児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

就寝中の児童を脱がして撮影した行為につき、ひそかに製造罪(7条5項)とした原判決を法令適用の誤り・訴訟手続の法令違反で破棄して、姿態をとらせて製造罪(4項)に修正して減軽した事例(大阪高裁r05.1.24)

 就寝中の児童を脱がして撮影した行為につきひそかに製造罪(7条5項)とした原判決を法令適用の誤り・訴訟手続の法令違反で破棄して、減軽した事例(大阪高裁r05.1.24)
「同法7条5項の規定する児童ポルノのひそかに製造行為とは、隠しカメラの設置など描写の対象となる児童に知られることがないような態様による盗撮の手段で児童ポルノを製造する行為を指すと解されるが、同項が「前2項に規定するもののほか」と規定していることや同条項の改正経緯に照らせば、児童が就寝中等の事情により撮影の事実を認識していなくても、行為者が姿態をとらせた場合には、姿態をとらせ製造罪(同条4項)が成立し、ひそかに製造罪(同条5項)は適用されないと解される。」というのが高裁判例です。
 ひそかに製造罪の訴因中に「被告人が性器等を触る」とかが出ているので、姿態をとらせて製造罪の構成要件を満たしていました。
 捜査だとか言って警察からの問い合わせがありましたが、奈良地検奈良県警へお願いします。
 同種事案をひそかに製造罪とした判決が10件以上あって、検察官がそういう解釈になったのかなとも思いましたが、大阪高裁に回ってきたので修正してもらいました。判決理由はあっさりですが、控訴趣意書は600頁あるので、問い合わせがあっても回答できません。控訴審の検察官からは反論もなく訴因変更請求があったので、あっさり修正されました。
 多めの減軽になったのは、姿態をとらせて製造罪での審理をまともに受けないでその分を量刑するのが忍びないという考えじゃないかと思います。

