。
・・・
 しかし,原判示第1別表11の行為は,原判示第2の1,2の被害児童と同じ児童を対象として,同児童に対する好意等という前同様の目的で行われたもので,撮影が行われた日時も近接しているから,原判示第1別表11が陰茎を露出して放尿する姿態をひそかに撮影したものであり,同第2の1,2がいずれも陰茎を露出させて被告人が手指で触る姿態をとらせて撮影したものであるという行為態様・犯罪類型の相違を踏まえても,包括して評価するのが相当であり,結局,原判示第1別表11の行為,同第2の1,2の各行為は,包括して児童ポルノ法7条4項,5項の児童ポルノ製造罪を構成すると見るのが相当である。
 また,原判示第1別表1,3の行為,同2,6の行為,同4,5,8ないし10の行為,同7,12の行為は,いずれも,被害児童の陰茎等を撮影したいという性的欲求に基づき,それぞれ,同じ児童を対象に,同児童らがトイレに行くのに付き添った際にその様子をひそかに撮影等したというものであるから,それぞれ,別個の包括一罪を構成すると見るのが相当である。
 以上のとおり,原判決のこの点に関する法令の適用には,所論指摘のものを含め,誤りがあるといわざるを得ない。


名古屋高裁h22.10.26*5(判決速報763号)

第1法令適用の誤りの論旨について
1原判示第1,第2,第4及び第5の各罪の罪数について論旨は,①原判示第2及び第5(2個の3項児童ポルノ製造罪は包括一罪であり,同第1の強姦罪と同第2の3項児童ポルノ製造罪,同第4の強姦罪と同第5の3項児童ポルノ製造罪とは,それぞれ混合包括一罪又は観念的競合であるから,かすがい現象により,同第1,第2,第4及び第5は科刑上一罪であるのに,これらの罪を併合罪であるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討する。
原判示第1,第2,第4及び第5の各事実の要旨は次のとおりである。
すなわち,被告人は,平成年5月2日,被告人方において,被害児童が13歳未満の女子であることを知りながら,被害児童を姦淫し(原判示第1),その際,被害児童に性交に係る姿態等をとらせ,これをデジタルビデオカメラで撮影し,電磁的記録に係る記録媒体であるsdに記録させて描写し,もって児童ポルノを製造し(同第2),平成年4月1日,被告人方において、被害児童が13歳未満の女子であることを知りながら,被害児童を姦淫し(同第4),その際,被害児童に性交に係る姿態等をとらせ,これをデジタルビデオカメラで撮影し,電磁的記録に係る記録媒体であるsdに記録させて描写し,もって児童ポルノを製造した(同第5),というものである。
原判決は,その(法令の適用)において,原判示第1及び第4の各行為がそれぞれ刑法177条後段に,同第2及び第5の各行為がそれぞれ児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春法」という。)7条3項,2条3項に該当するとした。
被告人は,平成年ころ,被害児童に声をかけ・・・被害児童を裸にしてビデオ撮影したり,女性器等を触ったりするなど性的行為を繰り返すようになり,平成年5月2日から平成年5月18日までの間,・・・などと告げて,被告人方において,約20回から30回にわたり,被害児童を姦淫し,そのうち18回については,その状況をビデオ撮影することを繰り返す中で,原判示第1,第2,第4及び第5の各犯行に及んだものである。
このような犯行状況に照らすと,原判示第2及び第5の児童ポルノ製造の犯行は,犯行の時期が約11か月離れているとはいえ,いずれも,同一の被害児童に対し,悪魔を追い払うためなどと言って性交等に応じさせ,その状況をビデオ撮影することを繰り返す中での犯行であり,その罪数については,包括して一罪であると評価するのが相当である。
他方,原判示第1及び第4の強姦の各犯行は,姦淫行為を内容とするものであり,同第2及び第5の児童買春法7条3項に当たる児童ポルノ製造(以下「3項児童ポルノ製造」という。)の各犯行は,児童に性交に係る姿態等をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写する行為を内容とするものであって,それぞれにおける行為者の動態は社会見解上別個のものであるから,原判示第1と第2,同第4と第5は,それぞれの行為に重なる部分があるとはいえ,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,また,それぞれ別の観点から法益を保護するものであるから,包括して一罪として処罰することで足りるものでもない。
そうすると,原判示第2及び第5の各3項児童ポルノ製造罪を併合罪とした原判決には法令適用に誤りがあるが,本件においては,これを前提として形成された処断刑は,これらを包括一罪とした場合の処断刑と同じであるから,この誤りは判決に影響を及ぼさないというべきである。

⑥大阪高裁h18.9.21*6
数回にわたる製造行為を包括一罪としている。

論旨は,原審裁判所は,平成17年5月13日付け起訴状記載の訴因につき,検察官からの同年9月13日付け訴因変更請求書に基づく訴因の変更を許可したが,変更前の訴因と変更後のそれとの間には公訴事実の同一性がないから,上記訴因変更の許可は違法であり,かつ,その違法が判決に影響を及ぼすことも明らかである,というのである。
そこで,記録を調査して検討するに,上記変更前の訴因は,要旨,「平成17年1月23日ころから同年2月1日ころまでの間,3回にわたり,自宅において,DVDレコーダー等を用いて,18歳に満たないDを相手方とする性交に係る姿態等を撮影した画像データを記録させたDVD合計4枚を作成し,もって,児童ポルノを製造した」というものであるのに対し,上記変更後の訴因は,要旨,「同年1月23日ころから同年3月3日ころまでの間,12回にわたり,自宅ほか1か所において,DVDレコーダー等を用いて,上記画像データを記録させたDVD合計45枚及びビデオテープ6本を作成し,もって,児童ポルノを製造した」したというものである(なお,変更後の訴因は,変更前の訴因全部を含むものである。)ところ,関係証拠によれば,被告人は,業として児童ポルノを含むいわゆる裏ビデオの製造・販売を反復継続して行っており,上記各訴因はいずれもその一環であることに照らせば,これらはいずれも包括一罪として評価するのが相当である。そうすると,変更前の訴因と変更後のそれとの間には,いわゆる公訴事実の単一性が認められるから,訴因変更を行うことにつき何らの問題はなく,原審裁判所の上記措置にも何ら違法は認められないというべきである。
この論旨も理由がない。