児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制口腔性交(177条後段)と児童ポルノ製造罪、強制わいせつ罪(176条後段)と児童ポルノ製造罪が、併合罪であるという主張が弁護人独自の見解とされた事例(東京高裁r5.3.30)

強制口腔性交(177条後段)と児童ポルノ製造罪、強制わいせつ罪(176条後段)と児童ポルノ製造罪が、併合罪であるという主張が弁護人独自の見解とされた事例(東京高裁r5.3.30)
 強制わいせつ罪(176条後段)だけでなく、強制口腔性交(177条後段)についても、ダビングしてないと観念的競合、ダビングしてると併合罪だというのですよ。高裁レベルは普通は併合罪だよ。

東京高裁r5.3.30
第4 訴訟手続の法令違反の主張について
 1 論旨は、①原判示第16の1、第18に関して、訴因の単一性に欠けるから公訴を棄却すべきであるのにしなかった点で、訴訟手続の法令違反がある、②原判示第18の児童ポルノ製造罪に関して、判決に影響を及ぼす釈明義務違反があり、訴訟手続の法令違反がある、というのである【①1/12趣意書162頁以下、1/13補充書1頁以下、②1/25補充書5頁以下】。
 2 その根拠として、所論は、①については、原判示第16の1、第18の公訴事実には、接触によるわいせつ行為と撮影によるわいせつ行為が記載されており、二罪を一個の訴因とした点で訴因の単一性に欠け、刑訴法256条3項に違反するから公訴を棄却すべきであるのに、原判決は実体判断をしている、②については、就寝中の被害者に対する行為のうち、原判示第18は姿態をとらせて製造した児童ポルノ法7条4項の罪で起訴され、それ以外はひそかに撮影した同条5項の罪で起訴されており、原審裁判所は検察官に対し、区別を徹底させるなどの釈明を求める義務があった、などと主張する。
 3 しかしながら、②については、控訴趣意書提出期限を経過して提出された控訴趣意補充書に基づく新たな主張であって不適法である。また、①及び②のいずれの主張も独自の見解に基づくものであり、原審手続には、刑訴法256条3項の違反も、釈明義務の違反も認められないのであって、所論は採用できない。

第6 強制わいせつ、強制性交等罪と児童ポルノ製造罪の罪数に関する法令適用の誤りの主張について
 1 論旨は、原判示第4ないし第11、第13ないし第17に関し、各強制わいせつ、強制性交等罪と、これを撮影した各児童ポルノ製造罪とを併合罪とした原判決には、法令適用の誤りがある、というのである【1/12趣意書162頁以下】。
 2 その根拠として、所論は、わいせつ行為等を撮影する行為は、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為であり、これを児童ポルノ製造罪としても評価するのであれば、一個の行為であるから、各強制わいせつ罪、強制性交等罪と、各児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にある、などと主張する。
 3 1の各事件において、原判決は、動画データを電磁的記録に係る記録媒体その他の物に記録して保存する行為が、わいせつ行為とは日時や場所を異にするものを併合罪と評価していると解される。
刑法176条後段等に触れる行為と児童ポルノ法7条4項、5項に触れる行為は、基本的にはそれぞれが性質を異にする行為であり、社会的評価において、直接的なわいせつ行為とこれを撮影した動画を保存して児童ポルノを製造する行為は別個の意思に基づく相当性質の異なる行為であり、一罪として扱うことを妥当とするだけの社会的一体性がなければ、それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるところ、原判決も同様の観点から前記のように評価したものと解されるのであって、この判断が誤っているとはいい難い。

原判決
【文献番号】25593703
東京地方裁判所令和4年8月30日刑事第1部判決
第16 Pが13歳未満の者であることを知りながら、
4 同年11月7日午後10時25分頃から同日午後10時40分頃までの間、前記P方において、同人(当時6歳)に対し、その陰茎を被告人の口腔内に入れるなどし、ひそかにPの陰茎を露出させる姿態、被告人がPの陰茎を手で弄ぶなどの姿態及び被告人がPの陰茎を口腔内に入れるなどの姿態を前記スマートフォンで動画撮影し、その動画データ5点を同スマートフォンに装着された前記マイクロSDカードに記録して保存し、もって13歳未満の者に対し、口腔性交をするとともに、児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの、又は衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
第18 Rが13歳未満の者であることを知りながら、同月8日午後11時38分頃から同月9日午前0時3分頃までの間、東京都内の同人知人方において、R(当時7歳)に対し、そのズボンを下げさせて陰茎を露出させた上、就寝中の同人の顔面に射精するなどし、陰茎を露出する姿態をとらせ、これをデジタル機器で動画撮影し、その動画データ1点を同デジタル機器に装着された前記マイクロSDカードに記録して保存し、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をするとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し、
(法令の適用)
罰条
判示第16の4の行為
強制性交等の点 刑法177条後段
児童ポルノ製造の点 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2条3項1号、2号、3号
判示第17の2の行為
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2条3項1号
判示第18の行為
強制わいせつの点 刑法176条後段
児童ポルノ製造の点 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2条3項3号
科刑上一罪の処理
判示第16の4の罪
刑法54条1項前段(1個の行為が2個の罪名に触れる。)、10条(1罪として重い強制性交等の罪の刑で処断)
判示第18の罪
刑法54条1項前段(1個の行為が2個の罪名に触れる。)、10条(1罪として重い強制わいせつの罪の刑で処断)