阪高裁令和5年1月24日
判    決
 上記の者に対する強制性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ処罰法」という。)違反、強制わいせつ、準強制わいせつ被告事件について、令和年月日奈良地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官和久本圭介出席の上審理し、次のとおり判決する。
主    文
 原判決を破棄する。
理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人奥村徹作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用するが、論旨は、理由齟齬、法令適用の誤り及び量刑不当である。そこで、記録を調査し、当審における事実の取調べの結果も併せて検討する。
第1 事案の概要
第2 理由齟齬・法令適用の誤りの控訴趣意について(控訴理由第2)
 所論は、原判示第8、第10、第12、第16、第18、第20、第23の各児童ポルノ製造について、各公訴事実の記載自体から被告人が各児童にそれぞれの姿態をとらせたことが明らかで、原判決も公訴事実どおりの事実を認定しているから、これらに対しては、姿態をとらせ製造罪を規定する児童買春・児童ポルノ処罰法7条4項のみが適用されるのに、ひそかに製造罪を規定する同法7条5項を適用した原判決には法令適用の誤りがあり、また、姿態をとらせ製造罪の事実を認定しながら同法7条5項を適用した点で理由齟齬があるというものである。
 原審記録によれば、起訴状記載の公訴事実のうち、ひそかに製造罪として起訴された各公訴事実(令和3年12月2日付け起訴状の公訴事実第2、令和4年2月16日付け起訴状の公訴事実第2、第4、第6、第8、第10、第12)は、同一機会に行われた各罪と合わせ考慮すると、就寝中のCの陰茎を露出させる姿態等(原判示第8、第16)、睡眠中のDの陰茎を露出させる姿態等(同第10、第18)、就寝中のEの陰茎を露出させる姿態等(同第12、第20)、就寝中のAの陰茎を露出させる姿態等(同第23)を、それぞれひそかに撮影して保存し児童ポルノを製造したとして公訴提起され、いずれも罰条として、児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項、2項が摘示されていること(なお、令和4年2月16日付け起訴状の公訴事実第2、第4、第6、第8、第i0、第12については同法2条3項2号、3号を、令和3年12月2日付け起訴状の公訴事実第2については同法2条3項1号、2号、3号を、さらに摘示)、原審裁判所は、検察官に対しこの点について釈明を求めるなどはしなかったこと、原判決は、これらの事実について公訴事実どおりに認定し、起訴状の罰条と同じ法令を適用したことが認められる。
 しかし、同法7条5項の規定する児童ポルノのひそかに製造行為とは、隠しカメラの設置など描写の対象となる児童に知られることがないような態様による盗撮の手段で児童ポルノを製造する行為を指すと解されるが、同項が「前2項に規定するもののほか」と規定していることや同条項の改正経緯に照らせば、児童が就寝中等の事情により撮影の事実を認識していなくても、行為者が姿態をとらせた場合には、姿態をとらせ製造罪(同条4項)が成立し、ひそかに製造罪(同条5項)は適用されないと解される。
 したがって、検察官は、本来、上記各事実をいずれも姿態をとらせ製造罪として起訴すべきところを、誤ってひそかに製造罪が成立すると解し、同一機会の各事実と合わせると姿態をとらせたこととなる事実を記載しながら、「ひそかに」との文言を付して公訴事実を構成し、罰条には児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項を上げた起訴状を提出し、原判決もその誤りを看過して、同様の事実認定をした上で、上記のとおりの適条をしたことが明らかである。このような原判決の判断は、判文自体から明らかな理由齟齬とまではいえないにせよ、法令の適用に誤りがある旨の所論の指摘は正しい。
 さらに、検察官のみならず、被告人や原審弁護人も、上記各事実に関してひそかに製造罪としての責任を問われているとの誤信の下で原審公判に臨んでいたものとうかがえるから、第1審裁判所としては、関係証拠に照らして認定できる事実に正しい適条をするだけではなく、検察官に釈明を求め、その回答如何によっては訴因変更請求を促すなどして、被告人及び原審弁護人の防御に遺漏がないよう手続を尽くすべきであったのに、原審はこうした手続を何ら行っていない。姿態をとらせ製造罪とひそかに製造罪とでは、法定刑は同じとはいえ、児童ポルノ製造罪における「姿態をとらせ」あるいは「ひそかに」という要件は、処罰根拠をなす重要部分に当たるから、この点について被告人や原審弁護人が誤解をしたままでは十分な防御の機会が与えられたと評価できず、原審の釈明義務違反は、判決に影響を及ぼすとみるべきである。
 以上から、原判決には、所論指摘の法令適用の誤り、さらには、訴訟手続の法令違反があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。
第3 自判
(法令の適用)
 原判決の罰条のうち、「判示第8、第10、第12、第16、第18及び第20の各所為につきいずれも児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項、2項、2条3項2号、3号」とあるのを、「判示第8、第10、第12、第16、第18及び第20の各所為につきいずれも児童買春・児童ポルノ処罰法7条4項、2項、2条3項2号、3号」と、「判示第23の所為につき児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項、2項、2条3項1号、2号、3号」とあるのを、「判示第23の所為につき児童買春・児童ポルノ処罰法7条4項、2項、2条3項1号、2号、3号」と、それぞれ変更するほか、原判決のとおりの罰条(刑種の選択、併合罪の処理を含む。)を適用し、原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を、原審及び当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用する。
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は、当審における予備的な訴因変更手続に関し、控訴審における訴因変更は原則として禁止されており、罪名を誤った検察官や裁判所を訴因変更によって救済する必要はないし、姿態をとらせ製造罪への変更は、被告人にとって実質的に不利益な罪名変更であるから、許されないと主張する。しかし、一審判決に、事実誤認ないし法令違反があって、これが破棄されることが予想される場合に、控訴審裁判所が、検察官の訴因、罰条の追加変更を許すことは違法ではなく(参照・最高裁判所第1小法廷昭和42年5月25日判決刑集21巻4号705頁)、本件は、まさにこうした場合に該当するから、当審は、検察官の予備的な訴因変更請求を許可することができ、この点は、起訴検察官や原審裁判所が罪名についての判断を間違っていたこと等、弁護人指摘の事情によって左右されない。
 次に、弁護人は、原判示第1と第2、第7と第8、第9と第10、同第11と第12、同第13と第14、同第15と第16、同第17と第18、同第19と第20、同第22と第23は、いずれも同一機会における同じ被害児童に係る強制わいせつ等と児童ポルノ製造の犯行であり、行為が重なっているので観念的競合であると主張する。しかし、本件において、各撮影行為は、強制わいせつ等の実行行為として起訴されておらず、行為の内容が全く異なることなどからそれぞれ併合罪になると解される。また、弁護人は、原判示第3ないし第6の児童ポルノの公然陳列を包括一罪であると主張するが、各行為は、それぞれ機会を異にし(犯行日は、それぞれ、令和3年4月7日頃、13日頃、18日頃、29日頃)、同一の意思に基づくものともいえないことなどからすると、行為ごとに一罪をなすと解される。
(量刑の理由)

  令和5年1月24日
   大阪高等裁判所第5刑事部

       裁判長裁判官 坪井祐子
          裁判官 今井輝幸
          裁判官 奥山雅哉